説明

マリンホース

【課題】バッテリーの交換作業を要することなく、海中においても電子機器を使用することができるマリンホースを提供する。
【解決手段】ホース本体41の内部に、ホース本体41の撓みや捩れによって発電可能な圧電素子423を設けたので、波、海流、潮汐などの海象によって発電した電力をトランスポンダ10等の電子機器に供給することができ、バッテリーの交換作業を必要とすることなく、太陽光の届かない環境においても電子機器を設置することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば海底に配置されたパイプラインエンドマニフォールドと海上に停泊しているタンカーとの間で行われる原油の輸送に用いられるマリンホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマリンホースとしては、可撓性を有するホース本体と、ホース本体の両端部に設けられ、ホース本体の端部を他のホース本体の端部と連結するための連結部材とを備え、複数のマリンホースを連結部材を介して連結した状態で、原油を輸送するようにしたものが知られている。
【0003】
前記マリンホースでは、ホース本体または連結部材からの原油の漏洩を検知するための漏洩検知装置や灯標など電子機器を備えたものが有り、これらの電子機器は、ホース本体または連結部材に設けられたバッテリーや太陽電池を電源として動作するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−51250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記電子機器を備えたマリンホースにおいて、海中に設置されるマリンホースには太陽光が届かないため、太陽電池を電源として利用することはできない。また、海中に設置されるマリンホースに対してバッテリーを電源として利用することはできるが、バッテリーの寿命に応じたバッテリーの交換作業が必要となるため、維持管理のコストが高くなる。
【0006】
本発明の目的とするところは、バッテリーの交換作業を必要とすることなく、太陽光の届かない環境においても電子機器を設置可能なマリンホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、可撓性を有するホース本体を備えたマリンホースにおいて、前記ホース本体の内部に、ホース本体が撓むことにより発電可能な圧電素子を設けている。
【0008】
これにより、波、海流、潮汐などの海象の影響でホース本体が撓むことによって発電され、発電された電力が電子機器に供給される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、海象によるホース本体の撓みを利用して発電した電力を電子機器に供給することができるので、バッテリーの交換作業を必要とすることなく、太陽光の届かない環境においても電子機器を設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示すホースライン形状検出システムの概略構成図
【図2】マリンホースの側面図
【図3】マリンホースの要部側面断面図
【図4】マリンホースの要部側面断面図
【図5】制御系を示すブロック図
【図6】表示装置の表示画面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を図1乃至図6を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、海中に配置されたホースラインHLの形状を確認するためのホースライン形状検出システムを示すものである。このホースライン形状検出システムは、互いにホースラインHLの長手方向に間隔をおいて設けられ、それぞれ所定の音波を受信すると所定の周波数の音波を発信する複数のトランスポンダ10と、各トランスポンダ10から発信される音波を受信することにより各トランスポンダ10までの距離及び各トランスポンダ10の配置されている方向を検出可能な検出装置20と、検出装置20による検出結果からホースラインHLの形状を演算する制御ユニット30とを備えている。
【0013】
ホースラインHLは、本発明のマリンホース40を複数連結することにより設けられ、水深数十mの海底に設けられたPLEM101(Pipe Line End Manifold,パイプラインエンドマニフォールド)と海面に浮かぶブイ200とを接続している。
【0014】
各マリンホース40は、図2に示すように、可撓性を有するホース本体41と、ホース本体41の両端部に設けられ、ホース本体41の端部を他のホース本体41の端部と連結するための連結部材42とから構成されている。各マリンホース40は海中に沈むように構成されたサブマリン型マリンホースである。
【0015】
ホース本体41は、図3に示すように、径方向内側から順に、第1インナーチューブ層411、第1耐圧コード層412、ボディーワイヤ層413、第2耐圧コード層414、コードカバー層415、緩衝材層416、第2インナーチューブ層417、第3耐圧コード層418、カバーゴム層419を有している。第1インナーチューブ層411及び第2インナーチューブ層417は、NBR等の耐油性を有するゴム材料からなり、第1インナーチューブ層411は直径約500ミリメートル(20インチ)の原油の流路を形成している。第1耐圧コード層412、第2耐圧コード層414及び第3耐圧コード層418は、ポリエステル、ナイロンまたは金属等からなるコード入りの耐油性を有するゴムシートである。ボディーワイヤ層413は、ホース本体41の軸方向の全体に亘って螺旋状に巻き付けられた硬鋼線材製のボディーワイヤ413aと、ボディーワイヤ413aの隙間に充填されたNR等のゴム材料413bとからなる。コードカバー層415及びカバーゴム層419は、SBR、NR等のゴム材料からなる。緩衝材層416は、連続気泡の発泡ウレタン等、スポンジ状の部材からなる。
【0016】
連結部材42は、図4に示すように、一端にフランジ421が設けられた金属製の円筒状の部材からなる。連結部材42の他端側の外周面には、周方向に亘って延びるリング状のリブ422が複数設けられ、各リブ422にホース本体41の第1耐圧コード層412、第3耐圧コード層418の端部に設けられたビードワイヤ412a,418a、または、ボディーワイヤ層413のボディーワイヤ413aが係合することにより、ホース本体41と連結部材42が結合される。また、ビードワイヤ418aが係合するリブ422には、連結部材42の一端側と他端側を連通する孔422aが設けられ、孔422aに後述する圧電素子423と蓄電器424を接続する電線425が通される。また、フランジ421には、連結部材42と他のマリンホース40の連結部材42とをボルト固定するための複数のボルト孔421aが設けられている。
【0017】
また、各マリンホース40は、図3及び図4に示すように、各トランスポンダ10に対して電力を供給するために、ホース本体10が撓む力によって発電可能な複数の圧電素子423と、圧電素子423で発電された電力を蓄えるための蓄電器424とを備えている。
【0018】
各圧電素子423は、作用する圧力を圧電効果によって電圧に変換可能なチタン酸ジルコン酸鉛等の素子であり、ボディーワイヤ層413のボディーワイヤ413aとボディーワイヤ413aとの間のゴム材料413b中に設けられている。各圧電素子423は、ホース本体41内の連結部材42の他端からフランジ421側へ100mmの位置と、連結部材42の他端からホース本体41の軸方向の中央部側へ100mmの位置との間の範囲に設けられている。
【0019】
蓄電器424は、ニッケル水素電池や電気二重層キャパシタ等からなり、電線425を介して各圧電素子423が接続されている。蓄電器424は、ビードワイヤ418aが係合するリブ422のフランジ421側に設けられたケース426内に収納されている。また、蓄電器424は、電線427を介してトランスポンダ10に接続され、トランスポンダ10に電力を供給するようになっている。
【0020】
PLEM101は、海底に敷設されたパイプライン100の一部に設けられ、マリンホース40の連結部材42が接続されている。
【0021】
ブイ200は、例えばリング状の外周部201と円筒状の内周部202とを有し、外周部201と内周部202とが同軸上に配置されている。また、外周部201と内周部202とは例えば外周部201の軸心C周りに回転可能に構成され、各ホースラインHLの上端のマリンホース40の連結部材42が内周部202の下面のホース接続部202aに接続されている。また、外周部201は複数の係留チェーン203によって海底に係留されている。
【0022】
本実施形態では、図1に示すように、PLEM101とブイ200との間を2本のホースラインHLによって接続している。各ホースラインHLの各マリンホース40のホース本体41には、それぞれ単一または複数の周知のフロート43が取付けられており、各フロート43によって各ホースラインHLが海中においてチャイニーズランタンと呼ばれる形状をなすように配置されている。
【0023】
各トランスポンダ10は直径が数cmで長さが数十cmの円筒状に形成されている。トランスポンダ10としては例えば海洋電子株式会社製の型式ALS−20TORのトランスポンダを使用することができる。また、トランスポンダ10は各ホースラインHLに3つずつ設けられ、各トランスポンダ10は例えば5.5kHzの音波を受信するとそれぞれ所定の周波数の音波を発信するように構成されている。例えば図1における右側のホースラインHLの一番上のトランスポンダ10は6kHzの音波を発信するように設定され、その下のトランスポンダ10は6.5kHzの音波を発信するように設定され、他の各トランスポンダ10もそれぞれ互いに異なる所定の周波数の音波を発信するように構成されている。
【0024】
各トランスポンダ10はホースラインHLを構成する各マリンホース40にそれぞれ取付けられている。例えば、図2に示すように、各マリンホース40のホース本体41の外周面に取付けられたカラー44にマリンホース40の軸方向に延びる孔44aを設け、その孔44aにトランスポンダ10を挿入することにより、各マリンホース40にそれぞれトランスポンダ10を着脱自在に取付けることが可能である。尚、カラー44はマリンホース40にフロート43を取付けるために用いられる周知のリング状部材であり、ゴム材料から形成されている。また、カラー44を加硫成形する際に円柱状の中子を加硫用金型内に配置することにより、カラー44にトランスポンダ10を挿入するための孔44aを成形することが可能である。
【0025】
各トランスポンダ10の他にPLEM101の上面にもトランスポンダ11が固定されている。トランスポンダ11は例えば各トランスポンダ10と同等の構成を有し、5.5kHzの音波を受信すると前記各トランスポンダ10と異なる所定の周波数の音波を発信するように構成されている。
【0026】
検出装置20は5.5kHzの音波を海中に向かって所定時間(例えば1分)おきに発信可能に構成され、各トランスポンダ10は検出装置20からの5.5kHzの音波を受信すると前記所定の周波数の音波を発信するようになっている。検出装置20として例えば海洋電子株式会社製の型式ALS−20TORのトランスデューサを使用することができる。検出装置20は複数の音波受信部21を備え、検出装置20が5.5kHzの音波を海中に向かって発信してから各トランスポンダ10から音波を各音波受信部21が受信するまでの時間に基づいて検出装置20と各トランスポンダ10との距離が検出され、各音波受信部21が受信する各トランスポンダ10からの音波の位相差に基づいて検出装置20に対する各トランスポンダ10の配置されている方向が検出されるようになっている。尚、検出装置20による各トランスポンダ10までの距離の検出及び各トランスポンダ10の配置されている方向の検出は周知のSSBL(Super Short Base Line)音響測位法を用いて行われるようになっている。
【0027】
検出装置20はブイ200の内周部202の下面に金属製のシャフト20aを介して固定され、検出装置20の内周部202に対する相対的な移動が大きくても10cm以下となるように構成されている。また、検出装置20は内周部202の下面から所定距離(例えば2m)だけ離れた位置に配置されている。
【0028】
制御ユニット30は周知のコンピュータから成り、記憶装置31及び表示装置32を備えている。
【0029】
制御ユニット30は、検出装置20に接続され、検出装置20によって検出された各トランスポンダ10,11との距離及び各トランスポンダ10,11が配置されている方向から各トランスポンダ10,11のX方向(水平方向)、Y方向(X方向と直交する水平方向)及びZ方向(上下方向)の位置座標を演算する。また、各トランスポンダ10,11の位置座標を記憶装置31に記憶しながら表示装置32に表示するようになっている。
【0030】
表示装置32は、図6に示すように、各トランスポンダ10の位置P1及びトランスポンダ11の位置P2を表示するとともに、PLEM101やブイ200の位置を表示し、各ホースラインHLの推定形状IHLを表示するようになっている。図6は各トランスポンダ10,11の位置及び各ホースラインHLの推定形状IHLを2次元的に表示するようになっているが、各トランスポンダ10,11の位置及び各ホースラインHLの推定形状IHLを3次元的に表示することも可能である。
【0031】
このように構成されたホースライン形状検出システムでは、前記所定時間(例えば1分)おきに検出装置20から5.5kHzの音波が海中に向かって発信され、その音波に応答して各トランスポンダ10,11からそれぞれ所定の周波数の音波が発信され、検出装置20によって各トランスポンダ10,11との距離及び検出装置20に対する各トランスポンダ10,11の配置されている方向が検出される。また、検出装置20の検出結果に基づいて各トランスポンダ10,11の位置座標が前記所定時間おきに制御ユニット30によって演算されるとともに、前記所定時間おきに記憶装置31に記憶され、各トランスポンダ10,11の表示装置32上における位置P1,P2が前記所定時間おきに更新される。
【0032】
また、ブイ200やマリンホース40は、波、海流、潮汐などの海象によって海面を移動するため、それに伴ってマリンホース40のホース本体41には撓みや捩れが生じる。マリンホース40に撓みや捩れが生じることによって、ホース本体41のボディーワイヤ層413に設けられた圧電素子423には圧力が作用することから、圧電素子423は圧電効果によって電気エネルギーを発生させる。発生した電気エネルギーは蓄電器424に蓄えられ、蓄電器424に蓄えられた電気エネルギーはトランスポンダ10に供給される。
【0033】
このように、本実施形態によれば、ホース本体41の内部に、ホース本体41の撓みや捩れによって発電可能な圧電素子423を設けたので、波、海流、潮汐などの海象によって発電した電力をトランスポンダ10等の電子機器に供給することができ、バッテリーの交換作業を必要とすることなく、太陽光の届かない環境においても電子機器を設置することが可能となる。
【0034】
また、ホース本体41に、圧電素子423において発電した電力を蓄えるための蓄電器424を設けたので、蓄電器424に蓄えられた電力を電子機器に利用することができ、電力の安定供給が可能となる。
【0035】
尚、前記実施形態では、各圧電素子423を、ホース本体41内の連結部材42の他端からフランジ421側へ100mmの位置と、連結部材42の他端からホース本体41の軸方向の中央部側へ100mmの位置との間の範囲に設けたものを示したが、マリンホース40の使用状態において、ホース本体41の撓みが大きくなる箇所に配置することが望ましく、例えば、ホース本体41の一部分のみに浮力材を設ける場合に、浮力材部分とそれ以外の部分の境目付近に設けるようにしても圧電素子423によって効率的な発電が可能である。また、ホース本体41の軸方向の全体に亘って圧電素子423を設けるようにしても確実に発電が可能である。
【0036】
また、前記実施形態では、各圧電素子423を、ホース本体41のボディーワイヤ層413に設けたものを示したが、ホース本体41の変形量が大きい箇所であればよく、ボディーワイヤ413aなど剛体の近傍は変形量が大きくなるため、ボディーワイヤ413aの内周側や外周側に圧電素子423を設けるようにしてもよい。
【0037】
また、前記実施形態では、PLEM101とブイ200とを接続するためのサブマリン型のマリンホース40に圧電素子423を設けたものを示したが、ブイ200とタンカーとを接続するためのフローティング型のマリンホースに圧電素子423を設けても、前記実施形態と同様に、バッテリーの交換作業を必要とすることなく、電子機器を設置することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10…トランスポンダ、40…マリンホース、41…ホース本体、423…圧電素子、424…蓄電器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するホース本体を備えたマリンホースにおいて、
前記ホース本体の内部に、ホース本体が撓むことにより発電可能な圧電素子を設けた
ことを特徴とするマリンホース。
【請求項2】
前記ホース本体に、圧電素子において発電した電力を蓄える蓄電器を設けた
ことを特徴とする請求項1記載のマリンホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75080(P2011−75080A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229687(P2009−229687)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】