説明

マザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法

【課題】スクライブ後の脆性材料基板の割断面の品質(端面強度)が高くなるようにした、マザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法は、マザー脆性材料基板からスクライビングホイールを用いて形成された脆性材料基板20の端面22に向けて複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材23を吹き付け、脆性材料基板の端面を研磨する。研磨時に脆性材料基板20の端面22のみが露出するように治具21a、21bに保持すると端面22のみを良好に研磨することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクライブ後の脆性材料基板の割断面の品質(端面強度)が高くなるようにした、マザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示パネルや有機エレクトロルミネッセンス(EL)パネル等のフラットディスプレイパネル、太陽電池等の製造工程では、脆性材料基板のスクライブ工程が設けられている。例えば、液晶表示パネルは、2枚のガラス基板を貼り合わせ、そのギャップ内に液晶が注入された構成を有している。また、LCOSと呼ばれるプロジェクター用基板の内の反射型の基板の場合は、石英基板と半導体ウェハーとが貼り合わされた一対の基板が用いられている。このような基板を貼り合わせた貼り合せ基板は、通常、マザー基板である大きいサイズの貼合せ基板の表面にスクライブラインを形成し、次いで形成されたスクライブラインに沿って基板をブレイクすることにより、所定の寸法に分断された単位基板となる。
【0003】
これらの分断工程ないし切り出し工程では、スクライビングホイールに脆性材料基板の材質や厚み等の諸条件に見合った荷重を負荷しながら、スクライビングホイールを脆性材料基板の表面上を転動させてスクライブラインを形成し、脆性材料基板に所定の力を負荷することによって脆性材料基板をスクライブラインに沿って分断し、個々のパネルやガラス板を製造している。
【0004】
なお、本明細書においては、マザー基板にスクライブラインを形成することを「スクライブ」と称し、スクライブによって形成されたスクライブラインに沿ってマザー基板を折り割ることを「ブレイク」と称し、スクライビングとブレイクによって所望するサイズの脆性材料基板に分断することを「割断」と称し、さらに、割断工程後の搬送を経て割断された脆性材料基板を個々の単位基板に切り離すことを「分離」と称する。また、本明細書において、スクライブラインの形成によって、基板の表面から基板の板厚方向に垂直クラックを伸展させるスクライビングホイールの性質を「浸透効果」と称する。
【0005】
ところで、ガラス素材メーカにおける基板の材料における改良、熱処理加工における各種改良が行われてきた結果、従来の刃先(ノーマル刃先)を備えたスクライビングホイール(以下、ノーマルホイールともいう)を用いてスクライブした場合に、「かかりが悪い」状態、すなわちホイールの転動直後に刃先が基板表面で滑り、スクライブラインが形成され始めない現象が見られるようになってきた。そのため、従来のノーマル刃先を備えたスクライビングホイールよりも「かかりの良い」刃先が要求されるようになってきている。なお、「かかりの良い」点は下記特許文献1に開示されている高浸透刃先を備えるスクライビングホイール(以下、「高浸透ホイール」ともいう)を用いれば一応対応可能であるが、脆性材料の割断面の品質、すなわち端面強度が低くなり、例えばフラットディスプレイパネルの製造現場で要求される端面強度の品質基準を確保することが困難となる。
【0006】
一方、下記特許文献2には、高浸透効果を抑えながらガラス表面に対するかかり性を改良する目的で、下記特許文献1に開示されているスクライビングホイールの場合と同様に、外周縁部に形成された円周稜線に沿って円周方向に交互に形成された複数の切り欠き及び突起を備えているが、この切り欠きの円周方向の長さを突起の円周方向の長さよりも短くなるようにしたスクライビングホイール(以下、「中浸透ホイール」ともいう)の発明が開示されている。下記特許文献2に開示されている中浸透ホイールを用いると、下記特許文献1に開示されている高浸透ホイールを用いた場合よりも浸透性及びかかり性は劣るが、より高い端面強度を達成することができ、しかも、ノーマルホイールを用いた場合よりも、端面強度は劣るが、浸透性及びかかり性が良好であるという優れた効果を奏する。
【0007】
加えて、近年では、携帯用機器の表示装置として、大型のものを採用しながらも重量の増大化を抑制することが要望されており、それに伴ってより厚さの薄いガラス基板が使用されるようになってきている。このような厚さが薄く、大型のガラス基板を採用した表示装置によれば、ガラス基板の端面強度が弱いと、表示面に外力が印加された際にガラス基板が破壊されてしまうことがある。
【0008】
ここで、スクライビングホイールを使用して脆性材料基板をスクライブした際に、脆性材料基板に生じるメカニズムを図5及び図6を用いて説明する。なお、図5はスクライビングホイールによるスクライブの様子を模式的に示す側面図であり、図6は図5のスクライブにおける垂直クラックが生成される様子を模式的に示す正面図である。
【0009】
まず、スクライブ時には、スクライビングホイールの刃先に荷重が作用することで、刃先と当接しているガラス基板等の脆性材料の表面に弾性変形が生じ、次いで、刃先荷重の増大に伴ってこの箇所に塑性変形が発生する。さらに刃先荷重が増大すると、塑性変形の限界点を超えることになり、その結果、脆性破壊が発生し、脆性材料の厚み方向に垂直クラックが成長し始める。この垂直クラックの成長は、垂直クラックの先端が、刃先荷重の大きさや、脆性材料の材質や厚みなどに応じた深度(脆性材料の表面からの距離であって、「到達深度」ともいわれる)に達した時点で終息する。
【0010】
このように、スクライビングホイールを用いてスクライブした際には、塑性変形に基づくプレス痕及び脆性破壊に基づく垂直クラックが形成されるため、その後にガラス基板等の脆性材料基板を割断及び分断しても、割断面は滑らかな平坦面とはならず、割断面の品質が劣る状態となる。そのため、マザー脆性材料基板からスクライビングホイールを用いて個々の脆性材料基板を得た場合、端面強度が低下してしまうこととなる。
【0011】
そのため、スクライビングホイールを使用した割断後、ガラス基板等の脆性材料基板の端面を機械的、化学的に加工することによって端面強度を向上させる端面処理も行われている。この端面処理としては、砥石によるガラス端面を研磨(下記特許文献3参照)する方法、ガラス端面へのチタン浸透処理を行う化学的強化方法(下記特許文献4参照)、ガラス端面を化学的にエッチングする方法(下記特許文献5参照)等が採用されている。
【0012】
ここで下記特許文献3に開示されているガラス端面を砥石によって研磨する方法について図7を用いて説明する。なお、図7は下記特許文献3に開示されているガラス端面の研磨機の正面図である。このガラス端面の研磨機50は、基台51上に取り付けられた中間支持台52を介して一対の支持脚53と、一対の研磨装置54と、ガラスサポート55とを備えている。ガラスサポート55は、それぞれ空気圧によりガラス基板56を浮上させて支持している。また、一対の支持脚53は、内部に真空吸引手段57が設けられており、ガラスサポート55上に載置されたガラス基板56の裏面を吸引し、ガラス基板56を支持している。
【0013】
さらに、一対の研磨装置54には、それぞれガラス基板56の端面に当接する位置に回転砥石58が設けられている。これらのガラスサポート55及び一対の支持脚53に設けられた真空吸引手段57によって、ガラス基板56の端部が支持され、ガラス基板56は、図面に直交する方向に搬送されながら、その端面が回転砥石58によって研磨されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3074143号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/004700号公報
【特許文献3】特開平08−243895号公報
【特許文献4】特開2006−282492号公報
【特許文献5】特開2009−227523号公報
【特許文献6】特開2001−207160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献3に開示されているようなガラス端面を砥石によって研磨する手段を採用すれば、連続的にガラス基板56の端面を研磨することができ、ガラス基板の端面強度を向上させることができるという効果を奏することができる。しかしながら、ガラス基板の厚さが薄くなると、ガラス基板を所定位置に保持することが困難となると共に、ガラス基板の端面の研磨時にガラス基板が破損しやすくなってしまうという課題が存在する。
【0016】
また、上記特許文献4に記載されているガラス端面へのチタン浸透処理方法では、チタンを浸透させるために650〜900℃もの高温度に加熱する必要があるため、ガラス基板に形成されている各種部材への熱的影響が大きくなるという課題が存在している。さらに、上記特許文献5に開示されているガラス基板の端面の化学的エッチング法では、ガラス基板の端面以外の表面がエッチングされないようにする必要があるため、レジスト膜等で保護する必要があると共に、ガラス基板の用途によってはエッチング後にレジスト膜を剥離する工程が必要となるという課題が存在する。
【0017】
発明者は、上述のような従来のガラス基板の端面の加工方法の問題点を解決すべく種々検討を重ねてきた結果、上記特許文献3〜5に開示されている方法とは全く異なる、水分を含有することにより所望の弾力性及び粘着性を有する核体に多数の微細な研磨材粒子を粘着させた研磨材をガラス等の脆性材料基板の端面にのみ吹き付けるようにすることによって、脆性材料基板の端面を効果的に研磨することができ、脆性材料基板の端面強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。なお、上記特許文献6には、水分を含有することにより所望の弾力性及び粘着性を有する核体に多数の微細な研磨材粒子を粘着させた研磨材を被研磨材の表面に吹き付けることによって、被研磨材の表面を研磨することについての記載はあるが、脆性材料基板の端面のみを研磨することを示唆する記載はない。
【0018】
すなわち、本発明は、スクライブ後の脆性材料基板の端面強度が高くなるようにした、マザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法は、マザー脆性材料基板からスクライビングホイールを用いて形成された脆性材料基板の端面に向けて複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材を吹き付け、前記脆性材料基板の端面を研磨することを特徴とする。
【0020】
本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法によれば、脆性材料基板の端面を複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材を吹き付けることによって研磨しているため、脆性材料基板の端面が滑らかな平坦面となっており、端面強度が向上した脆性材料基板を容易に製造することができるようになる。
【0021】
なお、本発明を適用し得る脆性材料基板は、形態、材質、用途及び大きさについて特に限定されるものではなく、単板からなる基板又は2枚以上の単板を貼り合わせた貼合せ基板であってもよく、これらの表面又は内部に薄膜あるいは半導体材料を付着させたり、含ませたりされたものであってもよい。脆性材料基板の代表例としては、ガラス基板、セラミックス基板、半導体(シリコン等)基板、サファイヤ基板等が挙げられる。また、研磨材粒子としては、脆性材料基板よりも硬質なものが好ましく、特にダイヤモンド微粒子からなるものが好ましい。
【0022】
なお、本発明の研磨材中に含有させる水分は、複数の研磨材粒子を凝集させて粘着性及び弾力性を付与するために用いられるものであり、この水分含有量は実験的に適宜定めればよく、さらに、水分中にゼラチンやカルボキシメチルセルロース等の増粘剤が含有されていてもよい。水分が含まれていない状態で研磨材粒子を脆性材料基板の端面に吹き付けると、一応脆性材料基板の端面の研磨をすることができるが、研磨表面がなし地状となり、端面強度の上昇が小さくなる。それに対し、水分が含有され、凝集された複数の研磨材粒子を構成成分とし、粘着性及び弾力性が最適に調整された状態の研磨材を脆性材料基板の端面に吹き付けると、脆性材料基板の端面が鏡面状態となるようにすることができ、脆性材料基板の割断面の品質がより良好となり、より端面強度が高い脆性材料基板が得られるようになる。
【0023】
さらに、上記目的を達成するため、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法は、
(1)スクライビングホイールを用いて、マザー脆性材料基板から個々の脆性材料基板を形成する第1の工程と、
(2)前記第1の工程で得られた脆性材料基板の端面が露出するように、前記脆性材料基板を保持する第2の工程、
(3)露出している前記脆性材料基板の端面に向けて、複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材を吹き付けて、前記脆性材料基板の端面を研磨する第3の工程、
を備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法では、第2の工程において、マザー脆性材料基板から周知の種々のスクライビングホイールを用いて形成された個々の脆性材料基板を、脆性材料基板の端面が露出するように保持している。この状態で、露出している脆性材料基板の端面に向けて、複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する研磨材を吹き付けて脆性材料基板の端面を研磨すれば、露出している脆性材料基板の端面を良好に研磨することができる。そのため、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法によれば、脆性材料基板の割断面の品質が良好であり、端面強度が高い脆性材料基板を簡単かつ容易に製造することができるようになる。なお、脆性材料基板の保持方法としては、テーブル上に脆性材料基板を載置し、例えば重りを載せる等、この脆性材料基板の端面が露出した状態で固定できる方法であれば、任意の方法を採用することができる。
【0025】
また、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法においては、前記第2の工程において、前記脆性材料基板の両面を治具によって挟持することにより保持することが好ましい。
【0026】
本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法においては、脆性材料基板の厚さが薄くても、安定した状態で脆性材料基板を治具によって挟持することができると共に、脆性材料基板の端面のみを治具から露出した状態に挟持することができる。この状態で、露出している脆性材料基板の端面に向けて、複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する研磨材を吹き付けて脆性材料基板の端面を研磨すれば、脆性材料基板の端面以外の面は治具によって遮蔽されているので研磨材の影響を受けず、露出している脆性材料基板の端面のみが良好に研磨される。そのため、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法によれば、より脆性材料基板の割断面の品質が良好であり、端面強度が高い脆性材料基板を簡単かつ容易に製造することができるようになる。
【0027】
また、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法で使用する治具としては、弾性材料、脆性材料と同じ材質の部材又は金属材料からなるものを用いることが好ましい。
【0028】
本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法においては、治具として脆性材料基板の端面のみが露出するように脆性材料基板の両面を挟持することができ、かつ、吹き付けられた研磨材が突き抜けて脆性材料基板の端面以外の面に接触することがなければ、吹き付けられた研磨材によって研磨されてもよく、弾性材料や、脆性材料基板と同様の材料からなる厚さが厚い部材や、ステンレススチール等の各種金属材料からなる部材を使用し得る。
【0029】
また、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法においては、個々の脆性材料基板は、スクライビングホイールとして、ディスク状ホイールの円周部に沿った全周にわたり断面V字型の刃が形成されており、この断面がV字形の刃に交差する方向に一定ピッチで一定深さの切り欠きが形成されているものを使用して形成されたものに対して適用することが好ましい。
【0030】
スクライビングホイールとして、ディスク状ホイールの円周部に沿った全周にわたりV字型の刃が形成されており、この断面がV字形の刃に交差する方向に一定ピッチで一定深さの切り欠きが形成されているものを用いてマザー脆性材料基板をスクライブして個々の脆性材料基板を形成すると、これらの切り欠きが形成されていないスクライビングホイール(ノーマルホイール)を用いた場合よりも、かかりが良く、スクライブ性に優れているが、端面強度が低下する。本発明の脆性材料基板の製造方法によれば、このような端面強度が低下した脆性材料基板に対しても、第2の工程及び第3の工程を経ることによって、脆性材料基板の割断面の品質が良好であり、端面強度が高い脆性材料基板を得ることができるようになる。
【0031】
また、本発明のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法においては、第2の工程及び第3の工程は、それぞれ個々の脆性材料基板を搬送しながら順次行うようにすることができる。
【0032】
このような方法を採用すれば、多数の個々の脆性材料基板の端面を短時間で研磨処理することができ、処理効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1Aはノーマルホイールと中浸透ホイールに共通するその回転軸に直交する方向から見た正面図であり、図1Bはその側面図である。
【図2】図2Aはノーマルホイールの場合の図1BのII部分の拡大図であり、図2Bは中浸透ホイールの場合の図1BのII部分の拡大図である。
【図3】実施例の試験片の端面の研磨方法を説明する概略正面図である。
【図4】各試験片の曲げ強度の測定方法の概略図である。
【図5】スクライビングホイールによるスクライブの様子を模式的に示す側面図である。
【図6】図5のスクライブにおける垂直クラックが生成される様子を模式的に示す正面図である。
【図7】従来例のガラス端面の研磨機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の脆性材料基板の製造方法を、実施例、比較例及び参考例により、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための中浸透ホイールを用いた脆性材料基板の製造方法の一例を示すものであって、本発明をこの中浸透ホイールを用いた脆性材料基板の製造方法に特定することを意図するものではなく、本発明はノーマルホイールや高浸透ホイールを用いた場合等、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも適応し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に適宜縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0035】
また、本発明において加工の対象となる脆性材料基板としては、形態、材質、用途及び大きさについて特に限定されるものではなく、単板からなる基板又は2枚以上の単板を貼り合わせた貼合せ基板であってもよく、これらの表面又は内部に薄膜あるいは半導体材料を付着させたり、含ませたりされたものであってもよい。また、脆性材料基板は、その表面に脆性材料に該当しない薄膜等が付着されていても、本発明において加工の対象となる脆性材料基板となるものである。
【0036】
本発明の脆性材料基板の材質としては、ガラス、セラミックス、半導体(シリコン等)、サファイヤ等が挙げられ、その用途としては液晶表示パネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル、電界放出ディスプレイ(FED)用パネル等のFPD用のパネルが挙げられる。また、本明細書で用いられている「中心線平均粗さRa」とは、JIS B 0601で規定された工業製品の表面粗さを表すパラメーターの一つであり、対象物の表面からランダムに抜き取った算術平均値である。
【0037】
先ず、図1及び図2を用いて、本発明の実施例、比較例及び参考例で使用したスクライビングホイールの形状を説明する。なお、図1Aはノーマルホイールと中浸透ホイールに共通するその回転軸に直交する方向から見た正面図であり、図1Bはその側面図である。また、図2Aはノーマルホイールの場合の図1BのII部分の拡大図であり、図2Bは中浸透ホイールの場合の図1BのII部分の拡大図である。
【0038】
図1及び図2に示すように、ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bは、共に回転軸11を共有する二つの円錐台12の底部が交わって円周稜線13が形成された外周縁部14と、この円周稜線13に沿って円周方向に形成された複数の切り欠き15及び突起16を有している。円周稜線13は、軸心から半径方向外方に向かって研削加工が施されることによって形成され、研削加工が施された外周縁部14の表面には研削条痕が残っている。外周縁部14は、収束角度(α)を有するように形成されている。ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bは、ディスク状のホイールであって、ディスクの中心に軸支するための図示しないピンが貫通される軸孔17が形成されている。また、ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bの材質としては、ここでは焼結ダイヤモンド製のものを用いたが、超硬合金製、セラミックス製あるいはサーメット製のものを用いても同様の結果が得られる。
【0039】
外周縁部14は、二つの円錐台12の側面によって構成され、円周稜線13を形成するための研削加工に由来して、研削条痕が残るが、外周縁部14の中心線平均粗さRaが例えば0.05μm以上0.35μm以下になるように加工されている。このため、中心線平均粗さRaがより大きい従来の研削加工と比較して、削り取られる焼結ダイヤモンド製の高価な刃先構成材料の全量を少なくすることができ、それによって突起16の磨耗が抑えられ、寿命を大きく延ばすことができる。
【0040】
円周稜線13は、外周縁部14を構成する円錐台12の側面の研削条痕によって形成される微細な凹凸を有し、この凹凸の中心線平均粗さRaは例えば0.05μm以上0.20μm以下となっている。これにより、円周稜線13に切り欠き15を形成する際に、切り欠き15の加工を開始する円周稜線13の高さ位置(半径方向における位置)を容易に決定することができるようになる。
【0041】
ノーマルホイール10Aでは、図2Aに示すように、円周稜線13は全周にわたって一様に形成されている。それに対し、中浸透ホイール10Bでは、図2Bに示すように、円周上の稜線13に直交するように切り欠き15がピッチPで形成され、その円周方向の長さaは突起16の円周方向の長さbよりも短くなるようにされている。なお、突起16は、円周稜線13が切り欠かれて残った円周方向に長さを有する円周稜線13の部分で構成されている。また、切り欠き15は、概略V字状の溝を平坦な円周稜線13から深さhに、ピッチP毎に切り欠くことにより形成されている。このような切り欠き15の形成により、円周稜線13には、高さhの突起16がピッチP毎に形成されることになる。突起16の円周稜線13に相当する部分は、円錐台12の側面の研削条痕によって形成される微細な凹凸を有しており、この凹凸の中心線平均粗さRaは0.05μm以上0.20μm以下となっている。
【0042】
切り欠き15は、中浸透ホイール10Bの回転軸11方向からみた形状が略V字状であるため、V字の中心の角度を変えることにより、切り欠き15の深さ(突起16の高さ)hを確保しながら、切り欠き15の円周方向の長さaと突起16の円周方向の長さbを容易に調整することができる。
【0043】
ここで、ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bの製造方法の一例を説明する。まず、ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bの母体となる円柱ディスクを準備し、この円柱ディスクに対して両側の外周縁部14を研削加工することにより、2つの円錐台12の側面が交差するようにして円周稜線13を形成する。この研削加工に際しては、円錐台12の側面の表面粗さ及び表面粗さに由来する円周稜線13の軸方向のうねりは小さくなるようにすることが好ましい。
【0044】
円錐台12の側面はその中心線平均粗さRaが例えば0.05μm以上0.35μm以下となり、円周稜線13は、円錐台12の側面の研削条痕によって形成される微細な凹凸を有するが、この凹凸の中心線平均粗さRaが例えば0.05μm以上0.20μm以下となるように、使用される砥石の粒度が選定される。このように、円錐台12の側面及び円周稜線13の表面粗さを抑えることにより、形成されるスクライブラインはその幅が細く一定のものとなり、スクライビングホイール10によるスクライビングによって得られる分離後のガラス基板Gの割断面に欠け(チッピング)等の発生が抑えられる。この状態のものがノーマルホイール10Aに対応する。
【0045】
中浸透ホイール10Bは、上記のようにして得られたノーマルホイール10Aに対し、円周稜線13に切り欠き15が形成されている。切り欠き15を形成する一例としては、レーザー光の照射によってホイールの回転軸方向からみた形状がV字状となる切り欠き15を外周縁部に形成する方法がある。
【0046】
ノーマルホイール10A及び中浸透ホイール10Bの外径及び外周縁部14の収束角度(α)、中浸透ホイール10Bの切り欠き15のピッチP、切り欠き15の円周方向の長さaと突起16の円周方向の長さb、切り欠き15の深さh等のスクライビングホイールの仕様は、切断対象の脆性材料の種類、厚さ、熱履歴及び要望される脆性材料の割断面の品質等に応じて適宜、設定される。以下の参考例に使用したノーマルホイール10Aは、外径3mm、収束角度(α)=140度であり、また、実施例及び比較例で使用した中浸透ホイール10Bは、外径2mm、切り欠き数=200、切り欠き深さh=3〜3.5μmである。また、端面強度の測定に使用した脆性材料基板としてのガラス基板は、全て厚さ0.3mm、40mm×50mmサイズの日本電気硝子株式会社製の厚さ0.3mmの無アルカリガラス(OA−10:商品名)単板である。
【0047】
また、曲げ強度は、各試験片の一方の面上の中心線(40mm×25mmの大きさに2分割する線)から両側にそれぞれ5mm離れた2本の直線上及び反対側の面(裏面)上の中心線(表面の中心線に対面する線)から両側にそれぞれ10mm離れた2本の直線上に、ガラス基板に対して垂直方向から圧力Fを加え、破壊される際の圧力(stress)を測定することにより、4点曲げ強度(単位:N)として求めた。なお、各試験片の曲げ強度の測定方法の概略を図4に示した。また、用いた4点曲げ試験機は、島津製作所製のEzS/CEであり、試験速度1mm/minで測定した。
【0048】
[試験片の作製]
参考例としては、上述したノーマルホイール10Aを用い、20個の試験片を作製し、これらの試験片の曲げ強度を測定した。また、比較例としては、上述した中浸透ホイール10Bを用い、同じく20個の試験片を作製し、これらの試験片の曲げ強度を測定した。実施例としては、上述した中浸透ホイール10Bを用い、同じく20個の試験片を作製し、この30個の試験片を以下に述べる方法によって端面を研磨した後に、曲げ強度を測定した。
【0049】
[実施例の端面の研磨方法]
上述のようにして作製された20個の実施例の試験片20を、図3に示したように、両面側から無アルカリガラス製の治具21a及び21bによって挟持し、実施例の試験片の端面22が高さHが約1mmとなるように突出させた。次いで、上記特許文献7に開示されている方法に従い、突出している試験片20の端面22に、水とゼラチンとを含有する所定の弾力性及び粘着性を有する核体に多数の微細な研磨材粒子としてのダイヤモンド微粒子を粘着させた研磨材23を遠心力を利用して吹き付ける研磨装置24を用い、露出している端面22に沿って研磨材23の吹き付け位置を移動させながら吹き付けることにより研磨した。なお、研磨装置24としては、商品名AERO LAPとして市販されているものを適宜改変して使用した。
【0050】
この研磨材23の吹き付けは、試験片20のスクライビングホイールによって形成された塑性変形領域(図6参照)のみに対して行ってもよいと思われるが、試験片20の厚さが薄いので、突出している試験片20の端面22の全体が鏡面状態となるまで行った。なお、塑性変形領域のみに対して研磨を行う場合には、試験片20の端面22の表面方向に10〜100μm、深さ方向に10μm以上研磨すればよい。次いで、上述した参考例及び比較例の場合と同様にして、曲げ強度を測定した。曲げ強度の測定結果は、参考例及び比較例の測定結果と共に、統計処理して平均値を高(100N以上)、中(100N未満、50N以上)、低(50N未満)として、下記表1にまとめて示した。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1に示した結果から、以下のことが分かる。すなわち、ノーマルホイールを使用して端面の研磨を行わなかった参考例1の結果を基準とすると、中浸透ホイールを使用して端面の研磨を行わなかった比較例の測定結果は、曲げ強度が参考例のものよりも小さくなっていた。それに対し、中浸透ホイールを使用して端面の研磨を行なった実施例の測定結果は、曲げ強度は参考例、比較例のものよりも大きくなっており、非常に良好な端面強度の向上効果が奏されていること、すなわち割断面の品質がより良好となるという効果が奏されていることが確認された。
【0053】
なお、上記の比較例及び実施例では中浸透ホイールを用いて未研磨及び研磨した試験片を作製した例を示したが、ノーマルホイールを用いて未研磨の試験片及び研磨した試験片を作製しても、あるいは、上記特許文献1に開示されているような高浸透ホイールを用いて未研磨の試験片及び研磨した試験片を作製しても、実質的に同様な作用効果が奏される。
【0054】
また、上記実施例では、治具として試験片と同材質の無アルカリガラスからなるものを用いて試験片を固定して研磨した例を示した。しかしながら、治具としては、端面を研磨する脆性材料基板の端面のみが露出するように脆性材料基板の両面を挟持することができ、かつ、吹き付けられた研磨材が突き抜けて脆性材料基板の端面以外の面に接触することがなければ、吹き付けられた研磨材によって研磨されてもよいため、脆性材料基板と同様の材料からなる部材のみでなく、弾性材料や、ステンレススチール等の各種金属材料からなる部材を使用することができる。また、試験片の固定方法としては、上記実施例で採用した治具を用いて挟持することのほか、テーブルに戴置して上面を保護板で覆い、横方向から吹き付ける方法も採用し得る。
【0055】
また、上記実施例では、研磨を行う際に比較例及び実施例では、研磨材の吹き付け位置を露出している端面に沿って移動させながら吹き付けて研磨した例を示したが、連続的に多数の脆性材料基板の端面を研磨できるようにするため、脆性材料基板を搬送しながら順次研磨材を露出している端面に吹き付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10A…ノーマルホイール
10B…中浸透ホイール
11…回転軸
12…円錐台
13…円周稜線
13a…端部
14…外周縁部
15…切り欠き
16…突起
17…軸孔
20…試験片
21a、21b…治具
22…端面
23…研磨材
24…研磨装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マザー脆性材料基板からスクライビングホイールを用いて形成された脆性材料基板の端面に向けて複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材を吹き付け、前記脆性材料基板の端面を研磨することを特徴とするマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。
【請求項2】
マザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法であって、
(1)スクライビングホイールを用いて、マザー脆性材料基板から個々の脆性材料基板を形成する第1の工程と、
(2)前記第1の工程で得られた脆性材料基板の端面が露出するように、前記脆性材料基板を保持する第2の工程、
(3)露出している前記脆性材料基板の端面に向けて、複数の研磨材粒子が凝集し水分を含有する多数の研磨材を吹き付けて、前記脆性材料基板の端面を研磨する第3の工程、
を備えていることを特徴とするマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記脆性材料基板の両面を治具によって挟持することにより保持することを特徴とする請求項2に記載のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。
【請求項4】
前記治具として、弾性材料、脆性材料と同じ材質の部材又は金属材料からなるものを用いることを特徴とする請求項3記載のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。
【請求項5】
前記個々の脆性材料基板は、前記スクライビングホイールとして、ディスク状ホイールの円周部に沿った全周にわたりV字型の刃が形成されており、前記断面がV字形の刃に交差する方向に一定ピッチで一定深さの切り欠きが形成されているものを使用して形成されたものであることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程及び前記第3の工程は、それぞれ前記個々の脆性材料基板を搬送しながら順次行うことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載のマザー脆性材料基板からの脆性材料基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95649(P2013−95649A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242159(P2011−242159)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】