マトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/若しくは発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、並びに/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物、並びにその使用
【課題】マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性及び/又は発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制し、及び/又はコラーゲンの発現を促進することにより、皮膚の質の改善/ケアの効果を提供する。
【解決手段】化学式(I)の化合物、薬学上許容し得る塩、エステル、及びこれらの混合物を使用する。
【解決手段】化学式(I)の化合物、薬学上許容し得る塩、エステル、及びこれらの混合物を使用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性の抑制、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の抑制、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化の抑制、及び/又はコラーゲンの発現の促進におけるトルメント酸の使用に関し、特には皮膚の改善、修復及び/又はケアにおけるトルメント酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの自然な老化プロセスは、皮膚の弛緩、しわの形成、及び皮膚の暗色化を含み、それらは老化に伴い徐々に現れる。皮膚の層は上部から下部に向かって、表皮層、真皮層、及び皮下組織である。皮膚の老化の原因は、内因性のファクターと外因性のファクターとに分類され得る。内因性の老化は、ヒトの身体の自然な老化プロセスであり、それには細胞のアポトーシス、ホルモン減少、及び免疫力低下が含まれる。ホルモン分泌の低下は、皮膚の新陳代謝を遅らせ得、真皮層における繊維芽細胞の機能を低下させ得るため、コラーゲン及びエラスチンの生成を徐々に低減させ得る。結果として、真皮層における結合組織が退化し、皮膚の弛緩及び皮膚のしわさえ引き起こす。さらに、真皮層における結合組織の退化は、皮膚の保水機能を低下させ得、皮膚の乾燥及び水分不足等を引き起こす。
【0003】
外因性の老化は、太陽光、汚染、フリーラジカル、及び喫煙といった外在性のファクターにより引き起こされる。皮膚に最もダメージを与え皮膚の老化を加速する主要なファクターは、太陽からの紫外線(UV)である。波長に依存して、紫外線は、長波長UV(UVA)、中波長UV(UVB)、及び短波長UV(UVC)に分類され得る。日常生活において人々が最も照射を受けている紫外線は、UVA及びUVBであり、それらは紅斑、日焼け、皮膚の細胞におけるデオキシリボ核酸(DNA)へのダメージ、皮膚の免疫機構の異常、及び皮膚の癌を引き起こし得る。紫外線により引き起こされる老化現象は、“光老化”と呼ばれ、それはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路のリン酸化を介して真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加をもたらし得る。マトリックスメタロプロテアーゼは、皮膚においてコラーゲンを分解し得る。コラーゲンの支持無しでは、皮膚は弛緩し、表皮が過形成され得る。それにより、皮膚は暗色化し、しわが形成される。
【0004】
現在知られている動物のコラーゲンは、およそ21タイプに分類され得る。異なる種類のコラーゲンは、異なる組織に存在する。皮膚組織における全てのコラーゲン中、I型コラーゲンは、最も含有量が多く(皮膚のコラーゲンの80%)、最も多くの機能を有する。III型コラーゲンは、皮膚のコラーゲンの約20%を構成する。真皮層における繊維芽細胞は主に、皮膚のI型コラーゲン及びIII型コラーゲンを生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、マトリックスメタロプロテアーゼは、コラーゲンを分解し、皮膚におけるコラーゲン含有量を低下させ得る。したがって、MAPK経路又は細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現が抑制され得るとしたら、皮膚の質の改善/ケアの効果が得られ得る。
【0006】
本発明者らは、トルメント酸がマトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又はコラーゲンの発現を促進する優れた効果を有すること、並びにそれが皮膚の改善、修復及び/又はケアに用いられ得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の目的は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための方法、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための方法、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための方法、及び/又は哺乳動物のコラーゲンの発現を促進するための方法を提供することである。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた活性成分の有効量を哺乳動物に投与する方法を含む。
【化1】
【0008】
本発明の他の目的は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制するための医薬組成物、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物を提供することである。それは、前記活性成分の有効量を含有する。
【0009】
本発明のさらなる目的は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬の製造における前記活性成分の使用を提供することである。
【0010】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物におけるトルメント酸のHPLCクロマトグラムである。
【図2】トルメント酸によるMMPのゼラチン分解活性の抑制率を示す染色像及びカラム図である。
【図3】トルメント酸によるMMPのコラゲナーゼ基質分解活性の抑制率を示すカラム図である。
【図4】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞におけるプロコラーゲン−1及びMMP−1のタンパク質電気泳動像である。
【図5】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞における非リン酸化及びリン酸化されたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(JNK,ERK,及びp38タンパク質)のタンパク質電気泳動像である。
【図6】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞の核におけるAP−1のタンパク質電気泳動像である。
【図7】UVBを照射したマウスの皮膚の厚さ及びしわ形成の変化を示す写真及びカラム図である。
【図8】UVBを照射したマウスの表皮層及び真皮層の厚さの変化を示す染色像及びカラム図である。
【図9】UVBを照射したマウスの真皮層の全体領域に対するコラーゲンの割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【図10】UVBを照射したマウスの皮膚の全体領域に対するMMP−1の割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【図11】UVBを照射したマウスの皮膚におけるCOX−2の変化を示す染色像である。
【図12】UVBを照射したマウスの皮膚の全体領域に対する過酸化水素の割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特にことわらない限り、本文中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一”、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0013】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための医薬組成物、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物に関する。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた活性成分の有効量を含む。
【化2】
【0014】
本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制する効果、及びマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する効果を有し、コラーゲンの破壊を抑制又は減少させ得る。マトリックスメタロプロテアーゼは、コラゲナーゼ、ストロメライシン、ゼラチナーゼ、マトリリシン、膜貫通型MMP等に分類され得る。一般的なマトリックスメタロプロテアーゼは、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、マトリックスメタロプロテアーゼ−7(MMP−7)、マトリックスメタロプロテアーゼ−8(MMP−8)、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、マトリックスメタロプロテアーゼ−10(MMP−10)、マトリックスメタロプロテアーゼ−11(MMP−11)、マトリックスメタロプロテアーゼ−12(MMP−12)、マトリックスメタロプロテアーゼ−13(MMP−13)、マトリックスメタロプロテアーゼ−14(MMP−14)等を含む。具体的に、本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)の形成(又は発現)を効果的に抑制し得る。MMP−1はコラゲナーゼ−1とも呼ばれ、コラゲナーゼファミリーに属する。MMP−1の他の名称は、組織コラゲナーゼ又は繊維芽細胞型コラゲナーゼを含む。
【0015】
マトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現を抑制する効果に加えて、本発明の医薬組成物はまた、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制する効果を有し、具体的にはJun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、及びp38タンパク質のリン酸化を抑制する効果を有する。前述のように、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化は、真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼの量を増加させ得、さらにはコラーゲンの分解の機会を増加させ、その結果皮膚におけるコラーゲン含有量を低下させる。
【0016】
本発明の医薬組成物は、(1)直接的にマトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現を抑制し、(2)マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制することにより間接的にマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する効果を有するため、皮膚におけるコラーゲンの分解を顕著に低減させ得、その結果コラーゲン含有量、具体的にはI型コラーゲンの含有量を増加させ、皮膚を効果的に改善し、修復し、及び/又はケアし得る。例えば、本発明の医薬組成物は、抗老化、抗光老化、皮膚のしわの低減、皮膚の質及び皮膚の弛緩性の改善、創傷治癒の促進等の効果を有し得る。
【0017】
化学式I(すなわちトルメント酸)の化合物は、下記の工程を含む方法により調製され得る。ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉の培養細胞を95容量%エタノールで抽出した。該抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。該濃縮物をその後50容量%メタノールに溶解しフィルターペーパーでろ過し、未溶解部分を収集した。その後、該未溶解部分を85容量%メタノールに溶解し、フィルターペーパーでろ過した。該ろ液を収集し減圧濃縮してビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を得た。それには十分な量の化学式(I)の化合物が含まれる。最終的に、高性能液体クトマトグラフィー(HPLC)装置で該抽出物を精製して化学式(I)の化合物を得た。
【0018】
本発明の医薬組成物は、特定の制限無くいかなる形態にも適用し得る。例えば、該医薬組成物は、スキンケア製品、化粧品等といった、外用のエマルション、クリーム、又はジェルの形態となり得る。該医薬組成物はまた、健康食品、美容飲料等といった嚥下用又は飲用の食品の形態で調製され得る。さらに、該医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、流エキス剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、チンキ剤、静脈内注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末−懸濁注射剤等といった、一般的な剤型となり得る。
【0019】
本発明の医薬組成物の用量は、適用対象の年齢及び適用目的(例えば、皮膚のしわを低減させる、又は創傷治癒を促進する)により調節され得、適用頻度もまた任意に調節され得る。該医薬組成物中のその他の成分及びその含有量は、該医薬組成物の最終的な形態に依存する。例えば、該医薬組成物がスキンケア製品として調製される場合は、適切かつ適当な量のエマルション、香料、及び皮膚の質を向上させる他の活性成分が該医薬組成物中に加えられ得る。一般的に、化学式(I)の化合物の効果に悪影響を及ぼさない限り、いかなる成分をも該医薬組成物中に加えられ得る。
【0020】
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬の製造における前記活性成分(すなわち、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物)の使用を提供する。該医薬は、皮膚の改善、修復及び/又はケアのために用いられ得、特には抗光老化のために用いられ得る。加えて、該医薬は特に、MMP−1の活性及び/若しくは発現を抑制し、並びに/又はI型コラーゲンの発現を促進するために用いられ得る。
【0021】
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又は哺乳動物におけるコラーゲンの発現を促進するための方法を提供する。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分を哺乳動物に投与する方法を含む。
【0022】
後述において、下記の実施例を参照して本発明についてさらに解説する。しかしながら、これらの実施例は説明のために提供されるにすぎず、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0023】
トルメント酸(化学式(I)の化合物)の調製
【0024】
(1.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)の無菌苗の確立)
台湾台中県トウベングンの果樹園の成熟ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)由来の種子を収集した。その後、該種子を30分間洗浄し、約1分間70%エタノールに浸した。さらに、該種子を0.01%Tween20の1%塩素酸ナトリウム溶液に浸し、超音波振動子に置いた。約15分間の表面消毒後、該種子を層流型ベンチに置いた。その後該種子を3〜4時間滅菌水で洗浄し、30g/Lスクロース含有のMS培地(Murashige−Skoog培地)で栽培した。2〜3週間後、該種子は発芽し始め、発芽後2カ月の該種子の葉を収集し、試験用マテリアルとした。
【0025】
(2.カルス組織の誘導)
種子の葉を約0.3cmにカットし、培養のための固形培地(MS基本配合中2.5ppm 6−ベンジルアデニン(BA)、1ppm α−ナフタレン酢酸(NAA)、3%(30g/L)スクロース、及び0.3%(3g/L)ゲルライトを含む)に移した。1カ月後、浅黄色のカルス組織が切創から発生していた。
【0026】
(3.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の培養)
60gの上述の浅黄色のカルス組織(新しいビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞に分化し得る)を取り590μmのふるいでふるい分けし、カルス組織細胞を特定のサイズに分離した。その後、ふるい分けされた該カルス組織細胞を培養のために4,000mLの培養液(MS基本配合中2.5ppm BA、1ppm NAA、3%(30g/L)スクロースを含む)を含有する生物反応器(BioFlo110 Bioreactor、ニューブランズウィックサイエンティフィック、アメリカ)に移した(培養条件:通気量は0.3v.v.m(1分当たり液体容積単位当たりの気体流量容積(the gas volume flow per unit of liquid volume per minute))であり;撹拌速度は40rpmであり:温度は24〜26℃であった)。該カルス組織を10日おきに新しい培養液を用いて継代培養するときには、元の細胞懸濁液(すなわち培養液)を500mL残し、新しい培養液を4,500mL追加した。元の培養液の残りの4,500mL(約320gの細胞を含む)を、25.5Lの培養液(MS基本配合中2.5ppm BA、1ppm NAA、及び3%(30g/L)スクロースを含む)が入っている生物反応器(30Lの容量のステンレス製のボトル)に移した。その後、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の1ppmのラフィネートを該培養液に加え、分化されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の培養を継続した。培養は18日後に終了した。
【0027】
(4.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞のラフィネートの調整)
培養されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞を個々のバッチ培養から取り出し、乾燥させた(乾燥前約5,400g;乾燥後約320g)。該細胞を95容量%エタノールで3回還流抽出した。得られた抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。その後、該濃縮物を50容量%メタノールに2回溶解し、フィルターペーパーでろ過して未溶解部分を収集した。さらに、該未溶解部分を85容量%メタノールに3回溶解し、フィルターペーパーでろ過した。未溶解部分を収集し、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞のラフィネートを得た。
【0028】
(5.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の調製)
培養されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞を個々のバッチ培養から取り出し、60℃で乾燥させた(乾燥前約5,400g;乾燥後約320g)。該細胞を95容量%エタノールで3回還流抽出した。得られた抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。その後、該濃縮物を5Lの50容量%メタノールに2回溶解し、フィルターペーパーでろ過して未溶解部分を得た。さらに、該未溶解部分を10Lの85容量%メタノールに3回溶解し、フィルターペーパーでろ過した。ろ液を収集し減圧濃縮してビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の白色粉末約53gを得た。前述の工程で得られたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は実質的に50容量%メタノールに可溶であり85容量%メタノールに不溶である成分を含んでいなかった。
【0029】
(6.トルメント酸の精製)
ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の白色粉末約1gをシリカゲル(LiChroprep RP−18、E.メルク、40〜63μm)に載せ、メタノールと水の比率が8:2から10:0の分配で分取高性能液体クトマトグラフィー(HPLC,ポンプ:島津LC−8A(京都、日本)(移動相:85容量%メタノール;流速:3mL/分;カラム:YMC,J’SphereシリーズODS−H80カラム(内径:10mm;長さ:250mm;粒径:5μm))により精製し、トルメント酸を得た。
【0030】
精製された化合物を、質量分析法(GCmate、JOEL社(東京、日本)から購入)及びNMR(1H,13C,DEPT,COSY,HMQC,HMBC,Jeol 500 MHz、東京、日本)により分析し、主要成分がトルメント酸(化学式(I)の化合物)であることが認められた。
【化3】
【0031】
トルメント酸(25.3mg)の1H−NMR(ピリジン−d5)の結果は、δ0.92(3H,s,H−24),δ1.00(3H,s,H−25),δ1.12(3H,s,H−26),δ1.12(3H,s,H−30),δ1.28(3H,s,H−23),δ1.43(3H,s,H−29),δ1.65(3H,s,H−27),1.74(1H,t,J=12.7Hz,H−1),1.90(1H,dd,J=12.0,3.8Hz,H−1),δ2.34(1H,td,J=13.2,4.1Hz,H−15),δ3.05(3H,s,H−18),δ3.14(1H,td,J=13.1,4.1Hz,H−16),δ3.77(3H,s,H−3),δ4.31(1H,dt,J=10,2.6Hz,H−2),δ5.59(1H,s,H−12).であり、13C−NMR(ピリジン−d5)の結果は、δ17.1(C−30),17.2(C−25),19.1(C−6),22.8(C−24),17.7(C−26),24.5(C−11),25.1(C−27),26.9(C−16),27.4(C−21),27.6(C−29),29.7(2C,C−15,C−23),34.0(C−7),39.0(C−22),39.1(C−10),39.3(C−4),41.1(C−8),42.6(C−1),42.8(C−20),43.3(C−14),48.1(C−9),48.7(C−17),49.2(C−5),55.1(C−18),66.6(C−2),73.2(C−19),79.8(C−3),128.5(C−12),140.4(C−13),181.2(C−28).であった。
【0032】
(7.トルメント酸含量の測定)
トルメント酸の含量をHPLCで測定した。HPLCの測定条件は下記の通りである:ポンプは島津LC−10ATvpであった;屈折率測定器は島津RID−10Aであった;HyPURITY C−18カラム(内径:4.6mm;長さ:250mm;粒径:5μm);溶媒系は容積比85:15のメタノール/0.15容量%酢酸含有水であった:流速は0.5mL/分であった;温度は35℃であった。図1で示されるように、トルメント酸の含量は、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の乾燥重量に基づき約48重量%であった。
【実施例2】
【0033】
マトリックスメタロプロテアーゼ活性の抑制試験
【0034】
マトリックスメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ)は、コラーゲンの分解に加えて、ゼラチンを分解する作用を有する。この実施例では、分解されたゼラチン及び分解された市販のコラゲナーゼ基質(Calbiochem社(ラホヤ,カナダ)から購入)の蛍光発生の特性を用いて、トルメント酸のマトリックスメタロプロテアーゼ抑制作用を評価した。
【0035】
(実験A ゼラチンの分解試験)
エッペンドルフチューブに50μLの緩衝液(pH7.8、50mM Tris−HCl、10mM 塩化カルシウム、及び0.15M 塩化ナトリウムを含む)、30μLの滅菌水、及び10μLのバクテリアのマトリックスメタロプロテアーゼ(0.1mg/mL、シグマ)を加え、その後該エッペンドルフチューブに種々の濃度(25,50,100,又は200μg/mL)の(ジメチルスルホキシドに溶解された)トルメント酸溶液10μL、又はポジティブコントロールとしてのドキシサイクリンを加えた。それらを混合し、室温で60分間インキュベートした。
【0036】
その混合物(30μL)を取り出し、ゼラチン培地で覆われた円形フィルターペーパーに滴下した。その後、培地とともにフィルターペーパーを37℃のインキュベーターに置いた。18時間のインキュベーション後、該フィルターペーパーを取り除いた。該培地をクマシーブルーR−250染色溶液(アムレスコ社(アメリカ)から購入)で染色し、その後脱色溶液で脱色した。マトリックスメタロプロテアーゼで分解されたゼラチンはクマシーブルー染色溶液で染色されないため、該培地の透明度がマトリックスメタロプロテアーゼの活性を表し得る。該培地を撮影後、画像を画像分析ソフトウェア(AlphaDigiDoc 1201,アルファイノテック社(アメリカ)から購入)で分析し、トルメント酸のマトリックスメタロプロテアーゼのゼラチン分解活性における抑制率を測定した。その試験結果を表1及び図2に示す。
【表1】
【0037】
表1及び図2に示されるように、トルメント酸はマトリックスメタロプロテアーゼのゼラチン分解活性を顕著に抑制した。
【0038】
(実験B 蛍光性基質試験)
特定量のコラゲナーゼ基質IIIの溶液(Mcc−Pro−Leu−Gly−Pro−D−Lys (DNP)−OH、Calbiochem社(ラホヤ,カナダ)から購入)、マトリックスメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ、シグマ)溶液、トルメント酸又はポジティブコントロールとしてのドキシサイクリンを混合し、96wellプレートに加えた。その後、ELISAリーダーを用いて、ルミネセンス励起光(285nm)下及び放射光(405nm)下の各々での該混合物の吸収値を測定した。結果を表2及び図3に示す。ここでΔFは、時間ゼロでの基礎蛍光値を差し引いた蛍光値である。
【表2】
【0039】
表2及び図3は、トルメント酸が蛍光発生を抑え得ることを示し、トルメント酸がマトリックスメタロプロテアーゼのコラゲナーゼ基質III分解活性を抑制し得ることを示している。
【0040】
実験A及び実験Bの結果により、本発明の医薬組成物及び方法はマトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し得ることが示唆された。
【実施例3】
【0041】
細胞試験
【0042】
(実験C 細胞生存率の試験)
以下の実験は、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞(フードインダストリーリサーチアンドデベロップメントインスティチュート(台湾)より購入)を用いて行われた。0mJ/cm2から120mJ/cm2の強度範囲での紫外線(UV)照射下では、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞は死に至らない。そこで、この試験は90mJ/cm2のUV強度で行われた。まず、種々の濃度(0,0.1,1.0,2.0,又は10μg/mL)のトルメント酸を、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞を含む培養液(最小必須培地α、10%の非働化牛胎児血清、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを含む)に加えた。該細胞を24時間培養後、MTSアッセイ(3−(4,5−ジ−メチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、プロメガ社(マディソン、ウィスコンシン、アメリカ)から購入)を行って、細胞生存率を測定した。結果を表3に示す。MTSアッセイのメカニズムは以下の通りである:生存細胞のデヒドロゲナーゼ活性は、MTSを赤紫色の水溶性産生物に還元させることができる。それは490nmの波長で極大吸収を示し、それゆえ、細胞生存率は吸収値により測定され得る。
【表3】
【0043】
表3に示されるように、細胞に90mJ/cm2のUVを照射した場合、トルメント酸は10μg/mLの濃度で細胞の死を起こさせた。しかし、2μg/mLよりも低い濃度では細胞の死を起こさなかった。この実験により、トルメント酸は低濃度では細胞毒性を有しないことが示された。
【0044】
(実験D プロコラーゲン−1及びマトリックスメタロプロテアーゼ−1の分析)
実験CでのWS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞のタンパク質を収集し、ウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、繊維芽細胞におけるタンパク質発現レベルを調べた。結果を図4に示す。該細胞に24時間UV照射した後、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞のプロコラーゲン−1の発現は低減され、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現は亢進していた。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現は抑制され、プロコラーゲン−1の発現は亢進された。
【0045】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現を抑制し、プロコラーゲン−1の発現を亢進する効果を有することが示唆された。
【0046】
(実験E マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化の分析)
紫外線により引き起こされる皮膚の“光老化”は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を介して真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼの増加を起こし得る。そこで、この実施例でもウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化に対するトルメント酸の作用を調べた。結果を図5に示す。
【0047】
図5に示されるように、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞に24時間UV光を照射した後では、3種類のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(Jun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、及びp38タンパク質)のリン酸化されたタンパク質の発現は亢進された。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、JNK、ERK、及びp38タンパク質のリン酸化は抑制され得た。
【0048】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の抑制を介してマトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現を抑制し、その結果コラーゲンの発現を促進する効果を有することが示唆された。
【0049】
(実験F アクチベータータンパク質1遺伝子転写因子の発現分析)
細胞へのUV照射により、JNK及びp38が誘導され、c−Junが活性化される。それはその後核内に入る。その後、c−FosがERK及びp38の調節下で核内に移行する。c−Junサブユニットはc−Fosサブユニットと結合し、アクチベータータンパク質1(AP−1)遺伝子転写因子を形成する。それはその後、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)のメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を促進させるように遺伝子発現に関与し、プロコラーゲン−1α1(I型コラーゲンのプロコラーゲンα1)の遺伝子発現を低減させる。そこで、この実施例では、ウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、さらに核におけるAP−1のタンパク質発現を調べた。結果を図6に示す。WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞に24時間UV光を照射した後では、核におけるc−Jun及びc−Fosの発現レベルは亢進された。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、c−Jun及びc−Fosの発現レベルは抑制された。
【0050】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、UV照射により誘導されたマイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化の抑制を介してAP−1の核内移行を抑制し、その結果MMP−1及びプロコラーゲン−1α1遺伝子の転写を抑制する作用を有することが示唆された。
【実施例4】
【0051】
動物実験
【0052】
(実験G 皮膚のしわの分析)
下記の実施例は、7週齢のSKH−1無毛雄マウス(チャールズリバーラボ社(アメリカ)から購入)を用いて行われた。マウスは、コントロール群(6マウス)及びUVB(中波長UV)の群(24マウス)の2群に分けられた。UVBの群のマウスには、1週間に3回(すなわち、月曜日、水曜日、及び金曜日)UVBを照射した。第1週目のUVB照射の強度は90mJ/cm2であり、第2週から第12週では120mJ/cm2であった。
【0053】
UVBの群をさらに8マウスずつの3群に分類した。3群は各々、1)UVBを照射するのみ(以後“UVB群”とする)、2)UVBを照射し、クリームのビヒクルを適用する(以後“ビヒクル群”とする。該ビヒクルは、0.5重量%のプエラリア(Pueraria mirifica)抽出物、5重量%のスクアラン、2重量%のアスコルビルリン酸ナトリウム、5重量%の1,3−ブチレングリコール、2重量%のジプロピレングリコール、3重量%のポリエチレングリコール400、0.5重量%のキサンタンガム、5重量%のグリセロール、及び77重量%の純水を含む。)、及び3)UVBを照射し、0.5重量%のビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を含有するクリームを適用する(トルメント酸を含み、以後“抽出物群”とする)。ビヒクル群及び抽出物群にUVBを照射した後、0.2mLのビヒクルエマルション又は0.5重量%のビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を含むクリームをそれぞれマウスの背部に即座に塗布した。
【0054】
UVB照射最終日の翌日、マウスの皮膚の厚さを測定し、マウスの皮膚を観察及び撮影した。皮膚のしわの程度をビセット(Bissett)の評価方法(Kim et al.,Effects of ginseng saponins isolated from red ginseng on ultraviolet B−induced skin aging in hairless mice,Eur J Pharmacol.2009;602:148−156に記載され、これはその内容の全てが参照によって本出願に取り込まれる。)により4つのレベル(0,2,4,及び6)にスケール化した。結果を図7に示す。
【0055】
図7に示すように、UVB照射無しのコントロール群に比して、マウスに12週間UVBを照射した後では、マウスの背部の皮膚はより厚くなっており、しわが発生していた。抽出物群におけるマウスの皮膚の厚さ及びしわの形成のレベルは、UVB群のマウスよりも著しく低減され、ビヒクル群では明らかな改善は認められなかった。この実施例により、トルメント酸が皮膚の抗光老化の効果を有することが示唆された。
【0056】
(実験H 組織染色分析−表皮層、真皮層、及びコラーゲン)
皮膚のしわ分析の終了後、マウスにCO2を吸入することにより麻酔し、屠殺した。マウスの背部の皮膚を採取し、6片に分けた。背部の皮膚の1片を、凍結切片用に30重量%の糖溶液に浸した。他の1片を、パラフィン切片用に10重量%ホルマリン溶液に浸した。残りの4片を、それぞれラベルをつけたジッパーバッグに収集し、−80℃で保存した。
【0057】
10重量%ホルマリン溶液に1週間浸された皮膚片をパラフィン包埋及びスライスし、該スライスをその後2つの方法で染色した。一つめの方法は、一般的な染色であるヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)であり、もう一方の方法は、コラーゲン用の特殊な染色(すなわちシリウスレッド染色)であった。各マウスの各HE染色スライス像における10の画像ブロックをランダムに選択し、画像分析ソフトウェア(Image−Pro Plus 5.1,メディアサイバネティクス社(MD、アメリカ)から購入)で分析し、表皮層及び真皮層の厚さを評価した。その後、全体の皮膚の厚さに対する表皮層又は真皮層の厚さの割合を算出した。結果を図8に示す。一方、全体の皮膚に対するシリウスレッド染色スライスのコラーゲンの割合を分析し算出した。結果を図9に示す。
【0058】
図8に示されるように、HE染色の結果、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの表皮層の厚さは著しく増加し、真皮層の厚さは著しく低減していることが示された。しかしながら、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を塗布したマウスの表皮層の厚さは低減し、真皮層の厚さは増加していた。さらに、ビヒクル群のマウスの表皮層の厚さは低減し、真皮層の厚さは影響を受けていなかった。
【0059】
図9に示されるように、シリウスレッド染色の結果、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるコラーゲンは著しく減少し、一方、抽出群のマウスの皮膚におけるコラーゲンはUVB群のマウスのそれよりも著しく多いことが示された。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。
【0060】
実験Hの実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、皮膚の真皮層におけるコラーゲン含量を増加させる効果を有することが示唆された。
【0061】
(実験I 組織染色分析−マトリックスメタロプロテアーゼ−1)
実験Hで30重量%糖溶液に24時間浸した皮膚組織を凍結切片用に取り出した。該皮膚組織を組織凍結液中で凍結及び包埋し、−80℃で保存した。染色前に6μmの厚さの皮膚組織サンプルを凍結ミクロトーム(Leica CM3050S、ライカ社(ドイツ)から購入)で組織から切り取った。さらに、該サンプルをマイクロスライドに貼り付け、10分間室温下アイスアセトンで固定した。その後、MMP−1の免疫組織化学蛍光染色及びCOX−2(シクロオキシゲナーゼ−2)の免疫染色及び過酸化水素染色を行った。
【0062】
MMP−1の免疫組織化学蛍光染色は下記の工程で行った。最初に、凍結切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で3回洗浄し、30分間反応用の5重量%ミルクに浸し、PBSで3回洗浄した。その後、抗MMP−1抗体(サンタクルーズ社から購入)を該切片に加え、該切片をパラフィン中に広げ、4℃で一晩ウェットボックスに置き、その後PBSで3回洗浄した。さらに、蛍光二次抗体(Alexa Fluor(商標名)488ヤギ抗ウサギIgG抗体(H+L)、インビトロジェンから購入)を該切片に加え、その後該切片をパラフィン中に広げ、ウェットボックスに置き、45分間室温で遮光して保存した。その後、該切片をPBSで3回洗浄し、気泡を取り込まないようにウェットな状態でカバーガラスで被覆し、即座に蛍光顕微鏡で撮影した。最後に、皮膚の全体の領域に対するMMP−1の割合を画像分析ソフトウェアで分析した。結果を図10に示す。
【0063】
図10に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるMMP−1は著しく増加した。しかし、抽出物群におけるマウスのMMP−1の発現は、UVB群のそれより低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかったため、これにより皮膚の抗老化の効果は主にビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物に由来するものであることが示唆された。
【0064】
(実験J 組織染色分析−抗炎症作用)
COX−2免疫染色は、下記の工程を含む。第一に、実験Hでの凍結切片をPBSで3回洗浄し、0.3重量%過酸化水素/PBSに浸した。第二に、該切片を10分間室温に置いた後PBSで少し洗浄した。その後、該切片をブロッキングバッファーに浸し、室温で30分間置き、PBSで3回洗浄した。抗COX−2一次抗体(セルシグナリングから購入)を該切片に加え、該切片をパラフィン中に広げ、4℃で一晩ウェットボックスに置き、PBSで3回洗浄した。さらに、二次抗体を該切片に加え、室温で30分間反応させた。最後に、着色反応のために免疫検出キット(バイオジェネックス社(サンラモン、カナダ)から購入)及びジアミノベンジジン(DAB)を用い、該切片をヘマトキシリンで染色した。その後、該切片を脱水及びシールした。結果を図11に示す。
【0065】
図11に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるCOX−2の発現は著しく増加した。抽出物群におけるマウスのCOX−2の発現は、UVB群のそれよりも低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。これらの結果から、トルメント酸を含有するビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は抗炎症作用を介して抗老化の効果を達成し得ることが示唆された。
【0066】
(実験K 組織染色分析−抗酸化作用)
該切片の過酸化水素染色をダンネンベルグ(Dannenberg)らの方法(Dannenberg et al.,Histochemical demonstration of hydrogen peroxide production by leukocytes in fixed−frozen tissue sections of inflammatory lesions. J Leukoc Biol. 1994;5:436−43に記載される。これはその内容の全てが参照によって本出願に取り込まれる。)に従い行った。まず、実験Hにおける凍結切片を1mg/mLグルコース及び1mg/mLジアミノベンジジンを含有する0.1MのTris−HClバッファー(pH 7.5)に浸し、37℃で6時間インキュベーターに置いた。その後、該切片をPBSで3回洗浄し、ヘマトキシリンで染色した。PBSで少し洗浄した後、該切片を気泡を取り込まないようにウェットな状態でカバーガラスで被覆し、即座に顕微鏡で撮影した。皮膚の全体の領域に対する過酸化水素の割合を画像分析ソフトウェアで分析した。結果を図12に示す。
【0067】
図12に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚における過酸化水素は著しく増加した。抽出物群におけるマウスの過酸化水素の量は、UVB群のそれよりも低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。これらの結果から、トルメント酸を含有するビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は酸化ストレスのダメージの軽減を介して皮膚の抗老化の効果を達成し得ることが示唆された。
【0068】
前述の実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、皮膚を改善し、修復し、及び/又はケアする効果を有することが示される。
【0069】
前述の開示は、詳述された技術内容及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特徴から逸脱することなく、本明細書に記載された発明の開示及び示唆に基づき種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換は前述の説明には完全には開示されていないものの、それらは下記に添えられた特許請求の範囲に実質的に含まれる。
【0070】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願099129879(出願日2010年9月3日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性の抑制、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の抑制、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化の抑制、及び/又はコラーゲンの発現の促進におけるトルメント酸の使用に関し、特には皮膚の改善、修復及び/又はケアにおけるトルメント酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの自然な老化プロセスは、皮膚の弛緩、しわの形成、及び皮膚の暗色化を含み、それらは老化に伴い徐々に現れる。皮膚の層は上部から下部に向かって、表皮層、真皮層、及び皮下組織である。皮膚の老化の原因は、内因性のファクターと外因性のファクターとに分類され得る。内因性の老化は、ヒトの身体の自然な老化プロセスであり、それには細胞のアポトーシス、ホルモン減少、及び免疫力低下が含まれる。ホルモン分泌の低下は、皮膚の新陳代謝を遅らせ得、真皮層における繊維芽細胞の機能を低下させ得るため、コラーゲン及びエラスチンの生成を徐々に低減させ得る。結果として、真皮層における結合組織が退化し、皮膚の弛緩及び皮膚のしわさえ引き起こす。さらに、真皮層における結合組織の退化は、皮膚の保水機能を低下させ得、皮膚の乾燥及び水分不足等を引き起こす。
【0003】
外因性の老化は、太陽光、汚染、フリーラジカル、及び喫煙といった外在性のファクターにより引き起こされる。皮膚に最もダメージを与え皮膚の老化を加速する主要なファクターは、太陽からの紫外線(UV)である。波長に依存して、紫外線は、長波長UV(UVA)、中波長UV(UVB)、及び短波長UV(UVC)に分類され得る。日常生活において人々が最も照射を受けている紫外線は、UVA及びUVBであり、それらは紅斑、日焼け、皮膚の細胞におけるデオキシリボ核酸(DNA)へのダメージ、皮膚の免疫機構の異常、及び皮膚の癌を引き起こし得る。紫外線により引き起こされる老化現象は、“光老化”と呼ばれ、それはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路のリン酸化を介して真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加をもたらし得る。マトリックスメタロプロテアーゼは、皮膚においてコラーゲンを分解し得る。コラーゲンの支持無しでは、皮膚は弛緩し、表皮が過形成され得る。それにより、皮膚は暗色化し、しわが形成される。
【0004】
現在知られている動物のコラーゲンは、およそ21タイプに分類され得る。異なる種類のコラーゲンは、異なる組織に存在する。皮膚組織における全てのコラーゲン中、I型コラーゲンは、最も含有量が多く(皮膚のコラーゲンの80%)、最も多くの機能を有する。III型コラーゲンは、皮膚のコラーゲンの約20%を構成する。真皮層における繊維芽細胞は主に、皮膚のI型コラーゲン及びIII型コラーゲンを生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、マトリックスメタロプロテアーゼは、コラーゲンを分解し、皮膚におけるコラーゲン含有量を低下させ得る。したがって、MAPK経路又は細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現が抑制され得るとしたら、皮膚の質の改善/ケアの効果が得られ得る。
【0006】
本発明者らは、トルメント酸がマトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又はコラーゲンの発現を促進する優れた効果を有すること、並びにそれが皮膚の改善、修復及び/又はケアに用いられ得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の目的は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための方法、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための方法、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための方法、及び/又は哺乳動物のコラーゲンの発現を促進するための方法を提供することである。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた活性成分の有効量を哺乳動物に投与する方法を含む。
【化1】
【0008】
本発明の他の目的は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制するための医薬組成物、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物を提供することである。それは、前記活性成分の有効量を含有する。
【0009】
本発明のさらなる目的は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制するための医薬の製造における前記活性成分の使用、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬の製造における前記活性成分の使用を提供することである。
【0010】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物におけるトルメント酸のHPLCクロマトグラムである。
【図2】トルメント酸によるMMPのゼラチン分解活性の抑制率を示す染色像及びカラム図である。
【図3】トルメント酸によるMMPのコラゲナーゼ基質分解活性の抑制率を示すカラム図である。
【図4】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞におけるプロコラーゲン−1及びMMP−1のタンパク質電気泳動像である。
【図5】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞における非リン酸化及びリン酸化されたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(JNK,ERK,及びp38タンパク質)のタンパク質電気泳動像である。
【図6】WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞の核におけるAP−1のタンパク質電気泳動像である。
【図7】UVBを照射したマウスの皮膚の厚さ及びしわ形成の変化を示す写真及びカラム図である。
【図8】UVBを照射したマウスの表皮層及び真皮層の厚さの変化を示す染色像及びカラム図である。
【図9】UVBを照射したマウスの真皮層の全体領域に対するコラーゲンの割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【図10】UVBを照射したマウスの皮膚の全体領域に対するMMP−1の割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【図11】UVBを照射したマウスの皮膚におけるCOX−2の変化を示す染色像である。
【図12】UVBを照射したマウスの皮膚の全体領域に対する過酸化水素の割合の変化を示す染色像及びカラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特にことわらない限り、本文中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一”、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0013】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための医薬組成物、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物に関する。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた活性成分の有効量を含む。
【化2】
【0014】
本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制する効果、及びマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する効果を有し、コラーゲンの破壊を抑制又は減少させ得る。マトリックスメタロプロテアーゼは、コラゲナーゼ、ストロメライシン、ゼラチナーゼ、マトリリシン、膜貫通型MMP等に分類され得る。一般的なマトリックスメタロプロテアーゼは、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、マトリックスメタロプロテアーゼ−7(MMP−7)、マトリックスメタロプロテアーゼ−8(MMP−8)、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、マトリックスメタロプロテアーゼ−10(MMP−10)、マトリックスメタロプロテアーゼ−11(MMP−11)、マトリックスメタロプロテアーゼ−12(MMP−12)、マトリックスメタロプロテアーゼ−13(MMP−13)、マトリックスメタロプロテアーゼ−14(MMP−14)等を含む。具体的に、本発明の医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)の形成(又は発現)を効果的に抑制し得る。MMP−1はコラゲナーゼ−1とも呼ばれ、コラゲナーゼファミリーに属する。MMP−1の他の名称は、組織コラゲナーゼ又は繊維芽細胞型コラゲナーゼを含む。
【0015】
マトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現を抑制する効果に加えて、本発明の医薬組成物はまた、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制する効果を有し、具体的にはJun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、及びp38タンパク質のリン酸化を抑制する効果を有する。前述のように、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化は、真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼの量を増加させ得、さらにはコラーゲンの分解の機会を増加させ、その結果皮膚におけるコラーゲン含有量を低下させる。
【0016】
本発明の医薬組成物は、(1)直接的にマトリックスメタロプロテアーゼの活性及び/又は発現を抑制し、(2)マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制することにより間接的にマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する効果を有するため、皮膚におけるコラーゲンの分解を顕著に低減させ得、その結果コラーゲン含有量、具体的にはI型コラーゲンの含有量を増加させ、皮膚を効果的に改善し、修復し、及び/又はケアし得る。例えば、本発明の医薬組成物は、抗老化、抗光老化、皮膚のしわの低減、皮膚の質及び皮膚の弛緩性の改善、創傷治癒の促進等の効果を有し得る。
【0017】
化学式I(すなわちトルメント酸)の化合物は、下記の工程を含む方法により調製され得る。ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉の培養細胞を95容量%エタノールで抽出した。該抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。該濃縮物をその後50容量%メタノールに溶解しフィルターペーパーでろ過し、未溶解部分を収集した。その後、該未溶解部分を85容量%メタノールに溶解し、フィルターペーパーでろ過した。該ろ液を収集し減圧濃縮してビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を得た。それには十分な量の化学式(I)の化合物が含まれる。最終的に、高性能液体クトマトグラフィー(HPLC)装置で該抽出物を精製して化学式(I)の化合物を得た。
【0018】
本発明の医薬組成物は、特定の制限無くいかなる形態にも適用し得る。例えば、該医薬組成物は、スキンケア製品、化粧品等といった、外用のエマルション、クリーム、又はジェルの形態となり得る。該医薬組成物はまた、健康食品、美容飲料等といった嚥下用又は飲用の食品の形態で調製され得る。さらに、該医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、流エキス剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、チンキ剤、静脈内注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末−懸濁注射剤等といった、一般的な剤型となり得る。
【0019】
本発明の医薬組成物の用量は、適用対象の年齢及び適用目的(例えば、皮膚のしわを低減させる、又は創傷治癒を促進する)により調節され得、適用頻度もまた任意に調節され得る。該医薬組成物中のその他の成分及びその含有量は、該医薬組成物の最終的な形態に依存する。例えば、該医薬組成物がスキンケア製品として調製される場合は、適切かつ適当な量のエマルション、香料、及び皮膚の質を向上させる他の活性成分が該医薬組成物中に加えられ得る。一般的に、化学式(I)の化合物の効果に悪影響を及ぼさない限り、いかなる成分をも該医薬組成物中に加えられ得る。
【0020】
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又はコラーゲンの発現を促進するための医薬の製造における前記活性成分(すなわち、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物)の使用を提供する。該医薬は、皮膚の改善、修復及び/又はケアのために用いられ得、特には抗光老化のために用いられ得る。加えて、該医薬は特に、MMP−1の活性及び/若しくは発現を抑制し、並びに/又はI型コラーゲンの発現を促進するために用いられ得る。
【0021】
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制し、マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化を抑制し、及び/又は哺乳動物におけるコラーゲンの発現を促進するための方法を提供する。それは、化学式(I)の化合物、該化合物の薬学上許容し得る塩、該化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分を哺乳動物に投与する方法を含む。
【0022】
後述において、下記の実施例を参照して本発明についてさらに解説する。しかしながら、これらの実施例は説明のために提供されるにすぎず、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0023】
トルメント酸(化学式(I)の化合物)の調製
【0024】
(1.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)の無菌苗の確立)
台湾台中県トウベングンの果樹園の成熟ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)由来の種子を収集した。その後、該種子を30分間洗浄し、約1分間70%エタノールに浸した。さらに、該種子を0.01%Tween20の1%塩素酸ナトリウム溶液に浸し、超音波振動子に置いた。約15分間の表面消毒後、該種子を層流型ベンチに置いた。その後該種子を3〜4時間滅菌水で洗浄し、30g/Lスクロース含有のMS培地(Murashige−Skoog培地)で栽培した。2〜3週間後、該種子は発芽し始め、発芽後2カ月の該種子の葉を収集し、試験用マテリアルとした。
【0025】
(2.カルス組織の誘導)
種子の葉を約0.3cmにカットし、培養のための固形培地(MS基本配合中2.5ppm 6−ベンジルアデニン(BA)、1ppm α−ナフタレン酢酸(NAA)、3%(30g/L)スクロース、及び0.3%(3g/L)ゲルライトを含む)に移した。1カ月後、浅黄色のカルス組織が切創から発生していた。
【0026】
(3.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の培養)
60gの上述の浅黄色のカルス組織(新しいビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞に分化し得る)を取り590μmのふるいでふるい分けし、カルス組織細胞を特定のサイズに分離した。その後、ふるい分けされた該カルス組織細胞を培養のために4,000mLの培養液(MS基本配合中2.5ppm BA、1ppm NAA、3%(30g/L)スクロースを含む)を含有する生物反応器(BioFlo110 Bioreactor、ニューブランズウィックサイエンティフィック、アメリカ)に移した(培養条件:通気量は0.3v.v.m(1分当たり液体容積単位当たりの気体流量容積(the gas volume flow per unit of liquid volume per minute))であり;撹拌速度は40rpmであり:温度は24〜26℃であった)。該カルス組織を10日おきに新しい培養液を用いて継代培養するときには、元の細胞懸濁液(すなわち培養液)を500mL残し、新しい培養液を4,500mL追加した。元の培養液の残りの4,500mL(約320gの細胞を含む)を、25.5Lの培養液(MS基本配合中2.5ppm BA、1ppm NAA、及び3%(30g/L)スクロースを含む)が入っている生物反応器(30Lの容量のステンレス製のボトル)に移した。その後、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の1ppmのラフィネートを該培養液に加え、分化されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の培養を継続した。培養は18日後に終了した。
【0027】
(4.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞のラフィネートの調整)
培養されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞を個々のバッチ培養から取り出し、乾燥させた(乾燥前約5,400g;乾燥後約320g)。該細胞を95容量%エタノールで3回還流抽出した。得られた抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。その後、該濃縮物を50容量%メタノールに2回溶解し、フィルターペーパーでろ過して未溶解部分を収集した。さらに、該未溶解部分を85容量%メタノールに3回溶解し、フィルターペーパーでろ過した。未溶解部分を収集し、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞のラフィネートを得た。
【0028】
(5.ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の調製)
培養されたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞を個々のバッチ培養から取り出し、60℃で乾燥させた(乾燥前約5,400g;乾燥後約320g)。該細胞を95容量%エタノールで3回還流抽出した。得られた抽出物をフィルターペーパーでろ過し、ろ液を収集し減圧濃縮して濃縮物を得た。その後、該濃縮物を5Lの50容量%メタノールに2回溶解し、フィルターペーパーでろ過して未溶解部分を得た。さらに、該未溶解部分を10Lの85容量%メタノールに3回溶解し、フィルターペーパーでろ過した。ろ液を収集し減圧濃縮してビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の白色粉末約53gを得た。前述の工程で得られたビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は実質的に50容量%メタノールに可溶であり85容量%メタノールに不溶である成分を含んでいなかった。
【0029】
(6.トルメント酸の精製)
ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の白色粉末約1gをシリカゲル(LiChroprep RP−18、E.メルク、40〜63μm)に載せ、メタノールと水の比率が8:2から10:0の分配で分取高性能液体クトマトグラフィー(HPLC,ポンプ:島津LC−8A(京都、日本)(移動相:85容量%メタノール;流速:3mL/分;カラム:YMC,J’SphereシリーズODS−H80カラム(内径:10mm;長さ:250mm;粒径:5μm))により精製し、トルメント酸を得た。
【0030】
精製された化合物を、質量分析法(GCmate、JOEL社(東京、日本)から購入)及びNMR(1H,13C,DEPT,COSY,HMQC,HMBC,Jeol 500 MHz、東京、日本)により分析し、主要成分がトルメント酸(化学式(I)の化合物)であることが認められた。
【化3】
【0031】
トルメント酸(25.3mg)の1H−NMR(ピリジン−d5)の結果は、δ0.92(3H,s,H−24),δ1.00(3H,s,H−25),δ1.12(3H,s,H−26),δ1.12(3H,s,H−30),δ1.28(3H,s,H−23),δ1.43(3H,s,H−29),δ1.65(3H,s,H−27),1.74(1H,t,J=12.7Hz,H−1),1.90(1H,dd,J=12.0,3.8Hz,H−1),δ2.34(1H,td,J=13.2,4.1Hz,H−15),δ3.05(3H,s,H−18),δ3.14(1H,td,J=13.1,4.1Hz,H−16),δ3.77(3H,s,H−3),δ4.31(1H,dt,J=10,2.6Hz,H−2),δ5.59(1H,s,H−12).であり、13C−NMR(ピリジン−d5)の結果は、δ17.1(C−30),17.2(C−25),19.1(C−6),22.8(C−24),17.7(C−26),24.5(C−11),25.1(C−27),26.9(C−16),27.4(C−21),27.6(C−29),29.7(2C,C−15,C−23),34.0(C−7),39.0(C−22),39.1(C−10),39.3(C−4),41.1(C−8),42.6(C−1),42.8(C−20),43.3(C−14),48.1(C−9),48.7(C−17),49.2(C−5),55.1(C−18),66.6(C−2),73.2(C−19),79.8(C−3),128.5(C−12),140.4(C−13),181.2(C−28).であった。
【0032】
(7.トルメント酸含量の測定)
トルメント酸の含量をHPLCで測定した。HPLCの測定条件は下記の通りである:ポンプは島津LC−10ATvpであった;屈折率測定器は島津RID−10Aであった;HyPURITY C−18カラム(内径:4.6mm;長さ:250mm;粒径:5μm);溶媒系は容積比85:15のメタノール/0.15容量%酢酸含有水であった:流速は0.5mL/分であった;温度は35℃であった。図1で示されるように、トルメント酸の含量は、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物の乾燥重量に基づき約48重量%であった。
【実施例2】
【0033】
マトリックスメタロプロテアーゼ活性の抑制試験
【0034】
マトリックスメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ)は、コラーゲンの分解に加えて、ゼラチンを分解する作用を有する。この実施例では、分解されたゼラチン及び分解された市販のコラゲナーゼ基質(Calbiochem社(ラホヤ,カナダ)から購入)の蛍光発生の特性を用いて、トルメント酸のマトリックスメタロプロテアーゼ抑制作用を評価した。
【0035】
(実験A ゼラチンの分解試験)
エッペンドルフチューブに50μLの緩衝液(pH7.8、50mM Tris−HCl、10mM 塩化カルシウム、及び0.15M 塩化ナトリウムを含む)、30μLの滅菌水、及び10μLのバクテリアのマトリックスメタロプロテアーゼ(0.1mg/mL、シグマ)を加え、その後該エッペンドルフチューブに種々の濃度(25,50,100,又は200μg/mL)の(ジメチルスルホキシドに溶解された)トルメント酸溶液10μL、又はポジティブコントロールとしてのドキシサイクリンを加えた。それらを混合し、室温で60分間インキュベートした。
【0036】
その混合物(30μL)を取り出し、ゼラチン培地で覆われた円形フィルターペーパーに滴下した。その後、培地とともにフィルターペーパーを37℃のインキュベーターに置いた。18時間のインキュベーション後、該フィルターペーパーを取り除いた。該培地をクマシーブルーR−250染色溶液(アムレスコ社(アメリカ)から購入)で染色し、その後脱色溶液で脱色した。マトリックスメタロプロテアーゼで分解されたゼラチンはクマシーブルー染色溶液で染色されないため、該培地の透明度がマトリックスメタロプロテアーゼの活性を表し得る。該培地を撮影後、画像を画像分析ソフトウェア(AlphaDigiDoc 1201,アルファイノテック社(アメリカ)から購入)で分析し、トルメント酸のマトリックスメタロプロテアーゼのゼラチン分解活性における抑制率を測定した。その試験結果を表1及び図2に示す。
【表1】
【0037】
表1及び図2に示されるように、トルメント酸はマトリックスメタロプロテアーゼのゼラチン分解活性を顕著に抑制した。
【0038】
(実験B 蛍光性基質試験)
特定量のコラゲナーゼ基質IIIの溶液(Mcc−Pro−Leu−Gly−Pro−D−Lys (DNP)−OH、Calbiochem社(ラホヤ,カナダ)から購入)、マトリックスメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ、シグマ)溶液、トルメント酸又はポジティブコントロールとしてのドキシサイクリンを混合し、96wellプレートに加えた。その後、ELISAリーダーを用いて、ルミネセンス励起光(285nm)下及び放射光(405nm)下の各々での該混合物の吸収値を測定した。結果を表2及び図3に示す。ここでΔFは、時間ゼロでの基礎蛍光値を差し引いた蛍光値である。
【表2】
【0039】
表2及び図3は、トルメント酸が蛍光発生を抑え得ることを示し、トルメント酸がマトリックスメタロプロテアーゼのコラゲナーゼ基質III分解活性を抑制し得ることを示している。
【0040】
実験A及び実験Bの結果により、本発明の医薬組成物及び方法はマトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制し得ることが示唆された。
【実施例3】
【0041】
細胞試験
【0042】
(実験C 細胞生存率の試験)
以下の実験は、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞(フードインダストリーリサーチアンドデベロップメントインスティチュート(台湾)より購入)を用いて行われた。0mJ/cm2から120mJ/cm2の強度範囲での紫外線(UV)照射下では、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞は死に至らない。そこで、この試験は90mJ/cm2のUV強度で行われた。まず、種々の濃度(0,0.1,1.0,2.0,又は10μg/mL)のトルメント酸を、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞を含む培養液(最小必須培地α、10%の非働化牛胎児血清、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを含む)に加えた。該細胞を24時間培養後、MTSアッセイ(3−(4,5−ジ−メチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、プロメガ社(マディソン、ウィスコンシン、アメリカ)から購入)を行って、細胞生存率を測定した。結果を表3に示す。MTSアッセイのメカニズムは以下の通りである:生存細胞のデヒドロゲナーゼ活性は、MTSを赤紫色の水溶性産生物に還元させることができる。それは490nmの波長で極大吸収を示し、それゆえ、細胞生存率は吸収値により測定され得る。
【表3】
【0043】
表3に示されるように、細胞に90mJ/cm2のUVを照射した場合、トルメント酸は10μg/mLの濃度で細胞の死を起こさせた。しかし、2μg/mLよりも低い濃度では細胞の死を起こさなかった。この実験により、トルメント酸は低濃度では細胞毒性を有しないことが示された。
【0044】
(実験D プロコラーゲン−1及びマトリックスメタロプロテアーゼ−1の分析)
実験CでのWS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞のタンパク質を収集し、ウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、繊維芽細胞におけるタンパク質発現レベルを調べた。結果を図4に示す。該細胞に24時間UV照射した後、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞のプロコラーゲン−1の発現は低減され、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現は亢進していた。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現は抑制され、プロコラーゲン−1の発現は亢進された。
【0045】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現を抑制し、プロコラーゲン−1の発現を亢進する効果を有することが示唆された。
【0046】
(実験E マイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化の分析)
紫外線により引き起こされる皮膚の“光老化”は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を介して真皮層におけるマトリックスメタロプロテアーゼの増加を起こし得る。そこで、この実施例でもウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化に対するトルメント酸の作用を調べた。結果を図5に示す。
【0047】
図5に示されるように、WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞に24時間UV光を照射した後では、3種類のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(Jun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、及びp38タンパク質)のリン酸化されたタンパク質の発現は亢進された。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、JNK、ERK、及びp38タンパク質のリン酸化は抑制され得た。
【0048】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の抑制を介してマトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現を抑制し、その結果コラーゲンの発現を促進する効果を有することが示唆された。
【0049】
(実験F アクチベータータンパク質1遺伝子転写因子の発現分析)
細胞へのUV照射により、JNK及びp38が誘導され、c−Junが活性化される。それはその後核内に入る。その後、c−FosがERK及びp38の調節下で核内に移行する。c−Junサブユニットはc−Fosサブユニットと結合し、アクチベータータンパク質1(AP−1)遺伝子転写因子を形成する。それはその後、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)のメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を促進させるように遺伝子発現に関与し、プロコラーゲン−1α1(I型コラーゲンのプロコラーゲンα1)の遺伝子発現を低減させる。そこで、この実施例では、ウェスタンブロッティンッグアッセイを行い、さらに核におけるAP−1のタンパク質発現を調べた。結果を図6に示す。WS1ヒト皮膚真皮繊維芽細胞に24時間UV光を照射した後では、核におけるc−Jun及びc−Fosの発現レベルは亢進された。しかしながら、該細胞を収集前1時間トルメント酸で処理すると、c−Jun及びc−Fosの発現レベルは抑制された。
【0050】
この実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、UV照射により誘導されたマイトジェン活性化プロテインキナーゼのリン酸化の抑制を介してAP−1の核内移行を抑制し、その結果MMP−1及びプロコラーゲン−1α1遺伝子の転写を抑制する作用を有することが示唆された。
【実施例4】
【0051】
動物実験
【0052】
(実験G 皮膚のしわの分析)
下記の実施例は、7週齢のSKH−1無毛雄マウス(チャールズリバーラボ社(アメリカ)から購入)を用いて行われた。マウスは、コントロール群(6マウス)及びUVB(中波長UV)の群(24マウス)の2群に分けられた。UVBの群のマウスには、1週間に3回(すなわち、月曜日、水曜日、及び金曜日)UVBを照射した。第1週目のUVB照射の強度は90mJ/cm2であり、第2週から第12週では120mJ/cm2であった。
【0053】
UVBの群をさらに8マウスずつの3群に分類した。3群は各々、1)UVBを照射するのみ(以後“UVB群”とする)、2)UVBを照射し、クリームのビヒクルを適用する(以後“ビヒクル群”とする。該ビヒクルは、0.5重量%のプエラリア(Pueraria mirifica)抽出物、5重量%のスクアラン、2重量%のアスコルビルリン酸ナトリウム、5重量%の1,3−ブチレングリコール、2重量%のジプロピレングリコール、3重量%のポリエチレングリコール400、0.5重量%のキサンタンガム、5重量%のグリセロール、及び77重量%の純水を含む。)、及び3)UVBを照射し、0.5重量%のビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を含有するクリームを適用する(トルメント酸を含み、以後“抽出物群”とする)。ビヒクル群及び抽出物群にUVBを照射した後、0.2mLのビヒクルエマルション又は0.5重量%のビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を含むクリームをそれぞれマウスの背部に即座に塗布した。
【0054】
UVB照射最終日の翌日、マウスの皮膚の厚さを測定し、マウスの皮膚を観察及び撮影した。皮膚のしわの程度をビセット(Bissett)の評価方法(Kim et al.,Effects of ginseng saponins isolated from red ginseng on ultraviolet B−induced skin aging in hairless mice,Eur J Pharmacol.2009;602:148−156に記載され、これはその内容の全てが参照によって本出願に取り込まれる。)により4つのレベル(0,2,4,及び6)にスケール化した。結果を図7に示す。
【0055】
図7に示すように、UVB照射無しのコントロール群に比して、マウスに12週間UVBを照射した後では、マウスの背部の皮膚はより厚くなっており、しわが発生していた。抽出物群におけるマウスの皮膚の厚さ及びしわの形成のレベルは、UVB群のマウスよりも著しく低減され、ビヒクル群では明らかな改善は認められなかった。この実施例により、トルメント酸が皮膚の抗光老化の効果を有することが示唆された。
【0056】
(実験H 組織染色分析−表皮層、真皮層、及びコラーゲン)
皮膚のしわ分析の終了後、マウスにCO2を吸入することにより麻酔し、屠殺した。マウスの背部の皮膚を採取し、6片に分けた。背部の皮膚の1片を、凍結切片用に30重量%の糖溶液に浸した。他の1片を、パラフィン切片用に10重量%ホルマリン溶液に浸した。残りの4片を、それぞれラベルをつけたジッパーバッグに収集し、−80℃で保存した。
【0057】
10重量%ホルマリン溶液に1週間浸された皮膚片をパラフィン包埋及びスライスし、該スライスをその後2つの方法で染色した。一つめの方法は、一般的な染色であるヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)であり、もう一方の方法は、コラーゲン用の特殊な染色(すなわちシリウスレッド染色)であった。各マウスの各HE染色スライス像における10の画像ブロックをランダムに選択し、画像分析ソフトウェア(Image−Pro Plus 5.1,メディアサイバネティクス社(MD、アメリカ)から購入)で分析し、表皮層及び真皮層の厚さを評価した。その後、全体の皮膚の厚さに対する表皮層又は真皮層の厚さの割合を算出した。結果を図8に示す。一方、全体の皮膚に対するシリウスレッド染色スライスのコラーゲンの割合を分析し算出した。結果を図9に示す。
【0058】
図8に示されるように、HE染色の結果、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの表皮層の厚さは著しく増加し、真皮層の厚さは著しく低減していることが示された。しかしながら、ビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物を塗布したマウスの表皮層の厚さは低減し、真皮層の厚さは増加していた。さらに、ビヒクル群のマウスの表皮層の厚さは低減し、真皮層の厚さは影響を受けていなかった。
【0059】
図9に示されるように、シリウスレッド染色の結果、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるコラーゲンは著しく減少し、一方、抽出群のマウスの皮膚におけるコラーゲンはUVB群のマウスのそれよりも著しく多いことが示された。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。
【0060】
実験Hの実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、皮膚の真皮層におけるコラーゲン含量を増加させる効果を有することが示唆された。
【0061】
(実験I 組織染色分析−マトリックスメタロプロテアーゼ−1)
実験Hで30重量%糖溶液に24時間浸した皮膚組織を凍結切片用に取り出した。該皮膚組織を組織凍結液中で凍結及び包埋し、−80℃で保存した。染色前に6μmの厚さの皮膚組織サンプルを凍結ミクロトーム(Leica CM3050S、ライカ社(ドイツ)から購入)で組織から切り取った。さらに、該サンプルをマイクロスライドに貼り付け、10分間室温下アイスアセトンで固定した。その後、MMP−1の免疫組織化学蛍光染色及びCOX−2(シクロオキシゲナーゼ−2)の免疫染色及び過酸化水素染色を行った。
【0062】
MMP−1の免疫組織化学蛍光染色は下記の工程で行った。最初に、凍結切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で3回洗浄し、30分間反応用の5重量%ミルクに浸し、PBSで3回洗浄した。その後、抗MMP−1抗体(サンタクルーズ社から購入)を該切片に加え、該切片をパラフィン中に広げ、4℃で一晩ウェットボックスに置き、その後PBSで3回洗浄した。さらに、蛍光二次抗体(Alexa Fluor(商標名)488ヤギ抗ウサギIgG抗体(H+L)、インビトロジェンから購入)を該切片に加え、その後該切片をパラフィン中に広げ、ウェットボックスに置き、45分間室温で遮光して保存した。その後、該切片をPBSで3回洗浄し、気泡を取り込まないようにウェットな状態でカバーガラスで被覆し、即座に蛍光顕微鏡で撮影した。最後に、皮膚の全体の領域に対するMMP−1の割合を画像分析ソフトウェアで分析した。結果を図10に示す。
【0063】
図10に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるMMP−1は著しく増加した。しかし、抽出物群におけるマウスのMMP−1の発現は、UVB群のそれより低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかったため、これにより皮膚の抗老化の効果は主にビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物に由来するものであることが示唆された。
【0064】
(実験J 組織染色分析−抗炎症作用)
COX−2免疫染色は、下記の工程を含む。第一に、実験Hでの凍結切片をPBSで3回洗浄し、0.3重量%過酸化水素/PBSに浸した。第二に、該切片を10分間室温に置いた後PBSで少し洗浄した。その後、該切片をブロッキングバッファーに浸し、室温で30分間置き、PBSで3回洗浄した。抗COX−2一次抗体(セルシグナリングから購入)を該切片に加え、該切片をパラフィン中に広げ、4℃で一晩ウェットボックスに置き、PBSで3回洗浄した。さらに、二次抗体を該切片に加え、室温で30分間反応させた。最後に、着色反応のために免疫検出キット(バイオジェネックス社(サンラモン、カナダ)から購入)及びジアミノベンジジン(DAB)を用い、該切片をヘマトキシリンで染色した。その後、該切片を脱水及びシールした。結果を図11に示す。
【0065】
図11に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚におけるCOX−2の発現は著しく増加した。抽出物群におけるマウスのCOX−2の発現は、UVB群のそれよりも低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。これらの結果から、トルメント酸を含有するビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は抗炎症作用を介して抗老化の効果を達成し得ることが示唆された。
【0066】
(実験K 組織染色分析−抗酸化作用)
該切片の過酸化水素染色をダンネンベルグ(Dannenberg)らの方法(Dannenberg et al.,Histochemical demonstration of hydrogen peroxide production by leukocytes in fixed−frozen tissue sections of inflammatory lesions. J Leukoc Biol. 1994;5:436−43に記載される。これはその内容の全てが参照によって本出願に取り込まれる。)に従い行った。まず、実験Hにおける凍結切片を1mg/mLグルコース及び1mg/mLジアミノベンジジンを含有する0.1MのTris−HClバッファー(pH 7.5)に浸し、37℃で6時間インキュベーターに置いた。その後、該切片をPBSで3回洗浄し、ヘマトキシリンで染色した。PBSで少し洗浄した後、該切片を気泡を取り込まないようにウェットな状態でカバーガラスで被覆し、即座に顕微鏡で撮影した。皮膚の全体の領域に対する過酸化水素の割合を画像分析ソフトウェアで分析した。結果を図12に示す。
【0067】
図12に示されるように、UVB照射無しのコントロール群に比して、12週間UVBを照射したマウスの背部の皮膚における過酸化水素は著しく増加した。抽出物群におけるマウスの過酸化水素の量は、UVB群のそれよりも低かった。ビヒクル群においては明確な改善はみられなかった。これらの結果から、トルメント酸を含有するビワ(Eriobotrya japonica Lindl.)葉細胞の抽出物は酸化ストレスのダメージの軽減を介して皮膚の抗老化の効果を達成し得ることが示唆された。
【0068】
前述の実施例により、本発明の医薬組成物及び方法は、皮膚を改善し、修復し、及び/又はケアする効果を有することが示される。
【0069】
前述の開示は、詳述された技術内容及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特徴から逸脱することなく、本明細書に記載された発明の開示及び示唆に基づき種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換は前述の説明には完全には開示されていないものの、それらは下記に添えられた特許請求の範囲に実質的に含まれる。
【0070】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願099129879(出願日2010年9月3日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための医薬組成物、及びコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物からなる群より少なくとも1つ選ばれた医薬組成物であって、
化学式(I)の化合物、前記化合物の薬学上許容し得る塩、前記化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分を含有する医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が化学式(I)の化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記マトリックスメタロプロテアーゼがマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)を含む、
ことを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制する、及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)がJun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、p38タンパク質、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、
ことを特徴とする、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記コラーゲンがI型コラーゲンである、
ことを特徴とする、コラーゲンの発現を促進する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
皮膚を改善し、修復し、及び/又はケアする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
皮膚の光老化を抑制する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
中波長紫外線(UVB)により生じた皮膚の光老化を抑制する請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項1】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を抑制するための医薬組成物、マトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制するための医薬組成物、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制するための医薬組成物、及びコラーゲンの発現を促進するための医薬組成物からなる群より少なくとも1つ選ばれた医薬組成物であって、
化学式(I)の化合物、前記化合物の薬学上許容し得る塩、前記化合物の薬学上許容し得るエステル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれた有効量の活性成分を含有する医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が化学式(I)の化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記マトリックスメタロプロテアーゼがマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)を含む、
ことを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制する、及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼの発現を抑制する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)がJun−N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、p38タンパク質、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、
ことを特徴とする、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を抑制する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記コラーゲンがI型コラーゲンである、
ことを特徴とする、コラーゲンの発現を促進する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
皮膚を改善し、修復し、及び/又はケアする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
皮膚の光老化を抑制する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
中波長紫外線(UVB)により生じた皮膚の光老化を抑制する請求項7に記載の医薬組成物。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図4】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−56937(P2012−56937A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119563(P2011−119563)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
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