説明

マルチカーエレベータ装置

【課題】調速機ロープの直径を小径化しつつ、必要なロープ強度を有する調速機ロープを構成して、調速機シーブの直径を小さく抑えことが可能となり、調速機の設置の省スペース化を図ることが可能なマルチカーエレベータ装置を提供する。
【解決手段】一つの昇降路に上下に渡って設けられ、それぞれ個々に上下に移動するように駆動される複数の乗りかごと、前記各乗りかごに対応して設けられ、それぞれ調速機シーブおよびこのシーブに掛け渡されて前記乗りかごと一体的に走行する調速機ロープ13を有する調速機とを備えるマルチカーエレベータ装置において、前記調速機ロープ13が、芯線40と、この芯線40の外周に撚り合わされた複数本のストランド41とからなるワイヤロープであり、前記ストランド41が複数本の素線41aで構成され、その素線が0.014mm以上で0.26mm以下の断面積をもつ鋼線となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの昇降路に上下に渡って複数の乗りかごが配置されているマルチカーエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送手段としてのエレベータを備えるビルディングにおいては、そのエレベータが設置される昇降路の平面面積に対する輸送効率を向上させることが普遍的な課題となっている。そのため、大容量化による輸送効率の向上を狙ったダブルデッキエレベータが提供され、増加を続ける超高層ビルにおいて建物の利用効率を上げる手段として採用が増えている。
【0003】
しかし、ダブルデッキエレベー装置は、二台の乗りかごが一体的に組み合わされており、したがって二台の乗りかごのうち、一台だけが着床すればよいような場合でも、他の乗りかごも同時に着床する必要があり、二台の乗りかごを備えている割には輸送力があまり向上しないという問題がある。
【0004】
そこで近年、さらに輸送力の向上を目指して、従来の一台分の昇降路スペースに複数の乗りかごが昇降するいわゆるマルチカーエレベータの研究、試作が行われるようになってきている。
【0005】
図6に過去に提案されたマルチカーエレベータの構造例を示す。図6において、1a、1b、1cは乗りかご、2a、2b、2cはメインロープ(主索)、3a、3b、3cは巻上機、4a、4b、4cは巻上機シーブ5a、5b、5cはそらせシーブ、6a、6b、6cは釣合い重り、7は昇降路である。符号に付したa,b,cは、それぞれ高層階用、中層階用、低層階用を表している。
【0006】
このように構成することで、一つの昇降路に複数のロープドライブ系が互いに非接触の状態で昇降可能となり、前述のダブルデッキエレベータでの問題が改善される。
【0007】
ところでエレベータに一般的に備えられる安全装置の一つである調速機は、多数の実績に基づく信頼性から遠心力を利用した機械的な構造によるものが多く採用されている。例えば図7に示すような調速機10が知られている。
【0008】
図7において、11は調速機本体、12は調速機シーブ、13は調速機シーブ12に巻き掛けられて昇降路14内に環状に引き回された調速機ロープ、15は調速機ロープ13に張力を付加するテンショナ装置である。テンショナ装置15は、調速機ロープ13が巻き掛けられたテンショナシーブ16と、このテンショナシーブ16に連結された重り17とからなる。
【0009】
調速機ロープ13は、乗りかご20に設けられた非常止め装置21に連結され、テンショナ装置15により張力を負荷された状態で乗りかご20と一体に走行移動して調速機シーブ12を回転させる。
【0010】
調速機シーブ12には、一対のフライウエイト24がそれぞれA点を中心に回動可能に設けられている。調速機シーブ12の停止時には、フライウエイト24は弾性体25を介して所定の回動位置に保持される。
【0011】
フライウエイト24は、調速機シーブ12の回転時に、その回転による遠心力で回動し、その遠心力と弾性体25の弾性力とがつり合う位置に変位する。乗りかご20の下降速度が異常に増加し、調速機シーブ12の回転速度が所定値を超えると、それに応じて大きく変位するフライウエイト24によりロープつかみ26を保持するフック27が外れ、ロープつかみ26が作動して調速機ロープ13が受け部28との間で把持され、この把持で調速機ロープ13の走行が停止する。
【0012】
調速機ロープ13が停止すると、乗りかご20に設けられた非常止め装置21に調速機ロープ13による引き上げ力が加わり、非常止め装置21が作動して乗りかご20が緊急停止する。前述のマルチカーエレベータにおいては、このような調速機が各乗りかご毎に設置されている。
【0013】
図8には、昇降路14内を平面視的に見た状態を示してある。乗りかご20の周辺の隙間には調速機10の調速機シーブ12および調速機ロープ13、カウンターウエイト30と共に乗りかご20を吊持するメインロープ31、乗りかご20への信号伝送や電源供給行なうテールコード32、さらには乗りかご20の位置を検出する検出スイッチ33などの数多くの機器類やロープ類が互に干渉しないように配置されている。建物の利用効率を高めるべく昇降路14内のスペースをより効率的に利用するためには、これらの機器類をより小型に構成することが求められる。
【0014】
なお、図8に示す35は、乗りかご20の下部に設けられ、メインロープ31が巻き掛けられた一対の乗りかご用下シーブ、36は乗りかご20の走行をガイドするガイドレール、37はカウンターウエイト30の走行をガイドするガイドレールである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のマルチカーエレベータの方式は、特に行程が高く規模の大きなビルディングにおいて輸送効率を上げ、昇降路面積を削減する方式として有効である。しかしながらマルチカーエレベータにおいては、乗りかご毎に調速機を設ける必要があり、機器の中でも特にその調速機の小型化が重要となる。
【0016】
調速機10の小型化は調速機シーブ12の直径を小さくすることにより実現することができる。ところが、調速機シーブ12の直径を小さくすると、これに巻き掛けられ、乗りかご20の速度を検出する機能を担う調速機ロープ13の曲げ疲労寿命に影響が生じる。
【0017】
すなわち、調速機ロープ13の曲げ疲労寿命は、調速機ロープ13の直径をd、調速機シーブ12の直径をDとしたときに、その直径の比D/dにより決まるため、調速機ロープ13の直径dが一定のまま調速機シーブ12の直径Dのみを小さくすると、調速機ロープ13の曲げ疲労寿命が低下してしまう。したがって、調速機シーブ12の直径Dを小さくするためには、調速機ロープ13の直径dも併せて小さくする必要がある。
【0018】
しかし、調速機ロープ13には曲げ疲労の点と併せてロープつかみ26の把持力に十分に耐え得る高い強度も要求されるため、調速機ロープ13の直径dを単に小さくするわけにはいかないという問題がある。
【0019】
さらに、調速機ロープ13の強度の問題のほかに、調速機ロープ13の直径dを小さくすると、ロープ張力による絞りに起因した素線同士の接触圧が厳しくなるため、ロープの内部損傷が生じ易くなってしまうという問題もある。
【0020】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、調速機ロープの直径を小径化しつつ、必要なロープ強度を有する調速機ロープを構成して、調速機シーブの直径を小さく抑えことが可能となり、調速機の設置の省スペース化を図ることが可能なマルチカーエレベータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1の発明は、一つの昇降路に上下に渡って設けられ、それぞれ個々に上下に移動するように駆動される複数の乗りかごと、前記各乗りかごに対応して設けられ、それぞれ調速機シーブおよびこの調速機シーブに掛け渡されて前記乗りかごと一体的に走行する調速機ロープとを有する調速機とを備えるマルチカーエレベータ装置において、前記調速機ロープは、芯線と、この芯線の外周に撚り合わされた複数本のストランドとからなるワイヤロープであり、前記ストランドは複数本の素線で構成され、その素線が0.014mm以上で0.26mm以下の断面積をもつ鋼線であることを特徴としている。
【0022】
請求項2の発明は、前記調速機ロープの芯線が、化学繊維で構成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項3の発明は、前記調速機ロープの芯線が、鋼線で構成されていることを特徴としている。
【0024】
請求項4の発明は、前記調速機ロープを構成するストランドの素線の強度が2000N/mm以上で3000N/mm未満であることを特徴としている。
【0025】
請求項5の発明は、前記調速機シーブの直径Dと前記調速機ロープの直径dとの比(D/d)が30倍以上で40倍以下であることを特徴としている。
【0026】
請求項6の発明は、前記調速機シーブの少なくともの溝表面の硬度がH250以上となっていることを特徴としている。
【0027】
請求項7の発明は、前記複数の調速機が、前記昇降路の平面視の投影において、その一部同士が互いに重なるように上下に配置されていることを特徴としている。
【0028】
請求項8の発明は、前記複数の調速機の全部が前記昇降路の上部の機械室に配置されていることを特徴としている。
【0029】
請求項9発明は、前記複数の調速機の全部が前記昇降路の下部のピット部に配置されていることを特徴としている。
【0030】
請求項10の発明は、前記調速機には、その調速機シーブと同軸的に設けられてその調速機シーブの回転に応じるパルスを発生してその調速機に対応する乗りかごの位置を検出するパルスジェネレータが設けられていることを特徴としている。
【0031】
請求項11の発明は、前記調速機ロープの走行に応じて回転するテンショナ装置のシーブやそらせシーブには、そのシーブと同軸的に設けられてその調速機シーブの回転に応じるパルスを発生して調速機シーブに対応する乗りかごの位置を検出するパルスジェネレータが設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、調速機ロープの直径を小径化しつつ、必要なロープ強度を有する調速機ロープを構成して、調速機シーブの直径を小さく抑えことが可能となり、調速機の設置の省スペース化を図ることが可能なマルチカーエレベータ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について図1ないし図5を参照して説明する。
【0034】
図1には本発明の第1の実施形態を示してある。図1は、マルチカーエレベータの調速機10に用いられる調速機ロープ13の断面図である。
【0035】
この調速機ロープ13は、芯線40と、この芯線40の外周に撚り合わされた複数本、例えば6本のストランド41とで構成されている。芯線40は、ポリプロピレン等の化学繊維製の3本のロープ40aを撚り合わせてなり、また各ストランド41は金属製の複数本の素線41aを撚り合わせてなる。
【0036】
各ストランド41の素線41aとしては、断面積が0.014〜0.26mmで、強度が2000N/mm以上の高強度の鋼線が用いられている。従来の調速機ロープに用いられていた素線の強度は1700N/mm程度である。
【0037】
芯線40のロープ40aを構成するポリプロピレン等の化学繊維は、芯線として最も普及しているサイザル麻等の天然繊維に比べ、繊維材の寸法精度が高く、単繊維を細くすることで高密度な芯線とすることができる。
【0038】
このような構成の調速機ロープ13においては、素線41aの平均直径が0.4mm以下であり、調速機ロープ13の直径が4〜6mmとなり、素線応力が高くストランド41の絞りによる芯線40への圧縮力が厳しいが、芯線40の剛性が高いために経年的なロープ径の細りが少なくなり、従来の調速機ロープと同等の速度検出性能を得ることができる。
【0039】
所定の曲げ疲労寿命を確保するために必要な調速機シーブの直径は、ロープの曲げ疲労試験によればロープ径の30倍程度であり、前記範囲のロープ径であれば、100〜200mmの小径の調速機シーブを用いることが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態による構造によれば、調速機ロープ13として4mmを下回る直径のものも実現可能であるが、100〜200mmのシーブ径の調速機は、従来一般の調速機の1/2以下の外形となり、マルチカーエレベータ用として十分な小型化を達成することができるため、さらなる小径化の場合に生じる調速機ロープの保守性の著しい悪化を考慮するならば特に有用性はない。
【0041】
図1に示した調速機ロープ13では、一例として6本のストランド41を用いているが、ストランド41の本数が変わっても当然ながら同様の効果を得ることができる。
【0042】
本実施形態の調速機ロープ13によれば、容易に高い素線強度を得ることができる。一般に素線材料に関しては、小径化により高強度を得やすくなり、前記の素線断面積の範囲であれば3000N/mmの引張り強さをもつ素線を容易に製造できる。
【0043】
調速機10に備えられるロープつかみが作動したときの調速機ロープに加わる張力は、調速機ロープが長くなるほど慣性力により増大するため、行程の高いマルチカーエレベータでは調速機ロープとして高強度が要求されるが、素線強度が2000〜3000N/mmであれば、小径ロープであってもロープつかみの把持力に対し十分耐える強度を持つ。
【0044】
なお、本発明者は、素線材料の高強度化にあたって、調速機シーブの経年摩耗による速度検出精度の悪化を防ぐため、調速機シーブの材料の硬度がHB250以上であることが望ましいことを摩損試験により確認している。この場合、調速機シーブは少なくともその溝表面の硬度がHB250以上であればよい。
【0045】
図2には本発明の第2の実施形態を示してある。図2は、マルチカーエレベータ用の調速機10の構成図である。図2に示すように、昇降路14内には上下に位置して個々に昇降する複数の乗りかご20が設けられている。昇降路14の上部には機械室45が設けられ、この機械室45の床45aの上に前記各乗りかご20に対応する調速機10が設置されている。
【0046】
各調速機10は、回転自在な調速機シーブ12を備え、この調速機シーブ12に調速機ロープ13が巻き掛けられている。調速機ロープ13は昇降路14内に環状に引き回され、その途中が対応する乗りかご20の非常止め装置(図示せず)に連結され、また下部にテンショナ装置15としてのテンショナシーブ16とテンショナ重り17が設けられ、このテンショナ装置15により所定の張力が付加されている。テンショナ装置15は、昇降路の最下部のピット部46に配置されている。
【0047】
調速機シーブ12には、一対のフライウエイト24が回動可能に設けられている。また、調速機シーブ12の下方にはロープつかみ26が設けられている。このロープつかみ26は、支軸26aを介して回動可能に支持され、通常時にはフック(図示せず)を介して斜め上方に保持され、そのフックによる保持の解除に応じて下方に自重で回動し、調速機ロープ13を受け部28との間に挟み込んで把持し、その走行を停止させるようになっている。
【0048】
調速機シーブ12は乗りかご20の移動に応じて回転する。調速機シーブ12の回転の停止時には、フライウエイト24は弾性体25を介して所定の回動位置に保持されている。そして調速機シーブ12の回転時に、フライウエイト24が調速機シーブ12の回転による遠心力と弾性体25の弾性力とがつり合う位置に変位する。
【0049】
乗りかご20の下降速度が異常に増加し、調速機シーブ12の回転速度が所定値を超えると、変位したフライウエイト24によりロープつかみ26を保持するフックが外れ、ロープつかみ26が下方に自重で回動し、このロープつかみ26と受け部28とで調速機ロープ13が把持され、この把持で調速機ロープ13の走行が停止する。
【0050】
調速機ロープ13が停止すると、乗りかご20に設けられた非常止め装置に調速機ロープ13による引き上げ力が加わり、非常止め装置が作動して乗りかご20が緊急停止する。
【0051】
上下に配置された一対の調速機10は、図3に示すようにその双方の調速機シーブ12の一部が昇降路14の平面視の投影において互いに重なるように配置されている。
【0052】
このような配置形態をとることにより、複数の調速機シーブ12が昇降路14の平面視の投影において互いに重ならないように配置される場合に比べてその設置の投影面積を大幅に削減することができる。
【0053】
また、本実施形態では、各調速機10を昇降路14の上部の機械室45に設置している。近年の省スペース化を達成するエレベータの中には、調速機の試験、点検および過速度時の動作に対する復帰の作業を行うために、エレベータホールに点検口を形成し、調速機を昇降路内に設置する場合があるが、複数の調速機10を設置するマルチカーエレベータにおいては、エレベータホールの点検口からではその作業を行なうことが困難である。
【0054】
マルチカーエレベータ用の複数の調速機10の設置場所としては、前記作業の能率化、省力化のために常時足場が確保され、かつ全ての乗りかご20に対応する調速機10を同じ場所に設置できる場所が望まれる。本実施形態では、各調速機10を昇降路14の上部の機械室45に設置しており、したがってその条件を満たすことができる。
【0055】
なお、前記条件を満たすことができる設置場所としては、機械室45のほかに、昇降路の最下部のピット部46がある。マルチカーエレベータ用の複数の調速機10を昇降路の最下部のピット部46に設置する場合にも、機械室45に設置する場合と同等の効果が得られる。
【0056】
図2においては、マルチカーとして、二台の乗りかご20が上下に配置され、その各乗りかご20に対応して二台の調速機10が設置された例を示してあるが、3台あるいはそれ以上の台数の乗りかご20および調速機10を備えるマルチカーエレベータの場合であっても本発明を適用することができる。
【0057】
図4には本発明の第3の実施形態を示してある。図4は調速機10の側面図である。この調速機10においては、調速機シーブ12が調速機本体11に回転軸12aを介して支持され、調速機シーブ12がその回転軸12aと一体に回転するようになっている。
【0058】
調速機本体11には、前記回転軸12aの回転、すなわち調速機シーブ12の回転に応じる数のパルスを発生するパルスジェネレータ50が取り付けられている。なお、13は調速機シーブ12に巻き掛けられた調速機ロープ、24は調速機シーブ12に取り付けられたフライウエイト、26は調速機シーブ12の下方に設けられたロープつかみである。
【0059】
調速機シーブ12は乗りかごの移動に応じて回転し、この調速機シーブ12の回転に応じる数のパルスをパルスジェネレータ50が発生し、このパルスに基づいて乗りかごの位置が検出される。
【0060】
一般に乗りかごの位置を検出するためのパルスジェネレータは、乗りかごを駆動する巻上機のシーブと同軸的に設けられ、メインロープの走行に応じる乗りかごの変位と同期する構造のものが多いが、マルチカーエレベータが適用されるビルディングは行程が高く、メインロープが巻上機のシーブの上で生じる滑り、いわゆるクリープ現象の影響が大きいため、検出の信頼性が低い。
【0061】
さらに、マルチカーエレベータでは、乗りかご同士の衝突を避けるため、互いの乗りかご問の距離を監視する必要性が高いが、クリープ現象は定性的に乗りかごの積載状態や運転方向で影響が変わるため、巻上機のシーブと連動する構造では乗りかごの位置検出に複雑な制御が必要となる。
【0062】
一方、調速機ロープ13に生じる滑りは、高々、調速機シーブ12を駆動するために必要なトルクによるものであるから極めて小さい。したがって、調速機10にパルスジェネレータ50を設け、調速機シーブ12の回転に基づいて乗りかごの位置を検出する本実施形態では、乗りかごの積載状態によらず、高精度の位置検出が可能となる。すなわち、マルチカーエレベータにおいて、パルスジェネレータ50を調速機10に設け、調速機シーブ12の回転に同期させることで、信頼性の高い乗りかごの位置検出性能を得ることができる。
【0063】
なお、パルスジェネレータ50は、調速機10に設ける場合のほか、図2に示すテンショナ装置15のシーブ16と同軸的に設けたり、調速機ローブをガイドすることで調速機ローブと同期して回転するそらせシーブと同軸的に設けることも可能であり、この場合にも本実施形態と同等の効果が得られる。
【0064】
図5には本発明の第4の実施形態を示してある。図5はマルチカーエレベータ用の調速機に用いられる調速機ロープ13の断面図である。この調速機ロープ13においては、前記第1の実施形態の場合と同様に例えば6本のストランド41を備えている。
【0065】
各ストランド41は、それぞれ複数本の素線41aを撚り合わせてなり、その素線41aとして、断面積が0.014〜0.26mmで、強度が2000N/mm以上の高強度の鋼線が用いられている。
【0066】
そして本実施形態では、芯線40も鋼線からなる複数本の素線40aを撚り合わせてなるロープ構造に構成され、さらにこの芯線40とストランド41との間の空隙にポリエチレン等の低摩擦の樹脂材42が充填されている。
【0067】
マルチカーエレベータにおいては、その行程が高く、調速機ロープ13の振れを抑えるためにテンショナ装置の質量を増す場合が多い。この場合、ストランド41の絞りによる芯線40への圧縮力に対し、前記第1の実施形態の場合のようなポリプロピレン等の化学繊維による芯線40では十分な保持性能を得られないことがある。
【0068】
これに対し、本実施形態の場合のように、芯線40の素線40aとして鋼線を用いることで断面剛性が大幅に向上し、芯線40への圧縮力に対する十分な保持性能が得られ、したがってエレベータ行程の増大に十分に対応することができる。
【0069】
一般に、鋼製の芯線40を用いると、ストランド41と芯線40との接触圧による内部断線が生じて強度管理上の問題となるが、本実施形態のように芯線40とストランド41との間の空隙に低摩擦の樹脂材42を充填することで、接触圧を緩和して内部断線を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチカーエレベータ用の調速機に用いる調速機ロープの構造を示す断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るマルチカーエレベータ用の調速機の構成を示す斜視図。
【図3】その調速機の配置形態を説明するための説明図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るマルチカーエレベータ用の調速機の構成を示す側面図。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るマルチカーエレベータ用の調速機に用いる調速機ロープの構造を示す断面図。
【図6】マルチカーエレベータの一般的な構成を示す構成図。
【図7】調速機の一般的な構成を示す構成図。
【図8】エレベータ昇降路内の一般的な構成を示す平面図。
【符号の説明】
【0071】
10…調速機
12…調速機シーブ
13…調速機ロープ
14…昇降路
15…テンショナ装置
20…乗りかご
21…非常止め装置
24…フライウエイト
25…弾性体
26…ロープつかみ
40…芯線
40a…素線
41…ストランド
41a…ロープ
42…樹脂材
45…機械室
46…ピット部
50…パルスジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの昇降路に上下に渡って設けられ、それぞれ個々に上下に移動するように駆動される複数の乗りかごと、
前記各乗りかごに対応して設けられ、それぞれ調速機シーブおよびこの調速機シーブに掛け渡されて前記乗りかごと一体的に走行する調速機ロープとを有する調速機と、
を備えるマルチカーエレベータ装置において、
前記調速機ロープは、芯線と、この芯線の外周に撚り合わされた複数本のストランドとからなるワイヤロープであり、前記ストランドは複数本の素線で構成され、その素線が0.014mm以上で0.26mm以下の断面積をもつ鋼線であることを特徴とするマルチカーエレベータ装置。
【請求項2】
前記調速機ロープの芯線は、化学繊維で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項3】
前記調速機ロープの芯線は、鋼線で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項4】
前記調速機ロープを構成するストランドの素線の強度が2000N/mm以上で3000N/mm未満であることを特徴とする請求項1,2または3に記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項5】
前記調速機シーブの直径Dと前記調速機ロープの直径dとの比(D/d)が30倍以上で40倍以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項6】
前記調速機シーブの少なくともの溝表面の硬度がH250以上となっていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項7】
前記複数の調速機は、前記昇降路の平面視の投影において、その一部同士が互いに重なるように上下に配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項8】
前記複数の調速機は、その全部が前記昇降路の上部の機械室に配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項9】
前記複数の調速機は、その全部が前記昇降路の下部のピット部に配置されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項10】
前記調速機には、その調速機シーブと同軸的に設けられてその調速機シーブの回転に応じるパルスを発生してその調速機に対応する乗りかごの位置を検出するパルスジェネレータが設けられていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。
【請求項11】
前記調速機ロープの走行に応じて回転するテンショナ装置のシーブやそらせシーブには、そのシーブと同軸的に設けられてその調速機シーブの回転に応じるパルスを発生して調速機シーブに対応する乗りかごの位置を検出するパルスジェネレータが設けられていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のマルチカーエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−240819(P2006−240819A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58725(P2005−58725)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】