説明

マイクロ流路

【課題】 複数の不混和性流体の界面を安定させることが可能であり、かつ簡便な構造を有するマイクロ流路を提供する。さらに、曲がり部を有する場合であっても界面の安定性を失わないマイクロ流路を提供する。
【解決手段】 複数の流路が合流する入口流路(11)および複数の流路に分岐する出口流路(12)を備えたマイクロ流路であって、流路内壁上において流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた少なくとも一対の案内板(7)を有する、前記マイクロ流路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成や化学分析などの分野において、不混和性流体の間の界面を安定化して溶媒抽出、気液反応または濃縮等の界面反応を行うためのマイクロ流路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成や化学分析の分野において、反応時間の短縮および高収率の化学合成を行うために、マイクロ加工(MEMS:Micro Electro Mechanical System)技術を用いて製作された断面寸法が数十〜数百μmの流路から構成されるマイクロ流路またはマイクロリアクタが使用されはじめている。水と有機溶媒、気体と液体等の不混和性流体をマイクロ流路内に流通させた場合、流体の体積に対する流体間の界面の面積は大きくなるため、界面反応の効率が向上する。また、マイクロ流路内では複数の不混和性流体は分離して層状に流れているため、界面反応後の複数の不混和性流体の分離も可能である。
【0003】
特許文献1には、マイクロ流路の底部にガイド条を設けることにより、複数の不混和性流体の間の界面を安定化し、流体間の接触時間を増大させ溶媒抽出効率を向上させることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、マイクロ流路に複数の細孔を有する隔壁を設け、隔壁に隔てられた不混和性流体間の圧力差に応じて隔壁が変形することにより圧力差を減少させ、細孔径を大きくして溶媒抽出効率を向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献1の技術では、流体界面を制御するガイド条は流路の底部にのみ設置されており、流体界面端部の一方しか制御されていない。一般に、流体間の接触時間を増大させるためには流路を長くするが、限られたスペースでは曲線状の曲がり部を設けて流路を折り返す必要がある。曲がり部では流れにより遠心力が働くため、流路断面内の流れが生じる。そのため、流体界面端部の一方しか制御されていない場合、界面が不安定になり、流路出口で複数の不混和性流体を分離できない可能性がある。また、特許文献1の技術は、複数の流体を水平方向に分離するのに適した構造を有するものなので、密度の異なる流体を流す場合、界面が不安定になりやすい。
【0006】
特許文献2の技術では、2種類の不混和性流体を隔てる隔壁に多数の細孔を加工し、さらに圧力差により隔壁が変形するように隔壁の付根部を波板構造に加工している。特許文献2の技術により界面を安定化させることは可能であるが、マイクロ単位の寸法を有するマイクロ流路にこのような多孔性の隔壁を形成することは非常に困難であるため、製造工程が複雑となり、生産コストが増大すると考えられる。
【特許文献1】特開2002−1102号公報
【特許文献2】特開2003−24753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、複数の不混和性流体の界面を安定させることが可能であり、かつ簡便な構造を有するマイクロ流路を提供することである。さらに、流路が曲がり部を有する場合であっても界面の安定性を失わないマイクロ流路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、流路内壁上に一対の案内板を設けることによって上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)複数の流路が合流する入口流路および複数の流路に分岐する出口流路を備えたマイクロ流路であって、流路内壁上において流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた少なくとも一対の案内板を有する、前記マイクロ流路。
(2)流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出している、(1)記載のマイクロ流路。
(3)流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に水平になるように案内板が設置されている、(1)または(2)記載のマイクロ流路。
(4)複数対の案内板を有し、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に互いに平行である、(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(5)マイクロ流路内に流通させる複数の不混和性流体間に生じる界面の数と同数の対の案内板を有する、(1)〜(4)のいずれかに記載のマイクロ流路。
【0010】
(6)流路断面内の流れの発生を防止しうる構造体を流路内壁上にさらに有する、(1)〜(5)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(7)流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線に対し垂直方向の流路幅が1mm未満である(1)〜(6)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(8)流路が直線部と曲がり部とを有し、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出しており、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも曲がり部の案内板の方が長い、(1)〜(7)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(9)流路が直線部と曲がり部とを有し、曲がり部において、一対の案内板が流路内部で融合して隔壁を形成している、(1)〜(7)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(10)流路が直線部を有し、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出しており、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも入口流路および/または出口流路の案内板の方が長い、(1)〜(9)のいずれかに記載のマイクロ流路。
【0011】
(11)入口流路および/または出口流路において、案内板が融合して隔壁を形成している、(1)〜(9)のいずれかに記載のマイクロ流路。
(12)複数の不混和性流体間で特定の溶質を分離および/または抽出するための、(1)〜(11)のいずれかに記載のマイクロ流路を含むマイクロ抽出器。
(13)気体と液体を流し、気体と液体の界面で気液反応を行うための、(1)〜(11)のいずれかに記載のマイクロ流路を含むマイクロリアクタ。
(14)気体と液体を流し、液体中の溶媒を気体中に蒸発させて溶質を濃縮するための、(1)〜(11)のいずれかに記載のマイクロ流路を含むマイクロ濃縮器。
(15)(1)〜(11)のいずれかに記載のマイクロ流路、ならびに該マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を備えたマイクロリアクタシステム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マイクロ流路の入口から出口にわたって複数の不混和流体の界面を安定化できるため、流体間の接触時間を増大させて効率的な界面反応を行うことができる。また、流路出口で複数の不混和性流体を容易に分離することができる。
【0013】
また、曲がり部を有する流路においても不混和性流体の界面を安定に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のマイクロ流路は、複数の流路が合流する入口流路および複数の流路に分岐する出口流路を備え、その流路内壁に少なくとも一対の案内板を有する。案内板は流路内壁上において流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた構造を有する。一対の案内板は、流路内壁上の異なる位置に設置された2つの案内板を意味する。
【0015】
本発明のマイクロ流路の形状は特に制限されないが、通常管状である。その断面形状は特に制限されず、例えば、円形、楕円形、半円形、四角形および三角形等の形状が挙げられる。また、マイクロ流路の流路軸は、直線状でも曲線状の構造でもよく、直線部、曲線部および曲がり部を組み合わせた構造でもよい。本発明において、マイクロ流路の流路軸とは、マイクロ流路における流れ方向の軸を意味する。ここで曲がり部とは、マイクロ流路の流路軸が、折り返し形状、円弧形状または角度を持った形状等を有することにより、方向を変える部分を意味する。
【0016】
反応を十分に行うためには、マイクロ流路は流路軸方向にある程度の長さを有することが好ましく、また、マイクロ流路の界面を安定化させて流体間で界面反応を行うためには流路軸が直線部を有することが好ましい。従って、曲がり部と直線部を組み合わせた流路軸の構造が好ましい。曲がり部と直線部を組み合わせた構造とすることにより、マイクロ流路が流路軸方向に長い場合でもマイクロ流路全体をコンパクトにすることができる。
【0017】
マイクロ流路の流路軸方向の長さは、特に制限されず、当業者であれば適宜決定することができる。
【0018】
流路内壁上の案内板は、流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた構造を有する。案内板は、マイクロ流路の入口から出口まで流路軸方向に連続しているのが好ましいが、途中で一部中断していてもよい。案内板の形状は、流路に流体を流した場合にその層状の流れを阻害しないものであれば特に制限されず、平板状でもよいし、突出した先端に行くにしたがって厚さが薄くなる形状などでもよい。
【0019】
好ましくは、案内板は、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出する。案内板の基部とは、流路軸方向に垂直な流路断面において、流路内壁と案内板が結合するまたは接する部分を意味する(例えば、図1(b)における22)。従って、各案内板は、その基部からもう一方の案内板の基部の方向に向かって突出する。すなわち、このような実施形態において一対の案内板は、流路内部において同一平面の一部を構成するため、互いに不混和性の流体を流路に流した場合、その界面を効果的に安定化することができる。例えば、流路軸方向に垂直な流路断面が四角形であり、一方の案内板がその一辺から流路内部に直角に突出している場合、もう一方の案内板はその対辺上の相対する位置から同様に辺に対して直角に突出する(図1(b))。
【0020】
案内板が、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出する場合、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線の長さに対して、片方の案内板が突出する長さは、特に制限されない。一対の案内板の長さは、同じ長さでも異なる長さでもよいが、同じ長さである方が界面の安定性の観点から好ましい。
【0021】
好ましくは、案内板は、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に水平になるように設置されている。ここで実質的に水平とは、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が厳密に水平であることを意味するものではなく、通常20°以下、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下のずれがあってもよい。さらに好ましくは、一対の案内板は、上記と同様に、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出する。このような案内板を有するマイクロ流路は、互いに不混和性の流体を垂直方向に分離して流すのに適している。さらには、密度の異なる流体を、密度の高いものから順に流路の下部から上部に積層させて流すのに特に好適である。そうすることにより、上部に流れる密度の低い流体は、それより下部に流れる密度の高い流体とは混ざりにくくなり、界面を安定化することができる。当業者であれば、マイクロ流路に流す流体の流量等に合わせて、案内板の位置を適宜決定することができる。
【0022】
本発明のマイクロ流路における案内板の対の数は特に制限されず、マイクロ流路に流す不混和性流体の数に合わせて決定することができる。不混和性流体間に生じる界面の数と同数の対の案内板を設置するのが好ましい。複数対の案内板を設置する場合は、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に互いに平行になるように設置するのが好ましい(例えば、図5)。実質的に平行とは、厳密に平行であることを意味するものではなく、通常20°以下、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下のずれがあってもよい。
【0023】
本発明のマイクロ流路は、好ましくは、流路断面内の流れの発生を防止しうる構造体を流路内壁上に有する。ここで流路断面内の流れとは、流路軸方向に直角で、図6に示すような、界面を不安定にする流れを意味する。流路断面内の流れの発生を防止しうる構造体は、特に制限されないが、例えば、図6に示すようなさらなる案内板(21)の構造でもよい。
【0024】
本発明のマイクロ流路の流路幅は、特に制限されないが、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線に対し垂直方向の流路幅が通常1mm未満、好ましくは10〜500μm、より好ましくは10〜100μmである。流路の水平方向の幅および深さも同様の値とすることができる。流路寸法を小さくすることにより、流体中の溶質の拡散距離が小さくなるため、流体間での界面反応の効率を向上させることができる。
【0025】
流路が直線部と曲がり部を有し、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出している実施態様においては、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも曲がり部の案内板の方が長い構造が好ましい。すなわち、このような実施態様においては、一対の案内板の間に形成される開口部が、直線部よりも曲がり部において狭くなる(例えば、図2)。その結果、マイクロ流路に、互いに不混和性の流体を流したときに、流体間に生じる界面の面積は、直線部よりも曲がり部において狭くなる。従って、直線部における広い界面において十分に界面反応が実施され、曲がり部においては、遠心力が働いたとしても界面は安定に維持される。このような実施態様においても、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線は水平とし、すなわち、流体を垂直方向に分離した状態で流すのに適した構造とすることが好ましい。
【0026】
また、入口流路および/または出口流路においても同様に、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも長い構造が好ましい。
【0027】
上記実施態様において、曲がり部、入口流路および出口流路において案内板が突出している長さは、適宜決定することができる。
【0028】
あるいは、マイクロ流路が直線部と曲がり部を有する実施態様において、曲がり部において、一対の案内板が流路内部で融合して隔壁を形成している構造も好ましい。同様に、入口流路および出口流路において、案内板が融合して隔壁を形成している構造も好ましい(例えば、図4)。案内板が融合して隔壁を形成している場合は、当該部分を流れる流体は完全に隔離されるため、界面をさらに安定化することができる。案内板が隔壁を形成する実施態様においては、一部に開口部があってもよい。
【0029】
本発明のマイクロ流路は、当技術分野で通常用いられる方法により製造することができる。例えば図1に示すように、流路の下面、上面、側面および案内板を構成する複数のプレートを接合することにより簡便に製造することができる。案内板は、図1に示すように、流路壁面を構成するプレートの間に案内板用のプレートを挟み込んで形成してもよいし、図1における上蓋および第1流路プレート3、下蓋および第2流路プレート4を、それぞれ一体に成形し、その間に案内板用のプレートを挟み込んで形成してもよい。また、突起した案内板を有する流路壁面を成形し、これを用いて流路を作成することにより案内板を形成してもよい。あるいは、流路を形成した後で、案内板を接着してもよい。
【0030】
また、リソグラフィー技術、例えば、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザー加工、ビーム加工等を用いて、または射出成形により、プレートにマイクロチャンネル構造を形成し、マイクロチャンネル構造を有する2つのプレートを、案内板用のプレートを挟み込みながら、マイクロチャンネル構造が向かい合うように重ね合わせて接合することにより本発明のマイクロ流路を製造することもできる。すなわち、図1において、上蓋および第1流路プレート3によって形成されるチャンネル構造、下蓋および第2流路プレート4によって形成されるチャンネル構造が、各プレートにおける溝として一体に成形されている態様である。本発明のマイクロ流路は、上記のように簡便に製造できる点でも有利である。
【0031】
マイクロ流路を構成するプレートの材質は、特に制限されず、マイクロ流路に流す流体の性質に合わせて適宜決定することができる。例えば、金属、シリコン、樹脂、ガラス、石英等、種々のものを使用できる。各プレートは、当技術分野で通常用いられる方法により、例えば、機械加工、放電加工、エッチング、レーザ加工等により加工され、拡散接合、陽極接合、熱圧着、ろう付け等により接合するか、または接着剤等により接着することができる。
【0032】
水溶液を流す流路内壁を親水処理したり、有機溶媒を流す流路内壁を疎水処理するなど、流路内壁表面を化学処理してもよい。そうすることにより、さらに界面を安定化することが可能である。または、各プレートの材質を親水性材料や疎水性材料にすることもできる。この場合、異種材料間で接合が不可能であれば、各プレートをボルト締め等により積層してもよい。
【0033】
本発明のマイクロ流路では、流路の軸方向にわたって、複数種の不混和性流体の界面を安定化させて層状に流すことが可能となる。界面が生じるような互いに不混和性の流体としては、水溶液および水性懸濁液などの水性液体と有機溶媒および油性懸濁液などの油性液体、ならびに液体と気体などが挙げられる。
【0034】
従って、本発明のマイクロ流路を用いることにより、不混和性溶液間における溶質の分離および抽出、ならびに溶媒抽出を実施することができる。従って本発明は、本発明のマイクロ流路を含む、複数の不混和性流体間で特定の溶質を分離および/または抽出するためのマイクロ抽出器に関する。この場合、密度の低い油性液を上部に、密度の高い水性液を下部に流すことが好ましい。本発明のマイクロ抽出器においては、マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を設置してもよい。
【0035】
また、本発明のマイクロ流路に不混和性流体として気体と液体とを流すことによってその界面で気液反応を実施することもできる。従って本発明は、本発明のマイクロ流路を含む、気体と液体を流し、気体と液体の界面で気液反応を行うためのマイクロリアクタに関する。この場合、密度の低い気体を上部に、密度の高い液体を下部に流すことが好ましい。本発明のマイクロリアクタにおいては、マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を設置してもよい。
【0036】
また、本発明のマイクロ流路に溶液と気体を流し、溶液中の溶媒を気体中に蒸発させて溶質を濃縮することもできる。従って本発明は、本発明のマイクロ流路を含む、気体と液体を流し、液体中の溶媒を気体中に蒸発させて溶質を濃縮するためのマイクロ濃縮器に関する。この場合も同様に、密度の低い気体を上部に、密度の高い液体を下部に流すことが好ましい。本発明のマイクロ濃縮器においては、マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を設置してもよい。
【0037】
さらに、本発明のマイクロ流路、ならびに該マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を備えたマイクロリアクタシステムを用いることにより、上記の溶媒抽出、気液反応、濃縮等の界面反応を最適な温度条件で実施することができ、反応収率を向上させることが可能となる。
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
図1に本発明による一実施例のマイクロ流路の構造を示す。図1(a)は本実施例のマイクロ流路の斜視図、図1(b)は図1(a)のマイクロ流路の流路軸方向に垂直な流路断面図を示す。本実施例において、マイクロ流路は、断面が四角形で流路軸が直線状の管構造を有し、一対の案内板を備えている。図1(b)の断面図において、案内板の基部同士をつなぐ直線は実質的に水平であり、案内板は、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出している。
【0040】
本実施例においてマイクロ流路は、面同士が密着して重ね合わされて接合された5枚のプレート1、2、3、4、8からなる。一番上のプレートは上蓋1であり、一番下のプレートは下蓋2である。上蓋1と下蓋2の間には、第1流路5を形成する第1流路プレート3と案内板プレート8と第2流路6を形成する第2流路プレート4が積層されている。案内板プレート8は、マイクロ流路における入口流路11および出口流路12では、融合して隔壁を形成し、第1流路5と第2流路6を隔てているが、直線部14では図1(b)に示すように、流路内壁から流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた案内板7を形成している。また、流路中央では一対の案内板7により開口部9が形成されている。これにより、入口流路11から流入した2種類の不混和性流体である第1流体15と第2流体16は、開口部9がある位置では、界面10を形成して流れる。案内板7は流路軸方向に延びているため、界面10は流路全体にわたって安定となり、層状となった第1流体15と第2流体16は、出口流路12で融合して隔壁を形成している案内板7により分離される。
【0041】
第1流体15を水溶液、第2流体16を有機溶媒とした場合、第1流路5の内部を親水処理、第2流路6の内部を疎水処理することにより、さらに界面を安定化することが可能である。または、第1流路の材質を親水性材料、第2流路の材質を疎水性材料にすることも可能である。
【0042】
流通させる複数の不混和性流体の密度が異なる場合、第1流体を密度の小さい流体、第2流体を密度の大きい流体とし、密度が小さい流体から順に上部より重力方向に配置することが望ましい。これにより重力の影響を受けても、流体が上下に入れ替わることがなく界面が安定化しやすくなる。
【実施例2】
【0043】
図2に本発明によるマイクロ流路内における案内板の構造の一実施例を上から見た図を示す。本実施例のマイクロ流路は直線部と曲がり部を有する。入口流路11、出口流路12および流路曲がり部13では、流路内壁からの案内板の長さが長くなっており、すなわち、一対の案内板で形成された開口部9が、直線部14における案内板の開口部9よりも狭くなっている。入口流路11では、2種類の不混和性流体が合流するため、流れが発達するまで界面が不安定となるが、案内板の突出長さを長くして開口部9を狭くすることにより界面を安定させることができる。また、出口流路12においても、案内板の突出長さを長くして開口部9を狭くすることにより、2種類の流体を容易に分離することができる。流路の曲がり部13では、図3に示すように流体に曲がりの外側方向に遠心力18が働くため、密度の大きい流体24が曲がりの外側方向に偏ることにより界面10が不安定になる可能性がある。しかし、図2のように流路曲がり部13において、案内板の流路内壁からの突出長さを長くして、開口部9を狭くすることにより、界面を安定させることができる。
【実施例3】
【0044】
図4に本発明によるマイクロ流路内における案内板の構造の一実施例を上から見た図を示す。入口流路11、出口流路12および流路曲がり部13では、一対の案内板が融合して隔壁を形成しているため、流路内の第1流体15と第2流体16が完全に分離され、界面の乱れは生じない。これにより、流体間の界面が存在するのは直線部14のみとなり、界面をより安定させることができる。
【実施例4】
【0045】
図5に本発明による一実施例のマイクロ流路の流路軸方向と垂直な断面図を示す。本実施例では3種類の不混和性流体をマイクロ流路に流すのに好適なマイクロ流路を示す。本実施例においてマイクロ流路は、断面が四角形の管構造を有し、二対の案内板を備えている。3種類の互いに不混和性流体をマイクロ流路に流した場合、2つの界面が生じるため、本実施例のマイクロ流路は、界面の数と同数の対の案内板を有することになる。この断面図において、案内板の基部同士をつなぐ直線は実質的に水平であり、案内板は、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出している。
【0046】
上蓋1と下蓋2の間に3段の流路プレートが存在し、各流路プレート20の間には案内板プレート8が積層され、二対の案内板7が形成されている。各流路には、互いに不混和性の異なる流体が流れることになる。ここで、3種類の不混和性流体は、密度が小さい流体から順に上部より重力方向に配置されることが望ましい。これにより、3種類の不混和性流体の界面10は安定化し、各流体を層状に流すことが可能になり、2つの界面で界面反応を行った後、出口流路12でそれぞれの流体を分離することが可能となる。
【実施例5】
【0047】
図6に本発明による一実施例のマイクロ流路の流路軸方向と垂直な断面図を示す。本実施例では2種類の不混和性流体を流すのに好適なマイクロ流路を示す。本実施例においてマイクロ流路は、断面が四角形の管構造を有し、一対の案内板7を備えている。この断面図において、案内板の基部同士をつなぐ直線は実質的に水平であり、案内板7は、案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に突出している。
【0048】
上蓋1と下蓋2の間に4段の流路プレート20が存在し、流路プレートの間にはプレート8が積層されている。また、上蓋1および下蓋2の流路内部側、ならびに流路プレートの流路内部側には、流路内部に突出しかつ流路軸方向に延びる構造体21が設けられている。本実施例において構造体21は、案内板と類似した構造を有する。
【0049】
第1流体15は上部2段の流路プレート20で形成された第1流路5、第2流体16は下部2段の流路プレートで形成された第2流路6内を流れ、流体間の界面10は案内板7の間に形成される。ここで、構造体21は第1流路5と第2流路6内における流路断面内の流れ19の発生を防止する作用を有する。したがって、本実施例では、流体間の界面をさらに安定化し、各流体を層状に流すことが可能になり、2つの界面で界面反応を行った後、出口流路でそれぞれの流体を容易に分離することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
医薬品、化学工業製品の合成プロセスにおける溶媒抽出、気液反応、濃縮等の界面反応、また、分析化学、医療用分析のための分析装置における複数の試薬の界面反応を効率的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による一実施例のマイクロ流路の斜視図およぶ断面図を示す。
【図2】本発明によるマイクロ流路内における案内板の構造の一実施例を上から見た図を示す。
【図3】従来のマイクロ流路内の断面図を示す。
【図4】本発明によるマイクロ流路内における案内板の構造の一実施例を上から見た図を示す。
【図5】本発明による一実施例のマイクロ流路の断面図を示す。
【図6】本発明による一実施例のマイクロ流路の断面図を示す。
【符号の説明】
【0052】
1…上蓋、2…下蓋、3…第1流路プレート、4…第2流路プレート、5…第1流路、6…第2流路、7…案内板、8…案内板プレート、9…開口部、10…界面、11…入口流路、12…出口流路、13…流路曲がり部、14…流路直線部、15…第1流体、16…第2流体、17…重力、18…遠心力、19…流路断面内の流れ、20…流路プレート、21…構造体、22…案内板基部、23…密度の小さい流体、24…密度の大きい流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路が合流する入口流路および複数の流路に分岐する出口流路を備えたマイクロ流路であって、流路内壁上において流路内部方向に突出しかつ流路軸方向に延びた少なくとも一対の案内板を有する、前記マイクロ流路。
【請求項2】
流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出している、請求項1記載のマイクロ流路。
【請求項3】
流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に水平になるように案内板が設置されている、請求項1または2記載のマイクロ流路。
【請求項4】
複数対の案内板を有し、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線が実質的に互いに平行である、請求項1〜3のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項5】
マイクロ流路内に流通させる複数の不混和性流体間に生じる界面の数と同数の対の案内板を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項6】
流路断面内の流れの発生を防止しうる構造体を流路内壁上にさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項7】
流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線に対し垂直方向の流路幅が1mm未満である請求項1〜6のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項8】
流路が直線部と曲がり部とを有し、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出しており、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも曲がり部の案内板の方が長い、請求項1〜7のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項9】
流路が直線部と曲がり部とを有し、曲がり部において、一対の案内板が流路内部で融合して隔壁を形成している、請求項1〜7のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項10】
流路が直線部を有し、流路軸方向に垂直な流路断面において、一対の案内板の基部同士をつなぐ直線と実質的に平行な方向に案内板が突出しており、案内板が突出している長さが、直線部の案内板よりも入口流路および/または出口流路の案内板の方が長い、請求項1〜9のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項11】
入口流路および/または出口流路において、案内板が融合して隔壁を形成している、請求項1〜9のいずれか1項記載のマイクロ流路。
【請求項12】
複数の不混和性流体間で特定の溶質を分離および/または抽出するための、請求項1〜11のいずれか1項記載のマイクロ流路を含むマイクロ抽出器。
【請求項13】
気体と液体を流し、気体と液体の界面で気液反応を行うための、請求項1〜11のいずれか1項記載のマイクロ流路を含むマイクロリアクタ。
【請求項14】
気体と液体を流し、液体中の溶媒を気体中に蒸発させて溶質を濃縮するための、請求項1〜11のいずれか1項記載のマイクロ流路を含むマイクロ濃縮器。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項記載のマイクロ流路、ならびに該マイクロ流路を加熱または冷却するための熱源または熱交換器を備えたマイクロリアクタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−272231(P2006−272231A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97896(P2005−97896)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】