説明

マイコバクテリア様微生物の捕捉

本発明は、試料から疎水性表面を有する微生物、例えば結核菌(M. tuberculosis)を含むマイコバクテリア等、を捕捉する方法を提供する。この方法は、微生物をpDADMAC等の捕捉試薬に接触させる工程を備える。この捕捉試薬は、疎水性と極性との両方を有し、疎水性を有することにより疎水性相互作用によって微生物に結合し、これにより、微生物を酸性表面に捕捉することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコバクテリア等の疎水性微生物を表面に捕捉すること、及び続いてこれら疎水性微生物の存在有無又は同定のためにアッセイ等の処理を行うことに関する。
【背景技術】
【0002】
病原性マイコバクテリアは、ヒト及び動物における数々の重度感染症に関与している。マイコバクテリアは、疎水性や油性コーティングという特性を有し、ミコール酸又は関連化合物を含む。ミコール酸は、複合水酸化分岐鎖脂肪酸であって、典型的には、C77−80の鎖長範囲の炭化水素鎖を有し、試料操作において深刻な問題を引き起こす。即ち、細菌が、凝集して索状となり、液体表面に浮漂し、遠心分離時に抵抗性を示すことになる。炭化水素鎖は、ヒドロキシル基、メトキシ基、ケト基、又はカルボキシル基等の、部分的に酸化した基を含む場合もあれば含まない場合もある。病原性マイコバクテリアは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(結核(TB)の原因病原体)、MAC複合体(マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス)のマイコバクテリア(主に、マイコバクテリウム・アビウム(M. avium)とマイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M. intracellulare))(AIDS患者の日和見病原体)、ヨーネ菌(M. paratuberculosis)(腸炎を引き起こす)、ライ菌(M.leprae)(ハンセン病を引き起こす)、カンサシ菌(M. kansasii)、マイコバクテリウム・マリヌム(M. marinum)、マイコバクテリウム・フォーチュイタム(M. fortuitum)複合体、その他多数を含む。この他にも多数の非病原性マイコバクテリアが存在し、マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)が含まれる。また、ミコラータ(Mycolata)ファミリーのその他のメンバーも、類似の疎水性コーティング成分を有する。疎水性脂肪酸の鎖長はマイコバクテリアのものより短く、炭素原子が約50のものもあり、約30のものもある。
【0003】
結核症等のマイコバクテリア感染症を診断するためには、生物の存在を、顕微鏡使用法、培養又は分子法、例えばPCR等によって実証する必要がある。顕微鏡使用法は、生物学的試料から直接的に行うことも可能であるが、より一般的には、まず、分析の前に生物学的検体からマイコバクテリアを単離及び濃縮する。生物学的試料は、痰、尿、血液、気管支洗浄液等を含むことができる。診断用として供給される最も日常的な検体の種類の1つは、痰である。痰は、細菌学特有の問題を提示する。痰は、事実上は外来性であり、血性、化膿性、及び粘性を有する可能性がある。また、痰は、他の微生物、例えばシュードモナス(pseudomonas)が混入する可能性もある。
【0004】
一般的に、痰は薄く、加えて、各種前処理の使用により混入物が除去される。これら処理は、N−アセチルL−システイン、ドデシル硫酸ナトリウム、シュウ酸、又はリン酸三ナトリウムともに、又は単独で0.25−0.5Mの水酸化ナトリウムを使用することを含む。処理時間は、20−120分とすることができる。これら処理は、痰を薄め、混入生物の大部分を殺傷することを目的としている。マイコバクテリアは、厚い油性コーティングを備え、このような処理に対してより耐性がある。それでも、結核菌の60%までが、この処理によって殺傷される又は生存不可能な状態になると推定されている。さらに、結核菌及びファミリーの他のメンバーの成長はかなり遅いため、この処理によって殺傷されなかった混入生物の成長が問題となり、この速く成長する混入物が培地の主要な部分において過剰に増大することになる。
【0005】
過激な混入物除去処理を行った後、試料を遠心分離機にかけることによりマイコバクテリアを濃縮し、その後マイコバクテリアを顕微鏡使用法、培養、又は分子増幅によって分析する。この遠心分離工程は、遠心分離中に亀裂又は破損したチューブから内容物が噴霧されることにより、実験室職員への感染の危険性を生じさせ、環境を汚染する。また、遠心分離は、制限された数の試料のみが1度に遠心分離可能であるため、試料の処理においてボトルネック(制約)が生じる。さらに、遠心分離は、過激な混入物除去工程によって変性した不溶性物質を全てペレット化(沈殿)するため、非常に大きなペレットが得られることになり、これが顕微鏡使用法又は分子法において問題を引き起こす。
【0006】
現在の混入物除去及び濃縮手法には上述の問題が存在するため、マイコバクテリアを生物学的試料から直接的に捕捉することができれば、これは極めて有用なものとなる。本手段が、化学的な混入物除去を必要とせずに混入生物の幾らか又は全てを除去できる、又は過激な条件を軽減して実施できれば、有用なものとなる。また、このことは、精製されたマイコバクテリアの生存率を高め、後続試験の感度を増大させることになる。
【0007】
試料処理以外の他の応用例において、マイコバクテリアを固体表面に結合させることにより、生物の濃縮又は操作が容易なものとなる。この生物の濃縮又は操作としては、例えば、ファージ溶液からマイコバクテリアを捕捉及び洗浄することにより外来性非感染性ファージを除去する、又はある溶液から他の溶液へとマイコバクテリアを捕捉及び運搬すること等が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Stratmannら J clin Microbiol. 2002 November; 40(11): 4244-4250
【非特許文献2】Grant I.R.ら Appl Environ Microbiol. 1998 Sep; 64 (9):3153-8
【非特許文献3】Hetland Gら Immunology 1994, 82, 445-449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイコバクテリアを固体表面に捕捉する方法は、既に提案されている。この方法は、結合ファージ又はファージ由来の結合ペプチドを使用すると、ビーズ上に固定され、捕捉試薬として作用すること(非特許文献1)、及び、抗体がコーティングされたビーズを用いて牛乳からヨーネ菌(M. paratuberculosis)を単離すること(非特許文献2)を含む。しかしながら、これら方法は、特に発展途上国において多量に使用するには費用がかかりすぎることがあり、そして、全ての所望の細菌が捕捉される訳ではない点で具体的ではなく、プロテアーゼ、変性及び過激な化学薬品の影響を受け易いタンパク質ベースの分子に関与するものである。
【0010】
非特許文献3によると、ラテックス製マイクロビーズをBCGでコーティングすることが、これらビーズを培養及び分離した細菌とともに培養することによって可能となる。しかしながら、この方法は、その他の疎水性生物又は物質を含む生物学的試料からこのような細菌を効率的に捕捉するには、有効性が低い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
我々は、ポリジアリルジメチル塩化アンモニウム(p−DADMAC)が、マイコバクテリアをカルボン酸マイクロビーズに結合させることを観察した。次に示す理論にとらわれる必要はないが、我々は、p−DADMACの主鎖が疎水的にマイコバクテリアの油性コーティングと相互作用し、p−DADMACの主鎖の正電荷もまたマイコバクテリア表面の負電荷と相互作用し、そして、p−DADMACは、そのペンダント第4級アンモニウム基を介して、マイクロビーズのカルボン酸とイオン的に相互作用するということを確信している。我々はまた、p−DADMACがコーティングされたプラスチック及びガラス等の表面が、マイコバクテリアと直接的に結合できることを観察した。
【0012】
このようにして、マイコバクテリアは、p−DADMACがコーティングされた表面に直接的に捕捉される、又は表面に間接的に捕捉されることが可能である。
【0013】
したがって、ここで、本発明は、第1態様において、試料から疎水性表面を有する微生物を捕捉する方法を提供する。この方法は、微生物を捕捉試薬に接触させる工程を備える。捕捉試薬は、疎水性と極性との両方を有し、該疎水性を有することにより微生物との疎水性相互作用によって微生物に結合する。捕捉試薬は、表面に存在し且つ微生物を該表面に捕捉する、又は溶液中に存在する。この方法はさらに、表面と捕捉試薬間の極性相互作用を用いて捕捉試薬を表面に結合させることによって、微生物を表面に捕捉する工程を備える。
【0014】
好ましくは、上述の方法は、溶液中の捕捉試薬を用いて行われる。したがって、この方法は、溶液中で微生物を捕捉試薬に接触させる工程を備える。捕捉試薬は、疎水性と極性(例えばポリイオン性)の両方を有する。捕捉試薬は、疎水性を有することにより、微生物との疎水性相互作用を用いて微生物と結合する。そして、この方法は、表面と捕捉試薬間の極性相互作用を用いて捕捉試薬を表面に結合させることによって、微生物を表面に捕捉する工程を備える。
【0015】
試料は、痰、尿、血液、気管支洗浄液等の液体試料であってもよく、組織生検等の固体試料であってもよい。組織生検としては、例えば皮膚試料が挙げられる。好ましくは、微生物を液体中に抽出する又は分散させる処理を行うことにより、液体試料を生成する。
【0016】
任意で、捕捉試薬は、複数の極性部位(例えばイオン性部位)を有する長鎖炭化水素を含む。複数の極性又はイオン性部位は、鎖の一部分(例えば端部)にともに配されてもよく、p−DADMAC内の如く、鎖に沿って離れて配されてもよい。
【0017】
捕捉試薬は、p−DADMACについていえば、陰イオン性であってもよいが、好ましくは陽イオン性であり、好ましくはポリジアリルジメチル塩化アンモニウム(DADMAC)自体である。殆どの細菌性細胞は負に荷電するため、p−DADMACがマイコバクテリアの油性コーティングに結合する影響により、細胞が正味の正電荷に転換される。これは、p−DADMACと結合しない他の混入生物が負電荷のまま維持され、マイクロビーズに結合しないことが確実であるという点で有利である。
【0018】
さらに、直接的捕捉の実施形態において、十分に疎水性でない生物は、界面活性剤存在下でp−DADMACコーティングされた表面に結合しない。したがって、捕捉される生物の種類の選択性が得られることになる。
【0019】
考えうる他の捕捉試薬は、ポリリシン又はポリエチレンイミンを含む。1つの選択肢は、疎水性アミノ酸(例えば、トリプトファン、ロイシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、システイン、又はフェニルアラニン等)、及び極性アミノ酸(例えばリジン等)のランダム又はブロック共重合体である。
【0020】
捕捉試薬は、好ましくは、性質上十分に疎水性であることにより、プラスチック(例えば、通常タンパク質を結合するために用いられるポリスチレンマイクロプレート)と疎水的に結合するべきであり、あるいは、極性相互作用を有するか又は表面に疎水的に結合する程性質上十分に疎水性であるかのいずれかによって、ガラス又はガラス様表面に結合可能なものであってもよい。これにより、顕微鏡のスライドやカバースリップにおいて、適切に観察可能となる。しかしながら、捕捉試薬は、性質上十分に疎水性であり、少なくとも適切な界面活性剤又は許容量の有機共溶媒(DMSO等)の存在下において、水又は緩衝水性溶媒に可溶である必要がある。したがって、捕捉試薬は、試料及びその他の使用材料の混合物において可溶である。
【0021】
上記理論に捉われずに、本発明は、第2の独立態様において、液体試料から疎水性表面を有する微生物を捕捉する方法を提供する。本方法は、微生物を可溶性捕捉試薬に接触させる工程を備え、この可溶性捕捉試薬がポリDADMACを含むことにより、捕捉試薬が微生物に結合する。本方法はさらに、捕捉試薬を表面に結合させることによって、微生物を表面に捕捉する工程を備える。
【0022】
本発明のどちらの態様においても、この表面はビーズによって好適に提供される。これらビーズは、マイクロ又はナノ寸法のビーズであってもよい。適切には、ビーズは常磁性体であることにより、液体媒体から容易に分離される。ビーズは、カルボン酸ポリマー表面、又は硫酸もしくはリン酸基の特性を有する表面であってもよい。
【0023】
ポリ−DADMACの分子量は、100,000未満(非常に小さい)、100,000−200,000(小さい)、200,000−400,000もしくは500,000(中)、又は500,000を超える(大きい)範囲であってもよい。
【0024】
好ましくは、試料は、1つ以上の界面活性剤を含む界面活性剤系の存在下で、捕捉試薬と接触する。この界面活性剤は所望の微生物との結合選択性を向上させるものである。望ましくは、微生物は、試料中に存在する混入疎水性物質の幾らかもしくは全てに結合することなく、又は試料中に存在する捕捉を望まない微生物の幾らかもしくは全てに結合することなく、固定される。
【0025】
界面活性剤系は、脂肪酸のアミノ酸アミドを含んでもよく、好ましくはN−ラウロイルサルコシンを含む。界面活性剤系は、代わりに、又は更に追加してTritonX界面活性剤、好ましくはToritonX−100を含む。
【0026】
殆どの試料において、捕捉試薬は、好ましくは捕捉緩衝液中に提供される。この捕捉緩衝液は、適切にはpH7−10、より好ましくはpH7−9、例えばpH8−9又はpH8.2−8.6を有し、例えばリン酸緩衝液又はトリス緩衝液が挙げられる。多量のムコ多糖(多数のカルボン酸基を含む)を含む非常に濃厚な粘液性痰の試料においては、捕捉には低いpHが有益である場合がある。十分に低いpHにおいては、カルボキシル基が中性化され、マイコバクテリアの結合表面に存在するpDADMAC又は他の硫酸もしくはリン酸基を干渉せず、そして後のpDADMAC又はその他表面の捕捉も干渉しない。このような条件は、高い粘液状の試料を処理することを目的としているが、全ての試料に用いられてもよい。適切には、この場合の捕捉試薬のpHは0から4であり、pH4はカルボン酸基をプロトン化するのに十分低いpHである。したがって、固体表面の選択に応じて、捕捉試薬のpHは少なくとも0から10であってもよい。
【0027】
試薬の処理は、勿論、混入物の除去段階を含む。この段階では、試料又は捕捉された微生物を担う表面が処理され、関心のある微生物以外は生存能力を有さない微生物となる。これは、N−アセチルシステインとともに、または単独で本目的のために公知の物質(例えば水酸化ナトリウム)を用いて実施されてもよく、N−アセチルシステインを単独で用いてもよい。本工程の目的は、捕捉された関心のある微生物を生存能力がある状態で維持することである。
【0028】
捕捉された微生物は、具体的にはマイコバクテリウムであってもよく、上述したうちのいずれであってもよい。
【0029】
本発明は、微生物を検出する方法を含む。本方法は、上述した方法により微生物を表面に捕捉する工程と、捕捉された微生物を洗浄する工程と、捕捉された微生物を、表面上で又は表面から移動させた後に検出する工程を備える。
【0030】
使用される検出方法は、検出すべき微生物に適切な任意の方法であってよい。一般的に、マイコバクテリア、特に結核菌(M tuberculosis)については、培養及び顕微鏡使用検出法(例えば染色法による)、PCR(Polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応法)、TMA(Transcription mediated amplification;転写介在増幅法)、SDA(Strand displacement assay ;鎖置換法)又は、生物自身の核酸を直接的な対象としたその他の増殖及び検出手法、及びFASTPlaqueTBを含むファージベースの方法が挙げられる。FASTPlaqueTBとは、マイコバクテリウム感染ファージが添加され、細胞内へ侵入が可能となり、細胞外に残存するファージが殺傷され、その後さらに培養することによって細胞からファージが放出され、放出されたファージの存在が、追加的な微生物を感染することによって検出される方法である。
【0031】
物質又は選択された主要物質、即ち上述の微生物検出方法を実施するために必要な物質は、キットの形態で提供されてもよい。したがって、本発明は、疎水性とポリイオン性との両方を有するとともに、疎水性を有することにより被検微生物との疎水性相互作用を用いて被検微生物に結合する能力を有する可溶性捕捉試薬と、表面と捕捉試薬間の極性相互作用を用いて捕捉試薬を表面に結合させることによって微生物を表面に捕捉するための表面を有する基質とを含む微生物アッセイキットを含む。本キットは、さらに、微生物に感染可能なファージと、微生物又はファージのゲノム核酸の増幅を実施するためのプライマーと、微生物を培養するための培地と、顕微鏡検査のために微生物を視覚化するための染色剤と、微生物に結合する抗体(全抗体、又は全抗体の選択的結合親和性を有する部分)、又は、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用する検出試薬から選択される少なくとも1つを含む。
【0032】
上述した本発明に基づき、また、試料は、ガス状(例えば、空気、微生物を空気同伴して取り込んだ試料)であってもよい。このような試料は、捕捉試薬中に気泡化されることにより、微生物を捕捉試薬に結合させてもよい。
【0033】
他の方法として、本発明は、固体表面上をコーティングすることにより固体表面上に固定されるとともに、疎水性とポリイオン性の両方を有し且つ被検微生物に結合する能力を有する捕捉試薬を含む微生物アッセイキットを含む。本キットは、さらに、微生物に感染可能なファージと、微生物又はファージのゲノム核酸の増幅を実施するためのプライマーと、微生物を培養するための培地と、顕微鏡検査のために微生物を視覚化するための染色剤と、微生物に結合する抗体(全抗体、又は全抗体の選択的結合親和性を有する部分)、又は、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用される検出試薬から選択される少なくとも1つを含む。
【0034】
固体表面とは、顕微鏡のスライドであってもよい。
【0035】
好ましくは、捕捉されたマイコバクテリアは、直接的又は間接的に捕捉され、この捕捉によって損傷を受けることがなく、生存可能状態を維持している。したがって、本発明は、生物の薬物感受性試験に用いられることも可能である。一態様では、マイコバクテリアは、薬物が生物に影響を与えることが可能となるように薬物にさらされてもよい。続いて、マイコバクテリアは明細書に記載の任意の方法によって捕捉され、上述した方法(生存能力染色を用いた顕微鏡使用法、ファージベースの方法、培養ベースの方法、又はPCRベースの方法を含む)の幾つかを用いて、生存能力が調査される。その他の態様では、マイコバクテリアはまず、本明細書に記載された方法のいずれかによって捕捉され、その後、薬物が生物に影響を与えることが可能となるように薬物にさらされる。続いて、上述した方法(生存能力染色を用いた顕微鏡使用法、ファージベースの方法、培養ベースの方法、又はPCRベースの方法を含む)の幾つかを用いて、生存能力が調査される。使用される薬物は、結核菌を処理するために一般的に使用される薬物、例えば、リファンピシン、ストレプトマイシン、イソニアジド、エタンブトール、ピラジンアミド、及びシプロフロキサシンを含む。
【0036】
物質又は選択された主要物質、即ち上述した微生物薬物感受性方法の実施に必要な物質は、キットの形態で提供されてもよい。したがって、本発明は、微生物薬物感受性アッセイキットを含み、本キットは、疎水性とポリイオン性との両方を有するとともに、該疎水性を有することにより被検微生物との疎水性相互作用を用いて被検微生物に結合する能力を有する可溶性捕捉試薬と、表面と捕捉試薬間の極性相互作用を用いて捕捉試薬を表面に結合させることによって、微生物を表面に捕捉するための表面を有する基質とを含む。本キットは、さらに、1種以上の被検薬物と、捕捉された微生物が生存可能であるか否かを決定するための手段のいずれか又は両方を含む。この決定手段は、顕微鏡検査用に微生物を視覚化するための生存能力を示す染色剤と、微生物を感染可能なファージと、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用する検出試薬のうちの1種以上であってもよい。本キットは、既に含まれていない場合には、任意で、微生物に感染可能なファージと、微生物又はファージのゲノム核酸の増幅を実施するためのプライマーと、微生物を培養するための培地と、顕微鏡検査のために微生物を視覚化するための染色剤と、微生物に結合する抗体(全抗体、又は全抗体の選択的結合親和性を有する部分)、又は、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用される検出試薬のうちの1種以上を含む。
【0037】
あるいは、本発明は、微生物薬物感受性アッセイキットを含み、本キットは、固体表面上をコーティングすることにより固体表面上に固定される捕捉試薬を含む。この捕捉試薬は、疎水性とポリイオン性の両方を有することにより、被検微生物に結合する能力を有する。本キットはさらに、1種以上の被検薬物と、捕捉された微生物が生存可能であるか否かを決定するための手段のいずれか又は両方を含む。この決定手段は、顕微鏡検査用に微生物を視覚化するための生存能力を示す染色剤と、微生物を感染可能なファージと、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用する検出試薬のうちの1種以上であってもよい。本キットは、既に含まれていない場合には、任意で、1以上の被検薬物と、微生物に感染可能なファージと、微生物又はファージのゲノム核酸の増幅を実施するためのプライマーと、微生物を培養するための培地と、顕微鏡検査のために微生物を視覚化するための染色剤と、微生物に結合する抗体(全抗体、又は全抗体の選択的結合親和性を有する部分)、又は、微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用される検出試薬を含む。
【0038】
固体表面は、顕微鏡のスライドであってもよい。
【0039】
結核菌(M. tuberculosis)は、肺又は喉頭部のTB疾患を有する感染患者が、咳、くしゃみ、又は叫び声をあげたときに生じる浮遊微小粒子(飛沫核)内で運ばれる。粒子は、略1−5μmであり、空中浮遊状態で何時間か残存し、確実に部屋又は建物全体に広がる。感染を受け易い人物が結核菌を含む飛沫核を吸入し、口腔又は鼻腔、上気道、及び気管支をわたって肺胞へと到達し、感染が発生する。また、MDR結核菌は、バイオテロリズムのCDCによってカテゴリーCの剤として分類されており、その運搬機構は、浮遊エアロゾルの発生である可能性がある。
【0040】
医療保健業務従事者、即ち感染患者周辺の他の人々や、吸収による感染危機から救出するための軍関係者を保護することが望ましい。さらに、TB感染試料、TB培地、及びその他の病原性マイコバクテリア(糞便中のヨーネ菌(M. paratuberculosis)等)を含む試料を処理する実験室職員もまた、感染の危険性がある。現在、医療保険業務従事者及び実験室職員は、フェイスマスク、又はより高機能の粒子フィルターレスピレータを用いて、感染を防ぐように努めている。
【0041】
CDCは、1−5μmの範囲の最小粒子を効率的にフィルター可能な、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)認定の粒子フィルターレスピレータ(例えば、N95、N99、又はN100)を使用するべきとして推奨している。フェイスマスクは、一般的には、簡素な織布又は不織布材料から構成される。これらフェイスマスクは、数層であってもよく、定義された孔の大きさを要する仕様であってもよい。しかしながら、大抵のマスクは、レスピレータとしてNIOSH認定されておらず、使用者がTBに暴露されることから十分に保護せず、呼吸保護のためのOSHAの必要条件を満たしていない。研究結果によると、呼吸保護をすることは、以下の割合によって(保護しない場合と比較して)医療従事者の感染の危険性を低減できると推定されている。外科手術用のフェイスマスク2.4倍、使い捨て防塵、煙、噴霧、又は使い捨て高性能微粒子エアフィルター(HEPA)マスク17.5倍、エラストマー系HEPAカートリッジレスピレーター45.5倍、又はろ過式レスピレータ(PAPR)238倍(J occup Environ Med. 1997 Sep; 39 (9): 849-54)。
【0042】
粒子フィルターレスピレータは、高性能に保護できる一方、費用が高く、使用が制限されるという欠点を有する。浮遊マイコバクテリア感染から使用者を更に保護できる改良された使い捨てフェイスマスクが、レスピレータを利用できない又は使用に適さない状況において必要とされている。この状況とは、発展途上国及び実験室周囲環境である。必要とされているものは、感染患者から生じる及び実験室で誤って生じるマイコバクテリウム含有エアロゾルに結合する特異的且つ効率的な方法を付与するフェイスマスク及び/又はフィルターであり、これは、使用者の保護基準を非常に向上させる。
【0043】
したがって、本発明は、ガス流を濾過するためのフィルターを提供することにより、その中に同伴される微生物を除去する。このフィルターは、極性表面及びその極性表面上または上流に捕捉試薬を含む。捕捉試薬は、疎水性と極性(例えば、ポリイオン性)との両方を有し、疎水性を有することにより、疎水性相互作用によって疎水的にコーティングされた細菌に結合し、極性(例えば、ポリイオン性)を有することにより、極性表面に結合する又は結合するように構成される。
【0044】
フィルターは、着用者を保護するためのフェイスマスクの形態であってもよく、フェイスマスク又はヘルメットに取り付けられるフィルターユニットであってもよい。フィルターは、給気ダクトに設置された又は設置されるためのフィルターであってもよい。
【0045】
本発明の好適な態様では、より良い保護性を提供するために、フェイスマスクは、疎水性と極性(例えば、ポリイオン性)との両方を有する可溶性捕捉試薬に含浸させて提供可能である。捕捉試薬は、疎水性を有することにより疎水性相互作用によって微生物に結合し、極性(例えば、ポリイオン性)を有することにより極性相互作用によってイオン性表面に結合する。
【0046】
可溶性捕捉試薬は、好適な固相マスク材料(例えばフェイスマスクのフィルター材料等)の上に散布され、その後、製品梱包前に乾燥させることができる。フェイスマスクは、その使用時、使用者の呼気により湿気が生じ、その後、捕捉試薬がマスク材料表面の湿気を帯びた層において可溶することになる。この表面にマイコバクテリア含有エアロゾルが影響すると、可溶性捕捉試薬がマイコバクテリア細胞に迅速に結合する結果となる。マスクにおいて固相材料(ポリイオン性)を使用することにより、固相にマイコバクテリウムを固定することになる。このことは、吸入中に表面から感染性エアロゾルを更に生じさせるという可能性を排除し、操作者に高レベルの保護性を付与することになる。
【0047】
第1実施例では、可溶性捕捉試薬は、エアロゾルの影響が及ぶ前に、湿気を帯びたマスクのポリイオン性の固相材料に結合することになる。このことは、表面が捕捉試薬で飽和するために、マイコバクテリウムの捕捉の効率性を下げるという影響を与える可能性があり、影響を及ぼすエアロゾル中でマイコバクテリウム細胞/可溶性捕捉試薬複合体の結合がなくなることになる。あるいは、結合した捕捉試薬は、固相からの干渉効力によって微生物への親和性又は結合力が低減する可能性がある。
【0048】
この欠点は、2層のフェイスマスク、即ち、可溶性捕捉試薬を含浸させた第1外層を中性且つ非荷電の材料の上に備えるフェイスマスクを使用することにより克服可能である。影響を及ぼすエアロゾルは、マイコバクテリウム/可溶性捕捉試薬複合体の形成をもたらした後、フェイスマスク構造の第2内層におけるポリイオン性材料によって強固に固定されることになる。
【0049】
したがって、本発明は初めに記載したフィルターを含み、捕捉試薬は、極性表面の上流に捕捉試薬に対して低い結合親和性を有する固体表面上に付与される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例10において、工程5中(左手側パネル)と工程6後(右手側パネル)のマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)のチール・ネルゼン染色による顕微鏡像を示す。
【図2】実施例10の工程6で、ビーズから単離された微生物を高倍率(上パネル)及び低倍率(下パネル)で示す。
【図3】実施例11において、コーティングされた(左)及びコーティングされていない(右)状態を示す。
【図4】実施例12で捕捉されたマイコバクテリアであり、染色により生存能力を示した。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、以下に示す実施例によってさらに記載及び図示される。これらの実施例において、マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に共通した性質を多く共有しているが感染性を有さないため、マイコバクテリウム属の代表的なモデル生物として用いた。
【0052】
(実施例)
(実施例1)pDADMACリガンドと捕捉ビーズの滴定
<原理>本実験は、マイコバクテリウムの捕捉に使用されるリガンドとビーズの最適量を決定するために実施された。捕捉されたマイコバクテリウムの量はマイコバクテリウムゲノムのPCRによって分析された。
【0053】
<方法>
1. マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)の培養物1μlを反復して、1mlの7H9 OADC(10%OADCが補充された7H9培地。Difco社製)培養培地中に作製した。
2. 250μlの5×捕捉緩衝液(250mMのTris、pH8.3、5%(w/v)のN−ラウロイルサルコシン、5%(v/v)のTritonX−100、5%(w/v)のBSA)を添加し、混合した。
3. 水に希釈された様々な量のpDADMAC(Sigma Aldrich社製、培地分子量400,000−500,000)を添加、混合及び15分間培養した。
4. MyOneカルボン酸常磁性ビーズを、pDADMACの最初の量に対して10:1の体積比で添加し、混合及び15分間培養した。
5. ビーズを、磁気スタンドを介して捕捉し、1mlのPBSで洗浄した。
6. 20μlの100mM水酸化ナトリウム、0.05%(v/v)のTritonX−100を添加し、ビーズを再懸濁し、95℃で5分間加熱した。
7. 10μlの200mM塩酸を添加し、2μlの溶出液をマイコバクテリウム・スメグマチス用の定量PCRを用いて分析した。
【0054】
<PCR分析>
MJ Research Inc.社(Hercules、カリフォルニア州)のChromo4機器を用いた。Sybr Green キット(Eurogentec社, Seraing,ベルギー)を用いたが、このキットは、DNA二重鎖干渉物質の蛍光性によってPCR生成物を観測することが可能である。使用したPCRのパラメーターは、95℃で10秒間の加熱、プライマーを65℃で15秒間のアニーリング、72℃で15秒間の伸長を含む。PCRのプライマーは、マイコバクテリウム・スメグマチスのゲノムに特異的な、5' TCA GGC CCT CGA AAG CCG ACT GGG 3'、 5' CCA GGA CTC GGT ACA AGA CTC TGC 3'を用いた。
<結果>
【0055】
【表1】

【0056】
<結論>
5μlの0.01%pDADMACが最も良く機能しサイクル25において信号を発し、これに対し、桿菌(bacillus)を含まないコントロール(PCRプライマー−ダイマーのバックグラウンド)はサイクル34で信号を発した。pDADMAC及びビーズを希釈すると、マイコバクテリウム・スメグマチスの回収が徐々に低減した。
【0057】
(実施例2)捕捉効率性の調査
培地に加えられたマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)捕捉の効率性を、アルカリ加熱によって抽出された同量のマイコバクテリウム・スメグマチスと比較して調査し、PCRによって直接的に検出した。
【0058】
<方法>
1. マイコバクテリウム・スメグマチスの培養物の希釈物を、1mlの7H9 OADC(10%OADCが補充された7H9培地。Difco社製)培養培地中に作製した。
2. 250μlの5×捕捉緩衝液(250mMのTris、pH8.3、5%(w/v)のN−ラウロイルサルコシン、5%(v/v)のTritonX−100、5%(w/v)のBSA)を添加し、混合した。
3. 10μlの0.01%(v/v)pDADMAC(Sigma Aldrich社製、培地分子量400,000−500,000)を添加、混合及び15分間培養した。
4. 50μlのMyOneカルボン酸常磁性ビーズを添加し、混合及び15分間培養した。
5. ビーズを、磁気スタンドを介して捕捉し、1mlのPBSで洗浄した。
6. 20μlの100mM水酸化ナトリウム、0.05%(v/v)のTritonX−100を添加し、ビーズを再懸濁し、95℃で5分間加熱した。
7. 10μlの200mM塩酸を添加し、2μlの溶出液をマイコバクテリウム・スメグマチス用の定量PCRを用いて分析した。
8. さらに、1μlの同じマイコバクテリウム・スメグマチス培養物を上記工程6−7で記載される如くアルカリで直接処理し、同様にPCRを用いて分析した。
【0059】
<PCR分析>
PCRは実施例1に記載されている方法を用いた。
【0060】
【表2】

【0061】
<結論>
桿菌の捕捉効率性は、非常に高く、直接的に分析したものと比較して、同量の桿菌が加えられ且つ回収されたものと類似の信号が生じた。ml培地に加えられた僅か10,000の桿菌が回収及び検出されうる。
【0062】
(実施例3)捕捉緩衝液の必要条件の調査
<原理>培地に加えたマイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)を、捕捉緩衝液の存在下又は非存在下で回収した。
【0063】
<方法>
捕捉緩衝液を含まない試料を1つ加えたこと以外は、実施例1に記載の方法を用いた。
【0064】
【表3】

【0065】
<結論>
捕捉緩衝液は桿菌の回収を、桿菌ゲノム及び桿菌に関して、2.5サイクル又は約6倍向上させた。これは、おそらく、培地における界面活性剤の作用、及びマイコバクテリウム・スメグマチスが捕捉試薬に結合することを抑制する阻害要素によって干渉が減少したことによるものである。
【0066】
(実施例4)ファージベースアッセイにおけるマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)のリガンド捕捉の実用性の実証
【0067】
<原理>マイコバクテリアは、宿主バクテリオファージ感染への細菌能力を介して、その生存能力を試験可能である。本手法の1つの課題は、感染した桿菌を外因性の非感染バクテリオファージから分離することである。一旦、外因性のファージから分離されると、桿菌は溶解し、外因性の感染バクテリオファージを調査可能となる。
【0068】
<方法>
100μlのマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)を、10mlの7H9 OADC培地に添加し、37℃で3時間培養した。桿菌を含まないネガティブコントロールも準備した。
100μl(約1010pfus)のD29マイコバクテリアファージを両方のチューブに添加し、これら試料をインキュベーターに戻した。
1mlアリコート(分割量)を、感染後の様々な時点において回収し、マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)を培地から捕捉した(3回の追加的な洗浄がPBSで実施されたこと以外は、実施例1に記載されるものと同様に実施した)。
捕捉された桿菌を、上述の如く溶解させ、外因性の感染ファージゲノムの存在をPCRによって調査した。PCRは、ファージゲノム特異的なプライマーとして5' CCT CGG GCT AAA AAC CAC CTC TGA CC 3'、 5' CTG GGA GAA TGT GAC ACG CCG ACC 3'を使用した以外は上述の方法を用いた。
【0069】
【表4】

【0070】
<結論>
マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)を培地から捕捉する能力により、桿菌が洗浄され、外因性ファージが回収される。連続して検出されるファージは、桿菌に感染したファージのみであった。本実施例では、感染工程を観測するための工程が用いられた。ファージ添加後15分後、桿菌から信号は何も検出されなかった。まだ感染してないファージとファージゲノムは複製されなかった。外因性のファージゲノムは、桿菌では30分時点で出現したが、60分時点で減少し、90分時点でファージが桿菌を複製及び溶解して完全に消滅した。信号は、放出された第2発生複製ファージが次の感染及び複製を受け、120分時点で再度出現した。
【0071】
(実施例5)痰からのマイコバクテリアの捕捉の実証
<原理>痰は、複合性及び粘性基質である。本実験は、この基質がマイコバクテリアの捕捉に干渉しないことを示すために実施された。
【0072】
<方法>
5つの痰試料のプールを準備し、1ml量に分割(アリコート)した。
10μlのマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)培養物を半分のアリコートに添加した。
100μlの5M水酸化ナトリウム、2.5%のN−アセチルシステインを添加し、15分間培養し、痰を薄め、混入物を除去した。
100μlの5M塩酸を添加し、その後、5×250μlの捕捉緩衝液(上述したもの)を添加した。
そして、マイコバクテリウム・スメグマチスが痰から捕捉され、PCRで定量化した(実施例2工程3乃至8に記載される如く)。
【0073】
<結果>
マイコバクテリウム・スメグマチスを含む試料は、PCRサイクル20時点でポジティブであった。桿菌を含まない試料(即ちバックグラウンド)は、PCRサイクル36.3時点でポジティブであった。
【0074】
<結論>
pDADMACを用いた抽出方法とビーズ捕捉は、試料の基質(痰)によって抑制されず、マイコバクテリウム・スメグマチスは試料から上手く回収された。
【0075】
(実施例6)アルカリで薄化及び混入物除去するための必須条件なしに痰からマイコバクテリアを捕捉することの実証
<原理>
痰は、複合性及び粘性基質である。アルカリ処理は痰を薄化させ混入物を除去するが、マイコバクテリアを損傷する可能性がある。本実験は、抽出手順がアルカリ前処理なしに用いられることが可能であることを示すために実施された。再度、マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)をマイコバクテリウム属のモデル生物として用いた。
【0076】
<方法>
5つの痰試料のプールを準備し、1ml量に分割(アリコート)した。
10μlのマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)培養物を半分のアリコートに添加した。
250μlの5×捕捉緩衝液(上述したもの)を添加し、混合した。
その後、マイコバクテリウム・スメグマチスを痰から捕捉し、PCRによって定量化した(実施例2、工程3−8に記載される方法)。
【0077】
<結果>
マイコバクテリウム・スメグマチスを含む試料は、PCRサイクル24.7においてポジティブであった。桿菌(即ちバックグラウンド)を含まない試料はネガティブを維持した。
【0078】
<結論>
pDADMACとビーズ捕捉を用いた抽出方法では、痰をアルカリで事前に処理する必要がなかった。捕捉緩衝液の追加は痰の分解と薄化を十分に生じさせ、続いて試料からマイコバクテリウム・スメグマチスを回収することが可能であることが観察された。
【0079】
(実施例7)捕捉系中のpDADMACリガンドの必要条件の実証
<原理>本実験は、捕捉試薬(ここでは例えばpDADMAC)がマイコバクテリアの捕捉には非常に重要であり、捕捉試薬非存在下ではマイコバクテリアがカルボキシルビーズに結合しないことを実証するために実施した。
【0080】
<方法>
マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)の固定相培養物の0.5mlのアリコートを遠心分離して生物を沈殿(ペレット)させ、その後生物を捕捉緩衝液(50mM Tris pH8.3、1%(w/v)N−ラウロイルサルコシン、1%(v/v)TritonX−100、1%(w/v)BSA)に再懸濁させた。
1つのアリコート10μlに、0.01%pDADMACを添加及び混合し、15分間培養した。pDADMACを含まない同一のアリコートを添加し、15分間静置した。
50μlのMyOneカルボン酸常磁性ビーズ(使用前にdHOで3回洗浄し、最初の量のdHO中に再懸濁したもの)を各アリコートに添加し、15分間培養した。その後アリコートを磁石上に配し、生物の不透明な懸濁液の透明化を視覚で評価した。
その後、浮遊物を除去し、保存した。
その後、ビーズを1×捕捉緩衝液で洗浄し、7H9 OADC培地で2回洗浄し、この培地1mlで再懸濁した。
浮遊物とビーズ懸濁液の0.1μlの同等物を7H9 OADC寒天プレート上にプレーティングし、2日間37℃で培養した。その後、各プレート上のコロニー数を数えた。
【0081】
<結果>
磁気ビーズを追加し、アリコートを磁石上に配した後、pDADMAC捕捉試薬とともに培養を行ったアリコートでは大幅に透明化がみられた。これは、懸濁液中の生物の殆どが磁気粒子上に捕捉されたためであった。捕捉試薬を含まないアリコートは、生物が懸濁液に残されているため、不透明なまま維持された。捕捉試薬の存在下又は非存在下で捕捉された及び捕捉されなかった桿菌の数を寒天プレート培地から数え、一覧とした(下記表を参照)。
【0082】
【表5】

【0083】
<結論>
マイコバクテリアの捕捉は、視覚的濁度によってカルボン酸ビーズを介して決定すると、pDADMACの存在に依存した。この視覚的観測は、微生物学的定量法によって確認された。捕捉試薬の存在下ではマイコバクテリアの大半が捕捉される一方、捕捉試薬の非存在下ではビーズの吸収は最小限であった。
【0084】
(実施例8)マイコバクテリアのリガンド捕捉選択性の実証
<原理>本実験は、pDADMAC捕捉試薬が、特異的にマイコバクテリアに結合し、他の試験生物(代表的なグラム陰性菌及びグラム陽性菌を含み、関連生物検体を混入する可能性がある)には結合しないことを実証するために実施された。
【0085】
<方法>
マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び大腸菌(Escherichia coli)の固定相培養物の0.5mlアリコートを遠心分離して生物を沈殿(ペレット)させ、その後生物を捕捉緩衝液(50mM Tris pH8.3、1%(w/v)N−ラウロイルサルコシン、1%(v/v)TritonX−100、1%(w/v)BSA)に再懸濁させた。
各生物の各アリコートに、10μlの0.01%pDADMACを添加及び混合し、15分間培養した。
50μlのMyOneカルボン酸常磁性ビーズ(使用前にdHOで3回洗浄し、最初の量のdHO中に再懸濁したもの)を各アリコートに添加し、15分間培養した。その後アリコートを磁石上に配し、生物の不透明な懸濁液の透明化を視覚で評価した。
その後、浮遊物を除去し、保存した。
その後、ビーズを1×捕捉緩衝液で洗浄した。マイコバクテリウム・スメグマチスのアリコートを7H9 OADC培地で2回洗浄し、この培地1mlで再懸濁した。その他の生物を同様にミュラーヒントン培地で洗浄し、この培地1ml中に再懸濁させた。
浮遊物とビーズ懸濁液の0.1μlの同等物を、マイコバクテリウム・スメグマチス用の7H9 OADC寒天プレート上、又はその他の生物用のミュラーヒントン培地上のいずれかにプレーティングし、細菌のコロニーが出現するまで37℃で培養した。その後、各プレート上のコロニー数を数えた。
【0086】
<結果>
上記と同様に、マイコバクテリウム・スメグマチスの懸濁液は、磁気上に配された時に透明であったが、これは生物が溶液から捕捉されていたことを実証するものである。試験を行った全ての他の生物の懸濁液は、非常に不透明なままであったが、これは生物が捕捉されておらず懸濁液に残存していることを示している。捕捉された及び捕捉されていない桿菌の数を寒天プレート培地から数え、一覧にした。
【0087】
【表6】

【0088】
<結論>
pDADMAC捕捉試薬は、マイコバクテリウム(マイコバクテリウム・スメグマチス)を特異的に捕捉することが可能であった。他の試験生物は、この捕捉試薬に結合せず、捕捉されなかった。
【0089】
(実施例9)特異的捕捉に必要な捕捉緩衝液組成物の調査
<原理>本実験は、pDADMACがマイコバクテリアに特異的に結合するために重要な捕捉緩衝液の成分を調査するために行なわれた。
【0090】
<方法>
マイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び大腸菌(Escherichia coli)の固定相培養物の0.5mlアリコートを遠心分離して生物を沈殿(ペレット)させ、その後生物を捕捉緩衝液の様々な構成成分に再懸濁させた。
各生物の各アリコートに、10μlの0.01%pDADMACを添加及び混合し、15分間培養した。各生物の他のアリコートには、捕捉試薬を添加せず、捕捉試薬が介在する捕捉を観測するためのコントロールとした。
50μlのMyOneカルボン酸常磁性ビーズ(使用前にdHOで3回洗浄し、最初の量のdHO中に再懸濁したもの)を各アリコートに添加し、15分間培養した。その後アリコートを磁石上に配し、生物の不透明な懸濁液の透明化を視覚で評価した。
【0091】
<結果>
結果を記録し、下記表に示した。任意の緩衝液条件下で、捕捉試薬の非存在下又は存在下で、ビーズによって捕捉されないマイコバクテリア生物はなかった。マイコバクテリアの捕捉は、pDADMAC捕捉試薬の存在に依存しており、検査した全ての緩衝液条件下で観察された。N−ラウロイルサルコシンのみを含む緩衝液を使用した時には、部分的に捕捉を抑制するように見えた。しかしながら、サルコシンをTriton−X100とともに用いた場合には、捕捉効率性が元の状態に戻った。捕捉試薬にN−ラウロイルサルコシンが含まれていない場合には、ビーズが、マイコバクテリアの捕捉後の再懸濁後に非常に凝集することになる。N−ラウロイルサルコシンを含有することは、この捕捉後の凝集を予防し、ビーズの操作を補助するものであった。このことは、後のビーズ洗浄及び捕捉後の工程及び分析において、重大である。
【0092】
<結論>
上記に実証した如く、マイコバクテリアではない生物は、試験した任意の条件下で、捕捉試薬の存在下又は非存在下で、ビーズに捕捉されなかった。マイコバクテリアの捕捉は捕捉試薬の存在に依存し、試験した全ての条件下で実証できた。捕捉緩衝液中にN−ラウロイルサルコシンを含有することは、捕捉された材料の捕捉後操作及び分析に重要である。
【0093】
【表7】

【0094】
(実施例10)リガンド捕捉によるマイコバクテリア検出と抗酸性顕微鏡法
マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)を溶液から捕捉し、抗酸性チール・ネルゼン(Ziehl Neelson)染色及びオーラミンフェノール蛍光染色の両方を用いて、ビーズ上に直接染色又は溶出後に染色した。
【0095】
<方法>
1. 250μlの5×捕捉緩衝液(250mMのTris、pH8.3、5%(v/v)のTritonX−100、5%両性界面活性剤[3−(n,N−ジメチルミリスチルアンモニア)−プロパンスルホン酸])を、マイコバクテリウム・ボビスの懸濁液を含む1mlの7H9培地に添加した。
2. 10μlの0.01%(v/v)pDADMACを添加、混合及び15分間培養した。
3. 50μlのMyOneカルボン酸常磁性ビーズを添加し、混合及び15分間培養した。
4. ビーズを、磁気スタンドを介して捕捉し、1mlのPBSで洗浄した。
5. 半分量のビーズを顕微鏡のスライド上に配置し、乾燥させ、加熱固定させた(チール・ネルゼン染色の前に行った)。図1の左手側パネルには、リガンド/ビーズから、溶出前に捕捉されたマイコバクテリアが見られる。磁性ビーズは、下部の矢印によって示される。ビーズが捕捉した、高度に凝集した抗酸性マイコバクテリアは、上部矢印によって示され、ビーズに囲まれて観察される。
6. 残存ビーズを100μlのdHOに再懸濁し、10μlのクロロホルムを添加した。クロロホルムを水層と混合させるためにボルテックス(渦状ミキサー)した後、ビーズを磁石を用いてチューブの側面に引き寄せ、スライド上に配置された浮遊物を乾燥、加熱固定し、チール・ネルゼン染色及びオーラミンフェノールの両方を用いて染色した。全ての染色は、Medical Microbiology, a Practical Approach(編集 Peter Hawkey 及び Deidre Lewis、オックスフォードユニバーシティ発行)に記載された方法で実施した。図1の右手側パネルは、捕捉されたマイコバクテリアを、リガンド/ビーズから溶出した後の時点で観察したものである。溶出は抗酸性マイコバクテリアを分散させる(低部矢印)。幾つかのビーズがまだ存在している(上部矢印)。図2はビーズから捕捉された微生物を示す。上部パネルの高倍率では、リガンド捕捉された蛍光性マイコバクテリアの凝集が見られ、下部パネルの低倍率では、マイコバクテリアの蛍光性が分散している典型的な「星影」が見られる。
【0096】
<結果>
マイコバクテリアはリガンド/常磁性ビーズによって捕捉され、溶出することなく、チール・ネルゼン染色した後、高度に凝集したピンク色材料としてみることができ、ビーズに囲まれている。溶出後、マイコバクテリアはビーズから分離され分散する(図1及び図2参照)。
【0097】
<結論>
マイコバクテリアはTB−リガンドによって捕捉可能であり、抗酸性の染色及び顕微鏡法を用いて視覚化可能である。溶出後、マイコバクテリアはビーズから単離され分散する。更なる実験により、リガンド捕捉と染色プロトコルが痰中の臨床的TB試料に対して上手く機能すること、そして蛍光性顕微鏡が更に感度の高い検出のために用いられる可能性があることが実証された。
【0098】
(実施例11)イン・サイチュ(In Situ)染色によるリガンドコーティングされた固体表面上におけるマイコバクテリアの直接的な捕捉、及び顕微鏡法による捕捉された生物の検出
【0099】
<原理>本実験は、p−DADMACコーティングされたスライドへのマイコバクテリアの捕捉を、イン・サイチュ染色及び顕微鏡法を用いて視覚化することにより実証するために行なわれた。
【0100】
<方法>
顕微鏡スライドを2%(v/v)p−DADMAC(20%の原料を蒸留水で希釈したもの)に浸すことにより、このスライドをp−DADMACでコーティングし、蒸発させて乾燥させた。コーティングされていないスライドをコントロールとして用いた。その後、スライドを多量の蒸留水で洗浄して乾燥させた。100μlのマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)培養物を、800μlのdHO及び100μlの捕捉緩衝液(10%(w/v)両性界面活性剤[3−(n,N−ジメチルミリスチルアンモニア)−プロパンスルホン酸]、10%(v/v)のTritonX−100、500mMのTris pH8.3)に添加し、スライド上に配置した。10分間培養した後、スライドを蒸留水で洗浄し、グラム染色した。この方法は、Medical Microbiology, a Practical Approach(編集 Peter Hawkey 及び Deidre Lewis、オックスフォードユニバーシティ発行)に記載されている。
【0101】
<結果>
グラム陽性マイコバクテリアは、p−DADMACコーティングされたスライド上に多数捕捉されていることが顕微鏡によって観測できる(図3参照)。この一方、コーティングされていないスライド上に捕捉されるマイコバクテリアは(仮にあったとしても)非常に数少ない。
【0102】
<結論>
これは、p−DADMACコーティングされたスライドによってマイコバクテリアが捕捉可能であること、及びこれらのマイコバクテリアがイン・サイチュで染色可能であり、顕微鏡で観察可能であることを実証した。また、BCGの培養物、及び抗酸性チール・ネルゼン染色とオーラミンフェノール蛍光染色による染色からも類似の結果が得られた。
【0103】
(実施例12)イン・サイチュ生存能力染色によるリガンドコーティングされた固体表面上におけるマイコバクテリアの直接的な捕捉、及び顕微鏡法による検出
【0104】
<原理>本実験は、p−DADMACコーティングされたスライドへのマイコバクテリアの捕捉が生存能力を維持し、イン・サイチュの生存能力染色によって視覚化され、その後に顕微鏡で見ることが可能であることを実証するために行なわれた。
【0105】
<方法>
顕微鏡スライドを2%(v/v)p−DADMAC(20%の原料を蒸留水で希釈したもの)に浸すことにより、このスライドをp−DADMACでコーティングし、蒸発させて乾燥させた。コーティングされていないスライドをコントロールとして用いた。その後、スライドを多量の蒸留水で洗浄して乾燥させた。100μlのマイコバクテリウム・スメグマチス(M. smegmatis)培養物を、800μlのdHO及び100μlの捕捉緩衝液(10%(w/v)両性界面活性剤[3−(n,N−ジメチルミリスチルアンモニア)−プロパンスルホン酸]、10%(v/v)のTritonX−100、500mMのTris pH8.3)に添加し、スライド上に配置した。10分間培養した後、スライドを、7H9において蒸留水と1mg/mlのチアゾイルブルーテトラゾリウム臭化物(MTT)で洗浄し、OADC培地を添加し、室温で30分間培養した。蒸留水で洗浄した後、生存能力のあるマイコバクテリアを、顕微鏡を用いて観察した。
【0106】
<結果>
MTT染色は、p−DADMACコーティングされたスライド上に捕捉された生存可能な生物において不溶性の青/黒染色として沈着し、これにより生存可能な生物が顕微鏡によって検出可能となる(図4参照)。
【0107】
<結論>
これは、マイコバクテリアが、p−DADMACコーティングされたスライドによって捕捉可能であること、及びこれら捕捉されたマイコバクテリアが生存可能な状態を維持し、MTT等の生存能力染色によって染色されることが可能であることを実証するものである。
【0108】
(実施例13)粘液性痰を用いた方法
<原理>痰試料は、ムコ多糖が高濃度であり、非常に濃く粘性を有する場合がある。このムコ多糖は、スルフィド共有結合によって高度に架橋結合されており、多くのカルボキシル基があるために高電荷である。ジスルフィド結合を破壊するためにジチオスレイトール及びN−アセチルシステイン等の還元剤を用いることについて検討がなされてきたが、ムコ多糖を高濃度で使用することは、負に荷電したカルボキシル基と正に荷電したpDADMACとの間の相互作用を介して、マイコバクテリアの捕捉を干渉する可能性がある。この抑制を減少させるためには、低いpHで捕捉を実施することが望ましい可能性がある。このpHとは、カルボキシル基が中性であるが、pDADMACの電荷が維持されるpHである。このように低いpHでは、pDADMACをカルボキシルビーズ上に捕獲することが不可能であり、この理由は、カルボキシルビーズも電荷を失ってしまうためである。低pHでは、カルボキシルビーズが硫酸塩ビーズと置き換えられるべきであり、硫酸塩ビーズはカルボキシビーズが中性になる条件下においても負の電荷を維持する。これらの条件を、世界保健機関の痰のバンクから提供された痰からの結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の捕捉についても試験した。
【0109】
<方法>
1. まず、BioMagアミンビーズ(BM546 Bangs Laboratories Inc. アメリカ合衆国)をdHO中の5%(v/v)pDADMAC(高分子量)で1時間コーティングし、dHOで洗浄した後、10mg/mlの硫酸デキストラン(500 000mwt)で、dHO中で1時間、重ねてコーティングした。dHOで洗浄した後、ビーズを最初の量のdHOで再懸濁し、使用できる状態とした。
2. 0.5mlの膿性痰試料(マイコバクテリアに対し顕微鏡ポジティブか顕微鏡ネガティブのいずれか)を、最終的に2%(w/v)のジチオスレイトールで20分間処理した。また、ポジティブコントロールとして、幾つかの痰試料を、処理前に培養したBCGに加えた。
3. この処置後、50μlの10%(v/v)TritonX−100、10mMのEDTA、20μlの0.004%(v/v)pDADMAC(500 000mwt)、及び50μlの2.5M塩酸を添加し、10分間培養した。この段階のpHは、約0.6になると予想される。
4. 硫酸デキストランがコーティングされた常磁性ビーズを添加し、10分間培養した。
5. 磁石によってビーズを採集し、1mlのdHOで洗浄し(この洗浄工程は通常必要ではないが、マイコバクテリアの活発な捕捉を示すために実施した)、10μlのdHOで再懸濁し、顕微鏡のスライド上に配置した。
スライドは、実施例10に記載されたマイコバクテリアのオーラミンフェノール蛍光顕微鏡法用として処理した。
【0110】
<結果>
結核菌に対してネガティブであるとWHO痰バンクによって報告された10個の痰試料は、捕捉及び顕微鏡観察後、ネガティブであった。結核菌に対してポジティブであるとWHO痰バンクによって報告された10個の痰試料は、BCGを混ぜたコントロールと同様に明らかにポジティブであった。さらに、コントロール試料は、高い効率性でマイコバクテリアを痰から回収することを示し、相対的に顕微鏡によって推定すると、加えたマイコバクテリアの90%−95%が回収された。
【0111】
<結論>
濃厚な粘性の試料に対し、マイコバクテリアの捕捉は低いpHで上手く機能した。このpHとは、カルボン酸基をムコ多糖上で中性の状態にするのに十分低いpHである。
【0112】
本明細書では、明確に示さない限り、単語「又は (or)」は、記載した条件のうちいずれか又は両方が合致した場合、真の値が操作者に戻って来る場合に用いられるものである。操作者にとって対照的に、「排他的 又は (exclusive or)」は、条件のうち1つのみが合致する場合に必要となるものである。用語「備える(comprising)」は「からなる(consisting of)」を意味するというよりも「含む(including)」の意味で用いられる。上述した全ての従来技術は、参照することにより本明細書に含むものとする。本発明に記載されていない任意の従来刊行物は、その開示がオーストラリア又は他の場所において、その開示時点に共通する一般知識であったものとし、承認事実又は説明内容とみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性表面を有する微生物を試料から捕捉する方法であって、
前記微生物を捕捉試薬に接触させる工程を備え、
前記捕捉試薬は、疎水性と極性との両方を有し、該疎水性を有することにより前記微生物との疎水性相互作用によって前記微生物に結合し、
前記捕捉試薬が、表面に存在し且つ前記微生物を該表面に捕捉する、又は溶液中に存在し、
前記方法はさらに、
前記表面と前記捕捉試薬間の極性相互作用を用いて前記捕捉試薬を前記表面に結合させることによって、前記微生物を前記表面に捕捉する工程を備える方法。
【請求項2】
前記捕捉試薬が、複数の極性部位を有する長鎖炭化水素を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数の極性部位が、前記鎖に沿って離れて配されていることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記捕捉試薬が、陽イオン性であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記捕捉試薬が、ポリ−ジアリルジメチル塩化アンモニウム(DADMAC)であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
液体試料から疎水性表面を有する微生物を捕捉する方法であって、
前記微生物を可溶性捕捉試薬に接触させる工程を備え、該可溶性捕捉試薬がポリ−DADMACを含むことにより、該捕捉試薬が前記微生物に結合し、
前記方法はさらに、
前記捕捉試薬を表面に結合させることによって、前記微生物を該表面に捕捉する工程を備える方法。
【請求項7】
前記表面が、ビーズによって提供されることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、界面活性剤の存在下で前記捕捉試薬と接触し、
前記界面活性剤が、所望の微生物の結合選択性を向上させることを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記界面活性剤が、脂肪酸のアミノ酸アミドを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、N−ラウロイルサルコシンを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤が、TritonX界面活性剤を含むことを特徴とする請求項8乃至10いずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
微生物を検出する方法であって、
請求項1乃至11いずれか1項に記載の方法によって前記微生物を表面に捕捉する工程と、
前記捕捉された微生物を洗浄する工程と、
前記捕捉された微生物を、前記表面上又は前記表面から移動させた後に検出する工程とを備える方法。
【請求項13】
前記捕捉された微生物の生存能力が決定されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記捕捉された微生物が薬物処理され、
前記微生物の生存能力が決定されることにより、前記薬物が前記微生物の生存能力に影響を及ぼすか否かが決定されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
(a)疎水性とポリイオン性との両方を有するとともに、該疎水性を有することにより被検微生物との疎水性相互作用を用いて被検微生物に結合する能力を有する可溶性捕捉試薬と、
表面と前記捕捉試薬間の極性相互作用を用いて前記捕捉試薬を該表面に結合させることによって、前記微生物を該表面に捕捉するための該表面を有する基質を含む、又は
(b)固体表面上をコーティングすることにより固体表面上に固定されるとともに、疎水性とポリイオン性の両方を有し且つ被検微生物に結合する能力を有する捕捉試薬を含む、のいずれかである微生物アッセイキットであって、
前記微生物に感染可能なファージと、
前記微生物又は前記ファージのゲノム核酸の増幅を実施するためのプライマーと、
前記微生物を培養するための培地と、
顕微鏡検査のために前記微生物を視覚化するための染色剤と、
前記微生物に結合する抗体と、
前記微生物を培養する際に生成される代謝産物を検出するために使用される検出試薬から選択される少なくとも1つを含むキット。
【請求項16】
前記捕捉試薬がポリ−DADMACであることを特徴とする請求項15記載のキット。
【請求項17】
前記ファージ、前記プライマー、前記抗体、又は前記検出試薬が、結核菌(M. tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(M. avium)、マイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M. intracellulare)、ヨーネ菌(M. paratuberculosis)、ライ菌(M.leprae)、 カンサシ菌(M. kansasii)、マイコバクテリウム・マリヌム(M. marinum)、又はマイコバクテリウム・フォーチュイタム(M. fortuitum)複合体の同定に特異的であることを特徴とする請求項15又は16記載のキット。
【請求項18】
生存可能な微生物に特異的な検出試薬を含むことを特徴とする請求項15乃至17いずれか1項に記載のキット。
【請求項19】
前記微生物の生存可能性に潜在的に影響を与えることが可能な1種以上の薬物を含むことを特徴とする請求項15乃至18いずれか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−510788(P2010−510788A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538685(P2009−538685)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062732
【国際公開番号】WO2008/065047
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509149219)マイクロセンス メドテック リミテッド (2)
【Fターム(参考)】