説明

ポンプ装置

【課題】ロータとシャフトの直角度やポンプ装置の効率を悪化させることなく、吸引口側の流体抵抗を低減すること。
【解決手段】電動機室Bとポンプ室Aとを仕切る樹脂製の分離板90を備え、電動機室Bに外郭をモールド樹脂63で覆った円環状のステータ60が配置され、ポンプ室Aに滑り軸受40を介してシャフト10に支持された円板状のロータ20がステータ60と対向的に配置されたアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置であって、分離板90は、ロータ20と対向するステータ60の端面65に当接して保持され、シャフト10は、滑り軸受40を介して分離板90に回転可能な状態で片持ち支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置におけるシャフトの片持ち構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、分離板でポンプ室と電動機室に仕切られ、ポンプ室側のマグネットと電動機室側のマグネットが軸方向に対向して配置されたマグネットカップリングタイプのポンプ装置が知られている。このポンプ装置の一例として、ポンプ室側に、羽根車を一体化したロータに保持される滑り軸受と、滑り軸受と摺動するシャフトおよび推力軸受板が、シャフトを支持するホルダーを介して分離板のホルダー収納部に保持され、かつ、シャフトを支持するポンプケーシングの軸支えに保持されているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このポンプ装置のシャフト保持構造は、両持ち構造になっており、ポンプケーシングの軸支えがポンプケーシングの吸引口内に形成されているため、軸支えが吸引口から吸引した流体の経路に対して抵抗になってしまう問題点がある。
【0004】
この問題点を解決するため、シャフトが分離板に保持された片持ち構造になっているマグネットカップリングタイプのポンプ装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。このポンプ装置は、特許文献1のポンプ装置に備えるポンプケーシングの軸支えが不要となり、吸引口側の流体抵抗を低減することができる。しかしながら、このポンプ装置のシャフト保持構造は、羽根車を一体化したロータに精度に限界のある滑り軸受が保持されているので、シャフトに対するロータの直角度を確保することができないという問題点がある。
【0005】
また、このポンプ装置のシャフトを保持する分離板には、金属製補強板が装着されており、分離板がポンプ室側のマグネットと電動機室側のマグネットによる磁気吸引力で電動機室側にたわむことを抑止している。しかしながら、金属製補強板がポンプ室側のマグネットと電動機室側のマグネットの間に存在すると、金属製補強板の内部に渦電流が発生し、ロータの回転速度に依存した損失となり、ポンプ装置としての効率が悪くなってしまう問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−208378号公報
【特許文献2】実開平2−4994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、ロータとシャフトの直角度やポンプ装置の効率を悪化させることなく、吸引口側の流体抵抗を低減することができるポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のポンプ装置は、電動機室とポンプ室とを仕切る樹脂製の分離板を備え、アキシャルギャップ型電動機のロータと対向するモールド樹脂で外郭を覆ったステータの端面に分離板が当接して保持され、シャフトが滑り軸受を介して分離板に回転可能な状態で片持ち支持される構造になっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポンプ装置によれば、シャフトがステータの端面に当接して保持される分離板に滑り軸受を介して回転可能な状態で片持ち支持されることで、ポンプ室を形成するポンプケーシング側にシャフト支持部が不要となり、吸引口側の流体抵抗を低減することができる。また、シャフトが分離板に回転可能な状態で片持ち支持されるため、滑り軸受をロータに保持させなくて済み、シャフトに対するロータの直角度を高めることができる。さらに、ステータの端面に樹脂製の分離板が当接して保持されることで、分離板に金属製補強板を装着しなくても、磁気吸引力による分離板のたわみを抑止でき、ポンプ装置としての効率の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるポンプ装置を示す要部断面図である。
【図2】本発明によるポンプ装置を示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明によるポンプ装置の一例を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1および図2は、本実施形態におけるアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置である。このポンプ装置は、樹脂製の分離板90によってポンプ室Aと電動機室Bとに水密的に区画されている。
【0012】
ポンプ室Aは、吸引口51および吐出口52が一体形成されたポンプケーシング50内に、シャフト10、ロータ20、インペラ30および滑り軸受40が収容された構成になっている。ロータ20とインペラ30は、超音波溶着により一体形成されており、シャフト10を介して滑り軸受40に対して回転可能に支持されている。電動機室Bは、その外郭がモールド樹脂で形成された電動機ハウジング内にステータ60と、ステータ60と対向的に配置される図示しない回路基板とが収容された構成になっている。
【0013】
ロータ20は、鋼板で形成された円板状のヨーク22と、ヨーク22の電動機室B側の面上に等角度ピッチで配置された複数個のマグネット21と、ヨーク22とマグネット21とを覆ってロータ20の外郭を円板状に形成する樹脂23とから構成されている。
【0014】
ステータ60は、ステータコア61と、図示しないインシュレータを介してステータコア61に巻回される巻線62と、これらのステータコア61と巻線62とインシュレータとを覆ってステータ60の外郭を円環状に形成するモールド樹脂63とから構成されている。ステータ60の中央には、筒状の孔64が形成されており、樹脂製の筒状部100が収容されている。筒状部100は、開口100aを有する有底筒状に形成されており、ステータ60および回路基板を水密的に区画する。
【0015】
このようなロータ20とステータ60によって、マグネット21とステータコア61とが分離板90を挟んでシャフト10の軸線方向に沿って所定の空隙をもって対向的に配置されたアキシャルギャップ型電動機が構成される。なお、回路基板には、アキシャルギャップ型電動機の駆動制御を行う電子部品が載置され、電子部品は回路基板上の回路を介して巻線62に電気的に接続されている。
【0016】
分離板90は、開口91aを有する筒状の滑り軸受収容部91と、滑り軸受収容部91の開口91aから径方向に延びる円板状のフランジ部92とを備えている。滑り軸受収容部91は、筒状部100の開口100a内に収容されている。フランジ部92は、ロータ20とステータ60が対向する位置に配置され、ステータ60の端面65に当接して保持されている。滑り軸受収容部91の開口91a内には、環状の滑り軸受40が滑り軸受収容部91の底面に保持されるように収容されている。滑り軸受収容部91の底面中央には、貫通孔91bが形成されている。
【0017】
シャフト10は、例えば、ステンレス材から形成されており、滑り軸受収容部91に収容された滑り軸受40の内周で摺動可能に支持されている。シャフト10の基端側は、滑り軸受収容部91の貫通孔91bから軸線方向に突出するように配置され、シャフト10の先端側は、ロータ20の中央から軸線方向にインペラ30に向けて突出するように配置されている。滑り軸受収容部91の貫通孔91bには、シャフト10が滑り軸受40から軸線方向に抜けないようにするための円板状の抜け止め部材70が配置されている。この抜け止め部材70は、シャフト10と同様なステンレス材などから形成されている。
【0018】
以上説明してきたポンプ装置は、ポンプケーシング50と分離板90とステータ60がそれぞれの外周部で図示しないパッキンを介して相互に結合され、ポンプ室A内の流体がポンプ装置の外や電動機室B内に漏れないようになっている。
【0019】
このような構成からなるポンプ装置の動作を説明する。ポンプ装置では、回路基板に載置された電子部品は、巻線62に印加される電圧を、ロータ20の回転位置に応じて切り換える。この印加電圧の切り換えにより、ステータコア61とマグネット21との間に磁気的な吸引/反発が起こり、ロータ20がシャフト10とインペラ30とともに所定の方向に回転する。このロータ20の回転により、吸引口51から矢印のように水や湯などの流体を吸引し、その流体を吐出口52から矢印のように吐出する。
【0020】
次に、シャフト10が滑り軸受40を介して分離板90に回転可能な状態で片持ち支持される構造について図2を用いて説明する。シャフト10は、基端面11の中央から軸線方向に突出する基端側ボルト部12と、基端面11から軸線方向に延びる摺動面13と、滑り軸受40とロータ20との間に存在して摺動面13から径方向に延びるフランジ状のスペーサ部14と、スペーサ部14から軸線方向に延びるロータ保持部15と、先端面16の中央から軸線方向に突出する先端側ボルト部17とを備えている。また、スペーサ部14は、シャフト10の摺動面13側の端面に、滑り軸受40に対して摺動する摺動面14aを備えている。
【0021】
シャフト10は、滑り軸受40がステータ60の端面65に保持された分離板90の滑り軸受収容部91に圧入された後、滑り軸受40の内周側に挿入される。滑り軸受40に挿入されたシャフト10のスペーサ部14は、シャフト10の滑り軸受40に対する位置決め手段になっている。また、このスペーサ部14は、ロータ20とステータ60の間の所定の空隙を形成するように、ロータ20の中央部に結合されている。
【0022】
シャフト10の先端側は、スペーサ部14を含んでロータ保持部15がロータ20の中央に形成される孔に圧入され、先端側ボルト部17がインペラ30側に突出している。シャフト10の先端側ボルト部17には、先端側ナット部18が締結されており、ロータ20に対してシャフト10が抜けないようになっている。先端側ナット部18は、円錐状の防水キャップ80で覆われている。なお、シャフト10の先端側をロータ20の中央に形成される孔に挿入した後、先端側ボルト部17への先端側ナット部18の締結により、スペーサ部14と先端側ナット部18とからロータ20を挟み込むように固定してもよい。
【0023】
抜け止め部材70は、貫通孔91bよりも小径で滑り軸受40の内径よりも大径に形成されている。また、抜け止め部材70の中央には、シャフト10の基端側ボルト部12を挿入する孔71が形成されている。そして、抜け止め部材70は、シャフト10の基端面11側の端面に、滑り軸受40に対して摺動する摺動面72を備えている。シャフト10の基端側は、この抜け止め部材70に形成された孔71に圧入され、基端面11が抜け止め部材70に当接されて基端側ボルト部12が貫通孔91bから電動機室B側に突出している。シャフト10の基端側ボルト部12には、基端側ナット部19が締結されており、シャフト10に対して抜け止め部材70が外れないようになっている。
【0024】
このような構成からなるシャフト10の保持構造により、シャフト10の基端側に抜け止め部材70を配置することで、滑り軸受40からシャフト10が抜けることがない。そして、滑り軸受40の内周側に挿入されるシャフト10の摺動面13、スペーサ部14の摺動面14aおよび抜け止め部材70の摺動面72を備えることで、シャフト10を滑り軸受40を介して分離板90に回転可能な状態で片持ち支持することができる。
【0025】
なお、図3は、本発明によるポンプ装置の外観の一例を示している。図3に示すように、ポンプ装置は、ポンプケーシング50に備えた吸引口51と吐出口52がそれぞれ円筒状に形成されており、ポンプケーシング50とステータ60がそれぞれの外周部でネジ110により締結して一体化されている。
【0026】
以上説明してきた本発明のポンプ装置によれば、ポンプ室Aと電動機室Bとを仕切る樹脂製の分離板90を備え、アキシャルギャップ型電動機のロータ20と対向するモールド樹脂63で外郭を覆ったステータ60の端面65に分離板90が当接して保持され、シャフト10が滑り軸受40を介して分離板90に回転可能な状態で片持ち支持される構造になっている。
【0027】
したがって、シャフト10がステータ60の端面65に当接して支持される分離板90に滑り軸受40を介して回転可能な状態で片持ち支持されることで、ポンプ室Aを形成するポンプケーシング50にシャフト10を支持するシャフト支持部が不要となり、吸引口51側の流体抵抗を低減することができる。また、シャフト10が分離板90に回転可能な状態で片持ち支持されるため、滑り軸受40をロータ20に保持させなくて済み、シャフト10に対するロータ20の直角度を高めることができる。さらに、ステータ60の端面65に分離板90が当接して保持されることで、分離板90とステータ60との間に隙間ができないため、分離板90に金属製補強板を装着しなくても、分離板90が電動機室B側に磁気吸引力によってたわむことを抑止できる。そして、分離板90に金属製補強板が装着されないため、渦電流の発生を防止してポンプ装置の効率が低下しないようにすることができる。
【0028】
また、本発明のポンプ装置によれば、分離板90は、滑り軸受40を収容する筒状の滑り軸受収容部91を備え、ステータ60は、中央に滑り軸受収容部91を収容する孔64を備えている。そして、滑り軸受収容部91には、シャフト10を摺動可能に支持する環状の滑り軸受40が圧入され、底面中央に貫通孔91bが形成され、貫通孔91bには、シャフト10を抜け止めするため、貫通孔91bよりも小径で滑り軸受40の内径よりも大径の円板状の抜け止め部材70が配置されている。
【0029】
したがって、分離板90に備えた滑り軸受収容部91で滑り軸受40を介してシャフト10を支持することで、分離板90に対するシャフト10の直角度を高めることができる。また、ステータ60の中央に備えた孔64に筒状部100を介して滑り軸受収容部91を収容することで、ステータ60の内周側のデッドスペースを有効的に利用することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、ステータ60の中央に備えた孔64に筒状部100を収容するようにしたが、本発明はこれに限らず、ステータ60の外郭を覆うモールド樹脂63でステータ60の内周側を有底筒状に成形し、筒状部100自体を一体成形するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
A ポンプ室
B 電動機室
10 シャフト
11 基端面
12 基端側ボルト部
13 摺動面
14 スペーサ部
14a 摺動面
15 ロータ結合部
16 先端面
17 先端側ボルト部
18 先端側ナット部
19 基端側ナット部
20 ロータ
21 マグネット
22 ヨーク
23 樹脂
30 インペラ
40 滑り軸受
50 ポンプケーシング
51 吸引口
52 吐出口
60 ステータ
61 ステータコア
62 巻線
63 モールド樹脂
64 孔
65 端面
70 抜け止め部材
71 孔
72 摺動面
80 防水キャップ
90 分離板
91 滑り軸受収容部
91a 開口
91b 貫通孔
92 フランジ部
100 筒状部
100a 開口
110 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機室とポンプ室とを仕切る樹脂製の分離板を備え、前記電動機室に外郭をモールド樹脂で覆った円環状のステータが配置され、前記ポンプ室に滑り軸受を介してシャフトに支持された円板状のロータが前記ステータと対向的に配置されたアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置であって、
前記分離板は、前記ロータと対向する前記ステータの端面に当接して保持され、
前記シャフトは、前記滑り軸受を介して前記分離板に回転可能な状態で片持ち支持されることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記分離板は、前記滑り軸受を収容する筒状の滑り軸受収容部を備え、前記ステータは、中央に前記滑り軸受収容部を収容する孔を備え、
前記滑り軸受収容部には、前記シャフトを摺動可能に支持する環状の前記滑り軸受が圧入され、底面中央に貫通孔が形成され、
前記貫通孔には、前記シャフトを抜け止めするために、前記貫通孔よりも小径で前記滑り軸受の内径よりも大径の円板状の抜け止め部材が配置されることを特徴とする請求項1記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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