説明

マスクホルダー

【課題】互いに位置決めされた複数枚のマスクの搬送を可能にするマスクホルダーを提供する。
【解決手段】マスクホルダー6は、複数枚のマスクの重ね合わせにより形成される開口部5を介して、基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置に用いられるマスクホルダー6である。そして、マスクホルダー6は、複数枚のマスクをその内部に挿入する為のマスク挿入口8と、マスク挿入口8に連設されたマスク収納部9と、開口部の少なくとも一部をマスクホルダーの外側に露出させるマスク露出用の貫通窓7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マスクを介して基板へのイオン注入を行うイオン注入装置において用いられるマスクホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の製造工程において、イオン注入装置が用いられている。昨今、この様なイオン注入装置では、高価なフォトレジストの代わりに、カーボンやシリコンからなる安価なマスクを利用して基板(例えば、シリコンウェハ)へのイオン注入を実施する為の技術開発が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1には、このようなイオン注入装置の一例が開示されている。ここでは、2枚のマスクの相対的な位置関係を調整することで、当該マスクを介して基板に照射されるイオンビームの照射領域を小さくする技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、大気側から装置内部の所定位置へマスクを搬送する為の構成が開示されている。ここでは、基板を搬送するのに用いられている搬送機構を用いてマスクの搬送が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開公報 US2010/0062589A1(FIG.6、FIG.7)
【特許文献2】特表2008−533721号公報(図3、図5、図6、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、マスクを搬送する為の機構が開示されているが、対象とするマスクの枚数は1枚であり、特許文献1に開示されているような2枚のマスクをどのようにして搬送するのかが何ら開示されていない。仮に1枚ずつ搬送させるにしても、最終的には各マスクの位置関係を調整する必要がある為、各マスク間の位置調整を行う為の機構が別途必要となる。このような位置調整機構を設けた 場合、イオン注入装置の大型化や装置価格の高騰を招くことになる。
【0007】
本発明では、上記課題を解決する為のマスクホルダーを提供することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマスクホルダーは、複数枚のマスクの重ね合わせにより形成される開口部を介して、基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置に用いられるマスクホルダーであって、前記マスクホルダーは、前記複数枚のマスクをその内部に挿入する為のマスク挿入口と、前記マスク挿入口に連設されたマスク収納部と、前記開口部の少なくとも一部を前記マスクホルダーの外側に露出させるマスク露出用の貫通窓とを有していることを特徴とする。
【0009】
また、前記マスク収納部には、前記マスク収納部に前記マスクが収納された時、前記マスク収納部内での前記マスクの移動を規制する段差部が設けられていることが望ましい。
【0010】
このような段差部を設けることで、マスクホルダーの搬送時にマスクが抜け落ちてしまうことを防止することが期待出来る。
【発明の効果】
【0011】
このようなマスクホルダーを用いることで、複数枚のマスクを一括して搬送させることが可能となる。また、マスクホルダーへのマスクの収納によって各マスクの位置決めが行われるので、各マスク間の相対的な位置を調整する為の機構を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に適用されるイオン注入装置の一実施例を示す平面図である。
【図2】図1に記載のマスクホルダーをX方向から見た時の様子を表す。
【図3】本発明で使用されるマスクの一実施例を表す。
【図4】本発明で使用されるマスクホルダーの一実施例を表す。
【図5】本発明で使用されるマスクホルダーの他の実施例を表す。
【図6】図5に記載されるマスクホルダー内にマスクを収納した時の様子を表す。
【図7】基板とマスクホルダーとの外形寸法の関係を表す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のイオン注入装置の一例が図1に示されている。ここでは、イオン源13より引出されたイオンビーム2がマスクホルダー6内に収納された第1のマスク3、第2のマスク4を介して基板1上に照射される様子が描かれている。
【0014】
図1のイオンビーム2はYZ平面において略長方形状の断面を有している。より具体的には後述する図2に描かれているように、Y方向に長辺を有し、Z方向に短辺を有している。このようなイオンビーム2は一般にリボンビームと呼ばれている。そして、基板1を保持するプラテン11が駆動装置12によってZ方向に沿って往復搬送され、基板1へのイオン注入処理が実施される。
【0015】
なお、ここではイオン源13より平行なイオンビーム2が引出される構成を例として挙げているが、本発明が適用されるイオン注入装置はこのような構成のものに限られない。例えば、従来から用いられているようにXY平面で発散するイオンビームを引出すようなイオン源を用いてもいいし、そのようなイオン源より引出されたイオンビームを平行化する為の平行化器を有する構成にしても良い。さらには、基板1の全面を覆う寸法を有するイオンビームを引出せるようなイオン源を用意しておき、前述した駆動機構を用いない構成にしても良い。また、イオン源よりスポット状のイオンビームを引き出し、それを一平面内で走査することでリボンビームを生成するような構成にしても良い。
【0016】
図1のマスクホルダー6をX方向から見た様子が図2に描かれている。ここではマスクホルダー6に照射されるイオンビーム2が破線で記載されているとともに、マスクホルダー6の後ろ側(X方向側)に位置している基板1(この例では、基板を円形状のウェハにしている。)が一点鎖線で記載されている。
【0017】
マスクホルダー6は略立方体形状を成し、イオンビーム2が通過する主面(もっとも大きい面、表裏を合わせて2面あり。この例ではYZ平面に位置している面のことを指す。)には第1のマスク3、第2のマスク4の一部をマスクホルダー6の外側に露出させる為の貫通窓7が、X方向に沿ってマスクホルダー6の主面を貫通するように形成されている。第1のマスク3、第2のマスク4も略立方体形状を成し、イオンビーム2が通過する主面(もっとも大きい面、表裏で2面あり。この例ではYZ平面に位置している面のことを指す。)にはイオンビーム2を部分的に通過させる為の開口部5(図中、ハッチングされている部分)が、両マスクの開口部を組み合わせることによって形成されている。なお、図2では第1のマスク3の開口部を介して、第2のマスク4の一部を窺うことが出来る。
【0018】
図3には、第1のマスク3と第2のマスク4の開口部を組み合わせることによってイオンビーム2を整形する為の開口部5(図中のハッチング部分)が形成される様子が描かれている。この例において、各マスクには同一形状の開口部が形成されており、Y方向において各マスク端部を揃えた時、各マスクに形成される開口部の中心位置がY方向にずれている。このようなマスクをY方向における端部を揃えた状態でX方向に沿って並べることによって、両マスクの開口部を組み合わせることによって形成された開口部5を用いてX方向に沿って進行するイオンビーム2を整形することが可能となる。
【0019】
図4には略立方体形状を成すマスクホルダー6を構成する各面の様子が描かれている。図4(A)、図4(B)は本発明で言う主面に相当する面であり、両面は表裏の関係にある。そして、各々の面を貫通するように貫通窓7(斜線でハッチングがなされている箇所)が設けられている。
【0020】
また、図4(A)、図4(B)には、後述する図4(C)〜(F)で描かれる各面が図4(A)、図4(B)に描かれている面との関係でそれぞれどの面に相当するのかが描かれている。一方で、図4(C)〜(F)において、矢印で(A)と記載されている面は、図4(A)に描かれている面のことを指している。
【0021】
図4(C)に描かれる面には第1のマスク3、第2のマスク4を挿入する為の2つのマスク挿入口8が設けられており、ここを通してマスクホルダー6に各マスクが挿入される。各マスク挿入口8には各マスク3が個別に収納されるマスク収納部9が連設されており、マスク収納部9は図4(A)、図4(B)にその外形が破線で描かれているように、その一部が貫通窓7を通してマスクホルダー6の外側へ露出している。
【0022】
マスク収納部9のマスク挿入方向における長さは、各マスクを収納した際に、各マスクに形成される開口部の相対的な位置が決定されるように設計されている。つまり、各マスクをマスク収納部9の奥まで押し込むことで、各マスクの位置が固定され、イオンビーム2の整形がなされる開口部5が決定されることになる。
【0023】
このようなマスクホルダー6であれば、例えば特許文献2に記載の搬送系用いてイオン注入装置の所定位置へ搬送することで、各マスクの位置を所定のものに保ちつつ、複数枚のマスクを同時に搬送するということが可能となる。
【0024】
なお、マスク収納部9の製作にあたっては、始めにマスク挿入口8が形成される面からその反対側の面に向けて貫通孔を形成させておき、その後でマスク挿入口8が形成される反対側の面の開口を穴埋めするといった手順で製作することが考えられる。このような製作手順を用いると、マスク収納部9の製作が簡単になる。
【0025】
また、マスクホルダー6の搬送時にマスクが抜け落ちる可能性もあるので、マスク挿入口8を塞ぐ為の蓋を用意しておくことが考えられる。
【0026】
図5(A)〜(F)には、本発明に係るマスクホルダー6の別の実施形態が開示されている。先の実施形態では、例として蓋を用いてマスクの抜け落ちを防止する構成について述べたが、ここではより簡単な構成で、追加の部材を必要とせずに、マスクの抜け落ちを防止することの出来る構成を備えたマスクホルダーについての説明を行う。
【0027】
図5(A)〜(F)は、図4(A)〜(F)の構成と類似している為、ここでは図4(A)〜(F)で説明した内容と重複する内容の説明は省略し、両者の相違点に絞って説明を行うことにする。
【0028】
従来のイオン注入装置において、例えばシリコンウェハを大気側からイオン注入装置のエンドステーションに設けられた注入位置へ搬送する場合を考えると、搬送機構によってウェハは旋回、直線、回転運動させられる。旋回、直線運動は、主にウェハの主面が地面と平行な姿勢の際に行われる運動であり、回転運動は主にウェハの主面を地面と垂直な方向に向ける際に行われる運動である。
【0029】
本発明のマスクホルダー6はウェハと同じように搬送されるので、前述したような運動がマスクホルダー6に対してなされることになる。その際、マスクホルダー6内に収納された複数のマスクには様々な力(例えば、遠心力や慣性力)が作用することになるが、この実施形態においてマスク収納部9には段差部10が形成されているので、そのような力が生じたとしてもマスクホルダー6の搬送時にマスクの抜け落ちを防止することが出来る。
【0030】
図6には、図5(F)を例にとり、マスクホルダー6内に第1のマスク3、第2のマスク4が保持されている様子が描かれている。この図に示される矢印Gの方向は重力方向である。ここでは、矢印で示される(A)の面を上側にしてマスクホルダー6を搬送させている。このような構成にすることで、マスクホルダー6が直線、旋回、回転運動させられたとしてもマスク3の移動が段差部10により規制されるので、マスクホルダー6からの各マスク3、4の抜け落ちを防止することが出来る。
【0031】
この例では、段差部10を図5(B)で示される面側に突出させるようにして設けているが、図5(A)で示される面側に突出させるようにしても良い。さらには、図5(A)及び(B)で示される両面側に突出されるように構成しても良い。
【0032】
なお、回転運動においては、マスクホルダー6を回転させた時に、マスク挿入口8が形成されている面が上側に位置するようにすると、マスクの抜け落ち防止効果を更に高めることが可能となる。例えば、従来のイオン注入装置には、ウェハにノッチ(切り欠き)を設けておき、これを基準にしてウェハの方向を設定するアライナー機構が設けられているので、これを利用して、マスクホルダー6の向きの設定が行えるように、マスクホルダー6にウェハに設けられるノッチと同等の印を設けておくことが考えられる。
【0033】
また、マスク挿入方向におけるマスク収納部9の壁と段差部10との間の間隔D1と当該方向におけるマスクの幅D2との差は、予め決められた各マスクの位置が許容範囲内に収まるよう設定されている。換言すると、マスクはマスク収納部9の壁と段差部10との間ではほとんど動くことはない。なお、マスクやマスク収納部9は、マスク挿入方向以外の方向においても長さを有しており、他の方向においても同様のことが言える。
【0034】
マスクホルダー6の寸法と基板1の寸法との関係は、その外形が同じ形状であるか、図7に示すような関係にすることが望ましい。図7の例では、マスクホルダー6が略立体形状を成し、基板1が円形状を成すものを想定している。ここに記載されているように、基板1の外形に対してマスクホルダー6の主面が外接している関係であることが望ましい。
【0035】
基板1の搬送を行う搬送機構に設けられたアーム部分は、基板1の保持が出来る程度の大きさに設計されている。その為、マスクホルダー6を上記したような大きさにしておくことで、基板1の搬送を行う為の機構を兼用してマスクホルダー6を搬送することが可能となる。
【0036】
これまでに述べた実施形態では、第1のマスク3、第2のマスク4やマスクホルダー6の形状は略立方体形状を成していたが、これに代えて円柱形状のものを用いても良い。
【0037】
また、第1のマスク3、第2のマスク4に形成される開口部の形状やこれらの組み合わせであるイオンビーム整形用の開口部5の形状も先の実施形態に記載のものに限定されない。例えば、円形や正方形を有するものであっても良い。
【0038】
さらには、マスクの枚数は3枚以上であっても良いし、その場合にはマスクの枚数に応じてマスクホルダーのマスク収納部の数を増やすようにすれば良い。
【0039】
また、マスクホルダー6に形成される貫通窓7は先の実施形態で述べられたように大きな1つの貫通窓によって構成されるものに限られない。例えば、小さな貫通窓7を複数設けるようにしておいても良い。
【0040】
その上、先の実施形態で述べられた貫通窓7は、当該貫通窓7を通して各マスクにより形成された開口部5の全ての領域がマスクホルダー6の外側へ露出するような構成としていたが、開口部5の一部領域のみがマスクホルダー6の外側へ露出するような構成にしておいても良い。
【0041】
複数枚のマスクの形状やマスクに形成される開口の形状は同一でなくてもいい。例えば、マスクの形状が異なる場合、各マスクの形状に合わせてマスク収納部9の形状を変更すればよい。
【0042】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0043】
1.基板
2.イオンビーム
3.第1のマスク
4.第2のマスク
5.開口部
6.マスクホルダー
7.貫通窓
8.マスク挿入口
9.マスク収納部
10.段差部
11.プラテン
12.駆動機構
13.イオン源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のマスクの重ね合わせにより形成される開口部を介して、基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置に用いられるマスクホルダーであって、
前記マスクホルダーは、前記複数枚のマスクをその内部に挿入する為のマスク挿入口と、
前記マスク挿入口に連設されたマスク収納部と、
前記開口部の少なくとも一部を前記マスクホルダーの外側に露出させるマスク露出用の貫通窓とを有していることを特徴とするマスクホルダー。
【請求項2】
前記マスク収納部には、前記マスク収納部に前記マスクが収納された時、前記マスク収納部内での前記マスクの移動を規制する段差部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のマスクホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−59820(P2012−59820A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199906(P2010−199906)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】