説明

マルチメディア情報提供システム、サーバ装置、端末装置、マルチメディア情報提供方法、ならびに、プログラム

【課題】試聴用の低品質マルチメディア情報から高品質マルチメディア情報を復元する際に、ユーザが暗号鍵等を管理する必要のないマルチメディア情報提供システム等提供する。
【解決手段】サーバ装置は、端末装置から試聴要求があると(401)、端末装置に割り当てた初期値からカオス乱数列を生成して、これをノイズとして第1の混合比でマルチメディア情報とミキシングし、結果を第1の提供用マルチメディア情報として送信し(402)、向上要求があると(405)、端末装置に割り当てた初期値からカオス乱数列を生成して、これをノイズとして第2の混合比でマルチメディア情報とミキシングし、結果を第1の提供用マルチメディア情報として送信し(406)、端末装置は第1、第2の提供用マルチメディア情報を成分分析して、ノイズを除去し、高品質のマルチメディア情報を復元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低品質のマルチメディア情報を試聴したユーザが高品質のマルチメディア情報を求めると、試聴可能な他の低品質のマルチメディア情報を提供することにより、高品質のマルチメディア情報を取得させることで、ユーザが暗号鍵等を管理する必要のないマルチメディア情報提供システム、サーバ装置、端末装置、マルチメディア情報提供方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音声や静止画、動画などのマルチメディア情報をユーザに試聴用に提供する際には、ビットレートやサンプリングレートが低い低品質のものを用いて、購入を希望するユーザには、別途高品質のマルチメディア情報を提供する手法が利用されている。
【0003】
一方で、複数の信号源から発せられた信号が異なる混合比で混合された信号が得られる場合に、元の信号源における信号を分離、復元する手法として、独立成分分析が広く用いられている。
【0004】
これらに関連する技術については、たとえば、以下のような文献で開示されている。
【特許文献1】特許3214837号公報
【特許文献2】特開2003−141102号公報
【非特許文献1】A.Cichocki,S.Amari,R.Zdunek,R.Kompass,G.Hori and Z.He,"Extended SMART Algorithms for Non-Negative Matrix Factorization," Lecture Notes in Artificial Intelligence,Vol.4029 (2006),pp.548-562,(8th International Conference on Artificial Intelligence and Soft Computing,ICAISC06,Zakopane,Poland,25-29,June 2006),2006年6月
【0005】
ここで、[特許文献1]では、マルチメディア情報に対する電子透かしとしてカオス系列からなる乱数列を用い、このカオス系列の種を渡すことで、電子透かしがマルチメディア情報に付与されているか否かを判断する技術が提案されている。すなわち、電子透かしを施すことによって、マルチメディア情報を低品質にする一方で、カオス系列の種を鍵として、電子透かしをマルチメディア情報から除去し、これを高品質なものに復元にすることができる、と考えられる。
【0006】
一方、[特許文献2]では、主成分分析や独立成分分析を用いて、化学物質の量の変化を複数の成分に分離し、当該成分により、当該化学物質の生成の原因をグループ化する技術が提案されている。
【0007】
一般に、独立成分分析においては、
(1)m個のチャンネルから観測信号を受け付けたときに、その時間方向の観測値を列方向に並べた行を、チャンネルの順序に並べたm行T列の観測信号行列X
を考える。
【0008】
そして、観測信号行列Xを、
(2)n個のチャンネルの源信号の時間方向の源信号値を列方向に並べた行を、チャンネルの順序に並べたn行T列の源信号行列Sと、
(3)源信号の各チャンネルから観測信号の各チャンネルまでの経路の様子を表すm行n列の混合比行列Aと、
(4)m行T列の雑音行列Nと、
に、分離する。
【0009】
その際に、所定の行列演算c(・,・)について
(5)X = c(A,S) + N
を満たすように分離をする。行列演算c(・,・)としては、行列の積、行列のコンボリューションのほか、各種の行列の非線型リンク関数が用いられる。
【0010】
また、この際に、勾配法、共役勾配法、ニュートン法などの反復法を用いるのが一般的であるが、
(6)m行T列の行列とm行n列の行列とn行T列の行列とを受け付けてスカラー値を返す行列関数J(・,・,・)
をコスト関数として採用する。
【0011】
具体的には、J(X,A,S)に対して、Xを固定して、A,Sを変化させたときに、J(X,A,S)の値が最小(極小。一般には、極大もしくは極小、すなわち、「極値」。)となるようなA,Sの組合せを計算する。
【0012】
コスト関数としては、たとえば、J(X,A,S)として、行列(X - AS)の絶対値最大の要素の絶対値(要素の最大絶対値)や、行列(X - AS)の各要素の自乗平均、行列(X - AS)の各要素の総自乗和等を用いることができる。また、必要に応じて、非負性(non-negativity)、疎性(sparseness)、統計的独立性(statistical independence)などの制約を課すこともある。
【0013】
単純に反復法を適用するのみでは、源信号同士の強弱の差が大きい場合や観測信号同士の差が小さい場合(観測信号同士が似ている場合)には、収束に時間がかかり、しかも信号の分離性能が落ちるという問題がある。
【0014】
そこで、発明者らは、[非特許文献1]に開示するように、高速に収束し、信号の分離性能を向上させるような信号分離技術の研究を進めるとともに、この技術が応用できる分野の探求を続けている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、[特許文献1]に開示の発明においては、マルチメディア情報の提供を受ける側にカオス乱数の種となる暗号鍵を渡す必要がある。しかしながら、このような暗号鍵の情報は、ユーザ側ではなく、提供側で管理した方が、不正使用の可能性を低く抑えることができることも多い。
【0016】
また、[特許文献2]、[非特許文献1]に開示される各種の信号分離の技術を適用することにより、ユーザ側と提供側でやりとりされる情報が盗聴・窃視等されたとしても問題が起きにくいようなものとしたい、という要望は大きい。
【0017】
本発明は、以上のような課題を解決するためのもので、低品質のマルチメディア情報を試聴したユーザが高品質のマルチメディア情報を求めると、試聴可能な他の低品質のマルチメディア情報を提供することにより、高品質のマルチメディア情報を取得させることで、ユーザが暗号鍵等を管理する必要のないマルチメディア情報提供システム、サーバ装置、端末装置、マルチメディア情報提供方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の観点に係るマルチメディア情報提供システムは、サーバ装置と、端末装置と、を有し、以下のように構成する。
【0019】
すなわち、サーバ装置は、音声もしくは画像の少なくとも一方を含むマルチメディア情報をあらかじめ記憶するマルチメディア情報記憶部、入力として与えられた値を初期値とするカオス系列からなる乱数列を生成するカオス系列生成部、初期値を選択する初期値選択部、選択された初期値を、カオス系列生成部に入力として与えて生成された乱数列を取得する第1乱数列取得部、第1乱数列取得部により取得された乱数をノイズ信号として、第1の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第1の配信用マルチメディア情報を得る第1混合部、得られた第1の配信用マルチメディア情報を、端末装置へ送信する第1送信部、選択された初期値を当該端末装置に対応付けて記憶する初期値記憶部を備える。
【0020】
一方、端末装置は、サーバ装置から送信された第1の配信用マルチメディア情報を受信する第1受信部、受信された第1の配信用マルチメディア情報を再生する第1再生部、サーバ装置へ、再生された第1の配信用マルチメディア情報の品質を向上させる第2のマルチメディア情報を要求する向上要求を送信する要求送信部を備える。
【0021】
さらに、サーバ装置は、端末装置から送信された向上要求を受信する要求受信部、受信された品質向上要求を送信した端末装置に対応付けて初期値記憶部に記憶された初期値を、カオス系列生成部に入力として与えて生成された乱数列を取得する第2乱数列取得部、第2乱数列取得部により取得された乱数をノイズ信号として、当該第1の混合比とは異なる第2の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第2の配信用マルチメディア情報を得る第2混合部、得られた第2の配信用マルチメディア情報を、端末装置へ送信する第2送信部をさらに備える。
【0022】
そして、端末装置は、サーバ装置から送信された第2の配信用マルチメディア情報を受信する第2受信部、受信された第1の配信用マルチメディア情報と、受信された第2の配信用マルチメディア情報と、を入力信号として成分分析して、2つの成分信号を得る成分分析部、出力された2つの成分信号のうち、当該成分信号のうち当該カオス系列の特徴を呈する程度が低い方を、高品質マルチメディア情報として選択する情報選択部、選択された高品質マルチメディア情報を再生する高品質再生部をさらに備える。
【0023】
また、本発明のマルチメディア情報提供システムにおいて、ある成分信号が当該カオス系列の特徴を呈する程度は、当該成分信号のリターンマップ、相関次元もしくは最大リャプノフ指数により定められるように構成することができる。
【0024】
また、本発明のマルチメディア情報提供システムにおいて、当該カオス系列は、所定の範囲Dを定義域および値域とする関数F(・)を、Dに含まれる任意の初期値zに対して繰り返し適用して得られる
z,F(z),F(F(z)),F(F(F(z))),…
であり、ある成分信号
s1,s2,s3,…
が当該カオス系列の特徴を呈する程度を表す特徴値は、当該成分信号におけるi+1 (i≧1)番目の要素の誤差
|si+1 - F(si)|
の総和、自乗和、平均、もしくは、重み付き平均によって定められ、当該特徴値が小さければ小さいほど、当該カオス系列の特徴を呈する程度が高いものとするように構成することができる。
【0025】
また、本発明のマルチメディア情報提供システムにおいて、当該関数F(・)は、
Ta(cosθ) = cos(aθ)
と定義されるa (a≧2)次のチェビシェフ関数Ta(・)であるように構成することができる。
【0026】
また、本発明のマルチメディア情報提供システムにおいて、端末装置は、受信された第2の配信用マルチメディア情報を再生する第2再生部をさらに備えるように構成することができる。
【0027】
また、本発明のマルチメディア情報提供システムであって、サーバ装置において、初期値選択部は、端末装置ごとに、ランダムに初期値を選択するように構成することができる。
【0028】
本発明のその他の観点に係るサーバ装置は、上記のマルチメディア情報提供システムが有するサーバ装置である。
【0029】
本発明のその他の観点に係る端末装置は、上記のマルチメディア情報提供システムが有する端末装置である。
【0030】
本発明のその他の観点に係るマルチメディア情報提供方法は、サーバ装置と、端末装置と、を用い、サーバ装置は、音声もしくは画像の少なくとも一方を含むマルチメディア情報をあらかじめ記憶するマルチメディア情報記憶部、カオス系列生成部、初期値選択部、第1乱数列取得部、第1混合部、第1送信部、初期値記憶部、要求受信部、第2乱数列取得部、第2混合部、第2送信部を有し、端末装置は、第1受信部、第1再生部、要求送信部、第2受信部、成分分析部、情報選択部、高品質再生部、を有し、以下のように構成する。
【0031】
すなわち、サーバ装置において、カオス系列生成部が、入力として与えられた値を初期値とするカオス系列からなる乱数列を生成するカオス系列生成工程、初期値選択部が、初期値を選択する初期値選択工程、第1乱数列取得部が、選択された初期値を、カオス系列生成工程に入力として与えて生成された乱数列を取得する第1乱数列取得工程、第1混合部が、第1乱数列取得工程にて取得された乱数をノイズ信号として、第1の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第1の配信用マルチメディア情報を得る第1混合工程、第1送信部が、得られた第1の配信用マルチメディア情報を、端末装置へ送信する第1送信工程、初期値記憶部が、選択された初期値を当該端末装置に対応付けて記憶する初期値記憶工程を備える。
【0032】
一方、端末装置において、第1受信部が、サーバ装置から送信された第1の配信用マルチメディア情報を受信する第1受信工程、第1再生部が、受信された第1の配信用マルチメディア情報を再生する第1再生工程、要求送信部が、サーバ装置へ、再生された第1の配信用マルチメディア情報の品質を向上させる第2のマルチメディア情報を要求する向上要求を送信する要求送信工程を備える。
【0033】
さらに、サーバ装置において、要求受信部が、端末装置から送信された向上要求を受信する要求受信工程、第2乱数列取得部が、受信された品質向上要求を送信した端末装置に対応付けて初期値記憶工程にて記憶された初期値を、カオス系列生成工程に入力として与えて生成された乱数列を取得する第2乱数列取得工程、第2混合部が、第2乱数列取得工程にて取得された乱数をノイズ信号として、当該第1の混合比とは異なる第2の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第2の配信用マルチメディア情報を得る第2混合工程、第2送信部が、得られた第2の配信用マルチメディア情報を、端末装置へ送信する第2送信工程をさらに備える。
【0034】
そして、端末装置において、第2受信部が、サーバ装置から送信された第2の配信用マルチメディア情報を受信する第2受信工程、成分分析部が、受信された第1の配信用マルチメディア情報と、受信された第2の配信用マルチメディア情報と、を入力信号として成分分析して、2つの成分信号を得る成分分析工程、情報選択部が、出力された2つの成分信号のうち、当該成分信号のうち当該カオス系列の特徴を呈する程度が低い方を、高品質マルチメディア情報として選択する情報選択工程、高品質再生部が、選択された高品質マルチメディア情報を再生する高品質再生工程をさらに備える。
【0035】
また、本発明のマルチメディア情報提供方法において、ある成分信号が当該カオス系列の特徴を呈する程度は、当該成分信号のリターンマップ、相関次元もしくは最大リャプノフ指数により定められるように構成することができる。
【0036】
また、本発明のマルチメディア情報提供方法において、当該カオス系列は、所定の範囲Dを定義域および値域とする関数F(・)を、Dに含まれる任意の初期値zに対して繰り返し適用して得られる
z,F(z),F(F(z)),F(F(F(z))),…
であり、ある成分信号
s1,s2,s3,…
が当該カオス系列の特徴を呈する程度を表す特徴値は、当該成分信号におけるi+1 (i≧1)番目の要素の誤差
|si+1 - F(si)|
の総和、自乗和、平均、もしくは、重み付き平均によって定められ、当該特徴値が小さければ小さいほど、当該カオス系列の特徴を呈する程度が高いものとするように構成することができる。
【0037】
また、本発明のマルチメディア情報提供方法において、当該関数F(・)は、
Ta(cosθ) = cos(aθ)
と定義されるa (a≧2)次のチェビシェフ関数Ta(・)であるように構成することができる。
【0038】
また、本発明のマルチメディア情報提供方法において、端末装置は、第2再生部をさらに有し、第2再生部が、受信された第2の配信用マルチメディア情報を再生する第2再生工程をさらに備えるように構成することができる。
【0039】
また、本発明のマルチメディア情報提供方法において、サーバ装置において、初期値選択工程では、端末装置ごとに、ランダムに初期値を選択するように構成することができる。
【0040】
本発明のその他の観点に係るプログラムは、コンピュータもしくはディジタル信号プロセッサを、上記のマルチメディア情報提供システムのサーバ装置の各部もしくは端末装置の各部として機能させ、もしくは、上記のマルチメディア情報提供方法を実行させるように構成する。
【0041】
また、本発明のプログラムは、コンパクトディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、ディジタルビデオディスク、磁気テープ、半導体メモリ等のコンピュータ読取可能な情報記憶媒体に記録することができる。
【0042】
上記プログラムは、プログラムが実行されるコンピュータやディジタル信号プロセッサとは独立して、コンピュータ通信網を介して配布・販売することができる。また、上記情報記憶媒体は、コンピュータやディジタル信号プロセッサとは独立して配布・販売することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、低品質のマルチメディア情報を試聴したユーザが高品質のマルチメディア情報を求めると、試聴可能な他の低品質のマルチメディア情報を提供することにより、高品質のマルチメディア情報を取得させることで、ユーザが暗号鍵等を管理する必要のないマルチメディア情報提供システム、サーバ装置、端末装置、マルチメディア情報提供方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0045】
なお、以下の説明では、成分分析の手法として独立成分分析を例としてとりあげて説明するが、これと同様の手法によって、成分分析の手法を主成分分析(スフィアリングによる成分分析を含む。)非負行列因子化に置き換えることができ、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0046】
また、以下の説明では、理解を容易にするため、行列の演算c(・,・)として、行列の積を例にあげて説明するが、行列のコンボリューションや各種の行列の非線型リンク関数を利用することも可能であり、これらを採用した場合も本発明の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0047】
以下では、理解を容易にするため、
(1)まず、本発明にて利用可能な独立成分分析について説明し、
(2)ついで、本発明の実施形態に係るマルチメディア情報提供システムの詳細について説明する
こととする。
【0048】
(独立成分分析)
本実施例における計算処理の理解を容易にするため、各種記号について、説明する。本実施例では、以下の行列Xを、信号分離の入力として用いる。
(1)m行T列の観測信号行列X
【0049】
そして、以下の行列A,S,Nを信号分離の結果として得る。
(2)m行n列の混合比行列A
(3)n行T列の源信号行列S
(4)m行T列の雑音行列N
【0050】
ただし、これらの行列の間には、以下の関係が成立しなければならない。
(5)X = AS + N
【0051】
また、Xを固定してA,Sを微小に変化させたとしたときに、コスト関数J(X,A,S)最小あるいは極小(コスト関数の種類によっては、最大あるいは極大を含む「極値」。以下では、理解を容易にするため、コスト関数を極小にするものを求めるものとする。)となるものでなければならない。すなわち、以下が成立する。
(6)(A,S) = argmin(A,S)J(X,A,S)
【0052】
一般的な独立成分分析の手法では、上記のコスト関数として行列(X - AS)の絶対値最大の要素の絶対値(要素の最大絶対値)や、行列(X - AS)の各要素の自乗平均、行列(X - AS)の各要素の総自乗和等のほか、甘利のα divergence、Kullback Leibler divergence、Frobenius norm、Jenssen Shannon divergence等を用いることができる。
【0053】
また、上記の行列A,Sを求める計算手法としては、反復法(勾配法、共役勾配法、ニュートン法等)を採用する。通常、この反復は、A,Sが所定の反復終了条件を満たすようになるまで繰り返されるのが一般的である。たとえば、A,Sの要素の総自乗和に対する当該行列の反復の前後の要素の差の総自乗和の比が、所定の値εよりも小さくなった場合に反復終了条件が満たされる等である。
【0054】
もっとも、粗い分析で十分な場合等には、反復回数を数回に固定することもありうる。後者の場合は、反復終了条件として「反復回数○○回」を指定したことと等価である。
【0055】
このほか、解くべき信号の既知の性質に基づいて、非負性、疎性、時空間無相関性、smoothness、独立性などの束縛条件を課して、計算を行うこともある。
【0056】
本実施形態では、このような独立成分分析を行う機能を、反復推測部という1つの計算モジュールとしてとらえるものとする。反復推測部が実行する処理については、既存の技術の他、各種の独立成分分析の技術を適用することができる。
【0057】
図1は、反復推測部に対する入力と出力の様子を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。
【0058】
反復推測部101は、一般的なコンピュータのCPU(Central Processing Unit)がRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と共働して実現される。
【0059】
反復推測部101に対しては、入力として行列X,A,Sが与えられる。一般には、行列X,A,SはRAM等に記憶されており、本実施形態では、反復推測部101を実現するライブラリ(プログラム)関数に、行列X,A,Sが確保されているメモリ内のアドレスが引き数として渡される構成をとる。
【0060】
ここで、行列Xは、上記のように観測信号行列に相当するものであるが、広く考えると、反復法における条件を定める定数行列と考えることができる。一方、ここで与えられる行列A,Sは、混合比行列と源信号行列であるが、広く考えると、反復法において、真の値の近似値となる初期値と考えることができる。したがって、RAM等に記憶される行列A,Sは、何らかの値で初期化される必要がある。
【0061】
何ら情報がない場合には、行列Aの各要素には、要素分布が疎であるように乱数や定数(0や1や−1等)を与え、行列Sの各要素には乱数や定数(0,1,−1等)を与えたり、種々の技術が考えられる(図中の「初期化」)。また、後述するように、反復推測部101が前回の処理において出力した結果を初期値とすることとしても良く、多くの場合、これが好ましい。
【0062】
このほか、コスト関数と反復終了条件も、反復推測部101に対して与えられる。これらは、反復推測部101を実現するためのコード(プログラム)に直接指定されることもあるし、ライブラリ関数のアドレスを指定することによる場合もありうる。
【0063】
さて、反復推測部101は、上記のような諸情報を受け付けて、反復終了条件が満たされるまで反復を繰り返し、入力として与えられた行列A,Sを、さらに真の値に近付けた行列A',S'を出力する。A',S'が出力された、ということは、反復終了条件が満たされた、ということである。ここで、反復終了条件としては、以下のようなものが考えられる。
(1)反復回数が1回になったとき
(2)反復回数が所定のn回になったとき(n≧2)
(3)(Σi=1m Σk=1n |A'[i,k]-A[i,k]|2 + Σk=1n Σt=1T |S'[i,k]-S[i,k]|2) ≦ ε
(4)(maxi=1m maxk=1n |A'[i,k]-A[i,k]|2 + maxk=1n maxt=1T |S'[i,k]-S[i,k]|2) ≦ ε
(5)Σi=1m Σk=1n |A'[i,k]-A[i,k]|2 ≦ ε
(6)maxi=1m maxk=1n |A'[i,k]-A[i,k]|2 ≦ ε
(7)Σk=1n Σt=1T |S'[i,k]-S[i,k]|2 ≦ ε
(8)maxk=1n maxt=1T |S'[i,k]-S[i,k]|2 ≦ ε
【0064】
ただし、出力方法としては、入力として与えられた行列A,SのRAM等内における領域に、A',S'の内容を上書き(図中の「上書き」。)することとして、出力結果としても良い。本実施形態では、主にそのような態様を採用する。
【0065】
さて、上記の事項に合わせて説明すると、反復法においては、Xを固定してJ(X,A,S)が小さくなるような方向にA,Sを移動させた結果をA',S'とするのであるが、2つの行列A,Sをまとめて勾配法等に適用することはのは難しい場合もある。
【0066】
そこで、コスト関数J(X,A,S)を、2つのコスト関数K(X,A,S),H(X,A,S)の組み合わせとして取り扱う。ここで、K(・,・,・)とH(・,・,・)は、同じコスト関数を選択しても良いし(すなわち、K,H,Jの3つは同じコスト関数である。)、適宜異なるコスト関数を選択しても良い。
【0067】
そして、
(1)まず、X,Aを固定して、K(X,A,S)を小さくする方向にSを移動させた結果をS'とし、
(2)次に、X,S'を固定して、H(X,A,S')を小さくする方向にAを移動させた結果をA'とする
ことを、反復の一回分と考えるのが典型的である。
【0068】
あるいはその逆に、
(1)まず、X,Sを固定して、H(X,A,S)を小さくする方向にAを移動させた結果をA'とし、
(2)次に、X,A'を固定して、K(X,A',S)を小さくする方向にSを移動させた結果をS'とする
ことを、反復の一回分としても良い。
【0069】
さて、本実施形態においては、上記のような反復推測部101を、サブルーチン呼び出しによって少なくともL (L≧2)回用いるが、その際に与える引き数等が異なる。そこで、理解を容易にするため、以下では、個別に反復推測部101をL個用意したものとして説明する。
【0070】
図2は、本実施形態に係る信号分離装置の構成を示す模式図である。以下、本図を参照して説明する。
【0071】
信号分離装置100は、L個の反復推測部101、繰返計算部102、結果出力部103、繰返制御部104のほか、記憶部105を備える。
【0072】
本実施形態では、反復推測の多段構成によって独立成分分析を行うため、Lは、「段(step)数」「層(layer)数」に相当するものである。
【0073】
記憶部105には、以下の情報を記憶するための領域が確保される。
(1)m行T列の観測信号行列X。これは、信号分離の象となる観測値である。
(2)L個の行列A1,…,AL。これは、一時的な計算のために用いられる。
(3)L個のn行T列の行列S1,…,SL。これは、一時的な計算のために用いられる。
(4)m行n列の混合比行列A。これは、信号分離の結果の一つである。
(5)m行T列の雑音行列N。これは、信号分離の結果の一つである。
【0074】
なお、信号分離の結果の一つであるn行T列の源信号行列Sは、SLと同一視することができる。
【0075】
また、漸化式による表現の理解を容易にするため、仮想的に、行列XをS0と同一視することとする。
【0076】
さらに、以下では、混乱のない限り、行列名と行列の要素の値を記憶する記憶部105内での領域とを同じ記号で表記するものとする。
【0077】
なお、L個の行列A1,…,ALは、所定の演算c(・,・)
c(A1,c(A2,c(A3,c(…,c(AL-1,AL)…))))
がm行n列の行列となるようなものであり、本実施形態では、c(・,・)として、行列の積を用いている。
【0078】
したがって、本実施形態では、L個の行列の行数と列数を定める数列
n0 = m,n1,n2,…,nL-1,nL = n
が一意に定まり、Aiは、ni-1行ni列の行列であることになる。
【0079】
図3は、本信号分離装置にて実行される信号分離処理の制御の流れを示すフローチャートである。以下、本図を参照して説明する。
【0080】
信号分離装置100における処理が開始されると、行列X(すなわち、行列S0)に、入力となる観測信号の値を設定する(ステップS301)。
【0081】
次に、行列S1,S2,…,SL-1,SLを適切な値で初期化する(ステップS302)。ここで、行列SLは行列Sと同一視することができる。
【0082】
さらに、行列A1,A2,…,AL-1,ALを適切な値で初期化する(ステップS303)。
【0083】
ステップS302およびステップS303における値の初期化は、上述した初期値による初期化のほか、種々の技術を適用することができる。本実施形態においては、これらの初期化処理は、CPUがRAM等と共働することによって実現される。
【0084】
そして、繰返制御部104は、収束条件が満たされない間(ステップS308)、以下のステップS304〜ステップS308の処理を繰り返す(ステップS304)。収束条件については、反復終了条件同様種々のものを採用することができるが、当該繰返しにおける行列S1,…,SLおよび行列A1,…,ALの変化が極めて小さくなったときに、収束条件が満たされたものと考えるのが典型的である。
【0085】
もっとも、適用分野によっては、繰返しの終端で判断される収束条件は常に真であることとしても良い。この場合、当該繰返しは1回だけ行われ、実際には単なる逐次処理を行うのみとなる。
【0086】
したがって、繰返制御部104は、CPUがRAM等と共働することによって、実現される。
【0087】
さて、当該繰返しの中で、繰返計算部102は、カウンタ変数iを、初期値1から終了値Lになるまで、1ずつ増やしながら、以下のステップS305〜ステップS307の処理を繰り返す(ステップS305)。
【0088】
したがって、繰返計算部102は、CPUがRAM等と共働することによって、実現される。
【0089】
すなわち、i番目の反復推測部101に、入力として、行列Si-1,Ai,Siを与えて、上記のような反復法の計算処理を行わせる(ステップS306)。
【0090】
ステップS306における反復法の計算処理では、上述の通り、反復終了条件が満たされるまで反復を繰り返すが、いずれの反復終了条件を選択するかは、適用分野や目的に応じて適宜選択することができる。
【0091】
また、i番目の反復推測部101に与えられるコスト関数Jiおよび反復終了条件(i)は、i = 1,…,Lのすべてにおいて同じものとしても良いし、異なるものとしても良い。
【0092】
ステップS306の処理における反復法により「真の値」に近付く行列は、AiおよびSiである。そして、上記のように、記憶領域AiおよびSiに、反復推測部101における今回の推測結果が格納されることになる。
【0093】
このようにして、反復推測部101における反復推測をi = 1,…,Lの間繰り返すと(ステップS307)、ステップS302、ステップS303において行列S1,…,SLおよび行列A1,…,ALに設定された初期値よりも、精度の高い値が、同じ領域に格納されることになる。
【0094】
さて、この値を吟味することによって、収束条件が満たされたたか否かを判定し、収束条件が満たされていなければ、ステップS304に戻って繰り返しを続ける(ステップS308)。
【0095】
一方、収束条件が満たされていれば、結果出力部103は、混合比行列Aを、
A = A1A2…AL-1AL
のように行列の乗算をすることによって求め(ステップS309)、雑音行列Nを、
N = X - AS
のように行列の演算をすることによって求め(ステップS310)、行列A,S (= SL),Nを結果としてRAM等内に格納することによって出力して(ステップS311)、本処理を終了する。したがって、CPUがRAM等と共働して、結果出力部として機能することとなる。
【0096】
さて、上記のような繰返しは、信号分離を以下のように行うことに相当する。なお、以下の式変形では、理解を容易にするため、雑音行列については表記を省略している。
X =
S0 = A1S1
S1 = A2S2
S2 = A3S3

SL-2 = AL-1SL-1
SL-1 = ALSL
= ALS
【0097】
これらをまとめると、以下のように表記することができる。
X = A1A2A3…ALS
= AS
【0098】
ステップS309における乗算は、行列Aを上記のように求めていることに相当するのである。
【0099】
(所定の行列の演算)
上記実施形態では、所定の行列演算c(・,・)として、行列の積を用いていた。すなわち、行列Zのi行t列の要素をZ[i,t]とし、行列Zの行数をrow(Z)、行列Zの列数をcol(Z)と書くとき、行列Z,Wであって、col(Z) = row(W)が成立する行列Z,Wについて、所定の演算は、
c(Z,W)[i,t] = Σk=1col(Z) Z[i,k]W[k,t]
と定義される。
【0100】
c(・,・)として、行列のコンボリューション演算を考える場合は、2次元の行列(2階のテンソル)と3次元の行列(3階のテンソル)とを考慮した、いわゆるテンソル演算を行うことになる。このコンボリューション演算される行列を、混合作用素(mixing operator)と呼ぶ。
【0101】
観測信号行列Xと源信号行列Sは、上記のように2次元の行列であるが、混合比行列Aは3次元の行列となる。3次元の行列の要素を、上記と同様に[・,・,・]の形式で表現することとし、また、テンソル演算の慣習にしたがって、要素が定義されていない範囲の値を0とおくこととし、Σの添字がテンソル内のインデックスとしてとりうる範囲をすべて走査した総和をとることとする。
【0102】
すると、3階のテンソルAと2階のテンソルSとのコンボリューションは、[数1]のように定義される。
【0103】
【数1】

【0104】
一方、3階のテンソルAと3階のテンソルBとのコンボリューションは、[数2]のように定義される。
【0105】
【数2】

【0106】
また、非線型リンク関数を用いる場合、
c(A,S)[i,t] = f(Σk Z[i,k]W[k,t])
のように演算を定義する。関数f(・)としては、典型的には、ニューラルネットの分野でよく用いられるステップ関数の原点付近を滑らかにした関数を利用することができる。たとえば、
f(x) = 2 arctan(k x)/π
において、kを十分に大きくしたような関数である。ただし一般には、任意の非線型関数を適用することが可能である。
【0107】
以下では、上記の実施形態と従来の手法とを比較する各種の実験結果について説明する。なお、以下の実験は、すべて計算機シミュレーションによっている。
【0108】
第1の実験は、複数の音源から発せられる音波(一般には、信号源から発せられる源信号の波動)を、近い位置に配置されたマイクで集めたとき(一般には、受信機やセンサーで波動を観測して観測信号を得るとき)に相当する信号分離の様子を対比するものである。以下では、NMF(Non-negative Matrix Factorizationによる信号分離の分野で用いられるベンチマーク用データを用いて実験する。
【0109】
図4は、源信号の波形の様子を示すグラフであり、図5は、観測信号の波形の様子を示すグラフである。
【0110】
図4に示す源信号の波形に対して、条件数が15,000程度のヒルベルト行列を用いて混合を行うと、図5に示すような、互いに波形の類似した観測信号が得られる。
【0111】
図6は、L = 10として共役勾配法を用いて本実施形態の手法により4つの信号に独立成分分析を行った場合の波形のグラフであり、図7は、これに対して、従来の手法により4つの信号に独立成分分析を行った場合の波形のグラフである。
【0112】
従来の手法(図7)では、元の波形(図4)とはまったく異なる成分に分解がされてしまっているが、本実施形態の手法(図6)によると、元の波形(図4)に極めて近いものが得られていることがわかる。
【0113】
第2の実験は、雑音が大きい場合の信号分離の様子を示すものである。
【0114】
図8は、源信号の波形の様子を示すグラフであり、図9は、観測信号の波形の様子を示すグラフである。
【0115】
図8中の上段a1に示すように、雑音レベルがかなり大きいため、図9に示すように、観測信号にも雑音が乗っていることがわかる。
【0116】
図10は、L = 5として甘利のα-divergenceNMFアルゴリズムを反復推測部において用いた本実施形態の手法により得られた波形のグラフであり、図11は、SIR値(Singnal to Interference Ratio)を示すグラフである。
【0117】
図8と対比すると、極めて類似したものが得られていることがわかり、また、SIR値も40dB〜53dB程度と、性能が良いことがわかる。
【0118】
図12は、NMF Lee-Seungアルゴリズムという従来の手法により得られた波形である。
【0119】
従来手法は、SIR値が8dB未満となり、本実施形態の手法の性能の高さがわかる。
【0120】
第3の実験は、画像処理における適用である。
【0121】
図13は、源信号となる画像を示す図であり、図14は、観測信号に相当する画像を示す図であり、図15は、L = 5として本実施形態の手法を採用した場合に得られる源信号の様子であり、図16は、L = 2として本実施形態の手法を採用した場合に得られる源信号の様子であり、図17は、NMF Lee-Seungアルゴリズムという従来の手法により得られた源信号の画像であり、図18は、本実施形態の手法における信号のSIR値の値を示すグラフである。
【0122】
図13に示すように、源信号は4つであり、図14に示すように、これらを9個のチャンネルで観測する。
【0123】
L = 5として本発明の手法により独立成分分析すると、図15に示すように、源信号がほぼ完璧に復元される。SIR値は、図18に示すように、46dB程度である。
【0124】
一方、L = 2として本発明の手法により独立成分分析すると、図16に示すように、分離は不十分であり、SIR値も15dB未満と低い。Lの値を増やすことの効果がよくあらわれている。
【0125】
従来手法による分離の結果は、図17に示すようになり、やはり分離は不十分で、SIR値は10db未満である。
【0126】
(マルチメディア情報提供システム)
上記のような基本技術を踏まえ、本発明の実施形態に係るマルチメディア情報提供システムの詳細について、以下に説明する。
【0127】
本実施形態では、成分分析の手法として、上記のような高性能の信号分離装置100を適用することとするが、そのかわりに前述した各種の信号分離の技術を利用することも可能である。
【0128】
図19は、本実施形態に係るマルチメディア情報提供システムの概要構成を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。
【0129】
本実施形態に係るマルチメディア情報提供システム301は、サーバ装置311と、端末装置331と、を有し、両者は、インターネット等のコンピュータ通信網351を介して通信可能に接続されている。
【0130】
端末装置331は、通常は、一般的なユーザがインターネットにアクセスするために用いるパーソナルコンピュータやゲーム装置にて実現され、サーバ装置311は、このような端末装置331によってアクセスされるウェブサーバや会計・決済サーバなどのサーバコンピュータにより実現される。
【0131】
サーバ装置311は、音声、静止画、動画、立体画像など、各種のマルチメディア情報を端末装置331に提供するものであり、典型的には、低品質のマルチメディア情報を試聴用に提供し、端末装置331のユーザが購入を希望する場合には、これよりも高品質のマルチメディア情報を提供する。ここで「試聴」には、動画や静止画を試しに閲覧する行為も含むものとする(以下同様)。
【0132】
本実施形態に係るマルチメディア情報提供システム301では、カオス系列に基づく乱数列を利用するが、以下では、理解を容易にするため、このようなカオス系列として、チェビシェフ関数を用いたものを例としてあげて説明する。
【0133】
図20は、チェビシェフ関数の様子を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0134】
a (a≧2)次のチェビシェフ関数Ta(・)は、
Ta(cosθ) = cos(aθ)
のように定義され、具体的には、
T2(x) = 2x2 - 1;
T3(x) = 4x3 - 3x; …
のように定義される。
【0135】
本図に示すように、2次以上のチェビシェフ関数y = Ta(x)は、開区間-1<x<1を開区間-1<y<1に写像する有理写像である。
【0136】
このようなチェビシェフ関数を初期値x (-1<x<1)に繰り返し適用して得られる数列
x,F(x),F(F(x)),F(F(F(x))),…
は、カオス系列と呼ばれ、無限精度で計算した場合には周期がなく、有限精度で計算した場合でも周期が極めて長いほか、乱数として好ましい各種の性質を備えていることがわかっている。
【0137】
このような乱数列
x1,x2,x3,…
以下のような漸化式によって表現することができ、コンピュータ等の繰り返し計算を用いて簡単に計算することができる。
x1 = x;
xi+1 = F(xi) (i≧1);
【0138】
そして、このカオス乱数は、その極限では分布が一致し、密度関数ρ(・)は、
ρ(x) = 1/〔π(1-x2)1/2
のように得られることがわかっている。
【0139】
図21は、実際に適当な初期値を与えてチェビシェフ関数を用いて生成したカオス乱数の途中までの分布を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0140】
上記の乱数列に含まれる数値は、−1〜1の区間の値であるが、本図においては、これに1を加算して2で割ることにより、0〜1の区間に移動している。横軸は、得られる乱数の値に相当するものであり、縦軸は、乱数が出現した出現頻度を全体長さで割ったもの(相対度数)に相当する尺度である。
【0141】
本図に示すように、上記ρ(・)によって表現される極限分布と同じような分布が得られることがわかる。
【0142】
このように、極限分布が解析的に表現可能なカオス乱数は種々存在する。すなわち、チェビシェフ関数は、三角関数の加法定理によって得られるものであるが、たとえば、楕円関数の加法定理より導かれる有理写像、特に、ウラム=フォン・ノイマン写像、キュービック写像、クインティック写像、または、カツラ=フクダ写像、一般化ウラム=フォン・ノイマン写像、一般化キュービック写像、もしくは一般化チェビシェフ写像に所定のパラメータを与えたものなどを利用して、ノイズ信号に用いる乱数列を生成することとしても良い。
【0143】
さて、上記のように、本実施形態では、ある初期値に対して繰り返し関数F(・)を適用して得られるカオス系列を乱数値とするのであるが、逆に、ある長さMの数列
s1,s2,s3,…,sM
が、どの程度カオス系列の特徴を呈しているか、すなわち、どの程度、カオス系列に類似・非類似であるかを表す特徴量を考えることができる。
【0144】
このような特徴量としては、一般には、数列のカオス性を示す相関次元や最大リャプノフ指数を採用することができる。これらの数値は、いずれも大きいほどカオス性が高いと考えられる。
【0145】
たとえば、数列
s1,s2,s3,…,sM
の最大リャプノフ指数は、カオス系列の生成に用いられる関数F(・)があらかじめ判っている場合には、簡単に計算ができる。
【0146】
また、関数F(・)がわかっていない場合には、数列
s1,s2,s3,…,sM
から、カオス系列の生成における力学系のヤコビアンを推定し、これを元に、最大リャプノフ指数を求めることが可能である。
【0147】
このほか、上記のように、極限分布の形状が定まっている場合には、数列
s1,s2,s3,…,sM
の分布を求め、この分布と極限分布との形状の差によって、カオス系列にどの程度似ているか、を調べることが可能である。
【0148】
さらに、本実施形態では、漸化式によってカオス系列を生成することから、数列
s1,s2,s3,…,sM
がどの程度カオス系列に似ているか、を、誤差
εi = si+1 - F(si) (1≦i≦M-1)
を考えることで、簡単に求めても良い。
【0149】
F(・)を用いた漸化式によってカオス系列が生成されることから、もしこの数列
s1,s2,s3,…,sM
が、このカオス系列に似ているのであれば、数列における隣り合う2つの要素si,si+1においては、
si+1≒F(si)
が成立するはずだからである。
【0150】
そこで、
(1)誤差の総和 Σi=1M-1i|;
(2)誤差の平均 Σi=1M-1i|/(M-1);
(3)誤差の重み付き平均 Σi=1M-1 ωii|/(M-1);
(4)誤差の自乗和 Σi=1M-1 εi2
(5)誤差の自乗の平均 Σi=1M-1 εi2/(M-1);
(6)誤差の重み付き自乗の平均 Σi=1M-1 ωiεi2/(M-1);
などの量や、誤差の標準偏差などの数値を特徴量として、数列がカオス系列に類似する程度として考えることもできる。ここで、ωiは、適当な正数による重みである。
【0151】
このように、隣り合う要素についての誤差を用いた手法では、上記の特徴量が数値として小さければ小さいほど、数列がカオス系列に類似しており、カオス系列の特徴を呈する、ということとなる。
【0152】
さて、図22は、本マルチメディア情報提供システム301のサーバ装置311と端末装置331の間の通信の様子を示すセッション図である。以下、本図を参照して説明する。
【0153】
本実施形態におけるマルチメディア情報の提供は、まず、ユーザからの試聴の希望に基づいて(400)、端末装置331からサーバ装置311へ、試聴要求が送信される(401)ことを契機に開始される。
【0154】
この試聴要求は、たとえば電子メールによるもの、特定のURL(Universal Resouce Locator)にブラウザ経由でアクセスし、あらかじめ用意されたCGI(Common Gateway Interface)スクリプト等を介して、要求を伝送するもの等、種々考えられる。
【0155】
サーバ装置311は、試聴要求を受信すると、端末装置331に提供する第1の配信用マルチメディア情報を生成して、これを送信する(402)。
【0156】
第1の配信用マルチメディア情報は、後述するようにノイズ信号とミキシングされたものであり、品質が低い。このため、試聴用として利用することができるほか、あくまで試聴用の低品質のマルチメディア情報であることから、第三者が盗聴・窃視したとしても、問題は生じない。
【0157】
第1の配信用マルチメディア情報を受信した端末装置331は、これを再生してユーザに試聴させる(403)。ユーザが、試聴によって、より高品質のマルチメディア情報を購入しようと考える場合(404)には、端末装置331により、サーバ装置311へ、向上要求を送信する(405)。
【0158】
サーバ装置311は、向上要求を受信すると、端末装置331に提供する第2の配信用マルチメディア情報を生成して、これを送信する(406)。
【0159】
第2の配信用マルチメディア情報は、第1の配信用マルチメディア情報同様、ノイズ信号とミキシングされたものであり、やはり品質が低い。このため、第2の配信用マルチメディア情報も試聴用として利用することができるほか、あくまで試聴用の低品質のマルチメディア情報であることから、第三者が盗聴・窃視したとしても、問題は生じない。
【0160】
第1の配信用マルチメディア情報と、第2の配信用マルチメディア情報と、は、同じ高品質のマルチメディア情報に対して、同じノイズ信号を、異なる混合比でミキシングしたものである。
【0161】
そこで、端末装置331が複数あることを想定して、端末装置331ごと、あるいは、端末装置331を利用するユーザごとに、使用するノイズ信号を異なるものとすることが望ましい。このため、第1の配信用マルチメディア情報を提供する時点で、ノイズ信号を同定するための情報、典型的には、ノイズ信号を生成するための乱数の種に相当する初期値と、端末装置331(のユーザ)の識別符号と、を対応付けて保存する。
【0162】
端末装置331(のユーザ)の識別符号は、ユーザ自身の個人情報(会員番号、メールアドレス等)や、端末装置331が持つネットワークインターフェースカードのMAC(Media Access Controlアドレス、端末装置331のCPU(Central Processing Unit)に割り当てられたCPU ID(IDentifier)、端末装置331にて動作するOSやアプリケーションのシリアル番号、これらを組み合わせたもの等を利用することができる。この場合には、試聴要求の際に当該識別符号を端末装置331からサーバ装置311へ送信するのが典型的である。
【0163】
一方、サーバ装置311が端末装置331へ、ユニークな識別符号を割り振り、第1の配信用マルチメディア情報を提供する際に、端末装置331へ送信する手法も考えられる。たとえば、CGIスクリプトを用いる場合には、識別符号に対応付けられる情報をクッキーに書き込んでおき、向上要求の際にブラウザから送信されるようにする、等の手法を採用することができる。
【0164】
以下では、前者の手法を典型例として説明する。
【0165】
さて、第2の配信用マルチメディア情報におけるノイズ信号の混合比を、第1の配信用マルチメディア情報におけるノイズ信号の混合比よりも大きくすれば、きわめて低品質のマルチメディア情報になるため、第三者が盗聴・窃視したとしても、事実上雑音しか視聴できないこととなり、盗聴者・窃視者の興味を失わせ、それ以上の盗用を防止する効果がある。
【0166】
第2の配信用マルチメディア情報を受信した端末装置331は、これを再生してユーザに視聴させることができるが、この利用手法は一般的ではない。
【0167】
第1の配信用マルチメディア情報と第2の配信用マルチメディア情報とに対して後述する処理を施すことにより、ノイズ信号を分離して、これら2つよりも高品質なマルチメディア情報を抽出する。
【0168】
そして、抽出された高品質なマルチメディア情報を再生してユーザに視聴させる(407)。
【0169】
以下、サーバ装置311および端末装置331について、さらに詳細に説明する。
【0170】
図23は、本マルチメディア情報提供システム301のサーバ装置311の概要構成を示す説明図である。
【0171】
図24は、本マルチメディア情報提供システム301の端末装置331の概要構成を示す説明図である。
【0172】
図25は、本マルチメディア情報提供システム301のサーバ装置311にて実行されるサービス処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【0173】
図26は、本マルチメディア情報提供システム301の端末装置331にて実行される端末処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【0174】
以下、これらの図を参照して説明する。
【0175】
図23に示すように、サーバ装置311は、マルチメディア情報記憶部501、カオス系列生成部502、初期値選択部503、第1乱数列取得部504、第1混合部505、第1送信部506、初期値記憶部507、要求受信部511、第2乱数列取得部512、第2混合部513、第2送信部514を有する。
【0176】
ここで、マルチメディア情報記憶部501には、音声もしくは画像の少なくとも一方を含むマルチメディア情報があらかじめ記憶される。
【0177】
これは、レコードにおける「原盤」に相当するものであり、この「原盤」から、第1の提供用マルチメディア情報や、第2の提供用マルチメディア情報が作り出される。また「原盤」の情報そのものが、端末装置331側で復元されるのではなく、ユーザが最終的に手にすることができるのは、「原盤」よりも品質が微少に劣るものであるのが典型的である。
【0178】
また、このマルチメディア情報そのものは、ハードディスクなどに圧縮して保存しておくことができるが、後述するミキシング処理等は、いわゆるRAWデータに戻してから行う必要がある。
【0179】
したがって、サーバコンピュータにおけるハードディスクなどの記憶媒体が、マルチメディア情報記憶部501として機能する。
【0180】
サーバ装置311において実行されるサービス処理は、端末装置331からの要求パケットを待ち、その要求パケットに応じた処理を行って、処理結果を端末装置331に応答パケットとして送信する、という制御を繰り返すものである。
【0181】
そこで、サーバ装置311は、サービス処理を開始すると、各端末装置331から送信される各種の要求パケットが到達するまで待機する(ステップS551)。この要求パケットの種類としては、上述の通り、試聴要求、向上要求が含まれるが、それ以外の種類を適宜用意することとしても良い。
【0182】
さて、図24に示すように、端末装置331は、第1受信部601、第1再生部602、要求送信部603、第2受信部611、成分分析部612、情報選択部613、高品質再生部614、第2再生部621を備える。
【0183】
端末装置331において実行される端末処理は、ユーザからの指示を待ち、その指示に応じた処理を行って、処理結果をユーザに提示する、という制御を繰り返すものである。
【0184】
すなわち、端末装置331において、端末処理が開始されると、端末装置331は、ユーザからの指示入力があるまで待機する(ステップS651)。そして、指示入力があったら、その種類を調べる(ステップS652)。
【0185】
その種類が、マルチメディア情報の試聴を求めるものである場合(ステップS652;試聴)、端末装置331は、当該端末装置331(のユーザ)を識別する識別符号と、求めるマルチメディア情報の識別符号と、を指定した試聴要求を要求パケットとして、サーバ装置311に送信する(ステップS653)。
【0186】
さて、到達した要求パケットがあると、サーバ装置311は、要求パケットの種類を調べる(ステップS552)。当該要求パケットの種類が試聴要求である場合(ステップS552;試聴)、サーバ装置311の初期値選択部503は、当該端末装置331(のユーザ)の識別符号に対応付けられる初期値を選択する(ステップS553)。
【0187】
さて、ステップS553にて選択される初期値は、カオス系列の初期値として用いられるものである。
【0188】
初期値の選択は、現在時刻、要求パケットの送信時刻、要求パケットに指定される端末装置331やユーザの識別符号、他の乱数列などに基づいてランダムに、できるだけ重複しないように行われる。したがって、サーバ装置311のCPUは、初期値選択部503として機能する。
【0189】
さて、サーバ装置311のカオス系列生成部502は、入力として与えられた値を初期値とするカオス系列からなる乱数列を生成する。上記のように、入力された数値に対して漸化式を用いて関数F(・)を繰り返し適用することにより、任意の長さのカオス系列を乱数列として出力する。カオス系列を得るための計算は決定的(deterministic)であるため、入力として与えられた数値が同じであれば、常に同じカオス系列が得られる。
【0190】
したがって、サーバ装置311が備えるCPUは、計算の途中経過や結果を格納するためのRAM(Random Access Memory)等と共働して、カオス系列生成部502として機能する。
【0191】
さて、初期値選択部503が、当該端末装置331(のユーザ)のための初期値を選択すると、第1乱数列取得部504は、選択された初期値を、カオス系列生成部502に入力として与えて生成された乱数列を取得する(ステップS554)。ここで計算される乱数列の長さは、試聴を求められたマルチメディア情報のRAWデータと同じ長さとするのが典型的である。
【0192】
したがって、CPUが、RAM等と共働して、第1乱数列取得部504として機能する。
【0193】
ついで、第1混合部505は、第1乱数列取得部504により取得された乱数をノイズ信号として、第1の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第1の配信用マルチメディア情報を得る(ステップS555)。
【0194】
ここでいう混合は、いわゆるミキンシングによるものであり、マルチメディア情報のRAWデータのそれぞれにある定数を乗じたものと、ノイズ信号のそれぞれに他の定数を乗じたものと、を出力するものである。そして、これら2つの定数の比が、混合比である。
【0195】
第1の混合比は、試聴に適したものとするのが好ましい。また、後述する第2の混合比とは異なるものとする必要があるため、端末装置331(のユーザ)の識別子から2つの異なる数値を生成し、これらの数値に微少な係数を乗じたものをあらかじめ定めた基本混合比に加算することによって、第1の混合比と第2の混合比を得ることもできる。
【0196】
RAWデータとして混合された後に、聴取・閲覧が可能な適切な可逆圧縮や非可逆圧縮アルゴリズムを適用して、適宜データ圧縮を施すことにより、第1の配信用マルチメディア情報を得るのが典型的である。
【0197】
したがって、CPUが、RAM等と共働して第1混合部505として機能する。
【0198】
ついで、第1送信部506は、得られた第1の配信用マルチメディア情報を、端末装置331へ当該試聴要求の要求パケットに対する応答として送信する(ステップS556)。
【0199】
第1の配信用マルチメディア情報の提供は、端末装置331側で直ちに再生が開始できるようなストリーミング配信のプロトコルを採用するのが典型的であるが、後に高品質のマルチメディア情報を復元するためにも使用されるので、保存が可能な形態で提供する。
【0200】
したがって、CPUが、RAMやネットッワークインターフェースカード等と共働して、第1送信部506として機能する。
【0201】
ついで、初期値記憶部507は、ステップS553にて選択された初期値を当該端末装置331(のユーザ)の識別符号や、当該試聴を要求されたマルチメディア情報の識別符号(第1の配信用マルチメディア情報を識別する識別符号と同じにしたり、ある程度共通させ、相互に変換可能にするのが典型的である。)に対応付けて記憶し(ステップS557)、ステップS551に戻る。
【0202】
したがって、初期値記憶部507は、一種のデータベースにより実現することができる。すなわち、CPUやRAM、ハードディスクが共働して、初期値記憶部507として機能する。
【0203】
さて、端末装置331の第1受信部601は、ステップS653においてサーバ装置311へ送信した試聴要求に対する応答として、第1の配信用マルチメディア情報を受信する(ステップS654)。
【0204】
したがって、端末装置331のCPUが、ネットワークインターフェースカードやRAM等と共働して、第1受信部601として機能する。
【0205】
第1再生部602は、受信された第1の配信用マルチメディア情報を保存して(ステップS655)再生し(ステップS656)、ステップS651に戻る。
【0206】
この再生は、ユーザが試聴したいとの指示入力をしたことに応えるものである。
【0207】
上記のように、第1の配信用マルチメディア情報は、ストリーミング配信されるのが典型的であるが、後で高品質のマルチメディア情報を復元するために必要となることから、第1の配信用マルチメディア情報の全体を受信して、ハードディスクなどの記憶媒体に保存しておくこととなる。
【0208】
したがって、CPUは、RAMやハードディスク、モニタなどと共働して、第1再生部602として機能する。
【0209】
さて、第1の配信用マルチメディア情報を試聴用に聴取・閲覧したユーザが、当該マルチメディア情報の購入(無償の場合も含む。)を希望する場合には、ステップS651において、購入を求める旨の指示入力を行う。端末装置331のCPUは、購入を求める旨の指示入力があったことを検出すると(ステップS652;購入)、要求送信部603は、サーバ装置311へ、当該第1の配信用マルチメディア情報の品質を向上させる第2のマルチメディア情報を要求する向上要求を、要求パケットとして送信する(ステップS656)。
【0210】
この要求パケットには、当該端末装置331(のユーザ)の識別符号のほか、当該第1の配信用マルチメディア情報を識別する識別符号などの情報が指定される。したがって、CPUは、RAMやネットワークインターフェースカード等と共働して、要求送信部603として機能する。
【0211】
すると、サーバ装置311の要求受信部511は、ステップS551において、端末装置331から送信された向上要求を要求パケットとして受信するため、要求パケットの種類は、向上要求であることになる(ステップS552;向上)。
【0212】
すると、CPUは、ステップS557において初期値記憶部507に保存された初期値のうち、当該向上要求に指定された当該端末装置331(のユーザ)の識別符号および当該第1の配信用マルチメディア情報を識別する識別符号に対応付けて保存されたものを取得する(ステップS561)。
【0213】
そして、第2乱数列取得部512は、初期値記憶部507から取得された初期値を、カオス系列生成部502に入力として与えて生成された乱数列を取得する(ステップS562)。
【0214】
これにより得られる乱数列は、入力として与えられる初期値が同じであるから、ステップS554において得られるものと一致する。したがって、CPUは、RAMやハードディスク等と共働して、第2乱数列取得部512として機能する。
【0215】
ついで、第2混合部513は、第2乱数列取得部512により取得された乱数をノイズ信号として、当該第1の混合比とは異なる第2の混合比で、記憶されたマルチメディア情報と混合して、第2の配信用マルチメディア情報を得る(ステップS563)。
【0216】
ここで行う処理は、ステップS555におけるものと同様であるが、上記のように、混合比が異なる。したがって、CPUは、RAM等と共働して、第2混合部513として機能する。
【0217】
さらに、第2送信部514は、得られた第2の配信用マルチメディア情報を、端末装置331へ応答パケットして送信し(ステップS564)、ステップS551に戻る。
【0218】
ステップS564にて行う処理は、ステップS556におけるものと同様である。したがって、CPUは、RAMやネットワークインターフェースカード等と共働して、第2送信部514として機能する。
【0219】
このほか、要求パケットがその他の種類である場合(ステップS552;その他)は、対応する処理を実行して(ステップS571)、ステップS551に戻る。
【0220】
さて、端末装置331において、第2受信部611は、サーバ装置311から送信された第2の配信用マルチメディア情報を、ステップS656において送信した向上要求の要求パケットに対する応答として、受信する(ステップS661)。そして、当該第2の配信用マルチメディア情報を、ハードディスクなどに保存する(ステップS662)。なお、この際に、第2再生部621が、受信された第2の配信用マルチメディア情報を再生することとしても良い(図示せず)。
【0221】
したがって、CPUは、RAMやハードディスク、モニタなどと共働して、第2再生部621として機能する。
【0222】
そして、成分分析部612が、第1の配信用マルチメディア情報と、第2の配信用マルチメディア情報と、を入力信号として成分分析して、2つの成分信号を得る(ステップS663)。成分分析には、上記のような多段の独立成分分析を用いるのが典型的であるが、上述した種々の成分分析の手法を利用することも可能である。
【0223】
したがって、CPUが、RAMやハードディスク等と共働して、成分分析部612として機能する。以下、このような成分分析によって、どのような信号が得られるか、について説明する。
【0224】
サーバ装置311のカオス系列生成部502にて利用される関数F(・)が、2次のチェビシェフ関数T2(・)であり、マルチメディア信号が音声信号である場合を考える。
【0225】
図27は、サーバ装置311のマルチメディア情報記憶部501に元のマルチメディア信号として記憶されるものの波形の様子を示す説明図である。本図に示すように、音声の前半と後半とで波形が変化しているものの、全体として見ると同じ高さの音が出ている(実際には、後半で演奏される楽器が増加している)。
【0226】
これに対して、初期値として0.2を、第1の混合比として音声:ノイズ=9:1を、第2の混合比として音声:ノイズ=8:2を、それぞれ選択した場合を考える。
【0227】
図28は、第1の提供用マルチメディア情報と、第2の提供用マルチメディア情報と、のそれぞれの波形を示す説明図である。本図に示すように、第1の提供用マルチメディア情報と、第2の提供用マルチメディア情報と、は、いずれもノイズと混合された結果得られたものであるため、いずれの波形も、元の信号に比べて明らかに品質が劣化している。
【0228】
図29は、これらを入力として、上記のような独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。
【0229】
本図に示す2つの波形のうち、一方は、一見して元のマルチメディア信号の波形にそっくりであり、他方は、塗り潰された帯状の波形となっているため、ノイズらしきものであることが判明する。
【0230】
さて、上記の例と、初期値として0.4を選んだ点のみ異なる場合を考える。
【0231】
図30は、第1の提供用マルチメディア情報と、第2の提供用マルチメディア情報と、のそれぞれの波形を示す説明図である。本図に示す結果は、図28と同様に、元の信号に比べて品質が劣化していることがわかる。
【0232】
図31は、これらを入力として、上記のような独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。これも、図29と同様に、一方が元のマルチメディア情報の波形にそっくりの高品質な波形であり、他方がノイズらしき波形である。
【0233】
このように、独立成分分析によって、2つの低品質の提供用マルチメディア情報を、高品質のマルチメディア情報と、混合されたノイズ信号と、に分離できるのである。
【0234】
次に、初期値0.2、混合比9:1の波形と、初期値0.4、混合比8:2の波形と、を選んだ場合を考える。すなわち、本来提供すべき相手を間違った場合や、何らかの事情で提供用マルチメディア情報が盗聴・窃視された場合に相当する。
【0235】
図32は、第1の提供用マルチメディア情報と、第2の提供用マルチメディア情報と、のそれぞれの波形を示す説明図である。これは、図28の上段の波形と、図30の下段の波形とを並べたものに相当する。
【0236】
図33は、これらを入力として、上記のような独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。
【0237】
図28、図30と異なり、元のマルチメディア情報がまったく復元されておらず、両方ともノイズ混じりの波形しか得られない。(ちなみに、本図の波形のうち、上段は、2つの提供用マルチメディア情報と同程度にノイズが含まれる音声の波形に相当し、下段は、単なるノイズに相当するものと考えられる。)
【0238】
すなわち、2つの提供用マルチメディア情報において、カオス系列を定める力学系(本実施例では、漸化式に使用される関数F(・)によって定まる。)と、使用する初期値と、の両方が共通しない限り、高品質のマルチメディア情報は得られないのである。
【0239】
このように、2つの成分信号が得られたら、情報選択部613は、出力された2つの成分信号のうち、当該成分信号のうち当該カオス系列の特徴を呈する程度が低い方を、高品質マルチメディア情報として選択する(ステップS664)。
【0240】
高品質のマルチメディア情報を得ることが目的であるから、所望のマルチメディア情報であるか否かを判断することは難しいが、上記のように、カオス系列の特徴を呈するか、すなわち、カオス系列に類似しているかどうか、は、各種の手法によって判断することが可能である。
【0241】
そこで、カオス系列により類似していない方を、高品質のマルチメディア情報として選択するのである。したがって、CPUは、RAMやハードディスク等と共働して、情報選択部613として機能する。
【0242】
さらに、高品質再生部614は、選択された高品質マルチメディア情報をハードディスクに保存して、これをユーザの希望に応じて再生し(ステップS665)、ステップS651に戻る。
【0243】
したがって、CPUは、RAMやハードディスク、モニタなどと共働して、高品質再生部614として機能する。
【0244】
また、ユーザからの指示入力がその他のものであった場合(ステップS652;その他)、対応する処理を実行して(ステップS671)、ステップS651に戻る。
【0245】
なお、これらの処理は、適宜並列処理、並行処理、コルーチン的な処理による制御を行っても良いし、必要に応じて、本発明の原理に適う範囲で処理の手順を変更しても良い。
【0246】
このように、本実施形態では、第1の提供用マルチメディア情報や第2の提供用マルチメディア情報が「暗号文」の一種として機能し、初期値が「暗号鍵」の一種として機能するのであるが、「暗号鍵」たる初期値は、サーバ装置311側で管理され、ユーザ側の端末装置331に知らされることはない。
【0247】
また、「暗号文」たる第1の提供用マルチメディア情報や第2の提供用マルチメディア情報は、それだけでは試聴用に利用することができるものであり、盗聴・窃視されても大きな問題は生じない。場合によっては、宣伝広告効果を奏する。
【0248】
そして、ユーザ側の端末装置331では、正しい第1の提供用マルチメディア情報と第2の提供用マルチメディア情報との組み合わせが得られて初めて、高品質のマルチメディア情報が得られることになる。これら2つは、一種の「勘合」としても機能するのである。
【0249】
したがって、本実施形態によれば、低品質のマルチメディア情報を試聴したユーザが高品質のマルチメディア情報を求めると、試聴可能な他の低品質のマルチメディア情報を提供することにより、高品質のマルチメディア情報を取得させることで、ユーザが暗号鍵等を管理する必要がなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明によれば、低品質のマルチメディア情報を試聴したユーザが高品質のマルチメディア情報を求めると、試聴可能な他の低品質のマルチメディア情報を提供することにより、高品質のマルチメディア情報を取得させることで、ユーザが暗号鍵等を管理する必要のないマルチメディア情報提供システム、サーバ装置、端末装置、マルチメディア情報提供方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0251】
【図1】本発明の実施形態にて利用される独立成分分析を行うための反復推測部の概要構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態にて利用される独立成分分析を行うための信号分離装置の構成を示す模式図である。
【図3】本信号分離装置にて実行される信号分離処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】第1の実験における源信号の波形の様子を示すグラフである。
【図5】第1の実験における観測信号の波形の様子を示すグラフである。
【図6】第1の実験において、L = 10として共役勾配法を用いて本実施形態の手法により4つの信号に独立成分分析を行った場合の波形のグラフである。
【図7】第1の実験において、従来の手法により4つ信号に独立成分分析を行った場合の波形のグラフである。
【図8】第2の実験における源信号の波形の様子を示すグラフである。
【図9】第2の実験における観測信号の波形の様子を示すグラフである。
【図10】第2の実験においてL = 5として甘利のα-divergenceNMFアルゴリズムを反復推測部において用いた本実施形態の手法により得られた波形のグラフである。
【図11】第2の実験におけるSIR値(Singnal to Interference Ratio)を示すグラフである。
【図12】第2の実験においてNMF Lee-Seungアルゴリズムという従来の手法により得られた波形である。
【図13】第3の実験における源信号となる画像を示す図である。
【図14】第3の実験における観測信号に相当する画像を示す図である。
【図15】第3の実験においてL = 5として本実施形態の手法を採用した場合に得られる源信号の様子を示す図である。
【図16】第3の実験においてL = 2として本実施形態の手法を採用した場合に得られる源信号の様子を示す図である。
【図17】第3の実験において、NMF Lee-Seungアルゴリズムという従来の手法により得られた源信号の画像を示す図である。
【図18】第3の実験における本実施形態の手法における信号のSIR値の値を示すグラフである。
【図19】本実施形態に係るマルチメディア情報提供システムの概要構成を示す説明図である。
【図20】チェビシェフ関数の様子を示すグラフである。
【図21】適当な初期値を与えてチェビシェフ関数を用いて生成したカオス乱数の途中までの分布を示すグラフである。
【図22】本マルチメディア情報提供システムのサーバ装置と端末装置の間の通信の様子を示すセッション図である。
【図23】本マルチメディア情報提供システムのサーバ装置の概要構成を示す説明図である。
【図24】本マルチメディア情報提供システムの端末装置の概要構成を示す説明図である。
【図25】本マルチメディア情報提供システムのサーバ装置にて実行されるサービス処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【図26】本マルチメディア情報提供システムの端末装置にて実行される端末処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【図27】元のマルチメディア信号の波形の様子を示す説明図である。
【図28】初期値0.2による2つの提供用マルチメディア情報の波形を示す説明図である。
【図29】初期値0.2による2つの提供用マルチメディア情報に独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。
【図30】初期値0.4による2つの提供用マルチメディア情報の波形を示す説明図である。
【図31】初期値0.4による2つの提供用マルチメディア情報に独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。
【図32】異なる初期値による2つの提供用マルチメディア情報の波形を示す説明図である。
【図33】異なる初期値による2つの提供用マルチメディア情報に独立成分分析を適用した結果得られる2つの成分信号の波形を示す説明図である。
【符号の説明】
【0252】
100 信号分離装置
101 反復推測部
102 繰返計算部
103 結果出力部
104 繰返制御部
105 記憶部
301 マルチメディア情報提供システム
311 サーバ装置
331 端末装置
351 コンピュータ通信網
501 マルチメディア情報記憶部
502 カオス系列生成部
503 初期値選択部
504 第1乱数列取得部
505 第1混合部
506 第1送信部
507 初期値記憶部
511 要求受信部
512 第2乱数列取得部
513 第2混合部
514 第2送信部
601 第1受信部
602 第1再生部
603 要求送信部
611 第2受信部
612 成分分析部
613 情報選択部
614 高品質再生部
621 第2再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバ装置と、端末装置と、を有するマルチメディア情報提供システムであって、
(a)前記サーバ装置は、
音声もしくは画像の少なくとも一方を含むマルチメディア情報をあらかじめ記憶するマルチメディア情報記憶部、
入力として与えられた値を初期値とするカオス系列からなる乱数列を生成するカオス系列生成部、
初期値を選択する初期値選択部、
前記選択された初期値を、前記カオス系列生成部に入力として与えて生成された乱数列を取得する第1乱数列取得部、
前記第1乱数列取得部により取得された乱数をノイズ信号として、第1の混合比で、前記記憶されたマルチメディア情報と混合して、第1の配信用マルチメディア情報を得る第1混合部、
前記得られた第1の配信用マルチメディア情報を、前記端末装置へ送信する第1送信部、
前記選択された初期値を当該端末装置に対応付けて記憶する初期値記憶部
を備え、
(b)前記端末装置は、
前記サーバ装置から送信された第1の配信用マルチメディア情報を受信する第1受信部、
前記受信された第1の配信用マルチメディア情報を再生する第1再生部、
前記サーバ装置へ、前記再生された第1の配信用マルチメディア情報の品質を向上させる第2のマルチメディア情報を要求する向上要求を送信する要求送信部
を備え、
(c)前記サーバ装置は、
前記端末装置から送信された向上要求を受信する要求受信部、
前記受信された品質向上要求を送信した端末装置に対応付けて前記初期値記憶部に記憶された初期値を、前記カオス系列生成部に入力として与えて生成された乱数列を取得する第2乱数列取得部、
前記第2乱数列取得部により取得された乱数をノイズ信号として、当該第1の混合比とは異なる第2の混合比で、前記記憶されたマルチメディア情報と混合して、第2の配信用マルチメディア情報を得る第2混合部、
前記得られた第2の配信用マルチメディア情報を、前記端末装置へ送信する第2送信部
をさらに備え、
(d)前記端末装置は、
前記サーバ装置から送信された第2の配信用マルチメディア情報を受信する第2受信部、
前記受信された第1の配信用マルチメディア情報と、前記受信された第2の配信用マルチメディア情報と、を入力信号として成分分析して、2つの成分信号を得る成分分析部、
前記出力された2つの成分信号のうち、当該成分信号のうち当該カオス系列の特徴を呈する程度が低い方を、高品質マルチメディア情報として選択する情報選択部、
前記選択された高品質マルチメディア情報を再生する高品質再生部
をさらに備える
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチメディア情報提供システムであって、
ある成分信号が当該カオス系列の特徴を呈する程度は、当該成分信号のリターンマップ、相関次元もしくは最大リャプノフ指数により定められる
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項3】
請求項1に記載のマルチメディア情報提供システムであって、
当該カオス系列は、所定の範囲Dを定義域および値域とする関数F(・)を、Dに含まれる任意の初期値zに対して繰り返し適用して得られる
z,F(z),F(F(z)),F(F(F(z))),…
であり、
ある成分信号
s1,s2,s3,…
が当該カオス系列の特徴を呈する程度を表す特徴値は、当該成分信号におけるi+1 (i≧1)番目の要素の誤差
|si+1 - F(si)|
の総和、自乗和、平均、もしくは、重み付き平均によって定められ、当該特徴値が小さければ小さいほど、当該カオス系列の特徴を呈する程度が高いものとする
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチメディア提供システムであって、
当該関数F(・)は、
Ta(cosθ) = cos(aθ)
と定義されるa (a≧2)次のチェビシェフ関数Ta(・)である
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供システムであって、
前記端末装置は、
前記受信された第2の配信用マルチメディア情報を再生する第2再生部
をさらに備える
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供システムであって、
前記サーバ装置において、
前記初期値選択部は、前記端末装置ごとに、ランダムに初期値を選択する
ことを特徴とするマルチメディア情報提供システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供システムが有するサーバ装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供システムが有する端末装置。
【請求項9】
サーバ装置と、端末装置と、を用いるマルチメディア情報提供方法であって、前記サーバ装置は、音声もしくは画像の少なくとも一方を含むマルチメディア情報をあらかじめ記憶するマルチメディア情報記憶部、カオス系列生成部、初期値選択部、第1乱数列取得部、第1混合部、第1送信部、初期値記憶部、要求受信部、第2乱数列取得部、第2混合部、第2送信部を有し、前記端末装置は、第1受信部、第1再生部、要求送信部、第2受信部、成分分析部、情報選択部、高品質再生部、を有し、
(a)前記サーバ装置において、
前記カオス系列生成部が、入力として与えられた値を初期値とするカオス系列からなる乱数列を生成するカオス系列生成工程、
前記初期値選択部が、初期値を選択する初期値選択工程、
前記第1乱数列取得部が、前記選択された初期値を、前記カオス系列生成工程に入力として与えて生成された乱数列を取得する第1乱数列取得工程、
前記第1混合部が、前記第1乱数列取得工程にて取得された乱数をノイズ信号として、第1の混合比で、前記記憶されたマルチメディア情報と混合して、第1の配信用マルチメディア情報を得る第1混合工程、
前記第1送信部が、前記得られた第1の配信用マルチメディア情報を、前記端末装置へ送信する第1送信工程、
前記初期値記憶部が、前記選択された初期値を当該端末装置に対応付けて記憶する初期値記憶工程
を備え、
(b)前記端末装置において、
前記第1受信部が、前記サーバ装置から送信された第1の配信用マルチメディア情報を受信する第1受信工程、
前記第1再生部が、前記受信された第1の配信用マルチメディア情報を再生する第1再生工程、
前記要求送信部が、前記サーバ装置へ、前記再生された第1の配信用マルチメディア情報の品質を向上させる第2のマルチメディア情報を要求する向上要求を送信する要求送信工程
を備え、
(c)前記サーバ装置において
前記要求受信部が、前記端末装置から送信された向上要求を受信する要求受信工程、
前記第2乱数列取得部が、前記受信された品質向上要求を送信した端末装置に対応付けて前記初期値記憶工程にて記憶された初期値を、前記カオス系列生成工程に入力として与えて生成された乱数列を取得する第2乱数列取得工程、
前記第2混合部が、前記第2乱数列取得工程にて取得された乱数をノイズ信号として、当該第1の混合比とは異なる第2の混合比で、前記記憶されたマルチメディア情報と混合して、第2の配信用マルチメディア情報を得る第2混合工程、
前記第2送信部が、前記得られた第2の配信用マルチメディア情報を、前記端末装置へ送信する第2送信工程
をさらに備え、
(d)前記端末装置において、
前記第2受信部が、前記サーバ装置から送信された第2の配信用マルチメディア情報を受信する第2受信工程、
前記成分分析部が、前記受信された第1の配信用マルチメディア情報と、前記受信された第2の配信用マルチメディア情報と、を入力信号として成分分析して、2つの成分信号を得る成分分析工程、
前記情報選択部が、前記出力された2つの成分信号のうち、当該成分信号のうち当該カオス系列の特徴を呈する程度が低い方を、高品質マルチメディア情報として選択する情報選択工程、
前記高品質再生部が、前記選択された高品質マルチメディア情報を再生する高品質再生工程
をさらに備える
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項10】
請求項9に記載のマルチメディア情報提供方法であって、
ある成分信号が当該カオス系列の特徴を呈する程度は、当該成分信号のリターンマップ、相関次元もしくは最大リャプノフ指数により定められる
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項11】
請求項9に記載のマルチメディア情報提供方法であって、
当該カオス系列は、所定の範囲Dを定義域および値域とする関数F(・)を、Dに含まれる任意の初期値zに対して繰り返し適用して得られる
z,F(z),F(F(z)),F(F(F(z))),…
であり、
ある成分信号
s1,s2,s3,…
が当該カオス系列の特徴を呈する程度を表す特徴値は、当該成分信号におけるi+1 (i≧1)番目の要素の誤差
|si+1 - F(si)|
の総和、自乗和、平均、もしくは、重み付き平均によって定められ、当該特徴値が小さければ小さいほど、当該カオス系列の特徴を呈する程度が高いものとする
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項12】
請求項11に記載のマルチメディア提供方法であって、
当該関数F(・)は、
Ta(cosθ) = cos(aθ)
と定義されるa (a≧2)次のチェビシェフ関数Ta(・)である
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供方法であって、
前記端末装置は、第2再生部をさらに有し、
前記第2再生部が、前記受信された第2の配信用マルチメディア情報を再生する第2再生工程
をさらに備える
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供方法であって、
前記サーバ装置において、
前記初期値選択工程では、前記端末装置ごとに、ランダムに初期値を選択する
ことを特徴とするマルチメディア情報提供方法。
【請求項15】
第1のコンピュータと、第2のコンピュータと、を請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチメディア情報提供システムとして機能させるプログラムであって、
前記プログラムは、前記第1のコンピュータを、前記サーバ装置の各部として機能させ、
前記プログラムは、前記第2のコンピュータを、前記端末装置の各部として機能させる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項16】
コンピュータを、請求項7に記載のサーバ装置の各部として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項17】
コンピュータを、請求項8に記載の端末装置の各部として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2008−244512(P2008−244512A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77573(P2007−77573)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304001545)株式会社カオスウェア (28)
【Fターム(参考)】