説明

メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒、並びにメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法

【課題】 ホットスポットの抑制効果に優れた、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒、及び生産性に優れたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法の提供。
【解決手段】 イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を含有することを特徴とする、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒。該触媒の存在下で、イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化する、メタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレン又は第三級ブチルアルコール(以下、TBAと略記する。)を分子状酸素により気相接触酸化することにより、メタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に使用する触媒、並びに該触媒を用いたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソブチレン又はTBAの気相接触酸化反応によりメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に使用する触媒に関しては数多くの提案がなされている(以下、特に断りのない限りこの気相接触酸化反応を単に「酸化反応」という。)。これら提案は主として触媒を構成する元素およびその比率に関するものである。
【0003】
酸化反応は発熱反応であるため、触媒層で蓄熱が起こる。過剰な蓄熱の結果生じる局所的異常高温帯域はホットスポットと呼ばれ、この部分では過度の酸化反応により収率が低下する。このため、酸化反応の工業的実施において、ホットスポットの発生は重大な問題であり、特に生産性を上げるために原料ガス中におけるイソブチレン又はTBAの濃度を高めた場合、ホットスポットが発生し易くなる傾向があることから反応条件に関して大きな制約を強いられているのが現状である。
【0004】
従って、ホットスポット部の温度を抑えることは工業的に高収率でメタクロレイン及びメタクリル酸を生産する上で非常に重要である。また、特にモリブデン含有固体酸化触媒を用いる場合、モリブデン成分が昇華しやすいことから、ホットスポットの発生を防止することは重要である。
【0005】
ホットスポット部の温度を抑える方法として、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば特許文献1には、活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって活性がより高くなるように充填し、この触媒層にイソブチレンおよび酸素を含む原料ガスを流通させる方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、触媒層中に熱媒浴の温度と触媒層の温度との差(ΔT=触媒層の温度−熱媒浴の温度)が50℃を超える箇所が1箇所もなく、かつΔTが15〜50℃となる高温帯域を2箇所以上設けることを特徴とする、メタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法が開示されている。
【0007】
また特許文献3には、触媒成形体の強度向上を目的として、平均直径が1〜20μm、平均長さが10〜3000μm、炭素含有率93%以上の炭素繊維が該触媒に対して0.05〜10重量%存在していることを特徴とする、不飽和アルデヒドの気相接触酸化による不飽和カルボン酸合成用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−72389号公報
【特許文献2】特開2002−212127号公報
【特許文献3】特開平7−251075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの触媒や製造方法は、必ずしもホットスポットの抑制効果が工業触媒としては十分でなく、更なる改良が望まれている。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、イソブチレン又はTBAを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、ホットスポットの抑制効果が優れた触媒を提供することを目的とする。
また本発明は、該触媒を用いたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、イソブチレン又はTBAを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を含有することを特徴とする、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒である。
また本発明は、該触媒の存在下でイソブチレン又はTBAを分子状酸素により気相接触酸化することを特徴とする、メタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イソブチレン又はTBAを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、ホットスポットの抑制効果が優れた触媒を提供できる。
また本発明によれば、触媒への負荷が高い場合であっても、ホットスポットの発生が抑制されるので、生産性に優れたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の触媒は、イソブチレン又はTBAを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、この繊維状物が触媒中に含有され、存在することによって、ホットスポット部の温度が抑制されるものである
【0015】
本発明における熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物は、特に限定されるものではなく、例えば炭素繊維や、銅や銀などの金属繊維を挙げることができる。
熱伝導率が150W/(m・K)未満の繊維状物は、ホットスポット部の温度の抑制効果が小さいため好ましくない。好ましくは、300W/(m・K)以上である。
【0016】
効果的にホットスポット部の温度を抑制するためには、熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を触媒中に0.1〜30質量%の範囲で含有するのが好ましい。これは、この繊維状物の含有量を0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上とすることによって、ホットスポット部の温度の抑制効果が向上する傾向にあり、30質量%以下とすることによって、反応器に充填できる触媒成分の量を増やすことができる傾向にあるためである。さらに好ましくは1〜20質量%の範囲である。
【0017】
また、この繊維状物は、平均直径が1〜20μmの範囲であるとともに、平均長さが10〜3000μmの範囲であるのが好ましい。
これは、繊維状物の平均直径を1μm以上とするとともに、その平均長さを10μm以上とすることによって、本発明の触媒の使用時において、充分なホットスポット部の温度抑制効果を得ることができる傾向にあるためである。また、繊維状物の平均直径を10μm以下とするとともに、その平均長さ3000μm以下とすることによって、本発明の触媒の機械的強度が良好となる傾向にあるためである。
より好ましい平均直径は3〜15μmの範囲であり、より好ましい平均長さは100〜1000μmの範囲である。
【0018】
本発明の触媒は、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むものである。触媒成分としては、モリブデンやビスマスの他に、例えば、鉄、ケイ素、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム等を含んでいても良い。
これらは適宜選択して使用することができるが、本発明の触媒の組成は、下記式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
【0019】
MoBiFeSi (1)
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を表し、Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Xは、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Zは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0020】
本発明の触媒の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のような方法により好適に製造することができる。
【0021】
まず、触媒成分の原料化合物を、適宜選択した溶媒に溶解又は懸濁させ、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーを調製する。触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーの調製方法は、特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等の方法が挙げられる。
【0022】
触媒成分の原料化合物としては、触媒成分を構成する各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物、有機酸塩、アルカリ金属塩等を使用することができる。例えば、モリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。ビスマスの原料化合物としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
使用する溶媒としては、水だけでなく、アルコール、ケトン、炭化水素等の有機溶媒が挙げられるが、取り扱い性の点で水が好ましい。すなわち、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーとしては、水溶液又は水性スラリーが好ましい。
【0024】
次に、上記で得られた混合溶液又はスラリーを乾燥する。触媒原料液を乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。これらの中では、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いて乾燥球状粒子を得ることが好ましい。乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、入口温度は100〜500℃が好ましく、出口温度は100℃以上が好ましく、より好ましくは105〜200℃である。
【0025】
このようにして得られた乾燥物は、触媒原料等に由来する硝酸等の塩を含んでいることがあり、乾燥物を成形した後に焼成すると塩の分解により成形品の強度が低下する恐れがある。このため、成形前に焼成して焼成しておくことが好ましい。焼成条件は特に限定されるものではないが、焼成温度は、酸素、空気、窒素、窒素酸化物等の存在下、200〜600℃の範囲で行うことが好ましい。一方、焼成時間は目的とする触媒によって適宜選択することができる。
【0026】
次いで、得られた乾燥物を成形する。成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、打錠成型、担持成形、転動造粒等の方法が挙げられる。成形体の形状は特に限定されず、例えば、リング状、円柱状、星型、球状等の任意の形状に成形できる。
押出成形で成形する場合、乾燥物に水及び/又はアルコールを添加し混練りした後、押出成形を行う。混練りに当っては水及び/又はアルコールの他に、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の有機バインダーを添加することもできる。
【0027】
得られた成形品は焼成することが好ましいが、成形前に焼成している場合は省略してもよい。省略した場合はこの成形品が触媒であり、焼成した場合はその焼成品が触媒である。焼成方法は特に限定されず、処理方法および条件を適宜選択することができる。焼成条件は、用いる原料化合物、触媒成分の組成、調製法等によって異なるが、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で、200〜600℃、0.5時間以上が好ましい。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。焼成処理は加熱装置を用いて行ってもよいが、成形品を反応器に充填してその中で行ってもよい。
【0028】
本発明の触媒を得るために熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を触媒中に含有させる工程上の段階としては、触媒成形前であればいつでも良く、特に限定されるものではない。例えば、触媒成分を含む混合溶液中に熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を添加混合した後、得られた乾燥粒子を成形する方法、触媒成分を含む混合溶液を乾燥した後、得られた乾燥物に熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を添加混合したものを用いて成形する方法が挙げられる。
【0029】
次に、本発明のメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法について説明する。本発明のメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法は、本発明の触媒の存在下で、イソブチレン又はTBAを分子上酸素で気相接触酸化して目的物を製造するものである。
【0030】
気相接触酸化反応は、メタクリル酸の収率が良いことから、固定床で行うことが好ましい。その場合の触媒層は、特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも異なる2種類以上の層を含む複数層であってもよい。
【0031】
反応には、反応原料としてのイソブチレン又はTBAと、分子状酸素とを少なくとも含む原料ガスを用いる。
原料ガス中の反応原料の濃度は、特に限定されないが、1〜20容量%の範囲とするが好ましい。
反応原料は一種を用いても、二種を組み合わせて用いてもよく、イソブチレンとTBAを併用することもできる。
【0032】
分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等を用いることもできる。原料ガス中の反応原料と酸素のモル比(容量比)は、1:0.5〜1:3の範囲とするのが好ましい。
原料ガスは、反応原料と分子状酸素以外に、水を含んでいることが好ましく、原料ガス中の水の濃度は、1〜45容量%の範囲とするのが好ましい。
また、原料ガスは窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。
気相接触酸化反応の反応圧力は大気圧から200kPaまでとするのが好ましい。反応温度は200〜450℃の範囲とするのが好ましく、250〜400℃の範囲とするのがより好ましい。原料ガスの流量は特に限定されず、適宜選択することができるが、原料ガスと触媒との接触時間は1.5〜15秒の範囲とするのが好ましく、2〜10秒の範囲とするのがより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
【0034】
(i)原料ガス及び生成物は、ガスクロマトグラフィーにより分析した。実施例及び比較例のイソブチレンの反応率(以下、単に「反応率」ともいう。)、生成するメタクロレイン又はメタクリル酸の選択率、生成するメタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率(以下、単に「合計収率」ともいう。)は次式により算出した。なお、実施例では原料がイソブチレンの場合のみ示しているが、第三級ブチルアルコールを原料として用いた場合においても、反応器の入口部分で速やかにイソブチレンに脱水され、イソブチレンを原料として用いた場合と同様の結果が得られる。
反応率(%) =A/B×100
メタクロレインの選択率(%) =C/A×100
メタクリル酸の選択率(%) =D/A×100
合計収率(%) =(C+D)/B×100
ここで、Aは反応したイソブチレンのモル数、Bは供給したイソブチレンのモル数、Cは生成したメタクロレインのモル数、Dは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0035】
(ii)ΔTmaxは以下のように定義し測定した。
触媒層内の温度は、反応管の管軸方向に対して垂直な断面の中心に設置した保護管に挿入した熱電対により測定した。なお、保護管内部は反応系(触媒層側)と隔離されており、測定する位置は挿入する熱電対の長さを調節して変えることができる。このとき測定した触媒層内の温度と熱媒浴の温度との差ΔT(触媒層の温度―熱媒浴の温度)を測定することでホットスポットを検出した。このとき検出されたΔT分布のうち、局所的異常高温帯域をホットスポットと呼び、最も高温のΔTをΔTmaxとして示した。
【0036】
(iii)炭素繊維の熱伝導率は、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(2)より求めた。
K=1272.4/ER−49.4(2)
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは炭素繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
【0037】
(iv)炭素繊維の平均直径および平均長さは、無作為に抽出したサンプル100個を電子顕微鏡で観察し測定した平均値より求めた。
【0038】
(実施例1)
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム6.2部、硝酸カリウム2.3部、三酸化アンチモン27.5部および三酸化ビスマス55.0部を加え加熱攪拌した(A液)。別に純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト274.7部および硝酸亜鉛35.1部を順次加え溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒径60μmの乾燥球状粒子とした。この乾燥球状粒子を300℃で1時間焼成を行い、触媒焼成物とした。
【0039】
この触媒材料100部に対して、熱伝導率500W/(m・K)、平均直径8μm、平均長さ200μmのピッチ系炭素繊維5部とヒドロキシプロピルメチルセルロース4部を加え、乾式混合した。ここに純水38部を混合し、混練り機で粘土状になるまで混合(混練り)した後、得られた混練物をピストン式押出し成形機を用いて外径5.5mm、内径2mm、高さ5mmのリング状に押出成形し、触媒成形体を得た。
【0040】
次いで、得られた触媒成形体を110℃熱風乾燥機を用いて乾燥を行い、触媒成形体の乾燥品を得た。そして、この触媒成形体を510℃で3時間再度焼成を行い、触媒成形体の最終焼成品を得た。
得られた触媒成形体の酸素以外の元素組成(以下同じ。)は次の通りであった。なお、元素組成は触媒原料の仕込み量から求めた。
【0041】
Mo120.1Bi1.0Fe1.2Sb0.8Co4.0Zn0.50.1
熱処理後の触媒の内部を走査型顕微鏡で観察したところ、添加した炭素繊維の存在が確認された。触媒中の炭素繊維の含有量は5質量%であった。
【0042】
この触媒成形体をステンレス製反応管に充填し、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%の原料ガスを用い、常圧下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して、イソブチレンの反応率、メタクロレインの選択率、メタクリル酸の選択率、および合計収率を求めた。また、反応中のホットスポットのΔTmaxを測定した。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、乾燥粒子に混合したピッチ系炭素繊維の量を乾燥粒子100部に対して0.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例1において、乾燥粒子に混合したピッチ系炭素繊維の量を乾燥粒子100部に対して20部に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
実施例1において、ピッチ系炭素繊維の混合のタイミングを混練り前の触媒乾燥粒子への混合からスプレー乾燥前のスラリーへの混合に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、乾燥粒子にピッチ系炭素繊維を混合しなかった以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例1において、乾燥粒子に混合したピッチ系炭素繊維を熱伝導率100W/(m・K)、平均直径8μm、平均長さ200μmのピッチ系炭素繊維に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
(比較例3)
実施例1において、乾燥粒子に混合したピッチ系炭素繊維を熱伝導率10W/(m・K)、平均直径8μm、平均長さ200μmのPAN系炭素繊維に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、イソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒において、熱伝導率が150W/(m・K)以上の繊維状物を含有することを特徴とする、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
前記繊維状物の平均直径が1〜20μmの範囲であるとともに、平均長さが10〜3000μmの範囲である、請求項1記載のメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の存在下で、イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化する、メタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−50839(P2011−50839A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201487(P2009−201487)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】