説明

マグネットローラ、現像剤担持体、現像装置、プロセスカートリッジ、及び、画像形成装置

【課題】埋設された長尺磁石成形体における磁石粉の表面の錆の発生を防止して磁力の低下を防止すると共に、該長尺磁石成形体による磁力のばらつきを低減して該長尺磁石成形体の軸方向磁力分布を向上させたマグネットローラを低コストで提供する。
【解決手段】円筒状磁石成形体1の極に相当する部分に設けられた凹状の溝部2に、磁石紛とそれらの周囲に付着した熱可塑性樹脂微粒子で固着された該円筒状磁石成形体1のプラスチック磁石よりも高磁力の長尺磁石成形体3が配置されマグネットローラーにおいて、(イ)防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の上表面に被覆され、(ロ)該防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の両側面と該凹状の溝部を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、(ハ)該防湿性の樹脂膜に、平均粒径:10mm以下の磁石微粒子が含有されているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置において用いられるマグネットローラ、該マグネットローラを有する現像剤担持体、該現像剤担持体を有する現像装置、該現像装置を有するプロセスカートリッジ、及び、該プロセスカートリッジを有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、注目されるようになってきた「トナー及び磁性粒子からなる二成分現像剤を用いて像担持体に形成された潜像を現像する高機能現像装置」(SLIC現像装置)は、二成分現像装置における画像上の問題を解決するものであるが、このSLIC現像装置に搭載される現像ローラ(マグネットローラ)においては、(A)現像極の半値幅が20°以下(従来の2成分現像では約50°)であること、及び、(B)磁束密度が120〜140mT(従来の2成分現像は80〜120mT)であること、とされているので、SLIC現像装置では、現像極の磁束密度を高くし、さらに、半値幅を従来の半分以下にする必要がある。
【0003】
このようなSLIC現像装置に搭載される現像ローラ(マグネットローラ)としては、『円筒状に形成し外周面に軸方向に延びる複数個の磁極を設けてなる永久磁石材に軸を固着してなるマグネットローラにおいて、永久磁石材を、フェライト磁石系材料からなり実質的の円筒状に形成してなる本体と、この本体の特定の磁極若しくはその近傍に設けられた溝内に少なくとも一部が埋設固着してなりかつ等方性のR−Fe−B系磁性粉と結合材料とからなる材料によって形成した磁石片とによって形成したもの』(特許文献1を参照。)を用いることが考えられたが、かかる従来のマグネットローラにおいては、半値幅を低くすると、磁束密度も小さくなるので、前記(A)及び(B)の両項目を同時に満足することができないという問題があった。
【0004】
また、プラスチック希土類磁石成形体としては、等方性のNd−Fe−Bを含有するコンパウンドを用いて射出成形法や押出し成形法で製造したものが市販されているが、その磁力は、(BH)max値で6〜9MGOeであるので、充分ではなかった。
【0005】
そこで、本発明者らは、13MGOe以上の高磁力マグネットを達成するために、現在最も高磁力を示す異方性Nd磁石材料を使用することを検討したが、異方性Nd磁石材料を含有するコンパウンドを使用しても、射出成形法や押出し成形法では、その磁力は、現段階では、(BH)max値で10〜12MGOeが限界であるので、13MGOe以上の高磁力化は達成できないという問題があった。
【0006】
本発明者らは、異方性Nd磁石材料を含有するコンパウンドを最も高磁力化が期待できる圧縮成形法で成形することも検討した。異方性Nd磁石材料を含有する磁石コンパウンドを圧縮成形するには、成形型中において溶融したコンパウンドに磁場をかけて配向させる必要がある。一般的に、圧縮成形で用いられるコンパウンドにおいては、その結合樹脂(バインダー)として、熱硬化性樹脂のエポキシ系材料が使用されている。このようなコンパウンドでは、エポキシ樹脂/硬化剤を1〜10wt%を磁石材料に配合して、磁石材料の周囲に付着させることにより、DRYコンパウンドとしている。しかしながら、エポキシ樹脂をDRY状態のコンパウンドとするためには、固形のエポキシ樹脂及び固形の硬化剤を使用する必要がある。固形の硬化剤は芳香族アミン系、ジシアンジアミド系、イミダゾール系等多くの材料があるが、いずれの材料も硬化温度が高く、最低でも150℃は必要であり、硬化処理時間も長く、しかも、60分以上必要になるという問題があった。また、一般的に磁石材料は、熱により減磁される性質を有しているが、特に、異方性Nd磁石材料は、熱減磁を受けやすいので、150℃×60分の熱処理によって、磁気特性(BH)maxが約15%低下するという問題があった。
【0007】
磁場中圧縮成形法では、プレス圧力を上げて磁石成形体の密度を向上すること、及び、溶融したコンパウンドに磁場をかけて配向性を向上させること、により、高磁力化が可能となるが、エポキシ樹脂コンパウンドの場合には、密度が上がりにくいので、大きなプレス圧力が必要になる。13MGOeを達成するためには、磁石成形品の密度として6.1g/cm3 が必要であるので、プレス圧力として7.0ton/cm2 が必要となる。15%の減磁特性を考慮すると、磁石成形体の密度として6.55g/cm3 が必要となり、プレス圧力として11.1ton/cm2 が必要となる。今、角柱マグ幅6mm×高さ2.5mm×長さ304mmの磁石成形体を作製する場合には、横磁場成形(プレス方向と磁場方向とが直交する成形)でのプレス面積は、7.6cm2 (0.25×30.4)となり、また、必要なプレス圧力は、84tonとなるので、100tonクラスのプレス機が必要になってくる。磁場中圧縮成形法においては、金型を電磁石間に配置して、溶融した磁石コンパウンドに磁場をかけて磁石を配向させるが、発生磁場は電磁石間のギャップに依存するので、ギャップが狭いほど高磁力が得られ、そのために、一般的には、ギャップ値は10mmとされている。このような理由により、金型の板厚を厚くすることができないので、高プレス圧力をかけると金型が破損するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、磁石コンパウンド中にバインダーとして含有される熱可塑性樹脂微粒子に顔料、帯電制御剤及び離型剤を含有させることにより、プレス圧を6ton/cm2 以下に低くしても、13MGOe以上の磁石成形体を得ることができることを提案した(特許文献2を参照。)。
【0009】
このような磁石成形体の内部では、磁石紛がそれらの周囲に付着した熱可塑性樹脂微粒子で固着されているので、磁石紛が錆びることはないが、この磁石成形体の表面では、磁石粒子が露出されているので、磁石紛が高温・高湿環境下において錆びやすいという問題があった。現在、Sm−Co系磁石を除いた磁石の中で最も高磁力を呈する磁石は、異方性Nd−Fe−B系磁石であるが、かかる磁石は、Fe成分を含有しているので、酸化されやすくなっている。
【0010】
一般的には、樹脂結合型希土類磁石は、その表面にエポキシ樹脂やアクリル樹脂の塗膜が形成されると、耐食性が向上する。しかし、本発明者らが提案した長尺磁石成形体では、平均粒径数十〜数百μmの磁石粉が平均粒径30〜200μmの少量の熱可塑性樹脂微粒子で不揃いに固定されているので、長尺磁石成形体の表面に凹凸が多くなり、そのために、塗布された塗膜の膜厚が不均一になり、よって、長尺磁石成形体における磁石紛の防錆が不十分となって磁力が低下するという問題があった。また、バインダーとなる熱可塑性樹脂微粒子は、それを構成する熱可塑性樹脂によっては、その熱可塑性樹脂の加水分解により劣化するものがある。さらに、このような長尺磁石成形体においては、その端部に磁力が集中するので、バインダーとなる熱可塑性樹脂微粒子の結合力が弱くなり、そのために、穂立ちしやすくなること、及び、形状変化が発生して磁力波形が変化すること、といった問題があった。したがって、長尺磁石成形体の表面に防湿コート材料を被覆することが必要になるが、磁力集中が大きく、しかも、劣化を受けやすい長尺磁石成形体の角部には、樹脂被覆膜が形成されにくいという問題があった。
【0011】
そして、このような長尺樹脂成形体の防錆処理としては、メッキ処理が提案されているが、このようなメッキ処理は、設備投資額が大きなるという問題があり、また、工程数が増えるので、製造コストが増大するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0013】
即ち、本発明は、埋設された長尺磁石成形体における磁石粉の表面の錆の発生を防止して磁力の低下を防止すると共に、該長尺磁石成形体による磁力のばらつきを低減して該長尺磁石成形体の軸方向磁力分布を向上させたマグネットローラ、該マグネットローラを有する現像剤担持体、該現像剤担持体を有する現像装置、該現像装置を有するプロセスカートリッジ、及び、該プロセスカートリッジを有する画像形成装置を低コストで提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、磁性紛を含有するプラスチック磁石で構成される円筒状磁石成形体の極に相当する部分に、他の部材が埋設できるような凹状の溝部が少なくとも1つ設けられ、そして、該凹状の溝部に、磁石紛とそれらの周囲に付着した熱可塑性樹脂微粒子で固着された該円筒状磁石成形体のプラスチック磁石よりも高磁力の長尺磁石成形体が配置されたマグネットローラーにおいて、
(イ)防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の上表面に被覆され、
(ロ)該防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の両側面と該凹状の溝部を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、
(ハ)該防湿性の樹脂膜に、平均粒径:10mm以下の磁石微粒子が含有されている
ことを特徴とするマグネットローラである。
【0015】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記防湿性の樹脂膜が、ブタジエン系ゴム及びメチルシクロヘキサン溶媒を含有する樹脂組成物によって形成された樹脂膜であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記防湿性の樹脂膜の膜厚:50μmで測定したときの透湿度が、0.01g/cm2 ・24hr以下であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記長尺磁石成形体が、磁石紛と熱可塑性樹脂微粒子とを含む磁石コンパウンドを磁場中で圧縮成形して得た長尺磁石成形体であって、
(イ)該熱可塑性樹脂微粒子が、熱可塑性樹脂、並びに、 顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成され、そして、
(ロ)該熱可塑性樹脂微粒子の平均粒径が、10μm以下である
ことを特徴とするものである。
【0018】
請求項5に記載された発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネットローラの外周に回転可能な非磁性円筒体を有することを特徴とする現像剤担持体である。
【0019】
請求項6に記載された発明は、現像剤担持体、現像剤供給部材、現像剤層規制部材、及び、現像剤を少なくとも有する現像装置において、該現像剤担持体として、請求項5に記載の現像剤担持体を有することを特徴とする現像装置である。
【0020】
請求項7に記載された発明は、現像装置、像担持体及び帯電手段を少なくとも有するプロセスカートリッジにおいて、該現像装置として、請求項6に記載の現像装置を有することを特徴とするプロセスカートリッジである。
【0021】
請求項8に記載された発明は、プロセスカートリッジ、光書き込み手段、転写部材、及び、定着装置を少なくとも有する画像形成装置において、該プロセスカートリッジとして、請求項7に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0022】
請求項1,2に記載された発明によれば、(イ)防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の上表面に被覆され、(ロ)該防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の両側面と該凹状の溝部を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、(ハ)該防湿性の樹脂膜に、平均粒径:10mm以下の磁石微粒子が含有されているので、防湿性の樹脂膜が該長尺磁石成形体の表面に磁石紛によって形成される凹凸における凹部分を埋めることができ、そのために、該長尺磁石成形体の表面に防錆剤をさらに被覆して埋設された長尺磁石成形体における磁石粉の表面の錆の発生をいっそう防止することができると共に、該長尺磁石成形体による磁力のばらつきをいっそう低減して該長尺磁石成形体の軸方向磁力分布をいっそう向上させることができる、マグネットローラを提供することができる。
【0023】
請求項3に記載された発明によれば、前記防湿性の樹脂膜の膜厚:50μmで測定したときの透湿度が、0.01g/cm2 ・24hr以下であるので、前記長尺磁石成形体を構成する磁石紛とバインダー材料としての樹脂との高温高湿における劣化を防止しつつ、防湿性の樹脂膜の肉厚を薄くすることができ、そのために、前記長尺磁石成形体の埋設されたマグネットローラに非磁性円筒体(スリーブ)を外挿して現像剤担持体としても、マグネットローラの設計上制約されることがない。
【0024】
請求項4に記載された発明によれば、(イ)該熱可塑性樹脂微粒子が、熱可塑性樹脂、並びに、顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成され、そして、(ロ)該熱可塑性樹脂微粒子の平均粒径が、10μm以下であるので、磁石粉が滑りやすくなって磁石の配向性が向上し、また、磁石成形密度も大きくなり、それらのために、該長尺磁石成形体をさらに高磁力化することができる。
【0025】
請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネットローラの外周に回転可能な非磁性円筒体を有する現像剤担持体としたので、キャリアの付着を防止しすることができ、そのために、高画質化が可能となる。
【0026】
請求項6に記載された発明によれば、現像剤担持体、現像剤供給部材、現像剤層規制部材、及び、現像剤を少なくとも有する現像装置において、該現像剤担持体として、請求項6に記載の現像剤担持体を有しているので、高画質化が可能となる。
【0027】
請求項7に記載された発明によれば、現像装置、像担持体及び帯電手段を少なくとも有するプロセスカートリッジにおいて、該現像装置として、請求項7に記載の現像装置を有しているので、高画質化が可能となる。
【0028】
請求項8に記載された発明によれば、プロセスカートリッジ、光書き込み手段、転写部材、及び、定着装置を少なくとも有する画像形成装置において、該プロセスカートリッジとして、請求項8に記載のプロセスカートリッジを有しているので、高画質化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態を示すマグネットローラを有する現像剤担持体の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すマグネットローラにおける長尺磁石成形体の部分拡大断面図である。
【図3】防水性の樹脂膜の透湿率と長尺磁石成形体の肉厚との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態を示す現像装置の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態を示すプロセスカートリッジの説明図である。
【図6】本発明の一実施形態を示す画像形成装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の実施の形態を示すマグネットローラを有する現像剤担持体の断面図である。図2は、本発明の実施の形態を示すマグネットローラにおける長尺磁石成形体の部分拡大断面図である。図3は、防水性の樹脂膜の透湿率と長尺磁石成形体の肉厚との関係を示すグラフである。図4は、本発明の一実施形態を示す現像装置の説明図である。図5は、本発明の一実施形態を示すプロセスカートリッジの説明図である。図6は、本発明の一実施形態を示す画像形成装置の説明図である。
【0031】
図1,2に示されているように、本発明のマグネットローラ10には、磁性紛を含有するプラスチック磁石で構成される円筒状磁石成形体1の極に相当する部分に、他の部材が埋設できるような凹状の溝部2が少なくとも1つ設けられ、そして、該凹状の溝部2に、磁石紛3aとそれらの周囲に付着した熱可塑性樹脂微粒子3bで固着された該円筒状磁石成形体1のプラスチック磁石よりも高磁力の長尺磁石成形体3が配置されている。そして、前記マグネットローラー10においては、(イ)防湿性の樹脂膜4が、該長尺磁石成形体3の上表面に被覆され、(ロ)防湿性の樹脂膜5が、該長尺磁石成形体3の両側面と該凹状の溝部2を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、(ハ)前記防湿性の樹脂膜4,5が、磁石微粒子を含有している。図1において、6は、該長尺磁石成形体3を該凹状の溝部2に固定する接着剤であり、7は、他の長尺磁石成形体であり、11は、非磁性円筒体であり、そして、20は、現像剤担持体である。
【0032】
該防湿性の樹脂膜に、磁石微粒子が含有されているので、
このように、(イ)防湿性の樹脂膜4が、該長尺磁石成形体3の上表面に被覆され、(ロ)防湿性の樹脂膜5が、該長尺磁石成形体3の両側面と該凹状の溝部2を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、(ハ)前記防湿性の樹脂膜4,5に、平均粒径:10mm以下の磁石微粒子が含有されていると、防湿性の樹脂膜4,5が長尺磁石成形体3の表面に磁石紛によって形成される凹凸における凹部分を埋めることができ、そのために、該長尺磁石成形体3の表面に防錆剤をさらに被覆して埋設された該長尺磁石成形体3における磁石粉の表面の錆の発生をいっそう防止することができると共に、該長尺磁石成形体3による磁力のばらつきをいっそう低減して該長尺磁石成形体3の軸方向磁力分布をいっそう向上させることができる、マグネットローラ10を提供することができる。
【0033】
本発明においては、前記防湿性の樹脂膜4,5の膜厚:50μmで測定したときの透湿度は、好ましくは、0.01g/cm2 ・24hr以下である。このように、防湿性の樹脂膜4,5の膜厚:50μmで測定したときの透湿度が0.01g/cm2 ・24hr以下であると、前記長尺磁石成形体3を構成する磁石紛3aとバインダー材料としての樹脂微粒子3bとの高温高湿における劣化を防止しつつ、防湿性の樹脂膜4,5の肉厚を50μm以下と薄くすることができるので、該長尺磁石成形体3の埋設されたマグネットローラ10に非磁性円筒体(スリーブ)を外挿して現像剤担持体20としても、マグネットローラ10の設計に影響をおよぼすことがない。
【0034】
図3は、防水性の樹脂膜の透湿率と長尺磁石成形体の肉厚との関係を示すグラフであるが、前記「長尺磁石成形体の肉厚」は、NdFeB/ポリエステル長尺磁石成形体を温度60℃、湿度80%の環境において240時間放置した後に測定した該NdFeB/ポリエステル長尺磁石成形体の肉厚である。図3からみると、防湿率が0.01g/cm2 ・24hrを超えると、長尺磁石成形体の肉厚変化が大きくなることがわかる。
【0035】
この試験において用いた防湿性の樹脂膜は、メチルシクロヘキサンを溶媒とするスチレン−ブタジエンゴム系の塗料でを用いて成膜したものである。本発明における防湿性の樹脂膜4,5としては、一般のアクリル系又はウレタン系の塗料で成膜したものでもよいが、アクリル系又はウレタン系の塗料は、ルエン・キシレン系の溶媒を使用したものが多いので、このようなルエン・キシレン系の溶媒を使用したものは、長尺磁石成形体を構成する樹脂(バインダー材料)を劣化させやすく好ましくない。これに対して、スチレン−ブタジエン系ゴムは、極性の弱いメチルシクロヘキサン溶媒が使用できるので、このようなメチルシクロヘキサン溶媒を使用したものは、長尺磁石成形体を構成する樹脂を劣化させることがない。
【0036】
本発明における長尺磁石成形体3は、磁石紛3aと熱可塑性樹脂微粒子3bとを含む磁石コンパウンドを磁場中で圧縮成形して得たものであって、(イ)該熱可塑性樹脂微粒子3bは、熱可塑性樹脂、並びに、顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成され、そして、(ロ)該熱可塑性樹脂微粒子3bの平均粒径は、10μm以下である。このように、(イ)該熱可塑性樹脂微粒子3bが、熱可塑性樹脂、並びに、顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成され、そして、(ロ)該熱可塑性樹脂微粒子3bの平均粒径が、10μm以下であると、磁石粉3aが滑りやすくなって磁石の配向性が向上し、また、磁石成形密度も大きくなり、それらのために、該長尺磁石成形体3をさらに高磁力化することができる。
【0037】
前記「長尺磁石成形体3」を構成する「磁石粉3a」は、好ましくは、Nd−Fe−B系材料又はSm−Fe−N系材料で構成されるが、その平均粒径は、30〜200μmであり、好ましくは、80〜150μm、さらに好ましくは、100〜120μmの不定形粒子である。
【0038】
前記「長尺磁石成形体3」を構成する熱可塑性樹脂微粒子3bにおける「熱可塑性樹脂」は、例えば、ポリスチレン、ポリクロロエチレン、ポリビニルトルエン等のスチレン系化合物及びその置換体よりなる単重合体、並びに、スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタレン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル重合体、スチレン−ビニルメチルケトン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体等のスチレン系共重合体があげらる。また、前記「熱可塑性樹脂」は、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリビニルブチルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、エポキシポリオール系樹脂等の樹脂であってもかまわない。これらの樹脂は、1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0039】
前記「熱可塑性樹脂微粒子3b」は、前記磁石粉3aのバインダーとして働く。従来のエポキシのような磁性粉の周囲に固着しているものは、磁石粉が凝集しやすく、また、配向性が低下することが多いが、本発明における「熱可塑性樹脂微粒子3b」は、磁性粉3aの表面に静電気的に付着しているので、従来の磁性粉の周囲に固着バインダーと比較し、配向しやすく、また、高磁力化が可能となる。本発明における「熱可塑性樹脂微粒子3b」を構成する「熱可塑性樹脂」では、熱可塑性樹脂が溶融する温度又は軟化する温度で磁石粉3aをバインドすることが可能になるので、短時間でベーク工程が終了し、そのために、温度による熱減磁を少なくすることができる。
【0040】
前記「熱可塑性樹脂微粒子3b」が、熱可塑性樹脂、並びに、顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成されることは、前述のとおりであるが、これらの熱可塑性樹脂、並びに、顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料の混合物は、加熱ニーダー、3本ロールミル等の加熱混合処理可能な装置により、溶融、混練後、冷却固化したものをジェットミル、ボールミル等の粉砕機により1〜50μmの粒径に粉砕することによって得ることができる。前記「熱可塑性樹脂」は、バインダーとして作用するが、低軟化点のものは、粉砕しても再凝集しやすいので、10μm以下の微粒子を得ることが難しい。このような場合には、カーボンブラック等の顔料を熱可塑性の混練することにより、粉砕後の再凝集を防止することができる。顔料の添加量はは、この好ましくは、1〜20wt%、さらに好ましくは、5〜10wt%である。前記「帯電制御剤」は、磁石紛3aと熱可塑性樹脂樹脂微粒子3bとの分散性を向上するために添加される。帯電制御剤の添加量は、好ましくは、1〜20wt%、さらに好ましくは、0.5〜10wt%である。前記「離型剤」は、成形後の型離れ性を良くするものに添加するものである。離型剤の添加量は、好ましくは、1〜20wt%、さらに好ましくは、2〜10wt%である。流動性付与剤は、粉砕後の熱可塑性樹脂、顔料、帯電制御剤及び離型剤の混合物に添加することにより、その混合物の流動性を改善することができる。
【0041】
前記「顔料」は、例えば、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック等カーボンブラック、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、モリブテンオレンジ、パーマネントオレンジ、ベンガラ、カドミウムレッド、メチルバイオレットレーキ、コバルトブルー、及び,アルカリブルーである。前記「帯電制御剤」は、例えば、ニグロシン、4級アンモニウム塩、含金属アゾ染料、及び、サリチル酸の錯化合物である。前記「離型剤」は、例えば、1)低分子量のポリエチレン、プロピレン等の合成ワックス、2)キャデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油等の植物ワックス類、3)ミツロウ、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス類、4)モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス類、及び、5)硬化ヒマシ油、ヒドロキシステアリン酸、脂肪酸アミド、フェノール脂肪酸エステル等の油脂系ワックス類である。これらの顔料は、1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0042】
図1に示すように、本発明の現像剤担持体20は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネットローラ10の外周に回転可能な非磁性円筒体11が配置されたものである。前記非磁性円筒体11としては、例えば、アルミニウム、SUS(ステンレス)などを用いることができる。加工性、軽さの面でアルミニウムを用いられることが多い。アルミニウムの場合、A6063、A5056、A3003等、SUSの場合、303、304、316などを用いることができる。このように、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネットローラ10の外周に回転可能な非磁性円筒体11が配置されていると、キャリアの付着を防止することができ、そのために、高画質化を可能とした現像剤担持体20を提供することができる。
【0043】
図4に示すように、本発明の現像装置30は、現像剤担持体(現像ローラ)20、現像剤供給部材21、及び、現像剤層規制部材22を少なくとも有している。そして、この現像装置30は、該現像剤担持体20として、請求項6に記載の現像剤担持体を有している。このように、現像剤担持体20として、請求項1〜5のいずれか1項に記載の現像剤担持体を有していると、高画質化を可能とした現像装置30を提供することができる。
【0044】
図5に示すように、本発明のプロセスカートリッジ40は、現像剤担持体20、現像剤供給部材21、及び、現像剤層規制部材22を少なくとも有する現像装置30、並びに、帯電ローラ24及び像担持体25を有している。そして、このプロセスカートリッジ40は、該現像装置30として、請求項7に記載の現像装置を有している。このように、該現像装置30として、請求項11に記載の現像装置を有していると、高画質化を可能とすることができるプロセスカートリッジ40を提供することができる。
【0045】
図6に示すように、本発明の画像形成装置50は、プロセスカートリッジ40、光書き込み手段103、転写部材105、及び、定着装置117を少なくとも有している。そして、この本発明の画像形成装置50は、プロセスカートリッジ40として、請求項8に記載のプロセスカートリッジを有している。このように、プロセスカートリッジ40として、請求項8に記載のプロセスカートリッジを有していると、高画質化を可能とした画像形成装置50を提供することができる。
【0046】
図6においては、プロセスカートリッジ40は、現像剤担持体(現像ローラ)20、現像剤供給部材21、及び、現像剤層規制部材22、を有する現像装置30、並びに、帯電ローラ24及び像担持体25を有したものとなっている。また、図6において、106は、クリーニングブレードであり、107は、除電光学系であり、113は、トナー供給部であり、114は、レジストローラであり、115は、トナー回収羽根であり、117は、定着装置であり、そして、116は、トナー搬送コイルである。
【0047】
(実施例)
(1)(a)異方性のNd−Fe−Bで構成される平均粒径:107μmの磁石粉(愛知製鋼社製、MFP−13)95重量%、及び、(b)熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂89.8重量部及びスチレンアクリル樹脂9重量部よりなる熱軟化点:75℃の熱可塑性樹脂、並びに、流動性付与剤として、疎水性スリカ1.2重量部を配合してなる樹脂組成物で構成される平均体積粒径:5.5μmの熱可塑性樹脂微粒子5重量%、を混合し、これらをターブラーミキサーで10分間攪拌してコンパウンドとした。そして、このコンパウンドを幅2.5mm、高さ13.0mm、及び、長さ313mmの大きさのキャビティ有する調温された金型のキャビティに充填した後、金型に18000(Oe)の磁界が発生するように直流電界を加え、続いて、室温において前記キャビティに充填した圧縮成形用コンパウンドに磁場印加状態で5.5ton/cm2 のプレス圧を加えて成形した。次に、この金型に逆磁場を印加して、ワークと金型の両方の脱磁を行なった後、ワークを金型から取り出した。このようにして得られた長尺磁石成形体は、幅5.05mm、頂上部高さ5.53mm、及び、長さ312.6mmであり、その長さ312.6mmの幅方向が直径11.3mmのR形状になっており、また、その長尺磁石成形体の成形密度は、5.66g/cm3 であった。次に、この長尺磁石成形体を100℃のオーブンで60分間熱処理し、バインダーを溶解すると共に、成形後のウネリを矯正した。
【0048】
(2)上記(1)で得た長尺磁石成形体を2.8Tのパルス着磁機で着磁し、これを幅5.6mm、深さ2.6mmの溝を設けたフェライト磁石からなる直径25mmマグネットローラの溝部の中央に、シアノアクリレート系接着剤で貼り付けた。その際、長尺磁石成形体の両側面と溝の両側壁との間に0.29mmの隙間が生じた。そして、スチレン−ブタジエンゴム系塗料(日東シンコ社製、エレップコートLSS−520MH)80重量%、及び、平均粒径2μmの異方性のSmFeN系磁石粉20重量%よりなる塗被組成物を、デイスペンサー方式によって、長尺磁石成形体の上表面に塗布すると共に、該塗被組成物を長尺磁石成形体の両側面と溝の両側壁との間の隙間に充填し、続いて、これらの塗料を60℃で30分間乾燥して、0.075±0.02mm厚の表面膜とする防湿性の樹脂膜及び2.4mm厚の間隙膜厚とる防湿性の樹脂膜を形成したマグネットローラを得た。
【0049】
(3)このようにして得たマグネットローラにおける防湿性の樹脂膜の透湿率は、0.0040g/cm2 ・24hrであった。そして、このようにして得たマグネットローラの軸方向磁束密度分布、即ち、長尺磁石成形体の表面から1.2mm離れた位置での軸方向磁束密度分布、を測定したところ、91mT±0.8mTであった。また、このマグネットローラに非磁性円筒体(スリーブ)及びフランジを装着し、これを温度60℃、湿度90%の環境において240時間放置して、外観検査を行ったところ、錆等の異常はなかった。また、長尺磁石成形体の膨潤も小さく、その膜厚変化は0.023mmであった。
【符号の説明】
【0050】
1 円筒状磁石成形体
2 凹状の溝部
3 長尺磁石成形体
3a 磁石紛
3b バインダー材料としての熱可塑性樹脂微粒子
4,5 防湿性の樹脂膜
4b、5b 磁石微粒子
6 接着剤
7 他の長尺磁石成形体
8 凹部分
10 マグネットローラ
11 非磁性円筒体
20 現像剤担持体(現像ローラ)
21 現像剤供給部材
22 現像剤層規制部材
24 帯電ローラ
30 現像装置
40 プロセスカートリッジ
50 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特許第2545601号公報
【特許文献2】特開2004−193543号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性紛を含有するプラスチック磁石で構成される円筒状磁石成形体の極に相当する部分に、他の部材が埋設できるような凹状の溝部が少なくとも1つ設けられ、そして、該凹状の溝部に、磁石紛とそれらの周囲に付着した熱可塑性樹脂微粒子で固着された該円筒状磁石成形体のプラスチック磁石よりも高磁力の長尺磁石成形体が配置されたマグネットローラーにおいて、
(イ)防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の上表面に被覆され、
(ロ)該防湿性の樹脂膜が、該長尺磁石成形体の両側面と該凹状の溝部を形成する両壁面との間の隙間に充填され、かつ、
(ハ)該防湿性の樹脂膜に、平均粒径:10mm以下の磁石微粒子が含有されている
ことを特徴とするマグネットローラ。
【請求項2】
前記防湿性の樹脂膜が、ブタジエン系ゴム及びメチルシクロヘキサン溶媒を含有する樹脂組成物によって形成された樹脂膜であることを特徴とする請求項1に記載のマグネットローラ。
【請求項3】
前記防湿性の樹脂膜の膜厚:50μmで測定したときの透湿度が、0.01g/cm2 ・24hr以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネットローラ。
【請求項4】
前記長尺磁石成形体が、磁石紛と熱可塑性樹脂微粒子とを含む磁石コンパウンドを磁場中で圧縮成形して得た長尺磁石成形体であって、
(イ)該熱可塑性樹脂微粒子が、熱可塑性樹脂、並びに、 顔料、帯電制御剤及び離型剤から選ばれる少なくとも1種の配合材料で構成され、そして、
(ロ)該熱可塑性樹脂微粒子の平均粒径が、10μm以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネットローラ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネットローラの外周に回転可能な非磁性円筒体を有することを特徴とする現像剤担持体。
【請求項6】
現像剤担持体、現像剤供給部材、現像剤層規制部材、及び、現像剤を少なくとも有する現像装置において、該現像剤担持体として、請求項5に記載の現像剤担持体を有することを特徴とする現像装置。
【請求項7】
現像装置、像担持体及び帯電手段を少なくとも有するプロセスカートリッジにおいて、該現像装置として、請求項6に記載の現像装置を有することを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項8】
プロセスカートリッジ、光書き込み手段、転写部材、及び、定着装置を少なくとも有する画像形成装置において、該プロセスカートリッジとして、請求項7に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−119769(P2011−119769A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51896(P2011−51896)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【分割の表示】特願2004−359568(P2004−359568)の分割
【原出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】