マグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体およびその製造方法
【課題】Mg、Sn、Siの金属からなる単相で優れた熱電特性を備えた一般化学式で示される
MgXSi1−YSnY
の熱電半導体を焼結して製造するにあたり、p型の熱電特性を有した熱電半導体を簡単に製造する。
【解決手段】MgXSi1−YSnYの金属間化合物の化学組成において、これを焼結したときの焼結体組成X、Yが、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものがp型伝導の熱電特性を有することを見出し、該熱電特性を有する半導体を製造することができた。
MgXSi1−YSnY
の熱電半導体を焼結して製造するにあたり、p型の熱電特性を有した熱電半導体を簡単に製造する。
【解決手段】MgXSi1−YSnYの金属間化合物の化学組成において、これを焼結したときの焼結体組成X、Yが、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものがp型伝導の熱電特性を有することを見出し、該熱電特性を有する半導体を製造することができた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム、珪素、スズからなるp型の熱電半導体およびその製造方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)、スズ(Sn)の金属からなる固溶体を焼結して製造した金属間化合物として、一般化学式
Mg2Si1−ZSnZ
であらわされるものが知られている。そしてこの金属間化合物において、Z=0.4〜0.6の範囲のものが熱電特性に優れることが既に報告されている(特許文献1)。
ところが前記範囲の金属間化合物の焼結体の中には単相のものができていなかったが、短時間の焼結反応で安定した熱電半導体として利用できる単相の金属間化合物の焼結体を簡単に生成することが要求される。さらにはこれら金属間化合物の焼結体の熱電半導体としての特性がさらに向上することも要求されており、そこで、化学式、
Mg2Si0.5Sn0.5
の焼結体にドーパントとしてアンチモン(Sb)やビスマス(Bi)を添加することでゼーべック係数αがマイナスになる良型の安定したn型の熱電半導体を得ることができることが報告されている(非特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−133202号公報
【非特許文献1】「日本金属学会講演概要」,2005年秋期(137回)大会,345頁
【特許文献2】特開2007−146283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが前記ドーパントを添加した半導体は、何れもn型であってp型ではなく、熱電素子化に向けてp型伝導を示す高性能なMg−Si−Sn系半導体材料の開発が望まれるが、化学量論組成でMg2Si0.5Sn0.5のものを単純にドーパントの添加によってp型化することは、高性能化ということを絡めた場合に困難であり、これらに本発明が解決しようとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される熱電半導体を焼結して製造するにあたり、該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体の製造方法である。
請求項2の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示されるものを焼結して製造した熱電半導体において、該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項3の発明は、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.75
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項4の発明は、焼結体組成が、
X=1.98
0.75≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項5の発明は、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.94≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1または2の発明とすることにより、マグネシウム、珪素、そしてスズを原料とした一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される金属間化合物の焼結体について、n型でなく、p型の熱電半導体を、作製面上で大きな違いなく製造できることになって、製造効率に優れ、しかも熱電素子としての使用温度が同じものにできることになる。
請求項3、4または5の発明とすることにより、安定したp型の熱電半導体を確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、そしてスズ(Sn)の金属間化合物の焼結体からなる熱電半導体であって、一般化学式
MgXSi1−YSnY
で表され、この場合にX、Yは、化学量論組成としてX=2.00、0.4≦Y≦0.6の範囲ではn型の熱電半導体が生成されることが知られており、そこでXを2.00からどちらかにずらし、またYを0.4〜0.6の範囲からどちらかにずらすことに起因して結晶欠陥が発生し、これによって半導体としてのキャリアが電子であるn型でなく正孔であるp型の熱電半導体になることが想定され、その場合において合成時(焼結時)、Mgの昇華が想定される。そしてMgの昇華は、合成時の条件や雰囲気等によって一定ではなく、そうしたときに合成前の秤量組成に頼っていたのでは安定した特性(一定した特性)の熱電半導体を得ることが難しく、そこで焼結によって生成した熱電半導体そのものの焼結体組成に着目し、これを特定することでMgの昇華という不安定要素を払拭して安定した特性の熱電半導体を合成できるものとして本発明の完成を試みた。
【0007】
そしてこの場合に、Xを2.00からずらし、またYを0.4〜0.6の範囲からずらして一般化学式
MgXSi1−YSnY
の熱電半導体を合成してみたところ、XよりはYを0.5から1の方に大きくずらすことの方がp型の熱電半導体を得ることに大きく影響していることを見出した。そして具体的には、前記一般化学式において焼結体組成として
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものが熱電半導体としてp型のものが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明を実施するにあたり、ドーパントを必要において添加することができる。ドーパントとしては5A族のアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)に代表されるが、1A族のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等、3A族のスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、1B族の銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、3B族のホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、5A族のリン(P)、砒素(As)を例示することができる。
【0009】
前記目的とする金属間化合物の製造方法であるが、合成条件を図2(A)の表図で示す。原料としては、表図に示されるMg、Si、Snを用意し、一般化学式
MgXSi1−YSnY
において、MgおよびSnの値を種々変化させて熱電半導体を合成することを試みた。まず、焼結体組成をX=1.98として2.00から少しずらしたものについて、Yを0.25、0.5、0.75、1.0と変化させたものを合成し、これらについて熱電特性を測定したところ、図3(A)に示すように焼結体組成Y=0.75のものがp型の熱電半導体であることが確認された。そこで次に、焼結体組成Yについて0.75近辺の変化をさせると共に、焼結体組成Xについても2.00近辺の変化をさせたものについて熱電特性を測定したところ、図3(B)に示すようになり、焼結体組成で1.98≦X≦2.01、0.72≦Y0.75の範囲でp型の熱電半導体の特性を有するが、X=2.02、Y=0.75ではn型であることが確認された。このことから、p型の熱電半導体を得るには、Xの変化は2から小さい範囲であり、そこで次に、焼結体組成としてX=1.98とし、Yについて0.6〜0.95まで変化させたものを合成し、これらについて熱電特性を測定したところ図4(A)に示すようになり、焼結体組成で0.75≦Y≦0.95までのものがp型であることが確認された。
さらにまた、Yが0.95付近においてp型であることから、この付近において、Xについて1.98から2.00側に変化させたものについて熱電特性を測定したところ、図4(B)に示すようになり、焼結組成で1.98≦X≦2.01で、かつ0.94≦Y≦0.95のものがp型であることが確認され、このことから、焼結組成として、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものがp型であることが確認され、本発明を完成した。
【0010】
熱電半導体の具体的な反応方法としては、予め空焼きしたカーボンボードについて紙ウエスでカーボン粉をよく拭き取ったものを用意し、このものに、図1に示すように、Mg、Si、Snを充填することになるが、Mgについては角形状、丸形状等任意の形状でよいが4〜5mmに切り出したものを用いる。Snについては平均粒径が1〜2mm程度にしたものを用いる。そしてSiとSnとの同量混合物について、全体の1/3〜1/2程度をカーボンボードに底が見えなくなるよう均一状に敷く。ついでその上面に、Snについて、全体の1/3〜1/2を均等状に散らす。その上面に、Mgの粒を重なり合わないようにして並べる。更にその上に、残りのSiとSnの混合物およびSnを、Mgを覆い隠すようにして被せる。
【0011】
しかる後、カーボン蓋でカーボンボードの蓋をし、ジルコニウム(Zr)箔で包み込み、針金で縛った状態で電気炉に投入し、反応させる。反応条件としては図2(A)に示すように、0.1MPa(メガパスカル)のAr(アルゴン)−H2(水素3%)雰囲気下、温度900℃で4時間加熱し、液−固相反応させる。そして得られた固溶体を粉砕(例えばアルミナ乳鉢にて粉砕)し、該得られた粉末を38〜75μm(マイクロメートル)の粉末に粉砕し、これをカーボンダイスに入れ、ホットプレスにより加圧して焼結する。
【0012】
焼結条件を図2(B)の表図で示すように、原料粒径が前記38〜75μmにしたものを内容形状が円柱状になるホットプレスに充填し、温度775℃の電気炉(炉温750℃)にてプレス圧50MPaの加圧条件で5時間のあいだ焼結する。焼結雰囲気は、Ar(99.999%)雰囲気下で0.2MPaとし、このようにして目的とする単相の金属間化合物の焼結体が生成する。
【0013】
このようにして得られた焼結体について、Mg、Si、Snの焼結体組成の測定をすることになるが、Siの焼結体組成の分析は、日本工業規格であるJIS G1212における鉄及び鋼・ケイ素定量法の「二酸化ケイ素重量法」に準じて測定した。これを簡略化して説明すると、試料の1.0gを過塩素酸と硝酸の混合液で分解した後、加熱蒸発させて焼結体中に含まれるケイ素を二酸化ケイ素として蒸発残渣の質量を計量してケイ素量を求めるものである。
またSnとMgの分析は、ICP(誘導結合プラズマ:Inductively Coupled Plasuma)発光分光分析法を採用して測定した。これを簡略化して説明すると、試料の0.2gを王水で分解したが、残渣を生じたのでこれをろ過したものに硝酸、過塩素酸の3:1の混合液の20ml添加処理してろ紙を分解し、このものにフッ化水素を数的添加すると共に、5mlの硫酸を添加した後、硫酸白煙処理をして完全溶解(残渣溶解)した後、これら溶解したものに前記ろ液を混合したものについて、定量分析を行う場合に妨害元素の影響を考慮するため分析試料自体にイットリウム(Y)を既知量(1mg/10ml)添加する(内標準添加)。次に、試料が100mlとなるよう水を加えて分析試料を作成し(100ml定容)、この作成した試料をICP測定をした。測定波長は、Sn:189.99nm、Mg:279.55nmである。また測定装置としては島津製作所製 ICPV 1017−V3型を用いた。
【0014】
このようにして得られた各焼結体のうち図3(B)に示されるもののゼーベック係数α(μV/K)とMgの各焼結体組成Xとの関係を図5(A)のグラフ図に、また図4(B)に示されるもののゼーベック係数α(μV/K)とMgの各焼結体組成Xとの関係を図5(B)のグラフ図に示す。さらに図6〜10には、図3(B)に示される焼結体のうち、焼結体組成Xが1.98、2.01、2.02になった各熱電半導体について、ゼーベック係数αの温度特性(αと温度との関係)、熱伝導率κ(W/mK)の温度特性(κと1000/Tとの関係)、比抵抗ρ(Ωm)の温度特性(ρと1000/Tとの関係)、無次元性能指数(ZTと温度との関係)、性能指数(Zと温度との関係)をそれぞれ示すが、これらから該各熱電半導体は、優れた熱電特性を有するものであることが確認され、熱電半導体として有効に機能することが伺える。
【0015】
さらにまた、図11〜14には、図4(A)に示される各焼結体について、Snの焼結体組成Yとゼーベック係数α、熱伝導率κ、比抵抗ρ、性能指数Zの関係をそれぞれ示すが、これらから焼結体組成Yとして、0.75≦Y≦0.95の範囲で該各熱電半導体は、安定したp型熱電半導体として機能することが伺える。
【0016】
またこれらの結果から、Mgの組成をわずかに変化させることでn型、p型の各熱電特性を示すMg−Si−Snの半導体を得られたことにもなる。
このことは、Si、Snの組成が同じものにおいて、Mgの添加割合を僅かに変化させることで、n型だけでなく、p型の熱電半導体を、作製面上で大きな違いなく製造できることになって、製造効率に優れ、しかも熱電素子としての使用温度が同じものにでき、そのうえp−n一体型のものを成形時に同じ接合技術が使用でき、さらには直接接合することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】MgXSi1−YSnYの固溶体を製造するに際し、原料のセット状態を示す概略図である。
【図2】(A)は固溶体の反応条件を示す表図、(B)は固溶体の焼結条件を示す表図である。
【図3】(A)(B)の表に示す焼結体組成の焼結体について測定した熱電特性の結果を示す表図である。
【図4】(A)(B)の表に示す焼結体組成の焼結体について測定した熱電特性の結果を示す表図である。
【図5】(A)(B)は図3(B)、図4(B)に示す焼結体組成の焼結体についてのMgの焼結体組成Xとゼーベック係数αとの関係をそれぞれ示したグラフ図である。
【図6】焼結体組成Xが1.98、2.01、2.02各熱電半導体についてのゼーペック係数αの温度特性(αと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図7】同上各熱電半導体についての熱伝導率κの温度特性(κと1000/Tとの関係)を示すグラフ図である。
【図8】同上各熱電半導体についての比抵抗ρの温度特性(ρと1000/Tとの関係)を示すグラフ図である。
【図9】同上各熱電半導体についての無次元性能指数(ZTと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図10】同上各熱電半導体についての性能指数(Zと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図11】図4に示す各熱電半導体についての焼結体組成Yとゼーペック係数αとの関係を示すグラフ図である。
【図12】同上各焼結体組成Yと熱伝導率κとの関係を示すグラフ図である。
【図13】同上各焼結体組成Yと比抵抗ρとの関係を示すグラフ図である。
【図14】同上各焼結体組成Yと性能指数との関係を示すグラフ図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム、珪素、スズからなるp型の熱電半導体およびその製造方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)、スズ(Sn)の金属からなる固溶体を焼結して製造した金属間化合物として、一般化学式
Mg2Si1−ZSnZ
であらわされるものが知られている。そしてこの金属間化合物において、Z=0.4〜0.6の範囲のものが熱電特性に優れることが既に報告されている(特許文献1)。
ところが前記範囲の金属間化合物の焼結体の中には単相のものができていなかったが、短時間の焼結反応で安定した熱電半導体として利用できる単相の金属間化合物の焼結体を簡単に生成することが要求される。さらにはこれら金属間化合物の焼結体の熱電半導体としての特性がさらに向上することも要求されており、そこで、化学式、
Mg2Si0.5Sn0.5
の焼結体にドーパントとしてアンチモン(Sb)やビスマス(Bi)を添加することでゼーべック係数αがマイナスになる良型の安定したn型の熱電半導体を得ることができることが報告されている(非特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−133202号公報
【非特許文献1】「日本金属学会講演概要」,2005年秋期(137回)大会,345頁
【特許文献2】特開2007−146283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが前記ドーパントを添加した半導体は、何れもn型であってp型ではなく、熱電素子化に向けてp型伝導を示す高性能なMg−Si−Sn系半導体材料の開発が望まれるが、化学量論組成でMg2Si0.5Sn0.5のものを単純にドーパントの添加によってp型化することは、高性能化ということを絡めた場合に困難であり、これらに本発明が解決しようとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される熱電半導体を焼結して製造するにあたり、該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体の製造方法である。
請求項2の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示されるものを焼結して製造した熱電半導体において、該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項3の発明は、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.75
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項4の発明は、焼結体組成が、
X=1.98
0.75≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
請求項5の発明は、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.94≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1または2の発明とすることにより、マグネシウム、珪素、そしてスズを原料とした一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される金属間化合物の焼結体について、n型でなく、p型の熱電半導体を、作製面上で大きな違いなく製造できることになって、製造効率に優れ、しかも熱電素子としての使用温度が同じものにできることになる。
請求項3、4または5の発明とすることにより、安定したp型の熱電半導体を確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、そしてスズ(Sn)の金属間化合物の焼結体からなる熱電半導体であって、一般化学式
MgXSi1−YSnY
で表され、この場合にX、Yは、化学量論組成としてX=2.00、0.4≦Y≦0.6の範囲ではn型の熱電半導体が生成されることが知られており、そこでXを2.00からどちらかにずらし、またYを0.4〜0.6の範囲からどちらかにずらすことに起因して結晶欠陥が発生し、これによって半導体としてのキャリアが電子であるn型でなく正孔であるp型の熱電半導体になることが想定され、その場合において合成時(焼結時)、Mgの昇華が想定される。そしてMgの昇華は、合成時の条件や雰囲気等によって一定ではなく、そうしたときに合成前の秤量組成に頼っていたのでは安定した特性(一定した特性)の熱電半導体を得ることが難しく、そこで焼結によって生成した熱電半導体そのものの焼結体組成に着目し、これを特定することでMgの昇華という不安定要素を払拭して安定した特性の熱電半導体を合成できるものとして本発明の完成を試みた。
【0007】
そしてこの場合に、Xを2.00からずらし、またYを0.4〜0.6の範囲からずらして一般化学式
MgXSi1−YSnY
の熱電半導体を合成してみたところ、XよりはYを0.5から1の方に大きくずらすことの方がp型の熱電半導体を得ることに大きく影響していることを見出した。そして具体的には、前記一般化学式において焼結体組成として
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものが熱電半導体としてp型のものが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明を実施するにあたり、ドーパントを必要において添加することができる。ドーパントとしては5A族のアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)に代表されるが、1A族のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等、3A族のスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、1B族の銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、3B族のホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、5A族のリン(P)、砒素(As)を例示することができる。
【0009】
前記目的とする金属間化合物の製造方法であるが、合成条件を図2(A)の表図で示す。原料としては、表図に示されるMg、Si、Snを用意し、一般化学式
MgXSi1−YSnY
において、MgおよびSnの値を種々変化させて熱電半導体を合成することを試みた。まず、焼結体組成をX=1.98として2.00から少しずらしたものについて、Yを0.25、0.5、0.75、1.0と変化させたものを合成し、これらについて熱電特性を測定したところ、図3(A)に示すように焼結体組成Y=0.75のものがp型の熱電半導体であることが確認された。そこで次に、焼結体組成Yについて0.75近辺の変化をさせると共に、焼結体組成Xについても2.00近辺の変化をさせたものについて熱電特性を測定したところ、図3(B)に示すようになり、焼結体組成で1.98≦X≦2.01、0.72≦Y0.75の範囲でp型の熱電半導体の特性を有するが、X=2.02、Y=0.75ではn型であることが確認された。このことから、p型の熱電半導体を得るには、Xの変化は2から小さい範囲であり、そこで次に、焼結体組成としてX=1.98とし、Yについて0.6〜0.95まで変化させたものを合成し、これらについて熱電特性を測定したところ図4(A)に示すようになり、焼結体組成で0.75≦Y≦0.95までのものがp型であることが確認された。
さらにまた、Yが0.95付近においてp型であることから、この付近において、Xについて1.98から2.00側に変化させたものについて熱電特性を測定したところ、図4(B)に示すようになり、焼結組成で1.98≦X≦2.01で、かつ0.94≦Y≦0.95のものがp型であることが確認され、このことから、焼結組成として、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
の範囲のものがp型であることが確認され、本発明を完成した。
【0010】
熱電半導体の具体的な反応方法としては、予め空焼きしたカーボンボードについて紙ウエスでカーボン粉をよく拭き取ったものを用意し、このものに、図1に示すように、Mg、Si、Snを充填することになるが、Mgについては角形状、丸形状等任意の形状でよいが4〜5mmに切り出したものを用いる。Snについては平均粒径が1〜2mm程度にしたものを用いる。そしてSiとSnとの同量混合物について、全体の1/3〜1/2程度をカーボンボードに底が見えなくなるよう均一状に敷く。ついでその上面に、Snについて、全体の1/3〜1/2を均等状に散らす。その上面に、Mgの粒を重なり合わないようにして並べる。更にその上に、残りのSiとSnの混合物およびSnを、Mgを覆い隠すようにして被せる。
【0011】
しかる後、カーボン蓋でカーボンボードの蓋をし、ジルコニウム(Zr)箔で包み込み、針金で縛った状態で電気炉に投入し、反応させる。反応条件としては図2(A)に示すように、0.1MPa(メガパスカル)のAr(アルゴン)−H2(水素3%)雰囲気下、温度900℃で4時間加熱し、液−固相反応させる。そして得られた固溶体を粉砕(例えばアルミナ乳鉢にて粉砕)し、該得られた粉末を38〜75μm(マイクロメートル)の粉末に粉砕し、これをカーボンダイスに入れ、ホットプレスにより加圧して焼結する。
【0012】
焼結条件を図2(B)の表図で示すように、原料粒径が前記38〜75μmにしたものを内容形状が円柱状になるホットプレスに充填し、温度775℃の電気炉(炉温750℃)にてプレス圧50MPaの加圧条件で5時間のあいだ焼結する。焼結雰囲気は、Ar(99.999%)雰囲気下で0.2MPaとし、このようにして目的とする単相の金属間化合物の焼結体が生成する。
【0013】
このようにして得られた焼結体について、Mg、Si、Snの焼結体組成の測定をすることになるが、Siの焼結体組成の分析は、日本工業規格であるJIS G1212における鉄及び鋼・ケイ素定量法の「二酸化ケイ素重量法」に準じて測定した。これを簡略化して説明すると、試料の1.0gを過塩素酸と硝酸の混合液で分解した後、加熱蒸発させて焼結体中に含まれるケイ素を二酸化ケイ素として蒸発残渣の質量を計量してケイ素量を求めるものである。
またSnとMgの分析は、ICP(誘導結合プラズマ:Inductively Coupled Plasuma)発光分光分析法を採用して測定した。これを簡略化して説明すると、試料の0.2gを王水で分解したが、残渣を生じたのでこれをろ過したものに硝酸、過塩素酸の3:1の混合液の20ml添加処理してろ紙を分解し、このものにフッ化水素を数的添加すると共に、5mlの硫酸を添加した後、硫酸白煙処理をして完全溶解(残渣溶解)した後、これら溶解したものに前記ろ液を混合したものについて、定量分析を行う場合に妨害元素の影響を考慮するため分析試料自体にイットリウム(Y)を既知量(1mg/10ml)添加する(内標準添加)。次に、試料が100mlとなるよう水を加えて分析試料を作成し(100ml定容)、この作成した試料をICP測定をした。測定波長は、Sn:189.99nm、Mg:279.55nmである。また測定装置としては島津製作所製 ICPV 1017−V3型を用いた。
【0014】
このようにして得られた各焼結体のうち図3(B)に示されるもののゼーベック係数α(μV/K)とMgの各焼結体組成Xとの関係を図5(A)のグラフ図に、また図4(B)に示されるもののゼーベック係数α(μV/K)とMgの各焼結体組成Xとの関係を図5(B)のグラフ図に示す。さらに図6〜10には、図3(B)に示される焼結体のうち、焼結体組成Xが1.98、2.01、2.02になった各熱電半導体について、ゼーベック係数αの温度特性(αと温度との関係)、熱伝導率κ(W/mK)の温度特性(κと1000/Tとの関係)、比抵抗ρ(Ωm)の温度特性(ρと1000/Tとの関係)、無次元性能指数(ZTと温度との関係)、性能指数(Zと温度との関係)をそれぞれ示すが、これらから該各熱電半導体は、優れた熱電特性を有するものであることが確認され、熱電半導体として有効に機能することが伺える。
【0015】
さらにまた、図11〜14には、図4(A)に示される各焼結体について、Snの焼結体組成Yとゼーベック係数α、熱伝導率κ、比抵抗ρ、性能指数Zの関係をそれぞれ示すが、これらから焼結体組成Yとして、0.75≦Y≦0.95の範囲で該各熱電半導体は、安定したp型熱電半導体として機能することが伺える。
【0016】
またこれらの結果から、Mgの組成をわずかに変化させることでn型、p型の各熱電特性を示すMg−Si−Snの半導体を得られたことにもなる。
このことは、Si、Snの組成が同じものにおいて、Mgの添加割合を僅かに変化させることで、n型だけでなく、p型の熱電半導体を、作製面上で大きな違いなく製造できることになって、製造効率に優れ、しかも熱電素子としての使用温度が同じものにでき、そのうえp−n一体型のものを成形時に同じ接合技術が使用でき、さらには直接接合することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】MgXSi1−YSnYの固溶体を製造するに際し、原料のセット状態を示す概略図である。
【図2】(A)は固溶体の反応条件を示す表図、(B)は固溶体の焼結条件を示す表図である。
【図3】(A)(B)の表に示す焼結体組成の焼結体について測定した熱電特性の結果を示す表図である。
【図4】(A)(B)の表に示す焼結体組成の焼結体について測定した熱電特性の結果を示す表図である。
【図5】(A)(B)は図3(B)、図4(B)に示す焼結体組成の焼結体についてのMgの焼結体組成Xとゼーベック係数αとの関係をそれぞれ示したグラフ図である。
【図6】焼結体組成Xが1.98、2.01、2.02各熱電半導体についてのゼーペック係数αの温度特性(αと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図7】同上各熱電半導体についての熱伝導率κの温度特性(κと1000/Tとの関係)を示すグラフ図である。
【図8】同上各熱電半導体についての比抵抗ρの温度特性(ρと1000/Tとの関係)を示すグラフ図である。
【図9】同上各熱電半導体についての無次元性能指数(ZTと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図10】同上各熱電半導体についての性能指数(Zと温度との関係)を示すグラフ図である。
【図11】図4に示す各熱電半導体についての焼結体組成Yとゼーペック係数αとの関係を示すグラフ図である。
【図12】同上各焼結体組成Yと熱伝導率κとの関係を示すグラフ図である。
【図13】同上各焼結体組成Yと比抵抗ρとの関係を示すグラフ図である。
【図14】同上各焼結体組成Yと性能指数との関係を示すグラフ図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される熱電半導体を焼結して製造するにあたり、
該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体の製造方法。
【請求項2】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示されるものを焼結して製造した熱電半導体において、
該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項3】
焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.75
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項4】
焼結体組成が、
X=1.98
0.75≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項5】
焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.94≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項1】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示される熱電半導体を焼結して製造するにあたり、
該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体の製造方法。
【請求項2】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgXSi1−YSnY
で示されるものを焼結して製造した熱電半導体において、
該熱電半導体はp型であって、焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.95
であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項3】
焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.72≦Y≦0.75
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項4】
焼結体組成が、
X=1.98
0.75≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【請求項5】
焼結体組成が、
1.98≦X≦2.01
0.94≦Y≦0.95
であることを特徴とする請求項2記載のマグネシウム、珪素、スズからなる熱電半導体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−188368(P2009−188368A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72838(P2008−72838)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】
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