説明

マンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金

【課題】従来の鋳造法では鋳造可能なMnCu基制振合金のMn組成が限られている。MnCu基制振合金の鋳造温度より低い温度での焼結により双晶型高Mn組成の任意形状を持つ焼結MnCu基制振合金を提供する。
【解決手段】重量比でマンガンが67-94%、銅が6-33%、ニッケルが2-15%の三元系からなる合金粉に焼結助剤として,VB族のBiを重量比で0.5-30 %添加し、液相焼結法により焼結させた相対密度70-100%のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金において-50〜+300℃の温度領域で0.5 Hz〜100Hzの周波数領域に対し対数減衰率が0.01〜1であることを特徴とする焼結制振合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機械、車輌などでは,構造体の多機能化・コンパクト化に伴い振動騒音対策が重要となる。従来の振動騒音対策は、構造制振(質量増大、共振回避設計、振動絶縁設計)やシステム制振(制振ディバイスの追加)措置が行われていたが、適用できる範囲がせまくなってきている。そこで、最も直接な制振方法といわれる材料そのものの制振性を向上させることが近年大いに注目されている。材料そのものの制振性を向上させることは、構造体に構造部品として使用された制振材料そのものの機械振動エネルギーを熱エネルギーへ変換させ、構造体の振動の共振を抑制させることや、構造体の振動振幅を減衰させる制振手法である。このような制振性の機能を有する材料は制振材料という。金属や合金に比べて、高分子材料が大きな制振性の機能を呈しているが、剛性・強度や加工性、耐久性においては大きな欠点があり、実用分野が限られている。金属の剛性・強度、加工性や耐久性をもつことと同時に、一般金属より大きな制振性の機能を示す合金を制振合金と称する。実用に適する新しい制振合金の開発は機械や車輌の振動・騒音対策に非常に有効であり、大いに期待されている。本発明は、従来の鋳造型制振合金の代替として、特殊金属助剤による液相焼結合金を創製し、従来の鋳造型制振合金の問題点を克服するとともに、新たな機能性を付与した焼結制振合金を提供するものである。
【0002】
従来の鋳造型制振合金は、組織の特徴から複合型、強磁性型、転移型、双晶型に分類できる。複合型制振合金は片状黒鉛鋳鉄やAl-Zn等のダイカスト合金が相当する。これらの合金は強度が比較的に低く、高い制振性能が現れる温度範囲がせまいという欠点がある。転位型制振合金はMg系合金が対応するが、転位組織により制振性能が敏感に変化するので、加工プロセスをうまくコントロールしなければいけないことに問題点がある。強磁性型制振合金はFe, Co, Ni系の強磁性合金を指す。高い振動振幅において、高い制振性能を呈する一方、加工歪みや静的負荷の環境においては制振性能が著しく低下することが用途を制限している。
【0003】
双晶型制振合金は室温における組織の特徴が相変態双晶であり、その双晶界面が外力に伴い可逆的な移動を起こすことで、合金に制振機能をあたえる。その典型的な合金はMnCu基合金である。徐冷や時効処理によって、引張強度が500MPa以上となり、対数減衰率が0.3以上になる。MnCu基制振合金は顕著な振幅依存性を示す一方で、広い周波数帯域において優れた制振性能を発現する。高強度と高制振性能を兼有することから、実用性が高い制振合金として注目されている。しかしMnCu基制振合金はMn組成に依存して、高温での制振性能が減少することが問題点とされている(例えば、非特許文献1参照。)。Mn組成を増やして高温側での制振性能を上げることができるが、その組成で合金の鋳造が困難となる。また、鋳造したMnCu基制振合金には鍛造・圧延加工が可能であるが、複雑形状品を大量に製造するにはコストが高くなり、実用化へのネックにもなる。それに、MnCu基制振合金が制振性能を出すために固溶体化処理が不可欠であるため、結晶粒径が50μm以上となり、合金の力学特性の改善が望めない。
【0004】
【非特許文献1】殷ほか、日本金属学会誌、65(7),2001,607-613
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高Mn組成のMnCu基制振合金が広い温度範囲で制振性能が優れるため、その合金の創製法が課題となる。従来の鋳造法では鋳造可能なMnCu基制振合金のMn組成が限られているので、粉末冶金法を用い、合金粉末を焼結する方法が検討された。しかし、MnCu合金が酸化されやすいことから、焼結合金組成の確定、焼結温度や焼結条件の最適化が具体的な検討内容であった。発明者らは、新たな発想のもとに、鋭意研究を行い、MnCu基制振合金の鋳造温度より低い温度での焼結により双晶型高Mn組成の任意形状を持つ焼結MnCu基制振合金を作ることを可能にした。また添加元素や添加焼結助剤により従来の鋳造MnCu基制振合金にない新しい機能性を付与した焼結MnCu基制振合金を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、Mn-Cu-Ni系合金粉に焼結助剤としてVB族のBiを重量比で0.5-30wt%添加し液相焼結法により焼結させた相対密度70-100%の焼結合金を製造するようにしたものである。この場合、前記焼結助剤は低温度でMn-Cu-Ni系合金粉の表面と反応して、液相を発生して常圧で緻密化に寄与し任意の密度を達成する。用途に応じて相対緻密度は制御されなければならない。Biは焼結中Mn-Cu-Ni系合金粉末の表面組成をわずか変化するだけでそのほかが粒子界面に残り、焼結合金の制振効果に寄与する。さらに、硬質な炭化物、硼化物などの無機セラミックス粒子を0.5-30wt%添加分散させ液相焼結すると、耐摩耗性、剛性を向上させた粒子分散制振合金が製造できる。すなわち鋳造合金で従来なし得なかった高機能材料の製造が可能となる。
【0007】
本発明は、Mn-Cu-Ni系合金粉末に焼結助剤としてVB族のBiを重量比で0.5-30 wt%添加し液相焼結させることにより、相対密度70-100%の焼結合金を得ることができる。得られたものは0.5Hz〜50MHzの周波数領域の振動に対し-50+300℃の温度領域で低―中周波対数減衰率が0.01〜1、超音波縦波減衰率が0.01〜3 neper/cm、超音波横波減衰率が0.01〜2 neper/cmの振動減衰特性を発現できる。緻密度は用途に応じて制御されねばならない。95%以上の相対密度が常圧焼結で得られない場合はガス圧による熱間静水圧プレスで気孔を潰すか、ホットプレスで焼結しなければならない。
【0008】
さらに、無機セラミックス粒子を0.5-30wt%分散させると、耐摩耗性、剛性が向上した制動合金が提供できる。すなわち従来の鋳造合金では得られない特殊の機能を持つ制振合金が製造可能となる。
【発明の効果】
【0009】
従来の溶製合金に対し、本発明の焼結合金は最終部品形状までの加工プロセスが簡潔であると共に、組成調整の簡易化や第二相物質の添加による材料の機能複合化に特徴がある。高Mn組成のMnCu基制振合金は溶製法で作りにくいため、焼結法の適用が好都合である。またMnCu基制振合金の高温度領域における制振性能低下の問題が高Mn組成合金の焼結創製によって解決された。この焼結合金は広い温度範囲に温度依存性の少ない制振性能を呈することも特徴の一つである。更に従来の溶製MnCu基制振合金における硬さや耐食性に対する欠点も改善されている。以上のように、本系焼結制振合金は制振特性を維持しながら焼結時の他化合物の添加複合によって機能付加や機能改善が可能となった。これによって本発明の焼結機能付加合金は産業分野における応用において大きな成果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明における各種材料の焼結合金特性について、焼結条件を用いてその実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
表1は各種材料の原料組成及び焼結条件である。各種組成の粉末をアルコール媒体中ボールミルで1時間混合し、3トン/cm2の加圧力でプレスした。
【0012】
【表1】

【0013】
焼結合金の緒特性を表2に示す。密度はアルキメデス法、ビッカース硬度は500g荷重値。対数減衰率は400Hzの自由端片持ち共振法、縦波・横波減衰率は2MHzの超音波法で測定した。
【0014】
【表2】

【0015】
本発明は、表2に記載したように、対数減衰率、縦波・横波減衰率で優れた制振性を有するものは番号3,中程度のものは番号1,6,8,9,制振性が劣るものは番号2,4,5、7である。すなわち、番号2のSiや番号5のSn、番号7のBを助剤に用いると焼結性は促進するけれども制振性が悪い。番号8のFeも低下させる傾向がある。また、助剤や無機セラミックス量が請求項より多い番号4,9の場合、焼結性は向上せず、各種減衰率も多孔質のためいずれも低い。反対に助剤がない番号1の場合、焼結性は悪く機械的特性が低いものの減衰特性がある程度良いため強度が要求されない音響部材に使える。無機セラミックス含有(番号8,9)の場合、剛性が向上した減衰材となるため、切削振動吸収ホルダーに使用できる。軟鋼並の機械的強度をもつ番号3の組成は各種の機械構造用制振用材料として重用される。また上記焼結合金は溶製合金に比して複雑・任意形状にプレスされて研削加工等の後工程が軽減されるため、大量生産、低廉化への道を開く。
【0016】
表2における番号3の焼結合金を用いてAr大気圧下、-100〜350℃の温度範囲で対数減衰率を測定した。その結果を図1に示す。歪振幅は3x10-5、振動周波数0.1,1.0, 10Hzにおける溶製合金と焼結合金の制振性能である。比較用として、溶製MnCu20Ni5Fe2合金(M2052合金と略称)と対比させると、-50℃近辺の双晶界面の制振ピークに加えて、0〜300℃の温度範囲で温度によらずほぼ一定の制振特性を示す。特に70℃以上の高温領域で制振特性が消失するM2052合金と比べて使用温度が室温より高い機械構造部品への適用に好適である。なお強度と制振性はMn/Cu比において反比例の関係にあり、用途に応じては変える必要があるため、請求項1の組成範囲が限定された。
【0017】
Biの効果は約260℃の低融点の液相を形成し、主成分のMn-Cu-Ni粉末粒子を緻密化させることにある。BiはMn、Cu、Niに対してほとんど固溶限を持たないため、Biの融点269℃以上でも各々の融点まで固溶することなく液相が存在し、液相焼結を促進させる。冷却、凝固後もMn-Cu-Ni三元系合金粒子の粒界に偏在する。その結果、主成分のMn-Cu-Ni三元系合金は制振特性を変化させることがない。Bi量が小さいと液相焼結の効果が小さく、反対に多いと粒界量が増加して強度低下を招き、高比重となる。従って、最適組成が存在する。本発明では重量比で0.5-30 %と規定した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】番号3と比較用試料M2052合金のAr大気圧下、-100〜350℃の温度範囲での対数減衰率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比でマンガンが67-94%、銅が6-33%、ニッケルが2-15%の三元系からなる合金粉に焼結助剤として,VB族のBiを重量比で0.5-30 %添加し、液相焼結法により焼結させた相対密度70-100%のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金からなり、-50〜+300℃の温度領域で0.5 Hz〜100Hzの周波数領域に対し対数減衰率が0.01〜1であることを特徴とするマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。
【請求項2】
100Hz〜50 MHzの中−高周波周波数領域に対し対数減衰率が0.01〜1、超音波縦波減衰率が0.01〜3 neper/cm、超音波横波減衰率が0.01〜2 neper/cmであることを特徴とする請求項1に記載のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。
【請求項3】
マンガン−銅−ニッケル−ビスマス系粉末成分が各々単味の粉末あるいは二種類以上の元素の組み合わせからなる低級合金粉末を用いてマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金を焼結することを特徴とする請求項1または2に記載のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金中に、マンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金を100wt%としたときに無機セラミックスが0.5-30wt%になるように、無機セラミックスを分散させ、耐摩耗性、剛性を向上させることを特徴とするマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。
【請求項5】
マンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金のビッカース硬度が50-1000にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。
【請求項6】
マンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結合金の抗折力が50-100kg/mm2であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマンガン−銅−ニッケル−ビスマス系焼結制振合金。

【図1】
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【公開番号】特開2006−144056(P2006−144056A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333830(P2004−333830)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】