説明

メソポーラス材料薄膜、レーザー発光部、レーザー及びメソポーラス材料薄膜の製造方法

【課題】メソポーラスシリカ材料薄膜内においてメソ細孔の配向方向を自由に制御できる方法および係るメソポーラスシリカ材料薄膜を提供する。
【解決手段】表面に構造の異方性を有する基板を準備する工程と、該基板と、無機酸化物前駆体と両親媒性物質とを含む水溶液とを接触させ、該基板の表面に、界面活性剤のチューブ状分子集合体が規則配列した構造を有する無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜を形成する工程とを含むメソポーラス材料薄膜の製造方法において、形成される膜中でのチューブ状分子集合体の同一面内で2つの配向方向になるように前記水溶液の組成が調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラス材料薄膜に関するものであり、詳しくは、触媒担体、吸着剤、分離剤等に用いられるメソポーラス材料薄膜及びその製造方法に関するものである。本発明は、より詳しくは、自己組織的に形成される微細な空孔を有するメソポーラス材料薄膜において、基板の表面の構造異方性を利用して、巨視的なスケールで、精密に細孔の配向を制御する技術、及び配向性の細孔を利用して高分子化合物の分子鎖を配向制御する技術、さらに、それによって発光等の物性の制御を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体加工技術の進歩は目覚しく、100nm精度の加工技術の実用化は目前に迫っている。半導体素子の小型化に伴い、スイッチング速度は増大する一方消費電力は低下する。それゆえに、半導体素子の小型化は高性能LSI作製には必須である。これまで、半導体素子の集積度は、年とともに直線的に増大してきたが、もはや加工精度が従来のフォトリソグラフィーの限界に達するのは時間の問題であり、それに代わる新しいプロセスの開発が急務となっている。
【0003】
従来のフォトリソグラフィーの限界を超える加工プロセスとして、材料の持つ性質等を利用して自発的に微細な構造を作製させる、所謂自己組織化に基づくプロセスが注目を集めている。自己組織化的に形成される微細な構造は、層状、繊維状、柱状、球状、多孔質等、多岐に渡っており、それぞれに対して有望な応用が提案されている。その中でも、特に、基板上に形成される多孔質の薄膜は、産業上の利用分野が広く、最も有望視されているものである。
【0004】
多孔質の薄膜として現在最も注目されているもののひとつに、アルミニウムを陽極酸化して形成されるアルミナナノホールがある。これは、アルミニウムの薄膜をある条件のもとで陽極酸化することで、電界の集中が原因となって微細な空孔が表面に対して垂直に形成されるというものである。この技術に関しては、例えば非特許文献1に記載されている。このアルミナナノホール膜の応用としては、電子放出素子や磁性体を導入した記録媒体等の提案が数多く提案されている。
【0005】
またもうひとつの注目されている材料として、界面活性剤の集合体を鋳型にして、ゾル−ゲル法等の方法で作製されるメソポーラス材料の薄膜がある。これらは、ディップコート等の簡単な方法で、規則的な細孔構造を有する材料を作製するものである。この技術に関しては、例えば、非特許文献2に包括的記載がなされている。メソポーラス材料薄膜の中で最も安定で産業上有用なものはメソポーラスシリカ薄膜であり、これに関しても、触媒、発光材料等、数多くの応用に関する提案がなされている。
【0006】
これらのメソポーラス材料薄膜は、局所的に高い細孔構造規則性を有しているが、一般的に同一面内での長周期構造秩序性は無く、巨視的なスケールでは細孔の同一面内での方向性はランダムである。この巨視的スケールでの細孔の配向制御に関してはいくつか提案がなされている。
【0007】
上記細孔の配向制御方法にはいくつかの問題点があった。すなわち、非特許文献3に記載されている方法は、反応溶液の流れを利用し、そのシェアストレスで細孔配向を制御したものであるが、この手法では、細孔配向の制御性が高くなく、さらに広い面積にわたって均一な膜を形成することが難しいものであった。また、性格上、工業プロセスには適しているとはいえないものであった。
【0008】
一方、特許文献1に記載されている方法は、微細なキャピラリーを形成した、弾性のある樹脂製のスタンプを、基板上に押し付け、スタンプの溝の中に電気浸透流により反応溶液を流す方法である。この方法では、狭いキャピラリーを流体が通る際のシェアストレスで細孔配向の制御がなされると同時に、ジュール熱が発生するので、メソポーラスシリカ薄膜の形成が促進されるというものである。しかし、この方法では、細孔配向の制御が可能なメソポーラスシリカ薄膜は、微細なパターンになっている必要があり、広い面積において均一に配向方向を制御することは原理的に不可能である。
【0009】
また、この2つの方法とも、細孔の配向方向の制御は反応溶液の流動に依存するため、細孔の配向方向は一方向に限定されていた。
【非特許文献1】応用物理、第69巻第5号558−562ページ
【非特許文献2】Angewandte Chemie 誌International Edition 第38巻、56−77ページ
【非特許文献3】Chemistry of Materials 誌 第9巻、1505−1507ページ
【特許文献1】米国特許第6,004,444号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、従来技術の限界を克服して、メソポーラスシリカ材料薄膜内において、細孔の配向方向を自由に制御できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みなされたもので、基板全体にわたって、メソポーラス材料の細孔の方向を簡単な方法で制御したものである。さらに、本発明においては、細孔の配向方向は、一方向ではなく、独立した2つの方向にすることが可能である。
【0012】
即ち本発明は、基板上に形成され、実質的に均一な径を有するチューブ状メソ細孔がハニカムパッキングされてなる細孔構造を具備するメソポーラス材料の薄膜において、前記基板の表面は構造異方性を有しており、前記メソ細孔は同一面内で2つの配向方向に制御されており、前記メソ細孔同士は相互に平行に配置され、かつ、前記基板の面に対して平行に配置されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜である。
【0013】
本発明は、前記メソ細孔中に両親媒性分子の分子集合体が充填されているメソポーラス材料薄膜である。
【0014】
本発明は、前記メソ細孔の壁を形成する材料がシリカを成分として含むメソポーラス材料薄膜である。
【0015】
本発明は、窒素ガス吸着測定により求められた前記メソ細孔が、径の分布に関して、単一の極大値を有し、かつその細孔径分布において、60%以上のメソ細孔が、10nmの幅を持つ範囲に含まれるメソポーラス材料薄膜である。
【0016】
さらに、本発明は、前記メソ細孔の同一面内での2つの配向方向のうち、第一の方向に配向している領域の面積と、第二の方向に配向している領域の面積とが実質的に等しいメソポーラス材料薄膜である。
【0017】
本発明は、前記メソ細孔が、同一面内において、前記基板の表面の構造異方性によって2つの配向方向に制御されているメソポーラス材料薄膜である。
【0018】
さらに、本発明は、前記基板の表面の構造異方性が、前記基板上の高分子薄膜内の構造異方性によって規定されるメソポーラス材料薄膜である。
【0019】
また、本発明は、前記高分子薄膜内の構造異方性が、高分子薄膜表面の物理的な凹凸形状の異方性によって規定されるメソポーラス材料薄膜である。
【0020】
また、本発明は、前記高分子薄膜内の構造異方性が、前記高分子薄膜の表面内での高分子鎖の配向状態の異方性によって規定されるメソポーラス材料薄膜である。
【0021】
本発明は、また、前記メソ細孔の同一面内での配向方向がラビング処理によって付与され、かつ、前記基板の表面の構造異方性によって2つの方向に制御されており、それぞれのメソ細孔の配向方向とラビング処理の方向が等しいメソポーラス材料薄膜である。
【0022】
本発明は、また、前記メソ細孔の同一面内での配向方向が、前記基板の表面での構造異方性を有する高分子化合物のラングミュア−ブロジェット膜によって2つの方向に制御されており、それぞれのメソ細孔の配向方向とラングミュア−ブロジェット膜作製時の前記基板の引き上げ方向とが等しいメソポーラス材料薄膜である。
【0023】
本発明は、さらに、前記メソ細孔内の一部もしくは全部に、共役高分子化合物を保持しているメソポーラス材料薄膜である。
【0024】
さらに、本発明は、前記共役高分子化合物の主鎖の配向方向が、2つの配向方向に制御された前記メソ細孔によって2つの異なる方向に制御されている共役高分子化合物を保持しているメソポーラス材料薄膜である。
【0025】
さらに本発明は、前記メソ細孔内の前記共役高分子化合物が励起状態から定常状態に遷移する際に放出される発光の偏光状態が、2つの配向方向に制御された前記メソ細孔によって、2つの異なる方向に制御されているメソポーラス材料薄膜である。
【0026】
本発明は、前記メソポーラス材料薄膜から構成されるレーザー発光部である。
【0027】
本発明は、前記メソポーラス材料薄膜と、前記メソポーラス材料薄膜が形成されている基板の屈折率とほぼ同じ屈折率を有する媒質とから構成されるレーザー発光部である。
【0028】
さらに本発明は、レーザーの主たる発光方向が、同一面内で好ましい2つの方向に制御されているレーザーである。
【0029】
さらに本発明は、前記レーザー発光部を含み構成されるレーザーである。
【0030】
本発明は、表面に構造の異方性を有する基板を準備する工程と、前記基板と、無機酸化物前駆体と両親媒性物質とを含む水溶液とを接触させ、前記基板の表面に、界面活性剤のチューブ状分子集合体が規則配列した構造を有する無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜を形成する工程とを含むメソポーラス材料薄膜の製造方法において、形成される膜中でのチューブ状分子集合体が同一面内で2つの配向方向に制御されるように前記水溶液の組成が調整されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜の製造方法である。
【0031】
また、本発明は、基板上に高分子化合物の薄膜を形成する工程と、前記高分子薄膜に対してラビング処理を施す工程と、前記ラビング処理を施した高分子薄膜を保持する前記基板と、無機酸化物前駆体と両親媒性物質とを含む水溶液とを接触させ、前記基板の表面に、界面活性剤のチューブ状分子集合体が規則配列した構造を有する無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜を形成する工程とを含むメソポーラス材料薄膜の製造方法において、形成される膜中でのチューブ状メソ細孔が同一面内での2つの配向方向に制御されるように前記水溶液の組成が調整されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜の製造方法である。
【0032】
さらに、本発明は、前記製造方法の各工程の他に、形成された無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜から界面活性剤を除去し、中空の構造とする工程を含むメソポーラス材料薄膜の製造方法である。
【0033】
本発明は、前記無機酸化物がシリカであり、無機酸化物前駆体としてシリカ前駆体を使用するメソポーラス材料薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、適切な反応条件を用いることによって、表面に構造の異方性を有する基板上に、チューブ状のメソ細孔が2つの配向方向に制御された、メソポーラス材料薄膜を作製することができる。この制御された細孔構造を有するメソポーラス材料薄膜は、そのメソ細孔内に導入したゲスト共役高分子化合物を良好に配向制御することができ、光学薄膜、光学素子に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明のメソポーラス材料薄膜の模式図である。本発明のメソポーラス材料薄膜中では、同一面内で折れ曲がったチューブ状のメソ細孔が薄膜内に配列している。チューブ状メソ細孔は、面内では図示したように折れ曲がっているが、基本的に基板面に平行に配置している。折れ曲がったチューブ状メソ細孔は、細密充填されており、それゆえに断面においては、図に示すようにメソ細孔がハニカムパッキングしている。このパッキングは、理想的にはヘキサゴナル構造で、断面においてメソ細孔の中心を結んでできる六角形は正六角形になるが、本発明のメソポーラス材料薄膜中でのメソ細孔の配列は、完全なヘキサゴナル構造でなくてもよく、膜厚方向に構造周期が短い、歪んだヘキサゴナル構造のものでもよい。このことは、膜内のある微小領域に関して見れば、膜厚方向で全てのメソ細孔が同一の配向方向に制御されていることを示している。
【0037】
このメソポーラス材料薄膜の細孔は、界面活性剤分子集合体(ミセル)が形成するもので、ある条件においてはミセルを形成する分子の会合数が等しいために、同じ径のメソ細孔が形成されるものである。ミセルの形状は、球状、チューブ状、層状等種々の形態が知られているが、本発明に係わるメソポーラス材料薄膜を形成するミセルの形状は基本的にチューブ状のものである。
【0038】
本発明でいうメソ細孔とは、IUPACの定義によるもので、2nmから50nmの範囲の径の細孔をいう。本発明のメソポーラス材料薄膜において、細孔径は実質的に均一な径である。ここでいう均一径の細孔とは、窒素ガス吸着測定の結果から、細孔径を算出する手法により求められた細孔径分布において、単一の極大値を有し、且つ該細孔径分布において、60%以上のメソ細孔が、10nmの幅を持つ範囲に含まれることを示す。
【0039】
メソポーラス材料薄膜という言葉は、厳密には、中空のメソ細孔を有するものを指すものであるが、本発明においては、界面活性剤を除去する前の、界面活性剤ミセルを保持した構造のものも包含する言葉として使用する。本発明のメソポーラス材料薄膜は、以下に記述する構造的特徴を有しているものであれば、メソ細孔内から界面活性剤が除去されていても、界面活性剤が充填された状態であってもよい。
【0040】
本発明のメソポーラス材料薄膜においては、このチューブ状メソ細孔は、前述したように同一面内で折れ曲がっているが、その折れ曲がり方が制御されているということを特徴としている。
【0041】
すなわち、図1及び図2に模式的に示すように、折れ曲がりの角度が一定の角度に制御されていることを特徴とする。図2に示すように、膜全面に渡って、チューブ状メソ細孔は異なる、2つの配向方向に制御されている。
【0042】
本発明のメソポーラス材料薄膜の細孔構造においては、同一面内で2つの配向方向に制御されている細孔のうち、一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積と、もう一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積は互いに実質的に等しいという特徴を有している。このことは後述するX線回折分析により確認されている。
【0043】
チューブ状ミセルの同一面内での配向方向を制御した、従来のメソポーラス材料薄膜を模式的に図3に示す。この図のように、従来の膜中においては、チューブ状メソ細孔が直線的に、単一の配向方向に制御されているものであり、本発明のメソ細孔が2つの配向方向に制御されたチューブ状メソ細孔を有している薄膜とは、明確に異なる構造を有するものである。
【0044】
本発明のメソポーラス材料薄膜において、多孔質材料の細孔壁を形成する材料は、本発明の細孔構造を有するものであれば、どのようなものでも適用可能であるが、シリカを成分として含む材料、特にシリカが好ましく用いられる。
【0045】
本発明のメソポーラス材料薄膜において、同一面内でのメソ細孔の配向方向は、基板表面の構造異方性によって規定されている。基板表面の構造異方性とは、例えば、結晶性基板上の特定の結晶面における原子配列の異方性や、基板上に形成された凹凸構造の異方性、基板上に形成された高分子化合物薄膜内の構造異方性等を指す。本発明に適用できる、表面に異方性を有する基板は、本発明にかかる細孔構造を有するメソポーラス材料薄膜の形成を達成しえるものであれば、特に制限は無く、どのようなものを用いてもよい。
【0046】
本発明に適用可能な基板についてさらに詳しく説明する。
【0047】
まず、表面での原子配列の異方性を有する結晶性基板について説明する。表面での原子配列の異方性を有する結晶面としては、例えば、ダイヤモンド構造の結晶構造を有する単結晶基板、または閃亜鉛鉱型構造の結晶構造を有する単結晶基板の(110)面が好ましく使用され、特にシリコンの(110)面が好ましく用いられる。これらの表面では原子の特定の配列方向が一義的に決定されるため、界面活性剤集合体を配向させる能力を有する。表面の原子配列が2回対称性を有するシリコン単結晶(110)面のような基板を用いたシリカメソ構造体の細孔の配向制御は、本発明者らが発見し、特開2000−233995号公報に記載されている。これらの基板を使用する際には、清浄な結晶面を露出させる必要がある。例えばシリコン基板等の場合には、表面に存在する自然酸化膜を除去する必要がある。この目的は、希フッ酸中で数分間表面を処理すること等の単純なプロセスによって比較的簡単に達成される。
【0048】
次に、構造異方性を有する高分子化合物薄膜を形成した基板について説明する。ここでは、ラングミュア−ブロジェット法とラビング法について説明するが、構造異方性を有する高分子化合物を基板上に形成することができる技術であれば、これ以外の手法でも用いることができる。
【0049】
最初に、ラングミュア−ブロジェット法、すなわち高分子化合物のラングミュア−ブロジェット膜(LB膜)を形成する方法について説明する。LB膜は、水面上に展開された単分子膜を基板上に移しとった膜であり、成膜を繰り返すことで所望の層数の膜を形成することができる。本発明でいうLB膜とは、基板上に形成されたLB膜に熱処理等の処理を施し、累積構造を保ったままで化学構造を変化させたLB膜誘導体の単分子累積膜を包含する。
【0050】
LB膜の成膜には一般的な方法が用いられる。一般的なLB膜の成膜装置を模式的に図4に示す。図4において、41は純水42を満たした水槽である。43は固定バリアであり、不図示の表面圧センサーがつけられている。水面上の単分子層46は、目的の物質または目的物質前駆体の溶解した液体を可動バリア44との間の領域の水面上に滴下することで形成され、可動バリア44の移動によって表面圧が印加される構造になっている。可動バリアは、基板に膜を成膜する間一定の表面圧が印加されるように表面圧センサーによってその位置が制御されている。純水は不図示の給水装置、及び排水装置により常に清浄なものが供給される様になっている。水槽42には一部窪みが設けられており、この位置に基板45が保持され、不図示の並進装置によって一定の速度で上下する構造になっている。水面上の膜は基板が水中に入っていく際に及び引き上げられる際に基板上に移し取られる。
【0051】
本発明で用いられるLB膜はこの様な装置を用いて、水面上に展開された単分子層に表面圧をかけながら、基板を水中に出し入れすることで基板上に1層ずつ単分子層を形成することにより得られる。膜の形態、及び性質は、表面圧、基板の押し込み/引き上げの際の移動速度、及び層数でコントロールされる。成膜の際の表面圧は、表面積−表面圧曲線から最適な条件が決定されるが、一般的には数mN/mから数十mN/mの値である。また、基板の移動速度は、一般的には数mm/分〜数百mm/分である。層数は、数層から数百層の範囲で適宜決定される。LB膜の成膜方法は、以上述べたような方法が一般的であるが、本発明に用いられるLB膜の成膜方法はこれに限定されず、例えば、サブフェイズである水の流動を用いるような方法を用いることもできる。
【0052】
LB膜の材質も、後述するメソ構造体薄膜の形成プロセスに耐え得るもので、かつメソ構造体中の細孔の一軸配向制御が可能なものであれば、基本的に材質には限定はなく、ポリイミド等が好ましく用いられる。ポリイミドのLB膜を作製する場合には、目的とするポリイミドの前駆物質であるポリアミック酸のアルキルアミン塩を作製し、この材料のLB膜を上述の方法で作製した後に、加熱処理を行うことで脱水閉環反応によるイミド化と脱アミン反応を起こさせ、ポリイミドLB膜とする。
【0053】
このようにして作製された高分子LB膜内では、高分子鎖がLB膜作製時の基板の引き上げ方向に配向していることが多く、この分子配向の異方性によって、メソポーラス材料薄膜中の界面活性剤分子集合体を配向させることができる。
【0054】
次に、ラビング処理を施した高分子化合物薄膜を形成した基板について説明する。ラビング処理は、スピンコート等の手法により基板上にポリマーのコーティングを施し、これを布等で一方向に擦る処理である。ラビング布はローラーに巻き付けられており、回転するローラーを基板表面に接触させ、基板を固定したステージをローラーに対して一方向に移動させることによってラビングを行う。
【0055】
ラビング布は使用する高分子材料に対して最適なものを選択するが、ナイロン、レーヨン等一般的なものを使用することができる。ラビング強度は、ローラーの回転数、基板へローラーを押し付ける強度、及び基板を固定したステージの移動速度等のパラメータによって最適化される。ラビング処理を施す高分子化合物は、後述するメソ構造体薄膜の形成プロセスに耐え得るもので、かつメソ構造体中の細孔の配向制御が可能なものであれば基本的に材質には限定はなく、ポリイミド等が好ましく用いられる。
【0056】
ラビング処理によって基板表面の高分子化合物薄膜には2種類の構造異方性が誘起される。ひとつは、高分子膜の表面を布で強くこすることによって表面につけられる微細な凹凸であり、ローラーを用いて一方向にラビングするためにこの凹凸構造は高い異方性を有することになる。もうひとつの異方性は、ラビング処理時に発生する熱によって高分子化合物がそのガラス転移点以上に加熱されつつ延伸されることによる、高分子鎖の配列異方性である。このうち前者はラビング処理によって、ほとんど全ての高分子化合物薄膜に対して形成されるが、後者は高分子鎖の構造に基づく物性とラビング条件の相対的な関係において、ある条件において形成されると本発明者らは考察している。
【0057】
続いて、基板上にメソ構造体の薄膜を作製する方法について説明する。基板上へのメソ構造体薄膜の作製方法は2つの方法に大別される。ひとつは、溶液中から基板表面への不均一核発生−核成長に基づくもので、もうひとつはゾル−ゲル法に基づく溶媒蒸発法と呼ばれる方法である。前者に関しては、例えばChemistry of Materials 誌第14巻766−772ページに記載がなされており、後者に関しては例えばNature誌第389巻364−368ページに記載がなされている。
【0058】
はじめに、溶液中から基板表面への不均一核発生−核成長に基づく方法について説明する。この方法は、メソポーラスシリカ薄膜の作製に主に用いられる方法で、結晶成長に類似した方法でメソ構造体の薄膜を作製するものである。この方法では、界面活性剤水溶液に目的の細孔壁構成材料の原料となる物質を添加した前駆体溶液中に、上述の基板を保持することによって、メソポーラス材料の薄膜が基板上に形成される。
【0059】
この方法によるメソ構造体薄膜の形成に用いる反応容器は、例えば図5の様な構成のものである。反応容器51の材質は、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定はなく、ポリプロピレンやテフロン(登録商標)のようなものを用いることができる。反応容器は、反応中に圧力がかかっても破壊されないように、さらにステンレススチールのような剛性の高い材質の密閉容器に入れることもある。反応容器内には、基板ホルダー53が例えば図5の様に置かれており、基板55はこれを用いて保持される。反応中、メソ構造体の形成は基板上のみならず、溶液中においても起こるために、溶液中の沈殿物が基板上に堆積してしまう。これを防ぐために、基板は反応中膜形成面を下向きにして溶液中に保持される。
【0060】
反応溶液は、界面活性剤とアルコキシド等の目的無機材料の原料になる物質を含む溶液である。細孔壁を形成する材料に応じて、無機成分原料の加水分解反応触媒である酸等を適当量添加する場合もある。アルコキシドを用いる場合には、加水分解により生成するアルコールが水に可溶であるようなものが好ましく用いられる。例えば、細孔壁がシリカの場合には、界面活性剤の酸性水溶液にテトラエトキシシラン、もしくはテトラメトキシシランを添加して反応溶液が調整される。
【0061】
使用する界面活性剤は、4級アルキルアンモニウムのようなカチオン性界面活性剤、ポリエチレンオキシドを親水基として含む非イオン性界面活性剤等が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。使用する界面活性剤分子の長さは、目的のメソ構造の細孔径に応じて決められる。また、界面活性剤ミセルの径を大きくするために、メシチレンのような添加物を加えてもよい。使用する酸も塩酸、硝酸のような一般的なものを使用することが可能である。基板上に析出する膜の形状や構造は、界面活性剤、酸、無機成分の原料の濃度に大きく影響されるのみならず、基板の表面の性質によっても影響を受ける。従って、使用する基板によって反応溶液組成を最適化して膜形成を行う必要がある。
【0062】
この様な条件で基板上にメソポーラス材料を析出させることができる。析出させる際の温度には特に制約はなく、室温〜100℃程度の温度領域において選択される。反応時間は数時間〜数ヶ月程度で、時間が長いほど厚いメソポーラス材料薄膜が得られる。
【0063】
この様にして基板上に形成されたメソポーラス材料薄膜は、純水で洗浄した後に空気中で自然乾燥させ、最終的な薄膜が得られる。
【0064】
以上のように作製されたメソポーラス材料薄膜からテンプレートの界面活性剤ミセルを除去することで中空のメソ細孔を有するメソポーラス材料薄膜を作製することができる。界面活性剤の除去には、一般的な方法を用いることができ、焼成、紫外光照射により発生したオゾンによる酸化・分解、溶剤による抽出、超臨界状態の流体による抽出等の中から選択される。例えば、メソポーラスシリカの場合には、空気中、550℃で10時間焼成することによって、メソ構造をほとんど破壊することなく、完全に界面活性剤を除去することができる。焼成温度と時間は、細孔壁を形成する材料と使用する界面活性剤により、最適化されるのが好ましい。メソ細孔の配向制御を行うために基板表面に高分子化合物を作製した場合には、焼成によってメソポーラス材料薄膜と基板の間に存在する配向制御用高分子膜も除去され、基板上に直接配向制御されたメソポーラス材料薄膜が形成されている構造となる。また、溶剤抽出等の手段を用いると、100%の界面活性剤の除去は困難ではあるものの、焼成に耐えられない材質の基板上にメソポーラス材料薄膜を形成することが可能である。
【0065】
次に、溶媒蒸発法による膜形成について説明する。溶媒蒸発法は、臨界ミセル濃度以下の界面活性剤と、細孔壁を形成する無機物の前駆体とを含む水溶液または有機溶媒/水混合溶液を、スピンコート、ディップコート、ミストコート等によって基板上に塗布するもので、コーティング中の溶媒の乾燥による界面活性剤濃度の上昇に従ってメソ構造が形成されていくものである。有機溶媒としてはアルコール等が用いられる。この方法は、比較的反応条件が穏やかなために基板材質の制約が小さく、また短時間で膜作製が可能である等の利点を有している。
【0066】
スピンコートやディップコートを行うための装置は、一般的なものを用いることができ、特に制約は無いが、場合によっては溶液の温度を制御するための手段、及びコーティングを行う雰囲気の温度、湿度を制御するための手段を設ける場合もある。
【0067】
例としてディップコーティングを用いたメソポーラス材料薄膜の作製方法について説明する。ディップコーティングに用いる装置の一例を図6に模式的に示す。図6において、61は容器、62は基板、63は前駆体溶液である。前駆体溶液63は、臨界ミセル濃度以下の界面活性剤と無機成分の前駆物質を含む、水溶液もしくは有機溶液もしくは有機溶液と水の混合溶液で、加水分解重縮合触媒として作用する酸等が添加される場合もある。例えば、メソポーラスシリカ薄膜を作製する場合の溶液は、界面活性剤をアルコール/水混合溶媒に溶解し、ここに、加水分解触媒である酸を添加したものである。
【0068】
使用する界面活性剤は、不均一核発生−核成長による作製方法と同様に、4級アルキルアンモニウムのようなカチオン性界面活性剤、ポリエチレンオキシドを親水基として含む非イオン性界面活性剤等が用いられるが、これらに限定されるものではない。使用する界面活性剤分子の長さは、目的のメソ構造の細孔径に応じて決められる。また、界面活性剤ミセルの径を大きくするために、メシチレンのような添加物を加えてもよい。
【0069】
メソポーラス材料薄膜を作製する基板62は、ホルダー64を用いてロッド65に固定され、zステージ66によって上下させる。成膜時、反応溶液63は必要に応じてヒーター68と熱電対67を用いて所望の温度に制御される。溶液温度の制御性を向上させるために、容器全体を不図示の断熱容器に入れることもある。反応溶液を塗布した基板は、温度や湿度の制御が可能な装置の中で乾燥させることが好ましい。乾燥工程の後に、高湿度雰囲気中でエージングを行うこともある。
【0070】
ディップコーティング、スピンコーティングの他に、Nature第405巻56ページに記載されているペンリソグラフィー法やインクジェット法も、溶媒蒸発法に基づく有効なメソポーラス材料作製方法である。これらの方法を用いれば、基板上の所望の箇所にメソポーラス材料薄膜をパターニングすることが可能である。
【0071】
ペンリソグラフィー法は、反応溶液をインクのように使い、ペン先から塗布しラインを描くもので、ペン形状、ペンや基板の移動速度、ペンへの流体供給速度等を変化させることで、自由にライン幅を変化させることが可能であり、現在μmオーダーからmmオーダーまでのライン幅で描くことが可能である。直線、曲線等任意のパターンを描くことが可能であり、基板に塗布された反応溶液の広がりが重なるようにすれば、面状のパターニングも可能である。
【0072】
また、不連続なドット形状のパターンを描きたい場合は、インクジェット法がさらに有効である。これは、反応溶液をインクのように使い、インクジェットノズルから一定量を液滴として吐出し塗布するものである。また、基板に着弾した反応溶液の広がりが重なるように塗布すれば、ライン状のパターニングも面状のパターニングも可能である。
【0073】
この、溶媒蒸発法によって作製されたメソ構造体薄膜の場合にも、不均一核発生−核成長で作製した膜の場合と同様な方法によって、メソ細孔内から界面活性剤を除去し、中空のメソ細孔を有するメソポーラス材料薄膜を作製することができる。
【0074】
本発明のメソポーラス材料薄膜中の細孔構造は、透過電子顕微鏡、及びX線回折分析で評価することが可能である。ただし、本発明のメソポーラス材料薄膜の場合には、チューブ状メソ細孔は、基板に平行に形成されるために、面内での配向を評価する場合には、面内X線回折分析を使用することが必要になる。本発明のメソポーラス材料薄膜を面内X線回折によって評価した場合、面内のロッキングカーブには、180°おきに二本ずつの回折ピークが観測されることになる。このそれぞれの2本の回折線の間隔が、2つの配向方向の角度差に対応している。本発明のメソポーラス材料薄膜では、メソ細孔の2つの配向方向は、基板の異方性の方向によって規定されており、ラビング処理の方向、またはLB膜成膜時の基板の引き上げ方向に対して、同じ角度をなして配向している。
【0075】
本発明のメソポーラス材料薄膜で2本のペアのピークとして観測される同一面内X線回折ピークは、それぞれ実質的に同じ回折強度である。このことは、同一面内の2つの方向において、メソ細孔が同じ面積だけ形成されていることを意味している。
【0076】
本発明で作製したメソポーラス材料薄膜は、実質的に均一なメソ細孔を有することを特徴としている。メソ細孔のサイズと細孔径分布は、窒素ガスの等温吸着線測定結果から求めることができる。
【0077】
本発明のメソポーラス材料薄膜は、窒素ガス吸着等温線測定結果から、Barret−Joyner−Halenda(BJH)法によって求められた細孔径分布が、2nm〜50nmの範囲に単一のピークを有し、求められた細孔径分布において、60%以上の細孔が幅10nmの細孔径範囲に含まれることを特徴としている。
【0078】
さらに、本発明は、この2つの方向に配向したチューブ状メソ細孔内に、共役高分子化合物を導入した複合材料をも包含する。この複合体薄膜について説明する。
【0079】
同一面内での配向方向が一つに制御されたメソポーラスシリカ薄膜のメソ細孔内に、共役高分子を導入した例に関しては、本発明者らの研究があり、Journal of the American Chemical Society 誌第126巻4476−4477頁に内容が記載されている。この研究では一つの配向方向に制御されたメソ細孔内で高分子鎖が高度に制御されることが明示されている。
【0080】
本発明の、2つの配向方向に制御されたチューブ状メソ細孔を有する膜に関しても、メソ細孔内に共役高分子を導入することが可能である。
【0081】
共役高分子化合物を導入する場合、先ず、メソ細孔内部の表面を疎水処理することが好ましい。メソ細孔内を疎水性にすることで、高分子化合物のメソ細孔への導入は著しく改善される傾向がある。例えば、フェニルジメチルクロロシランや1,1,1,3,3−ヘキサメチルジシラザンで薄膜を処理することによって、メソ細孔内のシラノール基に有機物を結合させ、メソ細孔内を効率的に疎水化することが可能である。しかし、メソ細孔内の疎水化処理に使用可能なものは、これに限定されず、また、シランカップリング剤以外のものであっても、同様な効果が得られるものであれば使用可能である。メソ細孔内部の表面の処理とは、具体的には、メソポーラスシリカ薄膜を目的のシランカップリング剤に浸漬するような処理を指すが、修飾の方法はこれに限定されるわけではなく、例えば、気相中において反応させるような方法も適用可能である。カップリング反応を行う場合には、その反応の触媒としてはたらく物質を添加してもよい。添加する触媒としては、例えばトリメチルシランのようなものが使用される。
【0082】
メソ細孔内の疎水処理に続いて、メソ細孔内に共役高分子化合物を導入する。共役高分子としては、様々なものが使用可能である。例示すると、ポリフェニレンビニレン骨格を有するもの、ポリチオフェン骨格を有するもの、ポリピロール骨格を有するもの、ポリフルオレン骨格を有するもの等が使用可能であるが、これらに限定されるわけではない。共役高分子化合物のメソ細孔への導入法としては、例えば、共役高分子化合物の溶液に、前記配向制御された細孔構造を有するメソポーラスシリカ薄膜を浸漬する方法や、共役高分子の溶液を基板上に滴下して加熱する方法等、いくつかの方法を用いることが可能である。本発明においては、メソ細孔内に共役高分子化合物を導入することができる方法であれば、どのような方法を用いてもよい。高分子材料の溶液に接触させてメソ細孔内に高分子材料を導入した場合には、膜の外表面に余分な共役高分子材料が付着しているので、これを除去する工程を施す。
【0083】
このようにして作製した、メソ細孔内に共役高分子化合物を保持した複合材料薄膜は、偏光子下で観察すると特定の2つの方向で着色が認められ、高分子化合物がメソ細孔内で配向していることを示している。その配向方向は、同一面内X線回折分析で測定されたメソ細孔の配向方向と一致している。
【0084】
共役高分子の異方性は吸収のみならず、発光においても観測される。強い蛍光発光を示す共役高分子化合物をメソ細孔内に導入した場合には、吸収の偏光依存性に加えて、膜から放出される蛍光も2つの方向に偏光している。これは、蛍光スペクトルの検出器の手前に偏光子を置き、偏光角度を変化させながらスペクトルを測定することで確かめられる。本発明の膜からは、同一面内X線回折分析で測定された2つのメソ細孔の配向方向と同じ2つの方向に偏光した蛍光が発せられる。
【0085】
さらに、本発明は、この2つの方向に配向したチューブ状メソ細孔内に共役高分子化合物を導入した複合材料薄膜からなるレーザー発光部、及び該複合材料薄膜を構成要素として含むレーザーをも包含する。次にこれについて説明する。共役高分子化合物をメソ細孔内に保持した本発明の膜において、強い蛍光発光を示す共役高分子化合物を用いた場合には、励起光強度がある閾値を越えて増大した場合、誘導放出が観測されるようになり、スペクトル線幅が大きく減少するとともに発光強度が大きく増大する。この現象は、図7に示すような対称導波路を形成した場合においてより明瞭に観測される。図7は、この複合体薄膜材料をの下地基板71と同じ屈折率の液体74で膜表面を覆った構造になっている。このような構造にした場合、膜厚が薄い場合においてもレーザー発振、即ち誘導放出に伴う発光線幅の現象等が起こるようになる。基板材料、及び基板と同じ屈折率の液体は、特に材料に制約はない。レーザー発光は、膜の端面から放出される。その放出される方向は、面内X線回折分析で測定された2つの方向に対して直交する2つの方向で、これは、高分子の配向が高度に制御されているために起こることである。
【0086】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0087】
本実施例は、ラビング処理を施したポリイミドで被覆した基板を用いて、同一面内でラビング方向に対して2つの同じ角度をなす、2つの配向方向を有するチューブ状メソ細孔から構成されるメソポーラスシリカ薄膜を作製した例である。
【0088】
アセトン、イソプロピルアルコール、及び純水で洗浄し、オゾン発生装置中で表面をクリーニングした石英ガラス基板にスピンコート法によって、ポリアミック酸AのNMP溶液をスピンコート法により塗布し、200℃で1時間焼成して、以下の構造を有するポリイミドAを形成した。ポリイミドAの膜厚は100nmである。
【0089】
【化1】


【0090】
これに対して、表1の条件でラビング処理を施し、基板として用いた。
【0091】
【表1】


【0092】
ラビング後のポリイミド薄膜中では、分子の配向状態はランダムではなく、ポリイミドの分子鎖が、ラビング方向に配向していることが、偏光を用いた赤外吸光分析によって明らかになった。また、同じ膜を、原子間力顕微鏡を用いて、測定した結果、ラビング方向に幅数nm〜数十nmの微細な溝が配列している様子が確認された。
【0093】
この基板上に、メソポーラスシリカ薄膜を形成する。本実施例で用いた界面活性剤は、非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレン−10−セチルエーテル(C16EO10と略記、商品名Brij56)である。この界面活性剤を純水に溶解した後、塩酸とテトラエトキシシランを添加し、最終的な溶液中の各成分のモル比が、TEOS:HO:HCl:C16EO10=0.10:100:3.0:0.010となるようにした。
【0094】
この溶液中に、上記ラビング処理を施したポリイミドで被覆した基板を、基板面を下向きにして保持し、80℃で3日間反応させ、メソポーラスシリカ薄膜を作製した。反応溶液から取り出した基板は純水で十分に洗浄した後に風乾させた。
【0095】
基板上には、透明な膜が形成されており、均一な干渉色が確認された。この膜をX線回折分析で測定した結果、膜厚方向に5.1nmの周期構造を有することが確認された。この膜の断面の透過電子顕微鏡による観察結果より、この薄膜中では、チューブ状メソ細孔がハニカムパッキングした構造であることが明らかとなった。
【0096】
次に、この膜について同一面内X線回折分析を試みた。その結果、面内において、7.4nmの周期構造があることが確認された。この回折ピークを与える構造について、同一面内での配向分布を調べるため、同一面内ロッキングカーブを測定した。観測されたプロファイルを図8に示す。このように、180°おきに、2本ずつの回折ピークが観測された。この結果から、本実施例で作製した膜中では、チューブ状のメソ細孔が2つの方向に配向していることが明らかである。その2つの方向は、ラビング方向に対して等しい角度をなしている。言い換えると、本実施例で作製した膜中で、チューブ状メソ細孔は、ラビングに垂直な方向から等しく19°だけ傾いたジグザグ構造を有している。図8のX線回折プロファイルにおいて、ペアをなす2本の回折線のピーク強度は等しく、このことは、同一面内で2つの配向方向に制御されているメソ細孔のうち、一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積と、もう一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積は互いに実質的に等しいということをあらわしている。
【0097】
この膜の構造を確認するために、膜の透過電子顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡像を図9に示す。この電子顕微鏡像からも、同一面内でメソ細孔の配向が2つの方向に制御されていることが明らかである。
【0098】
図9中に示した2つの角度は等しい。図9に示した電子顕微鏡写真は、基板から剥離した薄膜について記録されたもので、膜の強度の関係でメソ細孔がカーブしているように見えている。
【0099】
この膜を、空気中550℃で焼成し、メソ細孔内から界面活性剤を除去し、中空のメソ細孔とした。界面活性剤の除去は、赤外吸収スペクトルによって確認された。焼成によってシラノール基が縮合するために、膜厚方向に約20%の構造周期の収縮が起こることがX線回折分析によって示されたが、同一面内の構造はほとんど変化しないことが同一面内X線回折分析によって明らかになった。
【0100】
この基板上の膜について、窒素の吸着等温線を測定した。吸着はタイプIVの挙動を示した。この結果をBJH法で解析した結果、本実施例で作製したメソポーラスシリカ薄膜中の細孔径分布は3.2nmに単一のピークを有する狭い分布で、メソ細孔の80%以上が10nmの分布内におさまっていた。
【実施例2】
【0101】
本実施例は、ポリイミドのLB膜を形成した基板を用いて、同一面内でラビング方向に対して2つの同じ角度をなす、2つの配向方向を有するチューブ状メソ細孔から構成されるメソポーラスシリカ薄膜を作製した例である。
【0102】
下記の構造を有するポリイミドBの前駆物質であるポリアミック酸BとN,N−ジメチルヘキサデシルアミンとを1:2のモル比で混合し、ポリアミック酸BのN,N−ジメチルヘキサデシルアミン塩を作製した。これをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し0.5mMの溶液とし、この溶液を20℃に保ったLB膜成膜装置の水面上に滴下した。水面上に形成された単分子膜は、30mN/mの一定の表面圧を印加しながら、5.4mm/minのディップ速度で基板上に移し取った。
【0103】
基板はアセトン、イソプロピルアルコール、及び純水で洗浄し、オゾン発生装置中で表面をクリーニングした石英ガラス基板を用いた。基板上に30層のポリアミック酸アルキルアミン塩LB膜を成膜した後、窒素ガスフローの下で、300℃で、30分間焼成して以下に構造を示すポリイミドBのLB膜を形成した。ポリアミック酸の脱水閉環によるイミド化、及びアルキルアミンの脱離は赤外吸収スペクトルより確認した。
【0104】
【化2】

【0105】
偏光赤外吸収スペクトルにより、本実施例において作製したポリイミド薄膜中では、高分子鎖は成膜時の基板の引き上げ方向に平行に配向していることが明らかとなった。
【0106】
この基板上に、シリカメソ構造体薄膜を形成する。本実施例のメソポーラスシリカ薄膜の作製方法は、使用する材料、反応条件共に、実施例1と同一である。
【0107】
反応容器から取り出し、洗浄した後に観察すると、基板上には、透明な膜が形成されており、均一な干渉色が確認された。この膜をX線回折分析で測定した結果、膜厚方向に5.1nmの周期構造を有することが確認された。この膜の断面の透過電子顕微鏡による観察結果より、この薄膜中では、チューブ状メソ細孔がハニカムパッキングした構造であることが明らかとなった。
【0108】
次に、この膜について同一面内X線回折分析を試みた。その結果、面内において、7.3nmの周期構造があることが確認された。この回折ピークを与える構造について、同一面内での配向分布を調べるため、同一面内ロッキングカーブを測定した。その結果、実施例1で測定された図8のプロファイルよりは半値幅が広いものの、ほぼ同じプロファイルが測定された。この結果から、本実施例で作製した膜中でも、チューブ状メソ細孔が2つの方向に配向していることが明らかである。その2つの方向は、LB膜作製時の基板の引き上げ方向に対して等しい角度をなしている。言い換えると、本実施例で作製した膜中で、チューブ状メソ細孔は、LB膜作製時の基板の引き上げ方向に垂直な方向から、等しく18.5°だけ傾いたジグザグ構造を有している。本実施例で作製した膜について観測された同一面内X線回折ロッキングカーブのプロファイルにおいて、ペアをなす2本の回折線のピーク強度は等しく、このことは、同一面内で2つの配向方向に制御されているメソ細孔のうち、一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積と、もう一方の方向に配向しているメソ細孔を含む領域の総面積は互いに実質的に等しいということをあらわしている。
【0109】
本実施例において作製された膜についても、透過電子顕微鏡による観察を行った結果、基本的に図9と同様のジグザグの細孔構造が確認された。
【0110】
この膜を、空気中550℃で焼成し、メソ細孔内から界面活性剤を除去し、中空のメソ細孔とした。界面活性剤の除去は、赤外吸収スペクトルによって確認された。焼成によってシラノール基が縮合するために、膜厚方向に約20%の構造周期の収縮が起こることがX線回折分析によって示されたが、同一面内の構造はほとんど変化しないことが同一面内X線回折分析によって明らかになった。
【0111】
この基板上の膜について、窒素の吸着等温線を測定した。吸着はタイプIVの挙動を示した。この結果をBJH法で解析した結果、本実施例で作製したメソポーラスシリカ薄膜中の細孔径分布は3.1nmに単一のピークを有する狭い分布で、メソ細孔の80%以上が10nmの分布内におさまっていた。
【実施例3】
【0112】
本実施例は、実施例1で作製した、独立した2つの配向方向に制御されたチューブ状メソ細孔を有するメソポーラスシリカ薄膜のメソ細孔内に、発光性の共役高分子化合物であるpoly[2−methoxy−5−(2’−ethyl−hexyloxy)−1,4−phenylene vinylene](MEH−PPVと略記)を導入し、異なる2つの方向に偏光した発光を示す、蛍光性薄膜を作製した例である。
【0113】
実施例1で、焼成により中空の細孔構造としたメソポーラスシリカ薄膜を、まず、シランカップリング処理し、メソ細孔の表面を疎水化する。具体的には、トリメチルクロロシランと1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンの1:1 混合物中に焼成直後の膜を浸漬し、2時間放置した後、エタノールで洗浄して余分なシランカップリング剤を除去した後に、乾燥させる。
【0114】
これに続いて、メソ細孔内にMEH−PPVを導入する。精製し、低分子量成分を除去したMEH−PPV0.12gを9mlのクロロベンゼンに溶解し、この溶液に上述のシランカップリング処理を施したメソポーラスシリカ膜を浸漬した。この状態で、密閉容器を用いて、80℃に加熱することで細孔内にMEH−PPVを導入することができる。5日間MEH−PPV溶液と基板を接触させた後、基板をクロロフォルムで洗浄し、該表面に付着した余分な高分子化合物を除去し、乾燥させた。
【0115】
乾燥後の薄膜を観察すると、赤色に着色しており、MEH−PPVの細孔内への導入が示唆された。可視域の偏光吸収スペクトルを測定した結果を図10に示す。偏光方向が細孔の配向方向に平行の場合には、非常に強い吸収が観測されている一方で、偏光方向がラビング方向に平行な場合にはほとんど吸収が観測されなかった。最も吸収が強かったのは、細孔方向と偏光方向が平行な2つの方向の場合で、その間では吸収は弱くなっていた。このことから、本発明の共役高分子化合物を保持したメソポーラスシリカ薄膜中においては、共役高分子化合物の分子鎖が2つのメソ細孔の配向方向に制御されていることがわかる。
【0116】
次にこの薄膜から放出される蛍光の偏光挙動について測定を行った。発光挙動に関しては、励起光の偏光方向と蛍光の偏光方向の2つを独立に変化させて測定を行った。本実施例で作製したMEH−PPV−配向性メソポーラスシリカ薄膜からの発光は、メソ細孔の配向方向に対して平行な偏光で励起し、同じ角度に蛍光側の偏光子をセットして観測した場合に、最も強度が強くなった。メソ細孔の配向方向の一方に平行になるように励起光側の偏光子の角度を設定し、もう一方のメソ細孔の配向方向に平行になるように蛍光側の偏光子の角度を設定した場合には、観測される発光強度は弱く、それぞれの方向に配向している高分子膜は共存しておらず、場所によって異なる2つの配向状態にあることが確認された。ラビング方向に平行な方向に、蛍光側の偏光子の角度をセットした場合には、ほとんど蛍光は観測されなかった。
【0117】
本実施例は、チューブ状の細孔方向を2つの方向に制御することによって、偏光発光の方向を2つの方向に高度に制御できることを示しており、ナノ空間制御により光物性の制御が可能であることを示している。
【実施例4】
【0118】
本実施例は、上記実施例3で作製した、2つの方向に偏光した発光を示す共役高分子MEH−PPVを保持したメソポーラスシリカ薄膜を用いてレーザーを構成した例である。
【0119】
実施例3で作製した、MEH−PPVを保持したメソポーラスシリカ薄膜上に、図7に示すようにスペーサ73を介してカバーのガラス基板を設置し、複合体膜とカバー基板の間の空間を、脱酸素を施したグリセリン74で充填し、シールする。ここで、グリセリンは、複合体膜を形成している石英ガラスとほぼ同じ屈折理を有する透明液体という理由で選ばれている。このようにして共役高分子を保持したメソポーラスシリカ薄膜が、同じ屈折率の材料にはさまれた、対称な導波路構造が形成される。
【0120】
レーザー発振に用いる装置の概略図を図11に示す。この導波路構造を、真空容器1105に入れ、真空ポンプ1106により脱気する。透明な窓1104を通して入射光1101をこの対称導波路構造注の上記複合体薄膜に照射する。励起光としては、Nd:YAGレーザーの第二次高調波(波長532nm)を用いた。複合体薄膜からの光1102は、端面から発せられる成分を、図11のような配置で測定した。
【0121】
この構成において励起光強度を増加させて、発光スペクトルを測定すると、発光スペクトルに大きな変化が現れた。この様子を図12に示す。励起光強度増大と共に、発光スペクトルの線幅が大きく減少し、特定の波長成分の強度が選択的に起こっている。これは、誘導放出によるミラーレスのレーザー発振である。本発明の複合体薄膜の場合には、この線幅減少が起こる閾値の励起光強度が約0.05mJ/mmと、非常に小さい値であった。これは、本発明の複合体薄膜中では、共役高分子が高度に配向制御されているため、放出された光が効果的に誘導放出誘起に使われるためである、と本発明者らは考察している。
【0122】
本発明のレーザーのもう1つの特徴は、光が高度に偏光しているということである。面内では、メソ細孔は2つの方向の分布を有しているが、基板面に対して、メソ細孔は全て平行に配向している。したがって、メソ細孔の折れ曲がりに関らず、膜端面から放出される光は、基板と平行な方向に高度に偏光している。
【0123】
本発明のレーザーのさらにもう1つの特徴は、レーザー光の発せられる方向が規定されているという点である。図11に示すように、本実施例では、対称導波路構造の複合体薄膜を面内で回転させることができるようになっており、放出されるレーザー光強度の分布を測定することができる。この結果、ラビング方向と平行な方向にはほとんど発光は観測されず、メソ細孔の方向に垂直な2つの方向で強く観測されることが明らかとなった。これも、メソ細孔内において、共役高分子の分子鎖が2つの方向に高度に配向制御されている効果である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、メソポーラス材料の薄膜において、チューブ状メソ細孔の同一面内での配向方向を、2つの方向に制御できるので、この薄膜を光学薄膜、光学素子に利用することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明のメソポーラス材料薄膜の細孔構造を説明するための模式図である。
【図2】本発明のメソポーラス材料薄膜中のチューブ状メソ細孔の2つの配向方向を説明するための模式図である。
【図3】従来の一軸配向性のチューブ状メソ細孔を有するメソポーラス材料薄膜を説明するための模式図である。
【図4】本発明に用いられるLB膜の成膜装置の模式図である。
【図5】本発明において、不均一核発生−核成長法でメソポーラス材料薄膜を作製するための反応容器の模式図である。
【図6】本発明において、溶媒蒸発法でメソポーラス材料薄膜を作製する方法のうち、ディップコート法に用いられる成膜装置の模式図である。
【図7】本発明のレーザーにおける、対称導波路の構造を説明するための模式図である。
【図8】本発明の実施例1で作製された、メソポーラスシリカ薄膜の同一面内X線ロッキングカーブのプロファイルである。
【図9】本発明の実施例1で作製された、メソポーラスシリカ薄膜の透過電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例3で作製された、MEH−PPVを細孔内に導入したメソポーラスシリカ薄膜の吸収スペクトルの偏光依存性を示す図である。
【図11】本発明で作製したレーザーの発光に関する測定配置を説明するための模式図である。
【図12】本発明の実施例4で作製されたレーザーにおいて、励起光強度の増大に伴う発光スペクトル幅の狭線化に関する図である。
【符号の説明】
【0126】
11、11’:基板
12、12’:メソポーラス材料薄膜
13、13’:チューブ状メソ細孔
41:水槽
42:純水
43:固定バリア
44:可動バリア
45:基板
46:水面上の単分子層
51:反応容器
52:蓋
53:基板ホルダー
54:Oリング
55:基板
61:容器
62:基板
63:前駆体溶液
64:基板ホルダー
65:ロッド
66:zステージ
67:熱電対
68:ヒーター
71:基板
72:MEH−PPVを細孔内に導入したメソポーラスシリカ薄膜
73:スペーサ
74:グリセリン
1101:励起光
1102:レーザー光
1103:MEH−PPVを細孔内に導入したメソポーラスシリカ薄膜を形成した基板
1104:窓
1105:真空容器
1106:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、実質的に均一な径を有するチューブ状メソ細孔がハニカムパッキングされてなる細孔構造を具備するメソポーラス材料薄膜において、前記基板の表面は構造異方性を有しており、前記メソ細孔は同一面内で2つの配向方向に制御されており、前記メソ細孔同士は相互に平行に配置され、かつ、前記基板の面に対して平行に配置されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜。
【請求項2】
前記メソ細孔中に両親媒性分子の分子集合体が充填されている請求項1に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項3】
前記メソ細孔の壁を形成する材料がシリカを成分として含む請求項1乃至2のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項4】
窒素ガス吸着測定により求められた前記メソ細孔が、径の分布に関して、単一の極大値を有し、かつその細孔径分布において、60%以上のメソ細孔が、10nmの幅を持つ範囲に含まれる請求項1乃至3のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項5】
前記メソ細孔の同一面内での2つの配向方向のうち、第一の方向に配向している領域の面積と、第二の方向に配向している領域の面積とが実質的に等しい請求項1乃至4のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項6】
前記メソ細孔が、同一面内において、前記基板の表面の構造異方性によって2つの配向方向に制御されている請求項1乃至5のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項7】
前記基板の表面の構造異方性が、前記基板上の高分子薄膜内の構造異方性によって規定される請求項6に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項8】
前記高分子薄膜内の構造異方性が、前記高分子薄膜の表面の物理的な凹凸形状の異方性によって規定される請求項7に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項9】
前記高分子薄膜内の構造異方性が、前記高分子薄膜の表面内での高分子鎖の配向状態の異方性によって規定される請求項7に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項10】
前記メソ細孔の同一面内での配向方向がラビング処理によって付与され、かつ、前記基板の表面の構造異方性によって2つの方向に制御されており、それぞれのメソ細孔の配向方向とラビング処理の方向が等しい請求項1乃至9のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項11】
前記メソ細孔の同一面内での配向方向が、前記基板の表面での構造異方性を有する高分子化合物のラングミュア−ブロジェット膜によって2つの方向に制御されており、それぞれのメソ細孔の配向方向とラングミュア−ブロジェット膜作製時の前記基板の引き上げ方向とが等しい請求項1乃至9のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項12】
前記メソ細孔内の一部もしくは全部に、共役高分子化合物を保持している請求項1乃至11のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項13】
前記共役高分子化合物の主鎖の配向方向が、2つの配向方向に制御された前記メソ細孔によって2つの異なる方向に制御されている共役高分子化合物を保持してなる請求項12に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項14】
前記メソ細孔内の前記共役高分子化合物が励起状態から定常状態に遷移する際に放出される発光の偏光状態が、2つの配向方向に制御された前記メソ細孔によって、2つの異なる方向に制御されている請求項13に記載のメソポーラス材料薄膜。
【請求項15】
請求項14に記載のメソポーラス材料薄膜から構成されるレーザー発光部。
【請求項16】
請求項14に記載のメソポーラス材料薄膜と、前記メソポーラス材料薄膜が形成されている基板の屈折率とほぼ同じ屈折率を有する媒質とから構成されるレーザー発光部。
【請求項17】
レーザーの主たる発光方向が、同一面内で好ましい2つの方向に制御されている請求項15乃至16のいずれかに記載のレーザー発光部。
【請求項18】
請求項15乃至17のいずれかに記載のレーザー発光部を含み構成されるレーザー。
【請求項19】
表面に構造の異方性を有する基板を準備する工程と、前記基板と、無機酸化物前駆体と両親媒性物質とを含む水溶液とを接触させ、前記基板の表面に、界面活性剤のチューブ状分子集合体が規則配列した構造を有する無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜を形成する工程とを含むメソポーラス材料薄膜の製造方法において、形成される膜中でのチューブ状分子集合体が同一面内で2つの配向方向に制御されるように前記水溶液の組成が調整されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜の製造方法。
【請求項20】
基板上に高分子化合物の薄膜を形成する工程と、前記高分子薄膜に対してラビング処理を施す工程と、前記ラビング処理を施した高分子薄膜を保持する前記基板と、無機酸化物前駆体と両親媒性物質とを含む水溶液とを接触させ、前記基板の表面に、界面活性剤のチューブ状分子集合体が規則配列した構造を有する無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜を形成する工程とを含むメソポーラス材料薄膜の製造方法において、形成される膜中でのチューブ状メソ細孔が同一面内で2つの配向方向に制御されるように前記水溶液の組成が調整されていることを特徴とするメソポーラス材料薄膜の製造方法。
【請求項21】
請求項19乃至20のいずれかに記載の工程の他に、形成された無機酸化物−界面活性剤複合体の薄膜から界面活性剤を除去し、中空の構造とする工程を含むメソポーラス材料薄膜の製造方法。
【請求項22】
前記無機酸化物がシリカであり、無機酸化物前駆体としてシリカ前駆体を使用する請求項19乃至21のいずれかに記載のメソポーラス材料薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−327854(P2006−327854A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150986(P2005−150986)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】