説明

メタルガスケット

【課題】 海水に浸した状態で使用しても基材からシール用ゴム皮膜が剥離することを防止できるメタルガスケットを提供すること。
【解決手段】 ステンレス鋼からなる基材50と、基材50の表面に形成され亜鉛メッキ皮膜57と、亜鉛メッキ皮膜57の表面に形成されたシール用ゴム皮膜59とでメタルガスケット40を構成した。また、亜鉛メッキ皮膜57の表面にシランカップリング系加硫接着剤を塗布し100〜200℃の温度で所定時間加熱して、亜鉛メッキ皮膜57の表面に酸化亜鉛皮膜57aを生成させるとともに、シランカップリング系加硫接着剤の焼付けを行った。その表面に、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリン系ゴムを焼成することによりシール用ゴム皮膜59を形成した。メタルガスケット40を、船外機10が備えるエンジン16のシリンダヘッド23とシリンダボディ22との合面に設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼からなる基材の表面にシール用ゴム皮膜を形成して構成されるメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、小型船舶に用いられるエンジンの外郭部分を構成するエンジン本体は、シリンダヘッド、シリンダボディ等の複数のケース部材を組み付けて構成されており、シリンダヘッドとシリンダボディとの合面には冷却水が浸入することを防止するためのメタルガスケットが設置されている(例えば、特許文献1参照)。このメタルガスケットは、ステンレス鋼板の表面に、クロム化合物、リン酸およびシリカを主成分とする複合皮膜を形成しその複合皮膜の表面に、二トリルゴム配合物からなるゴム層をコーティングして構成されている。
【特許文献1】特許第3099828号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、前述した従来のメタルガスケットは、不凍液を含む冷却水が用いられる車両のエンジンを対象として開発されたものであり、例えば、海水を冷却水として用いる小型船舶のエンジンに用いる場合には不向きである。すなわち、前述した従来のメタルガスケットを、海水を冷却水とするエンジン本体におけるシリンダヘッドとシリンダボディとの合面に設置する場合には、基材を構成するステンレス鋼板と二トリルゴム配合物との間に剥離が発生し易いという問題がある。また、ステンレス鋼板から二トリルゴム配合物が剥離されるとステンレス鋼板が海水に接触する。これによってステンレス鋼板とエンジン本体とが海水を介して電気的に連通し、エンジン本体側に電気腐食が生じ易くなるという問題もある。
【0004】
本発明は、前述した問題を解決するためになされたもので、その目的は、海水に浸した状態で使用しても基材からシール用ゴム皮膜が剥離することを防止できるメタルガスケットを提供することである。
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係るメタルガスケットの構成上の特徴は、薄板状のステンレス鋼からなる基材と、基材の表面に形成された亜鉛メッキ皮膜と、亜鉛メッキ皮膜の表面に形成されたシール用ゴム皮膜とで構成されたメタルガスケットであって、基材の表面に形成された亜鉛メッキ皮膜の表面にシランカップリング系加硫接着剤を塗布した後に、100〜200℃の温度で所定時間加熱することにより、亜鉛メッキ皮膜の表面に酸化亜鉛皮膜を生成させるとともに、シランカップリング系加硫接着剤の焼付けを行い、その表面に、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを焼成することにより、シール用ゴム皮膜を形成したことにある。
【0006】
このように構成した本発明に係るメタルガスケットでは、基材の表面に亜鉛メッキ皮膜を形成するとともに、この亜鉛メッキ皮膜の表面に酸化亜鉛皮膜を生成させている。この場合、亜鉛メッキ皮膜をシランカップリング系加硫接着剤と一緒に加熱することにより、その一部が積極的に酸化されて酸化亜鉛皮膜が生成される。これによって、基材を構成するステンレス鋼からのシール用ゴム皮膜のカソード剥離を抑制することができる。例えば、基材がステンレス鋼で構成されたメタルガスケットをアルミ二ウム合金からなるエンジン本体の合面に設置してその合面を海水のように電気伝導性のよい冷却水に浸した場合、異種金属間の電位差によって腐食反応が進み易くなるが、基材の表面に亜鉛メッキ皮膜を形成するとともに、その表面に酸化亜鉛皮膜を生成させることによりこの腐食反応を防止することができる。
【0007】
また、基材からシール用ゴム皮膜が剥離する原因としてシール用ゴム皮膜自体が劣化することも上げられる。通常、フッ素ゴムにおいては、加硫成形時の架橋反応に伴ってフッ素の離脱が生じるが、この離脱フッ素を補足するために受酸剤が添加されこの受酸剤によってフッ素ゴムが劣化することを防いでいる。しかしながら、このフッ素ゴムを、高温の海水下で使用した場合には、フッ素ゴムに架橋反応が生じて劣化が促進されていく。このため、本発明では、基材を被覆するゴム層として、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを用いるとともに、酸化亜鉛皮膜を離脱フッ素の受酸剤として機能させることにより、シール用ゴム皮膜の劣化を防止できるようにした。
【0008】
すなわち、本発明は、海水使用下においてもシール用ゴム皮膜が基材から剥離され難い材料の組み合わせとその製造方法を見出したものであり、基材の表面に形成された亜鉛メッキ皮膜とシール用ゴム皮膜とを接着する接着剤として、シランカップリング系加硫接着剤を用いるとともに、シール用ゴム皮膜としてポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを用いることにより、シール用ゴム皮膜に剥離が生じ難い好適なメタルガスケットを得ることができた。さらに、酸化亜鉛皮膜の生成と、シランカップリング系加硫接着剤の焼付けとを同時に行うことにより、得られるメタルガスケットをより好適なものにすることができる。
【0009】
また、本発明に係るメタルガスケットの他の構成上の特徴は、積層された2枚のビードプレートと、2枚のビードプレート間における所定部分に配置されたインナー部材とで構成されたことにある。これによると、メタルガスケットがばねまたはクッションのように作用するようになるため、メタルガスケットとメタルガスケットが設置される部分との接触面の面圧が大きくなり、メタルガスケットによるシールがより確実になる。また、2枚のビードプレートは、それぞれ基材と、基材の表面に形成されたシール用ゴム皮膜等の各層で構成する。また、インナー部材は、基材のみで構成してもよいし、基材の表面にシール用ゴム皮膜等の各層を形成して構成してもよい。
【0010】
また、本発明に係るメタルガスケットのさらに他の構成上の特徴は、メタルガスケットの表面における所定部分に隙間充填剤を塗布したことにある。これによると、メタルガスケットとメタルガスケットが設置される部分との接触面の密着性がより向上するようになり、メタルガスケットのシールがさらに向上する。
【0011】
また、本発明に係るメタルガスケットのさらに他の構成上の特徴は、船外機が備えるエンジンにおけるシリンダヘッドとシリンダボディとの合面に設置されて合面をシールすることにある。これによると、基材とシール用ゴム皮膜との間に剥離が生じることなく、かつシリンダヘッドとシリンダボディとの合面のシールを確実にできるメタルガスケットを備えた船外機を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1は、同実施形態に係るメタルガスケット40(図3参照)を備えた船外機10を示している。この船外機10は、スイベルブラケット11と、スイベルブラケット11に連結されてスイベルブラケット11を介して船外機10を支持するクランプブラケット12とを備えている。スイベルブラケット11には、軸線方向を略垂直方向にして軸線回りに回転可能になった操舵軸(図示せず)が組み付けられており、スイベルブラケット11は、この操舵軸を介して船外機10の前側部(船舶の前進方向側の側部)の略中央に連結されている。
【0013】
また、クランプブラケット12は、船体の後尾(図示せず)に着脱可能に取り付けられており、スイベルブラケット11の上端部は、このクランプブラケット12の上端部に、チルト軸12aを介して連結されている。すなわち、クランプブラケット12は、船体の左右方向に所定間隔を保って配置された一対の部材で構成されており、一対の部材からなるクランプブラケット12の上端部にチルト軸12aが水平に掛け渡されている。そして、チルト軸12aにおけるクランプブラケット12を構成する一対の部材間に、スイベルブラケット11の上端部がチルト軸12aの軸線回り方向に回転可能な状態で取り付けられている。
【0014】
船外機10の外表部を形成するハウジングは、上部側部分を構成するトップカウル13aとボトムカウル13bとからなるカウリング13と、中央部分を構成するアッパーケース14と、下部側部分を構成するロアケース15とで構成されている。そして、カウリング13の内部には、エンジン16が収納され、ロアケース15にはスクリュー17が設けられている。また、アッパーケース14内には、エンジン16による駆動力をスクリュー17に伝達するドライブ軸18等からなる動力伝達機構が収容されている。
【0015】
また、エンジン16は3気筒を備えた水冷式のエンジンで構成され、上下方向に延びるクランク軸16aが内部に配置されている。そして、このクランク軸16aの下端にドライブ軸18が連結されている。このため、エンジン16が駆動すると、クランク軸16aが回転しその回転力はドライブ軸18を介してスクリュー17に伝達される。また、アッパーケース14内の下端部には冷却水ポンプ19が設置され、ロアケース15内には、冷却水(海水)を取り込むための取水口19aが形成されている。そして、冷却水ポンプ19を作動させることにより、取水口19aから冷却水(海水)を取り込むことができ、その冷却水をエンジン16に送ってエンジン16を冷却できるように構成されている。
【0016】
エンジン16は、図2に示したように構成されている。このエンジン16の本体部分を構成する外郭部は、クランク軸16aが収容されたクランクケース21の上部(図2における上部)に、シリンダボディ22およびシリンダヘッド23を組み付けて構成されている。このエンジン16の本体部分はアルミニウム合金で構成されている。そして、シリンダボディ22の内部の略中央部には、気筒形成用凹部を構成する3個の円筒状のシリンダ24(1個しか図示せず)が並んで形成されており、各シリンダ24内に、コンロッド25aを介してクランク軸16aに連結されたピストン25が上下移動可能な状態で収容されている。このピストン25の上下運動がクランク軸16aに伝達されてクランク軸16aが回転する。
【0017】
また、シリンダボディ22におけるシリンダ24の周囲の上部側部分には、冷却水流路26が形成され、シリンダボディ22における冷却水流路26の一方側部分(図2の左側部分)の外側には排気通路27が形成されている。そして、排気通路27の周囲にも冷却水流路28が形成されている。また、シリンダヘッド23の下部中央には、各シリンダ24にそれぞれ連通する3個の燃焼室31(1個しか図示せず)が形成され、各燃焼室31の上部に、吸気弁32と排気弁33が設けられている。各シリンダ24の吸気弁32に連通する吸気ポート32aは、気化器34や吸気管35等からなる吸気装置に接続され、排気弁33に連通する排気ポート33aは、排気通路27等からなる排気装置に接続されている。
【0018】
吸気弁32は、吸気のときに開いて吸気装置から供給される空気と燃料タンク(図示せず)から供給される燃料との混合ガスをシリンダ24内に送り、排気弁33は、排気のときに開いてシリンダ24から吐出される排気ガスを排気装置に送り出す。また、エンジン16は点火装置(図示せず)も備えており、この点火装置の点火によって混合気は爆発する。そして、この爆発によって、ピストン25が上下に移動しその移動によってクランク軸16aが回転する。
【0019】
また、シリンダヘッド23の下部における冷却水流路26と対向する部分には、冷却水流路26と連通する冷却水流路36が形成され、シリンダヘッド23の下部における冷却水流路28と対向する部分には、冷却水流路28と連通する冷却水流路37が形成されている。さらに、シリンダヘッド23における排気弁33の一方の外部側部分にも、冷却水流路38が形成されている。これらの冷却水流路26,28,36,37,38はすべて連通して一つの流路を形成しており、この流路の内部を、冷却水ポンプ19の作動により、取水口19aから取り込まれた冷却水が流れ、これによってエンジン16は冷却される。また、エンジン16の本体部分には、エンジン16に潤滑油を供給するためのオイル流路(図示せず)も形成されている。
【0020】
そして、シリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面には、メタルガスケット40が設置されている。このメタルガスケット40は、平面視が図3に示したように構成されており、各シリンダ24に対応する部分には、シリンダ24の穴部と同じ大きさのボア孔41a,41b,41cが3個のシリンダ24と同じ間隔を保って形成されている。また、メタルガスケット40における排気通路27に対応する部分には、排気通路27の穴部と同じ大きさのガス用孔42が形成されている。
【0021】
そして、メタルガスケット40における冷却水流路26,36に対応するボア孔41a,41b,41cの周囲部分のうちの一部に、小さな長円状の冷却水用孔43a,43b,43c,43d,43e,43fが一定間隔を保って形成されている。また、メタルガスケット40における冷却水流路28,37に対応するガス用孔42の周囲部分に、細長く形成された略円弧状の冷却水用孔44a,44b,44cが間隔を保って形成されている。
【0022】
さらに、メタルガスケット40のガス用孔42側を除く各端部側部分にそれぞれ大きさまたは形状が異なる冷却水用孔45a,45b,45cが形成されている。また、メタルガスケット40におけるオイル流路に対応する部分に略三角形の3個のオイル用孔46a,46b,46cが一定間隔を保って一列に形成されている。そして、メタルガスケット40における冷却水流路26,36の外周側部分に対応する部分に間隔を保って、6個のボルト用孔47a,47b,47c,47d,47e,47f,47gが形成されている。
【0023】
また、ボルト用孔47e,47fを挟むようにしてボルト用孔47e,47fの両側に、ボルト用孔47e,47fの間隔と略同間隔で2個の貫通孔48a,48bが形成されている。ボルト用孔47a,47b,47c,47d,47e,47f,47gは、シリンダボディ22とシリンダヘッド23とを連結するためのボルト(図示せず)を挿通させるための穴部であり、貫通孔48a,48bは、シリンダボディ22とシリンダヘッド23との位置合わせをするための位置決めピン(図示せず)を挿通させるための穴部である。
【0024】
このように各種の穴部が形成されたメタルガスケット40は、図4に示したように、積層して配置された薄板状のビードプレート51,52の間における所定部分にインナー部材としての薄板状のシム部材53を挟み込んで形成されている。また、ビードプレート51,52およびシム部材53は、表面にシール用ゴム皮膜59(図5参照)からなるコーティング層が形成されたステンレス板で構成され、ビードプレート51,52の厚みはそれぞれ0.2mm程度、シム部材53の厚みは0.1mm程度に設定されている。
【0025】
また、ビードプレート51,52は、上下対称(図4の状態での上下)の形状をしており、ビードプレート51の所定部分に上方に向って突出する突条51a,51b,51cが形成され、ビードプレート52の所定部分に下方に突出する突条52a,52b,52cが形成されている。突条51a,52aは湾曲した曲面状に形成され、突条51b,51c,52b,52cは屈曲部を備えた台状に形成されている。
【0026】
そして、突条51a、突条52aおよびその内部に位置するシム部材53とで主ビード54が形成され、突条51b、突条52bおよびその内部に位置する一部のシム部材53とで副ビード55が形成されている。また、突条51cと突条52cとで端部が開口したハーフビード56が形成されている。このような主ビード54、副ビード55およびハーフビード56は、図3に示したようにメタルガスケット40の複数の部分に形成されている。
【0027】
また、ビードプレート51,52の表面側部分は、それぞれ図5に示したように構成されている。すなわち、ビードプレート51,52の基材50は薄板状のステンレス鋼で構成されており、基材50の表面(図5における上面)に亜鉛メッキ皮膜57が形成され、亜鉛メッキ皮膜57の表面に酸化亜鉛皮膜57aが形成されている。そして、酸化亜鉛皮膜57aの表面に、接着剤層58を介してシール用ゴム皮膜59が形成されている。亜鉛メッキ皮膜57は、厚みが0.5μm〜10μmに設定され基材50の全面に形成されている。
【0028】
そして、表面に亜鉛メッキ皮膜57が形成された基材50へのシール用ゴム皮膜59の形成は、以下のようにして行われる。まず、亜鉛メッキ皮膜57の表面にシランカップリング系加硫接着剤を塗布したのちに、表面に亜鉛メッキ皮膜57が形成されるとともにシランカップリング系加硫接着剤が塗布された基材50を、100℃〜200℃の温度で、数分間加熱する。これによって、酸化亜鉛皮膜57aの生成と、シランカップリング系加硫接着剤の焼付けとが同時に行われる。つぎに、シランカップリング系加硫接着剤の焼付け層の表面に、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを載せ、これを所定の温度で焼成する。
【0029】
これによって、酸化亜鉛皮膜57aの表面に接着剤層58とシール用ゴム皮膜59とが形成され、ビードプレート51,52が得られる。この接着層58の厚みは、0.5〜5μmに設定され、シール用ゴム皮膜59の厚みは、5〜50μmに設定されている。そして、このように構成された、メタルガスケット40は、副ビード55を、冷却水流路26,36およびシリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面の縁部側部分にかかるように配置し、ハーフビード56の開口した端部をシリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面の外部側の縁部に合わせた状態で、シリンダボディ22とシリンダヘッド23との隙間に設置される。
【0030】
また、メタルガスケット40と、従来のメタルガスケット(従来品)とを用いて、シール用ゴム皮膜59の剥離状態を比較する耐久テストを行った。その結果を図6に示している。図6において、縦軸の剥離レベルは、メタルガスケット40等における基材50等に対するシール用ゴム皮膜59等のコーティング層の剥離状態のレベルを示しており、「5」は新品で剥離のない状態、「3」は10%程度の剥離が発生した状態、「1」は殆ど剥離した状態を表している。そして、直線aで示したレベル3をメタルガスケット40等の使用可能な下限レベルとした。
【0031】
また、図6における横軸は、経過時間を示しており、実際に耐久テストを行った状態(試験室において所定の台上に各装置を設置して行った。)での時間を示している。そして、線bは、従来品の結果を示しており、領域cは、発明品であるメタルガスケット40の結果を示している。この図6に示した結果から、酸化亜鉛皮膜57a等の各層を含むビードプレート51,52を備えることによりメタルガスケット40におけるシール用ゴム皮膜59の剥離を防止してメタルガスケット40の耐久性を大幅に向上できることが分かる。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るメタルガスケット40では、基材50の表面に亜鉛メッキ皮膜57を形成するとともに、この亜鉛メッキ皮膜57の表面に酸化亜鉛皮膜57aを生成させている。そして、酸化亜鉛皮膜57aの表面に、接着剤層58を介してシール用ゴム皮膜59を形成している。このように、基材50の表面に亜鉛メッキ皮膜57を形成させるとともに、その表面に酸化亜鉛皮膜57aを生成させることにより基材50に腐食反応が生じてシール用ゴム皮膜59が剥離することが防止される。
【0033】
また、基材50を被覆するシール用ゴム皮膜59として、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを用いるとともに、亜鉛メッキ皮膜57の表面に酸化亜鉛皮膜57aを生成させることにより、シール用ゴム皮膜59が劣化することを防止した。さらに、メタルガスケット40を、積層された2枚のビードプレート51,52と、2枚のビードプレート51,52間における所定部分に配置されたシム部材53とで構成したため、メタルガスケット40がばねまたはクッションのように作用するようになる。この結果、メタルガスケット40と、シリンダボディ22やシリンダヘッド23との接触面の面圧が大きくなり、メタルガスケット40によるシリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面のシールがより確実になる。
【0034】
また、図7は、本発明の他の実施形態に係るメタルガスケット60を示している。このメタルガスケット60は、メタルガスケット40と同一のメタルガスケットの表裏面における所定部分に隙間充填剤を塗布して構成されている。したがって、メタルガスケット40と同一の部分については同一符号を用いて説明する。このメタルガスケット60におけるシリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面と冷却水流路26,36との境界部およびその近傍部分の表裏面には冷却水流路26,36を囲むようにして隙間充填剤層61(裏面側の隙間充填剤層は図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0035】
また、メタルガスケット60におけるシリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面と各冷却水用孔44a,44b,44cとの境界部およびその近傍部分の表裏面にはそれぞれ冷却水用孔44a,44b,44cを囲むようにして隙間充填剤層62,63,64(裏面側の隙間充填剤層は図示せず)が形成されている。すなわち、この隙間充填剤層61,62,63,64は、それぞれ副ビード55の表面に形成されている。
【0036】
このため、シリンダボディ22とシリンダヘッド23との合面と、この合面に隙間充填剤層61,62,63,64を介して接触する副ビード55との間がより密着するようになり、メタルガスケット60によるシールがさらに確実になる。なお、この隙間充填剤層61,62,63,64としては、サンボンド1040(株式会社サンテクノ製)を用いることができる。このメタルガスケット60のそれ以外の作用効果については、前述した実施形態に係るメタルガスケット40と同様である。
【0037】
また、本発明に係るメタルガスケットは、前述した実施形態に限らず適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、メタルガスケットを船外機10に設けているが、このメタルガスケットは、船体内にエンジンが設けられた小型滑走艇等の船舶に用いることもできる。また、その他、海水を冷却水として用いるエンジンであれば、それ以外のものにも好適な状態で使用することができる。さらに、本発明に係るメタルガスケットを構成する各部分の配置や構造、材質等は本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係るメタルガスケットを備えた船外機を示した側面図である。
【図2】エンジンを示した断面図である。
【図3】メタルガスケットを示した平面図である。
【図4】シリンダボディとシリンダヘッドとの間にメタルガスケットを設置した状態を示した断面図である。
【図5】メタルガスケットの表面層を示した断面図である。
【図6】発明品と従来品との耐久テストの結果を示したグラフである。
【図7】他の実施形態に係るメタルガスケットを示した平面図である。
【符号の説明】
【0039】
10…船外機、16…エンジン、22…シリンダボディ、23…シリンダヘッド、40,60…メタルガスケット、50…基材、51,52…ビードプレート、53…シム部材、57…亜鉛メッキ皮膜、57a…酸化亜鉛皮膜、58…接着剤層、59…シール用ゴム皮膜、61,62,63,64…隙間充填剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状のステンレス鋼からなる基材と、前記基材の表面に形成された亜鉛メッキ皮膜と、前記亜鉛メッキ皮膜の表面に形成されたシール用ゴム皮膜とで構成されたメタルガスケットであって、
前記基材の表面に形成された亜鉛メッキ皮膜の表面にシランカップリング系加硫接着剤を塗布した後に、100〜200℃の温度で所定時間加熱することにより、前記亜鉛メッキ皮膜の表面に酸化亜鉛皮膜を生成させるとともに、前記シランカップリング系加硫接着剤の焼付けを行い、その表面に、ポリオール系加硫剤を含むフッ化ビニリレン系ゴムを焼成することにより、前記シール用ゴム皮膜を形成したことを特徴とするメタルガスケット。
【請求項2】
積層された2枚のビードプレートと、前記2枚のビードプレート間における所定部分に配置されたインナー部材とで構成された請求項1に記載のメタルガスケット。
【請求項3】
前記メタルガスケットの表面における所定部分に隙間充填剤を塗布した請求項1または2に記載のメタルガスケット。
【請求項4】
船外機が備えるエンジンにおけるシリンダヘッドとシリンダボディとの合面に設置されて前記合面をシールする請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載のメタルガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−31891(P2008−31891A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204576(P2006−204576)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】