説明

マイクロ流体チップ

【課題】簡易な機構で流体の流通を制御し、セルに収容された流体の秤量を正確に行なうことができるマイクロ流体チップを提供すること。
【解決手段】当該秤量セルD11内に流体を導入する流体導入口11aおよび当該秤量セルD11の収容体積を越えた余剰量の流体を排出する流体排出口12aを有する秤量セルD11と、一方の端部が前記秤量セルD11と連結し、前記流体の流通方向に対して逆方向に働くラプラス力によって前記流体の流動を停止させる移送制御流路LF11とを備えたマイクロ流体チップ1において、移送制御流路LF11の収容セルD12側の端部にかかるラプラス力によって、毛細管現象により流れ込む流体の流通を停止させることで秤量セルD11に流体を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の液体を秤量し、混合するマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体に含まれる免疫成分などを自動的に分析する技術として自動分析装置が知られている。この自動分析装置は、試薬が入った反応容器に検体を加え、反応容器内の試薬との間で生じた反応を光学的に検出するものである。この自動分析装置による検体の分析に必要な試薬量は、一つの検体に対して数μl(マイクロリットル)〜数ml(ミリリットル)程度と少量で済むが、コスト的な観点から見て、分析に用いる試薬量をさらに低減することのできる技術が待望されていた。また、従来の自動分析装置は、検体や試薬を分注する分注ノズルの洗浄に用いる洗浄水の廃液量も多く、この点においてもコスト面で改善の余地があった。
【0003】
このような状況を解決しうる技術として、検体の分析に必要な要素を微小なチップ上に集積化することによって流体の秤量および混合を行うことが可能なマイクロ流体チップがある(例えば、特許文献1,2参照)。このマイクロ流体チップに関しては、弾性部材を押圧することによって流路間の流体の流通を制御するという技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−270935号公報
【特許文献2】特開2007−162899号公報
【特許文献3】特開2007−108087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に示すマイクロ流体チップは、弾性部材を押圧した状態を維持して流体の流通制御を行なうため、装置構成が複雑となり、処理にかかる労力も大きいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な機構で流体の流通を制御し、セルに収容された流体の秤量を正確に行なうことができるマイクロ流体チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるマイクロ流体チップは、秤量対象の流体を導入する流体導入口および当該秤量セルの収容体積を越えた余剰量の流体を排出する流体排出口を有し、前記収容体積分の流体を秤量する秤量セルと、一端が前記秤量セルと連結し、該一端から前記秤量セル内で秤量された流体を流出可能であるとともに、該流出方向に対して逆方向に働くラプラス力によって前記流体の流出を停止させる移送制御流路とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記移送制御流路は、他端が、前記秤量セルで秤量された前記流体を収容する収容セルと接続し、前記収容セルは、該収容セル内の気体を排出する排気口を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記移送制御流路は、該移送制御流路途中の一部の断面積を増大して形成される液溜部を有し、前記移送制御流路と前記液溜部とで形成される拡径領域に生じる前記ラプラス力によって前記流体の流出を停止することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記液溜部は、外部に連通する外部排気口を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記液溜部は、複数の前記移送制御流路と連結することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記移送制御流路は、少なくとも一部の内部壁面が疎水性となるように形成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記流体排出口および前記排気口および/または前記外部排気口を封止する封止部材を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記流体導入口を封止する流体導入口封止部材をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セル間を繋ぐ移送流路にかかるラプラス力によって流体の流通を停止させ、簡易な機構によって流体の流通を解除できるようにしたので、マイクロ流体チップに収容された流体を正確に秤量し、移送流路を介して隣接するセルに送液することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すマイクロ流体チップのA−A線断面を示す断面図である。
【図3】図3は、図2に示す秤量セルに流体を収容した場合を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1の変形例1であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1の変形例2であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップを用いた秤量および移送方法を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1の変形例3であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1の変形例4であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図である。
【図10】図10は、図9に示すマイクロ流体チップのB−B線断面を示す断面図である。
【図11】図11は、図10に示す秤量セルに流体を収容した場合を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2の変形例1であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2の変形例2であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2の変形例3であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図15】図15は、本発明の実施の形態2の変形例4であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図16】図16は、本発明の実施の形態2の変形例5であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【図17】図17は、本発明の実施の形態2の変形例6であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明のマイクロ流体チップを実施するための形態について説明する。本発明は、以下に例示する実施の形態や変形例に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。また、図面の記載において、同一部分には同一符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図であり、図2は、図1に示すマイクロ流体チップ1のA−A線断面を示す断面図である。図1,2に示すマイクロ流体チップ1は、光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、たとえば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂を用いて形成され、流体導入口11a、秤量セルD11および収容セルD12、移送制御流路LF11、流体排出口12aおよび排気口13aを有し、秤量セルD11と収容セルD12とが移送制御流路LF11によって連結されている。
【0019】
流体導入口11aは、マイクロ流体チップ1の上部平面に開口を有し、秤量セルD11に連通している。流体導入口11aにプローブ等を挿入して検体または試薬としての流体を分注することによって、秤量セルD11に流体を送り込む。
【0020】
流体排出口12aは、流体導入口11aと同様、マイクロ流体チップ1の上部平面に開口を有し、秤量セルD11に連通している。流体の秤量を行なう場合に、流体排出口12aから秤量セルD11内の気体および流体を排出することによって秤量セルD11内を流体で充填することができ、充填された流体の秤量を行なう。なお、流体排出口12aから流体を導入する場合は、流体導入口11aが、秤量セルD11内の気体および流体の排出を行なう排出口としての役割を担う。
【0021】
秤量セルD11および収容セルD12は、所定の体積となるように形成される。特に、秤量セルD11においては、送り込まれた流体がセル内に充填された場合に所定体積と秤量できる。なお、セルの形状は、円形でもよく、角形でもよい。
【0022】
移送制御流路LF11は、流体の流通方向に対して垂直な断面積が、1mm以下となるように形成されることが好ましく、特に、0.1mm以下が好ましい。秤量セルD11に注入された流体が毛細管現象によって移送制御流路LF11に流れ込むが、移送制御流路LF11と収容セルD12との境界における拡径領域で流体の流通方向とは逆向きの力であるラプラス力が生じ、このラプラス力によって流体の流通が停止し、収容セルD12に流体が流れ込まない。また、移送制御流路LF11および秤量セルD11、収容セルD12内の気体は、流体の流入に従って排気口13aから排出される。流体の秤量は、秤量セルD11と移送制御流路LF11と流体導入口11aおよび流体排出口12aとを秤量単位とし、充填された流体の総量が対象となる。
【0023】
ここで、秤量セルD11に流体が収容された場合について、図3を参照して説明する。図3は、秤量セルD11に流体F1を収容した場合を示す断面図である。流体導入口11aから分注された流体F1は、毛細管現象によって移送制御流路LF11に入り込むが、移送制御流路LF11の収容セルD12側の端部にかかる流通方向とは逆向きのラプラス力によって流体F1の流通が停止する。この流通停止によって流体F1は、秤量セルD11に順次充填される。
【0024】
なお、移送制御流路LF11の断面積は、下式(1)によって決定される。ラプラス力は、流体の表面張力、移送流路に対する検体、試薬、または反応液の接触角、流路幅、流路深さによって決定され、毛細管力による液の流通を抑制している。ここで、γを表面張力、θを接触角、wを流路幅、hを流路深さ(移送流路の断面が円であればwと同値)とした場合、下式(1)によって決定されるラプラス力Pをもとに移送制御流路LF11の断面積を構成するwおよびhが設定される。ラプラス力Pは、任意に設定されるものとする。
P=2γ(1/w+1/h)Sinθ ・・・(1)
【0025】
また、収容セルD12の配置において、収容セルD12の底部が移送制御流路の底部と一致していなくてもよい。図4は、本発明の実施の形態1の変形例1であるマイクロ流体チップ2の構成を示す断面図である。図4に示すマイクロ流体チップ2は、移送制御流路LF11aが収容セルD13の側面と連結し、移送制御流路LF11aの底部と収容セルD13の底部に高低差を設けてある。これにより、移送制御流路LF11aの収容セルD13側端部において、移送制御流路LF11aの底部方向にも拡径領域が形成されるため、一層ラプラス力の効力を確実なものとすることができる。ここで、図2,3と同様、収容セルD13内の気体は、排気口13bから外部に排出される。
【0026】
なお、移送制御流路の上部が、収容セルの上部と一致するように配置されていてもよい。図5は、本発明の実施の形態1の変形例2であるマイクロ流体チップ2aの構成を示す断面図である。図5に示すマイクロ流体チップ2aは、秤量セルD11と収容セルD13aとを連結させる移送制御流路LF11bが、移送制御流路LF11bの上部と収容セルD13aの上部とが一致するように配置される。移送制御流路LF11bの収容セルD13a側の端部では、図3に示すラプラス力と同様の効果によって流体F1の流通を停止する。秤量セルD11に収容され、秤量された流体F1が収容セルD13aに送液された場合、収容セルD13a内部の気体は、排気口13cから外部に排出される。移送制御流路LF11bを収容セルD13aの上部側に設けたことによって、外的な力による秤量セルD11への逆流が生じた場合でも、逆流する流体F1を最小限に抑えることが可能である。
【0027】
つぎに、流体F1を秤量セルD11において秤量し、秤量された流体F1を収容セルD12に移送させる秤量および移送方法について、図6を参照して説明する。図6は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップ1を用いた秤量および移送方法を示す模式図である。
【0028】
まず、流体導入口11aから分注対象の流体F1を注入する(図6(a))。流体F1を注入すると、秤量セルD11底部から毛細管現象により移送制御流路LF11内に流体F1が入り込み、ラプラス力によって収容セルD12側の端部で流通が停止して、秤量セルD11内に流体F1が充填される。流体F1の注入は、秤量のため流体排出口12aから流体F1が外部に排出されるまで注入を継続する(図6(b))。
【0029】
移送制御流路LF11および秤量セルD11への流体F1の注入が完了すると、排出された流体F1を取り除き、流体排出口12aを封止部材14aによって封止する(図6(c))。この封止によって、収容された流体F1が秤量セルD11内に所定量収容されたこととなり、秤量できる。封止部材14aによる封止によって流体導入口11a、排気口13aのみが開放された状態になると、プローブ等を用いてエアを流体導入口11aから秤量セルD11内部に注入し、流体F1を押圧する。流体F1が押圧されることによって、流体F1の流通方向に対する力が、移送制御流路LF11にかかるラプラス力を超えることで、ラプラス力による流通停止が解除され、収容セルD12に流体F1が流れ込む(図6(d))。エアによる押圧を継続し、秤量セルD11に収容された流体F1を収容セルD12に移送完了すると、流体導入口11aを流体導入口封止部材14bによって封止する(図6(e))。
【0030】
なお、図6(e)に示す流体導入口11aの封止を行うか否かは、任意であるが、秤量セルD11内の内部圧力によって流体F1の秤量セルD11側への逆流を防止できるため、封止部材14bによって流体導入口11aを封止することが好ましい。また、秤量された流体F1を回収する場合は、排気口13aからピペット等によって吸引することで回収できる。さらに、封止部材14aは、別体であってもよく、一体であってもよい。
【0031】
上述したマイクロ流体チップによって、秤量した流体を簡易な機構で確実に移送することが可能となる。また、特許文献1,2に示すマイクロ流体チップのように、一部を弾性部材等で形成する必要がないため、簡易な構成でマイクロ流体チップを作成することができる。なお、特許文献3に示す流通制御は、光応答ゲルを用いているため、流路の開閉に時間を要していた。これに対して本実施の形態にかかるマイクロ流体チップは、光応答反応にかかる時間を要さずに流体の移送を行なうことができる。
【0032】
ここで、図1に示すマイクロ流体チップ1において、秤量セルを複数設け、各秤量された流体を混合するようにしてもよい。図7は、本発明の実施の形態1の変形例3であるマイクロ流体チップ3の構成を示す模式図である。図7に示すマイクロ流体チップ3は、複数の秤量セルD14,D15,D16,D17を設け、各秤量セルを移送制御流路LF12a,LF12b,LF12c,LF12dによって、収容セルとしての混合セルM1に連結している。これにより、秤量した各流体を混合セルM1に送り込むことで秤量した流体を混合することが可能となる。なお、各秤量セルD14,D15,D16,D17は、秤量すべき体積に対応して形成されるため、形状または収容体積が異なる場合がある。
【0033】
図6に示す流れで各秤量セルD14,D15,D16,D17に流体が収容されると、流体排出口12b〜12eを封止し、各流体導入口11b〜11eからエアを注入して、混合セルM1に送り込む。このとき、混合セルM1内の気体は、排気口13dから排出される。これにより、混合セルM1に送り込まれた各流体を混合させることができる。なお、各秤量セルD14,D15,D16,D17および排気口13dの配置は、処理が可能であれば如何なる位置でも配置可能である。
【0034】
さらに、混合セルを複数設けて段階的に混合させてもよい。図8は、本発明の実施の形態1の変形例4であるマイクロ流体チップ4の構成を示す模式図である。図8に示すマイクロ流体チップ4は、混合セルM2,M3が移送制御流路LF13cによって連結され、混合セルM2は、移送制御流路LF13a,LF13bを介して秤量セルD18,D19と接続し、混合セルM3は、移送制御流路LF13dを介して秤量セルD20と接続されている。また、混合セルM2,M3は、排気口13e,13fによって、内部の気体を外部に排出する。
【0035】
秤量セルD18,D19において秤量された各流体を、流体導入口11f,11gからエアによって押圧することで混合セルM2に送液して混合する。混合セルM2で混合された流体は、移送制御流路LF13cにかかるラプラス力によって流通が停止され、混合セルM2内にとどまる。また、秤量セルD20において秤量された流体を混合セルM3に送液した後、流体導入口11fおよび/または流体導入口11gから混合セルM2内の流体を混合セルM3に送液することによって、秤量された各流体を段階的に混合することができる。ここで、混合セルM3に送液する流体の順序は、混合セルM2内の流体を先に送液してもよい。
【0036】
なお、送液時に、各流体排出口12f〜12hを封止部材によって封止する。また、送液後に、流体導入口11f〜11hを流体導入口封止部材で封止してもよい。さらに、混合セルM2内の流体を送液する場合に、たとえば、流体導入口11fからエアを注入して押圧する場合、流体導入口11g,11hおよび流体排出口12f〜12hが、流体導入口封止部材および封止部材によって封止されていることが好ましい。
【0037】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。図9は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップ5の概略構成を示す模式図であり、図10は、図9に示すマイクロ流体チップ5のB−B線断面を示す断面図である。図9,10に示すマイクロ流体チップ5は、実施の形態1と同様、光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂を用いて形成され、流体導入口21a、秤量セルD21および収容セルD22、移送制御流路LF21a,LF21b、液溜部C21、流体排出口22aおよび排気口23aを有し、秤量セルD21と収容セルD22とが、液溜部C21を介して移送制御流路LF21a,LF21bによって連結されている。
【0038】
液溜部C21は、移送制御流路LF21aと移送制御流路LF21bとの間に設けられ、流体の流通方向に対して垂直方向の径が移送制御流路LF21a,LF21bと比して大きくなるように形成されている。
【0039】
ここで、流体F2が秤量セルD21に収容された場合について、図11を参照して説明する。図11は、図10に示す秤量セルD21に流体F2を収容した場合を示す断面図である。秤量セルD21に収容された流体F2は、毛細管現象によって、移送制御流路LF21aに流れ込むが、移送制御流路LF21aを流通した流体F2は、移送制御流路LF21aと液溜部C21との接点における拡径によって各接点でラプラス力がかかり、流体F2の流通が停止する。この流体の流通停止によって流体導入口21aから分注された流体F2が秤量セルD21および移送制御流路LF21aに充填される。
【0040】
なお、実施の形態1と同様、移送制御流路の底部と収容セルの底部とに高低差を設けてもよい。図12は、本発明の実施の形態2の変形例1であるマイクロ流体チップ6の構成を示す断面図である。図12に示すマイクロ流体チップ6は、移送制御流路LF21cが収容セルD23の側面部と連結し、移送制御流路LF21cの底部と収容セルD23の底部に高低差を設けてある。これにより、移送制御流路LF21cの底部方向にも拡径領域が形成されるため、一層ラプラス力の効力を確実なものとすることができる。特に、外的な力によって移送制御流路LF21aの流通停止が解除された場合でも、移送制御流路LF21cにかかるラプラス力によって流通停止できるため、秤量にかかる誤差を最小限に抑えることが可能である。また、図10,11に示すマイクロ流体チップ5と同様に、収容セルD23内の気体を排出する排気口23bを有する。
【0041】
さらに、移送制御流路の上部が、収容セルの上部と一致するように配置されていてもよい。図13は、本発明の実施の形態2の変形例2であるマイクロ流体チップ6aの構成を示す断面図である。図13に示すマイクロ流体チップ6aは、液溜部C21と収容セルD23aとを連結させる移送制御流路LF21dが、移送制御流路LF21dの上部と収容セルD23aの上部とが一致するように配置される。移送制御流路LF21dの収容セルD23a側の端部では、移送制御流路LF21aの液溜部C21側端部にかかるラプラス力と同様の効果によって流体F2の流通を停止する。段階的な流体の流通停止および送液を行なうことが可能であるとともに、外的な力による秤量セルD21への逆流が生じた場合でも、逆流する流体F2を最小限に抑えることが可能である。なお、収容セル23aは、図12に示すマイクロ流体チップ6と同様に、収容セルD23a内の気体を排出する排気口23cを有する。
【0042】
また、液溜部の上部に気体の排出を行なう排気口を設けてもよい。図14は、本発明の実施の形態2の変形例3であるマイクロ流体チップ7の構成を示す断面図である。図14に示すマイクロ流体チップ7は、液溜部C22から上部に連通する外部排気口24aを有する。外部排気口24aによって、一層効率的にマイクロ流体チップ7内の気体を外部に排出でき、注入作業にかかる効率が向上する。なお、秤量セルD21に収容された流体を収容セルD22に移送する場合は、外部排気口24aを封止部材によって封止する。
【0043】
特に、図15に示すように、秤量セルを隣接して設けた場合に有効である。図15は、本発明の実施の形態2の変形例4であるマイクロ流体チップ8の構成を示す断面図である。図15に示すマイクロ流体チップ8は、秤量セルD21が、移送制御流路LF21a,LF21bを介して、流体導入口25aと流体排出口26aとを有する秤量セルD24に接続されている。このとき、たとえば、秤量セルD21に流体F2が収容されている場合、流体導入口25aから秤量セルD24に流体F3を注入した際に、外部排気口24aが、秤量セルD24内の気体を外部に排出する役割を担う。
【0044】
さらに、本実施の形態2の構成を、図7,8に示すマイクロ流体チップ3,4に適用することができる。図16は、本発明の実施の形態2の変形例5であるマイクロ流体チップ9の構成を示す模式図であり、図17は、本発明の実施の形態2の変形例6であるマイクロ流体チップ10の構成を示す模式図である。図16に示すマイクロ流体チップ9は、各秤量セルD25〜28が移送制御流路LF22a〜LF25a,LF22b〜LF25bを介して混合セルM4に接続されている。また、移送制御流路LF22a〜LF25a,LF22b〜LF25bの間に液溜部C23〜C26が設けられ、混合セルM4の中央部には、上部に連通する排気口23dが形成されている。なお、各秤量セルD25〜28には、流体導入口21b〜21eおよび流体排出口22b〜22eが形成され、各秤量セルD25〜28に収容される流体の秤量を行なうことができる。
【0045】
図16に示すマイクロ流体チップ9の構成によって、たとえば、秤量セルD25,26に収容された流体を混合セルM4に送液した場合に、混合セルM4に収容された流体は、移送制御流路LF24b,LF25bによって流通が停止し、秤量セルD27,28に収容されている各流体は、移送制御流路LF24a,LF25aによって流通が停止しているため、液溜部C25,C26が形成する空間により混合セルM4に収容された流体と秤量セルD27,28に収容された流体とが接触しないため、一層確実な流体の混合を行なうことができる。
【0046】
また、図17に示すマイクロ流体チップ10においても、液溜部C27,C28によって、混合セルM5と各秤量セルD29〜31とに収容された各流体が接触することなく、各流体の処理を行うことができる。そのため、混合セルを複数設けることなく、秤量された流体を段階的に混合することが可能となる。
【0047】
マイクロ流体チップ10において、各秤量セルD29〜31は、流体導入口21f〜21hおよび流体排出口22f〜22hを有し、液溜部C27,C28を介して移送制御流路LF26a〜LF26c,LF27a,LF27bによって混合セルM5と連通している。また、秤量セルD29,D30において注入される流体は、移送制御流路LF26a,LF26bにかかるラプラス力によって流通が停止され、各秤量セルD29,D30に流体が充填される。
【0048】
ここで、液溜部C27は、外部排気口24bを有する。外部排気口24bが秤量セルD29,D30内の気体を排出することによって、秤量セルD29,D30内の排気効率が向上し、一層効率的な注入処理が可能となる。また、秤量セルD29および/または秤量セルD30に収容された流体を混合セルM5に送液する場合は、流体排出口22f,22gに加え、外部排気口24bを封止部材によって封止する。秤量セルD31も同様に、流体は流体導入口21hから注入され、送液の際に流体排出口22hを封鎖する。このとき、流体導入口21f,21g、流体排出口22f,22gおよび外部排気口24bが封止されていることが好ましい。
【0049】
なお、秤量セルD29または秤量セルD30の一方に流体が収容されていない場合、たとえば、秤量セルD29に流体を収容し、秤量セルD30に流体が収容されていない場合には、秤量セルD29に収容された流体を混合セルM5に送液する際に、収容されていない秤量セルD30の流体導入口21gおよび流体排出口22gが流体導入口封止部材によって封止されることが好ましい。さらに、混合セルM5への流体の移送は、送液を行なう秤量セルD29〜D31の流体導入口21f〜21hおよび排気口23eのみが開放されていることが好ましい。
【0050】
上述した実施の形態2にかかるマイクロ流体チップによって、各セルに収容された流体が接触することなく、秤量および混合することが可能となるため、一層確実な処理を行うことが可能であり、段階的な処理にも対応できる。
【0051】
また、外的な力によって、たとえば、図9に示すマイクロ流体チップ5の移送制御流路LF21aにおいてラプラス力による流通静止力が解除され、液溜部C21に流体の一部が漏れた場合においても、移送制御流路LF21bにかかるラプラス力によって流通を停止させることができるため、秤量に対する影響を最小限に抑えることが可能である。
【0052】
上述した実施の形態1,2において、移送制御流路の内部表面は、少なくともラプラス力が生じうる箇所が疎水性となるように形成されることが好ましい。また、移送制御流路の流路長は、秤量可能であれば如何なる流路長でもよく、流路が屈曲していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかるマイクロ流体チップは、正確な秤量を行なう場合に有用であり、特に、微量分析における秤量・混合処理に適している。
【符号の説明】
【0054】
1,2,2a,3,4,5,6,6a,7,8,9,10 マイクロ流体チップ
11a〜11h,21a〜21h 流体導入口
12a〜12h,22a〜22h 流体排出口
13a〜13f,23a〜23e 排気口
14a 封止部材
14b 流体導入口封止部材
24a,24b 外部排気口
D11,D14〜D21,D24〜D31 秤量セル
D12,D13,D13a,D22,D23,D23a 収容セル
LF11,LF11a,LF11b,LF12a〜LF12d,LF13a〜LF13d,LF21a〜LF21d,LF22a〜LF27a,LF22b〜LF27b 移送制御流路
C21〜C28 液溜部
F1〜F3 流体
M1〜M5 混合セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
秤量対象の流体を導入する流体導入口および当該秤量セルの収容体積を越えた余剰量の流体を排出する流体排出口を有し、前記収容体積分の流体を秤量する秤量セルと、
一端が前記秤量セルと連結し、該一端から前記秤量セル内で秤量された流体を流出可能であるとともに、該流出方向に対して逆方向に働くラプラス力によって前記流体の流出を停止させる移送制御流路と
を備えたことを特徴とするマイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記移送制御流路は、他端が、前記秤量セルで秤量された前記流体を収容する収容セルと接続し、
前記収容セルは、該収容セル内の気体を排出する排気口を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記移送制御流路は、該移送制御流路途中の一部の断面積を増大して形成される液溜部を有し、
前記移送制御流路と前記液溜部とで形成される拡径領域に生じる前記ラプラス力によって前記流体の流出を停止することを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記液溜部は、外部に連通する外部排気口を有することを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記液溜部は、複数の前記移送制御流路と連結することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
前記移送制御流路は、少なくとも一部の内部壁面が疎水性となるように形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
前記流体排出口および前記排気口および/または前記外部排気口を封止する封止部材を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項8】
前記流体導入口を封止する流体導入口封止部材をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流体チップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−27590(P2011−27590A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174474(P2009−174474)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】