説明

マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤

【課題】 マスト細胞IgEレセプター発現抑制物質の提供。
【解決手段】 マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤として、一般式:


で示されるイソフラボン類、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスト細胞表面におけるIgEレセプターの発現を抑制する剤、及びそれを有効成分として含有する抗アレルギー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫システムは、抗原を排除して体を守るために働く生体の機能である。しかしながら、この免疫反応が過度にあるいは不適当な形でおこる場合があり、こうした場合には組織障害を起こして病気を発症することがある。この障害反応をアレルギーと呼ぶ。アレルギーは、発症の機構から、I型アレルギー、II型アレルギー、III型アレルギー、及びIV型アレルギーの4つの型に分類される。この中で最も身近で深刻なアレルギーが、即時型アレルギーともいわれるI型アレルギーであり、例えばアトピーや花粉症もこのI型アレルギーに属する疾患である。このため、従来より、I型アレルギー疾患の治療薬の開発を目指して多くの研究がなされている。
【0003】
I型アレルギーは、次の反応機構によって生じると考えられている。アレルゲンが生体内に侵入すると、マクロファージ及びTリンパ球を介して刺激されたBリンパ球により、アレルゲン特異的IgE抗体が産生される。この抗体がマスト細胞(肥満細胞)に付着すると、マスト細胞(肥満細胞)は感作された状態となり、この状態の中に、再度アレルゲンが侵入すると、この感作されたマスト細胞(肥満細胞)表面上の高親和性IgEレセプター(FcεRI)とアレルゲンが反応する。その結果、マスト細胞から多様な生理活性を有するヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーターが遊離し、平滑筋の収縮や血管透過性亢進が惹起され炎症が生じる。
【0004】
従来より、こうしたアレルギー反応を阻止するための方策がいろいろな角度から種々検討されている。現在用いられている抗アレルギー薬の殆どは抗ヒスタミン薬などの対症療法剤、免疫抑制剤あるいはステロイド類などであるが、これら薬物には各種の副作用があることが知られている。副作用として、例えば、抗ヒスタミン薬には眠気などの鎮静催眠作用が、またステロイド剤には浮腫や低カリウム血症など、重篤な症状が挙げられる。
【0005】
一方、IgEレセプターは、アレルギー発症メカニズムの鍵となるマスト細胞の脱顆粒を誘発する重要な分子であるが、IgEレセプターを欠失したノックアウトマウスはアレルギー反応を起こさず、しかもそれ以外は正常に生存するという報告がなされている(非特許文献1参照)。そしてこの文献には、IgEレセプターの発現を抑制することによって副作用の心配なくアレルギー反応を抑制し得ることが示唆されている(例えば、第972頁右欄「Discussion」の項の17行目、第974頁左欄7-8行目、第974頁左欄2段落6行目、第974頁左欄2段落12行目など参照)。
【0006】
しかしながら、アレルギー反応を阻止する方策として、マスト細胞表面上の高親和性IgEレセプター(FcεRI)の発現を抑制する方法は知られておらず、またこうした作用を有する物質も知られていない。
【0007】
なお、カテキン類の一種である(-)エピガロカテキンガレートが、好塩球表面上のIgEレセプターの発現を抑制することは知られているものの(非特許文献2)、これはマスト細胞表面上のIgEレセプターの発現を抑制するものではない。
【非特許文献1】Cell 1993, 75, 969-976
【非特許文献2】Y. Fujimura, et al., J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 2527-2531
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗アレルギー剤として有効に用いられる、マスト細胞表面におけるIgEレセプターの発現を抑制する物質(剤)、及びそれを有効成分とする抗アレルギー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述するように、IgEレセプターを欠失したノックアウトマウスはアレルギー反応を起こさず、しかもそれ以外は正常に生存する(非特許文献1参照)。このためIgEレセプターの発現を抑制する作用を有する物質は、副作用が少なくこれまでとは異なるメカニズムの抗アレルギー薬となる可能性がある(例えば、非特許文献1の第972頁右欄「Discussion」の項の17行目、第974頁左欄7-8行目、第974頁左欄2段落6行目、第974頁左欄2段落12行目など参照)。本発明者らは、かかる考えのもと日夜鋭意検討していたところ、下式で示されるイソフラボン類に、マスト細胞表面のIgEレセプターの発現を抑制する作用があることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記に関するものである。
項1.一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRは、同一または異なって水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示し、R10は水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子を示す。但し、R〜Rのうち少なくとも一つとR〜Rのうち少なくとも二つは、酸素原子を含む官能基(低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基)ではない。〕
で示されるイソフラボン類、およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種からなるマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【0013】
項2.一般式(2):
【0014】
【化2】

【0015】
〔式中、Rは水素原子または低級アルコキシ基、Rは水酸基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示す。〕
で示されるイソフラボン類、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種からなる、項1記載のマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【0016】
項3.イソフラボン類が、下式(3):
【0017】
【化3】

【0018】
で示されるゲニステイン、または下式(4):
【0019】
【化4】

【0020】
で示されるテクトリゲニンである、項1または2に記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【0021】
項4.項1乃至3のいずれかに記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有するマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物。
【0022】
項5.項1乃至3のいずれかに記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有する抗アレルギー組成物。
【0023】
以下、本発明を説明する。
(1)マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤
本発明は、下記の一般式(1):
【0024】
【化5】

【0025】
〔式中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRは、同一または異なって水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示し、R10は水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子を示す。但し、R〜Rのうち少なくとも一つとR〜Rのうち少なくとも二つは、酸素原子を含む官能基(低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基)ではない。〕
で示されるイソフラボン類からなるマスト細胞IgEレセプター発現抑制物質に関する。
【0026】
すなわち、本発明が対象とするイソフラボン類は、アグリコン型のイソフラボン類であってもよいし、R〜Rのいずれかの基としてオキシグルコピラノシル基またオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を有する配糖体型のイソフラボン類であってもよい。
【0027】
ここで、R〜R10に示される低級アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味する。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、第三級ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、及びn−ヘキシル基を挙げることができる。また、R〜Rに示される低級アルコキシル基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基またはオキシ低級アルキルカルバモイル基において用いられる低級アルキル基としても上記のものを挙げることができる。
【0028】
〜Rに示されるオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、イソペンタノイル基、sec−ペンタノイル基、第三級ペンタノイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、シンナモイル基、クマロイル基(2-ヒドロキシシンナモイル基)、3-ヒドロキシシンナモイル基、4-ヒドロキシシンナモイル基、カフェオイル基(3,4-ジヒドロキシシンナモイル基)、ウンベロイル基(2,4-ジヒドロキシシンナモイル基)、フェルロイル基(4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナモイル基)、2,4-ジメトキシシンナモイル基、3,4-ジメトキシシンナモイル基、オギザリル基、マロニル基及びスクシニル基を挙げることができる。
【0029】
〜R10に示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。
【0030】
は好ましくは水素原子、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、またはオキシ低級アルキルカルバモイル基、より好ましくは水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基、より好ましくは水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子;Rは好ましくは水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子;Rは好ましくは水素原子、水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基またはオキシ低級アルキルカルバモイル基、より好ましくは水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、水酸基または低級アルコキシル基;Rは好ましくは水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子;R10は好ましくは水素原子である。
【0031】
本発明が対象とするイソフラボン類のうち、より好ましくは、一般式(2):
【0032】
【化6】

【0033】
〔式中、Rは水素原子または低級アルコキシ基、Rは水酸基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示す。〕
で示されるイソフラボン類である。
【0034】
すなわち、本発明が対象とする好適なイソフラボン類は、Rが水酸基であるアグリコン型のイソフラボン類であってもよいし、Rが糖残基である配糖体型のイソフラボン類であってもよい。ここで、配糖体型のイソフラボン類としては、Rで示される糖残基がオキシグルコピラノシル基であるグリコシド配糖体型(glucoside)のイソフラボン類、及びRで示される糖残基がオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基であるアシル配糖体型のイソフラボン類を挙げることができる。
【0035】
前述するように、オキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、イソペンタノイル基、sec−ペンタノイル基、第三級ペンタノイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、シンナモイル基、クマロイル基(2-ヒドロキシシンナモイル基)、3-ヒドロキシシンナモイル基、4-ヒドロキシシンナモイル基、カフェオイル基(3,4-ジヒドロキシシンナモイル基)、ウンベロイル基(2,4-ジヒドロキシシンナモイル基)、フェルロイル基(4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナモイル基)、2,4-ジメトキシシンナモイル基、3,4-ジメトキシシンナモイル基、オギザリル基、マロニル基及びスクシニル基を挙げることができる。好ましくはアセチル基、マロニル基、4-ヒドロキシシンナモイル基、カフェオイル基(3,4-ジヒドロキシシンナモイル基)、またはフェルロイル基(4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナモイル基)である。
【0036】
にオキシグルコピラノシル基を有するグリコシド配糖体型(glucoside)のイソフラボン類の具体例として、ゲニスチン(Genistin)およびテクトリジンを;またRにオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を有するアシル配糖体型のイソフラボン類の具体例として、6’’-O-アセチルゲニスチン(6’’-O-Acetylgenistin)および6’’-O-アセチルテクトリジン〔以上、Rにオキシ6’’-アセチル化グルコピラノシル基を有するアセチル配糖体型(acetylglucoside) イソフラボン類〕、ならびに6’’-O-マロニルゲニスチン(6’’-O-Malonylgenistin)および6’’-O-マロニルテクトリジン〔以上、Rにオキシ6’’-マロニル化グルコピラノシル基を有するマロニル配糖体型(malonylglucoside) イソフラボン類〕を例示することができる。
【0037】
で示される低級アルコキシ基としては、具体的にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘプトキシ基などの炭素数1〜6を有するアルコキシ基を挙げることができる。好ましくは、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であり、より好ましくはメトキシ基である。
【0038】
中でも好適なイソフラボン類としては、
上記一般式(2)中、Rが水素原子、Rが水酸基である下式(3)で示されるゲニステイン(genistein):
【0039】
【化7】

【0040】
またはその配糖体〔例えば、グリコシド配糖体(genistin)、アセチル配糖体(6”-O-Acetylgenistin)、またはマロニル配糖体(6”-O-Malonylgenistin)〕、
並びに上記一般式(2)中、Rが炭素数1のメトキシ基でRが水酸基である下式(4)で示されるテクトリゲニン(tectorigenin):
【0041】
【化8】

【0042】
またはその配糖体〔例えば、グリコシド配糖体、アセチル配糖体、またはマロニル配糖体など〕を挙げることができる。
【0043】
特に好ましくは、アグリコン型のイソフラボン類であるゲニステイン(genistein)およびテクトリゲニン(tectorigenin)である。
【0044】
本発明のマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤は、上記一般式(1)または(2)で示される一連のイソフラボン類の他、これらの医薬品として若しくは食品として配合が許容されている塩からなるものであってもよい。ここで塩としては、特に制限されないが、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、鉄や亜鉛などの重金属塩、4級アンモニウム塩などのように、フラボン核のフェノール性水酸基との塩を挙げることができる。
【0045】
上記のイソフラボン類は、化学的に合成することもできるし、また商業的に入手することも可能である(例えば、和光純薬工業(株)、長良サイエンス(株)など)。また、植物、具体的には後述する実施例に示すように葛花を原料として、それから抽出単離することによって調製することもできる。
【0046】
葛花から上記各種のイソフラボン類(特にアグリコン型)を単離調製する方法は、特に制限はされないが、例えば、(a)葛花を、有機溶媒を含む溶媒で抽出処理する工程、及び(b)前工程で得られる抽出画分を吸着処理する工程を経て行うことができる。
【0047】
葛花の抽出処理は、抽出溶媒中に、生または乾燥処理した葛花の粗末又は細切物を、低温、加温または煮沸条件下で浸漬する方法;低温、加温または煮沸条件下で攪拌しながら抽出を行う方法;低温、加温または煮沸条件下で還流しながら抽出を行う方法;またはパーコレーション法等によって行うことができる。かかる抽出に用いられる抽出溶媒としては、特に制限されないが、水、炭素数1〜6の低級アルコール、多価アルコール、及びアセトンなどの極性溶媒:n−ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、及びジクロロメタン等の非極性溶媒、またはこれらの混合物を挙げることができる。好ましくは極性溶媒であり、より好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の低級アルコール、例えばメタノールまたはエタノールである。
【0048】
なお、抽出処理は、上記方法によって得られた抽出物について、さらに同一または異なる抽出溶媒を用いて、1回若しくは複数回繰り返し行うこともできる。例えば、上記の抽出処理で得られた抽出画分を、さらに水と非極性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として用いて抽出し、層分離する方法を挙げることができる。ここで非極性有機溶媒としては、n−ヘキサン、酢酸エチル、ベンゼン、ジクロロメタン等を挙げることができる。好ましくは酢酸エチルである。
【0049】
より具体的な抽出方法としては、実施例で示すように、(a-1) 葛花を、メタノールで抽出し、次いで(a-2) 得られたメタノール抽出物を濃縮乾固し、水と酢酸エチルの混合溶媒で抽出して、酢酸エチル抽出画分を分取する方法を挙げることができる。
【0050】
得られた抽出画分は、必要に応じて濾過、共沈または遠心分離によって固形物を除去した後、そのまま若しくは濃縮して、次の処理工程に供することができる。
【0051】
吸着処理は、当業界における常法に従って行うことができる。例えば活性炭、シリカゲルまたは多孔質セラミックなどによる吸着処理;スチレン系のデュオライトS-861(商標「Duolite」, U.S.A.ダイヤモンド・シャムロック社製、以下同じ)、デュオライトS-862、デュオライトS-863又はデュオライトS-866;芳香族系のセパビーズSP70(商標「セパビーズ」、三菱化学(株)製、以下同じ)、セパビーズSP700、セパビーズSP825;ダイアイオンHP10(商標「ダイアイオン」、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイアイオンHP20、ダイアイオンHP21、ダイアイオンHP40、及びダイアイオンHP50;あるいはアンバーライトXAD-4(商標「アンバーライト」、オルガノ製、以下同じ)、アンバーライトXAD-7、アンバーライトXAD-2000などの合成吸着樹脂を用いた吸着樹脂処理を挙げることができる。
【0052】
かかる吸着処理において、葛花の抽出物またはその処理物を吸着担体(吸着剤)に供して、夾雑物を当該担体に吸着させて、イソフラボン類(1)(特に(2)または(3))を含む画分を溶出取得するか、またはイソフラボン類を担体に吸着させた後に、担体を洗浄して夾雑物を除去し、次いで適当な溶出液でイソフラボン類を担体から脱離溶出させる方法を採用することができる。なお、吸着処理は、上記いずれかの方法によって得られた処理物について、さらに同一または異なる吸着担体(吸着剤)を用いて、1回若しくは複数回繰り返して行うこともできる。
【0053】
また、上記吸着処理に代えて、または上記吸着処理と組み合わせて逆相分配カラムを用いた分別処理を行ってイソフラボン類のピーク画分を取得する方法も採用できる。また、必要に応じてイオン交換処理や晶析処理などを行うこともできる。なお、ゲニステイン及びテクトリゲニンの調製方法の詳細は、後述する実施例の記載を例示として参照することができる。
【0054】
また、ゲニステインは下記反応式1に示すように、ヒドロキシベンズアルデヒドおよびトリハイドロキシアセトフェノンを出発原料として、下記に説明する反応(a)および (b) を行うことにより合成することができる。
【0055】
【化9】

【0056】
反応(a): 2’,4’,6’-トリハイドロキシアセトフェノン(5a)およびヒドロキシベンズアルデヒド(6a)を20 % KOH/EtOHに溶解させ、室温で3時間撹拌する。次いで、反応液から抽出操作により目的の中間体(7)を得る。
【0057】
反応(b):中間体(7)をメタノールに溶解し、トリニトロタリウムを加え、室温で4時間撹拌した後、10 % 塩酸を加えて加熱還流下1時間撹拌し、不溶物を濾別後に溶媒を留去してゲニステイン(8)を得る。
【0058】
ここで2’,4’,6’-トリハイドロキシアセトフェノン(5a)に代えて、2’,4’,6’-トリハイドロキシ-3’-メトキシアセトフェノン(5’) を用いて同様に反応させることによって、テクトリゲニンを合成することができる。
【0059】
さらに、上記ゲニステイン(8)を出発原料として、一般式(1)中、R、RまたはRとして各種の官能基を有するイソフラボン類(1)を合成する方法を、下式に例示する。
【0060】
【化10】

【0061】
反応(c)
ゲニステインを出発原料として反応(c)を行うことにより一般式(1)中、R1、R、及びR7がオキシ低級アルコキシカルボニル基(−OCOOR[Rは低級アルキル基])であるイソフラボンカーボネート類(9)を合成することができる。具体的には、反応(c)は、ゲニステインをピリジンに溶解し、ROCOCl(Rは低級アルキル基)を加えて室温で30分間程度攪拌することによって行うことができ、次いで、抽出操作をすることにより、反応液からイソフラボンカーボネート類(9)を単離取得することができる。
【0062】
反応(d)
ゲニステインを出発原料として反応(d)を行うことにより一般式(1)中、R1、R、及びR7が低級アルコキシル基(−OR[Rは低級アルキル基])であるアルコキシイソフラボン類(10)を合成することができる。具体的には、反応(d)は、ゲニステインをテトラヒドロフランに溶解し、NaHを加えて、0℃で30分間程度攪拌した後、RBr(Rは低級アルキル基)を加えて室温で1時間攪拌することによって行うことができ、次いで、抽出操作により、反応液からアルコキシイソフラボン類(10)を単離取得することができる。
【0063】
反応(e)
ゲニステインを出発原料として反応(e)を行うことにより一般式(1)中、R1、R、及びR7が低級アルキルアシロキシル基(−OCOR[Rは低級アルキル基])であるアシル化イソフラボン類(11)を合成することができる。具体的には、反応(e)は、ゲニステインとカルボン酸(RCOOH、Rは低級アルキル基)をテトラヒドロフランに溶解し、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)及びDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)を加えて、室温で3時間程度攪拌することによって行うことができる。次いで、反応液から抽出操作により、アシル化イソフラボン類(11)を単離取得することができる。
【0064】
反応(f)
ゲニステインを出発原料として反応(f)を行うことにより一般式(1)中、R1、R、及びR7がオキシ低級アルキルカルバモイル基(−OCONHR[Rは低級アルキル基])であるイソフラボンカーバメート類(12)を合成することができる。具体的には、反応(f)は、ゲニステインをピリジンに溶解し、イソシアネート(R−N=C=O、Rは低級アルキル基)を加えて室温で30分間程度攪拌することによって行うことができ、次いで、反応液から抽出操作により、イソフラボンカーバメート類(12)を単離取得することができる。
【0065】
また、下記の方法により配糖体を合成することができる。
【0066】
例えば、ゲニステインを出発原料とする場合、ゲニステインをニトロメタンに溶解させテトラアセチルグルコース-N-メチルアセトイミデート体を加えて3時間程度撹拌した後、p-トルエンスルホン酸を添加してさらに21時間程度撹拌する。次いで、反応液からアセチル体を抽出した後、メタノールに溶解し、1 N 水酸化リチウム水溶液によりアセチル基を加水分解すると、ゲニステインのイソフラボン配糖体を取得することができる。なお、テクトリゲニンのイソフラボン配糖体についても同様に合成することができる。
【0067】
斯くして得られるイソフラボン配糖体の糖部にアシル基を導入することによって、6’’-アシル化イソフラボン配糖体を合成することができる。具体的には、アシル化は、上記イソフラボン配糖体とカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、sec−ペンタン酸、第三級ペンタン酸、安息香酸、4-メトキシ安息香酸、シンナム酸、クマル酸(2-ヒドロキシシンナム酸)、3-ヒドロキシシンナム酸、4-ヒドロキシシンナム酸、カフェ酸(3,4-ジヒドロキシシンナム酸)、ウンベル酸(2,4-ジヒドロキシシンナム酸)、フェルル酸(4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナム酸)、2,4-ジメトキシシンナム酸、3,4-ジメトキシシンナム酸、シュウ酸、マロン酸及びコハク酸)をテトラヒドロフランに溶解し、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)及びDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)を加えて、0℃で3時間程度攪拌することによって行うことができる。次いで、反応液から抽出操作により、6’’-アシル化イソフラボン配糖体を単離取得することができる。
【0068】
また、上記出発原料としてゲニステインの代わりに、上記<反応式1>に示す反応(a)及び(b)を、2’,4’,6’-トリハイドロキシアセトフェノン(5a)に代えて下式に示す化合物(5)(但し、2’,4’,6’-トリハイドロキシアセトフェノン(5a)を除く):
【0069】
【化11】

【0070】
〔式中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRに同一または異なって、
水素原子、水酸基、ハロゲン原子、または低級アルキル基を意味する。〕
並びにヒドロキシベンズアルデヒド(6a)に代えて下式 に示す化合物(6)(但し、ヒドロキシベンズアルデヒド(6a)を除く)
【0071】
【化12】

【0072】
〔式中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRに同一または異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、または低級アルキル基を意味する。〕
を用いて得られる化合物を用いることにより、一般式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRに各種の官能基を有するイソフラボン類を合成することができる。
【0073】
上記一般式(5)のうちR、R、R、またはRに同一または異なって水素原子あるいは水酸基を有する水酸基置換アセトフェノン (5a-5m、図1参照)は、市販品あるいは文献既知の方法によって得ることができる。また、上記一般式(6)のうちR、R、R、RまたはRに同一または異なって水素原子あるいは水酸基を有するベンズアルデヒド類(6a-6p、図2参照)もまた、市販品あるいは文献既知の方法によって得ることができる。
【0074】
また、R、R、R、またはRが塩素、臭素またはヨウ素原子である化合物(5)、またはR、R、R、RまたはRが塩素、臭素またはヨウ素原子である化合物(6)は、それぞれ上記の水酸基置換アセトフェノン(5a-5m)またはベンズアルデヒド類(6a-6p)をジクロロメタンに溶解させ、N-クロロスクシンイミド(N-ブロモスクシンイミド、またはN-ヨードスクシンイミド)を加えて室温で20分程度静置し、次いで、得られた反応液を水にあけて抽出操作を行うことによって調製することができる。
【0075】
また、R、R、R、またはRがフッ素原子である化合物(5)またはR、R、R、RまたはRがフッ素原子である化合物(6)は、それぞれ水酸基置換アセトフェノン(5a-5m)またはベンズアルデヒド類(6a-6p)をジクロロエタンに溶解し、N-フルオロピリジニウムトリフレートを加えて加熱還流下10時間攪拌し、斯くして得られる反応液を室温まで冷却後、チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液を加え、抽出操作を行うことにより調製することができる。
【0076】
さらに、R、R、R、またはRが低級アルキル基である化合物(5)、またはR、R、R、RまたはRが低級アルキル基である化合物(6)は、いずれも下記の方法によって調製できる:
トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(Pd2(dba)3)、トリシクロペンチルホスフィン、N-メチルピロリジノンをTHFに溶解させ室温で3分間撹拌の後、対応する臭化アルキル亜鉛、N-メチルイミダゾール及び低級アルキル基を導入する位置にブロモ基を有する化合物を加えて80℃で14時間程度撹拌し、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して調製する。
【0077】
なお、R、R、R、Rに低級アルキルとハロゲン原子を有する化合物(5)、またはR、R、R、R、Rに低級アルキルとハロゲン原子を有する化合物(6)を調製する際は、先に低級アルキル基を導入した後に上記の方法でハロゲン原子を導入することが好ましい。
【0078】
斯くして調製される化合物(5)および(6)を用いて、先の反応 (a)および(b)を行うことにより、一般式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRに水素原子、低級アルキル基、水酸基、ハロゲン原子を有するイソフラボン類(1)を合成することができる。さらに、これらの合成したイソフラボン類を用いて、先の反応(c)、(d)、(e)、あるいは(f)を行うことによって一般式(1)中、R、R、及びRに、オキシ低級アルコキシカルボニル基、低級アルコキシル基、低級アルキルアシロキシル基、またはオキシ低級アルキルカルバモイル基を有するイソフラボン類(1)を合成することができる。
【0079】
10への各種官能基(低級アルキル基、ハロゲン原子)の導入は、R10が水素原子である一般式(1)の化合物に対して以下の反応を行うことにより調製することができる。
【0080】
ハロゲン原子の導入は、R10が水素原子であるイソフラボン類(1)をジクロロメタンに溶解させ、N-クロロスクシンイミド(N-ブロモスクシンイミド、またはN-ヨードスクシンイミド)を加えて室温で20分程度静置し、得られる反応液を水にあけて抽出操作を行うことによって行うことができる。
【0081】
また低級アルキル基の導入は、R10が水素原子であるイソフラボン類(1)に界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した水溶液に、硝酸銀、導入する低級アルキル基を有するカルボン酸、およびアンモニウムパーオキシジスルフェイトを加えて撹拌し、抽出操作を行うことによって行うことができる。
【0082】
斯くして得られるイソフラボン類(1)、特に一般式(2)で示されるイソフラボン類は、後述する実施例で示すように、マスト細胞IgEレセプター、特にマスト細胞表面に特異的に発現し得る高親和性IgEレセプター(EcεRI)の発現を抑制する作用を有する。このため、それ自体マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤(特に、マスト細胞EcεRI 発現抑制剤)として有効に利用することができる。
【0083】
当該マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤は、後述するように、マスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物の有効成分として利用することができるほか、抗アレルギー組成物の有効成分として利用することができる。
【0084】
(2)マスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物
本発明は、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有するマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物を提供する。
【0085】
本発明のマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物は、その種類を特に制限するものではない。よって、例えば食品組成物、医薬品組成物、化粧品組成物、医薬部外品組成物、飼料組成物のいずれの形態を有することができる。
【0086】
例えば、本発明の組成物がマスト細胞IgEレセプター発現抑制用の医薬品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて薬学的に許容される担体または添加剤が配合されていてもよい。具体的には、マスト細胞IgEレセプター発現抑制物質を薬学的に許容される担体若しくは添加剤とともに、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、エマルジョンまたはシロップ剤等の経口剤の形態;注射剤、点滴剤、坐剤、軟膏、クリームまたは貼付剤などの非経口剤の形態に調製することができる。かかる経口剤は、通常、有効成分に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を適宜組み合わせて配合した後、常法に従って、上記各種形態に調製することができる。また、注射剤や点滴剤などを調製する場合は、有効成分に必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して、必要ならば凍結乾燥を行って、常法により皮下、筋肉、静脈内・腹腔内用注射剤、点滴剤として調製することができる。さらに、これらの製剤には、上記成分の他に香料、界面活性剤、無痛化剤、安定剤などの成分を配合することもできる。
【0087】
また本発明の組成物がマスト細胞IgEレセプター発現抑制用の食品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて、通常使用される飲食物素材や食品として配合が許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。なお、通常食品に使用される担体または添加剤としては、糖類や各種甘味料(高甘味度甘味料を含む)、調味料、酸味料、着色料、保存料、増粘剤、酸化防止剤、品質改良剤、膨張剤、乳化剤、分散剤、などを挙げることができる。
【0088】
食品組成物としては特に制限されないが、例えば乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料などの飲料類;カスタードプリン、ミルクプリン、スフレプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、氷菓等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、打錠菓子(タブレット)、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類(以上、菓子類);コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;バター、マーガリン、チーズ、ホイップクリーム等の酪農・油脂製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。好ましくは飲料及び菓子類である。
【0089】
また本発明の組成物がマスト細胞IgEレセプター発現抑制用の化粧品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて当該分野において使用許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。化粧品組成物としては、例えば化粧水(ローション)、クリーム、乳液、皮膚洗浄料、洗顔料、メイクアップ化粧料、入浴剤、シャンプーやリンスやムースやヘアトニックなどの毛髪用化粧料などを挙げることができる。
【0090】
また本発明の組成物がマスト細胞IgEレセプター発現抑制用の飼料組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて、通常使用される飼料素材や飼料として配合が許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。なお、飼料には、家畜用飼料及びペット用飼料が含まれる。
【0091】
なお、本発明のマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物に配合するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤(一般式(1)で示されるイソフラボン類)の割合は、組成物の種類、使用態様、一回の使用用量によって異なり、一概に定めることはできないが、通常1〜95重量%の範囲から適宜選択調整することができる。本発明のマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物の一日の使用用量も、特に制限されないが、通常経口的に用いる場合には、一般式(1)で示されるイソフラボン類(マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤)の量に換算して、1日に0.5〜300mg/kgの範囲で用いることができる。化粧料などのように外用的に用いる場合も同様に、一般式で示されるイソフラボン類の量に換算して1日に5〜300mg/kgの範囲で用いることができる。
【0092】
(3)抗アレルギー組成物
本発明は、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有する抗アレルギー組成物を提供する。ここで「抗アレルギー組成物」とは、マスト細胞IgEレセプターを介して発生するマスト細胞の脱顆粒が関与するアレルギー反応に対して抑制作用を有し、専ら当該アレルギー反応を抑制する目的で使用される組成物を意味する。
【0093】
本発明の抗アレルギー組成物は、その種類を特に制限するものではない。よって、例えば食品組成物、医薬品組成物、化粧品組成物、医薬部外品組成物、飼料組成物のいずれの形態を有することができる。
【0094】
例えば、本発明の抗アレルギー組成物が医薬品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて薬学的に許容される担体または添加剤が配合されていてもよい。具体的には、マスト細胞IgEレセプター発現抑制物質を薬学的に許容される担体若しくは添加剤とともに、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、エマルジョンまたはシロップ剤等の経口剤の形態;注射剤、点滴剤、坐剤、軟膏、クリームまたは貼付剤などの非経口剤の形態に調製することができる。かかる経口剤は、通常、有効成分に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を適宜組み合わせて配合した後、常法に従って、上記各種形態に調製することができる。また、注射剤や点滴剤などを調製する場合は、有効成分に必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して、必要ならば凍結乾燥を行って、常法により皮下、筋肉、静脈内・腹腔内用注射剤、点滴剤として調製することができる。さらに、これらの製剤には、上記成分の他に香料、界面活性剤、無痛化剤、安定剤などの成分を配合することもできる。
【0095】
また本発明の抗アレルギー組成物が食品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて、通常使用される飲食物素材や食品として配合が許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。なお、通常食品に使用される担体または添加剤としては、糖類や各種甘味料(高甘味度甘味料を含む)、調味料、酸味料、着色料、保存料、増粘剤、酸化防止剤、品質改良剤、膨張剤、乳化剤、分散剤、などを挙げることができる。
【0096】
食品組成物としては特に制限されないが、例えば乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料などの飲料類;カスタードプリン、ミルクプリン、スフレプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、氷菓等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、打錠菓子(タブレット)、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類(以上、菓子類);コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品;バター、マーガリン、チーズ、ホイップクリーム等の酪農・油脂製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。好ましくは飲料及び菓子類である。
【0097】
なお、本発明の食品組成物には、抗アレルギー作用がある旨の表示を有することが含まれる。
【0098】
また本発明の抗アレルギー組成物が化粧品組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて当該分野において使用許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。化粧品組成物としては、例えば化粧水(ローション)、クリーム、乳液、皮膚洗浄料、洗顔料、メイクアップ化粧料、入浴剤、シャンプーやリンスやムースやヘアトニックなどの毛髪用化粧料などを挙げることができる。
【0099】
また本発明の抗アレルギー組成物が飼料組成物である場合、上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤に加えて、通常使用される飼料素材や飼料として配合が許容されている担体または添加剤が配合されていてもよい。なお、飼料には、家畜用飼料及びペット用飼料が含まれる。
【0100】
なお、本発明の抗アレルギー組成物に配合するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤(一般式(1)で示されるイソフラボン類)の割合は、組成物の種類、使用態様、一回の使用用量によって異なり、一概に定めることはできないが、通常1〜95重量%の範囲から適宜選択調整することができる。本発明の抗アレルギー組成物の一日の使用用量も、特に制限されないが、通常経口的に用いる場合には、一般式(1)で示されるイソフラボン類(マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤)の量に換算して、1日に0.5〜300mg/kgの範囲で用いることができる。化粧料などのように外用的に用いる場合も同様に、一般式で示されるイソフラボン類の量に換算して1日に5〜300mg/kgの範囲で用いることができる。
【発明の効果】
【0101】
本発明は、一般式(1)で示されるイソフラボン類の少なくとも1つ、好ましくはゲニステインまたはテクトリゲニンからなる、マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤(マスト細胞高親和性IgEレセプター(FcεRI)発現抑制剤)を提供する。また本発明は、当該剤を有効成分として含有する、マスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物(マスト細胞高親和性IgEレセプター(FcεRI)発現抑制組成物)を提供する。
【0102】
従来より、アレルギー反応、特にI型アレルギーの反応には、マスト細胞の表面に発現したIgEレセプターとアレルゲンとの反応が関わっていることが知られている。すなわち、マスト細胞の表面に発現したIgEレセプターにアレルゲンが反応することによって、マスト細胞からメディエーターが遊離し、平滑筋の収縮や血管透過性亢進が惹起され、炎症やアレルギー反応が生じることが知られている。従って、マスト細胞表面におけるIgEレセプター(FcεRI)の発現を抑制することにより、炎症やアレルギー反応の発生が軽減され緩和するものと考えられる。すなわち、本発明は、マスト細胞IgEレセプターを介して発生する炎症やアレルギーを予防ないしは軽減緩和するために有用に利用することができる。このため、本発明は 上記マスト細胞IgEレセプター発現抑制剤(マスト細胞高親和性IgEレセプター(FcεRI)発現抑制剤)を有効成分として含有する、抗アレルギー組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0103】
以下に、本発明を実施するための最良の形態として、製造例、実施例、比較例及び実験例を記載する。但し、本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0104】
実施例1
A.被検試料の調製
(1)メタノールによる抽出
粉砕した葛花500gにメタノール4 Lを加え室温で12時間抽出した。抽出後、得られた抽出物を濾過し濾液を回収した。また残査に再度メタノール4 Lを加え、加熱還流下で2時間抽出し、抽出物を濾過して濾液を回収した。この加熱還流抽出及び濾過操作を更に1回行い、回収した全ての濾液を集めて濃縮し、絶乾して65 g の固体(以下「メタノール抽出物」と呼ぶ)を得た。
【0105】
(2)酢酸エチル/H2O処理
(1)で得たメタノール抽出物14 gを、酢酸エチル/H2Oの600 mL/600 mL混合液に加え良く攪拌し、両層に分配溶解させた。次いで酢酸エチル層と水層を分離(層分離)し、酢酸エチル層を回収した。一方の水層にさらに酢酸エチル600 mLを加え、再度良く攪拌して層分離を行い、酢酸エチル層を回収し、先に回収した酢酸エチル層と一緒にした。次いで、この酢酸エチル層を絶乾して2.7 gの固体(以下「酢酸エチル層移行部」と呼ぶ)を得た。
【0106】
(3)n-ブタノール/H2O処理
(2)の層分離で得た水層に、n-ブタノール500 mLを加え、良く攪拌し、n-ブタノール層と水層とに分離(層分離)し、n-ブタノール層を回収した。一方の水層にさらにn-ブタノール500 mLを加え、再度良く攪拌して層分離を行い、n-ブタノール層を回収し、先に回収したn-ブタノール層と一緒にした。次いで、このn-ブタノール層を絶乾して3.2 gの固体(以下「n-ブタノール層移行部」と呼ぶ)を得た。また、他方の水層を絶乾して4.4 gの固体(以下「水層移行部」と呼ぶ)を得た。
【0107】
B.被検試料についてIgEレセプター発現抑制活性の測定
(1)〜(3)で得た各抽出物及び移行部のIgEレセプター発現抑制活性を次のようにして測定した。
【0108】
株化ヒトマスト細胞HMC-1(東北大学医学部 倉増先生より御恵与。Leukemia Res., 1988, 12, 345.)を24 well plate に 5 x 105 cells/980 μL/wellで播種した。被検試料(上記各抽出物及び移行部)をDMFに溶解し、さらに9倍量の培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium (Sigma社 I3390)、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycin (Sigma社 P4333)、1.2 mM monothioglycerol (Sigma社 M6145))で希釈して、10%DMF-培地溶液(最終濃度の50倍濃度)として調製しておいた。この溶液を、上記各wellに20 μLずつ添加し(DMF最終濃度: 0.2 %)、37℃、5% CO2雰囲気下で2日間培養した。
【0109】
また、コントロールとバックグラウンド測定用に、上記被検試料を含む溶液に代えて10%量のDMFを含む培地のみを20 μL ずつ、各wellに添加した細胞群も用意した。次いで、各wellから10 x 105cells をエッペンドルフチューブに回収し、次いで、これをPBS (0.5 % BSA, 0.05 % NaN3含有。以下同じ) で2回洗浄し、PBS 50 μLに再懸濁した。これらの各チューブに0.02 μg/mL の抗IgEレセプター抗体(CRA-1:anti-human FcεRIα-chain, mouse IgG2b:コスモバイオ(カタログ番号98140) を50 μL ずつ加えて、氷上で60分間インキュベートした。なお、バックグラウンド測定用のチューブには上記抗IgEレセプター抗体に代えてPBSのみを50 μL添加した。
【0110】
各チューブをインキュベートした後、PBSで2回洗浄し、PBS 50 μLに再懸濁させた。これに二次抗体として、0.02 μg/mL 蛍光ラベル抗体 (FITC labeled anti-mouse IgG:フナコシ(カタログ番号FI-2000) を加えて、氷上、暗所で45 分間インキュベートした。これをPBSで2回洗浄し、次いでPBSに再懸濁させて、得られる蛍光強度をFACS (fluorescence activated cells sorter) を用いて分析した。
【0111】
各被検試料のIgEレセプター発現抑制活性は、各被検試料、コントロール試料、及びバックグラウンド測定用試料について上記方法により得られた蛍光強度の平均値から、以下の計算式に基づいて評価した。
【0112】
【数1】

【0113】
結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
この結果から、葛花のメタノール抽出物の酢酸エチル層移行部に、高いIgEレセプター発現抑制活性があることがわかった。
【0116】
C.IgEレセプター発現抑制物質の単離
(1)シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分別
上記の結果から、A(3)で得た酢酸エチル層移行部2.63 gを、下記条件のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて分別した。
【0117】
具体的には、酢酸エチル層移行部2.63 gをSiO2 (100 g)を充填したガラスカラム(充填溶媒:「CHCl3:MeOH:H2O=30:3:1」から調製した下層溶媒)に吸着させ、溶出溶媒Aとして「CHCl3:MeOH:H2O = 30:3:1」から調製した下層溶媒を通導させ、画分A (絶乾後の固形重量:458 mg) を得た。さらに溶出溶媒を、順次、溶出溶媒B(「CHCl3:MeOH:H2O=7:3:1」から調製した下層溶媒)、溶出溶媒C(CHCl3:MeOH:H2O = 6:4:1)、及び溶出溶媒D(MeOH)と変えて、それぞれ、画分B (絶乾後の固形重量:844 mg)、画分C (絶乾後の固形重量:404 mg)、および画分D (絶乾後の固形重量:833 mg)を得た。
【0118】
(2)画分A〜DのIgEレセプター発現抑制活性の測定
(1)で得た画分A〜DのIgEレセプター発現抑制活性をBと同様の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
この結果から、画分BとCに、高いIgEレセプター発現抑制活性があることがわかった。
【0121】
(3)画分BのODSカラムクロマトグラフィーによる精製
(2)で得た画分B (844 mgのうち787 mg) をODSカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。具体的には、画分B554 mgを30 容量% MeOH-H2Oに溶解した試料を、ODS (27 g) を充填したガラスカラム(充填溶媒30 容量% MeOH-H2O (最終濃度として0.5% Et2NH含有))に吸着させ、溶出溶媒として30容量% MeOH-H2O (最終濃度として0.5% Et2NH含有)を通導させ、画分B1(57 mg)を得た。さらに溶出溶媒を、順次、溶出溶媒B2〔50容量% MeOH-H2O(最終濃度として0.5% Et2NH含有)〕、溶出溶媒B3〔80容量% MeOH-H2O(最終濃度として0.5% Et2NH含有)〕、及び溶出溶媒B4〔MeOH (最終濃度として0.5% Et2NH含有)〕と変えて、それぞれ、画分B2(絶乾後の固形重量:404 mg)、画分B3 (絶乾後の固形重量:112 mg)、および画分B4 (絶乾後の固形重量:171mg)を得た。
【0122】
(4)画分B1〜B4のIgEレセプター発現抑制活性の測定
(3)で得た画分B1〜B4のIgEレセプター発現抑制活性をBと同様の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0123】
【表3】

【0124】
この結果から、画分B2に、高いIgEレセプター発現抑制活性があることがわかった。
【0125】
(5)シリカゲルHPLCによる分別
(4)で得た画分B2 (77.0 mg) について、下記条件でシリカゲルHPLCを行い、ピーク画分を分取した。その結果、画分B2a (絶乾後の固形重量:18.2 mg)、画分B2b (絶乾後の固形重量:30.1 mg)、画分B2c (絶乾後の固形重量:10.4 mg)、及び画分B2d (絶乾後の固形重量:16.2 mg) を得た。
【0126】
<シリカゲルHPLC条件>
カラム: cosmosil 5SL-II(20 mm i.d. x 250 mm) (ナカライテスク社製)
移動相: CHCl3:EtOH = 30:1(v/v)
流速 : 9.0 mL/min
検出方法: UV検出、波長=250 nm。
【0127】
(6)画分B2a〜B2dのIgEレセプター発現抑制活性の測定
(5)で得た画分B2a〜B2dのIgEレセプター発現抑制活性をBと同様の方法により測定した。結果を表4に示す。
【0128】
【表4】

【0129】
この結果から、画分B2b及びB2cに、高いIgEレセプター発現抑制活性があることがわかった。
【0130】
(7)ODS HPLCによる分別
(6)で得た画分B2c (10.4 mg)について、下記条件で逆相カラム液体クロマトグラフィー(ODS HPLC)行い、ピーク画分を取得した。その結果、画分B2c1 (絶乾後の固形重量:8.0 mg) を得た。
<ODS HPLC条件>
カラム : cosmosil 5C18 AR-II(10 mm i.d. x 250 mm)(ナカライテスク社製)
移動相 : CH3CN:3 % AcOH = 30:70(v/v)
流速 : 4.0 mL/min
検出 : UV検出(波長250 nm)。
【0131】
(8)各画分の同定
(8-1) 画分B2b
(6)で得た画分B2bについて、1H NMR、13C NMRおよびFAB-MSを測定した。結果を下記に示す。
1H-NMR(500MHz,acetone-d6)d: 13.2 (1H, s), 8.17 (1H, s), 7.44 (2H, d, J=8.5 Hz), 6.89 (2H, d, J=8.5 Hz), 6.49 (1H, s), 3.87 (3H, s).
13C-NMR(500MHz,acetone-d6)dc: 182.1, 158.4, 157.8, 154.5, 154.5, 154.3, 132.2, 131.2, 123.5, 123.1, 116.0, 106.6, 94.4, 60.7.
・FAB+MS:301(M+H)+
【0132】
この結果と文献報告値(Biosci. Biotech. Biochem. 2001, 65, 939-942)とを比較して、画分B2bは次の構造を有する化合物(テクトリゲニン:tectorigenin)と判定した。
【0133】
【化13】

【0134】
(8-2) 画分B2c1
(7)で得た画分B2c1について、1H NMR、13C NMRおよびFAB-MSを測定した。結果を下記に示す。
1H-NMR(500MHz,acetone-d6)d: 13.0(1H, s), 8.15 (1H, s), 7.44 (2H, dd, J=8.5, 1.8 Hz), 6.89 (2H, dd, J=8.5, 1.8 Hz), 6.40 (1H, s), 6.27 (1H, s).
13C-NMR(500MHz,acetone-d6)dc: 181.5, 165.4, 163.6, 159.1, 158.3, 154.2, 131.1, 124.0, 123.1, 116.0, 106.0, 99.9, 94.5.
・FAB+MS:271(M+H)+
【0135】
この結果と文献報告値(Heterocycles 1995, 41, 2761-2768)とを比較して、画分B2c1は次の構造を有する化合物(ゲニステイン:genistein )と判定した。
【0136】
【化14】

【0137】
(9)各化合物のIgEレセプター発現抑制活性
上記で単離した各化合物(テクトリゲニン、ゲニステイン)についてIgEレセプター発現抑制活性をBと同様の方法により測定した。結果を表5に示す。
【0138】
【表5】

【0139】
製剤例1
画分B2bの化合物テクトリゲニン200mg、乳糖3g、とうもろこし澱粉1.58g、ヒドロキシプロピルセルロース200mg、ステアリン酸マグネシウム20mgを、よく混合して造粒した後、打錠して、1錠あたり100mgの錠剤形態の、マスト細胞IgEレセプター発現抑制用組成物とする。
【0140】
製剤例2
製剤例1の化合物テクトリゲンニンに代えて、画分B2c1の化合物ゲニステイン(製剤例2)を用いて、製剤例1と同様に、各成分をよく混合して造粒した後、打錠して、1錠あたり100mgの錠剤形態の、マスト細胞IgEレセプター発現抑制用組成物とする。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】化合物(5)のうちR、R、R、またはRに同一または異なって水素原子あるいは水酸基を有するアセトフェノン(5a-5m)を示す図である。
【図2】化合物(6)のうちR、R、R、RまたはRに同一または異なって水素原子あるいは水酸基を有するベンズアルデヒド(6a-6p)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

〔式中、R、R、R、R、R、R、R、RまたはRは、同一または異なって水素原子、低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示し、R10は水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子を示す。但し、R〜Rのうち少なくとも一つとR〜Rのうち少なくとも二つは、酸素原子を含む官能基(低級アルコキシル基、水酸基、低級アルキルアシロキシル基、オキシ低級アルコキシカルボニル基、オキシ低級アルキルカルバモイル基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基)ではない。〕
で示されるイソフラボン類、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種からなるマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【請求項2】
一般式(2):
【化2】

〔式中、Rは水素原子または低級アルコキシ基、Rは水酸基、オキシグルコピラノシル基またはオキシ6’’-アシル化グルコピラノシル基を示す。〕
で示されるイソフラボン類、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種からなる、請求項1記載のマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【請求項3】
イソフラボン類が、下式(3):
【化3】

で示されるゲニステイン、または下式(4):
【化4】

で示されるテクトリゲニンである、請求項1または2に記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有するマスト細胞IgEレセプター発現抑制組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載するマスト細胞IgEレセプター発現抑制剤を有効成分として含有する抗アレルギー組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−348003(P2006−348003A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179878(P2005−179878)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】