説明

メカロック装置

【解決する課題】車椅子の背もたれや、フットレストの高さ、角度の調節が容易で、任意の位置で強固に固定することができ、しかもコストの安いメカロック装置を提供する。
【課題を解決する手段】ロッド11の外周面に溝12を設けて、ロッド11に外挿する外筒部材13に係止部14を設けて、この係止部14の一部又は全部がこの溝12に係合して、所望の位置で固定できる構造とした。ロッド11の外周面に設けた溝12に外筒部材13の係止部14が係合することによって、係止部14がロッド11上を滑ることがなく、強固に固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリクライニングシートのシートの角度調整に、あるいは、車椅子の背もたれの傾斜角度の調節、車椅子の前部に着設されたフットレストの上下の高さの調節等に利用されるメカロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、椅子のリクライニング、ヘッドレスト、フットレスト等の上下の高さ、背もたれの角度を調整するための機構には、ギヤーの噛み合いを使用したり、スプリングクラッチなどが使用されていた。しかし、これらのロック機構は構造が複雑で、コスト高であるという欠点があった。そこで、無段階に角度、高さを調整することができるロック装置が種々考案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の発明は、筒体と、この筒体に伸縮可能に挿入されたシャフトと、このシャフトに密着巻装されシャフトとの摩擦力によってこのシャフトをロックするコイルばねと、このコイルばねを巻き戻し方向に付勢して上記ロックを解除する操作部材と、筒体の一端部に固定された第1取付部材と、この筒体の他端側から突出するシャフトの突出端に固定された第2取付部材と、シャフトの突出端に固定されたばね受け部材と、このバネ受け部材に対向して筒体の端部に固定された他のバネ受け部材と、これらばね受け部材間に介装されるとともにシャフトと巻回する復帰用スプリングとを具備したことを特徴とする摩擦ロック装置が開示されている。
【0004】
特許文献2の考案は、一端が固定部材に装着され他端が回動部材に固着された軸を有する回動装置において、上記軸に挿入するばねと、上記固定部材に回転自在に取り付けられたボルトと、該ボルトに螺装された移動コイルからなり、上記ばねの一方のフックを固定部材に固着すると共にばねの他方のフックを移動コマに係止したことを特徴とする軸ロック装置が開示されている。
【0005】
特許文献3の発明は、ロッドと、該ロッドに巻回した一対のコイルスプリング間に配したタブを介して、被駆動体を所定位置に固定するためのロック装置において、上記一対のコイルスプリングの各々一端を抑止するための係止溝を有する舌片部と、該コイルスプリング外周部に嵌挿される透孔を有する一対のシリンダと、上記一対のシリンダの上記舌片部を挟着する挟着部を有する取付用フレームとを具備して成ることを特徴とするロック装置が開示されている。
【0006】
上記ロック機構の構成はロッドの外周部に接離自在にかつ相互に逆方向に巻回された一対のコイルばねを外挿したものであり、外挿したコイルばねがロッドを締め付けて固定されるようになっている。しかし、この外挿されたコイルばねが、荷重がかかりすぎると、ロッド上を滑ることがあるという問題があった。
【特許文献1】特公昭55−31492号公報
【特許文献2】実公昭63−17859号公報
【特許文献3】特開平08−52037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、背もたれの角度調節や、フットレスト等の高さ調節に用いられるメカロック装置を提供する。より詳しくは、車椅子の背もたれや、フットレストの高さ、角度の調節が容易で、任意の位置で強固に固定することができ、しかもコストの安いメカロック装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ロッドの外周面に溝を設けて、ロッドに外挿する外筒部材に係止部を設けて、この係止部の一部又は全部がこの溝に係合して、所望の位置で固定できる構造とした。ロッドの外周面に設けた溝に外筒部材の係止部が係合することによって、係止部がロッド上を滑ることがなく、強固に固定することができる。
【0009】
本発明の第1の特徴は、一端に取付部を有するロッドと、該ロッドに嵌挿して該ロッドの軸方向に摺動可能な外筒部材とよりなるメカロック装置であって、前記ロッドに溝を設け、前記外筒部材に前記ロッドの溝に係合する係止部材を設けたことを特徴とするメカロック装置である。ロッドに溝を設けることによって、ロッドの軸方向に外筒部材を摺動させて所望の位置に止める時、ロッド上の任意の位置で外筒部材を強固に固定することができる。
【0010】
本発明の第2の特徴は、ロッドに設けた溝が連続していることを特徴とする請求項1に記載のメカロック装置である。ロッドの円周上を1周するように溝を設けるか、螺旋状に溝が繋がった状態で溝を設けることによって、ロッドの円周上に溝が設けられているので、ロッドと係止部材との方向に限定されずに使用することができる。
【0011】
本発明の第3の特徴は、ロッドに設けた溝が不連続であることを特徴とする請求項1に記載のメカロック装置である。ロッドの円周上に半円を描くように不連続な溝を設けることによって、ロッドの強度を損ねないように外筒部材をロッド上の任意の位置に強固に固定することができる。
【0012】
本発明の第4の特徴は、ロッドに設けた溝に係合する外筒部材の係止部材が環状部材であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のメカロック装置である。外筒部材の固定用に設けられる係止部材がロッドに嵌挿し得る環状構造をしており、環状構造の一方端がロッドの周面に設けられた溝に係合することによって、外筒部材を強固にロッド上に固定することができる。
【0013】
本発明の第5の特徴は、ロッドに設けた溝に係合する外筒部材の係止部材がバネ部材よりなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のメカロック装置である。ロッドの周面に設けられた溝に係合する外筒部材の係止部材を従来より使用されているバネ部材とすることによって、従来のバネ部材より成るメカロック装置をさらに強固に固定することができる。特に油汚れによる滑りや、バネの劣化によっても、固定する強度が落ちることなく、安心して使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
メカロック装置のロッドに溝を設けることによって、外筒部材をロッド上を摺動させて所望の位置に止める時、外筒部材のロッド上での固定が強固になる。また、ロッドに設ける溝をロッドの円周上を1周するように溝を設けるか、螺旋状に溝が繋がった状態で溝を設けることによって、ロッドの方向性に限定されずに使用することができる。あるいは、ロッドの円周上に半円を描くように不連続な溝を設けた場合は、ロッドの強度を損ねることなく外筒部材をロッド上に固定する目的が達せられる。
【0015】
また、ロッドに嵌挿してロッド上を摺動させる外筒部材を固定させるために設けられる係止部材が、ロッドに嵌挿し得る環状構造をしており、環状構造の一方端にバネを付勢して、他方端をロッドの周面に設けられた溝に係合させるようにして、この環状構造の外筒部材からの突出部を押圧することによって、外筒部材のロッド上での固定と解除を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明の実施の形態を以下に図面を用いて説明するが、要旨を逸脱しない範囲において以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本願発明のメカロック装置100を示す。本願発明のメカロック装置100は、図1ーaに示すように、周面に溝12を有するロッド11と、該ロッド11に嵌挿してロッド11上を摺動可能な外筒部材13とよりなるメカロック装置100である。ロッド11上を摺動可能な外筒部材13には、前記ロッド11の溝12に係合する係止部材14として、バネ14eが付勢された環状部材14を有していることを特徴とするメカロック装置100である。ロッド11の一方端は上下又は前後に回動させる物体に固定するための取付部15となり、他方端は固定された外筒部材13内を摺動し得るように自由端となっている。図1−bに示す外筒部材13の中央部に設けた外筒部材の取付部16は、回動させる物体に固定したロッド11が外筒部材13の中で摺動できるように、車椅子の場合はフレームに固着する部分である。
【0018】
上記した回動させる物体とは、車椅子における背もたれ、フットレスト等を云い、車椅子の背もたれをリクライニングにしたり、フットレストを上下動させるために、本願発明のメカロック装置の一端を背もたれや、フットレスト等に回動可能に軸着し、他方端をフレーム等に固定して、後部に倒した背もたれを支えたり、フットレストを上下させて支えたりすることを云う。この他、椅子、ベッド、ストレッチャー等の一部を回動可能にするためにも使用することができるが、本願発明のメカロック装置100はこれらへの装着に限定されるものではない。
【0019】
図2は外筒部材13の略中央部に設けた係止部材を示す。ロッド11に設けられた溝12に係合する外筒部材13の係止部材として、環状部材14を用いた場合である。図2−aに示すバネ14eを図2−bに示す環状部材14の上部14bに付勢する。バネ14eを付勢した環状部材14を外筒部材13の上部の切り欠きから挿入する。次いで、外筒部材13にロッド11を通し、環状部材14の中央部14cにロッド11を挿通して、ロッド11の溝12に環状部材14の係合部14dが係合する位置に装着する。このように挿通した環状部材14のボタン14aを押すと、環状部材14の係合部14dが溝12から外れてフリーとなり外筒部材13の中をロッド11が摺動可能となる。ここで設けた溝12は図1に例示するように、ロッド11の周面の一端に多数設けて、外筒部材13がロッド11上の任意の位置で、環状部材14によって固定されるようにした。
【0020】
ロッド11の周面の一端に設ける溝12は深すぎるとロッドの強度を損ねるので、環状部材14の係合部14dが係合して、外筒部材13の中をロッド11が摺動できない状態に維持される深さがあればよい。また、ロッド11の周面に沿って溝12を設けても良いが、ロッド11の太さとの関係で溝の深さ、間隔を決定し、ロッドの強度を損ねないように注意する必要がある。
【0021】
図3は、ロッド11に溝12を設けて、外筒部材13をロッド11上に固定するための係止部材にバネ部材17を用いて、バネによってロッドを締め付けて外筒部材を固定するメカロック装置200を示す。メカロック装置200の固定部位がバネ部材17の締め付けのみであると、バネ部材17が油で汚染されたり、バネ部材17が疲労してくると外筒部材13をロッド11上で強固に固定することが困難になってくるという欠点があった。そこで、外筒部材13をロッド11上に固定するための係止部材としてバネ部材17を用いると共に、ロッド11の周面に溝12を設けてバネ部材17がこの溝に係合するようにして、バネ部材17によって外筒部材13をロッド11上に強固に固定させることに成功した。図3に示すように、バネ部材17に係合する溝12は、ロッド11の周面を1周するか、螺旋状に連続した溝12としている。このように連続した溝12とすること、特に、バネのコイル形状に合致するように溝12を設けることによって、ロッド11の周面に設けられた溝12にバネ部材17が係合して、ロッド11を締め付け、外筒部材13をロッド11上に強固に固定することができる。
【0022】
図4はメカロック装置100にワイヤーによる操作部21を着設した例を示す。ワイヤーによる操作部21は、図4−aに示すように、外筒部材13の中程に設けられた環状部材14に近接した位置に、外筒部材13に溶着する等の方法によって、操作部21の底部を外筒部材13上に、動かないように強固に着設する。操作部21は図4−cに示すように、正面より見ると長短2本の板状体の係止部よりなっている。長い方の係止部21bは図4−aに示すように一方側に傾斜した形状をしており、その頂部21dにはワイヤー22を通すための穴が穿設されている。この穴にワイヤー22を挿通するパイプ22aを着設して、一方端が把持部に着設されたワイヤー22の他方端を挿通する。短い方の係止部21aには、環状部材14のボタン14aを押すためにバネが付勢されたレバー21cが回動自在に軸着されている。このレバー21cの上部21eにワイヤー22を着設して、ワイヤー22を引くとレバー21cが引かれて、レバーの下部21fで環状部材14のボタン14aが押されて、環状部材14の係合部がロッド11の溝から外れ、外筒部材13が摺動可能となる。図4−bは外筒部材に着設された取付部16を示す。図1で例示した取付部と異なり、フレーム等に挟んでネジで固定するための形状を例示している。
【0023】
図5は、メカロック装置100にワイヤーによる操作部21を着設し(図4)、これに把持部23からワイヤー22で連結した状態を例示している。メカロック装置100のワイヤーによる操作部21を斜め上からみると図5に示すように、ハンドル部24に着設された把持部23から引かれたワイヤー22が操作部21の頂部21dを挿通して、レバーの上部21eに接続されている。このレバー21cに接続されたワイヤー22が引かれると、レバーの下部21fが環状部材14のボタン14aを押して、環状部材14の係合部14dがロッド11の溝から外れ、外筒部材13が摺動可能となる。
【0024】
図6はフットレスト32の支持フレーム31にメカロック装置100を着設した例を示す。ロッドの取付部15をフットレストの支持フレーム31に軸着し、外筒部材の取付部16を車椅子の前部フレーム33に軸着して、メカロック装置100のボタン13aを押して、フットレスト32の高さを調節して、ボタン13aを放すとフットレスト32を任意の位置で固定することができる。車椅子のフットレスト32は、座乗者の症状に応じてそれぞれ固有の高さ、角度に調節しなければならない。特に、長時間座乗する場合は、足の置く位置、傾きは微妙に調節する必要があることから、無段階の調節機構が望ましい。この点からも無段階に調節することができ、安定して固定することができる本発明のメカロック装置100の装着が望ましい。
【0025】
図7は背もたれの後部フレーム37にメカロック装置100を着設した斜視図である。背もたれ35のフレーム37とロッドの取付部15を接続し、外筒部材の取付部16を車椅子36の後部フレーム37に接続、固定してロッド11が外筒部材13内を摺動可能として、背もたれの角度を調節することができる。このように、背もたれの角度を調節することによって、車椅子36の背もたれ35をリクライニングとしたり、座乗者の姿勢に合わせて背もたれ35の角度を適当に調節することができる。メカロック装置100の着設位置は上記の位置に限定されるものではなく、車椅子や、ストレッチャー等の着設する器具、位置によって適宜変更しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1はメカロック装置の環状部材(係止部)を上にした場合の側面図である。
【図2】図2はメカロック装置の環状部材(係止部)を分解した各部分の側面図である。
【図3】図3は係止部にバネ部材を用いたメカロック装置の斜視図である。
【図4】図4はメカロック装置にワイヤーによる操作部を着設した側面図である。
【図5】図5はメカロック装置をワイヤーで把持部と接続した斜視図である。
【図6】図6はフットレストの支持フレームにメカロック装置を着設した斜視図である。
【図7】図7は背もたれの後部フレームにメカロック装置を着設した斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
100:メカロック装置
200:バネ部材で固定するメカロック装置
11:ロッド
12:溝
13:外筒部材
14:環状部材(係止部材)
15:取付部
16:取付部
17:バネ部材(係止部材)
21:ワイヤーによる操作部
22:ワイヤー
23:把持部
24:ハンドル部
31:支持フレーム
32:フットレスト
33:前部フレーム
34:キャスター
35:背もたれ
36:主車輪
37:後部フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に取付部を有するロッドと、該ロッドに嵌挿して該ロッドの軸方向に摺動可能な外筒部材とよりなるメカロック装置であって、前記ロッドに溝を設け、前記外筒部材に前記ロッドの溝に係合する係止部材を設けたことを特徴とするメカロック装置。
【請求項2】
ロッドに設けた溝が連続していることを特徴とする請求項1に記載のメカロック装置。
【請求項3】
ロッドに設けた溝が不連続であることを特徴とする請求項1に記載のメカロック装置。
【請求項4】
ロッドに設けた溝に係合する外筒部材の係止部材が環状部材であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のメカロック装置。
【請求項5】
ロッドに設けた溝に係合する外筒部材の係止部材がバネ部材よりなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のメカロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−159(P2006−159A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176717(P2004−176717)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000146113)株式会社松永製作所 (59)
【Fターム(参考)】