説明

ミシン

【課題】 一対の動メスと一体的なガイド部材を用いなくとも、下糸を確実に切断することのできるミシンを提供する。
【解決手段】 ミシンは、布送り台と、布送り台に対して上下動し、当該布送り台に支持された布を縫製するミシン針と、布送り台の下方に配置された糸を切断する糸切り装置とを備えている。糸切り装置は、糸を切断するための下メスと、上下方向に沿って下メスと開閉することで糸を切断する上メスとを備えている。布送り台は、糸と布とを離間させるために上部に突出した段差部と、上メスの動作経路となる溝とを備えている。溝の少なくとも一部は段差部により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに係り、特にミシンベッドに下糸切り装置を備えたボタン穴かがり縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ボタン穴かがり縫いミシンにおいては、上糸及び下糸をそれぞれ切断する上糸切り装置及び下糸切り装置を備えている。ここで下糸切り装置は、布送り台の下方に配置されており、糸切りメスを水平方向に揺動させて下糸を切断するもの(例えば特許文献1参照)や、糸切りメスで下糸を上下方向に挟んで切断するものが知られている。
図21は、下糸を上下方向に挟んで切断する糸切りメスの概略構成を示す斜視図であり、図22は糸切りメス単体の斜視図である。この糸切りメス100には、一対の動メス101,102が開閉自在に設けられていて、この動メス101,102の間に下糸を案内するためのガイド部材103が動メス101,102の上方に延在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−154184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、下糸をガイド部材103で案内する際、ガイド部材103と動メス102との間に下糸が挟まってしまうおそれがあり、こうなってしまうと下糸の切断ができなくなってしまっていた。
本発明の課題は、一対の動メスと一体的なガイド部材を用いなくとも下糸を確実に切断することのできるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係るミシンは、
布が載置される布送り台と、
ミシン上軸に連動して上下動し、前記布送り台に支持された布を縫製するミシン針と、
前記布送り台の下方に配置された糸を切断する糸切り装置とを備え、
前記糸切り装置は、
前記糸を切断するための下メスと、
前記下メスと協働して開閉することにより前記糸を切断する上メスとを備え、
前記布送り台は、
前記糸と前記布とを離間させるために上部に突出した段差部と、
前記上メスの動作経路となる溝とを備え、
前記溝の少なくとも一部は、前記段差部により構成されていることを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のミシンにおいて、
前記糸切り装置は、
前記上メス及び前記下メスを開閉するためのリンク機構と、
前記上メス、前記下メス及び前記リンク機構を支持する支持台とを備え、
ミシン機枠に対して、前記支持台を前後方向に沿って調整自在に支持することを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、
一端部が前記上メスの基端部に回転自在に連結され、他端部が壁部に回転自在に支持された基端部用リンク部材と、
前記基端部用リンク部材と平行になるように、一端部が前記上メスの中央部に回転自在に連結され、他端部が壁部に回転自在に支持された中央部用リンク部材と、を備え、
前記基端部用リンク部材、前記中央部用リンク部材、前記上メス及び前記壁部によって形成されたパンタグラフ機構によって、前記上メス及び前記下メスが開閉することを特徴としている。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、
前記壁部に回転自在に支持され、一端部に長孔が形成された長孔リンク部材と、
前記長孔リンク部材の前記長孔内を摺動する摺動部材と、
一端部が前記長孔リンク部材の前記長孔を介して前記下メスに回転自在に連結されて、他端部が中央部用リンク部材に回転自在に連結された下メス用リンク部材とを備え、
前記上メス、下メス用リンク部材、長孔リンク部材及び前記摺動部材によって形成されたトグル機構によって、前記パンタグラフ機構を駆動させることを特徴とするミシン。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のミシンにおいて、
前記下メス及び前記上メスの位置調整をするためのメス位置調整機構が、前記下メス用リンク部材及び前記基端部用リンク部材に対して設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5に記載のミシンにおいて、
前記リンク機構の駆動源となるアクチュエータをさらに備え、
前記リンク機構は、
前記アクチュエータに追従し、当該アクチュエータの動力を前記長孔リンク部材に伝達するための伝達用リンク部材を備え、
前記支持台には、前記伝達用リンク部材の可動範囲を調整するストッパ部材が、位置調整自在に取り付けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項7記載の発明は、請求項4〜6のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記支持台に固定され、前記アクチュエータを支持するブロック部材を有し、
前記支持台は、前記リンク機構を支持するための壁部と、前記壁部の下端部から水平に延在する底部とを備え、
前記底部又は前記ブロック部材には、前記糸の延在方向に沿う長孔が形成されており、前記長孔に対してガイド部材を挿通し、前記糸切り装置をスライドさせることで、前記糸の延在方向に沿って前記糸の切断位置を調整自在であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、布送り台に、糸と布とを離間させるために上部に突出した段差部が設けられており、この段差部が、上メスの動作経路となる溝の一部を形成しているので、段差部により形成された糸と布の隙間に上メスを案内することができ、糸を確実に切断することができる。このように、上メスと一対の動メスと一体的なガイド部材を用いなくとも、糸を確実に切断することが可能となる。
【0013】
請求項2,7記載の発明によれば、糸の延在する前後方向に沿ってスライドすることで糸切り装置が糸の切断位置を調整自在であるので、切断後の糸の長さを調整することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、上メス及び下メスはパンタグラフ機構によって開閉するので、簡易な構成で上メス及び下メスを開閉することができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、パンタグラフ機構がトグル機構によって作動されるので、切断にかける外力が小さくとも確実に糸を切断することができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、下メス及び上メスの位置調整をするためのメス位置調整機構が、下メス用リンク部材及び基端部用リンク部材に対して設けられているので、下メス及び上メスの位置調整を行うことができる。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、伝達用リンク部材の可動範囲を調整するストッパ部材が支持台に対して位置調整自在に取り付けられているので、ストッパ部材の位置を調整することにより伝達用リンク部材の可動範囲を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態たるミシンの後述するミシンベッド部内の要部構成のみを平面視して図示した構成図である。
【図2】図1のミシンに備わる布送り台の上面視図である。
【図3】図2の布送り台の段差部の概略構成を示す斜視図である。
【図4】図1のミシンに備わる下糸切り装置の閉状態時を正面側から見た斜視図である。
【図5】図4の下糸切り装置を背面側から見た斜視図である。
【図6】図4の下糸切り装置を背面側から見た背面図である。
【図7】図6の下糸切り装置から糸切りレバーを省略した背面図である。
【図8】図4の下糸切り装置の開状態時を正面側から見た斜視図である。
【図9】図9の下糸切り装置を背面側から見た斜視図である。
【図10】第一実施形態の下糸切り装置と、布送り台の段差部との位置関係を示す斜視図である。
【図11】図3の布送り台の溝を示す斜視図である。
【図12】第一実施形態の糸切り装置により糸切断時の状態を示す斜視図である。
【図13】第一実施形態の糸切り装置により糸切断時の状態を示す斜視図である。
【図14】第二実施形態のミシンに備わる布送り台の上面視図である。
【図15】図14の布送り台の段差部の概略構成を示す斜視図である。
【図16】第二実施形態の糸切り装置の分解斜視図である。
【図17】第二実施形態の下糸切り装置を正面側から見た斜視図である。
【図18】第二実施形態の下糸切り装置を背面側から見た斜視図である。
【図19】第二実施形態の下糸切り装置の背面図である。
【図20】第二実施形態の下糸切り装置の開状態時を示す正面側から見た斜視図である。
【図21】従来のミシンに備わる下糸を上下方向で挟んで切断する糸切りメスの概略構成を示す斜視図である。
【図22】図21の糸切りメス単体の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
まず、構成を説明する。
図1,図2に示す第一実施形態に係るミシン10は、布Hにかがり縫目を施すととともにボタン穴Bを形成する自動制御のボタン穴かがり縫いミシンである。
【0020】
ミシン10は、略矩形箱状をなすベッド部11と、ベッド部11の後部に設けられた縦胴部12と、縦胴部12の上部からベッド部11とほぼ平行に沿って前方に延びるアーム部13と、被縫製物H(布Hとも称する)を水平面内で移動させる布送り台16と、布送り台16上面に布Hを押える布押え17と、ボタン穴を形成するための布切りメス41及びメス受け42とを備えている。布送り台16には布Hが載置されている。
上記アーム部13の前方頭部13aには、下端部にミシン針14を備えた針棒15が設けられている。この針棒15は、上記アーム部13に配設した図示しないミシン上軸及び該上軸により駆動される針棒上下駆動機構により上下動可能に設けられているとともに、図示しない針振り機構により左右方向(図2のX方向)に針振り運動可能に設けられている。すなわち、ミシン針14はミシン上軸に連動して上下動し、布送り台16に支持された布Hを縫製する。
【0021】
前記上軸は、アーム部13内で、該アーム部13の前後方向(図1のY方向)に延在して設けられている。また、ベッド部11内には、前記下軸が前後方向に延在して設けられる。下軸はタイミングベルトを備えた伝動機構を介して上軸と接続されており、図示しない主軸モータにより回転される上軸の回転力が伝動機構を介して伝動されて下軸が回転する。なお、針振り機構は、針振り幅が機械的に調節可能な従来のボタン穴かがりミシンの備える周知のものと同様であり説明は省略する。
【0022】
ベッド部11には、針棒15の直下に下糸T2を案内するルーパが設けられている。このルーパは下軸に接続され、針棒15の上下運動と同期して、ミシン針14により案内された上糸T1に下糸T2を絡げる。このようにルーパと針棒15との協動により、上糸T1と下糸T2によって環縫いにおけるかがり縫い目が形成される。
また、針棒15およびルーパは、旋回パルスモータとタイミングベルトとを有する回動機構71に接続され、同期して垂直な軸回りを中心に回転し、これにより、ボタン穴の滴状の鳩目穴の周縁部に放射状の縫い目を形成する。
【0023】
布送り台16は、ベッド部11の上面に設けられており、布Hがセットされる。この布送り台16の上面には布Hを、該布Hに形成されるべきボタン穴Bの両側で押える布押え17が設けられている。
布送り台16は、全体として薄い矩形上の箱体をなし、ベッド部11内に設けられたX軸パルスモータおよびY軸パルスモータなどにより、左右方向(X方向)および前後方向(Y方向)に移動可能となっている。
この布送り台16は、所定の原点位置に位置決めされている状態で、その上面に載置された布Hにおけるボタン穴Bの形成予定位置の上下に布切りメス41とメス受け42とが臨むよう設定されている。縫製の後には、この位置でボタン穴Bが形成される。
【0024】
つまり、布送り台16は、ボタン穴Bの形成開始に伴って原点位置より前方の縫製開始位置に移動し、布送り台16に載置した布Hがミシン針14の直下の必要位置に相対的に移動するように駆動される。この駆動に協働して針棒15、ルーパ及び回動機構71が駆動することで、ボタン穴B周りのかがり縫いが形成される。縫製が完了すると、その縫製終了位置から、ボタン穴Bが形成される位置まで布を移動させる。
【0025】
かがり縫いが終了すると、布送り台16は縫製終了位置からボタン穴Bを形成可能な布切り位置に戻る。また、この布送り台16は、ミシン針14の上下動に連動して布送り台16上に載置された布Hを押さえるとともに作業者側からみて前後方向、つまりY方向に移動可能となっている。
【0026】
布切りメス41は、ベッド部11において、ミシン針14の駆動とともに布Hに縫目を形成するルーパが設けられた位置の後方に配置され、上述したように布送り台16の原点位置と合致する位置に配置されている。
また、布切りメス41の上方には、メス受け42が設けられている。メス受け42は、不図示のシリンダーやモーター等の駆動機器により上下動する。メス受け42は、布切り位置に布Hが到達した状態、つまりメス受け42と布切りメス41との間に布Hが配置された状態で、布切りメス41に向かって下降する。この下降によって、メス受け42と布切りメス41との間にセットされた布Hが押し切られ、ボタン穴Bがあけられる。なお、図2では、ミシン10において、縫製終了時の布送り台16の位置と、ベッド部11に固定された布切りメス41との関係を示している。
【0027】
この図2に示す位置関係において、布押さえ17を基準にして布切りメス41とはY方向に反対側の布送り台16の領域には、当該布送り台16のその他の領域とは上方に向けて突出した段差部161が形成されている。図3は段差部161の概略構成を示す斜視図である。図3に示すように、段差部161には、布送り台16の内部を露出する上面視略楕円状の孔部162がY方向に沿って形成されている。そして、孔部162の布押さえ17側の端部には、X方向に延在する溝163が形成されている。
すなわち、布送り台16は、下糸(糸とも称する)と布Hとを離間させるために、上部に突出した段差部161と、X方向に沿って段差部161に形成されるとともに上メス52の動作経路となる溝163とを有している。
【0028】
ここで、ミシン10には、上糸T1及び下糸T2をそれぞれ切断する上糸切り装置(図示省略)及び下糸切り装置50が備えられている。上糸切り装置においては周知の糸切り装置が用いられるためその説明を省略するが、下糸切り装置50においては本実施形態の特徴をなす構成のため、その詳細について以下に述べる。
この下糸切り装置50を、布送り台16の下方に配置された糸を切断する糸切り装置と称する。
【0029】
下糸切り装置50(糸切り装置とも称する)は、図1に示すように布送り台16の下部に配置されている。
図4は下糸切り装置50を正面側から見た斜視図、図5は下糸切り装置50を背面側から見た斜視図、図6は下糸切り装置50の背面図である。
図4〜図6に示すように、下糸切り装置50には、糸を切断するための下メス51と、下メス51に回転自在に支持され、ほぼ上下方向に沿って開閉するとともに、下メス51と協働して糸を切断する上メス52と、駆動源となるアクチュエータとしてのエアシリンダ53と、エアシリンダ53の伸縮動作を下メス51及び上メス52に伝導し、これら下メス51及び上メス52を開閉するリンク機構54と、これらを支持する支持台55とを備えている。
【0030】
支持台55は、リンク機構54を支持するための第一壁部(壁部とも称する)551と、エアシリンダ53を支持するための第二壁部552と、第一壁部551及び第二壁部552の下端部から水平に延在する底部553とを備えている。底部553には、Y方向に延在する複数の長孔554が形成されており、この長孔554に対して固定ネジ(ガイド部材との称する)555を挿通し、ベッド部(ミシン機枠とも称する)11内に係止することで位置決めされる。固定ネジ555の係合を弱めれば長孔554の長さの範囲で支持台55をスライドさせることができ、Y方向での位置調整が可能となっている。
すなわち、支持台55は、ミシン機枠に対して、前後方向(Y方向)に沿って調整自在に支持されている。また、支持台55は、リンク機構54を支持するための第一壁部551と、第一壁部551の下端部から水平に延在する底部553とを備えている。底部553には、前後方向に沿う複数の長孔554が形成されており、長孔554に対してガイド部材555を挿通し、糸切り装置50をベッド部11に対してスライドさせることで、前後方向に沿って糸の切断位置を調整自在である。
【0031】
エアシリンダ53の一対のロッド531は上下方向に伸縮自在となっており、この一対のロッド531の上部にリンク機構54に係合する係合片532が取り付けられている。係合片532の一端部は下方へ折れ曲がっており、この部分がリンク機構54に連結されている。
【0032】
リンク機構54には、一端部が回転自在に係合片532に連結された第一リンク部材541と、第一リンク部材541の他端部に連結されたL字状の糸切りレバー(長孔リンク部材とも称する)542とが備えられており、これらが第一壁部551の内壁面側に配置されている。糸切りレバー542は、その角部543(一端部とも称する)が第一壁部551に回転自在に支持されている。糸切りレバー542の短辺部の端部が第一リンク部材541に回転自在に連結されており、長辺部の端部が第一壁部551から突出している。この糸切りレバー542の長辺部の端部(他端部とも称する)には長孔544が形成されている。
エアシリンダ53のロッド531が昇降すると、それに連動して第一リンク部材541が昇降し、糸切りレバー542が角部543を中心に回転するようになっている。
【0033】
また、リンク機構54には、上メス52の基端部に連結された第二リンク部材(基端部用リンク部材とも称する)545と、上メス52の中央部に連結された第三リンク部材(中央部用リンク部材とも称する)546とが備えられており、これらが第一壁部551の外壁面側に配置されている。第二リンク部材545と第三リンク部材546は互いに平行になっている。第二リンク部材545の一端部は上メス52の基端部に回転自在に連結されていて、他端部は第一壁部551に回転自在に支持されている。第三リンク部材546の一端部は上メス52の中央部に回転自在に連結されていて、他端部は第一壁部551に回転自在に支持されている。図7に示すように、第三リンク部材546の中央部には、外側に向けて突出した凸部547が形成されており、この凸部547に第三リンク部材546と下メス51とを連結する第四リンク部材548が回転自在に連結されている。第四リンク部材548(下メス用リンク部材とも称する)の一端部には、糸切りレバー542の長孔544に係合する摺動部材549が取り付けられている。摺動部材549は、長孔544に係合するように、両側が平行に長辺状に形成されている。摺動部材は、長孔544内を摺動する。
この摺動部材549が、糸切りレバー542の回転運動を第四リンク部材548に伝達するので、第四リンク部材548が糸切りレバー542の回転運動に追従して第三リンク部材546を揺動させる。第三リンク部材546の動作は上メス52を介して第二リンク部材545にも伝達されるので、第三リンク部材546とともに上メス52及び第二リンク部材545も揺動する。また、第四リンク部材548は下メス51も動作させるので、上メス52と下メス51とが開閉動作することになる。
すなわち、リンク機構54は、一端部が上メス52の基端部に回転自在に連結され、他端部が壁部551に回転自在に支持された基端部用リンク部材545と、基端部用リンク部材545と平行になるように、一端部が上メス52の中央部に回転自在に連結され、他端部が壁部に回転自在に支持された中央部用リンク部材546と、を備え、基端部用リンク部材545、中央部用リンク部材546、上メス52及び壁部551によって形成されたパンタグラフ機構によって、上メス52及び下メス51が開閉する。
また、リンク機構54は、一端部が壁部551に回転自在に支持され、他端部に長孔544が形成された長孔リンク部材542と、一端部が長孔リンク部材542の前記長孔544を介して下メス51に回転自在に連結されて、他端部が中央部用リンク部材546に回転自在に連結された下メス用リンク部材548とを備え、上メス52、下メス用リンク部材548及び長孔リンク部材542によって形成されたトグル機構によって、パンタグラフ機構も連動する。
【0034】
以下、下糸切り装置50の動作について具体的に説明する。
図4〜図6は、下メス51及び上メス52が閉状態である場合を示している。この状態ではエアシリンダ53のロッド531が伸びている。ロッド531が縮むと、第一リンク部材541も下降して糸切りレバー542を矢印Y1方向に回転させる。この回転運動は摺動部材549を介して第四リンク部材548に伝わり、第四リンク部材548も矢印Y1方向へ移動する。これにより、第二リンク部材545、第三リンク部材546、下メス51及び上メス52も矢印Y1方向へ移動する。このとき、摺動部材549が長孔544内でスライドするため、下メス51と上メス52との位置関係が変化して、図8及び図9に示すように開状態となる。
【0035】
また、開状態からエアシリンダ53のロッド531が伸びると、第一リンク部材541も上昇して糸切りレバー542を矢印Y2方向に回転させる。この回転運動は摺動部材549を介して第四リンク部材548に伝わり、第四リンク部材548も矢印Y2方向へ移動する。これにより、第二リンク部材545、第三リンク部材546、下メス51及び上メス52も矢印Y2方向へ移動する。このとき、摺動部材549が長孔544内でスライドするため、下メス51と上メス52との位置関係が変化して、図4〜図6に示すように閉状態となる。
【0036】
また、第二リンク部材545、第三リンク部材546、上メス52及び第一壁部551によってパンタグラフ機構が形成されている。このパンタグラフ機構は、上メス52、第四リンク部材548及び糸切りレバー542によって形成されたトグル機構によって連動する。具体的には、上メス52及び第四リンク部材548は、糸切りレバー542による付勢力によって移動し、下メス51と閉状態となる。この第四リンク部材548と下メス51とがトグル機構をなしているので、下メス51と上メス52とが閉状態となる糸切りの瞬間に大きな力が発生させることが可能となっている。
【0037】
そして、この下糸切り装置50は、図10に示すように上メス52の動作経路が布送り台16の溝163内に進入するように配置されている。そして、図11に示すように溝163の幅Kは、下糸切り装置50の位置調整可能範囲に対応する大きさに形成されている。
なお、段差部161は、前後方向に沿って複数の固定穴が設けられている。段差部161は、不図示の取り付けねじにより、布送り板を介して布送り台16に固定されている。そして、固定穴を選択して、段差部161を前後方向Yに沿って取り付け位置を変更できる。変更された段差部161の溝163に上メス52が挿入できるように、下糸切り装置50の位置を調整してもよい。
【0038】
そして、糸切断時においては、図12に示すように布送り台16の段差部161によって下糸T2と布Hとが離間され、隙間が形成されている。このとき布Hは布押さえ17で押さえられたままの状態でもよい。
また、布送り台16の溝163内には、開状態の上メス52が収容されているため、その上メス52の刃先が下糸T2と布Hとの隙間を通過可能な位置に配置されている。そして、下糸切り装置50が閉状態に移行する際には、図13に示すように上メス52が溝163によって案内されながら徐々に下メス51との距離を縮めていき、最終的に上メス52と下メス51とが閉状態となることで下糸T2が切断される。
【0039】
また、上述したように下糸切り装置50は、長孔554の長さの範囲でY方向にスライド自在であるので、糸切断前に下糸切り装置50の位置を調整しておけば、下糸T2の切断位置も調整することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、布送り台16に、下糸T2と布Hとを離間させるために上部に突出した段差部161が設けられており、この段差部161に上メス52の動作経路となる溝163が形成されているので、段差部161により形成された下糸T2と布Hの隙間に上メス52を案内することができ、下糸T2を確実に切断することができる。したがって、従来のように一対の動メスと一体的なガイド部材を用いなくとも、下糸T2を確実に切断することが可能となる。
【0041】
また、従来では、布送り台16から布Hを開放することで両者間に上メスが進入しやすい状態を形成する必要があった。このため、布押さえ17が上昇し布Hを開放してから下糸T2の切断が行われていた。一方、本実施形態のミシン10であると段差部161によって予め布Hと下糸T2との間に隙間が形成されているので、布押さえ17により押さえられた状態で糸切断を行うことも可能である。この場合、縫製終了位置からボタン穴Bが形成される位置まで布送り台16が移動する間に下糸T2の切断が可能である。つまり、下糸T2の切断を他の動作に絡めて行うことができるのでボタン穴かがり縫いに係る全体の縫製時間を短縮することができる。
【0042】
また、糸の延在方向(Y方向)に沿ってスライドすることで下糸切り装置50が下糸T2の切断位置を調整自在であるので、切断後の下糸T2の長さを調整することができる。
また、上メス52及び下メス51はパンタグラフ機構によって開閉するので、簡易な構成で上メス52及び下メス51を開閉することができる。
さらに、パンタグラフ機構がトグル機構を備えているので、切断にかける外力が小さくとも確実に糸を切断することができる。
【0043】
なお、本発明は上記第一実施形態に限らず適宜変更可能である。
例えば、上記第一実施形態によれば、下糸切り装置50の駆動源がエアシリンダ53である場合を例示して説明したが、例えばモータやソレノイド等のその他のアクチュエータを駆動源にすることも可能である。
【0044】
また、上記第一実施形態のミシン10では、段差部161によって溝163の全体が構成されている場合を例示して説明したが、溝の少なくとも一部が段差部により構成されていてもよい。
以下、第二実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において上記実施形態と同一部分や同一機能の部品については同一の数字を用いてその説明をできる限り省略した。また、第一実施形態と区別するため、第二実施形態の部品の数字の末尾にaを加えた。
【0045】
図14及び図15に示すようにY方向(作業者側)から見て、左右一対の段差部161a,161bのうち、右側の段差部161aは、左側の段差部161bよりもY方向に短く形成されている。そして、布送り台16aにおける右側の段差部161aの奥側には、X方向に延びる切欠164aが形成されている。この切欠164aと、右側の段差部161aの奥側端部161aaと、右側の押さえ受板20aとで、溝163aを構成している。この溝163aが上メス52の動作経路となる。なお、動作経路は、右側の段差部161aの奥側端部161aaと、右側の押さえ受板20aとで構成してもよい。
また、右側の段差部161aの内側端部は、全体として湾曲した凹形状になっているのに対し、左側の段差部161bの内側端部は、手前側の端部のみが湾曲し、それ以外の部分は直線状となる凹形状に形成されている。これにより、上メス52の動作経路の延長線上の領域を空間とすることができ、左側の段差部161bと上メス52との干渉を防止している。
【0046】
次に、第二実施形態の下糸切り装置について図16〜図20に基づいて説明する。
図16は糸切り装置50Aの分解斜視図、図17は下糸切り装置50Aを正面側から見た斜視図、図18は下糸切り装置50Aを背面側から見た斜視図、図19は下糸切り装置50Aの背面図である。
図16〜図19に示すように、下糸切り装置50Aには、糸を切断するための下メス51aと、下メス51aに回転自在に支持され、ほぼ上下方向に沿って開閉するとともに、下メス51aと協働して糸を切断する上メス52aと、駆動源となるアクチュエータとしてのエアシリンダ53aと、エアシリンダ53aの伸縮動作を下メス51a及び上メス52aに伝導し、これら下メス51a及び上メス52aを開閉するリンク機構54aと、これらを支持する支持台55aとを備えている。
【0047】
上メス52aは、その基端部が下メス51aと間隔を開けるように曲げられている。
支持台55aは、リンク機構54aを支持するための壁部551aと、壁部551aの下端部から水平に延在する底部553aとを備えている。
底部553aには、エアシリンダ53aを底部553aに固定するためのブロック部材556aが取付けられている。
ブロック部材556aは、貫通孔557aに挿通された補助ネジ558aによって支持台55aの底部553aに固定される。ブロック部材556aのエアシリンダ53aに対向する面には、エアシリンダ53aを固定するためのネジ穴(図示省略)が形成されている。
ブロック部材556aには、Y方向(前後方向)に長孔556abが形成されている。また、支持台55aの底部553aには、Y方向(糸が延在する方向、又は前後方向)に沿った長孔554aが形成されている。
そして、支持台55aは長孔554a、556abにより、Y方向に沿って位置調整され、固定ネジ55aにより、所定位置でミシン機枠に固定する。
なお、長孔554aはブロック部材556aに、556abは支持台55aにそれぞれ形成したが、ブロック部材556aまたは支持台55aに複数の長孔を設けて支持台55aを位置調整することも容易に考えられる。
【0048】
エアシリンダ53aの一対のロッド531aは上下方向に伸縮自在となっており、この一対のロッド531aの上部にリンク機構54aに係合する係合片532aが取り付けられている。係合片532aは皿ネジ69aによって一対のロッド531aに固定されている。皿ネジ69aを用いた場合、六角穴付きボルトよりも省スペース化を図ることができる。そして、係合片532aの一端部は下方へ折れ曲がっており、この部分がリンク機構54aに連結されている。
また、エアシリンダ53aには、ブロック部材556aのネジ穴に対向するように貫通孔533aが形成されている。この貫通孔533aを介してブロック部材556aのネジ穴(図示省略)に固定ネジ534aを螺合することで、ブロック部材556aにエアシリンダ53aが固定される。
【0049】
リンク機構54aには、一端部が回転自在に係合片532aに連結された第一リンク部材(伝達用リンク部材)541aと、第一リンク部材541aの他端部に連結されたL字状の糸切りレバー(長孔リンク部材)542aとが備えられており、これらが壁部551aの内側(図16では壁部551aを基準に右側)に配置されている。
第一リンク部材(伝達用リンク部材)541aは、係合片532aを介してエアシリンダ53aの伸縮動作に追従し、当該エアシリンダ53aの動力を糸切りレバー542aに伝達するものである。この第一リンク部材541aの他端部には、突起541bが形成されている。
糸切りレバー(長孔リンク部材)542aは、くの字形状で、その中央部に突起部543aが形成されている。突起部543aの貫通孔には支持軸570が挿通される。支持軸570の一端側は、壁部551aに固定保持される。このため、糸切りレバー(長孔リンク部材)542aは、支持軸570を介して、壁部551aに回転自在に支持されている。くの字状の糸切りレバー(長孔リンク部材)542aは、一端部542aaに長孔544aが形成され、他端部542abが第一リンク部材(伝達用リンク部材)541aに回転自在に連結されている。
エアシリンダ53aのロッド531aが昇降すると、それに連動して第一リンク部材541aが昇降し、糸切りレバー542aが支持軸570を中心に回転するようになっている。
【0050】
また、リンク機構54aには、上メス52aの基端部(下側)に連結された第二リンク部材(基端部用リンク部材)545aと、上メス52aの中央部に連結された第三リンク部材(中央部用リンク部材)546aとが備えられている。
これら第二リンク部材(基端部用リンク部材)545aと第三リンク部材(中央部用リンク部材)546aは、壁部551aの外側(図16では壁部551aを基準に左側)で、互いに平行になるように配置されている。
第二リンク部材(基端部用リンク部材)545aは板状の部材である。第二リンク部材545aの一端部545aaは、段ネジ(支持軸)571を介して、上メス52aの基端部に回転自在に連結されている。また、第二リンク部材545aの他端部545abは、回転軸545cを介して、壁部551aに回転自在に支持されている。
また、壁部551aの第二リンク部材545aの他端部が支持される部分には、上下方向に沿って延在する長孔551bが形成されている。この長孔551bに沿って第二リンク部材545aの他端部の回転軸545cを上下方向に移動させることで、上メス52aの位置を調整できるようになっている。
【0051】
第一実施形態とは異なり第二実施形態では、上メス52aの基端部が曲げられているため、上メス52aの基端部は、第二リンク部材545a及び第三リンク部材546aの外側面で両者に係合している。
第三リンク部材(中央部用リンク部材)546aは、三角形状で、一端部には軸体546bが固定され、他端部547abには支持穴が、中央部547acには連結穴が形成されている。
第三リンク部材546aの一端部の軸体546bに対して上メス52aの中央部がスラストカラー60aを介して回転自在に連結されている。
軸体546bが第三リンク部材546aに一体化されているので強度を向上させることができ、またスラストカラー60aによって上メス52aのガタツキを防止している。
一方、第三リンク部材546aの他端部547abは段ネジ572により、壁部551aに回転自在に支持されている。
第三リンク部材546aの中央部547acは、外側に向けて突出した凸部である。この中央部547acには、第三リンク部材546aと下メス51aとを連結する第四リンク部材(下メス用リンク部材)548aが段ネジ61aを介して回動自在に連結されている。下メス51aは、段ネジ61aによって、第三リンク部材546aと、第四リンク部材548aに挟持されて連結されている。このため、下メス51aのガタツキが防止される。
段ネジ61aはその軸62aがネジ頭63aに対して偏心している。また段ネジ61aの軸62aは下メス51の基端部を通過し、イモネジ64aによって第四リンク部材548aに固定されている。ここで、イモネジ64aによる固定を解除し、段ネジ61aのネジ頭63aを回転させれば軸62aがネジ頭63aの回転軸を中心に回転し、軸62aの位置が変動する。この変動によって下メス51aの基端部の位置も変動して、下メス51の先端部の開閉位置が調整されることになる。
【0052】
また、第四リンク部材548aの一端部には、座金549b及び段ネジ549cを介して角駒(摺動部材)549aが取り付けられている。角駒549aは、両側に長辺が形成さており、その長辺が糸切りレバー542aの長孔544aに係合する。角駒549aは、長孔544a内を摺動する。
また、角駒549aは、段ネジ549cと第四リンク部材548aの一端部とに挟持されるので、Y方向へのガタツキが防止されることになる。
また、角駒549aは、糸切りレバー542aの回転運動を第四リンク部材548aに伝達する。そして、第四リンク部材548aが糸切りレバー542aの回転運動に追従して第三リンク部材546aを揺動させる。第三リンク部材546aの揺動は上メス52aを介して第二リンク部材545aにも伝達され、上メス52a及び第二リンク部材545aも揺動する。また、第四リンク部材548aは下メス51aも動作させるので、下メス51aと上メス52aが開閉動作することになる。図20においては、下メス51aと上メス52aとが開状態である場合を示している。
【0053】
また、段ネジ61aを回転させるとともに、回転軸545cを上下方向に移動させて第二リンク部材545aの位置を変更させることによって、下メス51a及び上メス52aの上下位置を調整することが可能となっている(例えば図19に示す二点鎖線参照。)具体的には、イモネジ64aによる固定を解除した状態で、回転軸545cを長孔551bに沿って昇降させると、この昇降に追従して第二リンク部材545aの他端部の位置が変動し、上メス52aの位置も変動する。この上メス52aの位置が調整されると、その動作に連動して下メス51aも移動するが、この際、イモネジ64aによる固定が解除されているので、第四リンク部材548a及び段ネジ61aは下メス51aの移動を規制することなく、当該移動に追従して動作するようになっている。つまり、下メス51a及び上メス52aの位置調整をするためのメス位置調整機構は、壁部551aの長孔551bと、回転軸545cと、第二リンク部材545aと、段ネジ61aと、第四リンク部材548aとを備えて構成される。このようにメス位置調整機構が、第二リンク部材545a及び第四リンク部材548aに対して設けられているので、下メス51a及び上メス52aの位置調整を行うことができる。
【0054】
さらに、糸切り装置50Aには、第一リンク部材541aの可動範囲を調整するためのストッパ部材80aが備えられている。このストッパ部材80aは、壁部551aに取り付けられる基部81aと、基部81aに対して湾曲し、上下方向に延在する規制部82aとを備えている。
また、基部81aには、上下方向に延在する一対の長孔84aが形成されていて、この長孔84aに固定ネジ85aを挿通し、壁部551aに螺合させることで基部81aが壁部551aに固定される。また、固定ネジ85aを介して長孔84aに沿って基部81aを昇降させることで、ストッパ部材80a全体の上下位置を調整できるようになっている。
規制部82aには、上下方向に延在するガイド穴83aが形成されていて、このガイド穴83aに第一リンク部材541aの突起541bが係合している。ストッパ部材80aの上下位置を調整することで、ガイド穴83aの上端位置も調整されるため、第一リンク部材541aの突起541bの上死点、つまり第一リンク部材541aの上側の可動範囲を変更することができる。
このように、第一リンク部材(伝達用リンク部材)541aの可動範囲を調整するストッパ部材80aが支持台55aに対して位置調整自在に取り付けられているので、ストッパ部材80aの位置を調整することにより第一リンク部材541aの可動範囲を調整することができる。
【0055】
上記実施形態の作用効果について記載する。
布が載置される布送り台16,16aと、
ミシン上軸に連動して上下動し、布送り台16,16aに支持された布Hを縫製するミシン針14と、
布送り台16,16aの下方に配置された糸(下糸T2)を切断する糸切り装置50,50aとを備え、
糸切り装置50,50aは、
糸を切断するための下メス51,51aと、
下メス51,51aと協働して開閉することにより前記糸を切断する上メス52,52aとを備え、
布送り台16,16aは、
糸T2と布Hとを離間させるために上部に突出した段差部161,161aと、
上メス52,52aの動作経路となる溝163,163aとを備え、
溝163,163aの少なくとも一部は、段差部161,161aにより構成されていることを特徴とする。
【0056】
この溝163は、段差部161に形成されても良く、溝163aは、段差部161aと押え受板20aとで形成されても良く、段差部161aと押え受板20aと切欠164aで形成されても良い。
このように、布送り台16,16aに、糸と布Hとを離間させるために上部に突出した段差部161,161aが設けられており、この段差部161,161aが、上メス52,52aの動作経路となる溝163,163aの一部を形成しているので、段差部161,161aにより形成された糸と布Hの隙間に上メス52、52aを案内することができ、糸T2を確実に切断することができる。
【0057】
より具体的には、糸切り装置50、50aは、
上メス52,52a及び下メス51,51aを開閉するためのリンク機構54,54aと、
上メス52,52a、下メス51,51a及びリンク機構54,54aを支持する支持台55,55aとを備え、
ミシン機枠11に対して、支持台55,55aを前後方向(Y方向)に沿って調整自在に支持する。
このため、糸切り装置50,50aを、糸の延在する前後方向に沿ってスライドすることで、糸の切断位置を調整できる。
【0058】
また、リンク機構54,54aは、
一端部が上メス52,52aの基端部に回転自在に連結され、他端部が壁部551,551aに回転自在に支持された基端部用リンク部材545,545aと、
基端部用リンク部材545,545aと平行になるように、一端部が上メス52,52aの中央部に回転自在に連結され、他端部が壁部551,551aに回転自在に支持された中央部用リンク部材546,546aと、を備え、
基端部用リンク部材545,545a、中央部用リンク部材546,546a、上メス52,52a及び壁部551,551aによって形成されたパンタグラフ機構によって、上メス52,52a及び下メス51,51aが開閉する構成とした。
このような構成により、簡易な構成で上メス52,52a及び下メス51,51aを開閉することができる。
【0059】
また、リンク機構は、
前記壁部51,551aに回転自在に支持され、一端部に長孔544,544aが形成された長孔リンク部材542,542aと、
前記長孔リンク部材542,542aの長孔544,544a内を摺動する摺動部材549,549aと、
一端部が前記長孔リンク部材542,542aの前記長孔544,544aを介して前記下メス51,51aに回転自在に連結されて、他端部が中央部用リンク部材546,546aに回転自在に連結された下メス用リンク部材548、548aとを備え、
前記上メス52,52a、下メス用リンク部材548,548a、長孔リンク部材542,542a及び摺動部材549,549aによって形成されたトグル機構によって、パンタグラフ機構を駆動させる構成とした。
このような構成により、パンタグラフ機構がトグル機構によって駆動されるので、切断にかける外力が小さくとも確実に糸を切断することができる。
【0060】
また、下メス51a及び上メス52aの位置調整をするためのメス位置調整機構(長孔551bと、回転軸545cと、段ネジ61aとから構成される。)が、下メス用リンク部材548a及び基端部用リンク部材545aに対して設けられている。
このような構成により、下メス51a及び上メス52aの位置調整を容易に行うことができる。
【0061】
さらに、リンク機構の駆動源となるアクチュエータ53,53aをさらに備え、
リンク機構は、アクチュエータ53,53aに追従し、当該アクチュエータ53,53aの動力を長孔リンク部材542a,542aに伝達するための伝達用リンク部材541,541aを備え、
支持台55aには、伝達用リンク部材541aの可動範囲を調整するストッパ部材80aが、位置調整自在に取り付けられる構成とした。
【0062】
また、支持台55,55aに固定され、前記アクチュエータ53,53aを支持するブロック部材556abを有し、
支持台55、55aは、リンク機構を支持するための壁部551,551aと、壁部551,551aの下端部から水平に延在する底部553,553aとを備え、
底部553,553a又はブロック部材556abには、糸の延在方向(Y方向)に沿う長孔554,554aが形成されており、長孔554,554aに対してガイド部材555aを挿通し、糸切り装置50,50aをスライドさせることで、糸の延在方向に沿って糸の切断位置を調整自在な構成とした。
【符号の説明】
【0063】
10 ミシン
11 ベッド部(ミシン機枠)
12 縦胴部
13 アーム部
13a 前方頭部
14 ミシン針
15 針棒
16,16a 布送り台
50,50a 下糸切り装置(糸切り装置)
51,51a 下メス
52,52a 上メス
53,53a エアシリンダ(アクチュエータ)
54 リンク機構
55 支持台
71 回動機構
161 段差部
162 孔部
163 溝
531 ロッド
532 係合片
541,541a 第一リンク部材(伝達用リンク部材)
542,542a 糸切りレバー(長孔リンク部材)
543 角部
544 長孔
545,545a 第二リンク部材(基端部用リンク部材)
546,546a 第三リンク部材(中央部用リンク部材)
547 凸部
548,548a 第四リンク部材(下メス用リンク部材)
549,549a 摺動部材
551,551a 第一壁部(壁部)
552 第二壁部
553,553a 底部
554,554a 長孔
555,555a 固定ネジ(ガイド部材)
B ボタン穴
H 布
T1 上糸
T2 下糸(糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布が載置される布送り台と、
ミシン上軸に連動して上下動し、前記布送り台に支持された布を縫製するミシン針と、
前記布送り台の下方に配置された糸を切断する糸切り装置とを備え、
前記糸切り装置は、
前記糸を切断するための下メスと、
前記下メスと協働して開閉することにより前記糸を切断する上メスとを備え、
前記布送り台は、
前記糸と前記布とを離間させるために上部に突出した段差部と、
前記上メスの動作経路となる溝とを備え、
前記溝の少なくとも一部は、前記段差部により構成されていることを特徴とするミシン。
【請求項2】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記糸切り装置は、
前記上メス及び前記下メスを開閉するためのリンク機構と、
前記上メス、前記下メス及び前記リンク機構を支持する支持台とを備え、
ミシン機枠に対して、前記支持台を前後方向に沿って調整自在に支持することを特徴とするミシン。
【請求項3】
請求項2記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、
一端部が前記上メスの基端部に回転自在に連結され、他端部が壁部に回転自在に支持された基端部用リンク部材と、
前記基端部用リンク部材と平行になるように、一端部が前記上メスの中央部に回転自在に連結され、他端部が壁部に回転自在に支持された中央部用リンク部材と、を備え、
前記基端部用リンク部材、前記中央部用リンク部材、前記上メス及び前記壁部によって形成されたパンタグラフ機構によって、前記上メス及び前記下メスが開閉することを特徴とするミシン。
【請求項4】
請求項3記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、
前記壁部に回転自在に支持され、一端部に長孔が形成された長孔リンク部材と、
前記長孔リンク部材の前記長孔内を摺動する摺動部材と、
一端部が前記長孔リンク部材の前記長孔を介して前記下メスに回転自在に連結されて、他端部が中央部用リンク部材に回転自在に連結された下メス用リンク部材とを備え、
前記上メス、下メス用リンク部材、長孔リンク部材及び前記摺動部材によって形成されたトグル機構によって、前記パンタグラフ機構を駆動させることを特徴とするミシン。
【請求項5】
請求項4記載のミシンにおいて、
前記下メス及び前記上メスの位置調整をするためのメス位置調整機構が、前記下メス用リンク部材及び前記基端部用リンク部材に対して設けられていることを特徴とするミシン。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のミシンにおいて、
前記リンク機構の駆動源となるアクチュエータをさらに備え、
前記リンク機構は、
前記アクチュエータに追従し、当該アクチュエータの動力を前記長孔リンク部材に伝達するための伝達用リンク部材を備え、
前記支持台には、前記伝達用リンク部材の可動範囲を調整するストッパ部材が、位置調整自在に取り付けられていることを特徴とするミシン。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記支持台に固定され、前記アクチュエータを支持するブロック部材を有し、
前記支持台は、前記リンク機構を支持するための壁部と、前記壁部の下端部から水平に延在する底部とを備え、
前記底部又は前記ブロック部材には、前記糸の延在方向に沿う長孔が形成されており、前記長孔に対してガイド部材を挿通し、前記糸切り装置をスライドさせることで、前記糸の延在方向に沿って前記糸の切断位置を調整自在であることを特徴とするミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−254287(P2012−254287A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109229(P2012−109229)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】