説明

メタン発酵システム

【課題】被発酵材をメタン発酵して得られたメタン発酵液を、該メタン発酵液の温度以上に昇温して処理したことに起因して析出する炭酸カルシウムCaCO(アルカリ土類金属の炭酸化合物)の熱交換器の管内への付着を防止することにより、効率よくメタン発酵処理を行うことができるメタン発酵システムを提供すること。
【解決手段】被発酵材Mをメタン発酵処理(嫌気性処理)するメタン発酵槽1、メタン発酵槽1内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段2、メタン発酵槽1から出るメタン発酵液中のアルカリ土類金属の含有量を低減するアルカリ土類金属含有量低減処理部3とから構成され、アルカリ土類金属低減処理部3において、メタン発酵液のpHと温度を調整することで、被発酵材M中に含まれるアルカリ土類金属をアルカリ土類金属の炭酸化合物として析出させて、被発酵材M中のアルカリ土類金属の含有量を低減することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被発酵材をメタン発酵処理して得られるメタン発酵液中のカルシウム等を除去して、効率よくメタン発酵が行えるためのメタン発酵システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、生ごみ、家畜糞尿、下水処理汚泥等の廃棄物を原料としてメタン発酵処理(嫌気性処理)し、その発酵液(消化液)を肥料として農地へ散布する技術が知られている。
【0003】
しかし、発酵液をそのまま農地へ散布するため、発酵液中に存在する大腸菌等の菌類によって土壌が汚染されるという欠点があった。
【0004】
そこで、現在では、図5に示したように、被発酵材Mをメタン発酵処理したメタン発酵槽1から出るメタン発酵液を、処理槽6において約70℃で一定時間加熱して滅菌処理を行ってから、その後、熱交換器4で他の媒体との熱交換により冷却してから農地へ散布することとしている。このように滅菌処理を行ってから農地へ散布することにより、菌類による土壌の汚染は解消することができたが、新たな欠点が生じることとなった。
【0005】
図5のシステムでは、処理槽6においてメタン発酵液の温度が上昇すると、処理槽6のメタン発酵液中に溶けている二酸化炭素が放散してメタン発酵液のpHが上昇し、メタン発酵液中のアンモニアの放散量も増加する。そして、メタン発酵液中のアンモニアが多量に放散することで、土壌中で酸化して硝酸イオン、亜硝酸イオンとなって地下水を汚染する原因となる窒素を除去することができるので、処理槽6でメタン発酵液を昇温して高温で該発酵液の処理を行うことは、発酵液を肥料として農地に還元する上では好ましい。
【0006】
しかし、一方で、被発酵材Mの中にはカルシウムを被発酵材M中に多く含むものもあり(例えば家庭用生ごみ)、カルシウムを多く含む被発酵材Mをメタン発酵処理して得られるメタン発酵液を上述したように処理槽6で高温で処理すると、メタン発酵液中に炭酸水素カルシウムCa(HCOの状態で溶解していた被発酵材M由来のCaが、二酸化炭素の放散によって(pHの上昇によって)液中に存在する炭酸イオンと結合し炭酸カルシウムCaCOの状態で処理槽6内に析出する現象が生じる。
【0007】
この析出した炭酸カルシウムCaCOは、処理槽6から出るメタン発酵液とともに熱交換器4に送られ熱交換器4の管内に付着する。この結果、熱交換器4の管が詰まりメタン発酵液が流れにくくなる閉塞トラブルが発生するようになった。このため、管を交換したり洗浄することによりメタン発酵システムの効率が落ちてしまうという欠点が生じるようになった。
以上、被発酵材Mの中に含まれるカルシウムを例に述べたが、被発酵材Mの中にアルカリ土類金属、例えばマグネシウム等が含まれている場合にも同様のことが言える。
【0008】
特許文献1においても、段落0006において、「・・・。昇温方法としては、熱交換器は高温では尿中のカルシウム等によって短時間でスケールが付着し、好ましくないので、・・・」と熱交換器を使用するとスケールが付着するので使用するのが好ましくない旨が記載されている。しかし、特許文献1に記載された発明では、炭酸カルシウムによるスケールの付着を防止する解決策については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−235317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その幾つかの態様は、上述したように、被発酵材をメタン発酵して得られたメタン発酵液を、該メタン発酵液の温度以上に昇温して処理したことに起因して析出する炭酸カルシウムCaCO(アルカリ土類金属の炭酸化合物)の熱交換器の管内への付着を防止することにより、効率よくメタン発酵処理を行うことができるメタン発酵システムを提供するものである。以下、本発明についてはアルカリ土類金属の一例としてカルシウムとその炭酸化合物を例に挙げて説明するが、本発明は他のアルカリ土類金属(マグネシウム等)に対しても適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るメタン発酵システムの第1の態様は、被発酵材をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、前記メタン発酵槽から出るメタン発酵液中のアルカリ土類金属の含有量を低減するアルカリ土類金属含有量低減処理部と、を備え前記アルカリ土類金属含有量低減処理部は、前記メタン発酵液のpHと温度を調整することによりアルカリ土類金属の炭酸化合物を析出させて、該アルカリ土類金属の炭酸化合物を前記メタン発酵液中から分離除去するように構成されていることを特徴とするものである。
なお、本発明では「アルカリ土類金属の炭酸化合物」という文言は、主に、アルカリ土類金属の塩基性炭酸塩の意味で用いることとする。
【0012】
本態様によれば、例えば、アルカリ土類金属であるカルシウムが多く含まれている被発酵材であっても、アルカリ土類金属含有量低減処理部においてpHと温度を調整することにより、メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液中に含まれるカルシウムを炭酸カルシウムとして析出させることで、メタン発酵液のカルシウムの含有量を低減することができる。
【0013】
本発明に係るメタン発酵システムの第2の態様は、第1の態様において、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部は、アルカリ土類金属の炭酸化合物を析出させる析出槽とアルカリ土類金属の炭酸化合物を前記メタン発酵液中から分離除去するアルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽を有することを特徴とするものである。
【0014】
本態様によれば、アルカリ土類金属含有量低減処理部が析出槽とアルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽を有することにより、析出槽では被発酵材由来のメタン発酵液中のカルシウムを積極的に炭酸カルシウムとして析出させることでメタン発酵液中に含まれるカルシウムの含有量を低減させ、その後、アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽において析出槽で析出した炭酸カルシウムを静置し沈殿させて除去することによって、メタン発酵液中に含まれているカルシウムの殆どを除去することができる。
【0015】
本発明に係るメタン発酵システムの第3の態様は、第1の態様において、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部におけるメタン発酵液の温度は70℃以上に調整されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、第1の態様の効果に加えアルカリ土類金属含有量低減処理部におけるメタン発酵液の温度が70℃以上に調整されているので、メタン発酵液中に溶けている二酸化炭素が大気中に放散し易くなり(pHの数値が上がる)、二酸化炭素が大気中に放散すると炭酸カルシウムが析出し易くなるので、その結果メタン発酵液中のカルシウムの含有量が低減される。また、メタン発酵液の温度が70℃以上に調整されているのでメタン発酵液の滅菌も同時に行うことができる。
【0017】
本発明に係るメタン発酵システムの第4の態様は、第2の態様において、前記析出槽におけるメタン発酵液の温度は70℃以上に調整されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、析出槽におけるメタン発酵液の温度は70℃以上に調整されているので、析出槽においてはメタン発酵液中に溶けている二酸化炭素が大気中へ次々と放散するため、炭酸カルシウムも析出し易くなりメタン発酵液中のカルシウムの含有量が大幅に低減される。更に、第3の態様と同様にメタン発酵液の滅菌を行うことができる。
【0019】
本発明に係るメタン発酵システムの第5の態様は、第1または第3の態様において、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部にはメタン発酵液をエアレーションするための空気供給口が設けられていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、アルカリ土類金属含有量低減処理部に空気供給口を設けることにより、そこから供給される空気でアルカリ土類金属含有量低減処理部中のメタン発酵液をエアレーションすることで、メタン発酵液中の二酸化炭素を大気中に放散し易くするとともに炭酸カルシウムを析出させ、メタン発酵液中のカルシウムの含有量を低減することができる。
【0021】
本発明に係るメタン発酵システムの第6の態様は、第2または第4の態様において、前記析出槽にはメタン発酵液をエアレーションするための空気供給口が設けられていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、析出槽に空気供給口を設けることにより、そこから供給される空気で析出槽中のメタン発酵液をエアレーションすることで、メタン発酵液中の二酸化炭素を大気中に放散し易くするとともに炭酸カルシウムを析出させ、メタン発酵液中のカルシウムの含有量を低減することができる。さらに、析出した炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液の流動性を高め、炭酸カルシウム分離除去槽に炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液を送り込み易くする効果も有している。
【0023】
本発明に係るメタン発酵システムの第7の態様は、第1、第3または第5の態様のいずれか1の態様において、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部の下流側に該アルカリ土類金属含有量低減処理部から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と他の媒体との間で熱交換するための熱交換器が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
本態様によれば、熱交換器を設けることにより、炭酸カルシウムが除去されたメタン発酵液が高温である場合には、該メタン発酵液が持つ熱と他の媒体との間で熱交換を行い、交換した熱を有効利用することができる。
【0025】
本発明に係るメタン発酵システムの第8の態様は、第2、第4または第6の態様のいずれか1に態様において、前記アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽の下流側に該アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と他の媒体との間で熱交換するための熱交換器が設けられていることを特徴とするものである。
本態様によれば、第7の態様と同様の効果を得ることができる。
【0026】
本発明に係るメタン発酵システムの第9の態様は、第7の態様において、前記熱交換器によって前記分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と熱交換した前記他の媒体を前記メタン発酵槽内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段として利用することを特徴とするものである。
【0027】
本態様によれば、炭酸カルシウムが除去されたメタン発酵液から熱を回収した他の媒体は、その熱をメタン発酵槽の温度を昇温または維持するための昇温維持手段として利用することができる。これにより、メタン発酵槽の温度を昇温または維持したりするための手段をわざわざ設ける必要がなく、システム全体の設計コストを低減することが可能となる。
【0028】
本発明に係るメタン発酵システムの第10の態様は、前記熱交換器によって前記アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と熱交換した前記他の媒体を前記メタン発酵槽内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段として利用することを特徴とするものである。
【0029】
本態様によれば、第9の態様と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの概略構成図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの概略構成図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの概略構成図。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの概略構成図。
【図5】従来の有機性廃棄物処理システムの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図を参照しながら、本発明に係るメタン発酵システムの実施形態について説明する。また、各実施態様につき構成が同じものについては同じ符号を付し、その説明を省略することとする。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。特にアルカリ土類金属の一例としてカルシウムを挙げているが、他のアルカリ土類金属(マグネシウム等)にも、本発明が適用できるのは言うまでもない。
【0032】
図1には、本発明に係るメタン発酵システムの第1の実施態様の概略構成図が示されている。
【0033】
本発明に係るメタン発酵システムは、被発酵材M(例えば生ゴミや家畜糞尿等)をメタン発酵処理(嫌気性処理)するメタン発酵槽1、メタン発酵槽1内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段2、メタン発酵槽1から出るメタン発酵液中のカルシウムの含有量を低減するカルシウム含有量低減処理部3とから構成されている。
【0034】
本態様では、カルシウム含有量低減処理部3において、メタン発酵液中に含まれるカルシウムを低減するため、メタン発酵液中のカルシウムを炭酸カルシウムSとして析出させる析出槽30と析出槽30から出る炭酸カルシウムSを含有するメタン発酵液から炭酸カルシウムSを沈殿させて除去する炭酸カルシウム分離除去槽31が設けられている。
【0035】
また、被発酵材Mがメタン発酵処理された際に発生するバイオガスを収集するためのバイオガス収集管10、収集したバイオガスを脱硫するための脱硫装置11および脱硫して精製したバイオガスを利用するためのコジェネレーション12(例えばガスエンジンシステム)が設けられている。
【0036】
本態様で使用される被発酵材Mとしては、例えば畜産廃棄物、有機性汚泥、緑農廃棄物などが挙げられる。畜産廃棄物としては、家畜(例えば、豚、牛、ニワトリ等)の糞尿や、屠体および/またはその加工品が挙げられる。また、緑農廃棄物には家庭の生ゴミの他、産業廃棄物生ごみとして、農水産業廃棄物、食品加工廃棄物等が含まれる。
【0037】
メタン発酵は、いわゆる中温型、高温型、超高温型、またはスラリー(湿式)型のいずれのタイプでも適用可能である。
【0038】
メタン発酵槽1は、絶対嫌気性のメタン発酵菌による活動を維持するために、空気を遮断したタンクにより構成される。発酵槽1は固形物濃度(通常3〜40重量%の範囲)と発酵温度(通常、中温発酵では約32〜37℃、高温発酵では約52〜55℃、超高温発酵では約60〜70℃)によって、形状や運転条件が異なってくる。例えば、洗浄廃水が混合したりして高含水率になった原料(固形物濃度10重量%まで)の場合は湿式型の完全混合方式の発酵槽が用いられる。
【0039】
高含水率の原料(固形物濃度を10重量%程度まで)の場合は、完全混合方式の発酵槽を用い、中温メタン発酵菌(至適温度37℃)では滞留時間を20〜30日間程度、高温メタン発酵菌(至適温度55℃)では滞留時間(Retention Time)を15日間程度、超高温メタン発酵菌(至適温度65℃)では滞留時間(Retention Time)を10日間程度、とすることが可能である。
【0040】
一方、低含水率の原料(固形物濃度約20〜40重量%)の場合は、被処理物の固形分濃度を30〜40重量%にして押出し式の発酵槽を使用できる程度の固さに調整する。滞留時間については、高含水率の場合と同様に設定することができる。また、C/N比の調整のために、必要に応じて若干の有機成分を導入することもできる。
なお、メタン発酵槽1には昇温維持手段2が設けられており、これは加熱または保温ができる装置であれば公知のものが使用可能である。
【0041】
発酵槽1には、メタン発酵処理によって生成するバイオガスGを収集するためのバイオガス収集管10が設けられており、収集されたバイオガスGは脱硫装置11に送り込まれて硫黄分が除去され、さらに脱硫処理され精製されたバイオガスはコジェネレーション12に送られるように構成されている。
なお、脱硫装置11については公知のものが使用可能であり、例えば生物脱硫塔が挙げられる。
【0042】
メタン発酵処理されてメタン発酵槽1より出るメタン発酵液は、カルシウム含有量低減処理部3の一部を構成する析出槽30へ送られる。
析出槽30は、メタン発酵槽1から出たメタン発酵液中のカルシウム量を低減するため、好気性の条件下において、メタン発酵槽1から出たメタン発酵液を該メタン発酵液の温度以上で加熱して一定時間処理することにより、炭酸カルシウムSを析出させるための装置である。例えば、中温メタン発酵処理(約37℃)を行って得られたメタン発酵液を析出槽30で約70℃に加熱して30分間程度処理することで炭酸カルシウムを析出させることができる。
【0043】
ここで、炭酸カルシウムの析出とアンモニアの放散について説明する。
メタン発酵槽1内ではバイオガスGとして、主にメタン(約55容量%)、二酸化炭素(約45容量%)が発生する。そして、発生した二酸化炭素の一部がメタン発酵液中に溶け込む。更にメタン発酵液中には、メタン発酵処理によって被発酵材Mに含まれているたんぱく質やアミノ酸を構成する有機態窒素の一部が分解されて生成したアンモニアと最初から被発酵材Mに含まれていたアンモニアが溶け込んでいる。
【0044】
つまり、析出槽30には、液中に二酸化炭素とアンモニアが溶け込んでいるメタン発酵液がメタン発酵槽1から送られてくることになる。そして、析出槽30で好気的条件、例えばメタン発酵液が大気と接触できるような条件で、メタン発酵槽1から送られてきたメタン発酵液(約37℃)を加熱処理(70℃で30分間)すると、メタン発酵液中の二酸化炭素が大気中に放散し、メタン発酵液中に炭酸水素カルシウムCa(HCOとして溶けていたカルシウムが炭酸カルシウムCaCOとなって析出槽30中に析出してくる。一方、二酸化炭素が放散することによりメタン発酵液の液性はアルカリ性側に傾くので(pHが上昇するので)、メタン発酵液中にとけているアンモニアも放散する。
【0045】
従って、アンモニアが放散することによりメタン発酵液中の全窒素の量が減少するので、メタン発酵液を肥料として農地還元した際には、硝酸イオン、亜硝酸イオンの生成が抑制され、これらを原因とする地下水汚染を防止することができる。
【0046】
析出槽30は、メタン発酵液中のカルシウムの含有量を低減するためのものであるので、積極的に炭酸カルシムを析出するようにするのが好ましい。析出槽30での処理条件は被発酵材料Mの種類やメタン発酵処理の条件によって異なる。
【0047】
被発酵材Mが生ごみや家畜糞尿であって、それらを中温メタン発酵処理(約32〜37℃)あるいは高温メタン発酵処理(約52〜55℃)した場合には、メタン発酵槽1から出るメタン発酵液を析出槽30で60〜80℃まで加熱して30分間〜5時間(60℃では5時間程度、70〜80℃では30分から1時間程度)処理するのが好ましい。より好ましくは70℃以上で30分間〜1時間程度が好ましい。70℃以上であればメタン発酵液中に溶けている二酸化炭素を十分放散させることができ、それに伴いメタン発酵液中に溶けているアンモニアも多量に放散させることができるからである。
【0048】
さらに、70℃以上と高温であるためメタン発酵液の滅菌処理も行うことができる。例えば、豚パルボウィルスは55℃程度の加熱処理では完全に滅菌することができないが、70℃以上で加熱処理すれば完全に滅菌することができる。
【0049】
以上から、析出槽30は加熱処理が行えるような加熱手段(図示せず)を有する槽であって、好気的条件が満たされるようなものであればよい。好気的条件は、本態様であれば析出槽30の上部が開放されており、メタン発酵液が大気と接触できるような構造であれば良い。メタン発酵液が大気と接触できるような構造であれば、メタン発酵液中に溶け込んでいた二酸化炭素やアンモニアが大気中に放散され、再びメタン発酵液中に溶け込むようなことはないからである。
【0050】
なお、析出槽30内のメタン発酵液の温度を所定の温度に保つ手段としては、公知の手段を用いることができる。例えば、析出槽30内に温度計を設けて、設定した所定の温度に析出槽30内を保てるように温度計の値に連動して加熱手段のスイッチのON−OFFが行えるサーモスタットのようなものが挙げられる。
【0051】
析出槽30で液中に炭酸カルウシウムSが析出したメタン発酵液は、液中の炭酸カルシウムSを分離除去するためカルシウム含有量低減処理部3の一部を構成する炭酸カルシウム分離除去槽31へ送られる。ここでは、炭酸カルシウム含有のメタン発酵液を静置することによって、炭酸カルシウムを沈殿させてメタン発酵液中から分離する。そして、炭酸カルシウムが分離された上澄みのメタン発酵液は、例えば、一旦貯蔵タンクに蓄えられた後、必要に応じて農地へ肥料として散布される。既に多量のアンモニアが放散されているのでメタン発酵液中に含まれる窒素の量は低減されており、肥料としてメタン発酵液を農地に散布しても、硝酸イオン、亜硝酸イオンによって地下水が汚染されるようなことはない。
【0052】
一方、分離された炭酸カルシウムは炭酸カルシウム分離除去槽31の下部に設けられたバルブBを開けることにより、炭酸カルシウム分離除去槽31外へ排出され廃棄される。
【0053】
炭酸カルシウム分離除去槽31は、炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液を静置できるものであればよく、容量等は析出槽30から出るメタン発酵液の量によって適宜設計すればよい。また、開放型、密閉型どちらのものであっても使用可能である。
【0054】
図2には、本発明に係るメタン発酵システムの第2の実施態様の概略構成図が示されている。
本態様は、第1の実施態様の析出槽30の下方に、エアレーションするための空気供給口30’を設けた態様である。
【0055】
エアレーションするための空気供給口30’を設けてメタン発酵液中にポンプPから空気を送り込むことによって、本態様は、二酸化炭素やアンモニアをメタン発酵液中から放散し易くする効果を有するとともに、析出した炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液の流動性を高め、炭酸カルシウム分離除去槽31に炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液を送り込み易くする効果も有している。
【0056】
図3には、本発明に係るメタン発酵システムの第3の実施態様の概略構成図が示されている。
【0057】
本態様は、第2の態様に、炭酸カルシウム分離除去手段31から出るメタン発酵液(上澄み液)が有している熱をメタン発酵槽1の昇温維持手段2として利用するため、他の熱媒体と熱交換するための熱交換器4を設けた態様である。
炭酸カルシウム分離除去槽31内での炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液の温度は、炭酸カルシウム分離除去槽31で炭酸カルシウムを沈殿させるために、炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液を静置させるので、静置させている間に温度が下がり析出槽30から出た時よりも少し低くなる。
【0058】
例えば、析出槽30でメタン発酵液を70℃で30分間加熱処理した後、炭酸カルシウム分離除去槽31で、炭酸カルシウムを含有するメタン発酵液を10分から30分間程度静置して炭酸カルシウムを沈殿させた場合のメタン発酵液(上澄み液)の温度は約50〜60℃である。よって、このメタン発酵液が有している熱を熱交換器を用いて他の媒体と熱交換することにより、メタン発酵液から熱を回収した他の媒体をメタン発酵槽1内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段2として利用することができる。
これにより、メタン発酵槽1内の温度を昇温または維持したりするための手段をわざわざ設ける必要がなく、システム全体の設計コストを低減することが可能となる。
【0059】
本態様は、第2の態様に熱交換器4を設けた態様であるが、第1の態様に本態様と同じ構成で熱交換器4を設ける態様とすることもできる。この場合は第3の態様と同様の効果が得られる。
【0060】
なお、熱交換器4については公知のものが使用可能である。例えば、多管円筒形熱交換器、2重管式熱交換器、プレート式熱交換器、コイル式熱交換器、渦巻き式熱交換器等が挙げられる。
【0061】
図4には、本発明に係るメタン発酵システムの第4の実施態様の概略構成図が示されている。
【0062】
本態様は、第3の態様において、メタン発酵槽1の下流側であって析出槽30の上流側に熱交換器5を設けた態様である。更に、熱交換器5は、被発酵材Mをメタン発酵処理して発生するバイオガスGを利用したコジェネレーションより供給される水(約80℃)が有する熱とメタン発酵槽1から出るメタン発酵液が有する熱とを交換するものであり、これにより、メタン発酵液の温度は、例えば中温メタン発酵(約37℃)処理によりメタン発酵槽1から出るメタン発酵液の場合、約37℃から約60℃まで上昇する。
【0063】
したがって、析出槽30に送り込まれる時にはメタン発酵液の温度は約60℃になっており、析出槽30においてメタン発酵液を例えば70℃で処理する場合には、メタン発酵液の温度を昇温させる時間が熱交換器を使用しなかった時よりも大幅に短縮することができる。しかも、メタン発酵液と熱交換する熱媒体は、元々、メタン発酵処理によって発生したバイオガスGを利用することによって得られたものであるため、本態様では効率よくメタン発酵システムを稼動させることができる。
【0064】
本態様は、第3の態様に熱交換器5を設けた態様であるが、第1または第2の態様に本態様と同じ構成で熱交換器5を設ける態様とすることもできる。この場合は上述した第4の態様と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、被発酵材をメタン発酵して得られたメタン発酵液を、該メタン発酵液の温度以上に昇温して処理したことに起因して析出する炭酸カルシウムCaCOの熱交換器の管内への付着を防止することにより、効率よくメタン発酵処理を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 メタン発酵槽、 2 昇温維持手段、
3 カルシウム(アルカリ土類金属)含有量低減処理部、
4、5 熱交換器、 6 処理槽、 10 バイオガス収集管、 11 脱硫装置、
12 コジェネレ−ション、 30 析出槽、 30’ 空気供給口、
31 炭酸カルシウム(アルカリ土類金属の炭酸化合物)分離除去槽、
B バルブ、 M 被発酵材、 P ポンプ、 S 炭酸カルシウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被発酵材をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽から出るメタン発酵液中のアルカリ土類金属の含有量を低減するアルカリ土類金属含有量低減処理部と、を備え
前記アルカリ土類金属含有量低減処理部は、前記メタン発酵液のpHと温度を調整することによりアルカリ土類金属の炭酸化合物を析出させて、該アルカリ土類金属の炭酸化合物を前記メタン発酵液中から分離除去するように構成されていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項2】
請求項1に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部は、アルカリ土類金属の炭酸化合物を析出させる析出槽とアルカリ土類金属の炭酸化合物を前記メタン発酵液中から分離除去するアルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽を有することを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項3】
請求項1に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部におけるメタン発酵液の温度は70℃以上に調整されていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項4】
請求項2に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記析出槽におけるメタン発酵液の温度は70℃以上に調整されていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項5】
請求項1または請求項3に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部にはメタン発酵液をエアレーションするための空気供給口が設けられていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項6】
請求項2または請求項4に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記析出槽にはメタン発酵液をエアレーションするための空気供給口が設けられていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項7】
請求項1、請求項3または請求項5のいずれか1項に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記アルカリ土類金属含有量低減処理部の下流側に該アルカリ土類金属含有量低減処理部から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と他の媒体との間で熱交換するための熱交換器が設けられていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項8】
請求項2、請求項4または請求項6のいずれか1項に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽の下流側に該アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と他の媒体との間で熱交換するための熱交換器が設けられていることを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項9】
請求項7に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記熱交換器によって前記分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と熱交換した前記他の媒体を前記メタン発酵槽内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段として利用することを特徴とするメタン発酵システム。
【請求項10】
請求項8に記載されたメタン発酵システムにおいて、前記熱交換器によって前記アルカリ土類金属の炭酸化合物分離除去槽から出るアルカリ土類金属の炭酸化合物が除去されたメタン発酵液と熱交換した前記他の媒体を前記メタン発酵槽内の温度を昇温または維持するための昇温維持手段として利用することを特徴とするメタン発酵システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−212534(P2011−212534A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81218(P2010−81218)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】