説明

マルチパス等化内蔵受信変換装置

【課題】マルチパス等化処理を行う受信変換装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置との両方に対応可能なマルチパス等化内蔵受信変換装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置は、第1及び第2のスイッチ19,110を切り替えることにより、マルチパス等化処理、バイパス処理及び二段のSAWフィルタによる隣接チャンネル信号の抑圧処理のいずれかに対応することが可能となる。これにより、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、マルチパス等化処理を行う受信変換装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置との両方に対応可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地上デジタル放送システムに用いられ、受信した放送波信号を周波数変換すると共に、マルチパス遅延波により歪んだ周波数成分を補償して等化するマルチパス等化内蔵受信変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上デジタル放送システムでは、放送サービスエリアの拡大および難視聴地域の解消を目的として、多数の中継装置を所定のエリアに分散配置し、各中継装置にてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式による放送波信号を多段中継する方式が採用されている。この種のシステムにおける中継装置には、受信変換装置が備えられている。受信変換装置は、受信された放送波信号を中間周波数帯のIF信号に変換し、このIF信号に含まれたノイズ成分等を補償する機能を有する。中継装置は、受信変換装置でノイズ成分等が補償されたIF信号を無線周波数帯の放送波信号へ変換し、後段の中継装置又はサービスエリア内のユーザへ再送信する。
【0003】
一般に受信変換装置には、以下に示す二種類の受信変換装置がある。一つは、一段のSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)フィルタと、マルチパス等化部とを備え、放送波信号に含まれるマルチパスによる歪みを抑圧するものである。この種の受信変換装置では、マルチパス等化部が故障等した場合、SAWフィルタを通過したIF信号を、マルチパス等化部をバイパスして後段へ出力するようにしている(例えば、特許文献1参照)。もう一つの受信変換装置は、二段のSAWフィルタを備え、受け取った放送波信号に対して二度の帯域通過処理を行うことで隣接チャンネル信号の妨害を抑圧する。
【0004】
ところで、中継装置が設置される中継所では、通信を行う放送局及び放送波信号のチャンネルに応じて、一段のSAWフィルタ及びマルチパス等化部を備えた受信変換装置を搭載する中継装置と、SAWフィルタを二段備えた受信変換装置を搭載する中継装置とが混在する場合がある。一般に中継所では、中継装置の故障等に備えて、受信変換装置の予備機を準備している。そのため、上述のように二種類の中継装置が混在するような中継所では、それぞれの受信変換装置の予備機を準備しておかねばならず負担となっていた。
【特許文献1】特開平10−233630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、中継装置を設置する中継所において、マルチパス等化処理を行う受信変換装置を搭載する中継装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置を搭載する中継装置とが混在する場合、それぞれの受信変換装置の予備機を準備するのに負担を強いられていた。
【0006】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、マルチパス等化処理を行う受信変換装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置との両方に対応可能なマルチパス等化内蔵受信変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るマルチパス内蔵受信変換装置は、無線周波数帯の放送波信号を中間周波数帯のIF(Intermediate Frequency)信号に変換する周波数変換手段と、前記IF信号における予め設定された周波数帯の信号成分のみを通過させる第1の帯域通過フィルタと、前記第1の帯域通過フィルタを通過したIF信号を2系統に分配する第1の分配手段と、前記第1の分配手段で分配された一方のIF信号を受け取り、マルチパス等化を行うマルチパス等化手段と、前記第1の分配手段で分配された他方のIF信号をさらに2系統に分配する第2の分配手段と、前記第2の分配手段で分配された一方のIF信号における前記予め設定された周波数帯の信号成分のみを通過させる第2の帯域通過フィルタと、前記第2の分配手段で分配された他方のIF信号をバイパスするバイパス手段と、前記第2の帯域通過フィルタを通過したIF信号及び前記バイパス手段でバイパスされたIF信号のいずれか一方を選択的に導出する第1の選択手段と、前記マルチパス等化手段からのIF信号及び前記第1の選択手段により導出されるIF信号のいずれか一方を選択的に導出する第2の選択手段とを具備する。
【0008】
上記構成によるマルチパス等化内蔵受信変換装置では、第1及び第2の選択手段で導出する信号を選択することにより、マルチパス等化処理、バイパス処理及び二段の帯域通過フィルタによる隣接チャンネル信号の抑圧処理のいずれかに対応することが可能となる。これにより、マルチパス等化内蔵受信変換装置の使用態様を状況に応じて切り替えることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、マルチパス等化処理を行う受信変換装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置との両方に対応可能なマルチパス等化内蔵受信変換装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置の機能構成を示すブロック図である。マルチパス等化内蔵受信変換装置は、受信されたマイクロ波帯の放送波信号を受け取り、中間周波数帯のIF(Intermediate Frequency)信号に周波数変換すると共に、信号に含まれるノイズ成分等を抑圧して後段の装置(図示せず)へ出力する。
【0012】
ダウンコンバータ11は、シンセサイザ12からの局部発信信号に基づいて、受け取った放送波信号を所望の中間周波数に周波数変換する。地上デジタル放送で用いられる中継装置では、この中間周波数には37.15MHzが採用されている。シンセサイザ12は、外部から入力される周波数10MHzのリファレンス信号を基準にしてこの局部発振信号を生成する。
【0013】
SAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)フィルタ13は、所望のチャンネルの信号のみが抽出されるように、そのフィルタ特性が設定されている。ダウンコンバータ11で周波数変換された信号は、SAWフィルタ13を通過することで、所望のチャンネル信号のみが抽出される。SAWフィルタ13を通過した信号は、分配部14で2系統に分配され、一方がマルチパス等化部15へ供給され、他方が分配部16へ供給される。
【0014】
マルチパス等化部15は、複数の遅延波が存在するマルチパス環境下においてマルチパス遅延波により歪んだ放送波信号の周波数成分を補償して等化するものである。マルチパス等化部15は、分配部14からのIF信号におけるマルチパスによる波形歪みを補償する。この際、マルチパス等化部15の出力は、周波数の非常に低いIF信号(Low−IF)となる。そのため、マルチパス等化後の信号は、マルチパス等化部15の後段に設置されたアップコンバータ17により、所望の中間周波数帯のIF信号に変換され、第2のスイッチ110へ出力される。
【0015】
分配部16は、分配部14で分配された他方のIF信号を受け取り、さらに2系統に分配する。分配された一方のIF信号はSAWフィルタ18へ供給され、他方のIF信号はSAWフィルタ18を迂回して第1のスイッチ19へ供給される。
【0016】
SAWフィルタ18は、所望のチャンネルの信号のみが抽出されるように、そのフィルタ特性が設定されている。分配部16で分配されたIF信号は、SAWフィルタ18を通過することで、SAWフィルタ13により抽出されたチャンネル信号と同一のチャンネル信号が再度抽出される。SAWフィルタ18を通過した信号は、第1のスイッチ19へ供給される。
【0017】
第1のスイッチ19は、分配部16で分配されてバイパスされたIF信号と、SAWフィルタ18を通過したIF信号とを受け取り、外部からの指示に従って、いずれか一方のIF信号を選択的に導出するものである。
【0018】
第2のスイッチ110は、アップコンバータ17からのIF信号と、スイッチ19からのIF信号とを受け取り、外部からの指示に従って、いずれか一方のIF信号を選択的に導出するものである。
【0019】
第2のスイッチ110から導出されたIF信号は、AGC(Automatic Gain Control:自動利得制御)部111で信号の強度を調整され、後段の装置(図示せず)へ供給される。
【0020】
次に、上記構成における動作を説明する。マルチパス等化内蔵受信変換装置は、ユーザにより第1及び第2のスイッチ19,110が切り替えられて使用される。マルチパス等化内蔵受信変換装置は、第1及び第2のスイッチ19,110が切り替えられることにより、マルチパス等化処理、バイパス処理及びSAWフィルタによる隣接チャンネル信号の抑圧処理の3つの使用態様に対応することが可能である。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置の使用態様と第1及び第2のスイッチ19,110の関係を示す図である。
【0022】
第1のスイッチ19を任意に設定し、第2のスイッチ110をマルチパス等化部15側に切り替える場合、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、マルチパス等化部15から出力された信号を後段へ出力することが可能となる。これにより、スイッチ19,110を切り替えることで、マルチパスによる波形歪みの補償の要求に応じることが可能となる。
【0023】
また、第1のスイッチ19を分配部16からのバイパス信号を導出するように切り替え、第2のスイッチ110を第1のスイッチ19からのIF信号を導出するように切り替える場合、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、SAWフィルタ13を一段のみ通過させたIF信号を後段へ出力することが可能となる。これにより、マルチパス等化部15が故障等した場合のバイパス処理に対応することが可能となる。
【0024】
また、第1のスイッチ19をSAWフィルタ18側に切り替え、第2のスイッチ110を第1のスイッチ19からのIF信号の導出に切り替える場合、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、二段のSAWフィルタ、つまりSAWフィルタ13及びSAWフィルタ18を通過させたIF信号を後段へ出力することが可能となる。これにより、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、放送波信号を二段のSAWフィルタに通過させて所望チャンネル信号のみを抽出して後段へ出力することが可能となる。
【0025】
以上のように、上記一実施形態では、第1及び第2のスイッチ19,110を切り替えることにより、マルチパス等化内蔵受信変換装置の使用態様を切り替えることが可能である。これにより、マルチパス等化内蔵受信変換装置は、状況に応じて、マルチパス等化処理、バイパス処理及び二段のSAWフィルタによる隣接チャンネル信号の抑圧処理のいずれかに処理を切り替えることが可能となる。
【0026】
したがって、本発明に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置は、マルチパス等化処理を行う受信変換装置と、SAWフィルタを二段備えて隣接チャンネル信号を抑圧する受信変換装置との両方に対応することができる。
【0027】
なお、この発明は上記一実施形態に限定されるものではない。例えば上記一実施形態では、分配部14で分配されたIF信号が分配部16によりさらに2系統に分配され、第1のスイッチ19でそれらのIF信号を選択的に切り替える例について説明したが、分配部16の代わりに切換器を設け、スイッチ19の代わりに合成器を設ける場合であっても同様に実施可能である。この場合、分配部14で分配されたIF信号を切替器により導出先を選択的に切り替え、それぞれの系統からの出力を合成器により合成するようにする。
【0028】
さらに、この発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るマルチパス等化内蔵受信変換装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のマルチパス等化内蔵受信変換装置の使用態様と第1及び第2のスイッチの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
11…ダウンコンバータ
12…シンセサイザ
13…SAWフィルタ
14…分配部
15…マルチパス等化部
16…分配部
17…アップコンバータ
18…SAWフィルタ
19…第1のスイッチ
110…第2のスイッチ
111…AGC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数帯の放送波信号を中間周波数帯のIF(Intermediate Frequency)信号に変換する周波数変換手段と、
前記IF信号における予め設定された周波数帯の信号成分のみを通過させる第1の帯域通過フィルタと、
前記第1の帯域通過フィルタを通過したIF信号を2系統に分配する第1の分配手段と、
前記第1の分配手段で分配された一方のIF信号を受け取り、マルチパス等化を行うマルチパス等化手段と、
前記第1の分配手段で分配された他方のIF信号をさらに2系統に分配する第2の分配手段と、
前記第2の分配手段で分配された一方のIF信号における前記予め設定された周波数帯の信号成分のみを通過させる第2の帯域通過フィルタと、
前記第2の分配手段で分配された他方のIF信号をバイパスするバイパス手段と、
前記第2の帯域通過フィルタを通過したIF信号及び前記バイパス手段でバイパスされたIF信号のいずれか一方を選択的に導出する第1の選択手段と、
前記マルチパス等化手段からのIF信号及び前記第1の選択手段により導出されるIF信号のいずれか一方を選択的に導出する第2の選択手段と
を具備することを特徴とするマルチパス等化内蔵受信変換装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−154118(P2010−154118A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328712(P2008−328712)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】