説明

マグネシウム合金鍛造品及びその製造方法

【課題】ダイカスト鋳造の複雑形状の成形性、鍛造品の高信頼性、高強度性を同時に実現し、安価で高品質な鍛造品を製造する方法、該製造方法で得られる鍛造品を提供すること。
【解決手段】マグネシウム合金のダイカスト鋳造素材を250〜550℃に保持し、金型温度を該ダイカスト鋳造素材の保持温度よりも10〜50℃低く維持して部分的に又は全面的に鍛造加工を施して強度を向上させるマグネシウム合金鍛造品の製造方法、及び該製造方法で得られるマグネシウム合金鍛造品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム合金鍛造品及びその製造方法に関し、より詳しくは、本発明はダイカスト鋳造と鍛造とを複合させることで、ダイカスト鋳造の複雑形状の成形性、鍛造の高信頼性、高強度性を同時に実現する複合加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界においては燃費向上のための軽量化の必要性から軽量材料のニーズが高まり、樹脂材料や軽量金属材料が用いられてきている。しかし、樹脂材料は一般的にリサイクルが困難であるため地球環境保全の点で問題があるのに対して、金属材料は一般的にリサイクルが容易であるため、その用途の拡大が特に期待されている。軽量金属材料のうち最も軽量であるマグネシウム合金はこれまでステアリングホイール、シートベルト、エアバックリテーナーなど内装部品に用いられてきたが、今後はエンジン部品やトランスミッション部品などパワートレイン系の部品への用途拡大が検討されている。内装品については延性に優れたマグネシウム合金AM50、AM60系合金をダイカスト鋳造で製品化している。一方、これから用途拡大が期待されているパワートレイン系においては、強度と150℃前後での耐クリープ性に優れた耐熱性マグネシウム合金のダイカスト鋳造での製品化が始められている。なお、耐熱性マグネシウム合金としてはマグネシウム−アルミニウム系に希土類金属やカルシウムを添加したもの等種々のマグネシウム合金が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
先行するアルミニウム部材の用途を見ると、自動車のパワートレイン系部品ではピストン、シリンダヘッド、油圧部品など多くの鍛造品が用いられている。これらはマグネシウム合金ダイカスト製品で対応できない高強度、高信頼性の用途であり、現状ではマグネシウム合金では対応できない。アルミニウムダイカスト製品と比較するとマグネシウムダイカスト製品は強度的には10%以上低く、アルミニウムダイカスト製品を同一サイズのマグネシウムダイカスト製品で代替することは困難であり、多くの場合、部分的な肉厚アップやリブ追加等の強度確保の対策を必要としている。しかし、これらの対策はマグネシウムダイカスト製品の重量アップに繋がってしまう。そこでマグネシウムダイカスト製品では強度要件を満たせない部位につき強度を向上させる技術が求められている。
【0004】
【特許文献1】特許第2604670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミニウムダイカスト部材をマグネシウムダイカスト部材に代替した場合には、機械的特性でアルミニウムダイカスト部材より剛性、引張り強さが10%程度低下すること、特に自動車パワートレイン系部材では、その使用温度環境から耐熱性マグネシウム合金を使用するが、クリープ強度についてはエンジンオイルの温度域(150℃近辺)でアルミニウムダイカスト材と同等となっているが、剛性、圧縮強さが相対的に低いために、例えばボルト締結において残存軸力がアルミニウムダイカスト部材より20%程度低下してしまう。剛性は材料の一時的な物理特性であり、大きく変化させることができないが、強度特性を10%以上向上させることが課題である。一方、マグネシウム鍛造部材は鍛造用素材が高価であるため自動車産業等において広く使用できる状況ではない。また、汎用マグネシウム合金では標準的な鍛造温度では加工硬化が望めず、アルミニウム鍛造部材のような高強度化が望めない。また、耐熱性マグネシウム合金では鍛造用素材が生産されていない。
【0006】
本発明はこのような従来技術の有する課題に鑑みて為されたものであり、マグネシウム合金のダイカスト鋳造と鍛造とを複合させることで、ダイカスト鋳造の複雑形状の成形性、鍛造品の高信頼性、高強度性を同時に実現する複合加工技術により安価で高品質な鍛造品の製造方法、該製造方法で得られる鍛造品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成するために種々検討を重ねた結果、マグネシウム合金のダイカスト鋳造と鍛造加工とを組み合わせた複合加工技術により、マグネシウムダイカスト部品の高強度化が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明のマグネシウム合金鍛造品の製造方法は、マグネシウム合金のダイカスト鋳造素材を250〜550℃に保持し、金型温度を該ダイカスト鋳造素材の保持温度よりも10〜50℃低く維持して部分的に又は全面的に鍛造加工を施して強度を向上させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のマグネシウム合金鍛造品は、上記の製造方法により得られるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、マグネシウム合金のダイカスト鋳造と鍛造とを複合させることで、ダイカスト鋳造の複雑形状の成形性、鍛造品の高信頼性、高強度性を同時に実現でき、安価で高品質な鍛造品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のマグネシウム合金鍛造品の製造方法においては、マグネシウム合金のダイカスト鋳造素材を250〜550℃に保持し、金型温度を該ダイカスト鋳造素材の保持温度よりも10〜50℃低く維持して部分的に又は全面的に鍛造加工を施して強度を向上させるのであるが、その条件を精査した結果、鍛造においてダイカスト鋳造素材の温度を250〜550℃、望ましくは250〜400℃に保持し、金型温度を該ダイカスト鋳造素材の保持温度よりも10〜50℃、望ましくは10〜30℃低く保持することによりダイカスト鋳造素材の鍛造が可能であることを見出した。また、鍛造加工の所要圧力は汎用合金で4〜10kgf/mm2以上である。
【0012】
ダイカスト部品の部分的な鍛造加工の場合には一般的に大きな鍛圧率は取れないが、AM50ダイカスト材で鍛圧率50%の場合、ダイカスト鋳造素材に比較して引張強さが10%以上、伸びが20%以上向上する。
【0013】
本発明のマグネシウム合金鍛造品の製造方法においては、ダイカスト鋳造と鍛造加工とを連続して行うことができ、その場合にダイカスト鋳造直後に再加熱せずに鍛造加工を施すことがコスト面で好ましい。
【0014】
本発明のマグネシウム合金鍛造品の製造方法においては、種々のマグネシウム合金を用いることができる。耐熱性マグネシウム合金は、その特性上塑性加工性に劣ることが多いが、耐熱性と塑性加工性(伸び値5%以上)を両立させた耐熱性マグネシウム合金として下記のマグネシウム合金を用いることが好ましい。
【0015】
(1)アルミニウム1〜10質量%、亜鉛0.2〜5質量%、及び銀0.2〜5質量%よりなる群から選ばれた少なくとも一種、
(2)希土類金属0.2〜5質量%、カルシウム0.02〜5質量%、ストロンチウム0.02〜5質量%及びケイ素0.2〜5質量%よりなる群から選ばれた少なくとも1種、及び
(3)マンガン1.5質量%以下、ジルコニウム1.5質量%以下よりなる群から選ばれた少なくとも1種
を含み、残部がマグネシウム及び不可避の不純物からなるマグネシウム合金。
【0016】
特開平6−200348号公報には上記の耐熱性マグネシウム合金を含めて種々の耐熱性マグネシウム合金が記載されているが、本発明においてはそれらの耐熱性マグネシウム合金も用いることができる。
【0017】
上記の耐熱性マグネシウム合金の鍛造加工の場合には、鍛造加工の所要圧力は10〜20kgf/mm2以上となるが、その他の条件については汎用合金の場合とほぼ同じ条件で鍛造が可能であり、 鍛造率50%で150℃での引張強さが160MPa以上の鍛造品が得られる。また、上で述べたボルト締結残存軸力は150℃で10%の向上が得られる。
【0018】
本発明で用いるダイカスト鋳造素材を製造するためのダイカスト鋳造法として種々のダイカスト鋳造法を用いることができる。高圧ダイカスト鋳造法は肉厚が制限されることがあるが、スクイズダイカスト鋳造法、低圧(ダイカスト)鋳造法、層流ダイカスト鋳造法などは、ポロシティなど内部欠陥を抑制し、肉厚部材を得るのに適した鋳造法である。本発明で用いるダイカスト鋳造素材を製造するためのダイカスト鋳造法として、例えば、特開2001−009561号公報に記載されているダイカスト鋳造法を用いることができる。本発明のマグネシウム合金鍛造品の製造方法においては、これらのダイカスト鋳造と鍛造加工とを同期させ、再加熱を行わない連続生産システムとすることが望ましい。
【0019】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
下記の合金を用い、下記のダイカスト鋳造条件、下記の鍛造条件で鍛造品を製造した。その結果は下記の通りであった。
・合金:汎用合金AZ91(Mg−9Al−0.7Zn−0.2Mn)。
・ダイカスト鋳造条件:
コールドチャンバーダイカスト機350T、二輪用エンジンACGカバー、
溶湯温度660℃(SF6希釈ガス)、鋳造圧力600kgf/mm2、充填直後の増 圧400 kgf/mm2、射出速度4m/秒、キャビティへの充填時間5/100秒、締結部肉厚15mm、金型温度(固定、可動共)170℃。
・鍛造条件:
形状はダイカストで成形、締結フランジの締結穴部のφ30につき設計肉厚5mmに対 して10mmで成形、プレス鍛造により5mmにして締結穴は鍛造後機械加工、
プレス鍛造機100T、鍛造温度300℃、上下のパンチの温度は270℃に設定。
・結果:
割れ等の欠陥の発生なく成形できた。
表面硬さ(ブリネル硬さ):500kg、硬球10mm、保持時間30秒
鋳造後:65 ⇒ 鍛造加工後:73。
【0020】
実施例2
下記の合金を用い、下記のダイカスト鋳造条件、下記の鍛造条件で鍛造品を製造した。その結果は下記の通りであった。
・合金:汎用合金AM50(Mg−5Al−0.2Mn)。
・ダイカスト鋳造条件:
コールドチャンバーダイカスト機350T、四輪エアバックリテーナー、
溶湯温度680℃(SF6希釈ガス)、鋳造圧力600kgf/mm2、充填直後の増 圧400 kgf/mm2、射出速度4m/秒、キャビティへの充填時間3/100秒、締結部肉厚15mm、金型温度(固定、可動共)180℃。
・鍛造条件:
形状はダイカストで成形、締結フランジの締結穴部のφ30につき設計肉厚3mmに対 して6mmで成形、プレス鍛造により3mmにして締結穴は鍛造後機械加工、
プレス鍛造機100T、鍛造温度300℃、上下のパンチの温度は270℃に設定。
・結果:
割れ等の欠陥の発生なく成形できた。
表面硬さ(ブリネル硬さ):500kg、硬球10mm、保持時間30秒
鋳造後:55 ⇒ 鍛造加工後:62。
【0021】
実施例3〜8
下記のマグネシウム合金を用い、下記に示す条件下で鍛造品を製造した。なお、いずれの場合にも溶解時の溶湯保持雰囲気としてSF6希釈ガスを用い、押出し時のダイスは冷却管にて温度調節し、鍛造時の鍛造温度が400℃を超える時にもArガスを吹きつけながら行った。得られた鍛造品の特性は第1表に示す通りであった。
(1)Mg−10Al−5MM−5Ca−0.2Mn、
(2)Mg−10Al−5MM−5Sr−0.5Ca−0.2Mn
(3)Mg−7Al−2.5MM−2.5Ca−0.5Sr−0.2Mn、
(4)Mg−1Al−0.2MM−0.02Ca−0.8Mn、
(5)Mg−5Zn−2MM−1.5Sr−0.8Zr、
(6)Mg−0.2Zn−0.2MM−0.2Ca−0.6Zr、
(7)Mg−1Zn−5.5Y−2MM−1.5Sr−0.5Zr−0.02Ca。
・ダイカスト鋳造条件:
コールドチャンバーダイカスト機250T、150×150×6の試験用板材、
溶湯温度は各合金ごとに第1表に示す温度に設定、鋳造圧力600kgf/mm2、充 填直後の 増圧400kgf/mm2、射出速度5m/秒、キャビティへの充填時間2/100秒、金型温度 (固定、可動共)180℃。
・鍛造条件:
プレス鍛造機100T、自由鍛造にて展伸鍛伸、30×30×6の試験片を3mm厚に する、鍛造温度、パンチ温度は各合金ごとに第1表に示す温度に設定、300℃、上下 のパンチの温度は270℃に設定。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金のダイカスト鋳造素材を250〜550℃に保持し、金型温度を該ダイカスト鋳造素材の保持温度よりも10〜50℃低く維持して部分的に又は全面的に鍛造加工を施して強度を向上させることを特徴とするマグネシウム合金鍛造品の製造方法。
【請求項2】
ダイカスト鋳造と鍛造加工とを連続して行うことを特徴とする請求項1記載のマグネシウム合金鍛造品の製造方法。
【請求項3】
ダイカスト鋳造直後に再加熱せずに鍛造加工を施すことを特徴とする請求項1又は2記載のマグネシウム合金鍛造品の製造方法。
【請求項4】
マグネシウム合金が
(1)アルミニウム1〜10質量%、亜鉛0.2〜5質量%、及び銀0.2〜5質量%よりなる群から選ばれた少なくとも一種、
(2)希土類金属0.2〜5質量%、カルシウム0.02〜5質量%、ストロンチウム0.02〜5質量%及びケイ素0.2〜5質量%よりなる群から選ばれた少なくとも1種、及び
(3)マンガン1.5質量%以下、ジルコニウム1.5質量%以下よりなる群から選ばれた少なくとも1種
を含み、残部がマグネシウム及び不可避の不純物からなるマグネシウム合金であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマグネシウム合金鍛造品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の製造方法により得られるマグネシウム合金鍛造品。
【請求項6】
ダイカスト鋳造素材に比較して引張強さが10%以上、伸びが20%以上向上していることを特徴とする請求項5記載のマグネシウム合金鍛造品。
【請求項7】
150℃での引張強さが160MPa以上であることを特徴とする請求項5又は6記載のマグネシウム合金鍛造品。

【公開番号】特開2007−319894(P2007−319894A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152572(P2006−152572)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】