説明

マルチバンド電力増幅器

【課題】 インピーダンス不整合をなくしたマルチバンド電力増幅器を提供する。
【解決手段】 マルチバンド電力増幅器11の増幅器12,13間には、これらを整合させる段間整合回路14を設ける。また、入力段の増幅器12の入力側に入力段整合回路15を設けると共に、出力段の増幅器13の出力側には出力段整合回路16を設ける。そして、制御回路17は、基地局BSからの周波数設定情報Spによって第1,第2の送信信号TX1,TX2の通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nを特定し、この特定した通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを最適な値に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の通信周波数帯にわたる、例えば数十MHz以上の高周波の送信信号を増幅するマルチバンド電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マルチバンド対応の携帯電話等の無線通信機に使用され、複数の通信周波数帯にわたる送信信号を増幅するためのマルチバンド電力増幅器が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなマルチバンド電力増幅器では、複数の周波数帯にわたる送信信号を同時に増幅するため、マルチバンド電力増幅器に相応しいインピーダンス整合回路が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−160192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1によるデュアルバンド電力増幅器は、2つの通信周波数帯の混合信号を同時に増幅すると共に、その整合回路は2つの通信周波数帯の混合信号の各通信周波数帯で同時にインピーダンス整合する。しかし、整合回路は、2つの通信周波数帯で同時にインピーダンス整合するから、各通信周波数帯で所望な特性(例えば出力レベルが最大)が得られる最適なインピーダンス値にはなっておらず、各通信周波数帯でインピーダンス不整合が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、インピーダンス不整合をなくすことができるマルチバンド電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、基地局から発信される周波数設定情報に基づいて複数の通信周波数帯のうち一の通信周波数の送信信号を増幅するマルチバンド電力増幅器であって、互いに直列接続された複数の増幅器と、該複数の増幅器のうち初段の増幅器の入力端に接続され、入力負荷との間のインピーダンス整合をはかる入力段整合回路と、該複数の増幅器のうち終段の増幅器の出力端に接続され、出力負荷との間のインピーダンス整合をはかる出力段整合回路と、前記複数の増幅器のうち互いに隣合う2つの増幅器の間に接続され、これら2つの増幅器の間のインピーダンス整合をはかる少なくとも1つの段間整合回路と、前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数を特定し、該通信周波数に応じて前記入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のインピーダンス値を可変に制御する制御回路とを備えたことを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明では、前記入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のうち少なくとも一の回路は、そのインピーダンス値を前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数に応じて可変させるインピーダンス可変手段を備える構成としている。
【0008】
請求項3の発明では、前記インピーダンス可変手段は、互いにインピーダンス値が異なる複数のインピーダンス素子と、前記制御回路によって切換え操作され該複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択するスイッチとを備える構成としている。
【0009】
請求項4の発明では、前記インピーダンス可変手段は、前記制御回路によってその容量値が可変に設定される可変容量素子を備える構成としている。
【0010】
請求項5の発明では、前記複数の増幅器のうち少なくとも1つの増幅器にはバイアス電圧を供給するバイアス回路を接続し、該バイアス回路は、前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数の送信信号に対して開放状態となる構成としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、制御回路は、基地局から発信される周波数設定情報に基づいて入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のインピーダンス値をそれぞれ制御する。このとき、周波数設定情報は、複数の通信周波数帯に係る一の送信信号の通信周波数を特定するものであるから、入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のインピーダンス値は、この一の送信信号の通信周波数の送信信号に応じて例えばインピーダンス整合が最も高くなる等の所望な特性が得られる最適な値に調整される。これにより、送信信号をチューニングするときに、各通信周波数でのインピーダンス不整合がなくなる。
【0012】
なお、所望な特性としては、インピーダンスの整合性を高めて増幅した送信信号の出力レベルが最大になる、入力段および出力段の増幅器の効率が良くなる、増幅後の信号の歪みが小さくなる等が考えられる。これら3つの特性は互いにトレードオフの関係にあるから、例えばいずれか一つの特性を優先させて、インピーダンスの最適な値が決められる。
【0013】
請求項2の発明によれば、入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のうち少なくとも一の回路は、そのインピーダンス値を可変させるインピーダンス可変手段を備える構成とした。このため、制御回路は、インピーダンス可変手段を制御することによって整合回路のインピーダンス値を変化させることができるから、周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数に応じてインピーダンス値を最適な値に調整することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、インピーダンス可変手段は、スイッチによって複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択する構成とした。このため、制御回路は、周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数に応じてスイッチを切換えることができ、複数のインピーダンス素子のうち最適なインピーダンス値となる1つのインピーダンス素子を選択することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、インピーダンス可変手段は、制御回路によってその容量値が可変に設定される可変容量素子を備える構成とした。このとき、可変容量素子は容量の微調整が容易であるから、他の素子を用いた場合に比べて、整合回路の設計が容易になる。
【0016】
請求項5の発明によれば、周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数の送信信号に対してバイアス回路が高周波的に開放状態になる。このため、バイアス回路が増幅器を通じて例えば入力段整合回路、出力段整合回路または段間整合回路に接続されているときでも、各整合回路に対してバイアス回路のインピーダンスの影響を小さくすることができ、各整合回路は制御回路によって設定された最適な状態を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器が適用される無線通信機を示すブロック図である。
【図2】図1中のマルチバンド電力増幅器を示すブロック図である。
【図3】マルチバンド増幅器の入力振幅に対する利得および位相の関係を示す特性線図である。
【図4】段間整合回路によるプリディストーションを示す説明図である。
【図5】第2の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器を示すブロック図である。
【図6】変形例によるマルチバンド電力増幅器を示すブロック図である。
【図7】図6中のインダクタに用いるチップコイルを示す斜視図である。
【図8】図7中のチップコイルの周波数とインピーダンスとの関係を示す特性線図である。
【図9】第3の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器を示すブロック図である。
【図10】第4の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器を携帯電話等の無線通信機に適用した場合を例に挙げて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
まず、図1および図2は、第1の実施の形態を示している。図において、無線通信機1は、送信装置2、第1,第2のデュプレクサ3,4、第1,第2の受信装置5,6、ダイプレクサ7、アンテナ8等によって構成されている。
【0020】
送信装置2は、後述するマルチバンド電力増幅器11を備え、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る送信周波数帯に属する一つの通信周波数の送信信号を出力する。そして、送信装置2は、第1の送信信号TX1を第1のデュプレクサ3に出力し、第2の送信信号TX2を第2のデュプレクサ4に出力する。
【0021】
このとき、第1の送信信号TX1は、例えばUS−Cellular方式に係る第1の送信周波数帯域(「824〜849MHz」または「824〜830MHz」)に属するいずれかの周波数で送信される。一方、第2の送信信号TX2は、例えばJ−CDMA方式に係る第2の送信周波数帯域(898〜925MHz)に属するいずれかの周波数で送信される。このように、第1,第2の送信信号TX1,TX2は、互いに異なる通信周波数帯の送信信号となっている。
【0022】
なお、基地局BSから無線通信機1に送信される周波数設定情報Spによって、第1の送信信号TX1に係るm種類の通信周波数f11〜f1m、第2の送信信号TX2に係るn種類の通信周波数f21〜f2nから具体的な送信信号の通信周波数が設定される。
【0023】
即ち、送信装置2は、通信周波数f11〜f1mと通信周波数f21〜f2nとを合計した(m+n)種類の通信周波数のうちのいずれか1つの周波数の信号を送信する構成となっている。このとき、第1の送信信号TX1に係る通信周波数f11〜f1mの種類数(m種類)と第2の送信信号TX2に係る通信周波数f21〜f2nの種類数(n種類)とは、互いに異なる数でもよく、同じ数でもよい。
【0024】
第1のデュプレクサ3は、図1に示すように、送信装置2の出力側と第1の受信装置5の入力側とに接続されると共に、ダイプレクサ7を介してアンテナ8に接続されている。一方、第2のデュプレクサ4は、送信装置2の出力側と第2の受信装置6の入力側とに接続されると共に、ダイプレクサ7を介してアンテナ8に接続されている。そして、ダイプレクサ7は、US−Cellular方式の通信を行うときには、アンテナ8を第1のデュプレクサ3に接続し、J−CDMA方式の通信を行うときには、アンテナ8を第2のデュプレクサ4に接続する。
【0025】
マルチバンド電力増幅器11は、図2に示すように、例えば2段のヘテロ接合バイポーラトランジスタ等からなる増幅器12,13と、増幅器12,13間に設けられた段間整合回路14と、入力段(ドライバ段)の増幅器12の入力側に設けられた入力段整合回路15と、出力段(ファイナル段)の増幅器13の出力側に設けられた出力段整合回路16と、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを制御する制御回路17とを備えている。
【0026】
ここで、増幅器12,13は、第1,第2の送信信号TX1,TX2の両方の通信周波数帯の信号を増幅するために、例えば100MHz以上の広帯域に亘って利得が得られるものが使用される。
【0027】
また、後述の制御回路17によって段間整合回路14のインピーダンス値Zmが設定され、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じて増幅器12,13間のインピーダンス整合が図られる。具体的には、制御回路17から出力される制御信号に応じて、所望な特性が得られるように、段間整合回路14のインピーダンス値Zmが最適な値に調整される。このとき、インピーダンス値Zmの最適な値は、第1,第2の送信信号TX1,TX2が入力されたときに、例えばプリディストーションと呼ばれる方法を用いて出力段の増幅器13から歪みが低下した状態で増幅した第1,第2の送信信号TX1,TX2が得られる値である。
【0028】
ここで、プリディストーションについて詳細に説明する。一般に、無線通信機の送信系に設けられるマルチバンド電力増幅器11では、電力効率を向上させるため、増幅器12,13は利得の飽和点に近い動作点で使用される。一方、増幅器12,13は、図3に示すように、出力電力が飽和電力に近付くに従って、(1)入力振幅/出力振幅非線形(AM/AM)と呼ばれる振幅成分の歪みと、(2)入力振幅/出力位相非線形(AM/PM)と呼ばれる位相成分の歪みとが発生する。
【0029】
これらの非線形歪みが生じると、伝送特性が劣化すると共に、隣接チャネル干渉が生じるという問題がある。このため、図4に示すように、前段の増幅器12と後段の増幅器13とでそれぞれ発生する非線形歪みが逆特性となるように、増幅器12と増幅器13の間に段間整合回路14を設けると共に、そのインピーダンスが調整される。これにより、前段の増幅器12と後段の増幅器13とで発生する非線形歪みがキャンセルされ、低歪みで送信信号が増幅される。
【0030】
なお、増幅器12,13の振幅成分の歪みと位相成分の歪みは、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nのそれぞれで異なる。このため、段間整合回路14のインピーダンス値Zmは、制御回路17から出力される制御信号に応じて設定され、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nのそれぞれに対して調整される。
【0031】
入力段整合回路15は、後述の制御回路17によってそのインピーダンス値Ziが設定される。具体的には、入力段整合回路15は、制御回路17から出力される制御信号に応じて、所望な特性が得られるように、インピーダンス値Ziが最適な値に調整される。これにより、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じて、増幅器12とその入力側に接続された入力負荷ZLiとの間のインピーダンス整合が図られる。なお、入力負荷ZLiは、増幅器12の入力側に接続された回路であり、例えば第1,第2の送信信号TX1,TX2を生成する変調回路、ベースバンド処理回路等によって構成されている。
【0032】
出力段整合回路16は、後述の制御回路17によってそのインピーダンス値Zoが設定される。具体的には、出力段整合回路16は、入力段整合回路15と同様に、制御回路17から出力される制御信号に応じて、所望な特性が得られるように、インピーダンス値Zoが最適な値に調整される。これにより、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じて、増幅器13とその出力側に接続された出力負荷ZLoとの間のインピーダンス整合が図られる。なお、出力負荷ZLoは、例えば増幅器13の出力側に接続された第1,第2のデュプレクサ3,4、ダイプレクサ7、アンテナ8等によって構成されている。
【0033】
制御回路17は、制御回路17に入力された周波数設定情報Spに応じて段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを制御する。具体的には、制御回路17は、周波数設定情報Spに対応して例えばデジタルの制御信号(ビット信号)を出力する。これにより、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoが可変し、第1および第2の送信信号TX1,TX2が所望の特性となるように設定される。
【0034】
所望な特性としては、例えば第1,第2の送信信号TX1,TX2の非線形歪みをできるだけ低下させることである。このため、非線形歪みをキャンセルするように、段間整合回路14のインピーダンス値Zmが設定される。また、増幅器12と入力負荷ZLiとの間でインピーダンスが最も整合するように、入力段整合回路15のインピーダンス値Ziが設定されると共に、増幅器13と出力負荷ZLoとの間でインピーダンスが最も整合するように、出力段整合回路16のインピーダンス値Zoが設定される。
【0035】
本実施の形態による無線通信機1は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0036】
まず、無線通信機1の送信時には、周波数設定情報Spに応じてベースバンド信号を高周波の第1の送信信号TX1に変調し、第1の送信信号TX1を出力する。このとき、マルチバンド電力増幅器11は、第1の送信信号TX1を増幅し、第1のデュプレクサ3に向けて出力する。これにより、電力増幅後の第1の送信信号TX1は、デュプレクサ3、ダイプレクサ7を介してアンテナ8に供給され、アンテナ8から外部に向けて送信される。
【0037】
同様に、周波数設定情報Spに応じてベースバンド信号を高周波の第2の送信信号TX2に変調し、第2の送信信号TX2を出力する。このとき、マルチバンド電力増幅器11は、第2の送信信号TX2を増幅し、第2のデュプレクサ4に向けて出力する。これにより、電力増幅後の第2の送信信号TX2は、デュプレクサ4、ダイプレクサ7、アンテナ8を介して外部に向けて送信される。
【0038】
一方、無線通信機1の受信時には、アンテナ8から受信した微弱な受信信号RX1は、ダイプレクサ7、デュプレクサ3を介して第1の受信装置5に送られる。また、アンテナ8が第2の受信信号RX2を受信したときには、受信信号RX2は、ダイプレクサ7、デュプレクサ4を介して第2の受信装置6に送られる。そして、受信信号RX1,RX2は、第1,第2の受信装置5,6により、ベースバンド信号に複調される。
【0039】
本実施の形態では、周波数設定情報Spによって特定された第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoがそれぞれ制御される。この結果、第1,第2の送信信号TX1,TX2をチューニングする場合、各通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nのそれぞれにおいてインピーダンス整合を取ることができる。
【0040】
また、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoは制御回路17によって制御する構成としたから、増幅器12,13間や入力側、出力側の整合を取るだけでなく、例えば増幅器12,13の効率や第1,第2の送信信号TX1,TX2の歪み等を優先的に改善することができる。この結果、どのような送信信号TX1,TX2が入力されたときでも、増幅器12,13を用いて所望な特性となった第1,第2の送信信号TX1,TX2を出力することができる。
【0041】
また、制御回路17は、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zi,Zoと一緒に、段間整合回路14のインピーダンス値Zmを制御する構成とした。このため、マルチバンド電力増幅器11の入力側および出力側に限らず、マルチバンド電力増幅器11の内部でも第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じて増幅器12,13間のインピーダンス整合を取ることができる。これにより、例えば第1,第2の送信信号TX1,TX2の減衰や反射を防止して、ノイズの発生を抑制できると共に、第1,第2の送信信号TX1,TX2の出力レベルを高めることができる。
【0042】
なお、前記第1の実施の形態では、所望な特性として、第1,第2の送信信号TX1,TX2の非線形歪みを低下させる特性とした。このため、制御回路17は、非線形歪みをキャンセルするように、段間整合回路14のインピーダンス値Zmを設定した。
【0043】
しかし、本発明はこれに限らず、所望な特性としては、例えば第1,第2の送信信号TX1,TX2の出力レベルを最大にする場合には、増幅器12,13間や入力側、出力側との間でインピーダンスが最も整合するように、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを設定する構成としてもよい。また、所望な特性として、増幅器12,13を最大効率で動作させる構成としてもよい。
【0044】
また、増幅器12,13の出力レベル、歪み、効率の特性は互いにトレードオフの関係があるから、インピーダンス値Zm,Zi,Zoの最適な値としては、例えばいずれか一つの特性を優先させて決めるものである。
【0045】
また、所望な特性として、増幅器12,13の効率や第1,第2の送信信号TX1,TX2の歪みを優先させる場合には、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のうち出力段整合回路16のインピーダンス値Zoだけ出力レベルを最大にする値、即ち最も整合性が高い値からずらす構成としてもよい。
【0046】
さらに、3個以上の増幅器を直列接続した場合には、例えば最も大きな電流が流れる増幅器(例えば最終段の増幅器)とその前段の増幅器との間に設けた段間整合回路は、所望な特性として非線形歪みの低下を優先させる構成とし、他の段間整合回路は、所望な特性として出力レベルを最大にするために増幅器間のインピーダンスの整合性を優先させる構成としてもよい。
【0047】
また、3個以上の増幅器を直列接続した場合には、全ての増幅器の間に段間整合回路を設ける必要はなく、例えば増幅率が一番大きい増幅器(例えば最終段の増幅器)とその前段の増幅器との間にのみ段間整合回路を設ける構成としてもよい。さらに、複数の段間整合回路を設ける場合であっても、全ての段間整合回路のインピーダンス値を可変に制御する必要はなく、例えば増幅率が一番大きい増幅器に接続された段間整合回路のインピーダンス値は可変に制御され、他の段間整合回路のインピーダンス値は固定する構成としてもよい。
【0048】
次に、図5は、本発明の第2の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、複数の増幅器のうち少なくとも一の増幅器にバイアス回路を接続すると共に、該バイアス回路は、周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数の送信信号に対して高周波的に開放状態となる構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】
マルチバンド電力増幅器21は、第1の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器11とほぼ同様に、増幅器12,13、段間整合回路14、入力段整合回路15、出力段整合回路16および制御回路27を備えている。また、増幅器12,13の出力端には、それぞれバイアス電圧Vddを供給するバイアス回路22,23が接続されている。
【0050】
そして、増幅器12,13のうち例えば最終段の増幅器13に最も大きな電流が流れる場合には、少なくともこの増幅器13にバイアス回路23が接続され、周波数設定情報Spによって第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る送信信号の具体的な送信周波数が特定されたときに、該送信周波数に対してバイアス回路23は高周波的に開放状態となる構成となっている。
【0051】
具体的には、バイアス回路23は、ストリップライン、マイクロストリップライン等からなる長さ寸法L1〜Lm+nが互いに異なる(m+n)個のバイアスライン241〜24m+nと、該バイアスライン241〜24m+nの両端側にそれぞれ設けられ該バイアスライン241〜24m+nのうちいずれか1つを選択するスイッチ25とを備える構成としている。このバイアスライン241〜24m+nの一端側は、スイッチ25を介して増幅器13と出力段整合回路16との間に接続されている。一方、バイアスライン241〜24m+nの他端側は、スイッチ25を介してバイアス電圧Vddを供給するバイアス電源VBに接続されると共に、バイパスコンデンサ26を介してグランドに接続されている。このため、バイアスライン241〜24m+nの他端側は、第1,第2の送信信号TX1,TX2に対して高周波的に短絡されている。
【0052】
また、バイアスライン241〜24m+nの長さ寸法L1〜Lm+nは、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る具体的な通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて細かく調整するのが好ましい。このため、バイアスライン241〜24m+nの長さ寸法L1〜Lm+nは、通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに対応した波長λ1〜λm+nに対して、その1/4となる値(λ1/4〜λm+n/4)にそれぞれ設定されている。
【0053】
なお、バイアスライン241〜24m+nは、上述のように、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る具体的な通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて細かく調整するために3本以上設ける構成としてもよく、第1,第2の送信信号TX1,TX2に係る代表的な通信周波数に応じて2本設ける構成としてもよい。
【0054】
スイッチ25は、後述の制御回路27に接続され、制御回路27からの制御信号に応じて切換わる。そして、スイッチ25は、制御回路27からの制御信号に応じて、バイアスライン241〜24m+nのうちいずれか1つを選択するものである。
【0055】
制御回路27は、第1の実施の形態による制御回路17と同様に、周波数設定情報Spが入力されたときに、該周波数設定情報Spに対応した制御信号を出力し、この制御信号に応じて段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを変化させる。これにより、制御回路27は、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じた所望な特性が得られるように、段間整合回路14、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを最適な値に設定する。
【0056】
これに加え、制御回路27は、バイアス回路23のスイッチ25に向けて制御信号を出力する。これにより、スイッチ25は、制御回路27からの制御信号に応じて、バイアスライン241〜24m+nのうち周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nの1/4波長に対応したものを選択する。これにより、バイアスライン241〜24m+nの他端側は、周波数設定情報Spによって第1,第2の送信信号TX1,TX2の通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nのうち一の通信周波数が特定されたときに、この特定された通信周波数の信号に対して高周波的に開放状態となる。このため、増幅器13や出力段整合回路16に対して、バイアス回路23のインピーダンスの影響を小さくすることができる。
【0057】
かくして、本実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、第1,第2の送信信号TX1,TX2の通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nのうち周波数設定情報Spに基づいて増幅する一の通信周波数の送信信号に対してバイアス回路23が高周波的に開放状態となる構成とした。このため、バイアス回路23が増幅器13を通じて出力段整合回路16に接続されているときでも、出力段整合回路16に対するバイアス回路23のインピーダンスの影響を小さくすることができ、出力段整合回路16は制御回路27によって設定された最適な状態を保持することができる。
【0058】
なお、第2の実施の形態では、複数の増幅器12,13のうち最も大きな電流が流れる最終段の増幅器13に接続されたバイアス回路23について、周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nの信号に対して高周波的に開放状態になる構成とした。一方、大きな電流が流れない他の増幅器12に接続されたバイアス回路22は、必ずしも周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nの信号に対して高周波的に開放状態にしなくてもよい。
【0059】
また、前記第2の実施の形態では、複数の増幅器12,13にバイアス回路22,23をそれぞれ接続する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば複数の増幅器12,13のうち最も大きな電流が流れる最終段の増幅器13にのみバイアス回路23を接続して設け、他の増幅器12に接続したバイアス回路22は省く構成としてもよい。
【0060】
また、前記第2の実施の形態によるバイアス回路23では、スイッチ25を用いてバイアスライン241〜24m+nのうち周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nの1/4波長に対応したものを選択する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図6に示す変形例によるマルチバンド電力増幅器31のように、バイアス回路32は、増幅器13とバイアス電源VBとの間に接続されたインダクタ33と、該インダクタ33とバイアス電源VBとの接続点とグランドとの間に接続されたバイパスコンデンサ34とによって構成してもよい。
【0061】
ここで、インダクタ33は、図7に示すように、フェライト材料からなるフェライトコア35Aに銅等の導体材料からなる巻線35Bを巻回したチップコイル35によって構成されている。このチップコイル35のフェライトコア35Aは、両端側に位置して一対の脚部35Cを備えると共に、これらの脚部35Cには外部電極35Dが設けられている。そして、巻線35Bの両端側は、これら一対の外部電極35Dにそれぞれ接続されている。なお、フェライトコア35Aのうち脚部35Cとは反対側に位置する上面側には、絶縁樹脂材料からなるコーティング35Eを設け、該コーティング35Eによってフェライトコア35Aおよび巻線35Bの上面側を覆う構成としてもよい。
【0062】
また、増幅器12,13のうち例えば最終段の増幅器13には、最も大きな電流が流れる傾向がある。このため、増幅器13に大きな直流電流を供給するために、バイアス回路32のインダクタ33の直流抵抗Rdcは、できるだけ小さい方がよい。一方、出力段整合回路16等に対するバイアス回路32の影響を小さくするためには、通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nでのインダクタ33のインピーダンスZは、増幅器13に用いるトランジスタの出力インピーダンスZtr(例えばZtr=3〜5Ω程度)に比べてできるだけ大きい方がよい。
【0063】
このため、チップコイル35は、直流抵抗Rdcが例えば1Ωよりも小さく、通信周波数帯(例えば800MHz〜2GHz)でインピーダンスZが数百Ω(例えばZ=400Ω〜800Ω程度)となるものが使用される。具体的には、チップコイル35としては、例えば株式会社村田製作所製の商品番号LQW18CNR10K00Lのチップコイル等が適用可能である。このチップコイル35のインピーダンスZは、例えば図8に示す周波数特性を有する。
【0064】
一般的なインダクタ素子を用いた場合には、ストリップラインの幅を広げて直流抵抗Rdcを小さくするため、バイアス回路が大型化する傾向があり、小型な携帯電話等には適用し難い傾向がある。これに対し、変形例によるインダクタ33では、フェライトコア35Aに巻線35Bを施して高周波側のインピーダンスZを高めると共に、フェライトコア35Aを省いたときに比べて太くて短い巻線35Bを用いることで巻線35Bの巻数を減らして、直流抵抗Rdcの低抵抗化(例えばRdc<0.1Ω程度)を図っている。このため、小型なチップコイル35を用いて全ての通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nの信号に対して、バイアス回路32を高周波的に開放状態にすることができる。この結果、バイアス回路32を可変に制御する必要がないため、第1の実施の形態による制御回路17を用いることができ、回路構成を簡略化することができる。
【0065】
次に、図9は、本発明の第3の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、段間整合回路は、制御回路によって容量値が設定される可変容量素子を用いて、そのインピーダンス値を可変させるインピーダンス可変手段を備える構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0066】
マルチバンド電力増幅器41は、第1の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器11とほぼ同様に、増幅器12,13、段間整合回路42、入力段整合回路15、出力段整合回路16および制御回路44を備えている。
【0067】
段間整合回路42は、そのインピーダンス値Zmを周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて可変させるインピーダンス可変部43を備えている。このインピーダンス可変部43は、例えば増幅器12,13間に直列に接続されたコンデンサ43Aと、コンデンサ43Aの両端のうち入力側(増幅器12側)とグランドとの間に接続されたコイル43Bと、コンデンサ43Aの両端のうち出力側(増幅器13側)とグランドとの間に接続された可変容量素子43Cとを備えている。そして、可変容量素子43Cは、後述の制御回路44によってその容量値Cmが設定される。具体的には、段間整合回路42のインピーダンス値Zmが最適な値となるように、制御回路44から出力される制御信号に応じて可変容量素子43Cの容量値Cmが設定される。このとき、インピーダンス値Zmの最適な値は、例えば第1,第2の送信信号TX1,TX2が入力されたときに、非線形歪みが最も低下するような所望な特性が得られる値である。
【0068】
なお、可変容量素子43Cには、例えばエッチング等の微細加工技術を用いて形成され、可動部を物理的に変位させることによって、容量値を変化させるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子を用いる構成としてもよい。
【0069】
制御回路44は、周波数設定情報Spが入力され、該周波数設定情報Spに応じて段間整合回路42、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを制御する。具体的には、制御回路44は、周波数設定情報Spに対応した制御信号を出力する。このとき、段間整合回路42は、可変容量素子43Cの容量値Cmが制御回路44からの制御信号に応じて変化する。また、入力段整合回路15および出力段整合回路16は、そのインピーダンス値Zi,Zoが制御回路44からの制御信号に応じて変化する。
【0070】
これにより、制御回路44は、第1の実施の形態による制御回路17と同様に、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じた所望な特性が得られるように、段間整合回路42、入力段整合回路15および出力段整合回路16のインピーダンス値Zm,Zi,Zoを最適な値に設定する。
【0071】
かくして、本実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、段間整合回路42は、制御回路44によって容量値Cmが設定される可変容量素子43Cを備える構成とした。このとき、可変容量素子43Cは容量値Cmの微調整が容易であるから、他の素子を用いた場合に比べて、段間整合回路42の設計が容易になる。
【0072】
なお、前記第3の実施の形態では、第1の実施の形態に適用した場合を例に挙げて説明したが、第2の実施の形態に適用する構成としてもよい。
【0073】
また、前記第3の実施の形態では、入力段整合回路15、出力段整合回路16はそのインピーダンス値Zi,Zoが制御回路44によって制御される構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、段間整合回路42と同様に、入力段整合回路、出力段整合回路も、可変容量素子を用いてそのインピーダンス値が変化させる構成としてもよい。
【0074】
次に、図10は、本発明の第4の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、入力段整合回路および出力段整合回路は、互いにインピーダンス値が異なる複数のインピーダンス素子と、該複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択するスイッチとからなるインピーダンス可変部を備える構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0075】
マルチバンド電力増幅器51は、第1の実施の形態によるマルチバンド電力増幅器11とほぼ同様に、増幅器12,13、段間整合回路14、入力段整合回路52、出力段整合回路56および制御回路60を備えている。
【0076】
但し、入力段整合回路52は、周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じてインピーダンス値Ziを変化させるために、スイッチ55を用いて複数のインピーダンス素子541〜54m+nのうちいずれか1つを選択するインピーダンス可変部53を備える構成とした点で、第1の実施の形態による入力段整合回路15とは異なる。同様に、出力段整合回路56は、周波数設定情報Spによって特定された通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じてインピーダンス値Zoを変化させるために、スイッチ59を用いて複数のインピーダンス素子581〜58m+nのうちいずれか1つを選択するインピーダンス可変部57を備える構成とした点で、第1の実施の形態による出力段整合回路16とは異なる。
【0077】
ここで、入力段整合回路52のインピーダンス素子541〜54m+nは、第1,第2の送信信号TX1,TX2の通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて例えば(m+n)個設けられ、各通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nで所望な特性が得られる最適なインピーダンス値Zi1〜Zim+nをそれぞれ有している。また、出力段整合回路56のインピーダンス素子581〜58m+nも、インピーダンス素子541〜54m+nと同様に、第1,第2の送信信号TX1,TX2の通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて例えば(m+n)個設けられ、各通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nで所望な特性が得られる最適なインピーダンス値Zo1〜Zom+nをそれぞれ有している。
【0078】
なお、インピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nは、送信信号TX1,TX2の具体的な通信周波数f11〜f1m,f21〜f2nに応じて細かく調整するために3個以上設ける構成としてもよく、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じて2個設ける構成としてもよい。
【0079】
スイッチ55は、インピーダンス素子541〜54m+nの両端側にそれぞれ設けられた選択スイッチであり、後述の制御回路60に接続され、制御回路60からの制御信号に応じて切換わる。同様に、スイッチ59は、インピーダンス素子581〜58m+nの両端側にそれぞれ設けられた選択スイッチであり、後述の制御回路60に接続され、制御回路60からの制御信号に応じて切換わる。そして、スイッチ55,59は、制御回路60からの制御信号に応じて、インピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nのうちいずれか1つを選択するものである。
【0080】
制御回路60は、周波数設定情報Spが入力され、該周波数設定情報Spに応じて段間整合回路14のインピーダンス値Zmを制御すると共に、入力段整合回路52および出力段整合回路56のインピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nのうちいずれか1つを選択する。具体的には、制御回路60は、周波数設定情報Spに対応した制御信号を出力する。このとき、段間整合回路14は、そのインピーダンス値Zmが制御回路60からの制御信号に応じて変化する。また、入力段整合回路52は、制御回路60からの制御信号に応じてスイッチ55が切換わり、インピーダンス素子541〜54m+nのうちいずれか1つを選択する。さらに、出力段整合回路56は、制御回路60からの制御信号に応じてスイッチ59が切換わり、インピーダンス素子581〜58m+nのうちいずれか1つを選択する。
【0081】
これにより、制御回路60は、第1の実施の形態による制御回路17と同様に、第1,第2の送信信号TX1,TX2に応じた所望な特性が得られるように、段間整合回路14のインピーダンス値Zmを最適な値に設定すると共に、入力段整合回路52および出力段整合回路56のインピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nのうち最適な値をもったいずれか1つを選択する。
【0082】
かくして、本実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、入力段整合回路52および出力段整合回路56は、スイッチ55,59によって複数のインピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nのうちいずれか1つを選択する構成とした。このため、制御回路60がスイッチ55,59を切換えることによって、複数のインピーダンス素子541〜54m+n,581〜58m+nのうち最適な値となる1つの素子を選択することができる。
【0083】
なお、前記第4の実施の形態では、段間整合回路14はそのインピーダンス値Zmが制御回路60によって制御される構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、入力段整合回路52や出力段整合回路56と同様に、段間整合回路も、スイッチによって複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択する構成としてもよい。また、段間整合回路、入力段整合回路、出力段整合回路は、複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択する構成に加えて、第3の実施の形態と同様な可変容量素子を組み合わせる構成としてもよい。
【0084】
また、前記第4の実施の形態では、スイッチ55,59として一般的な選択スイッチを用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばエッチング等の微細加工技術を用いて形成され、可動部を物理的に変位させることによって、高周波の信号の導通状態を切り換えるMEMSスイッチを用いる構成としてもよい。
【0085】
このようにMEMSスイッチを用いた場合には、他のスイッチを用いた場合に比べて、広い周波数帯域に適用できると共に、低損失で高アイソレーションの実現が容易である。このため、複数のインピーダンス素子のうち選択された1つ以外のものに送信信号が漏洩することがなく、漏洩信号に伴うノイズの発生を抑制することができる。
【0086】
また、前記第4の実施の形態では、第1の実施の形態に適用した場合を例に挙げて説明したが、第2,第3の実施の形態に適用する構成としてもよい。
【0087】
また、前記各実施の形態では、マルチバンド電力増幅器11,21,31,41,51を2つの通信周波数帯の第1,第2の送信信号TX1,TX2を出力するデュアルバンドの送信装置2に適用する構成としたが、3つ以上の通信周波数帯の送信信号を出力する送信装置に適用してもよい。さらに、第1,第2の送信信号TX1,TX2は、800MHz帯の信号を用いる構成としたが、例えば1.5GHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯等の他の通信周波数帯の信号を用いる構成としてもよい。
【0088】
また、前記各実施の形態では、マルチバンド電力増幅器11,21,31,41,51を無線通信機1に適用した場合を例に挙げて説明したが、例えば無線LAN装置等のように、高周波の信号を増幅する装置に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0089】
11,21,31,41,51 マルチバンド電力増幅器
12 入力段の増幅器
13 出力段の増幅器
14,42 段間整合回路
22,23,32 バイアス回路
15,52 入力段整合回路
16,56 出力段整合回路
17,27,44,60 制御回路
43C 可変容量素子
541〜54m+n,581〜58m+n インピーダンス素子
55,59 スイッチ
43,53,57 インピーダンス可変部(インピーダンス可変手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局から発信される周波数設定情報に基づいて複数の通信周波数帯のうち一の通信周波数の送信信号を増幅するマルチバンド電力増幅器であって、
互いに直列接続された複数の増幅器と、
該複数の増幅器のうち初段の増幅器の入力端に接続され、入力負荷との間のインピーダンス整合をはかる入力段整合回路と、
該複数の増幅器のうち終段の増幅器の出力端に接続され、出力負荷との間のインピーダンス整合をはかる出力段整合回路と、
前記複数の増幅器のうち互いに隣合う2つの増幅器の間に接続され、これら2つの増幅器の間のインピーダンス整合をはかる少なくとも1つの段間整合回路と、
前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数を特定し、該通信周波数に応じて前記入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のインピーダンス値を可変に制御する制御回路とを備えたことを特徴とするマルチバンド電力増幅器。
【請求項2】
前記入力段整合回路、出力段整合回路および段間整合回路のうち少なくとも一の回路は、そのインピーダンス値を前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数に応じて可変させるインピーダンス可変手段を備える構成としてなる請求項1に記載のマルチバンド電力増幅器。
【請求項3】
前記インピーダンス可変手段は、互いにインピーダンス値が異なる複数のインピーダンス素子と、前記制御回路によって切換え操作され該複数のインピーダンス素子のうちいずれか1つを選択するスイッチとを備える構成としてなる請求項2に記載のマルチバンド電力増幅器。
【請求項4】
前記インピーダンス可変手段は、前記制御回路によってその容量値が可変に設定される可変容量素子を備える構成としてなる請求項2に記載のマルチバンド電力増幅器。
【請求項5】
前記複数の増幅器のうち少なくとも1つの増幅器にはバイアス電圧を供給するバイアス回路を接続し、該バイアス回路は、前記周波数設定情報に基づいて増幅する一の通信周波数の送信信号に対して開放状態となる請求項1,2,3または4に記載のマルチバンド電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−155357(P2011−155357A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14187(P2010−14187)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】