説明

マンガン含有水の浄水処理方法

【課題】原水中のマンガン濃度が高い場合にも充填層高さを抑制することによりランニングコストを低減できるマンガン含有水の浄水処理方法を提供する。
【解決手段】マンガンを含む原水に塩素を添加しながら、中央粒径が0.3〜0.7mmで、比重が3〜4の二酸化マンガン触媒の充填層2に300〜1300m/日の高フラックスの上向流として通水する。これにより溶解性マンガンは酸化不溶化されて析出するので、この充填層通過水を後段の膜ろ過装置4で膜ろ過して充填層2で酸化不溶化されたマンガンを除去する。二酸化マンガン触媒の中央粒径を大きくするに連れて、充填層2のフラックスを高く設定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、浄水処理場などで用いられるマンガン含有水の浄水処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【非特許文献1】厚生省監修「水道施設設計指針・解説1990」日本水道協会、5.18除マンガン設備及び5.6急速ろ過池の項
【0003】上水源として用いられている地下水や河川水には溶解性のマンガンが含まれていることがあり、その含有量が多いと黒水の原因となる。そこでこのようなマンガン含有水の浄水処理方法として、上記の非特許文献1に示されるように、従来から急速砂ろ過法が知られている。
【0004】この急速砂ろ過法は、マンガンを含む原水に塩素を添加しながら、二酸化マンガンが被覆されたろ過砂(マンガン砂)の充填層に150m/日程度の低フラックスの下向流として通水する方法である。溶解性のマンガンは二酸化マンガンを触媒として塩素により酸化されて不溶化され、原水中の濁質とともにマンガン砂に捕捉され除去される。
【0005】この方法において使用されるマンガン砂は、通常は0.8〜2mm程度である。その理由は、マンガン砂の粒径が0.8mmよりも小さいと圧力損失が急激に大きくなって実用的なろ過速度を確保することができず、2mmを越えると比表面積が小さくなりマンガンの除去率が低下するとともに、酸化不溶化されたマンガン及び濁質の除去率も低下するためである。しかしこのように適切な粒径のマンガン砂を使用しても、急速砂ろ過法では充填層のフラックスを200m/日以上に上げることはできず、処理すべき水量が多い時には非常に大面積の槽が必要となる。
【0006】そこで本発明者等は、マンガンを含む原水に塩素を添加しながら二酸化マンガン触媒の充填層に1000m/日以上の高フラックスの上向流として通水し、溶解性のマンガンの酸化不溶化と、酸化不溶化されたマンガンの二酸化マンガン触媒表面からの剥離とを進行させ、この充填層通過水を膜ろ過して充填層で酸化不溶化されたマンガンを除去する方法を開発した。この方法によれば小面積の処理槽で大量の原水の処理が可能となる。
【0007】ところが本発明者が各地の浄水場で処理試験を行ったところ、原水中のマンガン濃度が高い地方では、溶解性マンガンの酸化不溶化を十分に行わせるためには二酸化マンガン触媒の充填層高さを3m以上としなければならない。このため槽下部の圧力が高くなり、充填層に原水を高フラックスの上向流として通水するには大出力のポンプが必要となって、ランニングコストが嵩むという新たな問題が発生した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した問題点を解決し、小面積の処理槽で大量の原水の処理が可能であり、しかも原水中のマンガン濃度が高い場合にも充填層高さを抑制することによりランニングコストを低減できるマンガン含有水の浄水処理方法を提供するためになされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになされた本発明は、マンガンを含む原水に塩素を添加しながら、中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒の充填層に300〜1300m/日の高フラックスの上向流として通水し、この充填層通過水を膜ろ過して充填層で酸化不溶化されたマンガンを除去することを特徴とするものである。なお、二酸化マンガン触媒の中央粒径を0.3〜0.7mmの範囲内で大きくするに連れて、充填層のフラックスを300〜1300m/日の範囲内で次第に高く設定することが好ましい。また二酸化マンガン触媒として、比重が3〜4の二酸化マンガンの単一結晶体を用いることが好ましい。
【0010】本発明のマンガン含有水の浄水処理方法によれば、従来よりも遥かに微粒子である中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒を用いるため、触媒表面積を飛躍的に増加させることができる。このため原水中のマンガン濃度が高い場合にも、充填層高さを抑制することができる。また二酸化マンガン触媒の粒径に応じて充填層のフラックスを適切に設定することにより、二酸化マンガン触媒を適度に流動させることができるとともに、その流失を防止することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において、1は接触槽でありその内部には二酸化マンガン触媒の充填層2が形成されている。二酸化マンガン触媒としては、比重が3〜4の二酸化マンガンの単一結晶体を用いることが好ましい。なお従来の急速砂ろ過法に用いられているマンガン砂は、砂の表面に二酸化マンガンを被覆したものであって、その比重は2前後である。本発明ではこのように比重の大きい二酸化マンガン触媒を使用し、高フラックスの上向流によっても二酸化マンガン触媒の流失を防止している。
【0012】前記したように従来法では0.8〜2mm程度の粒径のマンガン砂が用いられてきたが、本発明では従来よりも遥かに微粒子である中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒が用いられる。ここで中央粒径を0.3〜0.7mmに限定したのは、粒径が0.3mmよりも細かいと比重が大きい二酸化マンガン触媒であっても流失の可能性があり、流失しないように充填層のフラックスを落とすと処理水量が減少するからである。また粒径が0. 7mmよりも粗くなると触媒表面積が小さくなり、充填層高さを高くしなければならなくなるためである。
【0013】溶解性のマンガンを含む原水は途中で必要量の塩素を連続的に添加されながら、原水打込みポンプ3によって接触槽1の下部から上向流として通水される。本発明ではそのフラックスを300〜1300m/日とする。充填層2のフラックスが300m/日未満であると接触槽1の面積を大きくしなければならないうえ、二酸化マンガン触媒の流動化が不十分となる。また充填層2のフラックスが1300m/日を越えると、二酸化マンガン触媒との接触を確保するために充填層を高くしなければならなくなり、本発明の目的を達成できない。
【0014】この充填層2のフラックスは、二酸化マンガン触媒の中央粒径に応じて決定することが好ましい。図2はフラックスと二酸化マンガン触媒の中央粒径との好ましい関係を実験的に求めたグラフであり、二酸化マンガン触媒の中央粒径をxとし、充填層2のフラックスをyとしたとき、図2の曲線はy=2570x2−10.327x+1.2828の実験式で表される。このグラフに示されるように、二酸化マンガン触媒の中央粒径が0.3〜0.7mmの範囲で大きくなるに連れて、充填層2のフラックスを300〜1300m/日の範囲で次第に高く設定することが好ましい。
【0015】このようにして充填層2に300〜1300m/日の高フラックスで原水を通水すると、二酸化マンガン触媒は流動状態となって膨張床を形成する。原水中の溶解性マンガンは充填層2中で酸化されて二酸化マンガン触媒の表面に析出するが、流動によるせん断作用により剥離されて後段の膜ろ過装置4に運ばれ、原水中の濁質とともに分離される。また二酸化マンガン触媒は流動状態にあるため逆洗操作を行わなくても閉塞のおそれはない。なお、膜ろ過装置4の種類は特に限定されるものではないが、ここでは膜孔径が0.1μmのセラミック膜が使用されている。このようにして本発明によれば、マンガンを除去された上水を得ることができる。
【0016】なお、本発明では従来よりも微粒子である中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒を用いているため、充填層2の膨張率が従来よりもやや大きくなることが避けられない。このため仮に二酸化マンガン触媒の充填量が同一であれば、触媒粒径に反比例してフラックスが低下し、同一水量を処理するために必要な槽面積が大きくなってしまう。しかし前記したように、粒径の小さい二酸化マンガン触媒は表面積が飛躍的に大きくなるため処理効率が高まり、その充填量を減少させることができるから、次の実施例の表に示すように充填層2の高さは小さくなる。その結果、接触槽1の下部圧力が減少してランニングコストを低減できるようになる。
【0017】
【実施例】溶解性のマンガンを0.3mg/Lの高濃度で含有する原水を用い、二酸化マンガン触媒の中心粒径を0.3〜0.8mmの範囲で変化させて処理テストを行った。従来法で用いられているマンガン砂の最小径である0.8mmを基準値1として、その触媒表面積を表1中に指数で示した。また好ましいフラックス、充填層高さ、下部圧力などの数値も示した。どの場合にも膜孔径が0.1μmのセラミック膜で膜ろ過し、充填層で酸化不溶化されたマンガンを除去した。いずれのケースでも膜ろ過水中のマンガン濃度はほぼゼロであった。
【0018】
【表1】

【0019】表1に示されるように、本発明によれば原水中のマンガン濃度が高い場合にも、充填層の高さを低く抑えることができ、それに応じて下部圧力も低くなる。例えば中心粒径が0.3mmの二酸化マンガン触媒を用いれば、0.8mmの場合よりも触媒表面積が2.7倍となるから、粒径を小さくしたことによる膨張率の増加があるにもかかわらず、充填層高さは大幅に低くでき、原水の打ち込みに必要なポンプ動力も半分以下となる。
【0020】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明のマンガン含有水の浄水処理方法によれば、原水に塩素を添加しながら中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒の充填層に300〜1300m/日の高フラックスの上向流として通水するので、フラックスを200m/日以上にはできない従来の急速砂ろ過法に比較して、小面積の処理槽で大量の原水の処理が可能である。しかも比重が大きく粒径の小さい二酸化マンガン触媒の使用により、原水中のマンガン濃度が高い場合にも充填層高さを抑制することができ、ランニングコストを低減することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】フラックスと二酸化マンガン触媒の中央粒径との好ましい関係を実験的に求めたグラフである。
【符号の説明】
1 接触槽、2 二酸化マンガン触媒の充填層、3 原水打込みポンプ、4 膜ろ過装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含む原水に塩素を添加しながら、中央粒径が0.3〜0.7mmの二酸化マンガン触媒の充填層に300〜1300m/日の高フラックスの上向流として通水し、この充填層通過水を膜ろ過して充填層で酸化不溶化されたマンガンを除去することを特徴とするマンガン含有水の浄水処理方法。
【請求項2】
二酸化マンガン触媒の中央粒径を0.3〜0.7mmの範囲内で大きくするに連れて、充填層のフラックスを300〜1300m/日の範囲内で次第に高く設定する請求項1記載のマンガン含有水の浄水処理方法。
【請求項3】
二酸化マンガン触媒として、比重が3〜4の二酸化マンガンの単一結晶体を用いる請求項1記載のマンガン含有水の浄水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−255487(P2006−255487A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−132873(P2003−132873)
【出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】