説明

マスカ音測定装置、およびサウンドマスキング装置

【課題】マスカ音を測定することができるマスカ音測定装置を実現する。
【解決手段】適応型フィルタ111とポストプロセッサ121は、話者位置音声信号Sbとマスキング位置音声信号Soにより、話者音声に対する適応フィルタ処理を行い、フィルタ処理後の話者位置音声信号Sbである判定用話者音声信号Sbcを音声分析部130へ出力する。適応型フィルタ112とポストプロセッサ122は、原マスカ音信号Smと第1減算信号により、マスカ音に対する適応フィルタ処理を行い、フィルタ処理後の原マスカ音信号Smである判定用マスカ音信号Smcを音声分析部130へ出力する。音声分析部130は、判定用話者音声信号Sbcと判定用マスカ音信号Smcの音量レベルを比較して、マスキング効果の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定話者の音声を第三者が聞き取り難くするためのマスカ音を発生するサウンドマスキングシステムに関し、特にマスカ音の測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特定話者の音声を、第三者に聞き取り難くするサウンドマスキングの技術が各種考案されている。当該サウンドマスキングシステムの類似技術として、特許文献1では、聴者に必要な周囲音を聞かせるために、オーディオ装置の再生音の周波数特性を調整する技術が開示されている。
【0003】
そして、サウンドマスキングシステムの場合、特定話者音声を第三者に聞き取り難くするためにマスカ音を放音するが、これを類似技術に当てはめれば、当該マスカ音を、特定話者音声に基づいて調整することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−228198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のサウンドマスキングシステムでは、第三者が特定話者音声を本当に聞き取れていないようにマスカ音を放音できているかを、判断することができない。また、マスカ音の総音量レベルおよび周波数特性が適切であるかについても、判断することができない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、マスカ音を測定することができるマスカ音測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、マスキングすべき領域で特定話者の音声(話者音声)を聞き取り難くするためのマスカ音を測定するマスカ音測定装置に関する。マスカ音測定装置は、抽出部および音声分析部を備える。抽出部は、話者位置で収音された話者位置音声と、話者音声をマスキングするために放音されるマスカ音と、話者音声をマスキングすべき領域で収音されたマスキング位置音声と、を用いて、マスキングすべき領域での話者音声である判定用話者音声と、マスキングすべき領域でのマスカ音である判定用マスカ音と、を抽出する。音声分析部は、判定用話者音声と判定用マスカ音とを比較し、マスキングがされているかどうかを分析する。
【0008】
この構成では、話者音声とマスカ音とが聞こえるマスキングすべき領域における話者音声およびマスカ音が、個別に抽出される。すなわち、外部環境の影響を除去して、マスキングすべき領域で聞こえる話者音声のみの成分と、マスキングすべき領域で聞こえるマスカ音のみの成分とが個別に抽出される。したがって、マスキングすべき領域でのマスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルを正確に比較できる。これにより、マスキングすべき領域において、マスカ音の音量レベルが話者音声の音量レベルよりも高いかどうか、すなわち話者音声がマスキングされているかどうかを、正確に判断できる。
【0009】
また、この発明のマスカ音測定装置の音声分析部は、判定用話者音声と判定用マスカ音とを、所定の周波数成分毎に比較し、全ての周波数成分において、判定用マスカ音が判定用話者音声に対して所定音量レベル以上である場合に、マスキングされていると判断する。
【0010】
この構成では、マスキング効果の判断基準を示しており、マスキングすべき領域においてマスカ音(判定用マスカ音)の音量レベルが話者音声(判定用話者音声)の音量レベルよりも高ければ、話者音声は聞こえにくくなるので、マスキング効果があるものと判断する。
【0011】
また、この発明のマスカ音測定装置の音声分析部は、全ての周波数成分において、判定用マスカ音が判定用話者音声に対して所定音量レベル以上で且つ所定の音量レベル範囲内である場合に、適切にマスキングされていると判断する。
【0012】
この構成では、適切なマスキング効果の判断基準を示しており、マスカ音(判定用マスカ音)の音量レベルが話者音声(判定用話者音声)の音量レベルよりも所定レベル以上で且つ所定の音量レベル範囲内である場合に、適切なマスキングが行われていると判断する。
【0013】
また、この発明のマスカ音測定装置の抽出部は、判定用話者音声抽出部と判定用マスカ音抽出部とを備える。判定用話者音声抽出部は、話者位置音声が入力される第1適応型フィルタと、該第1適応型フィルタによりフィルタ処理された話者位置音声をマスキング位置音声から減算し、第1減算信号を第1適応型フィルタへフィードバックする第1ポストプロセッサとで構成される。判定用話者音声抽出部は、フィルタ処理された話者位置音声を判定用話者音声として出力する。判定用マスカ音抽出部は、マスカ音が入力される第2適応型フィルタと、該第2適応型フィルタによりフィルタ処理されたマスカ音をマスキング位置音声から減算し、第2減算信号を第2適応型フィルタへフィードバックする第2ポストプロセッサとで構成される。判定用マスカ音抽出部は、フィルタ処理されたマスカ音を判定用マスカ音として出力する。
【0014】
この構成では、抽出部の具体的実現例を示している。このように、適応型フィルタを用いることで、話者音声がマスキングすべき領域に到達するまでの伝達関数と、マスカ音がマスキングすべき領域に到達するまでの伝達関数を、正確に取得できる。そして、これらの伝達関数を用いることで、マスキングすべき領域における話者音声(判定用話者音声)およびマスカ音(判定用マスカ音)を正確に抽出することができる。
【0015】
また、この発明のマスカ音測定装置は、話者位置音声を収音する話者位置マイクと、マスキング位置音声を収音するマスキング位置マイクと、マスカ音を生成するマスカ音生成部と、を備える。この構成では、マスカ音測定装置を具体的に設置する場合の構成例を示している。
【0016】
また、この発明のマスカ音測定装置では、音声分析部による分析結果を通知する通知部を備えている。この構成では、分析結果すなわちマスキング効果が有効であるか無効であるかを、話者に通知することができる。
【0017】
また、この発明は、上述のいずれかに記載のマスカ音測定装置を備えるサウンドマスキング装置に関する。サウンドマスキング装置は、マスカ音測定装置とともに、音声分析部による分析結果から適正な音量レベルのマスカ音が放音されるように設定された放音パラメータによってマスカ音の音量レベルを調整するマスカ音調整部と、調整後のマスカ音を放音するスピーカと、を備える。
【0018】
この構成では、有効なマスキングを行えるように、放音されるマスカ音を調整することができる。すなわち、マスキング効果の分析結果に応じて適応的にマスカ音を調整して放音することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、マスキングすべき領域で話者音声がマスカ音によりマスキングされているかどうかを、判定することができる。これにより、話者は、自分達の会話が第三者に対して聞き取り難いようにマスキングされているかどうかを、正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態に係るサウンドマスキング装置1の概略的な設置構成図である。
【図2】第1の実施形態に係るサウンドマスキング装置1の構成を示すブロック図である。
【図3】マスキング効果の有無の判定および当該判定結果に基づくマスカ音のパラメータ設定および調整の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】マスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルの周波数特性の関係を示す図である(適切な場合)。
【図5】マスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルの周波数特性の関係を示す図である(マスカ音が高すぎる場合)。
【図6】マスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルの周波数特性の関係を示す図である(マスカ音が低すぎる場合)。
【図7】マスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルの周波数特性の関係を示す図である(マスカ音が特定の周波数で低すぎる場合)。
【図8】第2の実施形態に係るサウンドマスキング装置1Aの概略的な設置構成図である。
【図9】第2の実施形態に係るサウンドマスキング装置1Aの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1の実施形態に係るマスカ音測定部(マスカ音測定装置)を備えるサウンドマスキング装置について、図を参照して説明する。図1は本実施形態に係るサウンドマスキング装置1の概略的な設置構成図である。図2は本実施形態に係るサウンドマスキング装置1の構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態のサウンドマスキング装置1は、第三者が特定話者の話し声を聞き取れるような状況で利用される。例えば、図1では、カウンター900によって仕切られたブースに特定話者910、920が在席している。カウンター900から所定距離離間した位置には第三者930が在席している。このような状況において、特定話者910,920の会話が第三者930に聞こえにくくするように、マスカ音Smoを放音する。
【0023】
サウンドマスキング装置1は、本体2、話者位置マイクMICb、マスキング位置マイクMICo、スピーカSP、表示部40を備える。
【0024】
話者位置マイクMICbは、カウンター900のテーブル901上に設置されており、本体2に接続されている。話者位置マイクMICbは、特定話者910,920の会話を収音し、この収音信号である話者位置音声信号Sbを本体2へ出力する。
【0025】
スピーカSPは、カウンター900の近傍に設置されており、本体2に接続されている。スピーカSPは、マスカ音のコンテンツデータをデコードし、後述する方法で調整する(必要でなければ調整を行わない)ことにより得られるマスカ音信号Smoを放音する。なお、以下では、スピーカSPから放音されるマスカ音信号Smoを調整の有無に関係なく、調整後マスカ音信号Smoと称する。この際、スピーカSPは、調整後マスカ音信号Smoを、第三者930が在席する領域を含むマスキングを行いたい領域に向けて放音する。なお、スピーカSPは本体2と一体型であってもよく、この場合、スピーカSP内蔵の本体2を、カウンター900の近傍に設置する。
【0026】
マスキング位置マイクMICoは、第三者930の在席する領域を含むマスキングを行いたい領域内に設置されており、本体2に接続されている。マスキング位置マイクMICoは、設置領域での音を収音し、この収音信号であるマスキング位置音声信号Soを本体2へ出力する。
【0027】
表示部40は、表示灯や液晶ディスプレイ等から構成され、本体2に接続されている。表示部40は、後述する方法で判定されたマスキング効果に応じて点灯や特定の表示を行う。なお、表示部40は話者位置マイクMICbと一体型であっても構わない。
【0028】
次に、マスキング効果の判定を行う本体2の構成について説明する。図2に示すように、本体2は、本発明の「マスカ音測定装置」に対応するマスカ音測定部10、マスカ音生成部20、マスカ音記憶部21、およびマスカ音調整部30を備える。
【0029】
マスカ音記憶部21には、各種のマスカ音、例えば、人の声から作成した雑踏音等の攪乱音と、川の流れる音、海の波の音、鳥のさえずり等の背景音とを組み合わせてなるマスカ音コンテンツデータが記憶されている。マスカ音生成部20は、図示しない操作部による操作入力等に応じて、適宜、マスカ音コンテンツデータを読み出し、マスカ音(原マスカ音)信号Smを生成する。原マスカ音信号Smは、マスカ音測定部10およびマスカ音調整部30へ出力される。
【0030】
マスカ音測定部10は、適応型フィルタ111,112、ポストプロセッサ121,122、音声分析部130を備える。
【0031】
適応型フィルタ111は、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sbが入力される。
【0032】
ポストプロセッサ121は、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、マスキング位置音声信号Soが入力される。ポストプロセッサ121は、適応型フィルタ111でフィルタ処理された話者位置音声信号Sbを、マスキング位置音声信号Soから減算し、第1減算信号Sn1を出力する。第1減算信号Sn1は、ポストプロセッサ122に入力されるとともに、適応型フィルタ111へフィードバックされる。
【0033】
適応型フィルタ111は、第1減算信号Sn1に話者位置音声信号Sbが含まれないようにフィルタ係数を適応していくフィルタである。すなわち、マスカ音と話者音声とが混在するマスキングすべき領域における音声から、話者音声のみを抑圧するようにフィルタ係数を適応させるフィルタである。
【0034】
このような処理を行うことで、フィルタ処理後の話者位置音声信号Sbは、話者位置からマスキングすべき領域までの話者音声の伝達特性に依存する音声信号となるので、フィルタ処理後の話者位置音声信号Sbは、マスキングすべき領域に到達した話者音声を示す話者音声信号Sbcと同等になる。
【0035】
適応型フィルタ111は、このように算出された話者音声信号Sbc(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121へ出力するとともに、音声分析部130へ出力する。
【0036】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111とポストプロセッサ121とを用いることで、マスキングすべき領域に到達した話者音声信号Sbcを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111とポストプロセッサ121とが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0037】
適応型フィルタ112は、本発明の「第2適応型フィルタ」に対応し、原マスカ音信号Smが入力される。
【0038】
ポストプロセッサ122は、本発明の「第2ポストプロセッサ」に対応し、第1減算信号Sn1が入力される。ポストプロセッサ122は、適応型フィルタ112でフィルタ処理された原マスカ音信号Smを、第1減算信号Sn1から減算し、第2減算信号Sn2を出力する。第2減算信号Sn2は、適応型フィルタ112へフィードバックされる。
【0039】
適応型フィルタ112は、第2減算信号Sn2に原マスカ音信号Smが含まれないようにフィルタ係数を適応していくフィルタである。すなわち、マスカ音と話者音声とが混在するマスキングすべき領域における音声から話者音声を抑圧した状態で、さらにマスカ音のみを抑圧するようにフィルタ係数を適応させるフィルタである。
【0040】
このような処理を行うことで、フィルタ処理後の原マスカ音信号Smは、スピーカSpの設置位置からマスキングすべき領域までのマスカ音の伝達特性に依存する音声信号となるので、フィルタ処理後の原マスカ音信号Smは、マスキングすべき領域に到達したマスカ音信号Smcと同等になる。
【0041】
適応型フィルタ112は、このように算出されたマスカ音信号Smc(本発明の「判定用マスカ音」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ122へ出力するとともに、音声分析部130へ出力する。
【0042】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ112とポストプロセッサ122とを用いることで、マスキングすべき領域に到達したマスカ音信号Smcを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ112とポストプロセッサ122とが本発明の「判定マスカ音抽出部」に対応する。
【0043】
音声分析部130は、判定用の話者音声信号Sbcと判定用のマスカ音信号Smcとを比較し、音量レベルの高低に基づいてマスキング効果の有無を判定する。具体的には、次に示すフローのS104から以降のフローにより、マスキング効果の有無を判定する。
【0044】
図3は、マスキング効果の有無の判定および当該判定結果に基づくマスカ音のパラメータ設定および調整の処理フローを示すフローチャートである。図4、図5、図6、図7はマスカ音の音量レベルと話者音声の音量レベルの周波数特性の関係を示す図である。図4はマスカ音の音量レベルが適切な場合を示し、実線が判定用のマスカ音信号Smcを示し、破線が判定用の話者音声信号Sbcを示す。
【0045】
図5はマスカ音の音量レベルが全周波数帯域において高すぎる場合を示し、二点鎖線が未調整の判定用のマスカ音信号Smcを示し、破線が判定用の話者音声信号Sbcを示し、実線が調整後のマスカ音信号Smoを示す。図5(A)は調整前の周波数特性を示し、図5(B)は調整後の周波数特性および調整概念を示す。
【0046】
図6はマスカ音の音量レベルが全周波数帯域において低い場合を示し、二点鎖線が未調整の判定用のマスカ音信号Smcを示し、破線が判定用の話者音声信号Sbcを示し、実線が調整後のマスカ音信号Smoを示す。図6(A)は調整前の周波数特性を示し、図6(B)は調整後の周波数特性および調整概念を示す。
【0047】
図7はマスカ音の音量レベルが周波数領域において部分的に低い場合を示し、二点鎖線が未調整の判定用のマスカ音信号Smcを示し、破線が判定用の話者音声信号Sbcを示し、実線が調整後のマスカ音信号Smoを示す。図7(A)は調整前の周波数特性を示し、図7(B)は調整後の周波数特性および調整概念を示す。
【0048】
まず、スピーカSPからマスカ音が放音されると(S101)、上述のように、話者位置マイクMICbで話者位置音声信号Sbを取得し、マスキング位置マイクMICoでマスキング位置音声信号Soを取得する(S102)。なお、マスカ音の放音開始は、例えば、サウンドマスキング装置1の電源オンに応じて行ってもよいし、所定の操作入力や話者位置マイクMICbによる所定音量レベルの検出をトリガにして行ってもよい。
【0049】
次に、上述のように、判定用の話者音声信号Sbcと判定用のマスカ音信号Smcを抽出する(S103)。
【0050】
次に、音声分析部130は、判定用の話者音声信号Sbcと判定用のマスカ音信号Smcとを、FFT処理等により周波数解析し、それぞれの信号に対して各周波数成分を取得する。音声分析部130は、判定用の話者音声信号Sbcと判定用のマスカ音信号Smcとに対して、周波数成分毎に音量レベルの比較を行う(S104)。
【0051】
音声分析部130は、全周波数成分において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルより高いかどうかを判定する。この際、音声分析部130は、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルにマージンMsを加算した音量レベル以上であるかどうかにより、判定を行う。このマージンMsは、予め実験的に算出された値であり、例えば約6[dB]に設定されている。なお、このマージンMsは、状況に応じて適宜調整することもできる。
【0052】
音声分析部130は、図4や図5で示すように、全周波数成分において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが判定用の話者音声信号SbcにマージンMsを加算した音量レベル以上であれば(S105:Yes)、マスキング効果が有効であると判断し、ステップS106へ移行する。
【0053】
具体的には、図4に示すように、各周波数(f1−f9)の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルから判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルを減算した値(Gf1−Gf9)がマージンMs以上である場合や、図5(A)に示すように、各周波数(f1−f9)の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルから判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルを減算した値(Gf11−Gf91)がマージンMsより大きな場合に、マスキング効果が有効であると判断する。
【0054】
一方で、音声分析部130は、図6、図7に示すように、少なくとも一つの周波数成分において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルにマージンMsを加算した音量レベルよりも低ければ(S105:No)、現状ではマスキング効果が有効でないと判断し、ステップS107の処理へ移行する。
【0055】
具体的には、図6(A)に示すように、各周波数(f1−f9)の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルから判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルを減算した値(Gf12−Gf92)が負の値となる場合(マージンMsより小さな場合)や、図7(A)に示すように、一部の周波数(f1−f5)の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルから判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルを減算した値(Gf13−Gf53)が負の値となる場合(マージンMsより小さな場合)に、マスキング効果が有効でないと判断する。
【0056】
マスキング効果があると判断した場合(S105:Yes)、音声分析部130は、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが適切な音量レベル範囲内にあるかを判定する。より具体的には、音声分析部130は、各周波数(f1,f2,・・・,f9)において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが、判定用の話者音声信号Sbcの音量レベルとマージンMsとの加算レベルを下限として、レベル範囲Wm内にあるかどうかを判定する。このレベル範囲Wmも実験等によって、マスカ音の音量レベルが必要以上に高くないと感じる範囲、すなわち、うるさすぎないと感じられる範囲に設定されており、図示しない操作部を用いた操作入力等によって適宜後から調整も可能である。
【0057】
音声分析部130は、図4に示すように、全ての周波数成分(f1−f9)で、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが適切な範囲内であると判断すると(S106:Yes)、原マスカ音信号Smの放音パラメータの変更を行わず、放音パラメータの変更指示を出力しない。
【0058】
音声分析部130は、少なくとも一つの周波数成分において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが適切な範囲内にはないと判断すると(S106:No)、ステップS108の処理へ移行する。
【0059】
説明をステップS105に戻し、マスキング効果が有効でないと判断した場合(S105:No)、音声分析部130は、現在設定されている放音パラメータを読み出し、音量レベルが上限まで達しているかどうかを検出する。音声分析部130は、現在の放音パラメータが上限の音量レベルまで達していれば(S107:Yes)、マスカ音の音量レベルが上限であること、およびこのままではマスキング効果が有効ではないことを、表示部40を介して通知する(S112)。
【0060】
一方、音声分析部130は、現在の放音パラメータが上限の音量レベルでなければ(S107:No)、ステップS108の処理へ移行する。
【0061】
ステップS108において、音声分析部130は、全周波数成分において、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが適切な範囲内にはないと判断すると(S108:Yes)、全周波数成分に同様に音量レベルを調整するボリューム調整を行う(S109)。具体的には、図5(B)に示すように、全ての周波数成分で判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが高い場合には、全ての周波数成分で音量レベルを低下させる。この際、調整後の音量レベルの差(Gf11C−Gf91C)が、上述のレベル範囲Wm内に収まるように、ボリューム調整を行う。また、図6(B)に示すように、全ての周波数成分で判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが低い場合には、全ての周波数成分に対して音量レベルを向上させる。この際、調整後の音量レベルの差(Gf12C−Gf92C)が、上述のレベル範囲Wm内に収まるように、ボリューム調整を行う。
【0062】
音声分析部130は、全周波数成分がレベル範囲Wm内に調整できていると判断すると(S111:Yes)、当該ボリュームパラメータPvを放音パラメータとして、マスカ音調整部30へ出力する。
【0063】
一方、音声分析部130は、全周波数成分がレベル範囲Wm内に調整できていないと判断すると(S111:No)、ステップS110へ移行する。
【0064】
音声分析部130は、特定の周波数成分がレベル範囲Wm内に入っていない場合(S108:No)、当該特定周波数の音量レベルがレベル範囲Wm内に入るようにイコライジングパラメータPeを設定し(S110)、当該イコライジングパラメータPeとこの際のボリュームパラメータPvとを放音パラメータとして、マスカ音調整部30へ出力する。
【0065】
具体的には、例えば、図7(B)に示すように、周波数成分(f1−f5)で判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが低い場合には、当該周波数成分(f1−f5)に対して音量レベルを向上させるイコライジング処理を行う。この際、調整後の音量レベルの差(Gf13C−Gf53C)が、上述のレベル範囲Wm内に収まるように、ボリューム調整を行う。
【0066】
マスカ音調整部30は、イコライジング部301とボリューム調整部302とからなる。イコライジング部301は、放音パラメータのイコライジングパラメータPeに準じて、原マスカ音信号Smの特定周波数成分の音量レベルを調整するイコライジング処理を行う。ボリューム調整部302は、放音パラメータのボリュームパラメータPvに基づいて、イコライジング処理後の原マスカ音信号Smの全周波数成分の音量レベルを調整するボリューム調整処理を行う。調整後マスカ音信号Smoは、スピーカSPへ出力され、当該スピーカSPから放音される。
【0067】
以上のような処理を行うことで、マスカ音により話者音声がマスキングされているかどうかを、正確に判定することができる。さらに、当該判定結果に基づいて、話者音声を確実にマスキングできるマスカ音を放音することができる。さらに、当該マスカ音が最適なレベルで放音されるように、自動で調整することができる。これにより、第三者等に不快感を与えることなく、話者音声を確実にマスキングすることができる。
【0068】
次に、第2の実施形態に係るサウンドマスキング装置1Aについて、図を参照して説明する。本実施形態のサウンドマスキング装置1Aは、第1の実施形態のサウンドマスキング装置1と異なり、複数の話者位置音声信号Sb1,Sb2、複数のマスキング位置音声信号So1,So2,So3が入力される。図8は本実施形態に係るサウンドマスキング装置1Aの概略的な設置構成図である。図9は本実施形態に係るサウンドマスキング装置1Aの構成を示すブロック図である。
【0069】
なお、本実施形態に示すサウンドマスキング装置1Aのマスカ音調整部30Aは、第1の実施形態に示したマスカ音調整部30と同様にイコライジング部およびボリューム調整部を備えており、同様の処理を行うため、詳細な機能ブロックの図示および処理の説明については、省略する。
【0070】
サウンドマスキング装置1Aは、本体2A、話者位置マイクMICb1,MICb2、マスキング位置マイクMICo1,MICo2,MICo3、スピーカSP1,SP2,SP3、表示部40A,40Bを備える。
【0071】
話者位置マイクMICb1は、カウンター900のテーブル901A上に設置されており、本体2Aに接続されている。話者位置マイクMICb1は、特定話者910A,920Aの会話を収音し、話者位置音声信号Sb1を本体2Aへ出力する。
【0072】
話者位置マイクMICb2は、カウンター900のテーブル901B上に設置されており、本体2Aに接続されている。話者位置マイクMICb2は、特定話者910B,920Bの会話を収音し、話者位置音声信号Sb2を本体2Aへ出力する。
【0073】
スピーカSP1,SP2,SP3は、カウンター900の近傍に設置されており、本体2Aに接続されている。スピーカSP1,SP2,SP3は、調整後のマスカ音信号Smoを放音する。この際、スピーカSP1,SP2,SP3は、調整後マスカ音信号Smoを、複数の第三者930が在席する領域を含むマスキングを行いたい領域に向けて放音する。
【0074】
マスキング位置マイクMICo1,MICo2,MICo3は、複数の第三者930の在席する領域を含むマスキングを行いたい領域内に、適宜間隔を置いて設置されており、それぞれ本体2Aに接続されている。マスキング位置マイクMICo1,MICo2,MICo3は、それぞれに設置領域での音を収音し、マスキング位置音声信号So1,So2,So3を本体2Aへ出力する。
【0075】
表示部40A,40Bは、表示灯や液晶ディスプレイ等から構成され、本体2Aに接続されている。表示部40A,40Bは、後述する方法で判定されたマスキング効果に応じて個別に点灯や特定の表示を行う。なお、表示部40A,40Bも話者位置マイクMICb1,MICb2のそれぞれと一体型であっても構わない。
【0076】
次に、マスキング効果の判定を行う本体2Aの構成について説明する。図9に示すように、本体2Aは、本発明の「マスカ音測定装置」に対応するマスカ音測定部10A、マスカ音生成部20、マスカ音記憶部21、およびマスカ音調整部30Aを備える。マスカ音生成部20およびマスカ音記憶部21は、第1の実施形態と同じであるので、説明は省略する。なお、マスカ音生成部20からの原マスカ音Smは、適応型フィルタ112A,112B,112Cへ出力される。
【0077】
マスカ音測定部10Aは、適応型フィルタ111A,111B,111C,111D,111E,111F,112A,112B,112C、ポストプロセッサ121A,121B,121C,121D,121E,121F,122A,122B,122C、音声分析部130Aを備える。
【0078】
適応型フィルタ111Aは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb1が入力される。ポストプロセッサ121Aは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、マスキング位置音声信号So1が入力される。ポストプロセッサ121Aは、適応型フィルタ111Aでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb1(話者音声信号Sbc1Aに相当)を、マスキング位置音声信号So1から減算し、第1減算信号Sn11を出力する。この第1減算信号Sn11は、ポストプロセッサ121Bに入力されるとともに、適応型フィルタ111Aへフィードバックされる。
【0079】
適応型フィルタ111Aは、このように算出された話者音声信号Sbc1A(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Aへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0080】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Aとポストプロセッサ121Aとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo1に到達した話者音声信号Sbc1Aを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Aとポストプロセッサ121Aとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0081】
適応型フィルタ111Bは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb2が入力される。ポストプロセッサ121Bは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、第1減算信号Sn11が入力される。ポストプロセッサ121Bは、適応型フィルタ111Bでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb2(話者音声信号Sbc2Aに相当)を、第1減算信号Sn11から減算し、第2減算信号Sn12を出力する。この第2減算信号Sn12は、ポストプロセッサ122Aに入力されるとともに、適応型フィルタ111Bへフィードバックされる。
【0082】
適応型フィルタ111Bは、このように算出された話者音声信号Sbc2A(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Bへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0083】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Bとポストプロセッサ121Bとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo1に到達した話者音声信号Sbc2Aを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Bとポストプロセッサ121Bとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0084】
適応型フィルタ112Aは、本発明の「第2適応型フィルタ」に対応し、原マスカ音信号Smが入力される。
【0085】
ポストプロセッサ122Aは、本発明の「第2ポストプロセッサ」に対応し、ポストプロセッサ121Bからの第2減算信号Sn12が入力される。ポストプロセッサ122Aは、適応型フィルタ112Aでフィルタ処理された原マスカ音信号Smを、第2減算信号Sn12から減算し、第3減算信号Sn13を出力する。この第3減算信号Sn13は、適応型フィルタ112Aへフィードバックされる。
【0086】
適応型フィルタ112Aは、このように算出されたマスカ音信号Smc1(本発明の「判定用マスカ音」に対応する。)を、音声分析部130Aへ出力する。
【0087】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ112Aとポストプロセッサ122Aとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo1に到達したマスカ音信号Smc1を抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ112Aとポストプロセッサ122Aとが本発明の「判定マスカ音抽出部」に対応する。
【0088】
適応型フィルタ111Cは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb1が入力される。ポストプロセッサ121Cは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、マスキング位置音声信号So2が入力される。ポストプロセッサ121Cは、適応型フィルタ111Cでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb1(話者音声信号Sbc1Bに相当)を、マスキング位置音声信号So2から減算し、第4減算信号Sn21を出力する。この第4減算信号Sn21は、ポストプロセッサ121Dに入力されるとともに、適応型フィルタ111Cへフィードバックされる。
【0089】
適応型フィルタ111Cは、このように算出された話者音声信号Sbc1B(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Cへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0090】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Cとポストプロセッサ121Cとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo2に到達した話者音声信号Sbc1Bを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Cとポストプロセッサ121Cとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0091】
適応型フィルタ111Dは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb2が入力される。ポストプロセッサ121Dは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、第4減算信号Sn21が入力される。ポストプロセッサ121Dは、適応型フィルタ111Dでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb2(話者音声信号Sbc2Bに相当)を、第4減算信号Sn21から減算し、第5減算信号Sn22を出力する。この第5減算信号Sn22は、ポストプロセッサ122Bに入力されるとともに、適応型フィルタ111Dへフィードバックされる。
【0092】
適応型フィルタ111Dは、このように算出された話者音声信号Sbc2B(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Dへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0093】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Dとポストプロセッサ121Dとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo2に到達した話者音声信号Sbc2Bを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Dとポストプロセッサ121Dとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0094】
適応型フィルタ112Bは、本発明の「第2適応型フィルタ」に対応し、原マスカ音信号Smが入力される。
【0095】
ポストプロセッサ122Bは、本発明の「第2ポストプロセッサ」に対応し、ポストプロセッサ121Dからの第5減算信号Sn22が入力される。ポストプロセッサ122Bは、適応型フィルタ112Bでフィルタ処理された原マスカ音信号Smを、第5減算信号Sn22から減算し、第6減算信号Sn23を出力する。この第6減算信号Sn23は、適応型フィルタ112Bへフィードバックされる。
【0096】
適応型フィルタ112Bは、このように算出されたマスカ音信号Smc2(本発明の「判定用マスカ音」に対応する。)を、音声分析部130Aへ出力する。
【0097】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ112Bとポストプロセッサ122Bとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo2に到達したマスカ音信号Smc2を抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ112Bとポストプロセッサ122Bとが本発明の「判定マスカ音抽出部」に対応する。
【0098】
適応型フィルタ111Eは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb1が入力される。ポストプロセッサ121Eは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、マスキング位置音声信号So3が入力される。ポストプロセッサ121Eは、適応型フィルタ111Eでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb1(話者音声信号Sbc1Cに相当)を、マスキング位置音声信号So3から減算し、第7減算信号Sn31を出力する。この第7減算信号Sn31は、ポストプロセッサ121Fに入力されるとともに、適応型フィルタ111Eへフィードバックされる。
【0099】
適応型フィルタ111Eは、このように算出された話者音声信号Sbc1C(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Eへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0100】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Eとポストプロセッサ121Eとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo3に到達した話者音声信号Sbc1Cを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Eとポストプロセッサ121Eとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0101】
適応型フィルタ111Fは、本発明の「第1適応型フィルタ」に対応し、話者位置音声信号Sb2が入力される。ポストプロセッサ121Fは、本発明の「第1ポストプロセッサ」に対応し、第7減算信号Sn31が入力される。ポストプロセッサ121Fは、適応型フィルタ111Fでフィルタ処理された話者位置音声信号Sb2(話者音声信号Sbc2Cに相当)を、第7減算信号Sn31から減算し、第8減算信号Sn32を出力する。この第8減算信号Sn32は、ポストプロセッサ122Cに入力されるとともに、適応型フィルタ111Fへフィードバックされる。
【0102】
適応型フィルタ111Fは、このように算出された話者音声信号Sbc2C(本発明の「判定用話者音声」に対応する。)を、上述のようにポストプロセッサ121Fへ出力するとともに、音声分析部130Aへ出力する。
【0103】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ111Fとポストプロセッサ121Fとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo3に到達した話者音声信号Sbc2Cを抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ111Fとポストプロセッサ121Fとが本発明の「判定話者音声抽出部」に対応する。
【0104】
適応型フィルタ112Cは、本発明の「第2適応型フィルタ」に対応し、原マスカ音信号Smが入力される。
【0105】
ポストプロセッサ122Cは、本発明の「第2ポストプロセッサ」に対応し、ポストプロセッサ121Fからの第8減算信号Sn32が入力される。ポストプロセッサ122Cは、適応型フィルタ112Cでフィルタ処理された原マスカ音信号Smを、第8減算信号Sn32から減算し、第9減算信号Sn33を出力する。この第9減算信号Sn33は、適応型フィルタ112Cへフィードバックされる。
【0106】
適応型フィルタ112Cは、このように算出されたマスカ音信号Smc3(本発明の「判定用マスカ音」に対応する。)を、音声分析部130Aへ出力する。
【0107】
このように、上述の構成からなる適応型フィルタ112Cとポストプロセッサ122Cとを用いることで、マスキングすべき領域のマスキング位置マイクMICo3に到達したマスカ音信号Smc3を抽出することができる。なお、これら適応型フィルタ112Cとポストプロセッサ122Cとが本発明の「判定マスカ音抽出部」に対応する。
【0108】
音声分析部130Aは、判定用の話者音声信号Sbc1A,Sbc2Aと判定用のマスカ音信号Smc1とを比較し、音量レベルの高低に基づいてマスキング効果の有無を判定する。具体的には、上述の第1の実施形態と同じ方法で判定する。これにより、マスキングすべき領域におけるマスキング位置マイクMICo1の地点でのマスキング効果を判定することができる。
【0109】
音声分析部130Aは、判定用の話者音声信号Sbc1B,Sbc2Bと判定用のマスカ音信号Smc2とを比較し、音量レベルの高低に基づいてマスキング効果の有無を判定する。具体的には、上述の第1の実施形態と同じ方法で判定する。これにより、マスキングすべき領域におけるマスキング位置マイクMICo2の地点でのマスキング効果を判定することができる。
【0110】
音声分析部130Aは、判定用の話者音声信号Sbc1C,Sbc2Cと判定用のマスカ音信号Smc3とを比較し、音量レベルの高低に基づいてマスキング効果の有無を判定する。具体的には、上述の第1の実施形態と同じ方法で判定する。これにより、マスキングすべき領域におけるマスキング位置マイクMICo3の地点でのマスキング効果を判定することができる。
【0111】
音声分析部130Aは、これらのマスキング効果の分析結果に基づいて、マスカ音調整部30Aへ放音パラメータを設定する。これにより、マスキングすべき領域の全域に対して、全ての話者音声に対するマスキング効果が有効になるように、マスカ音を放音することができる。
【0112】
なお、第2実施形態では、話者音声が二種類、マスキング位置マイクの設置位置が三箇所の場合を示したが、それぞれが他の個数であって、上述の構成及び処理を適用し、マスキング効果の判定や、マスキング効果が有効になるようにマスカ音を自動調整することができる。
【0113】
また、上述の説明では、話者音声用のポストプロセッサとマスカ音用のポストプロセッサとを個別に設ける例を示したが、これらを一つに統一してもよい。これにより、構成要素数を低減することができる。また、話者音声用のポストプロセッサとマスカ音用のポストプロセッサとの接続関係を逆にしてもよい。
【0114】
また、上述の説明では、各ポストプロセッサからの出力信号を、それぞれ対応する適応型フィルタへフィードバックする構成を示した。しかしながら、直列に列ぶポストプロセッサ群の最終出力信号を、これらポストプロセッサ群に信号を与える適応型フィルタへフィードバックさせる構成であってもよい。具体的には、例えば、第1実施形態の場合(図2参照)、ポストプロセッサ121から出力された第1減算信号Sn1を適応型フィルタ111へフィードバックさせるのではなく、ポストプロセッサ122から出力された第2減算信号Sn2を、適応型フィルタ111,112へフィードバックさせる構成を用いてもよい。また、例えば、第2実施形態の場合(図9参照)、ポストプロセッサ121Aから出力される第1減算信号Sn11やポストプロセッサ121Bから出力される第2減算信号Sn12を、それぞれ適応型フィルタ111A,111Bへフィードバックさせるのではなく、ポストプロセッサ122Aから出力された第3減算信号Sn13を、適応型フィルタ111A,111B,122Aへフィードバックさせる構成を用いてもよい。
【0115】
また、上述の説明では、周波数成分毎に、判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが適切な範囲内であるかを判定した例を示したが、全周波数帯域を含む音量レベルがマスキングに適切な範囲内であるかを判定基準としてもよい。例えば、次に示す二種類の方法等を用いればよい。
【0116】
(A)設置された全ての話者位置マイクで収音して得られた判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルを平均値演算する。当該音量レベルの平均値がマスキングに適切な範囲内である場合に、マスキングされていると判定する。
【0117】
(B)各話者位置マイクで収音して得られた判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが、それぞれにマスキングに適切な範囲内である場合に、マスキングされていると判定する。
【0118】
(C)各話者位置マイクで収音して得られた複数の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルの内、音量レベルが最小の判定用のマスカ音信号Smcを取得する。この最小の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルが、それぞれにマスキングに必要最低限の音量レベル以上である場合に、マスキングされていると判定する。
【0119】
これらの方法を用いても、上述の説明と同様に、マスキング効果を確実に判定することができる。
【0120】
そして、音量レベルで判定を行う上述の各方法では、方法毎に、例えば次に示す方法で音量レベルを調整すればよい。
【0121】
(AA)上述の(A)の場合、配置された全てのスピーカの放音レベルを、一律に変動させ、音量レベルの平均値がマスキングに適切な範囲内となるように調整する。
【0122】
(AB)上述の(B)の場合、適切な範囲に入っていないマイクに対して距離的に近いスピーカの放音レベルを変動させ、全ての判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルをマスキングに適切な範囲内に調整する。
【0123】
(AC)上述の(C)の場合、配置された全てのスピーカの放音レベルを、一律に変動させ、最小の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルがマスキングに適切な範囲内となるように調整する。また、最小の判定用のマスカ音信号Smcと判定されたマイクに対して距離的に近いスピーカの放音レベルを上昇させ、最小の判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルがマスキングに適切な範囲内となるように調整する。これらの場合、全ての判定用のマスカ音信号Smcの音量レベルがマスキングに適切な範囲内となるように調整することが好ましい。
【符号の説明】
【0124】
1,1A:サウンドマスキング装置、2,2A:本体、
10,10A:マスカ音測定部、20:マスカ音生成部、21:マスカ音記憶部、30,30A:マスカ音調整部、40,40A,40B:表示部、
111,111A,111B,111C,111D,111E,111F,112,112A,112B,112C:適応型フィルタ、121,121A,121B,121C,121D,121E,121F,122,122A,122B,122C:ポストプロセッサ、130:音声分析部、301:イコライジング部、302:ボリューム調整部
900:カウンター、901:テーブル、910,910A,910B,920,920A,920B:特定話者、930:第三者
MICb,MICb1,MICb2:話者位置マイク、MICo,MICo1,MICo2,MICo3:マスキング位置マイク、SP,SP1,SP2,SP3:スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
話者位置で収音された音声である話者位置音声と、話者音声をマスキングするために放音されるマスカ音と、前記話者音声をマスキングすべき領域で収音された音声であるマスキング位置音声と、を用いて、前記マスキングすべき領域での話者音声である判定用話者音声と、前記マスキングすべき領域でのマスカ音である判定用マスカ音と、を抽出する抽出部と、
前記判定用話者音声と前記判定用マスカ音とを比較し、マスキングがされているかどうかを分析する音声分析部と、を備えたマスカ音測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマスカ音測定装置であって、
前記音声分析部は、
前記判定用話者音声と前記判定用マスカ音とを、所定の周波数成分毎に比較し、全ての周波数成分において、前記判定用マスカ音が前記判定用話者音声に対して所定音量レベル以上である場合に、マスキングされていると判断する、マスカ音測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載のマスカ音測定装置であって、
前記音声分析部は、
前記全ての周波数成分において、前記判定用マスカ音が前記判定用話者音声に対して所定音量レベル以上で且つ所定の音量レベル範囲内である場合に、適切にマスキングされていると判断する、マスカ音測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のマスカ音測定装置であって、
前記抽出部は、
前記話者位置音声が入力される第1適応型フィルタと、該第1適応型フィルタによりフィルタ処理された話者位置音声を前記マスキング位置音声から減算し、第1減算信号を前記第1適応型フィルタへフィードバックする第1ポストプロセッサとで構成され、前記フィルタ処理された話者位置音声を前記判定用話者音声として出力する判定用話者音声抽出部と、
前記マスカ音が入力される第2適応型フィルタと、該第2適応型フィルタによりフィルタ処理されたマスカ音を前記マスキング位置音声から減算し、第2減算信号を前記第2適応型フィルタへフィードバックする第2ポストプロセッサとで構成され、前記フィルタ処理されたマスカ音を前記判定用マスカ音として出力する判定用マスカ音抽出部と、
を備える、マスカ音測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のマスカ音測定装置であって、
前記話者位置音声を収音する話者位置マイクと、
前記マスキング位置音声を収音するマスキング位置マイクと、
前記マスカ音を生成するマスカ音生成部と、を備えたマスカ音測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のマスカ音測定装置であって、
前記音声分析部による分析結果を通知する通知部を備えた、マスカ音測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のマスカ音測定装置と、
前記音声分析部による分析結果から適正な音量レベルのマスカ音が放音されるように設定された放音パラメータによって前記マスカ音の音量レベルを調整するマスカ音調整部と、
調整後のマスカ音を放音するスピーカと、を備えたサウンドマスキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−194415(P2012−194415A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58893(P2011−58893)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】