説明

マイクロ共振装置、マイクロフィルタ装置、マイクロ発振器および無線通信機器

【課題】 基板上に集積回路の一部として組み込み可能であって、共振子を封入した後においても共振子の加工精度や封入圧力のばらつきによる変動を補償し、共振周波数を安定して再現性よく調整できるマイクロ共振装置を提供することにある。
【解決手段】 この発明のマイクロ共振装置に、選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体11と、外部からの操作によって移動可能なマイクロ可動部12と、このマイクロ可動部12と上記マイクロ共振体11をつなぐ接続部13とを備え、上記マイクロ共振体11の共振周波数を調整することにより、上記マイクロ共振体11の加工精度や封入圧力のばらつきによる変動を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、基板上に集積回路の一部として組み込み可能なマイクロ共振装置に関し、特に、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システムを利用したマイクロフィルタ装置およびマイクロ発振器、並びに無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)を用いたマイクロ共振子は、例えば、非特許文献1(F.D.Bannon,III,J.R.Clark,and C. T.-C.Nguyen,IEEE J.Solid-State Circuits, vol.35,No.4,pp.512-526,April 2000)に示されているように、その固有の共振周波数を利用してその周波数の信号のみを正確に通過させ、その他の周波数信号および雑音を減衰させることができる。他の受動素子(コンデンサやインダクター)を用いる場合や能動素子を用いる場合に比べて、集積回路に組み込める超小型サイズで極めて狭帯域フィルタ(高Qフィルタ)が実現できることから、その検討が進められている。
【0003】
図13は、従来技術によるシリコン基板上にポリシリコン膜で形成されたマイクロ共振子110を備えるマイクロフィルタの例である。入力端111に与えられた交流信号によって、交流信号の周波数がマイクロ共振子110の共振周波数に類似の場合、マイクロ共振子110は振動し、選択されたAC信号が出力端112から伝送される。
【0004】
図13に示すような共振子の共振周波数は、上記非特許文献1に示されるように、ほぼ次の(式1)で表される。

【0005】
ここで、kは定数、ρは共振子材料の密度、Eは共振子材料のヤング率、Lrは共振子の実効長さ、hは共振子の厚さである。共振子材料にポリシリコン(E=150GPa)を用い、共振子の膜厚を2μmとすると、この式からも明らかなように、共振子の長さが数10μmから数μm程度の共振子を用いれば、数100MHzからGHz帯の周波数のものが得られることがわかる。ここで、kは定数、ρは共振子材料の密度、Eは共振子材料のヤング率、Lrは共振子の実効長さ、hは共振子の厚さである。共振子材料にポリシリコン(E=150GPa)を用い、共振子の膜厚を2μmとすると、この式からも明らかなように、共振子の長さが数10μmから数μm程度の共振子を用いれば、数100MHzからGHz帯の周波数のものが得られることがわかる。
【非特許文献1】F.D.Bannon,III,J.R.Clark,and C. T.-C.Nguyen,IEEE J.Solid-State Circuits, vol.35,No.4,pp.512-526,April 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実際に基板上にLSIプロセスで作製して所望の共振周波数の共振子が得られるかとなると、LSIプロセスにおいても設計上許容しなければならない加工精度のマージンがあり、そのマージンに応じて共振子の長さにばらつきが存在することになる。したがって、出来上がった共振子には、加工技術では制御できない共振周波数の不正確さは避けられないことになる。これは、MEMSを作製する上で重大な欠点となる。
【0007】
さらに、従来MEMS材料として使用されているポリシリコンでは、共振子サイズを結晶粒サイズよりも小さくすることは困難であり、共振子表面に凹凸が形成され共振子の膜厚がばらついてしまう。また、共振子内に多数の粒界が存在し、結晶方位が不揃いなため、正確な機械的特性(ヤング率)も得られない。内部応力もまた不均一になりそりや縮みなどの原因となる、これら膜厚の不均一性、機械特性のばらつき、応力によるそりや縮みは全て共振周波数の不正確さの要因となる。共振子の長さのように平面的に非破壊で測定可能なものであれば、LSI製造工程で使用される高性能の測長技術により、出来上がり寸法をある程度の精度で確認することができるが、内部応力や不均一なそりや縮みは、平面的に非破壊な測定方法で正確に確かめることも不可能なため、製造工程のなかで検査し、修正を加えることも困難である。
【0008】
また、基板表面に積層して形成する表面MEMSでは、図13に示すように、共振子の支持部や下部電極の影響で共振子に角部113の曲がり(曲率)やくぼみ114、凸部115が形成される。これらは、製造工程におけるマスクのアライメントのズレや、加工形状および堆積膜厚のバラツキなどに依存して形状が異なることから、共振周波数のばらつき要因となる。
【0009】
そこで、この発明の課題は、基板上に集積回路の一部として組み込み可能なマイクロ共振装置であって、共振子を封入した後においても共振子の加工精度のばらつきや封入圧力のばらつきによる変動を補償し、共振周波数を調整できるマイクロ共振装置、特に周波数可変マイクロフィルタ装置およびマイクロ発振器、並びに無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明のマイクロ共振装置は、基板と、この基板に設けられたマイクロ共振体と、このマイクロ共振体に機械的に作用する少なくとも一つのマイクロ可動部と、上記マイクロ共振体と上記マイクロ可動部とを接続する接続部とを備え、上記接続部は、上記マイクロ共振体とは異なる周波数応答特性を有していることを特徴とする。
【0011】
この発明のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ可動部は上記接続部を介して上記マイクロ共振体に機械的に作用すると共に、上記接続部は上記マイクロ共振体とは異なる周波数応答特性を有しているので、接続部はマイクロ共振体に追従して殆ど振動せず、マイクロ共振体に作用する接続部のずれや摩擦を考慮する必要がなく、共振子を封止した後においても共振体の加工精度のばらつきによる共振周波数の不確かさを安定して再現性よく補償し、周波数応答特性あるいは固有の共振周波数を調整可能なマイクロ共振装置の提供が可能となった。
【0012】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記接続部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、実質的な変位はなく、殆ど振動していないことを特徴とする。
【0013】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、上記接続部は殆ど振動していないので、マイクロ共振体の周波数応答特性におけるサブピークを抑制し、共振ピークの振幅の低下を防ぐことができる。
【0014】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記接続部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、上記マイクロ共振体の変位に同調した実質的な移動を行なわないことを特徴とする。
【0015】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ共振体が共振する際に可動する部分が実質的にマイクロ共振体に限られ、共振時に可動する部分の質量の増大を防ぐことができる。これらによって、所望の共振周波数を得るのに必要な共振構造のスティフネスの増大を防ぐことができる。
【0016】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ可動部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、実質的な変位はなく、殆ど振動していないことを特徴とする。
【0017】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ共振体が共振する際に可動する部分が実質的にマイクロ共振体に限られ、共振時に可動する部分の質量の増大を防ぐことができる。これらによって、所望の共振周波数を得るのに必要な共振構造のスティフネスの増大を防ぐことができる。
【0018】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ可動部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、上記マイクロ共振体の変位に同調した実質的な移動を行なわないことを特徴とする。
【0019】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ共振体が共振する際に可動する部分が実質的にマイクロ共振体に限られ、共振時に可動する部分の質量の増大を防ぐことができる。これらによって、マイクロ可動部は、マイクロ共振体の固有の共振周波数やスティフネスに関係なく大きさや形状に高い設計自由度が得られるため、省スペース化、あるいは、スペースの有効利用などによって低電圧駆動化が達成される。
【0020】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ可動部は、圧電アクチュエータを備え、この圧電アクチュエータは、圧電素子と、この圧電素子に変位を与えるための駆動電極とを備えることを特徴とする。
【0021】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、基板上への形成が容易であり、占有面積の増加も抑えられる。
【0022】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記圧電アクチュエータの上記駆動電極に与えられる電圧を制御することによって、変化されることを特徴とする。
【0023】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、接続部を介してマイクロ共振体に直接機械的または力学的に作用することができ、作用部のずれや摩擦がなく、マイクロ可動部の変位を効果的にマイクロ共振体に作用させることができ、安定で再現性の高い調整ができる。
【0024】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記圧電アクチュエータの上記駆動電極に与えられる電圧を制御することによって、変化されることを特徴とする。
【0025】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、接続部を介してマイクロ共振体に直接機械的および力学的に作用することができ、作用部のずれや摩擦がなく、マイクロ可動部の変位を効果的にマイクロ共振体に作用させることができ、安定で再現性の高い調整ができる。
【0026】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ可動部は、静電アクチュエータを備え、この静電アクチュエータは、静止している第1の電極と、この第1の電極に対して所定の間隔を離して置かれると共に上記第1の電極に対して相対的に移動可能な第2の電極とを備えることを特徴とする。
【0027】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、圧電体材料を用いないために、プロセスを簡略化・低コスト化が達成される。
【0028】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記静電アクチュエータの上記第1の電極と上記第2の電極の間に与えられる電圧差を制御することによって、変化されることを特徴とする。
【0029】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、接続部を介してマイクロ共振体に直接機械的および力学的に作用することができ、作用部のずれや摩擦がなく、マイクロ可動部の変位を効果的にマイクロ共振体に作用させることができ、安定で再現性の高い調整ができる。
【0030】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記静電アクチュエータの上記第1の電極と上記第2の電極の間に与えられる電圧差を制御することによって、変化されることを特徴とする。
【0031】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、接続部を介してマイクロ共振体に直接機械的および力学的に作用することができ、作用部のずれや摩擦がなく、マイクロ可動部の変位を効果的にマイクロ共振体に作用させることができ、安定で再現性の高い調整ができる。
【0032】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記圧電アクチュエータは複数あり、上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記各圧電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とする。
【0033】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、マイクロ共振体の周波数応答特性を高精度に広範囲に安定して再現性よく調整することができる。
【0034】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記静電アクチュエータは複数あり、上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記各静電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とする。
【0035】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、マイクロ共振体の周波数応答特性を高精度に広範囲に安定して再現性よく調整することができる。
【0036】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記圧電アクチュエータは複数あり、上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記各圧電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とする。
【0037】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、マイクロ共振体の固有の共振周波数を高精度に広範囲に安定して再現性よく調整することができる。
【0038】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記静電アクチュエータは複数あり、上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記各静電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とする。
【0039】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、マイクロ共振体の固有の共振周波数を高精度に広範囲に安定して再現性よく調整することができる。
【0040】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記複数の静電アクチュエータを駆動させる際に、少なくとも一つの上記静電アクチュエータにおいて、上記第1の電極と上記第2の電極とは、プルイン状態になっていることを特徴とする。
【0041】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、マイクロ共振体の周波数応答特性あるいは固有の共振周波数を高精度に広範囲に安定して再現性よく調整することができる。
【0042】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体、上記マイクロ可動部および上記接続部は、その組成に少なくとも2つの元素が含まれる材料からなり、この元素のうち一つの元素は高融点金属元素であることを特徴とする。
【0043】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、室温程度の低温で堆積しても膜組成や膜質が容易に制御できるようになり、膜堆積時の膜はがれ等の破壊が起こるのを防ぎ、また、応力等の負荷によるマイクロ構造の変形や破壊に対する耐性を向上できる。
【0044】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記高融点金属材料は、タングステン、タンタル、モリブデン、チタンのいずれかであることを特徴とする。
【0045】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、窒素等を含有させても高いヤング率のマイクロ構造が得られる。
【0046】
また、一実施形態のマイクロ共振装置では、上記マイクロ共振体、上記マイクロ可動部および上記接続部は、その組成に少なくとも2つの元素が含まれる材料からなり、この材料は、高融点金属元素と、少なくとも窒素、酸素、炭素のいずれかの元素とを含むことを特徴とする。
【0047】
この一実施形態のマイクロ共振装置によれば、室温程度の低温で堆積しても膜組成や膜質が容易に制御できるようになり、膜堆積時の膜はがれ等の破壊が起こるのを防ぎ、また、応力等の負荷によるマイクロ構造の変形や破壊に対する耐性を向上できる。
【0048】
また、この発明のマイクロフィルタ装置は、上記マイクロ共振装置と、上記マイクロ共振体に容量結合した入力電極と、上記マイクロ共振装置により選択された周波数信号を取り出すための出力電極と、上記マイクロ可動部を動作させるための入力電極とを有していることを特徴とする。
【0049】
この発明のマイクロフィルタ装置によれば、製造後にマイクロ可動部の制御でマイクロ共振装置の共振周波数(マイクロフィルタ装置の中心周波数)を安定して再現性よく広範囲に調整可能となるため、従来法ではできなかった、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ共振装置の共振周波数(マイクロフィルタ装置の中心周波数)の不確かさに対して、所望の(設計)値に安定して再現性よく補正・調整することが可能となる。さらに、従来法では歩留まりがとれない範囲の加工精度の製造装置および製造工程を用いても、歩留まりが取れるようになる。また、封入後にマイクロ可動部の制御によってマイクロフィルタ装置の中心周波数のズレを補正することができるため、使用時の外部環境(温度)の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化(封入圧力の劣化ならびにマイクロ共振体材料の機械特性の劣化など)に対してもフィルタ出力を安定して再現性よく補正・最適調整することができ、フィルタとしての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0050】
また、一実施形態のマイクロフィルタ装置では、上記マイクロ共振装置の出力と上記マイクロ可動部を駆動する入力とに接続されたマイクロ可動部制御回路を備え、このマイクロ可動部制御回路は、選択すべき所望の周波数と上記マイクロ共振装置により選択出力される信号の周波数にズレが存在するとき、上記マイクロ共振装置から所望の周波数信号が出力されるように、上記マイクロ可動部を調整することを特徴とする。
【0051】
この一実施形態のマイクロフィルタ装置によれば、実際の使用環境の変化および使用時のマイクロ共振装置の状態に応じて、その場でマイクロフィルタ装置の安定した再現性のよい調整が可能となる。
【0052】
また、一実施形態のマイクロフィルタ装置では、上記マイクロ可動部制御回路に接続された記憶素子を備え、この記憶素子は、上記選択すべき所望の周波数との差を補正するよう調整した上記マイクロ可動部の制御値を記憶し、上記マイクロ可動部制御回路は、起動動作時に、上記記憶素子に記憶された上記マイクロ可動部の制御値をもとに、上記マイクロ可動部を制御して、出力される周波数信号を調整することを特徴とする。
【0053】
この一実施形態のマイクロフィルタ装置によれば、まったくの初期値から調整するよりも安定して再現性よく大幅に調整時間が短縮できる。
【0054】
また、この発明のマイクロ発振器は、上記マイクロ共振装置と、上記マイクロ共振体に容量結合した入力電極と、上記マイクロ共振装置により選択された周波数信号を取り出すための出力電極と、上記マイクロ可動部を動作させるための入力電極とを有していることを特徴とする。
【0055】
この発明のマイクロ発振器によれば、製造後にマイクロ可動部の制御でマイクロ共振装置から出力される周波数を安定して再現性よく広範囲に調整可能となるため、従来法ではできなかった、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ発振器の出力周波数の不確かさに対して、所望の(設計)値に安定して再現性よく補正・調整することが可能となる。さらに、従来法では歩留まりがとれない範囲の加工精度の製造装置および製造工程を用いても、歩留まりが取れるようになる。また、封入後にマイクロ可動部の制御によってマイクロ発振器の出力周波数のズレを補正することができるため、使用時の外部環境(温度)の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化(封入圧力の劣化ならびにマイクロ共振体材料の機械特性の劣化など)に対してもフィルタ出力を安定して再現性よく補正・最適調整することができ、発振器としての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0056】
また、一実施形態のマイクロ発振器では、上記マイクロ共振装置の出力と上記マイクロ可動部を駆動する入力とに接続されたマイクロ可動部制御回路を備え、このマイクロ可動部制御回路は、上記マイクロ共振装置により出力された周波数の変動を補正あるいは最適化するように、出力を検知しながら上記マイクロ可動部を調整することを特徴とする。
【0057】
この一実施形態のマイクロ発振器によれば、実際の使用環境の変化および使用時のマイクロ共振装置の状態に応じて、その場でマイクロ発振器の安定した再現性のよい調整が可能となる。
【0058】
また、一実施形態のマイクロ発振器では、上記マイクロ可動部制御回路に接続された記憶素子を備え、この記憶素子は、出力されるべき所望の周波数と実際の周波数との差を補正あるいは最適化するよう調整した上記マイクロ可動部の制御値を記憶し、上記マイクロ可動部制御回路は、起動動作時に、上記記憶素子に記憶された上記マイクロ可動部の制御値をもとに、上記マイクロ可動部を制御して、出力される周波数信号を調整することを特徴とする。
【0059】
この一実施形態のマイクロ発振器によれば、まったくの初期値から調整するよりも安定して再現性よく大幅に調整時間が短縮できる。
【0060】
また、この発明の無線通信機器は、送信部と、受信部と、上記送信部からの送信信号と上記受信部への受信信号とを分離するデュプレクサと、上記送信信号を電波として送信するとともに上記受信信号を電波として受信するアンテナと、少なくとも上記送信部および上記受信部に接続された上記マイクロフィルタ装置とを備えることを特徴とする。
【0061】
この発明の無線通信機器によれば、上記マイクロフィルタ装置を備えるので、外部環境の変動やマイクロ共振装置そのものの内部変動によって、上記マイクロフィルタ装置の周波数特性に変動が生じても、通信状態と対比しながら上記マイクロ可動部の制御を行い、上記周波数特性を調整し、通信状態を安定して再現性よく最適に保つことができる。
【0062】
また、この発明の無線通信機器は、送信部と、受信部と、上記送信部からの送信信号と上記受信部への受信信号とを分離するデュプレクサと、上記送信信号を電波として送信するとともに上記受信信号を電波として受信するアンテナと、少なくとも上記送信部および上記受信部に接続された上記マイクロ発振器とを備えることを特徴とする。
【0063】
この発明の無線通信機器によれば、上記マイクロ発振器を備えるので、外部環境の変動やマイクロ共振装置そのものの内部変動によって、上記マイクロ発振器の出力周波数に変動が生じても、通信状態と対比しながら上記マイクロ可動部の制御を行い、上記周波数特性を調整し、通信状態を安定して再現性よく最適に保つことができる。
【発明の効果】
【0064】
この発明のマイクロ共振装置によれば、上記マイクロ可動部は上記接続部を介して上記マイクロ共振体に機械的に作用すると共に、上記接続部は上記マイクロ共振体とは異なる周波数応答特性を有しているので、接続部はマイクロ共振体に追従して殆ど振動せず、マイクロ共振体に作用する接続部のずれや摩擦を考慮する必要がなく、共振子を封止した後においても共振体の加工精度のばらつきによる共振周波数の不確かさを安定して再現性よく補償し、周波数応答特性あるいは固有の共振周波数を調整可能なマイクロ共振装置の提供が可能となった。
【0065】
また、この発明のマイクロフィルタ装置によれば、上記マイクロ共振装置を備えるので、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ共振装置の共振周波数の不確かさに対して、所望の値に安定して再現性よく補正・調整することが可能となる。また、使用時の外部環境の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化に対してもフィルタ出力を安定して再現性よく補正・最適調整することができ、フィルタとしての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0066】
また、この発明のマイクロ発振器によれば、上記マイクロ共振装置を備えるので、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ発振器の共振周波数の不確かさに対して、所望の値に安定して再現性よく補正・調整することが可能となる。また、使用時の外部環境の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化に対してもフィルタ出力を安定して再現性よく補正・最適調整することができ、発振器としての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0067】
また、この発明の無線通信機器によれば、上記マイクロフィルタ装置または上記マイクロ発振器を備えるので、外部環境の変動やマイクロ共振装置そのものの内部変動によって、上記マイクロフィルタ装置または上記マイクロ発振器の周波数特性に変動が生じても、通信状態と対比しながら上記マイクロ可動部の制御を行い、上記周波数特性を調整し、通信状態を安定して再現性よく最適に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0069】
(第1の実施形態)
図1は、本発明によるマイクロ共振装置の第1の実施形態を示す構成図である。このマイクロ共振装置は、基板10と、この基板10に設けられると共に選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体11と、マイクロ可動部12と、上記マイクロ共振体11とマイクロ可動部12を接続する接続部13を備えている。
【0070】
この第1の実施形態においては、基板10にシリコン単結晶基板を用い、マイクロ共振体11および接続部13に不純物のドープされた多結晶シリコンを用いているが、本発明は、基板材料や、マイクロ共振子材料および形態を限定するものではなく、シリコン単結晶基板の代わりにSOI基板、GaAs基板、ガラス基板、樹脂基板などを使用してもかまわない。また、不純物のドープされた多結晶シリコンの変わりに、不純物のドープされた単結晶シリコン膜あるいはアモルファスシリコン、SiGe膜、SiC膜、Ni、タングステン、さらには、窒化タングステン、窒素化タンタルなどの高融点金属の窒化物を用い、図13に示す従来例のごとき形態のマイクロ共振体を用いることもできる。
【0071】
また、この第1の実施形態においては、電極16よりマイクロ共振体11に固定電位を与え、入力電極17から高周波信号が与えられる。そして、この高周波電気信号のうち、マイクロ共振体11の固有の共振周波数近傍の周波数信号にマイクロ共振体11が選択的に応じて主として矢印14で示す方向に振動するが、入力方式や入力信号はこれに限るものではなく、低周波の圧力変動や音響信号、機械振動を与えてもかまわない、マイクロ共振体11の固有の共振周波数を所望の周波数になるよう構造設計することで、同様に選択的に応答させることができる。上記基板並びに入力信号に関しては、本発明の他の実施形態についても同様であることは言うまでもない。また、この第1の実施形態においては、電極材料にAuを用いているが、電極材料はこれに限るものではない。
【0072】
この第1の実施形態において、接続部13、及びこの接続部13と連結しているマイクロ可動部12の一部は、マイクロ共振体11と一体となって形成されているが、好適な実施形態では、少なくともマイクロ共振体11に直に接触する接続部13の局所的な共振周波数を、マイクロ共振体11の共振周波数よりも大きくし、異なる周波数応答特性を有するよう設計されている。ここでは、図2に示すように、接続部13の幅20をマイクロ共振体11の幅22よりも狭くし、接続部13の長さ21もマイクロ共振体11の長さ23にくらべて十分短くしている。多結晶シリコン膜をマイクロ共振体11および接続部13に用いた図1に示すごとき例で、マイクロ共振体11の寸法が、長さ7.4μm、厚さ1.0μm、幅4.0μmに対して、接続部13の寸法を長さ1.0μm、幅4.0μm、厚さ1.0μmとした場合には、マイクロ共振体11が振動する際に、接続部13も振動してしまい、これがマイクロ共振体11の周波数応答特性に影響し、共振ピークの振幅の低下やサブ共振ピークがみられるが、図2に示すように、接続部13の寸法で幅を1.0μmに狭くし、接続部13の局所的な共振周波数(固有値)をマイクロ共振体11よりも十分大きくすることによって、マイクロ共振体11が固有の共振周波数で振動する際においても、接続部13は殆ど振動しなくなり、マイクロ共振体11の周波数応答特性にサブ共振ピークが殆ど見られないようにすることができる。また、マイクロ共振体11が固有の共振周波数で振動する際に、接続部13は、マイクロ共振体11の変位に同調した実質的な移動を行なわないため、共振の際に可動する部分の構造が実質的にマイクロ共振体11の範囲に限られ、共振時に可動する部分の質量の増大を防ぐことができる。これらによって、所望の共振周波数を得るのに必要な共振構造のスティフネスの増大を防ぐことができ、高周波数で振動するマイクロ共振体11の製造や、マイクロ共振体11の駆動電圧を低くすることができる。
【0073】
さらに、接続部13の存在によって、マイクロ共振体11が固有の共振周波数で振動する際に、振動が接続部13を介してマイクロ可動部12側へ広がるのを防ぐことができ、マイクロ可動部12は、殆ど振動しない。また、マイクロ共振体11の変位に同調した実質的な移動も行なわないため、共振時に可動する部分の質量の増大を防ぐことができ、所望の共振周波数を得るのに必要な共振構造のスティフネスの増大を防ぐことができる。これにより、マイクロ可動部12は、マイクロ共振体11の固有の共振周波数やスティフネスに関係なく大きさや形状に高い設計自由度が得られるため、省スペース化、あるいは、スペースの有効利用などによって低電圧駆動化が達成される。
【0074】
この第1の実施形態において、マイクロ可動部12は、圧電アクチュエータ15を備え、この圧電アクチュエータ15は、圧電素子と、この圧電素子に変位を与えるための駆動電極とを備える。好適には、図3Aに示すように、厚み変形型の圧電部材(圧電素子)31が備えられている。厚み変形型圧電素子の制御電極(駆動電極)32,33に電位差を与えることにより、図3Bに示すように、矢印39に示すように厚み方向に変形し、マイクロ共振体11との接続部13と一体となっている上層部30を移動させることができ、接続部13を介してマイクロ共振体11に機械的または力学的に作用することができる。この第1の実施形態では、マイクロ共振体11、接続部13、マイクロ可動部12の一部である上層部30が一体で同時形成されているので、マイクロ共振体11に別途形成した作用部を押し付けたりする場合にくらべ、ずれや摩擦がなく、マイクロ可動部12の変位を効果的にマイクロ共振体11に作用させることができ、安定で再現性の高い操作ができる。この第1の実施形態によれば、厚み変形型圧電素子は、電極層と圧電体層を積層するだけで形成できるため、基板上への形成が容易であり、占有面積の増加も抑えられる。
【0075】
マイクロ可動部12の変位をマイクロ共振体11に機械的あるいは力学的に作用させることの効果を説明する。図1に示すごときマイクロ共振体11では、上部破線18および下部波線19で示すように振動するが、マイクロ共振体11の下部にくらべ、上部は自由度が高く、マイクロ共振体11の振動領域は上部のほうが下部よりも長くなっている。いかなる形態の共振子においても、共振子を振動させるためには共振子を少なくとも支持する必要があるが、基板上に共振子を理想的に点や面で支持あるいは固定することは事実上困難である。どうしても3次元的(立体的に)にマイクロ共振子に接触する支持部の振動への関与を完全に無くすことはできない。とくにマイクロ共振体11のように、微細になればなるほど製造プロセスの限界もあり支持構造の接触する領域の割合の相対的な大きくなり、構造上この支持部の振動への関与を無視できなくなる。そこで、マイクロ可動部12を使い接続部13を介してマイクロ共振体11の端部に機械的または力学的変形を加えると、マイクロ共振体11の端部付近の自由度が変わり、マイクロ共振体11の振動領域と振幅の分布形状が変わる。これによってマイクロ共振体11の共振周波数など周波数応答特性を変えることができるのである。
【0076】
ここで、特開2001−94062号公報には、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板を使用し、単結晶シリコンの共振子を形成し、ポリシリコンのもつ多結晶性に起因する膜厚バラツキや機械的特性のばらつきの問題を解決する技術が開示されているが、加工精度ばらつきによる共振周波数の不正確さを本質的に解決するものではない。特開2001−94062号公報には、その製造工程において、イオン注入により共振子の密度を変え、共振子の共振周波数を制御する方法が開示されているが、この手法では、共振子のサイズや機械的特性を正確に測定し、注入前の共振周波数を正確に見積もることができなければ、所望の共振周波数にするためのドーズ量を決定できない。つまり、共振子の寸法測定に使用する検査装置の測定誤差と、そして、2μm程度の厚さと数μm以上の長さを有する共振子内でイオン注入後の濃度分布を完全に把握することが困難であることを考慮すると、注入後の共振子における機械的特性のばらつきを正確に予測することは困難であり、この手法で製造工程に起因する共振周波数の不正確さを本質的に解決するのは困難である。また、共振子の共振周波数ならびに共振ピークの振幅増幅率(Q値)は、文献(Y.T.Cheng et al.,Proceedings of MEMS Conf.p18,2001)に開示されているように、共振子を封止したキャビティ内の圧力に強く依存するため、製造途中で共振子の共振特性を調整したとしても、最終の共振特性は、封止圧力のばらつきにより変動してしまうことになる。しかし、この第1の実施形態に因れば、製造後にマイクロ可動部12を制御してマイクロ共振体11の共振周波数を変えることができるので、製造工程や封止工程に起因する共振周波数の不正確さが存在しても所望の共振周波数に調整することが可能となる。
【0077】
さらに好適には、図3Aに示すようにすべり変形型圧電部材(圧電素子)34が備えられている。すべり変形型圧電部材34の両側の電極層(駆動電極)33,35に電位差を与えることで図3Bに示す矢印40のように変形し、マイクロ共振体11、接続部13と一体のマイクロ可動部12の上層部30を水平方向に移動させることができる。この操作のみによっても接続部13を介してマイクロ共振体11に機械的または力学的に作用させ、マイクロ共振体11の共振周波数など周波数応答特性を変えることができるのである。図3Aおよび図3Bに示すように、厚み変形型とすべり変形型を同時に組み合わせて使用すれば、振幅を大きく変化させることなく共振周波数を変更したり、共振周波数を変えずに通過帯域幅を変えたりするなど、より精密な、多様な周波数応答特性の制御が可能となる。
【0078】
さらに好ましくは、マイクロ共振体11の両側に接続部13を介してマイクロ可動部12を設ければ、よりマイクロ共振体11の周波数応答特性の制御範囲を拡大させることができる。また、両側に接続部13の形状(幅、長さ、厚さ)を変えたものを接続するとマイクロ可動部12の操作する側を切り替え、あるいは組み合わせることで、例えば、共振ピーク強度および共振ピークの振幅増幅率(Q値)をあまり下げずに共振周波数を変更する場合と、共振ピーク強度および共振ピークの振幅増幅率(Q値)をある程度下げて共振周波数を変更する場合とに、使い分けた制御が可能となる。
【0079】
上記非特許文献1に共振子(共振周波数10MHz程度)に印加するバイアス電位によっての共振周波数を変更する方法が開示されているが、この手法では、入力電極と共振子の間の電位差によって生じる静電力で、共振子を入力電極側に引き寄せ、共振子の共振周波数を変えている。したがって、共振子の持つバネの力に対して静電力の強さを相対的に大きくすることによって、より共振子が入力電極に近づき、共振周波数の変化も大きくできることになる。ところが、共振周波数がさらに大きなものに適用するとなると、共振子の長さは短くなり、それにともない入力電極のサイズも小さくなるため、必然的に静電力は小さくなる。さらに、共振子の長さが短くなると共振子のバネの力は強くなることから、相対的な静電力の大きさは急激に弱まり、バイアス電位による共振周波数の変動範囲はほとんど確認できないレベルにまで低下する。つまり、バイアス電位を利用する方法は、高周波領域の共振周波数をもつ共振子に対して、上記加工精度のばらつきや封止圧力のばらつきによる共振周波数の不正確さを補償するだけの制御を達成できなくなる。さらに、上記非特許文献1に示してあるように、バイアス電位による制御は、バイアス電圧を上げるほど、共振周波数を低下させ、共振ピークにおける振幅増幅率(Q値)も低下させる。実際の使用環境では、封止圧力の劣化(圧力の上昇)、温度上昇など、いずれにおいても、共振周波数が低下するため、共振周波数は高める側への制御が必要となる。しかしながら、バイアス電圧はMEMSの出力と比例関係があるため、バイアス電位を必要以上に低下させられず、基本的に周波数を高める側への制御できる手法ではないという問題がある。特表平11−50841号公報には、共振構造の可動部分に連結して移動可能な櫛型電極と、この移動可能な櫛型電極に所定の間隔で対向する固定の櫛型電極とを設け、この両櫛型電極の間に静電界を発生させることで可動構造のスティフネスを制御し、移動可能な櫛型電極を含む共振構造の共振周波数を高める側へ変えることが可能なマイクロ共振器が開示されている。しかし、櫛型電極が共振構造に含まれる(一緒に可動する)ことから共振構造の質量が大きく、この方法で実用的に調整可能な高い共振周波数の共振器を実現することは困難となる。高い共振周波数を得るためには、より大きなスティフネスが必要で、そのため共振周波数を調整する(スティフネスを変化させる)ために、強力な静電場を形成するより大きな櫛型電極とより高いチューニング電圧が必要となり、実用的なレベルで微細構造のマイクロ共振器を設計することが困難となる。
【0080】
しかし、この第1の実施形態によれば、マイクロ可動部12は、殆どマイクロ共振体11とは一緒に振動しないために、マイクロ共振体11の振動部の質量にマイクロ可動部12は影響せず、マイクロ共振体11とは別にマイクロ可動部12を任意の大きさに設計可能であり、制御電圧を低電圧に抑えることも可能となる。さらに、マイクロ共振体11を小型化し、共振周波数の高周波数化することにも対応可能となる。また、マイクロ可動部12は、マイクロ共振体11に対して、圧縮あるいは引っ張りのどちらでも応力を与えることができることから、共振周波数を高める側と低くする側の両方に調整可能となる。
【0081】
(第2の実施形態)
図4は、本発明によるマイクロ共振装置の第2の実施形態を示す構成図である。このマイクロ共振装置は、基板10と、この基板10に設けられると共に選択されたパラメーターの変動に応答して矢印44方向に振動するマイクロ共振体41と、マイクロ可動部12と、上記マイクロ共振体41とマイクロ可動部12を接続する接続部13を備えている。なお、この第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0082】
この第2の実施形態では、接続部13およびマイクロ可動部12は、第1の実施形態と同様であるが、マイクロ共振体41の接続部13と一体となる側が基板10に対して固定されておらず移動可能になっている。この第2の実施形態では、マイクロ共振体41を振動させる際には、マイクロ可動部12を下方に移動し、マイクロ共振体41の基板に固定されていない側を基板に形成された支持部46に押し付ける必要があるが、マイクロ可動部12を横方向に移動させてからマイクロ共振体41を支持部46に押し付けることが可能となるため、マイクロ共振体41の固有の共振周波数の可変範囲を広げることができる。
【0083】
(第3の実施形態)
図5は、本発明によるマイクロ共振装置の第3の実施形態を示す構成図である。このマイクロ共振装置は、基板10と、この基板10に設けられると共に選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体11と、マイクロ可動部52と、上記マイクロ共振体11とマイクロ可動部52を接続する接続部13を備えている。なお、この第3の実施形態において、上記第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0084】
この第3の実施形態では、接続部13およびマイクロ共振体11は、第1の実施形態と同様であるが、マイクロ可動部52は、静電アクチュエータ55を備え、この静電アクチュエータ55は、基板10上に形成され静止している第1の電極57と、この第1の電極57に対して所定の間隔を離して置かれると共に第1の電極57に対して相対的に移動可能な第2の電極56を備えた静電アクチュエータ55になっている。第1の電極57と第2の電極56に電位差を与えることにより、静電アクチュエータ55が動作し、接続部13を介してマイクロ共振体11に変形が与えられるため、第1の実施形態同様にマイクロ共振体11の周波数応答特性、あるいは固有の共振周波数を変えることができる。この第3の実施形態では、マイクロ共振体11と、接続部13と、接続部と一体となるマイクロ可動部52の一部分51が導電性の材料で一体形成されており、電極16からの入力で固定電位にできるため、第2の電極56は省略することができる。また、第1の実施形態および第2の実施形態のように圧電体材料を用いないために、プロセスを簡略化および低コスト化が達成される。
【0085】
また、この第3の実施形態においても、第2の実施形態示すごとく、マイクロ共振体の接続部を基板に固定しない構造にすることができ同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0086】
(第4の実施形態)
図6は、本発明によるマイクロ共振装置の第4の実施形態を示す構成図である。このマイクロ共振装置は、基板10と、この基板10に設けられると共に選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体11と、マイクロ可動部62と、上記マイクロ共振体11とマイクロ可動部62を接続する接続部13を備えている。なお、この第4の実施形態において、上記第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0087】
この第4の実施形態では、マイクロ可動部62が複数の静電アクチュエータ63,64,65を備えており、それぞれを個別に操作することができるため、第3の実施形態にくらべ、マイクロ共振体11の周波数応答特性、あるいは固有の共振周波数をさらに高精度で広範囲に調整可能となる。
【0088】
具体的に述べると、第1の静電アクチュエータ63は、第1の電極67と第2の電極66とを備え、第2の静電アクチュエータ64は、第1の電極69と第2の電極68とを備え、第3の静電アクチュエータ65は、第1の電極71と第2の電極70とを備える。
【0089】
この第4の実施形態では、3個の静電アクチュエータ63,64,65を縦に並べているが、個数はこれに限るものではなく、マイクロ可動部62の大きさはこれに限るものではないので、調整範囲にあわせて静電アクチュエータの数を増やすこともでき、また、2次元的に配列し、マイクロ共振体へ異なる向きに作用する力を与えることもできる。
【0090】
さらに好適には、図7に示すように、静電アクチュエータはプルインさせて作動させられる。複数のアクチュエータのうち、プルインさせるアクチュエータの位置、個数でマイクロ共振体11への作用の程度を制御し、マイクロ共振体11の周波数応答特性あるいは共振周波数を変化させることができるため、静電アクチュエータを電極間隔で変化させる場合と異なり、電極間隔(位置)が安定するので、再現性の高い制御が可能になる。また、プルイン状態では、非常に強い引力が電極間に働くためマイクロ共振体11へ強い力で作用させることができ、制御範囲を拡大させることができる。なお、第1および第2の実施形態で示したごとき圧電アクチュエータにおいても複数備えることは可能であり、個別に位置や個数を変えて作動させることができるため、より高精度、広範囲の調整が可能になる。
【0091】
(第5の実施形態)
図8は、本発明によるマイクロ共振装置の第5の実施形態を示す構成図である。このマイクロ共振装置は、基板10と、この基板10に設けられると共に選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体81と、マイクロ可動部82と、上記マイクロ共振体81とマイクロ可動部82を接続する接続部83を備えている。なお、この第5の実施形態において、上記第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0092】
この第5の実施形態では、接続部83の断面形状がV字型に折れ曲がった形状になっており、これによって、接続部83の局所的な共振周波数がマイクロ共振体81のそれよりも高くなり、マイクロ共振体81とは異なる周波数応答特性を有するようになっている。さらに、マイクロ共振体81を振動させる際には、マイクロ可動部82を下方に移動させ、接続部83を基板10に押し付けるため、マイクロ共振体81が振動する際に、接続部83およびマイクロ可動部82は殆ど振動せず、移動もしないようにでき、マイクロ可動部82を操作することでマイクロ共振体81の周波数応答特性あるいは共振周波数を変えることができる。
【0093】
この第5の実施形態では、第2の実施形態のごとき支持部46(図4)は不要となり、構造が簡略で、マイクロ共振体81と、接続部83、マイクロ可動部の一部90がマスク1枚の工程で一体同時形成することができることから、プロセスの簡略化および低コスト化が達成できる。マイクロ共振体82と、接続部83と一体構造の材料として、これまで同様に、不純物をドープした多結晶シリコン膜を用いることができるが、本発明の導電性材料はこれに限定するものではなく、他にアモルファスシリコン、SiGe膜、SiC膜、さらにはNi、タングステンなど金属材料を導電層に適用することができる。ここでは、さらに好適な実施形態として、タングステンなどの高融点金属に窒素を含有させた材料を、図8に示すごときマイクロ共振装置に適用した場合を例に説明する。あらかじめ絶縁層が堆積された基板10上に窒素を含有するタングステンを反応性スパッタ法で200nm堆積する。堆積条件はスパッタ圧力2Pa、RFパワー300W,Ar流量33.6sccm、N2流量8.4sccm、基板温度室温である。ついで、通常のリソグラフィー法でレジストマスクをパターニングし、窒化タングステン膜を異方性ドライエッチングでパターニングし、マイクロ共振体81と電気的に接続する電極16、固定電極17,88,89,90などを形成し、1層目の導電層を形成する。ついで、1層目の導電層上に酸化シリコン膜2.0μmを堆積して犠牲層を形成し、この犠牲膜を加工し、電極16など必要な1層目の導電層を露出させる。そして、2層目の導電層として、窒素を含有するタングステン層をまず、スパッタ圧力2Pa、RFパワー300W,Ar流量33.6sccm、N2流量8.4sccm、基板温度室温で0.5μm堆積し、ついでスパッタ圧力を2.4Paに変えて、窒素を含有するタングステンをさらに1.2μm堆積し、またスパッタ圧力を2Paにもどし、窒素を含有するタングステンを0.3μm堆積する。この複数層で形成した窒素を含有するタングステン膜を異方性ドライエッチングによりパターニングし、マイクロ共振体81およびマイクロ可動部82、接続部83を含む2層目の導電層を形成する。ここで、窒素を含むタングステン膜のドライエッチングには通常のタングステン膜の異方性エッチングに用いるプラズマエッチング装置および加工条件が用いられる。つぎに、犠牲膜を除去してマイクロ共振体81およびマイクロ可動部82、接続部83を露出させる。犠牲層除去には、フッ化水素ガスをもちいたドライエッチング法が適用できる。これにより、マイクロ可動部82が、マイクロ共振体81と同時に2層の導電層のみで形成でき、導電層の層数を増加させることなしにマイクロ可動部82を形成できる。
【0094】
ここで、米国特許第6210988号公報には、LPCVD法により製膜したSiGe膜を用いることで、ポリシリコン膜に比べて低温の550℃程度で残留応力を制御したマイクロ構造の形成が可能であることが開示されているが、ここで用いた窒素を含有するタングステンの場合、スパッタ法を用いているので室温程度まで低温化することが可能となり、Si基板上にCMOSプロセスで作製したLSI上のみならず、ガラス基板や樹脂基板など、Cu配線や低誘電率の有機絶縁膜など耐熱性の低いプロセスを経た基板上にも適応が可能となる。また、他の金属材料と比較しても、たとえばタングステン材料のみ場合、成長方向に膜質制御することが困難であるため、内部応力の制御が困難であり、また、応力等負荷がかかった時にクラッキングなど欠陥が発生し、変形や破壊が起こり、マイクロ構造の信頼性確保が困難であったが、窒素を含有させた場合、N2分圧やスパッタ圧力などによって容易に膜組成などを変えることができる。押し込み式の薄膜試験装置で計測したところ、窒素の含有率を0%から60%程度まで増やすことによりヤング率は360GPaから250GPa程度まで低下するが、ポリシリコンやSiGe膜よりも高いヤング率が得られた。またスパッタ圧力を変えることにより膜中の残留応力を引張応力から圧縮応力まで変化させることができた。このため、残留応力や組成の異なる層を、連続的、あるいは断続的に成長させることが可能になり、膜中の残留応力を殆どなくしたりすることができた。また、成長方向に異なる組成や粒状態の膜を積層可能なため、応力等により欠陥発生しても容易に膜を貫きにくくなり、クラッキングなどによる変形や破壊に対する耐性を高めることができた。ここでは窒素を含有させたが、この効果はこれに限るものではなく、窒素のみでなく炭素や酸素を含有させたりすること、反応性スパッタ法で容易に実施可能であり、同様の効果が期待できることは明らかである。また、タングステンのみでなくタンタルやモリブデン、チタン、ニッケル、アルミニウムなど他の金属を適用しても同様の効果が期待できるが、高ヤング率が得られるタングステン、タンタル、モリブデン、チタンなどの高融点金属が好ましい。
【0095】
この第5の実施形態では、マイクロ可動部82に複数の静電アクチュエータ85、86、87を備えているが、アクチュエータの種類や数はこれに限るものではなく、圧電アクチュエータであっても良い。
【0096】
(第6の実施形態)
図9は、本発明によるマイクロ共振装置の第6の実施形態を示す構成図である。この第6の実施形態では、基板に対して平行な方向に振動するマイクロ共振体についても本発明が容易に適用できることを、図を参照しながら説明する。選択されたパラメーターの変動に応答して振動するマイクロ共振体91と、マイクロ可動部92と、上記マイクロ共振体91とマイクロ可動部92を接続する接続部93を備えている。この第6の実施形態では、接続部93はマイクロ共振体91の支持領域98に結合した形になっている。これによって、接続部93の局所的な共振周波数がマイクロ共振体91の共振周波数よりも高くなり、マイクロ共振体91とは異なる周波数応答特性を有するようになり、マイクロ共振体91が矢印94に示す方向に振動する際においても、接続部93およびマイクロ可動部92は殆ど振動せず、移動もしないようにでき、マイクロ可動部92を操作することでマイクロ共振体91の周波数応答特性あるいは共振周波数を変えることができる。なお、電極96から支持領域98を介してマイクロ共振体91に固定電位を与え、入力電極97からマイクロ共振体91に高周波信号が与えられる。また、マイクロ可動部92は、静電アクチュエータ95を備える。
【0097】
接続部93の接続位置はこれに限るものではないが、支持領域98に対向する位置に配置したことで、マイクロ共振体91にひねりの力を与えるように作用させることができ効果があった。この第6の実施形態では、マイクロ可動部92をマイクロ共振体91の両端で逆の位置に配置しているが、これに限るものではない。しかし、逆に配置することは、周波数応答特性の変化を大きくすることに効果的である。このように、本発明は、構造や振動モードの異なるマイクロ共振体91であってもその端部あるいは支持領域98付近に接続部93を設けることで適用可能であることは明白である。
【0098】
(第7の実施形態)
第7の実施形態としてマイクロフィルタ装置について説明する。好適な実施形態では、図10に示すように、第1から第6の実施形態の何れか一つにて示した本発明のマイクロ共振装置100を含み、マイクロ共振体に容量結合した入力電極101と、マイクロ共振体で選択された周波数信号を取り出すための出力電極102と、マイクロ可動部を動かすための駆動機構への入力電極103,104を有している。ここでは、第1と第2のマイクロ可動部を2つ備えているが、これに限るものではなく、1つのマイクロ可動部でもよい。
【0099】
この第7の実施形態の構成により、製造後にマイクロ可動部の駆動機構の入力電極103,104に制御電圧を与えることで、マイクロ共振装置100の共振周波数(マイクロフィルタ装置の中心周波数)を広範囲に調整可能となるため、従来法ではできなかった、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ共振装置の共振周波数(マイクロフィルタ装置の中心周波数)の不確かさに対して、所望の(設計)値に補正および調整して使用することが可能になる。また、本発明のマイクロ共振装置100がマイクロ可動部とマイクロ共振体が接続部を介して一体になっているため、安定して再現性の調整が可能となる。さらに、従来法にくらべ製造後の調整範囲が大幅に改善されるため、従来法では歩留まりがとれない範囲の加工精度の製造装置および製造工程を用いても、歩留まりが取れるようになる。また、封入後にマイクロ可動部の制御によってマイクロフィルタ装置の中心周波数のズレをその場で補正することができるため、使用時の外部環境(温度)の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化(封止圧力の劣化ならびにマイクロ共振子材料の機械特性の劣化など)に対してもフィルタ出力を補正および最適調整することができ、フィルタとしての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0100】
さらに好適なマイクロフィルタ装置の実施形態では、マイクロ可動部の動作を制御するマイクロ可動部制御回路105を備えている。このマイクロ可動部制御回路105は、出力がマイクロ可動部の駆動機構への入力電極103,104に接続され、また、マイクロ共振装置100からの出力が入力されるようマイクロ共振装置の出力電極102に配線106を介して接続される。これにより、マイクロフィルタ装置で選択すべき所望の中心周波数と、マイクロ共振装置100からの出力電極102に出力される信号の周波数にズレが存在するときに、マイクロ可動部制御回路105に、例えば、調整用つまみあるいはスイッチを設けて、マイクロ可動部の駆動機構への出力電圧を制御し、マイクロ共振装置100から所望の周波数信号が出力されるよう、周波数のズレを安定して再現性よく調整することが可能になる。これによって、実際の使用環境の変化および使用時のマイクロ共振装置100の状態に応じて、その場でマイクロフィルタ装置の周波数出力の調整が可能となる。
【0101】
さらに好適な実施形態では、マイクロフィルタ装置は、記憶素子107を備えており、出荷時あるいは前回の調整時に、選択すべき所望の(設計した)周波数とのズレを補正するよう調整した上記マイクロ可動部制御回路105の制御値(出力電圧、あるいは電圧出力のための設定値)を上記記憶素子107に記憶し、マイクロフィルタ装置の起動動作時に上記記憶素子107に記憶された上記マイクロ可動部制御回路105の制御値をもとに上記マイクロ可動部が制御され、上記選択すべき所望の中心周波数に安定して再現性よく調整される。
【0102】
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態としてマイクロ発振器について説明する。好適な実施形態では、図11に示すように、第1から第6の実施形態の何れか一つにて示した本発明のマイクロ共振装置120を含み、マイクロ共振体に容量結合した入力電極121と、マイクロ共振体で選択された周波数信号を取り出すための出力電極122と、マイクロ可動部を動かすための駆動機構への入力電極123,124を有している。ここでは、第1と第2のマイクロ可動部を2つ備えているが、これに限るものではなく、1つのマイクロ可動部でもよい。
【0103】
この第8の実施形態の構成により、製造後にマイクロ可動部の駆動機構の入力電極123,124に制御電圧を与えることで、マイクロ共振装置120の共振周波数(マイクロ発振器の発振周波数)を広範囲に調整可能となるため、従来法ではできなかった、製造時の加工ばらつきや封入圧力のばらつきによるマイクロ共振装置の共振周波数(マイクロ発振器の発振周波数)の不確かさに対して、所望の(設計)値に補正および調整して使用することが可能になる。また、本発明のマイクロ共振装置120がマイクロ可動部とマイクロ共振体が接続部を介して一体になっているため、安定して再現性の調整が可能となる。さらに、従来法にくらべ製造後の調整範囲が大幅に改善されるため、従来法では歩留まりがとれない範囲の加工精度の製造装置および製造工程を用いても、歩留まりが取れるようになる。また、封入後にマイクロ可動部の制御によってマイクロ発振器の発振周波数のズレをその場で補正することができるため、使用時の外部環境(温度)の変化やマイクロ共振装置そのものの経時劣化(封止圧力の劣化ならびにマイクロ共振体材料の機械特性の劣化など)に対しても周波数出力を補正および最適調整することができ、発振器としての使用可能な環境条件範囲を拡大し、製品寿命を延ばすことができる。
【0104】
この第8の実施形態に示すマイクロ発振器は、基本部分のマイクロ共振装置の構成が第7の実施形態に示したマイクロフィルタ装置と同じであり、この第8の実施形態においても、第7の実施形態のごとく、マイクロ可動部制御回路125および記憶素子127と接続することで、同様の効果が得られることは明らかである。
【0105】
(第9の実施形態)
次に、第9の実施形態として、第7の実施形態に示したごとき本発明のマイクロフィルタ装置と、第8の実施形態に示したごとき本発明のマイクロ発振器とを、用いた無線通信機器について説明する。
【0106】
図12に示すように、この無線通信機器は、送信部650と、受信部651と、上記送信部650からの送信信号と上記受信部651への受信信号とを分離するデュプレクサ652と、上記送信信号を電波として送信すると共に上記受信信号を電波として受信するアンテナ653と、上記送信部650および上記受信部651に接続された上記マイクロフィルタ装置600および上記マイクロ発振器601とを備える。
【0107】
上記送信部650は、送信信号が流れる上流側から下流側へ、順次、ミキサ602、アンプ603およびPA(Power Amplifier;電力増幅回路)604を備え、このアンプ603とこのPA604との間に、上記マイクロフィルタ装置600が接続される。
【0108】
上記受信部651は、受信信号が流れる上流側から下流側へ、順次、LNA(Low Noise Amplifier;低雑音増幅回路)605、ミキサ606およびアンプ607を備え、このLNA605とこのミキサ606との間に、上記マイクロフィルタ装置600が接続される。
【0109】
また、上記マイクロ発振器601は、上記送信部650の上記ミキサ602と上記受信部651の上記ミキサ606との両方に接続される。なお、上記マイクロ発振器601には、例えば、VCO(Voltage Controlled Oscillator;発振回路)が接続される。
【0110】
このように、高いQ値を持つ上記マイクロフィルタ装置600を無線通信機器の送受信部650,651の帯域通過フィルタとして使用することにより、ノイズとなる非線形成分を除去や、所望の周波数信号のみを通過させ他の周波数信号を全て除去するチャンネル選択などが可能となる。また、高いQ値を持つ上記マイクロ発振器601を無線通信機器の送受信部650,651の局所(局部)発振器などに使用することにより、位相ノイズ低減などの効果が得られる。
【0111】
したがって、本発明において、製造後に調整可能な超小型のマイクロフィルタ装置600およびマイクロ発振器601を無線通信機器に搭載することが可能になり、外部環境の変動やマイクロ共振装置そのものの内部変動により、マイクロフィルタ装置600およびマイクロ発振器601の周波数特性に変動が生じても、通信状態と対比しながらマイクロ可動部の制御によりマイクロフィルタの周波数特性を調整し、通信状態を最適に保つことができるようになる。
【0112】
要するに、従来の技術では、加工精度や封入圧力精度のばらつきのため、中心周波数を設計値に高精度に合わせたマイクロフィルタ装置およびマイクロ発振器を製造することができず、歩留まりが取れないばかりか、無線機器に搭載しても製造後の調整範囲が狭いために、外部環境変化やマイクロフィルタ装置およびマイクロ発振器そのものの経時劣化に対応できない問題がある。
【0113】
なお、図示しないが、上記マイクロフィルタ装置600または上記マイクロ発振器601を、個別に無線通信機器に用いてもよく、この場合、上記個別の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図2】マイクロ共振体と接続部の寸法を示す平面図である。
【図3A】圧電アクチュエータの構成を示すと共に圧電アクチュエータを作動させる前の状態を示す構成図である。
【図3B】圧電アクチュエータの構成を示すと共に圧電アクチュエータを作動させた後の状態を示す構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図5】本発明の第3の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図6】本発明の第4の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図7】静電アクチュエータを作動させたときの一例を示す構成図である。
【図8】本発明の第5の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図9】本発明の第6の実施形態のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【図10】本発明の第7の実施形態のマイクロフィルタ装置を示す構成図である。
【図11】本発明の第8の実施形態のマイクロ発振器を示す構成図である。
【図12】本発明の第9の実施形態の無線通信機器を示す構成図である。
【図13】従来のマイクロ共振装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0115】
10 基板
11,41,81,91 マイクロ共振体
12,52,62,82,92 マイクロ可動部
13,83,93 接続部
15 圧電アクチュエータ
31,34 圧電素子
32,33,35 駆動電極
55,63,64,65,85 静電アクチュエータ
57,67,69,71 第1の電極
56,66,68,70 第2の電極
100 マイクロ共振装置
101 入力電極
102 出力電極
103,104 入力電極
105 マイクロ可動部制御回路
107 記憶素子
120 マイクロ共振装置
121 入力電極
122 出力電極
123,124 入力電極
125 マイクロ可動部制御回路
127 記憶素子
650 送信部
651 受信部
652 デュプレクサ
653 アンテナ
600 マイクロフィルタ装置
601 マイクロ発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板に設けられたマイクロ共振体と、
このマイクロ共振体に機械的に作用する少なくとも一つのマイクロ可動部と、
上記マイクロ共振体と上記マイクロ可動部とを接続する接続部と
を備え、
上記接続部は、上記マイクロ共振体とは異なる周波数応答特性を有していることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記接続部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、実質的な変位はなく、殆ど振動していないことを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記接続部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、上記マイクロ共振体の変位に同調した実質的な移動を行なわないことを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ可動部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、実質的な変位はなく、殆ど振動していないことを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ可動部は、上記マイクロ共振体が固有の共振周波数で振動する際に、上記マイクロ共振体の変位に同調した実質的な移動を行なわないことを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ可動部は、圧電アクチュエータを備え、
この圧電アクチュエータは、圧電素子と、この圧電素子に変位を与えるための駆動電極とを備えることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記圧電アクチュエータの上記駆動電極に与えられる電圧を制御することによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項8】
請求項6に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記圧電アクチュエータの上記駆動電極に与えられる電圧を制御することによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項9】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ可動部は、静電アクチュエータを備え、
この静電アクチュエータは、静止している第1の電極と、この第1の電極に対して所定の間隔を離して置かれると共に上記第1の電極に対して相対的に移動可能な第2の電極とを備えることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項10】
請求項9に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記静電アクチュエータの上記第1の電極と上記第2の電極の間に与えられる電圧差を制御することによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項11】
請求項9に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記静電アクチュエータの上記第1の電極と上記第2の電極の間に与えられる電圧差を制御することによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項12】
請求項6に記載のマイクロ共振装置において、
上記圧電アクチュエータは複数あり、
上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記各圧電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項13】
請求項9に記載のマイクロ共振装置において、
上記静電アクチュエータは複数あり、
上記マイクロ共振体の周波数応答特性は、上記各静電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項14】
請求項6に記載のマイクロ共振装置において、
上記圧電アクチュエータは複数あり、
上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記各圧電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項15】
請求項9に記載のマイクロ共振装置において、
上記静電アクチュエータは複数あり、
上記マイクロ共振体の固有の共振周波数は、上記各静電アクチュエータを個別に駆動させることによって、変化されることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項16】
請求項13または請求項15に記載のマイクロ共振装置において、
上記複数の静電アクチュエータを駆動させる際に、少なくとも一つの上記静電アクチュエータにおいて、上記第1の電極と上記第2の電極とは、プルイン状態になっていることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項17】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体、上記マイクロ可動部および上記接続部は、その組成に少なくとも2つの元素が含まれる材料からなり、この元素のうち一つの元素は高融点金属元素であることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項18】
請求項17に記載のマイクロ共振装置において、
上記高融点金属元素は、タングステン、タンタル、モリブデン、チタンのいずれかであることを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項19】
請求項1に記載のマイクロ共振装置において、
上記マイクロ共振体、上記マイクロ可動部および上記接続部は、その組成に少なくとも2つの元素が含まれる材料からなり、この材料は、高融点金属元素と、少なくとも窒素、酸素、炭素のいずれかの元素とを含むことを特徴とするマイクロ共振装置。
【請求項20】
請求項1に記載のマイクロ共振装置と、
上記マイクロ共振体に容量結合した入力電極と、
上記マイクロ共振装置により選択された周波数信号を取り出すための出力電極と、
上記マイクロ可動部を動作させるための入力電極と
を有していることを特徴とするマイクロフィルタ装置。
【請求項21】
請求項20に記載のマイクロフィルタ装置において、
上記マイクロ共振装置の出力と上記マイクロ可動部を駆動する入力とに接続されたマイクロ可動部制御回路を備え、
このマイクロ可動部制御回路は、選択すべき所望の周波数と上記マイクロ共振装置により選択出力される信号の周波数にズレが存在するとき、上記マイクロ共振装置から所望の周波数信号が出力されるように、上記マイクロ可動部を調整することを特徴とするマイクロフィルタ装置。
【請求項22】
請求項21に記載のマイクロフィルタ装置において、
上記マイクロ可動部制御回路に接続された記憶素子を備え、
この記憶素子は、上記選択すべき所望の周波数との差を補正するよう調整した上記マイクロ可動部の制御値を記憶し、
上記マイクロ可動部制御回路は、起動動作時に、上記記憶素子に記憶された上記マイクロ可動部の制御値をもとに、上記マイクロ可動部を制御して、出力される周波数信号を調整することを特徴とするマイクロフィルタ装置。
【請求項23】
請求項1に記載のマイクロ共振装置と、
上記マイクロ共振体に容量結合した入力電極と、
上記マイクロ共振装置により選択された周波数信号を取り出すための出力電極と、
上記マイクロ可動部を動作させるための入力電極と
を有していることを特徴とするマイクロ発振器。
【請求項24】
請求項23に記載のマイクロ発振器において、
上記マイクロ共振装置の出力と上記マイクロ可動部を駆動する入力とに接続されたマイクロ可動部制御回路を備え、
このマイクロ可動部制御回路は、上記マイクロ共振装置により出力された周波数の変動を補正あるいは最適化するように、出力を検知しながら上記マイクロ可動部を調整することを特徴とするマイクロ発振器。
【請求項25】
請求項24に記載のマイクロ発振器において、
上記マイクロ可動部制御回路に接続された記憶素子を備え、
この記憶素子は、出力されるべき所望の周波数と実際の周波数との差を補正あるいは最適化するよう調整した上記マイクロ可動部の制御値を記憶し、
上記マイクロ可動部制御回路は、起動動作時に、上記記憶素子に記憶された上記マイクロ可動部の制御値をもとに、上記マイクロ可動部を制御して、出力される周波数信号を調整することを特徴とするマイクロ発振器。
【請求項26】
送信部と、
受信部と、
上記送信部からの送信信号と上記受信部への受信信号とを分離するデュプレクサと、
上記送信信号を電波として送信するとともに上記受信信号を電波として受信するアンテナと、
少なくとも上記送信部および上記受信部に接続された請求項20に記載のマイクロフィルタ装置と
を備えることを特徴とする無線通信機器。
【請求項27】
送信部と、
受信部と、
上記送信部からの送信信号と上記受信部への受信信号とを分離するデュプレクサと、
上記送信信号を電波として送信するとともに上記受信信号を電波として受信するアンテナと、
少なくとも上記送信部および上記受信部に接続された請求項23に記載のマイクロ発振器と
を備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−33450(P2006−33450A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209850(P2004−209850)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】