説明

メタクリル酸グリシジルの精製方法

【課題】 エピクロロヒドリンとメタクリル酸を原料としてメタクリル酸グリシジルを製造するに際し、反応生成物中に不純物として含まれる1,3−ジクロロ−2−プロパノールを効率的に低減するための方法を提供する。
【解決手段】 1,3−ジクロロ−2−プロパノールを含有する粗メタクリル酸グリシジルを、第4級アンモニウム塩の存在下、分縮器および全縮器を備えた反応器にて減圧下に反応蒸留を行ないながら、分縮器の出口ガス温度を該減圧におけるエピクロロヒドリンの沸点以上かつメタクリル酸グリシジルの沸点未満に調節し、分縮器にて凝縮した液を反応器にリサイクルして全縮器にて凝縮した液を系外に排出することにより該不純物を低減したのち、蒸留によりメタクリル酸グリシジルを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピクロロヒドリン(以下、EpCHと記す)とメタクリル酸(以下、MAAと記す)を原料としてメタクリル酸グリシジル(以下、GMAと記す)を製造するに際し、反応生成物中に不純物として含まれる1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以下、1,3−DCPと記す)を効率的に低減するための、GMAの精製方法に関する。GMAは耐候性塗料、粉体塗料、接着剤等の原料として様々な分野で使用されている。
【背景技術】
【0002】
EpCHとMAAを原料するGMAの工業的製法は以下のような方法が知られている。
1)MAAとEpCHから3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下、MACEと記す)を得、これをアルカリにより脱塩化水素させる(例えば、特許文献1参照)。
2)MAAとアルカリからMAAのアルカリ金属塩を得、これとEpCHから脱塩化アルカリさせる(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
上記いずれの方法においてもEpCHを原料として使用するため、反応液には副反応生成物として1,3−DCPが含まれる。1,3−DCPは一分子内に塩素原子を2個含み、GMAの純度低下をもたらすのみならず、樹脂や塗料等の用途に使用した場合に性能を低下させる原因物質にもなり得ることから極力除去されることが好ましい。しかしながら、1,3−DCPの沸点がGMAと非常に近似しているため、蒸留による分離は相当な労力を要する。そこで、1,3−DCPを低減または除去する方法がいくつか提案されてきた。
【0004】
1,3−DCP等を含む粗GMAを第4級アンモニウム塩の存在下、酸素ガスと不活性ガスの混合ガスを吹き込みながらストリッピング処理する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法は純度の低い製品を長時間加熱し、精製された製品を収率70%で得るというように非常に効率が悪く、工業化には不向きであった。
【0005】
また、1,3−DCP等の塩素化合物を含む粗GMAを第4級アンモニウム塩及びアルカリ金属物質の存在下に加熱処理する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。第4級アンモニウム塩によって1,3−DCPはEpCHと塩化水素に分解され、生成した塩化水素をアルカリ金属物質によって中和するとの記載がなされているが、本発明者らの追試では塩化水素の発生は確認されず、逆に粗GMAに水酸化ナトリウム等のアルカリ金属物質を添加すると、GMAの加水分解反応によるGMA収率の著しい低下が起こることが分かった。
【0006】
他の方法として、粗GMAを塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型)に接触させる方法も知られている(例えば、特許文献5、非特許文献1参照)。これは塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型)の触媒作用によって、式1に示されるように1,3−DCPとGMAからEpCHとMACEを生成する方法である。しかし、イオン交換樹脂は非常に高価であるため経済的に不利であり、また、後述するようにこの反応は平衡反応であることから、1,3−DCPを十分低減させるためにはEpCH及びMACEが十分少ない粗GMAにしか適用できない、という問題があった。
【0007】
(式1) 1,3−DCP + GMA → EpCH + MACE
【特許文献1】特開平7−118251号公報
【特許文献2】特公平1−20152号公報
【特許文献3】特許第3018483号
【特許文献4】特開平7−309854号公報
【特許文献5】特開2000−212177号公報
【非特許文献1】GB Industrial Opportunities Ltd.,Havant,NO.385,pages 283−284,May 1,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術における上記したような課題を解決し、粗GMAから1,3−DCPを効率的に低減し、実質的に1,3−DCPを含まないGMAを得るための精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、1,3−DCPを含む粗GMAに第4級アンモニウム塩を添加すると強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型)と同様の触媒効果を示すこと、すなわち、1,3−DCPとGMAからEpCHとMACEが生成することを見出した(式1参照)。また、この反応を詳細に検討したところ、平衡反応であることが判明した(70℃における平衡定数K=2.6)。よって、この反応が反応蒸留によってEpCHを系外に留去しながら行なわれるならば、1,3−DCPとGMAとの反応が有利に進行し、さらに分縮操作を行なえばEpCHを効率よく留去できる結果、1,3−DCPを効率的かつ十分に低減できること、さらに、該反応蒸留を行なったのちアルキルベンゼンスルホン酸塩を添加してから蒸留によってメタクリル酸グリシジルを回収することにより重合その他好ましくない副反応が抑制され、高い収率で精製されたメタクリル酸グリシジルが回収できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) エピクロロヒドリンとメタクリル酸を原料として得られるメタクリル酸グリシジルの精製方法であって、不純物として1,3−ジクロロ−2−プロパノールを含む粗メタクリル酸グリシジルを、分縮器および全縮器を備えた反応器にて第4級アンモニウム塩の存在下、減圧下において反応蒸留を行ないながら、分縮器の出口ガス温度が該減圧におけるエピクロロヒドリンの沸点以上かつメタクリル酸グリシジルの沸点未満に調整された分縮器に凝縮した液を反応器にリサイクルし、全縮器に凝縮したエピクロロヒドリンを系外に排出することにより該不純物を低減したのち、蒸留によりメタクリル酸グリシジルを回収することを特徴とする粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
(2) 前記反応蒸留を行なった後、さらにアルキルベンゼンスルホン酸塩を添加する上記(1)記載の粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
(3) アルキルベンゼンスルホン酸塩が、p−トルエンスルホン酸ナトリウムである上記(2)記載の粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法によって得られる精製メタクリル酸グリシジル。
(5) 1,3−ジクロロ−2−プロパノールの含有量が200ppm以下である上記(4)記載の精製メタクリル酸グリシジル。
(6) 上記(4)または(5)記載の精製メタクリル酸グリシジルを原料に用いる塗料または接着剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応で副生した1,3−DCPを効率的かつ十分に低減したGMAを高い収率で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。GMAは一般にEpCHとMAAを原料として合成されるが、その工業的製法としては以下の2つが知られている。一つは、第4級アンモニウム塩の存在下、EpCHとMAAを付加反応させてMACEを合成し、次いで塩基性化合物を用いて脱塩化水素反応によりMACEを閉環させてGMAを製造する方法である。もう一つはMAAとアルカリ金属物質からMAAのアルカリ金属塩を得、第4級アンモニウム塩の存在下、これをEpCHと反応させて脱塩化アルカリによりGMAを製造する方法である。
【0012】
これらの製造方法において使用される第4級アンモニウム塩としては公知の物質が使用できるが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルエチルアンモニウムクロライド、ジメチルジエチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等が例示される。
【0013】
いずれの製造方法においても合成液中には触媒である第4級アンモニウム塩の他、生成したGMAとほぼ等モルの塩化アルカリなど多量の固形物が含まれており、また、収率向上を目的として合成反応はEpCH過剰で行なわれる。そこで、通常は合成終了後、濾過や水洗といった方法で合成液から固形物を除去した後、未反応の余剰のEpCHを蒸留によって回収し、次いでGMAを蒸留によって回収するのが一般的である。蒸留によって回収されたEpCHは合成原料としてリサイクルされる。以下、合成液から固形物を除去するまでを合成工程といい、合成液から固形物を除去した液を母液、固形物を除去してからの工程を蒸留工程という。
【0014】
蒸留工程は回分式でも連続式でも良く、単蒸留、精留、薄膜蒸留などを適宜組み合わせて行なうことができる。なお、合成工程は適当な重合禁止剤の存在下で行なうことが好ましく、フェノール類、フェノチアジン、N−オキシル化合物など公知のものが使用でき、これらを蒸留工程にも使用することが好ましい。また、必要に応じて分子状酸素を供給することにより、より一層重合を防止することができる。
【0015】
上記いずれの方法においてもEpCHを原料として使用するため、得られたGMA中には不純物として1,3−DCPが含まれる。1,3−DCPはその沸点がGMAと非常に近似しているため、蒸留による分離は非現実的である。つまり、上述のように蒸留工程においてEpCHを回収した後、GMAを回収した場合、合成工程で生成した1,3−DCPはほとんど全量がGMAと共に回収されてしまう。つぎに、これを低減するための精製方法について詳述する。
【0016】
1,3−DCPを含む粗GMAに第4級アンモニウム塩を添加すると、上記式1に示す平衡反応が進行し、EpCHとMACEが生成する。生成したEpCHはGMAに対して低沸点成分であり、MACEはGMAに対して十分沸点が高い。
【0017】
精製工程において添加する第4級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルエチルアンモニウムクロライド、ジメチルジエチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等が例示される。添加する第4級アンモニウム塩は1種のみを使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。また、添加する第4級アンモニウム塩は合成で使用したものと同一でも良いし異なっていても良い。第4級アンモニウム塩の使用量は粗GMAに対して0.001〜1%、好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.02〜0.4%である。これより少ないと反応が遅くなってしまい、多いと経済的に不利である。
【0018】
精製工程で使用する第4級アンモニウム塩の形状については特に限定されない。粉状または粒状の固体状態でも良いし、水溶液またはGMA中にスラリーとして分散された状態でも良い。通常は粒状または粉状のものが使用される。
【0019】
第4級アンモニウム塩の添加方法についても特に限定されない。固体の場合はホッパー等により反応器に投入しても良いし、粗GMA等で押し流して添加しても良い。何度かに分けて分割投入しても良いが、通常は一度に添加される。
【0020】
第4級アンモニウム塩は、蒸留工程の途中において、粗GMAに添加されるのが好ましい。蒸留工程前では母液中のEpCH濃度が高いため上記式1の平衡反応がほとんど進行しないだけではなく、第4級アンモニウム塩による好ましくない副反応が進行してしまい、GMAが消費されてグリセロールジメタクリレート(以下、GDMAと記す)やグリセロールトリメタクリレート(以下、GTMAと記す)等が生成するからである。添加するタイミングについては上述した平衡反応を有利に進めるため、粗GMA中のEpCH濃度が10%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下となるまで母液からEpCHを留去した時点、とするのが良い。EpCHの留去方法については前述の通り、回分式でも連続式でも良く、単蒸留でも精留でも良い。
【0021】
本発明では、粗GMAに第4級アンモニウム塩を添加して、減圧下で反応蒸留を行なう。この際、EpCHを反応系外に留去しながら反応を行なうが、このEpCHには反応で生成したEpCHの他に、母液から回収しきれなかった、粗GMA中に残存するEpCHも含まれる。EpCHを留去しながら反応蒸留を行なう理由は、目的とする反応(式1参照)が平衡反応であるため、正反応を有利に進めるためである。
【0022】
本発明で該反応蒸留に使用する反応器は分縮器及び全縮器を備えていなければならないが、反応釜そのものの形状は特に限定されない。例えば、攪拌機を備えたジャケット加熱式反応器や外部熱交換器を有する反応器などが例示される。また、合成釜を兼ねていても良いし、該反応蒸留の前工程でEpCHを回分式蒸留で回収する際の蒸留釜や、該反応蒸留の後工程でGMAを回分式蒸留で回収する際の蒸留釜を兼ねていても良い。もちろん、該反応蒸留専用の反応釜であっても良い。分縮器及び全縮器の型式や形状についても特に限定はされず、多管円筒式、二重管式、渦巻式、プレート式、空冷式などの一般に使用されている熱交換器が使用される。ただ、後述するように、本発明では分縮器出口ガス温度を制御するため、分縮器には多管円筒式等の温度を制御しやすい熱交換器を使用する必要がある。
【0023】
反応蒸留条件については、反応温度が50〜150℃、好ましくは60〜120℃、より好ましくは70〜100℃となるように、反応釜内の圧力を設定する。釜液組成によって多少の増減はあるが、通常は0.3〜3kPa、好ましくは0.5〜2kPa、より好ましくは0.7〜1.5kPaである。圧力が低すぎると反応温度も低くなって反応が遅くなり、圧力が高すぎると反応温度が高くなって重合の危険が増す。処理時間は反応温度や第4級アンモニウム塩の添加量、粗GMAの組成などに左右されるが、通常0.5〜3時間、好ましくは0.8〜2時間、より好ましくは1〜1.5時間である。
【0024】
該反応蒸留で発生した蒸気にはEpCHと共にGMAが含まれるため、これらを分縮器にて分離する必要がある。そのため、分縮器の出口ガス温度が該反応蒸留を行なう圧力におけるEpCHの沸点以上かつGMAの沸点未満になるよう調節しなければならない。その調節方法としては特に限定されないが、例えば分縮器にシェルアンドチューブ型熱交換器を使用する場合、シェル側に水や温水、減圧スチーム等の冷媒を流し、熱交換器出口ガス温度を測定することでその冷媒の温度および/または量を制御すれば良い。このように分縮器出口ガス温度を調節した場合、分縮器にて凝縮された液(以下、分縮液と記す)の主成分はGMAであり、ほとんどEpCHを含まないため反応器へリサイクルする。一方、分縮器で凝縮されなかったガスには多量のEpCHが含まれるため全縮器で凝縮した後(以下、全縮液と記す)、系外へ排出する。系外に排出した全縮液は廃棄しても構わないが、合成原料であるEpCHを含むため、合成工程や蒸留工程にリサイクルすることにより、合成原料として使用する、またはEpCHとして蒸留回収する方が経済的にも環境負荷低減の観点からも好ましい。
【0025】
反応器から分縮器まで、また分縮器から全縮器までは充填材や棚段等を設置して精留効果を持たせても良いが、空塔でも良い。重合の危険が少ないのは空塔であり、また反応蒸留時の減圧度である0.3〜3kPaにおいてもEpCHとGMAの沸点差は大きく分離が容易なことからも空塔が好ましい。
【0026】
粗GMA中の1,3−DCPが200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下に減少した後、第4級アンモニウム塩の不活性化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩を添加する。反応蒸留後、該不活性化剤を添加しないままGMAを蒸留回収した場合、釜液中で第4級アンモニウム塩による好ましくない副反応が起こり、GMAが減少してGDMAやGTMA等が生成するからである。本発明で使用するアルキルベンゼンスルホン酸塩としては特に限定されないが、例えば、o−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸カリウムなどが例示される。アルキルベンゼンスルホン酸塩の添加量は第4級アンモニウム塩の1〜3当量、好ましくは1.1〜2当量、より好ましくは1.2〜1.5当量である。
【0027】
アルキルベンゼンスルホン酸塩による第4級アンモニウム塩の不活性化は非常に速やかに進行する。そのため、アルキルベンゼンスルホン酸塩添加後、釜液を攪拌しながら該反応蒸留終了時の温度にて5〜120分、好ましくは10〜60分、より好ましくは15〜30分保持すればよい。攪拌は攪拌機を用いても良いし、ポンプ等で釜液を循環させるだけでも良い。なお、一般に第4級アンモニウム塩はGMAにほとんど溶解せず、アルキルベンゼンスルホン酸塩を添加して不活性化してもやはりGMAにはほとんど溶解しない。
【0028】
アルキルベンゼンスルホン酸塩で第4級アンモニウム塩を不活性化させた後、GMAを蒸留回収し製品とする。この蒸留方法については本発明では特に制限されないが、例えば、不活性化後そのままスラリーを含んだ釜液を回分式で蒸留する、あるいはろ過等の方法によりスラリーを分離後、精留塔で蒸留することが可能である。さらに前者の方法においては、該反応蒸留器にて蒸留することができ、分縮器出口ガス温度を反応蒸留時と同様、GMAの沸点未満となるように制御すれば、GMAは分縮液として得られる。
【0029】
本発明の方法によって得られる精製GMAは耐候性塗料、粉体塗料、接着剤等の原料として有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。すなわち、実施例にて説明したGMAの製造条件、製造方法は例示であり、本発明の範囲内において適宜変更することができるし、使用した各種の装置も例示であり、適宜変更することができる。なお、分析にはガスクロマトグラフ(GC−1700、水素炎イオン化検出器(FID)、島津製作所製)を使用した。EpCHおよび1,3−DCPの検出限界は10ppmであった。
【0031】
参考例1(GMA合成液の調製)
攪拌機と油水分離用のデカンターを有する冷却器を備えたガラス製フラスコに、EpCH(純度>99.9%)1470g、炭酸ナトリウム116g、重合禁止剤2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)2gを入れ、30kPaに減圧してEpCHが沸騰する82℃まで昇温した。留出液をデカンターで水相とEpCH相に分離し、下層のEpCH相をフラスコに還流しながらMAA172gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後さらに30分間還流を続けた後、常圧に戻しEpCHが沸騰する120℃まで昇温した。
次に触媒であるテトラメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加し、1時間反応させた後、室温まで冷却し水480gを用いて塩化ナトリウムからなるスラリーを除去した。このようにして得られたGMA合成液量は1400gで、組成は表1に示した。
【0032】
参考例2(EpCHの回収)
ガラス製単蒸留塔(内径20mm)を備えたガラス製フラスコに参考例1で得られたGMA合成液1400gとフェノチアジン1.4gを仕込み、加熱しながら徐々に減圧してEpCHを回収した。EpCH回収終了時の釜液量180g、釜圧力は1.5kPa、釜液温度は83℃、組成は表1に示した。なお、EpCH回収終了時の釜液を粗GMAとした。
【0033】
実施例1
ジャケット付き分縮器および全縮器を備えたガラス製フラスコに参考例2で得られた粗GMA180g及びテトラメチルアンモニウムクロライド0.2gを仕込み、1.5kPaで1時間反応蒸留を行なった。フラスコと分縮器、および分縮器と全縮器の間はガラス製単管(内径20mm)とし、分縮器のジャケットには68℃の温水を、全縮器のジャケットには−10℃のブラインを流した。分縮液は全て釜にリサイクルし、全縮液はナスフラスコに受けて釜に戻らないようにした。反応蒸留終了後の釜液温度は85℃、釜液組成を表1に示した。なお、分縮器出口ガス温度は61〜64℃、全縮液量は15gであった。
反応蒸留終了後、p−トルエンスルホン酸ナトリウム0.4gを添加し、分縮器、全縮器、減圧度は反応蒸留と同条件のまま、製品を分縮液として回収した結果、全縮液1g、分縮液120g、釜残45gを得た。製品回収終了時の釜温度は94℃であった。分縮液および釜残の組成を表1に示した。製品中に1,3−DCPは検出されなかった。製品回収前後のGMA収支は99.5%以上であった。
【0034】
実施例2
p−トルエンスルホン酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に反応蒸留および製品回収を行なった結果、反応蒸留時の全縮液15g、製品回収時の全縮液1g、分縮液120g、釜残45gを得た。組成を表1に示した。製品中に1,3−DCPは検出されなかった。製品回収前後のGMA収支は97%であった。
【0035】
比較例1
ジャケット付き全縮器のみを備えたガラス製フラスコに参考例2で得られた粗GMA180gおよびテトラメチルアンモニウムクロライド0.2gを仕込み、1.5kPaで1時間反応蒸留を行なった。フラスコと全縮器の間はガラス製単管(内径20mm)とし、全縮器のジャケットには−10℃のブラインを流した。全縮液は全て釜にリサイクルした。加熱処理終了後の釜液温度は85℃、釜液組成を表1に示した。実施例と比較して反応が遅く、反応蒸留後も1,3−DCPは釜液中に0.05%残存していた。
反応蒸留終了後、フラスコと全縮器の間にジャケット付き分縮器を設置し、p−トルエンスルホン酸ナトリウム0.4gを添加して実施例1と同条件で製品を回収した結果、全縮液15g、分縮液120g、釜残45gを得た。分縮液及び釜残の組成を表1に示した。反応蒸留による1,3−DCPの低減が不十分であったため、製品中にも1,3−DCPが0.05%混入していた。製品回収前後のGMA収支は99.5%以上であった。
【0036】
比較例2
テトラメチルアンモニウムクロライドおよびp−トルエンスルホン酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に蒸留および製品回収を行なった結果、蒸留時の全縮液15g、製品回収時の全縮液1g、分縮液120g、釜残45gを得た。組成を表1に示した。触媒のテトラメチルアンモニウムクロライドを添加しなかったため、1,3−DCPはほとんど低減されず、製品中に1,3−DCPが0.5%混入していた。製品回収前後のGMA収支は99.5%以上であった。
【0037】
【表1】

ndは検出限界以下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピクロロヒドリンとメタクリル酸を原料として得られるメタクリル酸グリシジルの精製方法であって、不純物として1,3−ジクロロ−2−プロパノールを含む粗メタクリル酸グリシジルを、分縮器および全縮器を備えた反応器にて第4級アンモニウム塩の存在下、減圧下において反応蒸留を行ないながら、分縮器の出口ガス温度が該減圧におけるエピクロロヒドリンの沸点以上かつメタクリル酸グリシジルの沸点未満に調整された分縮器に凝縮した液を反応器にリサイクルし、全縮器に凝縮したエピクロロヒドリンを系外に排出することにより該不純物を低減したのち、蒸留によりメタクリル酸グリシジルを回収することを特徴とする粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
【請求項2】
前記反応蒸留を行なった後、さらにアルキルベンゼンスルホン酸塩を添加する請求項1記載の粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
【請求項3】
アルキルベンゼンスルホン酸塩が、p−トルエンスルホン酸ナトリウムである請求項2記載の粗メタクリル酸グリシジルの精製方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって得られる精製メタクリル酸グリシジル。
【請求項5】
1,3−ジクロロ−2−プロパノールの含有量が200ppm以下である請求項4記載の精製メタクリル酸グリシジル。
【請求項6】
請求項4または5記載の精製メタクリル酸グリシジルを原料に用いる塗料または接着剤。

【公開番号】特開2006−193449(P2006−193449A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5155(P2005−5155)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】