説明

ミトコンドリアナトリウム−カルシウムエクスチェンジャーとして有用な環状スルホン

本発明は、新規な遊離塩基形または酸付加塩形の式
【化1】


のヘテロ環式化合物、その製造、医薬としてのその使用およびそれを含む医薬に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヘテロ環式化合物、その製造、医薬としてのその使用およびそれを含む医薬に関する。
【発明の概要】
【0002】
より具体的には、本発明は遊離塩基形または酸付加塩形の式
【化1】

の化合物に関する。
【0003】
例えば、式Iの化合物に不斉炭素原子が存在するため、式Iの化合物は純粋な光学的活性形態で存在していてもよいし、あるいは光学異性体の混合物の形態で、例えばラセミ混合物の形態で存在していてもよい。かかる純粋な光学異性体全ておよびラセミ混合物を含むそれらの混合物全てが、本発明の一部である。
【0004】
式Iの化合物は遊離塩基形または酸付加塩形で存在していてもよい。かかる遊離化合物および塩の全てが、本発明の一部である。
式Iの化合物は互変異性型で存在していてもよい。かかる互変異性体の全てが、本発明の一部である。
とりわけ好ましい態様において、本発明は遊離塩基形または酸付加塩形の、実施例に記載の式Iの化合物のいずれか1個または1個以上に関する。
【0005】
さらなる局面において、本発明は遊離塩基形または酸付加塩形の式Iの化合物の製造方法であって、遊離塩基形または酸付加塩形の式
【化2】

の化合物を酸化剤と反応させ、所望によりその後、所望により存在する任意の保護基を切断し、そして得られた遊離塩基形または酸付加塩形の式Iの化合物を回収する工程を含む方法に関する。
【0006】
方法工程は常套の方法に従って、例えば実施例に記載のとおりに行うことができる。
【0007】
酸化工程における酸化剤として、例えばオゾン、ジオキシラン誘導体、例えばジメチルジオキシラン、酸化ピリジニウム塩、例えばピリジニウムクロロクロム酸、過酸化物、例えばHもしくはtert.−ブチルヒドロペルオキシド、無機過酸またはその塩、例えばKHSO、無機過酸もしくはその塩を含む組成物、例えばOXONE(登録商標)、または有機過酸、例えば過酢酸もしくはメタ−クロロ過安息香酸を用いることができる。
【0008】
酸化工程を、好ましくは使用する反応条件下で不活性である溶媒の存在下で行うことができる。
保護基の切断を、既知の方法に従って行うことができる。
反応混合物の後処理および得られた式Iの化合物の精製を、既知の方法に従って行うことができる。
【0009】
式Iの化合物の酸付加塩を対応する遊離塩基から既知の方法で製造することができ、その逆も可能である。
式IIの出発物質は既知であるか、または既知の化合物から出発して常套の方法に従って製造することができる。
【0010】
式Iの化合物はまた、さらなる常套の方法によって製造することができ、この方法は本発明のさらなる局面である。
【0011】
式Iの化合物およびそれらの薬学的に許容される酸付加塩(本明細書において、「本発明の薬剤」と称す)は、インビトロおよび動物で試験したとき有用な薬理学的特徴を示し、したがって医薬として有用である。
【0012】
本発明の薬剤は、興奮組織におけるミトコンドリアのCaホメオスタシスの有用な要素であるミトコンドリアナトリウム−カルシウムエクスチェンジャー(mNCE)の阻害剤である。したがって、ミトコンドリアのCa操作能(handling capacity)の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防のために、本発明の薬剤を使用することができる。
【0013】
したがって本発明の薬剤は、例えば血管もしくは代謝障害もしくは疾患、例えば神経変性疾患、例えばパーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、多発性硬化症(MS)、ダウン症候群、記憶障害、認識機能障害、認知症、神経変性疾患、脳炎症、重症筋無力症、神経外傷、脳外傷、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋萎縮性側索硬化症−(ALS)−様症候群、老化、レーベル遺伝性視神経症(LHON)症候群、リー症候群、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシスおよび卒中様エピソード(MELAS)症候群、家族性両側性線条体壊死(FBSN)症候群、成長遅延、アミノ酸尿症、乳酸アシドーシスおよび早期死亡(GRACILE)症候群、赤色ぼろ繊維を伴うミオクローヌス癲癇(MERRF)症候群、ニューロパシー、運動失調および網膜色素変性(NARP)症候群、進行性外眼筋麻痺(PEO)症候群、キーンズ−セイアー(KS)症候群、乳幼児突然死(SID)症候群、優性視神経萎縮、mtDNA減少(MD)症候群、バース症候群、ミトコンドリア神経消化管脳筋症(mitochondrial neurogastrointestinal encephalmyopathy)、Mohr-Tranebjaerg症候群、フリードライヒ失調症、ウィルソン病、虚血−再灌流損傷後の病的状態(例えば心臓虚血または卒中)、癲癇発作後の病的状態、ニーマン−ピック病タイプC、糖尿病(例えば1型糖尿病、2型糖尿病または若年性糖尿病)またはアテローム性動脈硬化症の処置および/または予防に有用である。
【0014】
上記適応症について、適切な本発明の薬剤の投与量は、例えば使用する化合物、宿主、投与形態または処置および/または予防する状態の性質および重症度に依存して、当然変化する。しかし一般に、動物における満足のいく結果が、本発明の薬剤の1日用量約0.1〜約100、好ましくは約1〜約50mg/kg動物体重で得られる。大型哺乳類、例えばヒトにおいて、適用1日用量は本発明の薬剤約10〜約2000、好ましくは約10〜約200mgの範囲で、簡便には例えば1日4回までの分割用量または徐放形態で投与する。
【0015】
本発明の薬剤をあらゆる常套の経路、とりわけ経腸、好ましくは経口的に、例えば錠剤またはカプセル剤の形態で、または非経腸的に、例えば注射用溶液または懸濁液の形態で投与することができる。
【0016】
上記のとおり、本発明はまた、例えばミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防用医薬として用いるための、本発明の薬剤を提供する。
【0017】
本発明はさらにまた、本発明の薬剤と少なくとも1種の薬学的担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。かかる組成物を常套の方法で製造することができる。単位投与形態は、本発明の薬剤例えば約1〜約1000、好ましくは約1〜約500mgを含む。
【0018】
本発明の薬剤を単独で、または少なくとも1種の他の薬剤との組合せとして投与することができ、かかる組合せ剤は上記状態の処置および/または予防に有効である。
【0019】
医薬組合せ剤は単位投与形態であってもよく、各単位投与形態は所定の量の活性成分を、適切な薬学的担体または希釈剤と共に含む。あるいは、組合せ剤は活性成分を個別に含むパッケージの形態、例えば個別にアレンジされた活性剤の同時または個別投与のために採用されるパックまたはディスペンサーデバイスであり得る。
【0020】
さらにまた本発明は、ミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防用医薬の製造のための、本発明の薬剤の使用を提供する。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、処置および/または予防を必要とする対象におけるミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防方法であって、当該対象に治療上有効量の本発明の薬剤を投与することを含む方法を提供する。
【0022】
下記実施例は本発明を、限定することなく説明する。
【実施例】
【0023】
実施例
略語
【表1】

【0024】
実施例1: 2−クロロ−9−(2−クロロフェニル)−8,8−ジオキソ−5,7,8,9−テトラヒドロ−8ラムダ*6*−チア−5−アザ−ベンゾシクロヘプテン−6−オン
2−クロロ−9−(2−クロロフェニル)−5,9−ジヒドロ−8−チア−5−アザ−ベンゾシクロヘプテン−6−オン(200mg、0.62mmol)のジクロロメタン(5ml)溶液に、撹拌下、メタ−クロロ過安息香酸(319mg、0.93mmol)をrtで加える。45分後、混合物をジクロロメタンに取り、飽和Na溶液および飽和NaCO溶液で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濃縮する。残渣をメタノール/ジクロロエタン(5ml/1ml)から再結晶化して、表題化合物を白色固体形態で得る。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6): 4.27 (d, J = 13.7 Hz, 1H), 4.46 (d, J = 13.3 Hz, 1H), 5.96 (s, 1H), 7.08 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.58 - 7.72 (m, 4H), 8.27 (dd, J = 7.8 Hz and 1.6 Hz, 1H).
MS: [M + NH4]+ = 372.9, 374.9.
【0025】
実施例2: ラット脳ミトコンドリアの単離
この方法は、Rosenthal et al.[J. Cereb. Blood Flow Metab., 7, 752 - 758 (1987)]の方法を採用する。
溶液
MSH+:225mMマンニトール、75mMショ糖、5mM Hepes、0.5mM EDTA、1mg/ml BSA(実質的に遊離脂肪酸を含まない);最終pH=7.3。
MSH−:MSH+と等しいが、EDTAを含まない。
ナガーゼ溶液:MSH+ 1mlに溶解したナガーゼ5mg(細菌プロテアーゼタイプXXIV、Sigma, St. Louis, USA, カタログ# P-8038から)。
ジギトニン溶液:DMSO中10% W/V。
【0026】
方法
全方法を氷上で行う。ラットから全脳を除去する(脳1個=2g)。氷上ビーカー中の冷MSH+に組織を加える。ハサミを用いて組織を小片に切断し、組織をMSH+で2回洗浄する。組織を20ml加圧型ホモジナイザーに移し、MSH+で約9mlに、水位をセットする。用時に調製したナガーゼ溶液1mlを加える。ホモジナイズする(ルーズ・ペスルで6ストロークおよびタイト・ペスルで6ストローク)。MSH+を加えて約30ml/脳として、2000g/3分で遠心分離する。上清を維持する。ペレットをMSH+約30mlに再懸濁し、再び2000g/3分で遠心分離する。上清をプールし、12000g/8分で遠心分離する。ペレット(主としてミトコンドリアおよびシナプトソームからなる)を20ml MSH+/脳に懸濁する。ジギトニン溶液20μlを加え、2分間氷上でインキュベートする。12000g/10分で遠心分離する。ペレットをMSH− 10mlに再懸濁し、12000g/10分で遠心分離する。最終ペレットを1.5ml MSH−/脳に再懸濁する。タンパク質濃度をPierce BCAアッセイ(Pierce, Rockford IL, USA)を用いて測定する。典型的な収率は、10−15mg ミトコンドリアタンパク質/ラット脳である(すなわち、最終ミトコンドリア懸濁液は約8mg/mlである)。ミトコンドリアを氷上で維持し、2〜3時間以内に使用する。
【0027】
実施例3: ラット脳ミトコンドリアのNa−Caエクスチェンジャーの測定
この方法は、基本的にChiesi et al. [Biochem. Pharmacol., 37, 4399 - 4403 (1988)]に記載のとおりであり、マイクロタイタープレート形式を採用する。
インキュベーション培地
120mM KCl、20mM Tris(pH=7.4)、5μM ロテノン、10mM K−コハク酸塩、1μM Oregon Green(Molecular Probesから)。
【0028】
方法
典型的な実験において、96ウェルマイクロタイタープレート(平底)を用いる。実験はrtで行う。96ウェルプレートに5μl/ウェルの2μM ルテニウムレッド[120mM KClおよび20mM Tris中(pH=7.4)]および分析する(DMSO中)化合物(1μl/ウェル)を分配する。対照には同量のビークルを加える。ミトコンドリア懸濁液(用時調製した脳ミトコンドリア30μlをインキュベーション培地1mlで希釈)を製造する。4分後、活性化ミトコンドリアが全ての内因性および夾雑Caを蓄積したとき、90μl/ウェルのミトコンドリア懸濁液をマイクロタイタープレートのウェルに分配し、次にこれをシリンジを備えた蛍光光度計に入れる。シリンジに200mM NaClを充填し、蛍光光度計をシリンジから10μl/ウェル(最終濃度:20mM)送達し、20回測定(3秒ごとに1回)を行うようにプログラムする。Naの添加によって誘導されるCa放出を、Oregon Green蛍光をモニターして測定する(485nmおよび538nm、それぞれモノクロメーターで励起および放出)。
【0029】
データ分析
指数関数的に減衰するCa流出曲線の評価を、フィッティングおよび初期減少速度の計算によって行う。化合物の効果を評価するため、Ca流出速度の濃度依存曲線をLevenberg / Marqwardt式を用いてフィッティングして、IC50値を得る。
本発明の薬剤はこの試験において20μM以下のIC50値を示す。
具体的には、実施例1に記載の本発明の薬剤は、この試験において3.8μMのIC50値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離塩基形または酸付加塩形の式
【化1】

の化合物。
【請求項2】
請求項1に定義の遊離塩基形または酸付加塩形の式Iの化合物の製造方法であって、遊離塩基形または酸付加塩形の式
【化2】

の化合物を酸化剤と反応させ、所望によりその後所望により存在する保護基を切断し、そして得られた遊離塩基形または酸付加塩形の式Iの化合物を回収する工程を含む方法。
【請求項3】
医薬として使用するための、請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物。
【請求項4】
ミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防に使用するための、請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物。
【請求項5】
有効成分として請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物および医薬担体または希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項6】
ミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防用医薬としての請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物の使用。
【請求項7】
ミトコンドリアCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防用医薬の製造のための、請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物の使用。
【請求項8】
処置および/または予防を必要とする対象におけるCa操作能の機能不全によって影響される障害または疾患の処置および/または予防方法であって、当該対象に治療上有効量の請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物を投与することを含む方法。
【請求項9】
治療上有効量の請求項1に定義の遊離塩基形または薬学的に許容される酸付加塩形の化合物および第2の薬剤物質を含む、同時または逐次投与のための組合せ剤。

【公表番号】特表2010−502680(P2010−502680A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527149(P2009−527149)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059394
【国際公開番号】WO2008/028958
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】