説明

ポリ乳酸繊維および繊維構造体

【課題】本発明は、特に染色加工工程における耐加水分解性に優れたポリ乳酸繊維およびそれからなる繊維構造体を提供せんとするものである。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂にエポキシ化合物、ならびにハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物を特定の比率で配合したポリ乳酸樹脂組成物からなるポリ乳酸繊維によってこの課題は解決される。ポリ乳酸が分解した際に発生する酸は、ポリ乳酸の加水分解を促進するが、これをハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物により中和することで、それぞれ単独で配合させるよりも飛躍的に耐加水分解性が向上し、従来よりも広範な用途に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性を向上せしめたポリ乳酸繊維に関するものであり、詳しくは、染色加工での加水分解を飛躍的に抑制できるポリ乳酸繊維、およびそれを用いた繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸繊維は、生分解性を有する樹脂の中では比較的高い機械的特性や化学的特性を有している。また、近年の量産スケールでの低コスト合成法の確立により、樹脂成型物やフィルム、衣料や産業資材用繊維として使用されはじめている。ここで、ポリ乳酸が汎用樹脂として拡大しない大きな理由のひとつとして、常態(温度15〜35℃、湿度50〜95%RH)においても加水分解が進んでしまい、汎用プラスチックとしては耐久性が極めて低いことにある。そのため製品寿命が短い用途や、耐久性が要求されない用途でしか採用できなかった。
【0003】
また、ポリ乳酸繊維は、分散染料により高温(100〜130℃)で処理することで染色するが、高温下では加水分解が著しく加速するために、1回の処理で強力が大幅にダウンしてしまう(濃色染色不可、PET等、高温染色が必要な素材との混繊、混紡不可)。
【0004】
さらには、高温・多湿環境下(夏場の自動車内部や倉庫内等)での強力低下が懸念されている。
【0005】
ポリ乳酸の加水分解機構は概ね以下のとおりである。ポリ乳酸の加水分解によって酸が生成することが知られており、この酸が触媒として作用し加水分解が促進される。そこで、この問題を解決するためにさまざまな技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリンから選ばれる少なくとも一つの加水分解抑制剤、並びに、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトから選ばれる少なくとも一つの加水分解抑制助剤をポリエステル樹脂に配合することで、耐加水分解性を向上する技術が記載されている。しかしながら、カルボジイミド化合物やイソシアネート化合物は紡糸時の高温下で刺激性のあるイソシアネートガスを発生し紡糸環境を悪化させ、また、オキサゾリンでは耐加水分解性が不十分であった。
【0007】
特許文献2には、難燃剤および難燃助剤をポリエステル樹脂に配合することで、組成物の難燃性を向上させ、さらにオレフィン添加により耐加水分解性を向上させる技術が記載されている。しかしながら耐加水分解性の向上は不十分なものであった。
【0008】
特許文献3には、耐加水分解性を向上させるために、グリシジルエステル化合物とグリシジルエーテル化合物とを併用した末端封鎖剤を末端カルボキシル基に反応させるための触媒として、アルカリ土類金属化合物を添加する技術が記載されている。該特許文献に基づく方法では耐加水分解性に優れるものの、異なる反応性基をほぼ同量ずつ併用しているため、反応性の制御ができずポリマーの粘度斑が発生し、紡糸時に糸切れ多発などの操業上の問題や、繊維径に斑ができるなどの物性上の問題があった。
【0009】
特許文献4には、ポリ乳酸樹脂にエポキシ化合物およびアルカリ土類金属化合物を添加することで耐加水分解性を向上させる技術が記載されている。該特許文献に基づく方法では耐加水分解性に優れるものの、エポキシ化合物とアルカリ土類金属化合物の添加量比率が小さいために、紡糸時にポリマーの粘度斑が生じ、糸切れや繊維径斑ができるなど物性上の問題があった。
【0010】
特許文献5には、連結剤としてエポキシ化合物、およびラジカル捕捉剤としてハイドロタルサイトを添加することで、ハロゲン系農薬に対する耐性を向上せしめたフィルムに関する技術が記載されている。しかしながら該特許文献に基づく方法ではエポキシ化合物とハイドロタルサイトの量の最適化がなされておらず、耐加水分解性の向上は不十分なものであった。
【特許文献1】特開2006−219567号公報
【特許文献2】特開昭58−071944号公報
【特許文献3】特開2002−220454号公報
【特許文献4】特開2006−016446号公報
【特許文献5】特開2005−176841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、耐加水分解性を飛躍的に向上したポリ乳酸繊維に関するものであり、詳しくは、染色加工での加水分解を飛躍的に抑制できるポリ乳酸繊維およびそれを用いた繊維構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)エポキシ化合物(A)並びに、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)が配合されたポリ乳酸樹脂組成物からなるポリ乳酸繊維であって、その配合量が下式を満足することを特徴とするポリ乳酸繊維。
(A)の配合量:0.1〜5重量%
(B)の配合量:0.005〜0.08重量%
15≦(A)/(B)≦200
(2) エポキシ化合物(A)がフタル酸ジグリシジル化合物またはイソシアヌレート化合物であることを特徴とする上記(1)に記載のポリ乳酸繊維。
(3) エポキシ化合物(A)が下記一般式(I)または下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリ乳酸繊維。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維および繊維構造体は、非石油由来原料であるポリ乳酸樹脂からなるため環境への負荷が小さい。また、ポリ乳酸の欠点であった耐加水分解性が大幅に改善されたことで、高温染色による濃色化や他素材との混繊、混紡が可能になり、広範な用途に展開可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で用いられるポリ乳酸の原料となる乳酸には、「L−乳酸」と「D−乳酸」という2つの光学異性体が存在する。そのため主としてL−乳酸を主体とするポリ乳酸と、D−乳酸を主体とするポリ乳酸、さらには2種類の乳酸が共重合されたポリ乳酸が知られており、本発明においてはいずれのポリ乳酸を用いてもよい。但し、ポリ乳酸繊維は結晶性が高い方が耐加水分解性に優れるため、ポリ乳酸中の乳酸の光学純度は90%以上であることが好ましい。さらに光学純度が高いほど結晶の融解温度が高い、すなわち耐熱性に優れる。よって、光学純度は95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。最も好ましくは99〜100%である。ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、好ましい。
【0018】
また、上記ポリ乳酸の重量平均分子量は10万以上であることが、耐加水分解性、耐熱性、成形性の観点から好ましい。重量平均分子量を10万以上とすることで、得られる成形物の力学特性や耐久性に優れたものが得られるばかりでなく、溶融流動性や結晶化特性も良好なものとなる。このことから、重量平均分子量は12万〜40万の範囲であるとより好ましく、14万〜25万の範囲が最も好ましい。ここで重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値である。
【0019】
上記ポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号公報に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。かくして得られるポリ乳酸もまた、末端にカルボキシル基を有するものである。
【0020】
また、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、ポリ乳酸の吸湿により水と残留ラクチドが反応して有機酸となり、繊維や繊維成形品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下である。
【0021】
ここで、ラクチドの含有量はクロロホルム中、NMRを使用してポリ乳酸由来の四重線ピーク面積比(5.10〜5.20ppm)に対するラクチド由来の四重線ピーク面積比(4.98〜5.05ppm)により求める方法や、ジクロロメタンに溶解し、さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、液体クロマトグラフにより絶対検量線にてラクチド量を求める方法がある。
【0022】
ポリ乳酸中の残存ラクチド量は、例えばコニカルドライヤー等を用いて80〜160℃の温度で処理することでラクチドをガス化し、それを真空下もしくは不活性ガスの通気によりポリマーよりラクチドガスを抜き出すことにより低減することが可能である。
【0023】
さらに、ポリ乳酸中に重合触媒が残留していると成型加工や製品での加水分解やラクチドの生成を促進するので、該重合触媒を失活させることが好ましい。重合触媒を失活させるためには、キレート剤や酸性のリン酸エステルを重合後期や終了後に添加するか、あるいは得られたペレットの表面にキレート剤やリン酸エステルを添着させ、溶融成型時に混練して失活させることができる。重合触媒の失活剤として用いるキレート剤には、有機系キレート剤と無機系キレート剤があるが、特に高い効果を示すのは無機系のキレート剤である。具体的にはリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等のリン酸類が好ましく用いられ、その中でも少量の添加で高い効果が得られる点でリン酸が特に好ましい。
【0024】
また、上記ポリ乳酸は、その性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でも、ポリ乳酸樹脂との相溶性がよいポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。
【0025】
さらに改質剤として脂肪族ポリエステル以外のポリマー、粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物や特開2007−262117号公報に記載の滑剤、着色顔料等を含有していてもよい。前記着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使用することができる。同様に、炭酸カルシウムやシリカ、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類などの改質剤も使用することができる。さらに、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種フッ素樹脂類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリアミド類、エチレン・アクリレート共重合体、メチルメタクリレート重合体等のポリアクリレート類、各種ゴム類、アイオノマー類、ポリウレタン類およびその他熱可塑性エラストマー類などのポリマーなどを少量含有することができる。
【0026】
本発明のポリ乳酸繊維は、エポキシ化合物(A)並びに、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)が配合されてなることが重要である。ポリ乳酸の分解により酸が発生することが知られており、この酸が触媒として作用するために加水分解が促進される。特に染色加工での高温(100〜130℃)、高圧下では加水分解が著しく加速される。染色加工の浴中においては、ポリ乳酸の末端カルボキシル基がエポキシ化合物(A)によって一旦封鎖されていても、高温・高圧水の影響により封鎖剤が脱離してしまい、本来有する耐加水分解性が製品形態において十分に発揮されないことが判明した。この問題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ化合物と特定の化合物とを特定の比率で併用することで、高温・高圧下においてもエポキシ化合物の脱離が抑制できることを見出したものである。
【0027】
本発明で用いられるエポキシ化合物(A)としては、ポリ乳酸のカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、ポリ乳酸のカルボキシル末端の封鎖剤として用いられているものを用いることができる。本発明においてかかるエポキシ化合物(A)は、ポリ乳酸の末端を封鎖するのみでなく、ポリ乳酸の熱分解や加水分解などで生成する乳酸や蟻酸などの酸性低分子化合物のカルボキシル基も封鎖することができる。また、上記エポキシ化合物は、熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端も封鎖できる化合物であることがさらに好ましい。
【0028】
添加されたエポキシ化合物(A)は、ポリ乳酸の末端基、主には末端カルボキシル基の全部または一部を封鎖していることが好ましい。ポリ乳酸の末端カルボキシル基は高温多湿の環境下において遊離プロトンを発生させることが知られており、この遊離プロトンが触媒として作用するために加水分解が促進されることがわかっている。そこで、本発明で用いるエポキシ化合物(A)が、ポリ乳酸の主に末端カルボキシル基を封鎖することで上記触媒効果を低減させることが可能となる。さらに、残存モノマー及び残存オリゴマーも加水分解によりカルボキシル基末端を生じることから、ポリマーのカルボキシル基末端量だけでなく、残存オリゴマーやモノマー由来のものも併せたトータルカルボキシル基末端量を封鎖するのに十分な量のエポキシ化合物(A)を添加することが好ましい。
【0029】
これを満たすエポキシ化合物(A)の配合量は、エポキシ化合物の重量平均分子量と、反応基の数によっても異なる。溶融紡糸に適したエポキシ化合物(A)の重量平均分子量は概ね150〜5000、反応基の数が1〜10であり、反応基の数は少ないほど紡糸性に優れる。重量平均分子量を150以上にすることで、ポリ乳酸中での末端封鎖剤の拡散を促進させて反応性を高め、かつ紡糸時のポリマー外へのブリードを抑制できる。同様に、重量平均分子量を5000以下にすることでエポキシ化合物のポリマー中での拡散・反応を制御しつつ、高い紡糸性を確保できる。また、溶融紡糸時におけるエポキシ化合物(A)の性能低下(熱分解等)を抑制するためにも、高い耐熱性を有することが好ましい。例えば、窒素雰囲気下にて240℃で30分間ホールドした時の重量減少率は20重量%以下が好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。最も好ましくは3重量%以下である。上記特性を有する末端封鎖剤を好例として、その配合量は0.1〜5重量%であることが必要であり、0.2〜3重量%が好ましく、0.3〜2重量%がより好ましい。さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0030】
ここで、エポキシ化合物(A)としては、グリシジル基を有する化合物が好ましく、グリシジルエステル化合物がより好ましい。また、本発明のポリ乳酸繊維は紡糸温度が250℃以下と比較的低温であるため、低温反応性に優れたものが選択される。上記反応性基は1個以上であれば末端封鎖の役割を果たすことができる。一方、1分子中に10個を越えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にあるので、1分子中の反応性基の数は1個以上、10個以下が好ましい。より好ましくは3個以下、さらに好ましくは1個である。また、1分子中の反応性基の種類は複数のものを含んでいても構わない。
【0031】
この中でもフタル酸ジグリシジル化合物またはイソシアヌレート化合物が好ましく、特にフタル酸ジグリシジル化合物の中でも下記一般式(I)または下記一般式(II)で表される化合物がエポキシ基の反応性を飛躍的に向上させることが可能となり好ましい。この理由については定かではないが、エポキシ基を構成する炭素原子のうち、C2炭素と近接するカルボニル酸素との間で、擬似的な結合状態を作り出すためではないかと推定される。つまり、C2炭素とカルボニル酸素との間において擬似的な結合状態が形成された場合、エポキシ環自体の安定性が大きく低下することから、近傍にポリ乳酸の末端、特に酸末端が存在した場合には速やかに付加反応が進行するものと推定される。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
また、イソシアヌレート化合物が好ましい理由として、イソシアヌレート骨格を持つことが挙げられる。イソシアヌル酸は熱分解温度が330℃以上と非常に安定な化合物であり、その骨格を持つイソシアヌレート化合物は耐熱性に優れるため好適である。
【0035】
本発明に用いることのできるエポキシ化合物(A)としては、例えばエポキシ基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対してエポキシ基がグラフト共重合されている化合物、更にはポリエステルユニットまたはポリエーテルユニットの末端にエポキシ基を有するものが挙げられる。上述したエポキシ基を持つモノマー単位としては、エポキシアクリレート、エポキシメタアクリレートなどが挙げられる。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、エポキシ基の反応性を制御することもできる。また、エポキシ基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体の重量平均分子量は150〜5000の範囲であると高濃度添加を行った際の溶融粘度の上昇を抑制することができ好ましい。重量平均分子量は200〜3000の範囲であるとより好ましい。
【0036】
また、2個以上のエポキシ基は同じ反応性基であっても、異なるものであってもよいが、反応性を制御するためには同じ反応性基であることが好ましい。同様の理由から、2種類以上のエポキシ化合物(A)を併用する場合、配合量の少ないエポキシ化合物の配合量が配合量の多いエポキシ化合物の配合量の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明ではポリ乳酸繊維にハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)が配合されることが肝要である。これらの化合物は耐熱性に優れるとともに、ポリ乳酸中に添加しても粗大異物を形成しにくく、溶融紡糸に適した添加剤である。また、アルカリ土類金属としてはマグネシウム及びカルシウムがエポキシ化合物(A)との相乗効果により熱水中での耐加水分解性の効果が大きく、耐熱性も高いために好ましい。
【0038】
ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)は、ポリ乳酸の分解によって発生する酸を中和する効果を有すると共に、染色浴中においてエポキシ化合物のポリ乳酸末端カルボキシル基からの脱離を抑制する作用を見出した。
【0039】
本発明の、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)の配合量としては、ポリ乳酸繊維に対して0.005〜0.08重量%であることが必要であり、0.005〜0.06重量%であることが好ましい。さらに好ましくは0.01〜0.05重量%である。ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)の配合量を0.001重量%以上にすることで、熱水中でのエポキシ化合物(A)の、ポリ乳酸の末端カルボキシル基からの脱離が抑制され、高い耐加水分解性向上効果が保持される。また、0.08重量%以下であれば粒子の凝集が抑制され、良好な紡糸性が得られる。ここで、ポリ乳酸繊維中のアルカリ土類金属量の定量は、例えば日立製作所製偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いて原子吸光分析法にて測定できる。
【0040】
本発明で用いられるハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)は、平均粒子径が4μm以下であることが良好な紡糸性を与え好ましい。粗大粒子は繊維の強度を著しく低下させることから、平均粒子径は小さいほどよく、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。粒子径を測定する方法としては、本発明の繊維を溶融プレパラート法にて薄膜を作成し、顕微鏡にて観察する方法等を挙げることができる。
【0041】
また、エポキシ化合物(A)と、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)との配合量の比(A)/(B)は、15〜200の範囲であることが必要である。この範囲にすることで、染色等の熱水中でエポキシ化合物(A)によって封鎖された末端の脱離を抑制することができ、染色工程上がり後にも耐加水分解性に優れた製品にすることが可能になる。また、この範囲にすることでポリマーの粘度斑が発生しにくくなるため、紡糸時の操業性が高く、製品を安定して製造することが可能となる。(A)/(B)の好ましい範囲は20〜150である。
【0042】
本発明のポリ乳酸繊維を製造するに際し、エポキシ化合物(A)ならびにハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)を添加する方法は特に限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂とエポキシ化合物(A)ならびにハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)とを別々に計量して二軸混練機にて混合する方法などが好ましく用いられるが、その他、公知の技術を用いてもよい。
【0043】
なお、ポリ乳酸とエポキシ化合物(A)ならびにハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)が、ポリ乳酸が溶融した状態で混合された場合、溶融時の熱によってエポキシ化合物がポリ乳酸の末端カルボキシル基と反応すること、また溶融状態で混合した場合には均一な添加が実現しやすいという点で好ましい。上記範囲の条件で調整されたポリ乳酸は、ポリ乳酸自体の熱による変性や着色が発生しにくいことから、特に色調が重要視される繊維や不織布といった用途に対して好適に用いることができる。
【0044】
また、溶融時の滞留時間については、1〜60分の範囲であることが好ましい。溶融時の滞留時間が1分以上であれば、エポキシ化合物(A)が混練機や押出機の混練効果により十分にポリ乳酸中に拡散し、また末端カルボキシル基を効率的に封鎖することができる。一方、溶融時の滞留時間が60分以下であれば、熱による変性、着色、分解等を抑制できる。このことから溶融時の滞留時間は1〜50分の範囲であるとより好ましく、1〜40分の範囲であるとさらに好ましい。特に、二軸エクストルーダ型押出機内の溶融滞留時間は1〜3分の範囲とすることが、均一添加とポリ乳酸の変性を抑制できる観点から好ましい。ここで、溶融時の滞留時間とはポリマーが受けた熱履歴を表すものであるため、例えば事前にエポキシ化合物(A)を混練機にてポリ乳酸に混練してペレタイズし、再度溶融成形機で溶融成形を行った場合には、その溶融時間の合計を表す。
【0045】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法を以下に説明する。
【0046】
本発明のポリ乳酸繊維は、窒素雰囲気中でホッパーに充填されたポリ乳酸樹脂のチップを、二軸押出混練機を備えたエクストルーダにて溶融混練して紡糸パックに導入し、紡糸口金により吐出する方法で得ることができる。この際、エポキシ化合物(A)ならびにハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)を添加する際は、エクストルーダにて直接混合する方法や、あらかじめ該添加剤を高濃度に配合させたポリ乳酸樹脂マスターチップを作製して溶融前にチップをブレンドする方法、およびあらかじめ添加剤を繊維に配合するのと同濃度に配合させたポリ乳酸樹脂オールマスターチップを用いる方法などが採用できるが、その他公知の技術を用いてもよい。
【0047】
紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0〜15cmを上端とし、その上端から5〜100cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を150〜230℃の高温雰
囲気中を通過させることが好ましい。紡出した糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒および/または断熱筒で囲まれた高温雰囲気の徐冷ゾーン中を通して徐冷することにより、紡出された糸条の配向が緩和され、かつ単繊維間の分子配向均一性を高めることができる。一方、高温雰囲気中を通過させることなく直ちに冷却すると、未延伸糸の配向が高まり、かつ単繊維間の配向度分布が大きくなる。かかる未延伸糸条を熱延伸すると、結果として高強度な繊維が得られない可能性がある。
【0048】
高温雰囲気中を通過した未延伸糸条は、次いで10〜100℃、好ましくは15〜75℃の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風の温度が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となる。また、冷却風の温度が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。冷却装置は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。また、モノフィラメントの様に高い冷却効果が求められる際には、水冷等の冷却方法を採用することができる。冷却固化された未延伸糸条は、次いで給油装置で油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良いが、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリ乳酸樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。例えば、水エマルジョンに含まれる乳化成分は、ポリ乳酸繊維の繊維構造を変化させる作用があり、延伸時に表面凹凸を生成し易く働く。従って、非水系油剤を用いることが好ましい。更に、好ましい油剤組成は、例えば、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤である。
【0049】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取ローラ(1FR)に捲回して引き取る。1FRの表面速度、即ち引取速度は300m/分以上が好ましく、さらに好ましくは500m/分以上である。300m/分未満の引取速度でもポリ乳酸繊維は得られるが、生産効率が低いため採用し難い。引取速度に特に上限は無いものの、工業的に安定して生産する場合には引取速度は5000m/分以下が好ましく、より好ましくは3000m/分以下である。上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して延伸する。1FRと同様に、2つのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを、引取ローラ(2FR)、延伸ローラ(1DR)、延伸ローラ(2DR)、延伸ローラ(3DR)および弛緩ローラ(RR)と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行う。通常、1FRと2FR間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。好ましいストレッチ率は1〜7%、さらに好ましくは1〜5%の範囲である。1FRは5 0〜80℃、好ましくは50〜70℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。
【0050】
1段目の延伸は2FRと1DR間で行い、2FRの温度は80〜120℃、好ましくは80〜110℃とし、1DRの温度を90〜120℃、好ましくは100〜120℃とし、例えば、総延伸段数が3段の場合には1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の20〜90%、好ましくは20〜50%に、総合延伸段数が2段の場合には1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の30〜90%、好ましくは50〜90%の範囲に設定する。
【0051】
2段目の延伸は1DRと2DR間で行うが、2DRは110〜160℃、好ましくは115〜145℃である。2段延伸の場合は総合延伸倍率に対し、1段目の延伸倍率の残りの延伸をこの間で行う。3段延伸の場合は、残りの延伸倍率を2段に分けて行う。3段延伸を行う場合の3DRの温度は120〜160℃、好ましくは130〜150℃である。2段延伸または3段延伸を終えた糸条はRRとの間で0〜10%、好ましくは0〜7%、さらに好ましくは0.5〜5%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された高配向構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。RRは非加熱ローラまたは、160℃以下に加熱したローラを用いる。
【0052】
本発明のポリ乳酸繊維は、上記方法によって基本的な物性は得られる。しかし、毛羽の発生を少なくして高品位のポリ乳酸繊維を得るために、1段延伸が行われる2FRと1DRの間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。糸条を交絡、集束させるための交絡付与装置は、通常糸条を巻き取る直前に糸条に交絡を付与し、集束させるために用いられる交絡ノズルを用いることができる。該交絡付与装置は1段目の延伸時に行うのが効果的であるが、1段目に加え、2段目および3段目の延伸時にも行っても良い。ポリ乳酸繊維に施す交絡度としては5〜70であることが好ましく、10〜60であることがより好ましい。その後ポリ乳酸繊維は巻き取り装置により巻取られる。
【0053】
本発明のポリ乳酸繊維はかくして得ることができるが、その他公知の技術を用いてもよい。
【0054】
また、本発明のポリ乳酸繊維は、繊維構造体の一部としても利用することができる。これらの繊維構造体は衣料品、日用品など各種用途に利用することができる。
【0055】
具体的には、ポロシャツ、Tシャツ、インナー、ユニホーム、セーター、靴下、ネクタイなどの各種衣料、カーテン、椅子張り地、カーペット、テーブルクロス、布団時、壁紙、ふろしきなどのインテリア用品、各種ネット、歯ブラシ、水切りネット、ボディタオル、ハンドタオル、お茶パック、排水溝フィルタ、カバンなどとして有用である。
【実施例】
【0056】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
A.ポリ乳酸およびエポキシ化合物(A)の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(Waters社製Waters2690)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwを求めた。
【0058】
B.ポリ乳酸の末端カルボキシル基量
0.5gに精秤した試料をo−クレゾール10ml(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを3ml添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、末端カルボキシル基を生じるため、ポリマーの末端カルボキシル基およびモノマー由来の末端カルボキシル基、オリゴマー由来の末端カルボキシル基の全てを合計した末端カルボキシル基量が求まる。
【0059】
C.ポリ乳酸の残存ラクチド量
試料1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津製作所社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
【0060】
D.ポリ乳酸の融点
TA Instruments社製DSC2920modulatedDSCを用いて、昇温速度10℃/min、試料量10mgにて融点ピークを求め、そのピークトップ位置をポリ乳酸の融点とした。
【0061】
E.エポキシ化合物(A)の重量減少率
マックサイエンス(MAC SCIENCE)社製“TG−DTA2000S”TG−DTA測定器により、試料重量約10mg、窒素雰囲気下にて昇温速度20℃で昇温し、240℃に到達後、30分間保持したときの重量減少率を求めた。
【0062】
F.製糸性評価法
ポリ乳酸繊維を得るときの1t当たりの製糸糸切れについて、次の基準をもって製糸性を評価した。
○:糸切れ3回未満、△:糸切れ3回以上5回未満、×:糸切れ5回以上
【0063】
G.繊維の強度および伸度
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0064】
H.繊維の原糸耐加水分解性
ポリ乳酸繊維の糸かせ30gを、温度70℃湿度95%RH下で7日間処理した。処理サンプルについて、E項に示す測定方法で繊維の強度を測定し、下記式にて強度保持率を算出し、繊維の原糸耐加水分解性を評価した。
強度保持率(%)=(処理後サンプルの強度/処理前の強度)×100
【0065】
I.繊維の染色加工後耐加水分解性
ポリ乳酸繊維の糸かせ30gと水300gを圧力容器に入れ、120℃下で60分間染色加工を行った。加工サンプルについて、F項に示す測定方法で繊維の耐加水分解性を算出し、繊維の染色加工後耐加水分解性を評価した。なお、染色前の原糸耐加水分解性が60%に満たない場合は評価に値しないと考え、染色加工後耐加水分解性は評価しなかった。
【0066】
J.ポリ乳酸繊維中のハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)の平均粒子径
ポリ乳酸繊維を5.0mg程度トリミングし、約200℃に加熱されたホットプレート上のカバーグラスにおき1分間溶融させた。さらに、その上にカバーグラスを置き1分間静置した後、サンプルの中心部を溶融樹脂が直径4〜6mmの円状になるようにピンセットを用いてプレスし、その後に、表面温度26℃の鉄板上で2秒間急冷した。でき上がったプレパラートを光学顕微鏡(Olympus社製BX60)の透過法明視野にて形態観察した。観察倍率は、未解離物の径により適宜選択することとするが、500倍が例示でき、全視野について分割して写真撮影した後、全視野中の未解離物の粒子径の平均値を平均粒子径と定義した。なおこれらの未解離物は二次粒子として凝集したものであり、二次粒子径となる。
【0067】
[製造例1]
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させて窒素雰囲気下180℃で220分間重合を行った。引き続いて180℃減圧下で脱ラクチド処理した。なお、重合時に安定剤としてGE社製“Ultranox 626”をラクチド対比0.2重量%加えた。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は15.1万、トータル末端カルボキシル基量は25当量/ton、残存ラクチド量は240ppm、融点は167℃であった。
【0068】
[製造例2]
製造例1の方法で製造したポリ乳酸に対して、エポキシ化合物(A)としてテトラヒドロフタル酸ジグリシジル(天津市合成材料工業研究所製、711、重量減少率13.7%)を配合量が1.5重量%となるように、また、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)としてハイドロタルサイト(協和化学工業社製、DHT−4A)を配合量が0.03重量%となるように粉体でブレンドして、テクノベル社製二軸押出機(KZW−15TWIN)を用いて混練温度200℃、平均滞留時間5分にて溶融混合した後、ペレタイズしてポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0069】
[製造例3]
ハイドロタルサイトの配合量を0.07重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0070】
[製造例4]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を4重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0071】
[製造例5]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を0.5重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0072】
[製造例6]
ハイドロタルサイトの配合量を0.05重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0073】
[製造例7]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を4重量%、ハイドロタルサイトの配合量を0.05重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0074】
[製造例8]
ハイドロタルサイトの配合量を0.01重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0075】
[製造例9]
ハイドロタルサイトを添加しない以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0076】
[製造例10]
ハイドロタルサイトの配合量を0.09重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0077】
[製造例11]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルを添加しない以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0078】
[製造例12]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を6重量%、ハイドロタルサイトの配合量を0.05重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0079】
[製造例13]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を0.5重量%、ハイドロタルサイトの配合量を0.05重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0080】
[製造例14]
テトラヒドロフタル酸ジグリシジルの配合量を3重量%、ハイドロタルサイトの配合量を0.01重量%とした以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0081】
[製造例15]
ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)として水酸化カルシウム(和光純薬工業社製、水酸化カルシウム)を用いた以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0082】
[製造例16]
エポキシ化合物(A)としてヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル(阪本薬品工業株式会社製、SR−HHPA、重量減少率14.2%)を用いた以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0083】
[製造例17]
エポキシ化合物(A)としてトリグリシジルイソシアヌレート(日産化学社製、TEPIC、重量減少率11.7%)を用いた以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0084】
[製造例18]
エポキシ化合物(A)としてヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル(阪本薬品工業株式会社製、SR−HHPA、重量減少率14.2%)を、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)として水酸化カルシウム(和光純薬工業社製、水酸化カルシウム)を用いた以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0085】
[製造例19]
エポキシ化合物(A)としてテトラヒドロフタル酸ジグリシジル1.45重量%およびプロピレングリコールジグリシジルエーテル(阪本薬品工業株式会社製、SR−PG、重量減少率14.7%)0.05重量%配合した以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0086】
[製造例20]
エポキシ化合物(A)としてテトラヒドロフタル酸ジグリシジル1.40重量%およびプロピレングリコールジグリシジルエーテル(阪本薬品工業株式会社製、SR−PG、重量減少率14.7%)0.10重量%配合した以外は製造例2と同様の方法でポリ乳酸組成物の樹脂ペレットを得た。
【0087】
[実施例1]
製造例2で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いて紡糸温度220℃、紡糸機内の滞留時間15分、吐出量25g/分、紡糸速度3000m/分にて巻き取り、84dtex−24Fの高配向未延伸糸(POY)を得た。その後得られたPOYを用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃にてホットローラ型延伸機で、延伸倍率1.4倍で延伸を行い、60dtex−24Fの延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
製造例3で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
製造例1で製造したポリ乳酸ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた繊維の耐加水分解性は所望の特性に達しておらず、耐久性に劣るものであった。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
製造例9で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた繊維の耐加水分解性は所望の特性に達しておらず、耐久性に劣るものであった。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3]
製造例10で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法で紡糸を行なったが、紡糸中にハイドロタルサイトの粗大異物化を原因とする糸切れが多発し、操業性が悪かった。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
[実施例3]
製造例4で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表2に示す。
【0094】
[比較例4]
製造例11で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた繊維の耐加水分解性は所望の特性に達しておらず、耐久性に劣るものであった。結果を表2に示す。
【0095】
[比較例5]
製造例12で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法で紡糸したが、伸長応力が高く均一な繊維を得ることができなかった。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
[実施例4]
製造例5で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表3に示す。
【0098】
[実施例5]
製造例6で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表3に示す。
【0099】
[比較例6]
製造例13で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法で紡糸したが、ポリマーの粘度斑のためと推定される糸切れが多発した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
[実施例6]
製造例7で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表4に示す。
【0102】
[実施例7]
製造例8で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表4に示す。
【0103】
[比較例7]
製造例14で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。しかし、染色加工後の耐加水分解性が所望の特性に達しておらず、耐久性に劣るものであった。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】

【0105】
[実施例8]
製造例15で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表5に示す。
【0106】
[実施例9]
製造例16で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表5に示す。
【0107】
[実施例10]
製造例17で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表5に示す。
【0108】
[実施例11]
製造例18で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表5に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
[実施例12]
製造例19で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表6に示す。
【0111】
[実施例13]
製造例20で製造したポリ乳酸樹脂ペレットを用いた以外は実施例1と同様の方法でPOYおよび延伸糸を得た。得られた延伸糸は良好な力学特性を示し、また、優れた耐加水分解性を示した。さらに染色加工後の耐加水分解性も良好であった。結果を表5に示す。
【0112】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)並びに、ハイドロタルサイト、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の炭酸化物から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)が配合されたポリ乳酸樹脂組成物からなるポリ乳酸繊維であって、その配合量が下式を満足することを特徴とするポリ乳酸繊維。
(A)の配合量:0.1〜5重量%
(B)の配合量:0.005〜0.08重量%
15≦(A)/(B)≦200
【請求項2】
エポキシ化合物(A)がフタル酸ジグリシジル化合物またはイソシアヌレート化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項3】
エポキシ化合物(A)が下記一般式(I)または下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸繊維。
【化1】

【化2】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造体。

【公開番号】特開2010−150711(P2010−150711A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331376(P2008−331376)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】