説明

マルチディスペンサ装置

【課題】塗布対象物の複数箇所に同時に塗布液を塗布して高スループット化を達成するとともに、解像度が高くかつ自由度の大きな塗布が可能で、装置構成が簡素でコストの低廉なマルチディスペンサ装置を提供する。
【解決手段】塗布液を塗布する塗布対象物(基板K)に対して水平面内でY軸方向に相対的に移動可能とされ、Y軸走査移動装置によってY軸方向に相対移動される(白抜き矢印M)走査部材2と、走査部材2に装架され、塗布液を滴下するディスペンサノズルをそれぞれ有する複数のディスペンサ装置31〜35と、各ディスペンサノズルの塗布液を滴下する下端部を水平面内で移動させるノズル移動装置と、Y軸走査移動装置とノズル移動装置とを同期制御する制御装置と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のディスペンサ装置を備えて塗布対象物の複数箇所に同時に塗布液を塗布するマルチディスペンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の配線パターンを有する配線基板は、各種の電子制御装置や電子通信装置、コンピュータなどを製造するときに基となる重要な部材である。この配線基板の製造方法として、従来からメッキ法や真空蒸着法、スパッタ法などにより基板上に金属薄膜を形成する方法が用いられてきた。しかしながら、これらの従来の方法はいずれも難点があるため、インクジェット装置やディスペンサ装置を用いて配線パターンを描画する方法が広まりつつある。インクジェット装置は、描画速度が速くて大きなスループットが得られるが、あまり粘度の大きなインクは使用できず1度の描画で十分な塗布厚さを得ることが難しいという一般的特性を有している。
【0003】
一方、ディスペンサ装置は、粘度の大きな塗布液でも塗布できて十分な塗布厚さを得やすいが、スループットはインクジェット装置よりも小さくなるのが一般的である。ディスペンサ装置では通常、ノズルを有するディスペンサヘッドをXY平面上で移動させ、塗布液を間欠的に滴下してドットを描画し、もしくは塗布液を継続的に塗布してラインを描画する。ここで、XY平面上の複数箇所に塗布液を塗布するときには1箇所ずつ順番に塗布動作を行うため、高スループットは期待できない。ディスペンサ装置は、塗布液として溶剤中に金属微粒子を混入した金属ナノインクを用い、塗布対象物となる基板に低抵抗の配線パターンを描画する用途に多用され、これに限定されない。
【0004】
近年、スループットのさらなる向上を目的として、複数のインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置が提案されている。例えば、特許文献1には、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを複数備えた複合型のインクジェットヘッドが開示されている。この装置は、複数のインクジェットヘッドをX、Y、θ方向に駆動するXYθ駆動機構を備え、各々のノズルが同一平面上を移動できる構成としている。これにより、複数のノズルを備えた複数のインクジェットヘッドを、それぞれ個別に水平方向に駆動して位置合わせが可能となり、高精度の塗布を行うことが可能になった、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、独立した横方向の動きをすることができるインクジェットヘッドを有するインクジェットヘッド支持体のための装置が開示されている。この装置は、インクジェットヘッド支持体の上で第1のインクジェットヘッドが第2のインクジェットヘッドに対して横方向に独立に移動可能とされており、システムコントローラが第1および第2のインクジェットヘッドの横方向の動きを制御する。これにより、単一または複数のディスプレイ体(塗布対象物)に対して独立のインクジェットヘッドの配列を提供する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−167559号公報
【特許文献2】特開2006−136879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ディスペンサ装置を高スループット化するために、特許文献1および2に例示される複数のヘッドまたは複数のノズルを備えるインクジェット装置の構成を応用しようとすると、次のような問題点が生じる。第1に、ヘッドまたはノズルの移動装置の構成が複雑化するとともに、制御方法も煩雑化する。例えば、特許文献1のXYθ駆動機構は、複数のインクジェットヘッドに対してそれぞれ、X方向、Y方向、およびθ方向に独立して動作する3つの駆動源のセットが必要となるため構成が複雑化し、コストの増加が著しい。
【0008】
第2に、塗布対象物の複数箇所に同時に塗布液を塗布して描画するときに、高解像度の描画および自由度の大きな描画を行うことが難しくなる。つまり、特許文献2の技術例では、予め第1および第2のインクジェットヘッドの位置を決めたうえで、インクジェットヘッド支持体をディスプレイ体(塗布対象物)に対して移動(走査)させるため、移動途中の描画位置の微調整は困難であり、またライン描画の方向が限定されてしまう。
【0009】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、塗布対象物の複数箇所に同時に塗布液を塗布して高スループット化を達成するとともに、解像度が高くかつ自由度の大きな塗布が可能で、装置構成が簡素でコストの低廉なマルチディスペンサ装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に係るマルチディスペンサ装置の発明は、塗布液を塗布する塗布対象物に対して水平面内でY軸方向に相対的に移動可能とされ、Y軸走査移動装置によって前記Y軸方向に相対移動される走査部材と、前記走査部材に装架され、前記塗布液を滴下するディスペンサノズルをそれぞれ有する複数のディスペンサ装置と、各前記ディスペンサノズルの前記塗布液を滴下する下端部を水平面内で移動させるノズル移動装置と、前記Y軸走査移動装置と前記ノズル移動装置とを同期制御する制御装置と、を備えた。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ノズル移動装置は、各前記ディスペンサノズルの下端部を少なくとも前記Y軸と水平面内で直交するX軸方向に互いに独立して移動させ、各前記ディスペンサノズルの下端部の前記X軸方向の移動範囲は、相補的に重なって前記塗布対象物の前記X軸方向の全範囲に及ぶ。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ノズル移動装置は、前記ディスペンサ装置を前記走査部材に前記Y軸方向および前記Y軸と水平面内で直交するX軸方向に移動可能に装架するとともに、前記ディスペンサ装置を駆動装置によって前記X軸方向および前記Y軸方向に移動させる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ディスペンサノズルは、前記下端部を水平面内で移動させるために基端部で揺動可能に支持されて水平面と直交するZ軸方向に延在し、前記ノズル移動装置は、前記ディスペンサノズルを少なくとも前記X軸および前記Z軸を含む平面内で傾動させるXZ傾動装置を有する。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ディスペンサノズルの傾動によって発生する前記ディスペンサノズルの下端部の前記Z軸方向の変位を相殺する方向に前記ディスペンサノズルを昇降させる間隔維持装置を備える。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記塗布液と前記塗布対象物の組み合わせは、溶剤中に金属微粒子を混入した金属ナノインクと基板の組み合わせ、あるいは、溶融した絶縁性樹脂とリードフレームの組み合わせである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係るマルチディスペンサ装置の発明では、走査部材が塗布対象物に対してY軸方向に相対的に移動しつつ、これに同期して複数のディスペンサ装置が水平面内で移動する。したがって、塗布対象物の複数箇所に同時に塗布液を塗布することができ、高スループット化が達成される。また、移動装置の構成は、走査部材をY軸に相対移動させる1つのY軸走査移動装置と、各ディスペンサノズルの下端部を水平面内で移動させるノズル移動装置とで済むため、特許文献1を始めとする従来技術と比較して装置構成が簡素化され、コストが低廉になる。
【0017】
請求項2に係る発明では、ノズル移動装置は、各ディスペンサノズルの下端部を少なくともX軸方向に互いに独立して移動させ、各ディスペンサノズルの下端部のX軸方向の移動範囲は、相補的に重なって塗布対象物のX軸方向の全範囲に及ぶ。したがって、各ディスペンサノズルの塗布位置を個別に高精度に制御できるので解像度の高い塗布を行え、かつ各ディスペンサノズルが独立して移動し得るので自由度の大きな塗布が可能になる。また、当然ながら、塗布対象物上に塗布できない死角範囲は生じない。
【0018】
請求項3に係る発明では、ノズル移動装置は、ディスペンサ装置をY軸方向およびX軸方向に移動可能に装架するとともに、ディスペンサ装置を駆動装置によってX軸方向およびY軸方向に移動させる。したがって、各ディスペンサノズルのX軸方向およびY軸方向の移動速度を可変に制御でき、解像度の高い塗布を行え、かつ自由度の大きな塗布が可能になる。例えば、X軸方向およびY軸方向の移動速度を一定として斜線状に塗布することができ、X軸方向およびY軸方向の移動速度の一方を徐変させることで曲線状に塗布することができる。また例えば、塗布液の滴下速度を一定としつつ移動速度を増減制御することによって単位長あたりの滴下量を増減し、塗布対象物上の塗布液の塗布幅や塗布厚みを調整することができる。
【0019】
請求項4に係る発明では、ディスペンサノズルは基端部で揺動可能に支持されて水平面と直交するZ軸方向に延在し、ノズル移動装置はディスペンサノズルを少なくともX軸およびZ軸を含む平面内で傾動させるXZ傾動装置を有する。これにより、ディスペンサノズルの塗布液を滴下する下端部がX軸方向に移動するので、Y軸走査移動装置による走査部材のY軸方向の移動との組み合わせにより解像度の高い塗布を行え、かつ自由度の大きな塗布が可能になる。また、ディスペンサノズルを傾動させるXZ傾動装置は簡易なものでよいので、装置構成が簡素化され、コストが低廉になる。
【0020】
請求項5に係る発明では、請求項4の構成に加え、ディスペンサノズルの傾動によって発生する下端部のZ軸方向の変位を相殺する方向にディスペンサノズルを昇降させる間隔維持装置を備える。これにより、ディスペンサノズルの塗布液を滴下する下端部と塗布対象物との間隔が一定に維持され、塗布位置が高精度に制御されるので、解像度の高い塗布を行える。
【0021】
請求項6に係る発明では、塗布液と塗布対象物の組み合わせは、溶剤中に金属微粒子を混入した金属ナノインクと基板の組み合わせ、あるいは、溶融した絶縁性樹脂とリードフレームの組み合わせとされる。本発明は、金属ナノインクを用いて基板上に配線パターンを描画する用途や、溶融した絶縁性樹脂を電子部品のリードフレームに塗布して絶縁保護層を形成する用途に好適であり、上述の請求項1〜5の効果が顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態のマルチディスペンサ装置の構成を模式的に説明する平面図である。
【図2】1組のディスペンサ装置およびノズル移動装置の構成を模式的に示す側面図である。
【図3】基板上に平行でない4本の直線を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。
【図4】基板上に2本の曲線を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。
【図5】基板上に塗布幅の異なる2本の直線を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。
【図6】第2実施形態のマルチディスペンサ装置の構成を模式的に説明する正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1実施形態のマルチディスペンサ装置について、図1〜図5を参考にして説明する。図1は、第1実施形態のマルチディスペンサ装置1の構成を模式的に説明する平面図である。マルチディスペンサ装置1は、塗布液として溶剤中に金属微粒子を混入した金属ナノインクを用い、塗布対象物を基板Kとして所定の配線パターンを描画する用途に使用する。金属ナノインクには、例えば、溶剤をテトラデカン(C1430 )とし、金属微粒子をnm(ナノメータ)オーダの銀ナノ粒子とした銀ナノインクを用いる。基板Kには、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂やポリイミド樹脂からなる絶縁基板を用いる。マルチディスペンサ装置1は、走査部材2およびY軸走査移動装置、5個のディスペンサ装置31〜35およびノズル移動装置4、制御装置などにより構成されている。
【0024】
走査部材2は、基板Kに対して水平面内でY軸方向に相対的に移動可能とされ、Y軸走査移動装置によってY軸方向に相対移動される部材である。図1に示されるように、走査部材2は、基板Kよりも大きめで概ね矩形板状の部材となっている。走査部材2は、水平姿勢に固定される基板Kの上方にY軸方向(図では上下方向)に平行して延在する一対のY軸レール21、22に移動可能に装架されている。走査部材2は、図略のY軸走査移動装置によってY軸方向に相対移動され、白抜き矢印Mで示されるように基板Kの上方を通過するようになっている。
【0025】
なお、走査部材2が基板Kに対して相対移動されればよいので、固定側と移動側とを逆にすることもできる。すなわち、固定された走査部材2の下方にY軸レールを配置し、基板KがY軸レール上を移動するように構成してもよい。
【0026】
走査部材2の下面には、同じ構造を有する5個のディスペンサ装置31〜35が千鳥状に配置されている。つまり、第1、第3、および第5ディスペンサ装置31、33、35がX軸方向に一列に配置され、第2ディスペンサ装置32が第1と第3ディスペンサ装置31、33の間の斜め前方(図では斜め下方)に配置され、第4ディスペンサ装置34が第3と第5ディスペンサ装置33、35の間の斜め前方(図では斜め下方)に配置されている。各ディスペンサ装置31〜35はそれぞれ、塗布液を滴下するディスペンサノズル36(図2参照)を有している。
【0027】
また、各ディスペンサ装置31〜35ごとに、それぞれノズル移動装置4(図2参照)が設けられている。各ノズル移動装置4は、ディスペンサ装置31〜35を走査部材2にX軸方向およびY軸方向に移動可能に装架し、ディスペンサ装置31〜35を駆動装置によってX軸方向およびY軸方向に移動させる(図中の破線の矢印)ように構成されている。これにより、各ディスペンサノズル36の下端部37は、X軸方向およびY軸方向に互いに独立して移動する。また、各ディスペンサノズル36の下端部37のX軸方向の移動範囲mx1〜mx5は隣接する相互間で重なり合い、相補的に重なって基板KのX軸方向の全範囲に及んでいる。
【0028】
図2は、1組のディスペンサ装置31およびノズル移動装置4の構成を模式的に示す側面図である。図2では、第1ディスペンサ装置31を例にして説明し、第2以降のディスペンサ装置32〜35は同じ構造であるので説明は省略する。図示されるように、走査部材2の下面には、Y軸方向に延在するY軸レール溝25が刻設されている。
【0029】
一方、ノズル移動装置4は、Y軸移動部材41およびX軸移動部材45を主にして構成されている。Y軸移動部材41の上部には、Y軸レール溝25に係入してY軸方向の移動を可能とする係合部42が設けられている。Y軸移動部材41の下部は、Y軸方向の幅が縮幅され、X軸方向(図2の紙面表裏方向)に延在するX軸レール43となっている。X軸移動部材45は、X軸レール43に下側から係合し、一対の直線状のころがり軸受部46によってX軸レール43に移動可能に支承されている。また、X軸レール43のX軸方向には多数のリニア固定子47が列設され、X軸移動部材45には一対のリニア可動子48が設けられている。リニア固定子47とリニア可動子48とは対向して配置され、X軸方向の移動を可能とするリニアモータが構成されている。
【0030】
さらに、X軸移動部材45の内部に第1ディスペンサ装置31が組み込まれ、X軸移動部材45の下面の中央にディスペンサノズル36が下向きに突設されている。ディスペンサノズル36は、下端部37から塗布液を滴下するようになっている。
【0031】
なお、走査部材2とY軸移動部材41との間にも、上述の直線状のころがり軸受部による支承構造およびリニアモータによる移動方式を適用することができる。また、これに限定されず、他の支承構造および移動方式を適用してもよい。
【0032】
図略の制御装置は、Y軸走査移動装置と5個のノズル移動装置4とを同期制御する。制御装置には、例えば、コンピュータを内蔵してソフトウェアで動作する電子制御装置を用いることができる。また、基板K上に描画する配線パターンの座標位置や描画順序などの描画動作に必要とされる情報は、制御装置内部の記憶部に予め入力設定しておく。これにより、制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VY、ならびに第1〜第5ディスペンサ装置31〜35のX軸方向およびY軸方向の移動速度vx1〜vx5、vy1〜vy5を独立して制御することができる。さらに、制御装置は、走査部材2および第1〜第5ディスペンサ装置31〜35の座標位置を参照しながら、第1〜第5ディスペンサ装置31〜35の塗布液の滴下の実施と休止の切り替えを自在に制御することができる。
【0033】
次に、第1実施形態のマルチディスペンサ装置1の塗布動作および作用について説明する。マルチディスペンサ装置1は、図1に例示されるように、基板K上に平行な4本の斜線L1〜L4を同時に塗布(描画)することができる。これを行うために、制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYを一定に設定し、第1〜第4ディスペンサ装置31〜34のX軸方向の移動速度vx1〜vx4=vxで同一かつ一定、Y軸方向の移動速度vy1〜vy4=0に設定し、第5ディスペンサ装置35は休止とする。そして、制御装置は、走査部材2および第1〜第4ディスペンサ装置31〜34を同期制御し、第1〜第4ディスペンサ装置31〜34のディスペンサノズル36の下端部37が基板K上の所望する座標範囲内を移動している時間帯だけ塗布液を滴下させる。
【0034】
また、マルチディスペンサ装置1は、図3に例示されるように、基板K上に平行でない4本の直線L5〜L8を同時に塗布(描画)することができる。図3は、基板K上に平行でない4本の直線L5〜L8を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。この塗布動作で制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYを一定に設定し、第1〜第4ディスペンサ装置31〜34のX軸方向の移動速度vx1〜vx4を異なる値に設定し、かつY軸方向の移動速度vy1〜vy4=0に設定し、第5ディスペンサ装置35は休止とする。そして、制御装置は、走査部材2および第1〜第4ディスペンサ装置31〜34を同期制御し、第1〜第4ディスペンサ装置31〜34のディスペンサノズル36の下端部37が基板K上の所望する座標範囲内を移動している時間帯だけ塗布液を滴下させる。
【0035】
図3の例では、第1ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx1は図の右方向に向かい、これによって描画される曲線L5は図示される右下がりの直線L5となる。また、第2ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx2=0であり、これによって描画される曲線L6はY軸方向に延びる直線L6となる。さらに、第3ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx3は図の左方向に向かい、これによって描画される曲線L7は図示される左下がりの直線L7となる。また、第4ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx4は図の左方向に向かいかつ移動速度vx3よりも大きく、これによって描画される曲線L8は曲線L7と傾きの異なる左下がりの直線L8となる。
【0036】
さらに、マルチディスペンサ装置1は、図4に例示されるように、基板K上に2本の曲線L9、L10を同時に塗布(描画)することができる。図4は、基板K上に2本の曲線L9、L10を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。この塗布動作で制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYを一定に設定し、走査部材2の移動に伴って第1および第3ディスペンサ装置31、33のX軸方向の移動速度vx1、vx3を徐々に変化させるように設定し、かつY軸方向の移動速度vy1、vy3=0に設定し、第2、第4、および第5ディスペンサ装置32、34、35は休止とする。そして、制御装置は、走査部材2および第1、第3ディスペンサ装置31、33を同期制御し、第1および第3ディスペンサ装置31、33のディスペンサノズル36の下端部37が基板K上の所望する座標範囲内を移動している時間帯だけ塗布液を滴下させる。
【0037】
図4の例では、第1ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx1は図の右方向に向かうとともに、その大きさは当初0で徐々に増加している。これによって描画される曲線L9の始点L9sはY軸方向に向かい、途中で徐々にX軸方向に曲がり、終点L9eは斜めの方向を向いている。一方、第3ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx3は図の左方向に向かうとともに、その大きさが徐々に減少して最後は0になっている。これによって描画される曲線L10の始点L10sは斜めの方向を向き、途中で徐々にY軸方向に曲がり、終点L10eはY軸方向を向いている。
【0038】
なお、第1および第3ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度vx1、vx3を一定にしておき、走査部材2のY軸方向の移動速度VYを変化させても、2本の曲線を同時に塗布(描画)することができる。また、3本以上の形状の異なる曲線を同時に塗布(描画)することもできる。さらに、走査部材2のY軸方向の移動速度VY、および各ディスペンサ装置31〜35のX軸方向の移動速度vx1〜vx5を様々に変化させることで、多種多様な曲線を描画することができる。
【0039】
さらに、マルチディスペンサ装置1は、図5に例示されるように、基板K上に塗布幅の異なる2本の直線L11、L12を同時に塗布(描画)することができる。図5は、基板K上に塗布幅の異なる2本の直線L11、L12を同時に塗布(描画)する塗布動作を説明する図である。この塗布動作で制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYを一定に設定し、第2および第4ディスペンサ装置32、34のX軸方向の移動速度vx2、vx4=0に設定し、Y軸方向の移動速度vy2、vy4を異なる値に設定し、第1、第3、および第5ディスペンサ装置31、33、35は休止とする。そして、制御装置は、走査部材2および第2、第4ディスペンサ装置32、34を同期制御し、第2および第4ディスペンサ装置32、34のディスペンサノズル36の下端部37が基板K上の所望する座標範囲内を移動している時間帯だけ塗布液を滴下させる。
【0040】
図5の例では、第2ディスペンサ装置のY軸方向の移動速度vy2は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYと同じ方向であり、基板Kに対する移動速度が増加する。したがって、単位長あたりの塗布液の滴下量が減少し、塗布幅の小さな直線L11を塗布(描画)することができる。一方、第4ディスペンサ装置のY軸方向の移動速度vy4は、走査部材2のY軸方向の移動速度VYと逆の方向であり、基板Kに対する移動速度が減少する。したがって、単位長あたりの塗布液の滴下量が増加し、塗布幅の大きな直線L12を塗布(描画)することができる。つまり、基板Kに対するディスペンサノズル36の相対移動速度の大小に依存して、単位長あたりの塗布液の滴下量が減少および増加し、塗布幅が調整される。
【0041】
また、図は省略するが、マルチディスペンサ装置1は、X軸方向の直線を塗布(描画)することもできる。これを行うために、制御装置は、まず走査部材2をY軸方向の所望する座標位置まで移動させた後に停止させ、次にディスペンサ装置31〜35をX軸方向に移動させながら塗布液を滴下させる。
【0042】
なお、前述の塗布動作の例で解るように、塗布液を塗布(描画)する座標範囲に合わせて使用するディスペンサ装置31〜34を適宜取捨選択する。また、第5ディスペンサ装置35に例示されるように、基板Kの大きさと固定された座標位置によっては、常に休止されるディスペンサ装置が生じ得る。
【0043】
第1実施形態のマルチディスペンサ装置1では、走査部材2が塗布対象物である基板Kに対してY軸方向に相対的に移動しつつ、これに同期して複数のディスペンサ装置31〜35が水平面内のX軸方向およびY軸方向に移動する。したがって、基板K上の複数箇所に同時に塗布液を塗布することができ、従来の単一のディスペンサ装置と比較して高スループット化が達成される。また、移動装置の構成は、走査部材2をY軸に相対移動させる1つのY軸走査移動装置と、各ディスペンサノズル36の下端部37を水平面内で移動させるノズル移動装置4とで済むため、特許文献1を始めとする従来技術と比較して装置構成が簡素化され、コストが低廉になる。
【0044】
さらに、ノズル移動装置4は、各ディスペンサノズル36の下端部37をX軸方向およびY軸方向に互いに独立して移動させることができる。また、各ディスペンサノズル36の下端部37のX軸方向の移動範囲は、相補的に重なって基板KのX軸方向の全範囲に及んでいる。したがって、各ディスペンサノズル36の塗布位置を個別に高精度に制御でき、解像度の高い塗布を行える。かつ、各ディスペンサノズル36が独立して移動し得るとともに、各ディスペンサノズル36のX軸方向およびY軸方向の移動速度を可変に制御できるので、図3から図5で例示説明したように自由度の大きな塗布が可能になる。また、当然ながら、基板K上に塗布できない死角範囲は生じない。
【0045】
次に、第2実施形態のマルチディスペンサ装置の構成について、図6を参考にして、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図6は、第2実施形態のマルチディスペンサ装置5の構成を模式的に説明する正面断面図である。第2実施形態のマルチディスペンサ装置5は、走査部材20およびY軸走査移動装置、4個のディスペンサ装置61〜64、XZ傾動装置7および間隔維持装置8からなるノズル移動装置、制御装置などにより構成されている。
【0046】
走査部材20およびY軸走査移動装置は第1実施形態に類似しており、走査部材20は固定された基板Kの上方をY軸方向に通過するようになっている。走査部材20の下面には、同じ構造を有する4個のディスペンサ装置61〜64がX軸方向に一列に配置されている。各ディスペンサ装置61〜64はそれぞれ、本体部65および塗布液を滴下するディスペンサノズル66を有している。ディスペンサノズル66は、本体部65の下方にXZ傾動装置7を介して取り付けられており、水平面と直交するZ軸方向(上下方向)に延在している。
【0047】
XZ傾動装置7は、ディスペンサノズル66の下端部67を水平面内で移動させるために、基端部68を揺動可能に支持している。さらに、XZ傾動装置7は、ディスペンサノズル66を揺動し、X軸およびZ軸を含む平面内の傾き角θの範囲内で傾動させる。
【0048】
また、各ディスペンサ装置61〜64はそれぞれ、ディスペンサノズル66の傾動によって発生する下端部67のZ軸方向の変位を相殺する方向にディスペンサノズル66を昇降させる間隔維持装置8を備えている。つまり、間隔維持装置8は、ディスペンサノズル66の下端部67と基板Kとの間隔Gを一定に保つ機能を有している。本第2実施形態においては、油圧操作方式の間隔維持装置8を適用する。詳述すると、走査部材2の下面には、下方に開口する筒状のシリンダ空間27が形成されている。そして、シリンダ空間27に対して、ディスペンサ装置61〜64の本体部65が下方から油密を維持しつつ係入している。本体部65はピストンの役割を果たし、シリンダ空間27の上部への作動油の出入りによって昇降駆動されるようになっている。XZ傾動装置7と間隔維持装置8からなるノズル移動装置により、各ディスペンサノズル66の下端部67は、X軸方向に互いに独立して移動する。なお、間隔維持装置8には、モータにより送りネジを回転駆動する方式の装置を用いることもできる。
【0049】
図略の制御装置は、Y軸走査移動装置と4個のノズル移動装置とを同期制御する。制御装置は、走査部材2のY軸方向の移動速度VY、第1〜第4ディスペンサ装置61〜64の各ディスペンサノズル66の傾き角θ、基板Kとの間隔G、ならびに第1〜第4ディスペンサ装置61〜64の塗布の実施と休止の切り替えを自在に組み合わせて制御することができる。
【0050】
第2実施形態のマルチディスペンサ装置5では、各ディスペンサノズル66の下端部67をX軸方向に互いに独立して移動させることができる。したがって、図1に例示された4本の平行な斜線L1〜L4、図3に例示された4本の平行でない直線L5〜L8、および図4に例示された2本の曲線L9、L10を同時に塗布(描画)することができる。ただし、各ディスペンサノズル66の下端部67をY軸方向には移動できないので、図5に例示された塗布幅の異なる2本の直線L11、L12を同時に塗布(描画)することはできない。
【0051】
第2実施形態のマルチディスペンサ装置5によれば、ディスペンサノズル66の傾動による下端部67のX軸方向の移動とY軸走査移動装置による走査部材20のY軸方向の移動との組み合わせにより塗布位置を高精度に制御でき、さらに、間隔維持装置8により間隔Gを一定に保つことができる。これにより、解像度の高い塗布を行え、かつ自由度の大きな塗布が可能になる。また、ディスペンサノズル66を傾動させるXZ傾動装置7や間隔Gを保つ間隔維持装置8は、特許文献1に例示される3方向の駆動源と比較して簡易にできるので、装置構成が簡素化され、コストが低廉になる。
【0052】
なお、第2実施形態において、傾き角θの範囲が小さく、したがってディスペンサノズル66の下端部67と基板Kとの間隔Gの変化が小さく、塗布性能に影響が生じない場合には、間隔維持装置8を省略できる。
【0053】
さらに、ディスペンサノズル66を傾動だけでなく、回動させるように構成することもできる。つまり、ディスペンサノズル66の基端部68を揺動可能かつ回動可能に支持し、下端部67が水平面内の円周上を移動するように構成できる。この態様によれば、座標位置の制御は多少複雑化するが、下端部67を重X軸方向だけでなくY軸方向にも移動させることができ、より自由度の大きな塗布が可能になる。
【0054】
また、第1および第2実施形態のマルチディスペンサ装置1、5は、金属ナノインクを用いて基板上に配線パターンを描画する用途に限定されず、溶融した絶縁性樹脂を電子部品のリードフレームに塗布して絶縁保護層を形成する用途やその他の用途にも適用できる。さらに、ノズル移動装置の構成も実施形態に限定されず、各種方式の移動装置を適用できる。その他、本発明はさまざまな応用や変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:第1実施形態のマルチディスペンサ装置
2:走査部材 21、22:Y軸レール 25:Y軸レール溝
31〜35:第1〜第5ディスペンサ装置
36:ディスペンサノズル 37:下端部
4:ノズル移動装置
41:Y軸移動部材 42:係合部 43:X軸レール
45:X軸移動部材 46:直線状のころがり軸受部
47:リニア固定子 48:リニア可動子
5:第2実施形態のマルチディスペンサ装置
20:走査部材 27:シリンダ空間
61〜64:ディスペンサ装置
65:本体部 66:ディスペンサノズル
67:下端部 68:基端部
7:XZ傾動装置
8:間隔維持装置
K:基板(塗布対象物)
VY:走査部材のY軸方向の移動速度
vx1〜vx4:第1〜第4ディスペンサ装置のX軸方向の移動速度
vy2、vy4:第2および第4ディスペンサ装置のY軸方向の移動速度
θ:ディスペンサノズルの傾き角
G:ディスペンサノズルの下端部と基板との間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を塗布する塗布対象物に対して水平面内でY軸方向に相対的に移動可能とされ、Y軸走査移動装置によって前記Y軸方向に相対移動される走査部材と、
前記走査部材に装架され、前記塗布液を滴下するディスペンサノズルをそれぞれ有する複数のディスペンサ装置と、
各前記ディスペンサノズルの前記塗布液を滴下する下端部を水平面内で移動させるノズル移動装置と、
前記Y軸走査移動装置と前記ノズル移動装置とを同期制御する制御装置と、
を備えたマルチディスペンサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ノズル移動装置は、各前記ディスペンサノズルの下端部を少なくとも前記Y軸と水平面内で直交するX軸方向に互いに独立して移動させ、
各前記ディスペンサノズルの下端部の前記X軸方向の移動範囲は、相補的に重なって前記塗布対象物の前記X軸方向の全範囲に及ぶマルチディスペンサ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ノズル移動装置は、前記ディスペンサ装置を前記走査部材に前記Y軸方向および前記Y軸と水平面内で直交するX軸方向に移動可能に装架するとともに、前記ディスペンサ装置を駆動装置によって前記X軸方向および前記Y軸方向に移動させるマルチディスペンサ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ディスペンサノズルは、前記下端部を水平面内で移動させるために基端部で揺動可能に支持されて水平面と直交するZ軸方向に延在し、前記ノズル移動装置は、前記ディスペンサノズルを少なくとも前記X軸および前記Z軸を含む平面内で傾動させるXZ傾動装置を有するマルチディスペンサ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記ディスペンサノズルの傾動によって発生する前記ディスペンサノズルの下端部の前記Z軸方向の変位を相殺する方向に前記ディスペンサノズルを昇降させる間隔維持装置を備えるマルチディスペンサ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のマルチディスペンサ装置であって、前記塗布液と前記塗布対象物の組み合わせは、溶剤中に金属微粒子を混入した金属ナノインクと基板の組み合わせ、あるいは、溶融した絶縁性樹脂とリードフレームの組み合わせであるマルチディスペンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−77674(P2013−77674A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216118(P2011−216118)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000237271)富士機械製造株式会社 (775)
【Fターム(参考)】