説明

ポンプの冷却液循環構造

【課題】モータ3を冷却する冷却液の循環のための循環羽根車7を備えた、ポンプ1の冷却液循環構造において、循環羽根車7の取付構造を簡素化してモータ3のシャフト35を短くし得る構造を提供する。
【解決手段】回転環52,54、固定環51,55、及び圧縮ばね53を少なくとも含み、ポンプ部21とモータ部22の間でシャフト35をシールするメカニカルシール5と、シャフト35に取り付けられると共に、シャフト35と共に回転することによって、冷却液循環流路内の冷却液を循環させる循環羽根車7と、を備える。循環羽根車7は、メカニカルシール5の圧縮ばね53の付勢力によって、シャフト35と共に回転するようにシャフト35に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ポンプの駆動源であるモータを冷却するための、冷却液の循環構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、水中ポンプの電動モータを冷却する構造として、電動モータを収容するケーシングの外側に外筺を配置して、ケーシングの外周囲に円周状の冷却油流路を区画形成すると共に、この冷却油流路に連通すると共に、電動モータと羽根車との間に設けた冷却油室内において、冷却油の循環用の羽根車を、モータの回転軸に取り付けた構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭59−43695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されている循環用の羽根車の取付構造は、冷却油室内に配設している上側のメカニカルシールと下側のメカニカルシールとの間に、循環用羽根車を配置すると共に、モータの回転軸に外挿した循環用羽根車のハブを、キーによりその回転軸に固定している。このようなキーを利用した循環用羽根車の取り付けは、取付構造を複雑にし、製造コストを上昇させる。
【0005】
また、循環用羽根車のハブを、回転軸に直接固定する構造では、そのハブの軸方向長さに相当する取り付けスペースを確保しなければならず、その分だけモータの回転軸が長くなってしまう。モータの回転軸が長くなることは、羽根車に作用する流体力に起因するたわみ量を大きくすると共に、ポンプ駆動時の振動も大きくなるという問題を招く。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータを冷却する冷却液の循環のための循環羽根車を備えた、ポンプの冷却液循環構造において、循環羽根車の取付構造を簡素化してモータのシャフトを短くし得る構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示する技術は、ポンプの冷却液循環構造に係り、羽根車を含むポンプ部と、所定の軸方向に延びかつ前記羽根車に連結されるシャフトを有すると共に、当該シャフトを通じて前記羽根車を駆動するモータを含むモータ部と、前記ポンプ部と前記モータ部との間に配置されかつ、前記シャフトをシールするメカニカルシールと、前記モータ部側と前記ポンプ部側との間で冷却液を循環させることによって、前記モータを冷却する冷却液循環流路と、を備える。
【0008】
前記メカニカルシールは、前記シャフトに固定される回転環、ポンプ筐体側に取り付けられる固定環、及びその付勢力によって前記回転環と前記固定環とを前記軸方向に互いに押し当てる圧縮ばねを少なくとも含み、前記ポンプの冷却液循環構造は、前記シャフトに取り付けられて当該シャフトと共に回転することにより、前記冷却液循環流路内の冷却液を循環させる循環羽根車をさらに備え、前記循環羽根車は、前記メカニカルシールの前記圧縮ばねの付勢力によって、前記シャフトと共に回転するように当該シャフトに取り付けられている。ここで、「冷却液」は、冷却油及び冷却水の双方を含み、この内でも、冷却水は、水単体に限らず、主成分としての水に、例えば腐食防止用等の添加剤を添加した冷却水を含み得る。
【0009】
この構成によると、ポンプ部とモータ部との間に配置されたメカニカルシールは、シャフトをシールすることで、モータ部側に水等が浸入することを防止する。メカニカルシールは、回転環、固定環、及び圧縮ばねを少なくとも含む、従来から一般的な構造のメカニカルシールとすればよい。
【0010】
このポンプにはまた、モータを冷却する冷却液が流れる冷却液循環流路と、シャフトに取り付けられて冷却液循環流路内の冷却液を循環させる循環羽根車をさらに備えており、これによって、モータが強制的に冷却される。
【0011】
そうして、前記の循環羽根車は、メカニカルシールの圧縮ばねの付勢力によって、シャフトと共に回転するように当該シャフトに取り付けられており、メカニカルシールの構造を利用して循環羽根車の取り付けを行うことで、その取付構造が極めて簡素化されている。また、メカニカルシールの構造を利用した取り付けは、メカニカルシールとは別に循環羽根車をシャフトに取り付ける構成と比較して、循環羽根車の取り付けに要するスペースを小さくして、モータのシャフトの長さを、その分、短くし得る。これは、シャフトのたわみ量を小さくし、振動を抑制する上で有利になり得る。
【0012】
前記循環羽根車は、複数枚の羽根が周方向に並んで配置された環状の本体部と、前記本体部に対して一体的に設けられると共に、前記圧縮ばねの付勢力を受ける受部と、を有しており、前記循環羽根車は、前記受部が前記圧縮ばねの端部と前記回転環とで挟持されることにより前記シャフトに取り付けられ、前記本体部は、前記メカニカルシールの外周囲において、当該メカニカルシールに対して前記軸方向に重なる位置に配置されている、としてもよい。
【0013】
本体部と受部とを有する循環羽根車を、その受部が圧縮ばねの端部と回転環とで挟持されるようにして、シャフトに取り付けることで、循環羽根車の取付構造が簡素化する。それと共に、循環羽根車のシャフトへの取り付けも、シャフトに対するメカニカルシールの取り付けに付随して行うことが可能であり、その取り付け工程も単純化し得る。
【0014】
そのようにしてシャフトに取り付けた循環羽根車において、羽根を有する本体部は、メカニカルシールの外周囲でメカニカルシールに対し軸方向に重なる位置に配置される。すなわち、メカニカルシールと循環羽根車とは、シャフトの軸方向に対して実質的に同じ位置に配置される。このことは、シャフトの軸方向に、メカニカルシールの取り付け用スペースとは別に、循環羽根車の取り付け用のスペースをわざわざ確保する必要性をなくし、シャフトの長さを、より一層短くし得る。また、循環羽根車の受部は圧縮ばねと回転環との間に挟まれるものの、圧縮ばねが縮むことから、メカニカルシールの全長が長くなることも抑制し得る。従ってこの構成は、シャフトの長さを大幅に短くする上で、さらに有利な構成である。
【0015】
ところで、例えば特許文献1に開示されているような循環用羽根車を備えた冷却構造を有する仕様のポンプに対し、電動モータの冷却構造を省略した仕様のポンプは、循環用羽根車が不要になる分、モータの軸の長さを短くし得る。しかしながら、循環用羽根車の有無を伴う仕様の相違によって、ポンプの設計が大幅に変更になって、部品も相違することになる。このことはコストアップの要因となり得る。
【0016】
これに対し前記の構成では、冷却液循環構造を有する強制冷却仕様に対して、ポンプの冷却液循環構造を省略した自然冷却仕様のポンプにおいては、従来と同様に、循環羽根車を省略すればよいが、前述の通り、強制冷却仕様のポンプにおいて循環羽根車の取り付け用のスペースはそもそも存在していないため、循環羽根車を省略してもシャフトの軸方向に空きスペースは生じない。このことは、ポンプの冷却液循環構造の有無という仕様の相違に拘わらず、シャフトを含むポンプの設計や部品を共通化し得るという利点を生む。また、前述の通り、圧縮ばねの付勢力により循環羽根車を取り付ける構成は、循環羽根車の有無、つまり受部の有無を圧縮ばねの伸縮によって吸収し得るから、このこともまた、ポンプ部品の共通化に有利になり得る。
【0017】
尚、前述のように循環羽根車を、メカニカルシールの回転環とは別体にする構成ではなく、循環羽根車と回転環とを一体的に設けてもよい。こうすることによっても、回転環が圧縮ばねによって付勢されることによって、循環羽根車は、シャフトと共に回転するようにシャフトに取り付けられることになる。但し、ポンプの冷却液循環構造の有無に拘わらず、ポンプ部品を共通化する上では、循環羽根車と回転環とは別体である方が好ましい。
【0018】
前記モータ部は、前記モータを収容するモータケーシングと、前記モータケーシングの外周面に対し所定の間隔を空けて配置されかつ、当該モータケーシングの外周面との間に、前記冷却液循環流路の一部を構成する周状の流路を形成するアウターケーシングと、前記モータケーシング及び前記アウターケーシングの下端開口に取り付けられると共に、前記シャフトが貫通して配置されるハウジングと、をさらに含み、前記ハウジングは、それぞれ前記周状の流路内に開口しかつ、当該周状の流路から冷却液が流入する流入口及び当該周状の流路へ冷却液が流出する流出口と、前記流入口と流出口とを互いに連通させると共に、前記ポンプ部によってその一部が区画されることにより、前記冷却液循環流路の一部を構成する連通室と、を有し、前記メカニカルシールは、前記連通室内において前記シャフトに取り付けられ、それによって、前記循環羽根車は、前記連通室内に配置されており、前記循環羽根車は軸流式であり、前記モータ部側から前記ポンプ部側に向かって前記軸方向に沿って前記冷却液を流すように、前記シャフトに取り付けられている、としてもよい。
【0019】
シャフトが貫通配置されるハウジングの連通室内において、メカニカルシールがシャフトに取り付けられることに伴い、循環羽根車はその連通室内に配置されることになる。従って、シャフトの回転に伴い循環羽根車が回転したときには、冷却液は、モータ部側の周状の流路から、流入口、連通室(循環羽根車)及び流出口の順に流れて、周状の流路に戻ることで、冷却液循環流路内を循環することになる。
【0020】
ここで、循環羽根車を軸流式にして、モータ部側からポンプ部側に向かって冷却液を流すことにより、モータ部においてモータから熱を受けた冷却液は、循環羽根車によってモータ部側からポンプ部側に向かって流れ、そのポンプ部側において、ポンプの取扱液、つまり相対的に温度の低い液体と熱交換した後に、モータ部側に戻ることになる。ここで、軸流式の循環羽根車が、モータ部側からポンプ部側に向かって軸方向に沿って冷却液を流すことに伴い、連通室の一部を区画するポンプ部側の壁面に、比較的高い流速の冷却液が衝突し、その壁面付近において冷却液の乱流が生じ得る。このことは、冷却液とポンプの取扱液との間の熱交換効率を高め得るから、モータの冷却効率を高め得る。
【0021】
この構成においてはまた、連通室内においてメカニカルシールが冷却液に浸漬されるため、当該冷却液がメカニカルシールの潤滑液となり得る。
【0022】
前記モータ部は、前記ハウジングに取り付けられる隔壁部材をさらに備え、前記隔壁部材は、前記連通室を前記流入口側の空間と前記流出口側の空間とに隔てる隔壁と、前記軸流式の循環羽根車の外周囲を囲むと共に、前記流入口側の空間と前記流出口側の空間とを互いに連通させる羽根車ケーシングと、を含んで構成されている、としてもよい。
【0023】
こうすることで、連通室における流入口側の空間、換言すればモータ部側から流入することにより相対的に温度の高い冷却液が存在している空間と、流出口側の空間、換言すればポンプ部側における熱交換を通じて相対的に低温となった冷却液が存在している空間とは、隔壁によって隔てられる一方、羽根車ケーシングによって、流入口側の空間と流出口側の空間とは互いに連通し得る。そうして、その羽根車ケーシングが、軸流式の循環羽根車の外周囲を囲むことによって、循環羽根車の回転に伴い冷却液が、羽根車ケーシングを通じて流入口側の空間から流出口側の空間へと効率的に流れる。つまりこの構成は、冷却液を効率よく循環させて、モータの冷却効率を高め得る。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、ここに開示するポンプの冷却液循環構造は、冷却液を循環させるための循環羽根車を、メカニカルシールの圧縮ばねの付勢力によって、シャフトと共に回転するようにシャフトに取り付けることで、取付構造が極めて簡素化されると共に、循環羽根車の取り付けに要するスペースを小さくして、モータのシャフトの長さを短くし得る。その結果、シャフトのたわみ量及び振動を小さくし得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】水中ポンプの縦断面図である。
【図2】水中ポンプのハウジング付近を拡大して示す縦断面図である。
【図3】ハウジングの平面図である。
【図4】メカニカルシール及び循環羽根車の、シャフトへの取付構造を示す断面図である。
【図5】メカニカルシール及び循環羽根車の分解図である。
【図6】(a)循環羽根車の平面図、(b)循環羽根車のb−b線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、ポンプの冷却液循環構造の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0027】
図1,2は、ポンプの冷却液循環構造が適用されたポンプの例としての、水中ポンプ1を示している。この水中ポンプ1は、例えば下水道における揚水ポンプとして利用され得るポンプである。水中ポンプ1は、羽根車23を有するポンプ部21と、羽根車23を駆動するモータ3を有するモータ部22と、を備えている。水中ポンプ1は、ポンプ部21が相対的に下側に、モータ部22が相対的に上側になるように、上下方向に並んで配置され、それによってモータ3のシャフト35は、上下方向(つまり、所定の軸方向に対応する)に延びるように配設されている。この水中ポンプ1はまた、詳細は後述するが、モータ部22側とポンプ部21側との間で冷却液を循環させることによって、モータ3を冷却する冷却液循環流路(円周状の冷却液流路37及び連通室48)を備えた、強制冷却仕様である。ここで、この冷却液循環流路内を循環する冷却液は、この例では水を主成分とし、そこに腐食防止用の添加剤を添加した冷却水である。但し、冷却液を、冷却油によって構成してもよい。
【0028】
モータ部22は、ステータ31及びロータ32からなるモータ3と、ステータ31を支持すると共に、その内部にモータ3を収容するモータケーシング33と、を備えている。ロータ32に一体化されたモータ3のシャフト35は、前述したように、上下方向に延びて配設されている。
【0029】
モータケーシング33は、その下端が開口した概略円筒状の本体部331を有しており、本体部331の上端開口は、この本体部331と一体的に形成された蓋部332によって閉塞されている。蓋部332の下面には、ベアリング351が取り付けられており、このベアリング351は、シャフト35の上端部を軸支している。モータケーシング33の蓋部332よりもさらに上側には、本体部331を上方に延長するように、概略円筒状の延長部333が本体部331と一体に設けられている。この延長部333の上端に径が拡大したフランジ334が設けられており、このフランジ334に対してヘッドカバー34が取り付けられている。こうして、このヘッドカバー34と延長部333とによって、各種の電気部品を収容するための収容空間341が区画形成されている。尚、ヘッドカバー34には、モータ3に給電する給電ケーブルが挿通されるケーブルブーツが貫通して取り付けられている。
【0030】
モータ部22はまた、モータケーシング33の外周囲を囲むように、このモータケーシング33の外周面に対し所定の隙間を空けて、アウターケーシング36が配置されている。アウターケーシング36は、両端開口の概略円筒状であり、その上端部が延長部333のフランジ334に固定されている。こうして、モータケーシング33の外周面と、アウターケーシング36の内周面とによって、冷却液が流れる円周状の冷却液流路37が、モータ3を囲みながら、モータケーシング33及びアウターケーシング36の軸方向の全域に亘って広がるように形成されている。冷却液流路37は、冷却液循環流路の一部を構成する。
【0031】
尚、モータケーシング33及びアウターケーシング36の下端部は、ハウジング4によって閉塞されている。このハウジング4についての詳細は、後述する。
【0032】
ポンプ部21は、モータ3のシャフト35の下端に取り付けられた羽根車23と、羽根車23を収容するポンプケーシング24と、を備えている。この水中ポンプ1は、遠心式の羽根車23を備えた遠心ポンプである。
【0033】
ポンプケーシング24は、その内部に羽根車23を収容する渦形室25を含むケーシング本体241と、このケーシング本体241の上端部に取付固定されて、ポンプ部22とモータ部21とを隔てる蓋ケーシング242と、ケーシング本体241の下端部に形成された開口部に取り付けられて、ポンプケーシング24の流入口245を形成する底ケーシング243と、を備えて構成されている。
【0034】
ケーシング本体241は、渦形室25に連通すると共にケーシング本体241の側方に突出するように一体に形成された排出口26を有しており、この排出口26は、図示省略の排出管に連結される。
【0035】
ケーシング本体241における渦形室25の上部は上向きに開口しており、この開口に対して蓋ケーシング242が取り付けられることにより、渦形室25の上部が区画形成されることになる。蓋ケーシング242は、概略円盤状を有していると共に、その中心部には、シャフト35が貫通配置される貫通孔が厚み方向に貫通して形成されている。蓋ケーシング242の下面側には、羽根車23のボス部231との間でシールを行うオイルシール232が取り付けられている。
【0036】
この蓋ケーシング242は、詳しくは後述するが、その上面側にハウジング4が取付固定されることにより、このハウジング4と共に、冷却液循環流路の一部を構成する連通室48を区画形成する。蓋ケーシング242の上面にはまた、後述するメカニカルシール5における下側固定環55を固定するための固定部244(つまり、ポンプ筐体側に対応する)が、シャフト35の貫通孔を囲むように形成されている(図4も参照)。
【0037】
ケーシング本体241における渦形室25の下部は下向きに開口しており、この開口には底ケーシング243が取り付けられている。底ケーシング243には、上下方向に貫通する貫通孔245が形成されている。底ケーシング243は、ケーシング本体241に取り付けられた状態では、羽根車23の下端部を支持すると共に、羽根車23の吸込口232に連通する流入口245を形成する。
【0038】
羽根車23は、本実施形態では、ノンクロッグ型の羽根車であって、その吸込口233が羽根車の下面において下向き開口していると共に、図示は省略するが、吐出口が羽根車の側面において横向きに開口している。尚、羽根車23の形式は、図1に例示する形式に限定されず、各種の形式の羽根車を、適宜採用し得る。
【0039】
ハウジング4は、モータケーシング33の下端及びアウターケーシング36の下端に取り付けられ、これにより、モータケーシング33の下端開口及びアウターケーシング36の下端開口をそれぞれ閉塞している。ハウジング4は、図3にも示すように、モータケーシング33の下端に取り付けられる上側部材41と、この上側部材41に対して上下方向(軸方向)に所定の間隔を空けて配置されかつ、アウターケーシング36の下端に取り付けられる下側部材42と、周方向の所定箇所に配置されかつ、上側部材41と下側部材42とを互いに連結する複数のリブ43と、を含んで構成されている。
【0040】
上側部材41は、モータケーシング33と同径で軸方向に延びる概略円筒状の周壁部411と、周壁部411の下端に連続して周壁部411の下端開口を閉塞する底壁部412と、を含む、縦断面概略U字状を有している。上側部材41は、周壁部411の上端が概略円筒状のモータケーシング33(本体部331)の下端に対し、Oリングを介在させた状態で取付固定されることによって、モータケーシング33の下端開口を閉塞する。
【0041】
上側部材41の底壁部412には、その中心位置に厚み方向に貫通する貫通孔413が形成されており、この貫通孔413には、モータ3のシャフト35が貫通して配置される。
【0042】
上側部材41にはまた、その径方向の内方側に、前記シャフト35用の貫通孔413を取り囲むように、所定径を有しかつ底壁部412から軸方向の上方に向かって立設する円筒状の起立壁部414が、底壁部412と一体に形成されている。この起立壁部は、モータ3のシャフト35の中間部分を軸支するベアリング352を保持するためのベアリングホルダ414である。尚、以下においては起立壁部とベアリングホルダとの双方の部材名称に対し同じ符号414を付す場合がある。このベアリングホルダ414には、2つのベアリング352,352が軸方向に並んだ状態で内嵌されることで、これら2つのベアリング352を保持する。ここで、ベアリング352は、その最下部が、ベアリングホルダ414の底部から所定量だけ上方に位置するように、ベアリングホルダ414に保持されている。これは、後述するように、浸水が生じた場合でも、ベアリング352が水に触れないようにするためである。
【0043】
上側部材41の下面には、後述するメカニカルシール5の上側固定環51が固定される固定部415を有している(図4も参照)。この固定部415が、ポンプ筐体側に対応する。上側部材41(ハウジング4)は、その上面側ではベアリング352の保持をする一方、その下面側ではメカニカルシール5の固定をするように構成されており、複数の機能を併せ持っている。
【0044】
上側部材41には、径方向内側のベアリングホルダ414と、径方向外側の周壁部411との間に、上向きに開口する環状の空間が形成され、この環状の空間は、前記貫通孔413を通じてモータ部22側へ浸水が生じたときに、その浸入した水を溜める浸水溜まり室416として機能する。従って、ハウジング4には、ベアリングホルダ414に対し軸方向のほぼ同じ位置に、このベアリングホルダ414を取り囲むように、浸水溜まり室416が形成されている。この浸水溜まり室416には、図2,3に示すように、周方向における所定の角度範囲に対応する部分に、他の部分よりも低くなるように凹陥した凹陥部417が形成されている。凹陥部417の底面は、ベアリングホルダ414の底面よりも下側に位置している。そうして、ベアリングホルダ414内の底部と、浸水溜まり室416の凹陥部417とを連通するキリ穴418が、ベアリングホルダ(起立壁部)414を貫通するように、径方向の内方から外方に向かって斜め下向きに延びて形成されている。このキリ穴は、前述したように貫通孔413を通じてモータ部22側(ベアリングホルダ414内)に浸水が生じたときに、その浸入した水を浸水溜まり室416(つまり、凹陥部417)に排出するための排水穴418であり、これによって、ベアリング352の浸水を防止する。
【0045】
この凹陥部417内には、モータ部22側への浸水を検知するための液面センサ45が配置されている。この液面センサ45は、後述する蓋部材44に取り付けられて、凹陥部417内を下向きに延びるように配置されており、その検知高さはベアリング352の最下端よりも下になるように設定されている(図2における一点鎖線を参照)。このこともまた、ベアリング352の浸水を回避する上で有利になる。
【0046】
この上側部材41の上端には、概略円盤状の蓋部材44が、ベアリングホルダ(起立壁部)414に形成したねじ穴を利用して固定されている。蓋部材44の外周縁とハウジング4の周壁部411の上端部との間にはOリングが介設されており、蓋部材44は、環状の浸水溜まり室416(凹陥部417を含む)の上端開口を覆って、この浸水溜まり室416を、モータ3が収容されているモータケーシング33内から隔離した状態で密閉する。
【0047】
この蓋部材44はまた、前記ベアリングホルダ(起立壁部)414よりも径方向の内方まで延びており、これによって、ベアリングホルダ414内に保持されたベアリング352と当接して、このベアリング352の押さえとして機能する。つまり蓋部材44は、浸水溜まり室416を閉塞する蓋と、ベアリング押さえとを兼用している。尚、蓋部材44の中心位置には、モータ3のシャフト35が貫通して配置される貫通孔が形成されている。
【0048】
さらにこの蓋部材44における周方向の所定位置、詳細には、浸水溜まり室416の凹陥部417に対応する周方向位置には、前記液面センサ45が取り付けられており、この蓋部材44はさらに、センサの支持部材としての機能も有している。
【0049】
下側部材42は概略円環状を有しており、その上端部分は、上向きに開口すると共にアウターケーシング36の下端部に内嵌される内嵌部421とされる一方、その下端には、前記内嵌部421の開口よりも小径で下向きに開口する下端開口422が形成されている。上側部材41と下側部材42とは、上側部材41の下端部の一部が、下側部材42の内嵌部421の開口に内挿したような相対位置で、前記のリブ43により連結されている。下側部材42は、内嵌部421が概略円筒状のアウターケーシング36の下端に対し、Oリングを介在させた状態で内嵌されることによって、アウターケーシング36の下端開口を閉塞すると共に、その下端部が、ポンプ部21の蓋ケーシング242に対して、Oリングを介在させた状態で取付固定される。
【0050】
そうして、図3に示すように、このハウジング4の外周部には、上側部材41と下側部材42とを連結するリブ43とリブ43との間に、径方向の外方に向かって開口すると共に、円周状の冷却液流路37に連通する流入口46及び流出口47が、それぞれ2つ形成されている。流入口46と流出口47とは周方向に交互に配置されており、これにより、2つの流入口46は中心軸を挟んで相対し、2つの流出口47もまた、中心軸を挟んで相対している。流入口46と流出口47とは、上側部材41と下側部材42との間に形成される連通室48を介して互いに連通している。より詳細には、図2,3に示すように、下側部材42において流出口47に対応する角度範囲には、下端開口422よりも径方向の外側に、厚み方向に貫通する円弧状のスリット423が形成されている。これに対し、流入口46に対応する角度範囲には、そうしたスリットが形成されていない。前記の連通室48はまた、前記ハウジング4(下側部材42)の下端部が、ポンプ部21の蓋ケーシング242に取り付けられることによって、上側部材41、下側部材42及び蓋ケーシング242によって区画形成される。従って、流入口46と流出口47とは、図2から明らかなように、連通室48とスリット423とを介して互いに連通することになる。
【0051】
この下側部材42の下端開口422には、この開口の一部を閉塞する隔壁部材6が取り付けられる。隔壁部材6は、ハウジング4と蓋ケーシング242とによって区画形成される連通室48を、ハウジング4側の空間と、蓋ケーシング242側の空間とに隔てる隔壁61と、径方向の内方側に配置されて、後述する循環羽根車7を収容する羽根車ケーシング62とが一体化されて構成されている。より詳細に、隔壁部材6は、図4にも仮想的に示すように、厚みの薄い円板状であって隔壁61の一部を構成する平板部と、径方向の内方側でその筒軸がモータ3のシャフト35と同軸となるように配置されて羽根車ケーシング62を構成する円筒部と、平板部と円筒部とを互いに連結するように、平板部における径方向の内縁から円筒部の下端に向かって隆起するように傾斜して、隔壁61の一部を構成する傾斜部とを備えている。この隔壁部材6は、例えばプレス加工した金属薄板によって構成してもよい。この隔壁部材6の外周縁部が、下側部材42の下端開口422の縁部に対して固定されることによって、ハウジング4と蓋ケーシング242とによって区画形成される連通室48は、隔壁61(平板部及び傾斜部)によってハウジング4側の空間と、蓋ケーシング242側の空間とに隔てられる一方、羽根車ケーシング62(円筒部)によってハウジング4側の空間と蓋ケーシング242側の空間とが互いに連通することになる。この羽根車ケーシング62内には、モータ3のシャフト35とメカニカルシール5とが内挿されると共に、循環羽根車7もまた、この羽根車ケーシング62内に配置される。
【0052】
メカニカルシール5は、連通室48内において、モータ3のシャフト35に取り付けられることで、モータ部22側とポンプ部21側との間で、シャフト35を軸封(シール)する。メカニカルシール5は、図4,5に示すように、軸方向の上側から下側に向かって、上側固定環51、上側回転環52、圧縮ばね53、下側回転環54、及び下側固定環55の順に配置されて構成されている。この内、上側固定環51は、前述したように、ハウジング4における上側部材41の下面に形成された固定部415に固定される。上側回転環52は、モータ3のシャフト35に外挿される外挿部521と、圧縮ばね53の上端部が当接する鍔部522とを有しており、外挿部521がシャフト35に外挿された状態で、圧縮ばね53の付勢力により鍔部522が上向きに押されることによって上側固定環51に押圧されている。同様に、下側固定環55は、前述したように、蓋ケーシング242の上面に形成された固定部244に固定される。また、下側回転環54は、モータ3のシャフト35に外挿される外挿部541と、圧縮ばね53の下端部が当接する鍔部542を有しており、外挿部541がシャフト35に外挿された状態で、圧縮ばね53の付勢力により鍔部542が下向きに押されることによって下側固定環55に押圧されている。圧縮ばね53は、モータ3のシャフト35に外挿される比較的大径のコイルスプリングであり、ここに示すメカニカルシール5は、一つの圧縮ばね53によって、上側回転環52及び下側回転環54の双方の回転環を、上側固定環51及び下側固定環55のそれぞれに対して押圧するように構成されている。このメカニカルシール5は、図1,2に示すように、連通室48内に配置されているため、冷却液に浸漬している。このため、冷却液は、モータ3の冷却のみならず、メカニカルシール5の潤滑液としても機能する。
【0053】
そうして、冷却液の循環用の循環羽根車7が、このメカニカルシール5の圧縮ばね53の付勢力を利用してシャフト35に取り付けられている。より詳細に、循環羽根車7は、図4〜6に示すように、円環状のハブ71と、このハブ71の外周面に立設する複数枚(図例では5枚)の羽根72とを含む本体部73と、ハブ71の下端から径方向内方に広がるように、ハブ71と一体に設けられた受部74と、を含んで構成されている。循環羽根車7は、モータ3のシャフト35に取り付けられるものであるため、回転バランスを崩さないように軽量であることが好ましい。つまり、循環羽根車7の軽量化は、循環羽根車7をシャフト35に取り付けることに伴うバランス調整を不要にする。軽量化のために、循環羽根車7は、各種の合成樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)によって、一体成形をしてもよい。
【0054】
循環羽根車7のハブ71は、図4に端的に示すように、メカニカルシール5の外径よりも径が大きい円環状を有している。この例では、ハブ71は、メカニカルシール5の圧縮ばね53の長さと同程度の長さを有しているが、ハブ71の長さは特に限定されるものではなく、他の部材の干渉等を考慮して適宜設定すればよい。
【0055】
各羽根72は、図6(a)に示すように、その断面形状が所定の翼形状を有していると共に、所定の迎え角を有するように、ハブ71の外周面から径方向の外方に向かって突出して配置されている。これにより、この循環羽根車7は、軸流式の羽根車として構成されていると共に、後述するように、シャフト35に取り付けたときには、冷却液を軸方向の上から下に、言い換えると、モータ部22側からポンプ部21側へと流すように構成されている。
【0056】
受部74は、図6の(a)(b)に示すように、厚みの薄い板状であって、ハブ71の下端に設けられている。これにより、受部74と、ハブ71に設けられた各羽根72とは、軸方向に位置がずれている。受部74は、後述するように、メカニカルシール5の圧縮ばね53の下端と下側回転環54(つまり、その鍔部542)とによって挟持される。このため、受部54の内径は、メカニカルシールの下側回転環54の外挿部541の外径よりも大に設定されている。また、受部74における周方向の所定の箇所には、その表面から突出した突起741が、径方向に延びて形成されており、この突起741は、コイルスプリングによって構成される圧縮ばね53の先端と係合して、圧縮ばね53と循環羽根車7との相対回転を防止する。これによって、循環羽根車7は、モータ3のシャフト35と共に回転することになる。
【0057】
この循環羽根車7は、図4,5に示すように、圧縮ばね53と下側回転環54との間に配置され、その受部74が、圧縮ばね53の下端と下側回転環54の鍔部542とによって挟持される。つまり、受部74が、圧縮ばね53の付勢力を受けることによって、循環羽根車7は、シャフト35に対し、一体的に回転するように取り付けられている。
【0058】
この取付状態では、循環羽根車7の本体部73は、圧縮ばね53の外周囲を囲むようになり、これにより各羽根72は、メカニカルシール5における、軸方向の略中央位置に位置している。そうして、図2,4に示すように、この各羽根72の外周囲を覆うように、隔壁部材6の羽根車ケーシング62が配置されるようになり、軸流式に構成された循環羽根車7と、隔壁部材6の羽根車ケーシング62とによって、シャフト35の回転に伴い循環羽根車7が回転したときには、シャフト35に沿うようにモータ部22側からポンプ部21側へと、冷却液が流れるようになる(図2の矢印参照)。
【0059】
以上のように構成されたポンプの冷却液循環構造により、図2に示すように、冷却液は、シャフト35及び循環羽根車7の回転に伴い、モータケーシング33とアウターケーシング36との間の冷却液流路37から、ハウジング4の流入口46を通じて連通室48内への流入する。連通室48内においては、隔壁61によって隔てられた、モータ部22側(換言すれば、流入口46側又はハウジング4側)の空間から、循環羽根車7及び羽根車ケーシング62を通って、ポンプ部21側(換言すれば、流出口47側又は蓋ケーシング242側)の空間へと冷却液が流れる。そうしてポンプ部21側へと流れ込んだ冷却液は、スリット423及び流出口47を通じて、冷却液流路37に戻ることになる(図2の矢印参照)。こうして冷却液が循環することに伴い、モータケーシング33内のモータ3が冷却されることになる。
【0060】
この冷却液循環構造においては、循環羽根車7が、メカニカルシール5の圧縮ばね53の付勢力を利用して、モータ3のシャフト35に取付固定されており、循環羽根車7の取付構造が極めて簡素化されている。また、循環羽根車7の取り付けは、シャフト35に対して固定環、回転環、圧縮ばねを順に取り付けるメカニカルシール5の取り付けに付随して行うことが可能であり、循環羽根車7の取り付け工程もまた、単純化される。
【0061】
メカニカルシール5とは別に循環羽根車をシャフト35に取り付ける従来の構成と比較して、前記の取付構造は、循環羽根車7の取り付けに要するスペースを小さくして、モータ3のシャフト35の長さを、その分、短くし得る。特に、前記の構成では、循環羽根車7の本体部73が、メカニカルシール5の圧縮ばね53の外周囲を囲むように配置されて、循環羽根車7とメカニカルシール5とは、シャフト35に対して実質的に同じ軸方向位置に配置されるため、シャフト35の軸方向に、循環羽根車7の取り付け用スペースが不要であり、シャフト35の長さをさらに短くし得る。このことは、シャフト35のたわみ量を小さくし、振動を抑制する上で有利になる。尚、循環羽根車7の受部74が、圧縮ばね53と下側回転環54との間に挟まれるものの、受部74が薄い板状であることと圧縮ばね53が縮むこととにより、メカニカルシール5の全長が長くなることも抑制し得る。
【0062】
また、前述した強制冷却仕様のポンプに対して、例えば冷却液循環構造を省略した自然冷却仕様のポンプにおいては、循環羽根車7のシャフト35への取り付けを省略すればよいが、この場合に強制冷却仕様のポンプでは、循環羽根車7の取り付け用のスペースがそもそも存在していないため、循環羽根車7の取り付けを省略しても、シャフト35の軸方向に空きスペースは生じない。このことは、ポンプの冷却液循環構造の有無という仕様の相違に拘わらず、シャフト35を含むポンプの設計や部品を共通化し得るという利点がある。また、圧縮ばね53の付勢力により循環羽根車7を取り付けており、循環羽根車7の有無は、圧縮ばね53の伸縮によって吸収し得るから、このこともまた、ポンプ部品の共通化に有利である。
【0063】
また、循環羽根車7を軸流式として羽根車ケーシング62を設けると共に、モータ部22側からポンプ部21側に向かって冷却液を流すように、この循環羽根車7をモータ3のシャフト35に取り付けることは、モータ3の冷却効率を高める上で有利になり得る。つまり、モータ部22においてモータ3から熱を受けた冷却液は、流入口46を通じて、ハウジング4の連通室48内に流入し、循環羽根車7によってモータ部22側からポンプ部21側に向かって流れる。そうして、そのポンプ部21側において、蓋ケーシング242を間に挟んで、ポンプケーシング24内のポンプの取扱液、つまり相対的に温度の低い液体と熱交換した後に、冷却液は、スリット423及び流出口47を通じて、モータ部22側に戻ることになる。
【0064】
ここで、連通室48内を隔壁61によって、流入口46側の空間と流出口47側の空間とに隔てると共に、その両空間を循環羽根車7及び羽根車ケーシング62を通じてのみ連通させているため、循環羽根車7の回転によって冷却液を効率的に循環させることが可能になる。このことはモータ3の冷却効率の向上に寄与し得る。
【0065】
そうして軸流式の循環羽根車7が、モータ部22側からポンプ部21側に向かって冷却液を流すことに伴い、蓋ケーシング242の上面に比較的高い流速の冷却液が衝突し、その上面付近において冷却液の乱流が生じ得る。このことは、冷却液とポンプの取扱液との間の熱交換効率を高め得るため、モータ3の冷却効率を高め得る。
【0066】
また、ハウジング4に形成された連通室48は、上側部材41の下面によってその一部が区画形成されているため、ベアリング352を保持する部位、つまりベアリングホルダ414を構成する起立壁部及び底壁部等が、冷却液に直接的に接触することになる。この構成により、ベアリング352もまた、冷却液によって効率的に冷却し得ることになる。
【0067】
このハウジング4は、前述したように、上側部材41の下面側にメカニカルシール5の上側固定環51を固定する固定部415が形成されており、シールの漏れが生じたときには、浸水(概ね冷却液)は上側部材41の貫通孔413を通じて、ベアリングホルダ414内へと浸入することになる。このときに、ベアリングホルダ414の底部に、斜め下向きに延びる排水穴418を形成していることによって、漏れた冷却液はこの排水穴418を通って、浸水溜まり室416へと排出される。これにより、ベアリング352が浸水してしまうことが効果的に防止される。
【0068】
また、この浸水溜まり室416には、その一部に、ベアリングホルダ414よりも底が深い凹陥部417を形成しており、この凹陥部417内に浸水検知のための液面センサ45を配置している。これにより、液面センサ45によって浸水を検知したときの、浸水溜まり室416内の液面の高さは、図2に一点鎖線で示すように、ベアリング352の最下端よりも低くなる。このことは、モータ3の浸水を確実に回避し得ることは勿論のこと、ベアリング352の浸水をも回避し得る点で有利である。
【0069】
ここで、ベアリングの浸水を回避する観点から、浸水溜まり室は、ベアリングを保持するベアリングホルダよりも下側の位置に設けることが、従来一般的であり、このため、例えば特開平11−294373号公報や、特開2001−193749号公報に記載されているように、ベアリングホルダとは別の部材を、ベアリングホルダの下側に配置することによって、浸水溜まり室を区画形成することが従来一般的であった。これに対し、前記の構成は、ハウジング4に、ベアリングホルダ414と浸水溜まり室416との双方を形成して、ベアリングホルダ414と浸水溜まり室416とを軸方向にほぼ同じ位置に配置する一方で、ベアリングホルダ414と浸水溜まり室416と連通させる排水穴418を形成することによって、ベアリング352の浸水を回避しつつも、部品点数を少なくすることを実現している。また、浸水溜まり室416に凹陥部417を形成することは、ベアリング352の浸水を、より確実に回避する上で、有利になる。さらに、ベアリングホルダ414と浸水溜まり室416とを一つの部材、つまりハウジング4に形成することは、前述の通り、このハウジング4を冷却液に直接的に接触させることを可能にし、ベアリング352の冷却にも有利になる。
【0070】
上側部材41の上端に、蓋部材44を取り付けて浸水溜まり室416を、モータケーシング33内から隔離することは、モータケーシング33内への水の進入を確実に回避する上で有利である。つまり、この水中ポンプ1では、浸水溜まり室416に溜まり得る液体が水を主成分とする冷却液であり、蓋部材44を省略した場合は、浸水溜まり室416に冷却液が溜まったときに、モータ3の駆動に伴う発熱によって冷却液が蒸発して、モータケーシング33内に水分が入ってしまうことになる。モータケーシング33内に浸入した水分は、モータ3の停止によりモータケーシング33内の温度が低下したときにモータ3の巻線等に水滴として付着するため、例えば絶縁破壊等を招く虞がある。これに対し蓋部材44を取り付けて、浸水溜まり室416をモータケーシング33から隔離することは、そうした問題を確実に回避し得る点で、有利な構成である。尚、この構成では、浸水溜まり室416もまた、冷却液の通路に接しているため、浸水溜まり室416に溜まった冷却液の蒸発自体が抑制され得る。
【0071】
またその蓋部材44を、ベアリング352の押さえとしても兼用させることにより、部品点数の低減で有利になると共に、前述した、ハウジング4に、ベアリングホルダ414と浸水溜まり室416とを形成することによる部品の兼用化と相俟って、部品点数の大幅な低減化、及び、構造の簡略化に伴う組み立て工程の単純化を図り得る。
【0072】
尚、前記の構成では、メカニカルシール5の構成を、シャフト35に外挿される一つの圧縮ばねを備えたモノコイルスプリング形のメカニカルシールとしているが、例えば小径の圧縮ばねを、シャフト35の外周囲に沿って複数個配置したマルチスプリング形のメカニカルシールに対して、循環羽根車7を取り付けてもよい。この場合は、複数個の圧縮ばねによって、循環羽根車7の受部74を、例えば下側回転環54の鍔部542との間に挟持すればよい。この場合はまた、必要に応じて、複数個の圧縮ばねの先端部同士を互いに連結して、循環羽根車7の受部74に当てるような当接部材をさらに取り付けるようにしてもよい。
【0073】
循環羽根車7は、圧縮ばね53と下側回転環54との間に配置することに限らず、圧縮ばね53と上側回転環52との間に配置するようにしてもよい。その場合には、図4,5に示す循環羽根車7の天地を反転させて、圧縮ばね53と上側回転環51との間に配置するようにしてもよいが、冷却液の流れ方向を、モータ部22側からポンプ部21側に設定するのであれば、各羽根72の向きをもまた、反転させる必要がある。
【0074】
また、循環羽根車7を、圧縮ばね53と下側回転環54との間、及び、圧縮ばね53と上側回転環52との間のそれぞれに配置して二段に構成してもよい。
【0075】
メカニカルシール5は、前記の例では、一つの圧縮ばね53によって上下2つの回転環52,54をそれぞれ押圧付勢しているが、上側回転環を押圧付勢する圧縮ばねと、下側回転環を押圧付勢する圧縮ばねとを、互いに別の圧縮ばねによって構成してもよい。この場合においても、循環羽根車7の配置は、メカニカルシールにおける上側、下側及び上下両側のいずれであってもよい。
【0076】
循環羽根車7による冷却液の流れ方向は、モータ部22側からポンプ部21側に限定されず、それとは逆向きであってもよい。また、循環羽根車は軸流式に限定されず、遠心式や斜流式であってもよい。その場合に、羽根車ケーシングは、循環羽根車の形式に対応するように、適宜その形状を設定すればよい。また、場合によって、羽根車ケーシングを省略してもよい。
【0077】
ハウジング4とは別体の隔壁部材6を、ハウジング4に対し取付固定しているが、隔壁部材6と同等の機能を有する部位をハウジング4と一体に形成してもよい。
【0078】
循環羽根車7はまた、メカニカルシール5の回転環と一体的に形成してもよい。この場合は、メカニカルシール5の組み立て及び循環羽根車7の取り付けが、より一層単純化され得る。一方、前述したように、冷却液循環構造有りの強制冷却仕様と冷却液循環構造無しの自然冷却仕様との仕様違いに対し部品の共通化を図る上では、前記の例のように、循環羽根車と回転環とは別体であることが望ましい。
【0079】
また、ここに開示する冷却液循環構造は、水中ポンプへの適用に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、ここに開示したポンプの冷却液循環構造は、冷却液循環用の循環羽根車を、メカニカルシールの圧縮ばねを利用してモータのシャフトに取り付けることで、取付構造の簡略化と共に、シャフト長さを可及的に短くし得る点で有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 水中ポンプ(ポンプ)
21 ポンプ部
22 モータ部
23 羽根車
3 モータ
33 モータケーシング
35 シャフト
36 アウターケーシング
37 冷却液流路
4 ハウジング
46 流入口
47 流出口
48 連通室
5 メカニカルシール
51 上側固定環
52 上側回転環
53 圧縮ばね
54 下側回転環
55 下側固定環
6 隔壁部材
61 隔壁
62 羽根車ケーシング
7 循環羽根車
72 羽根
73 本体部
74 受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車を含むポンプ部と、
所定の軸方向に延びかつ前記羽根車に連結されるシャフトを有すると共に、当該シャフトを通じて前記羽根車を駆動するモータを含むモータ部と、
前記ポンプ部と前記モータ部との間に配置されかつ、前記シャフトをシールするメカニカルシールと、
前記モータ部側と前記ポンプ部側との間で冷却液を循環させることによって、前記モータを冷却する冷却液循環流路と、を備え、
前記メカニカルシールは、前記シャフトに固定される回転環、ポンプ筐体側に取り付けられる固定環、及びその付勢力によって前記回転環と前記固定環とを前記軸方向に互いに押し当てる圧縮ばねを少なくとも含み、
前記シャフトに取り付けられて当該シャフトと共に回転することにより、前記冷却液循環流路内の冷却液を循環させる循環羽根車をさらに備え、
前記循環羽根車は、前記メカニカルシールの前記圧縮ばねの付勢力によって、前記シャフトと共に回転するように当該シャフトに取り付けられているポンプの冷却液循環構造。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプの冷却液循環構造において、
前記循環羽根車は、複数枚の羽根が周方向に並んで配置された環状の本体部と、前記本体部に対して一体的に設けられると共に、前記圧縮ばねの付勢力を受ける受部と、を有しており、
前記循環羽根車は、前記受部が前記圧縮ばねの端部と前記回転環とで挟持されることにより前記シャフトに取り付けられ、
前記本体部は、前記メカニカルシールの外周囲において、当該メカニカルシールに対して前記軸方向に重なる位置に配置されているポンプの冷却液循環構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポンプの冷却液循環構造において、
前記モータ部は、
前記モータを収容するモータケーシングと、
前記モータケーシングの外周面に対し所定の間隔を空けて配置されかつ、当該モータケーシングの外周面との間に、前記冷却液循環流路の一部を構成する周状の流路を形成するアウターケーシングと、
前記モータケーシング及び前記アウターケーシングの下端開口に取り付けられると共に、前記シャフトが貫通して配置されるハウジングと、をさらに含み、
前記ハウジングは、それぞれ前記周状の流路内に開口しかつ、当該周状の流路から冷却液が流入する流入口及び当該周状の流路へ冷却液が流出する流出口と、前記流入口と流出口とを互いに連通させると共に、前記ポンプ部によってその一部が区画されることにより、前記冷却液循環流路の一部を構成する連通室と、を有し、
前記メカニカルシールは、前記連通室内において前記シャフトに取り付けられ、それによって、前記循環羽根車は、前記連通室内に配置されており、
前記循環羽根車は軸流式であり、前記モータ部側から前記ポンプ部側に向かって前記軸方向に沿って前記冷却液を流すように、前記シャフトに取り付けられているポンプの冷却液循環構造。
【請求項4】
請求項3に記載のポンプの冷却液循環構造において、
前記モータ部は、前記ハウジングに取り付けられる隔壁部材をさらに備え、
前記隔壁部材は、前記連通室を前記流入口側の空間と前記流出口側の空間とに隔てる隔壁と、前記軸流式の循環羽根車の外周囲を囲むと共に、前記流入口側の空間と前記流出口側の空間とを互いに連通させる羽根車ケーシングと、を含んで構成されているポンプの冷却液循環構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−57551(P2012−57551A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202136(P2010−202136)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】