説明

メチル化DNA分析のための硫酸水素ナトリウムの改良代替物として硫黄求核剤を使用する方法

本発明は、メチル化DNAを分析することにおける硫黄求核剤の使用、そのような使用に適した新規な硫黄求核剤を提供する。いくつかの実施形態において、核酸においてシトシンをウラシルに変換するための方法は、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸を提供する工程;およびその核酸を求核性有機硫黄化合物と反応させる工程を包含する。いくつかの実施形態において、式Iの求核性有機硫黄化合物、またはその塩は、メチル化状態の評価の前に、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸と反応され、RおよびRは明細書で定義されるとおりである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、硫黄求核剤、およびメチル化DNAの分析のために硫黄求核剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
DNAのメチル化の評価は、多くの研究分野、診断分野、医療分野、法医学分野および工業分野で有用である。特に、ゲノムDNA中のシトシンのメチル化は、遺伝子発現の欠失と関連があり、そしていくつかの場合では、いくつかの癌に見出される早期変化および頻繁な変化を示し得る。したがって、DNAのメチル化状態を評価するための能力が重要である。
【0003】
この評価の手掛かりはシトシンをウラシルに変換することである。硫酸水素ナトリウム(NaHSO)を利用するそのような変換の1つの基本的な方法が周知である。長年にわたって、この方法は、不利な点(面倒な手順、長期にわたる反応時間およびDNA分解が挙げられる)を克服しようとして改良されてきた。最も一般に使用されるプロトコルは、非特許文献1(その全体が参考として本明細書に援用される)によって教示されている。この方法は、変性、ヒドロキノンの存在下での硫酸水素ナトリウムとの反応、およびその後のNaOHでの処理による改変の完了を含む。プロトコルを改良しようとする試みにもかかわらず、依然としてゲノムDNA(gDNA)を一本鎖DNA(ssDNA)に予め変性すること、硫酸水素ナトリウムの新鮮な溶液(代表的に、約3M)を準備すること、および酸化防止剤(例えば、ヒドロキノン)を含むことが必要とされている。このプロトコルはまた、長い反応時間および面倒な清浄化手順を伴う。
【0004】
さらに、現在使用される硫酸水素ナトリウムプロトコルは、不完全な変換、再現不可能な結果、および他の問題の報告に悩まされている。いくつかの場合において、この反応は、有意なDNA分解(報告によれば、96%ほど高い)を生じ得、さらなる分析のために十分なサンプルを得るのを困難にする。非特許文献2を参照のこと。
【0005】
他の方法が、メチル化状態を評価するために存在する。これらの方法の多くは、標識技術を使用する。例えば、放射性標識サンプルが、GC−MSによって内標準を比較され得る(非特許文献3)。蛍光部分または化学発光部分は、光学検出手段を通じてメチル化状態を評価するために使用され得る。これらは、通常は、専門家によって操作される洗練された高価なHPLCまたはCE機器を必要とする(非特許文献4;非特許文献5)。CpGアイランドを分析することにおいて有用な1つの現在のアプローチは、制限標識ゲノムスキャニング(restriction landmark genome scanning)(RLGS)であり、これは、メチル化感受性の制限酵素によるDNAの消化、放射標識、次いで2次元ゲル分離に基づく(D.J.Smiragliaら、Genomics(1999)58,254−262)。したがって、RLGSは、利用可能な制限酵素に適合する部位を含むCpGアイランドのみに限定される。
【非特許文献1】J.Herman,Proc.Natl.Acad.Sci.93,9821−26(1996)
【非特許文献2】S.J.Clarkら、Nucleic Acid Research2001,29 no.13,e65
【非特許文献3】P.F.CrainおよびJ.A.McCloskey.Anal.Biochem.(1983)132,124−131
【非特許文献4】M.Wirtzら、Electrophoresis(2004)25,839−845
【非特許文献5】D.Stachら、Nucleic Acids res.(2003)31,E2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DNAメチル化の評価の重要性を考えると、シトシンからウラシルへの変換について、およびDNAのメチル化状態を評価することについて、改良された方法論に対する必要性が存在することが理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
いくつかの実施形態において、核酸においてシトシンをウラシルに変換するための方法は、
少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸を提供する工程;および
その核酸を求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する。
【0008】
いくつかの実施形態において、式I:
【0009】
【化4】

の求核性有機硫黄化合物、またはその塩は、メチル化状態の評価の前に、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸と反応され、
ここで、RおよびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシからなる群より選択され、その各々は必要に応じて置換され得るか;
あるいはRおよびRは結合して、必要に応じてN、SおよびOから選択される1もしくは2個のさらなるヘテロ環原子を有する4〜8員環を形成し得、該環は必要に応じて1以上の置換基で置換される。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、式Iの塩を用いて行われ、RおよびRのうちの一方または両方が、リチウム、ナトリウム、マグネシウムおよびアンモニウムから選択されるカチオンとイオン結合(または塩結合)を形成する。そのような実施形態において、RおよびRのうちの一方または両方が、そのようなイオン結合または塩結合を形成し得るアニオン性基を含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、シトシンのメチル化状態を評価するための方法は、
不明なメチル化状態の少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含むサンプル核酸を提供する工程;および
該核酸を、放射性標識置換基を含む求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記求核性有機硫黄化合物は、式I:
【0013】
【化5】

の化合物、またはその塩であり、ここで、
およびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシ、ならびに放射性標識置換基からなる群より選択され、ここで該アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシの各々が、必要に応じて置換され得;
ここで、RおよびRのうちの少なくとも一方が、放射性標識置換基を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、そのような方法はさらに、
既知の非メチル化状態の少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含むコントロール核酸を提供する工程;
該核酸を同一の上記求核性有機硫黄化合物と反応させる工程;および
前記サンプルおよびコントロールの放射活性のレベルを比較し、メチル化シトシンおよび非メチル化シトシンの反応割合に基づいて、サンプル中のメチル化シトシン相対含量を決定する工程
を包含する。
【0015】
いくつかの実施形態において、シトシンのメチル化状態を評価するための方法は、
不明なメチル化状態の少なくとも1つのシトシンを含むサンプル核酸を提供する工程;および
該核酸を、蛍光部分または化学発光部分を含む求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する。
【0016】
いくつかの実施形態において、蛍光部分または化学発光部分を含む上記求核性有機硫黄化合物は、式I:
【0017】
【化6】

の化合物、またはその塩であり、ここで、
およびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシおよびアリールオキシ、ならびに放射性標識置換基からなる群より選択され、ここで、該アルキル、アリール、アミノ、アルコキシおよびアリールオキシの各々は、必要に応じて置換され得;
ここで、RおよびRのうちの少なくとも1つが、蛍光部分または化学発光部分を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(詳細な説明)
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方が、単に例示的かつ説明的であるだけであり、本発明に関して制限的でないことが理解されるべきである。本出願において、単数形の使用は、他に特に記載されない限り複数形を包含する。本出願において、「または(or)」の使用は、他に示されない限り、「および/または(and/or)」を意味する。用語「含む(comprising)」、ならびに他の形態(例えば、「含む(comprisesおよびcomprise)」)の使用は、用語「含む(comprising)」がさらなる要素を含む可能性を残す点で包含的であると考えられる。さらに、用語「含む(including)」または「有する(having)」、ならびに他の形態(例えば、「含む(includes)」、「有する(has)」、「含んだ(included)」および「有する(have)」)は、制限的であるとは意図されない。また、「要素(element)」または「成分(component)」のような用語は、他に特に示されない限り、1つのユニットを含む要素および成分、ならびに1より多くのサブユニットを含む要素および成分の両方を包含する。
【0019】
本明細書で使用される節の見出しは、組織的な目的のためだけであり、記載される主題を制限すると解釈されるべきではない。
【0020】
用語「アルキル」とは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなど(これらに限定されない)のような、直鎖および分枝鎖の炭化水素基を指す。この用語はまた、直鎖のアルキル基の分枝鎖異性体を包含し、それらとしては、例として提供される以下のもの:−CH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH、−C(CH、−C(CHCH、−CHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CHCH(CHCH、−CHC(CH、−HC(CHCH、−H(CH)CH(CH)(CHCH)、−CHCHCH(CH、−CHCHCH(CH)(CHCH)、−CHCHCH(CHCH、−CHCHC(CH、−CHCHC(CHCH、−CH(CH)CHCH(CH、−CH(CH)CH(CH)CH(CH、−CH(CHCH)CH(CH)CH(CH)(CHCH)などが挙げられるが、これらに限定されない。この用語はまた、環状のアルキル基(例えば、シクロプロピル、シクルブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチル)ならびに上で定義されるような直鎖および分枝鎖のアルキル基で置換されたこのような環を包含する。したがって、アルキル基は、第一級アルキル基、第二級アルキル基、および第三級アルキル基を包含する。好ましいアルキル基としては、直鎖および分枝鎖のアルキル基、ならびに1〜12個の炭素原子を有する環状アルキル基が挙げられる。
【0021】
用語「アルコキシ」とは、式−O−アルキルの基を指し、ここでアルキルは、上で定義されるとおりである。例としては、−OMe、−OEtなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
用語「アリール」は、少なくとも1つの芳香族環を含む化合物に由来するラジカルを示すことが意図される。したがってアリール基としては、フェニルおよびビフェニルのような基、ならびにナフタレンおよびアントラセンのような縮合環を含む基が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい非置換のアリール基は、フェニルである。
【0023】
用語「アミノ」とは、2つの置換基を有する窒素を指す。この置換基は独立して選択され、水素、ヒドロキシ、アルキル、アリールなどが挙げられるが、これらに限定されない。置換基は必要に応じて置換され得る。最も好ましいのは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−ヒドロキシエチル、および2−メトキシエチルである。
【0024】
用語「アリールオキシ」とは、式−O−アリールの基を指し、ここでアリールは、上で定義されるとおりである。アリールオキシ基の1つの非限定的な例は、フェノキシ基;すなわち、式−OPhの基であり、ここでPhはフェニルである。
【0025】
用語「亜硫酸水素イオン」は、本明細書で使用される場合、HSOについてのその慣習的な意味を有する。代表的に、亜硫酸水素(bisulfite)は、亜硫酸水素塩の水溶液(例えば、式Mg(HSOを有する亜硫酸水素マグネシウム、および式NaHSOを有する硫酸水素ナトリウム)として使用される。
【0026】
句「必要に応じて置換される(された)」とは、1以上の水素原子が水素ではない置換基によって置換されている基を指す。そのような基としては、ハロゲン原子(例えば、F、Cl、BrおよびI)、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、エステル基、チオール基、アルキルスルフィド基およびアリールスルフィド基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、アミン、アミド、アルキルアミン、ジアルキルアミン、アリールアミン、アルキルアリールアミン、ジアリールアミン、N−オキシド、イミン、エナミン、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、ならびにトリアリールシリル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
用語「PCR」は、当該分野で周知であるように、ポリメーラゼ連鎖反応を示すことが意図される。用語「MSP」は、J.Herman,Proc.Natl.Acad.Sci.93,9821−26(1996)(その全体が参考として本明細書に援用される)に記載されるような、メチル化特異的PCRを示す。
【0028】
用語「核酸サンプル」は、少なくとも1種の核酸を含むサンプル(例えば、組成物、混合物、懸濁液または溶液)を示すことが意図される。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「核酸」は、核酸塩基を含むポリマー化合物(その天然に存在する形態および天然に存在しない形態を含む)を包含し、例えば限定なしに、ゲノムDNA、cDNA、hnDNA、mRNA、rRNA、tRNA、断片化核酸、細胞内小器官(例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体)から得られる核酸、および生物学的サンプルに存在し得るかもしくはそのサンプル中の微生物またはDNAウイルスもしくはRNAウイルスから得られる核酸である。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「gDNA」とは、ゲノムDNAを指す。
【0031】
「蛍光部分」は、本明細書で使用される場合、放射に曝されたときに蛍光を発する(すなわち、特定の波長の光を発する)部分を意味する。そのような部分の例としては、6−カルボキシフルオレセインまたは6−カルボキシテトラメチルローダミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
「化学発光部分」は、化学発光活性(すなわち、化学反応による光の発生)が光学的手段によって検出されることを可能にする部分を意味する。そのような部分の例としては、アクリジニウムエステルおよびその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
「求核性有機硫黄化合物」とは、本明細書で使用される場合、硫黄において孤立電子対の電子を有する化合物を指す。好ましい求核性有機硫黄化合物は、スルフィン酸の置換誘導体である。最も好ましいのは、以下で議論される式Iの化合物である。
【0034】
硫黄において求核性の孤立電子対の電子(:)を有するHO−S(:)(O)−OH部分の誘導体として形式的に見なされ得る多種多様な化合物が存在する。特定の理論によって束縛されることは望まないが、この硫黄における求核性の孤立電子対の電子は、シトシンとの可逆的な付加体形成の特異性および速度を調節し、これは次いでその後の不可逆的な加水分解によるウラシルの生成に影響を及ぼすと考えられる。結果的に、HO−S(:)(O)−OHの特定の誘導体は、メチル化DNAの分析前のシトシンからウラシルへの変換に関して望ましい特徴を有し得る。
【0035】
硫黄化合物の求核性は、芳香環の炭素における硫黄の攻撃(A.UlmanおよびE.Urankar,J.Org.Chem.(1989)54,4691−4692)、非置換(アセチレン)炭素における硫黄の攻撃(T.Kataokaら、Phosphorus,Sulfur and Silicon and the Related Elements(1998)136/138,497−500)、およびアクリロニトリル中の炭素−炭素二重結合における硫黄の攻撃(I.V.Bodrikovら、Z. Org.Khim.(1985)21,1017−1022)の基準として示されている。各々は、硫黄化合物の求核性がウラシルを得るためのシトシンとの反応の基礎を提供するという点で本発明を支持する。しかし、シトシンのウラシルへの変換を教示するものはない。
【0036】
(求核性の有機硫黄化合物の一般的な調製)
一置換型有機硫黄求核剤は、硫黄に結合した一方の−OH部分を、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、またはアリールオキシ基で置換することによって作製され、その基は次いで種々の他の基で置換され得る。残りの−OH基は、塩、好ましくはリチウム塩またはマグネシウム塩、より好ましくはナトリウム塩を形成するために使用され得、それゆえイオン性であり得る。ビス置換型の非イオン性化合物はまた、両方の−OHが独立してアルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、またはアリールオキシ基で置換され、次いで種々の他の基で置換され得る場合に形成され得る。
【0037】
HO−S(:)(O)−OHの種々の一置換型誘導体およびビス置換型誘導体(そのナトリウム塩、リチウム塩、およびマグネシウム塩を含む)が当該分野で公知である。例えば、HO−S(:)(O)−OHの誘導体は、FR 2,288,086(参考として本明細書に援用される)に見出される。FR 2,288,086はまた、一方の−OHがアルキル基で置換されるスルフィン酸、および一方のOHがアルキル基によって置換されかつ他方がアルコキシ基によって置換されるスルフィン酸エステルを開示する。
【0038】
亜硫酸水素塩の両方の−OH部分がアルコキシ基で置換される硫酸ジアルキルは、M.Mikolyczykおよび共同研究者,Tetrahedron(1988)44(16)5243(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)に開示される。
【0039】
(例示的な硫黄求核剤)
本発明の方法のいくつかの実施形態は、式I:
【0040】
【化7】

に従う硫黄求核剤、あるいはその塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩またはマグネシウム塩)を利用し、
は、ヒドロキシ、アルキル(R)、アリール(Ar)、アミノ(NR)、アルコキシ(OR)、およびアリールオキシ(ArO)からなる群より選択され、その各々は必要に応じて置換され得、その各々は必要に応じて、放射性マーカー、蛍光部分、および化学発光部分のうちの1つで標識され得;
は、ヒドロキシ、アルキル(R)、アリール(Ar)、アミノ(NR)、アルコキシ(OR)、およびアリールオキシ(ArO)からなる群より選択され、その各々は必要に応じて置換され得、その各々は必要に応じて、放射性マーカー、蛍光部分、および化学発光部分のうちの1つで標識され得るか;
あるいは、RおよびRは結合して、4〜8員環を形成し、この環は必要に応じて、N、SおよびOから選択される1〜2個のさらなるヘテロ環原子を有し、そして必要に応じて1以上の置換基で置換され;
およびRは各々独立して、アルキル、置換アルキル、アリールおよび置換アリールからなる群より選択され;
は、アルキルまたは置換アルキルであり;
塩において、RおよびRのうちの一方は、ハライドイオンとイオン結合を形成する。
【0041】
が−OHである式Iのいくつかの代表的な一置換型硫黄求核剤が、表Iに列挙される:
【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

この化合物のリストは、単なる例示であり、いかなる様式でも制限されることを意図されない。
【0045】
モノメチル、モノエチル、およびモノイソプロピルエステルナトリウム塩の代表的な合成、ならびに対応するジメチル、ジエチル、およびジイソプロピルエステルの合成は、A.B.Fosterら、J.of the Chemical Soc.(1956)2589−2592(その全体が参考として本明細書に援用される)によって記載されている。ジアルキルアミドスルフィン酸ナトリウム化合物(Na・O−S(O)−NRR’)(式中、R=R’=MeまたはEtまたは(CH)の合成は、A.BlaschetteおよびH.Safari,Z.fuer Naturforsch.(1970)25,319−320(これもまたその全体が参考として本明細書に援用される)によって報告された。
【0046】
式Iのいくつかの代表的なビス置換型硫黄求核剤が、表2に列挙される:
【0047】
【化11】

当然ながら、これらは非限定的な例であり、単なる例示のために示される。この表は、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0048】
上述のように、RおよびRの置換基は、種々のマーカーを含み得る。これらのマーカーは、放射性標識、蛍光部分、または化学発光部分であり得る。
【0049】
放射性標識は、光子、電子または他の核の構成要素の放出を生じるプロセスを受け、したがってそれらの検出を可能にする原子を含む原子または化合物である。適切な放射性標識としては、Hおよび14Cが挙げられるが、これらに限定されない。これらのマーカーは、RおよびRの種々の置換基のいずれかに組み込まれ得る。
【0050】
本発明は、当該分野で公知であるように、広範な蛍光部分および化学発光部分の使用に従う。適切な蛍光部分の非限定的な例としては、6−カルボキシフルオレセインまたは6−カルボキシテトラメチルローダミンが挙げられる。適切な化学発光部分としては、アクリジニウムエステルおよびその誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0051】
当業者は、一置換型硫黄求核剤およびビス置換型硫黄求核剤、ならびにその塩および標識されたバージョンを作製する適切な方法を容易に理解する。
【0052】
(方法)
本発明の方法のいくつかの実施形態にしたがって、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸を含む核酸サンプルは、メチル化状態を決定するための公知の技術に従うさらなる評価のために、シトシンからウラシルへの変換を容易にするために、求核性有機硫黄化合物と反応される。そのような反応は、亜硫酸水素塩の代わりに(または亜硫酸水素塩に加えて)本発明の有機硫黄化合物を用いることによってシトシンをウラシルに変換するための技術の適切な適用によって行われ得る。例えば、ゲノムDNA(1μg以下)は、NaOH(2M〜3M)で45℃にて15〜30分間変性され、その後、0.1M ヒドロキノンおよび3.6M 硫酸水素ナトリウム(pH5.0)とともに55℃で12時間〜一晩インキュベートされる。次いで、このDNAは、例えば、標準的なミニプレップカラムを用いて反応混合物から精製される。脱硫化のために、精製されたDNAサンプルは、0.25M NaOH水溶液(60μl)に再懸濁され、40℃で5〜10分間インキュベートされる。次いで、脱硫化されたDNAは、エタノール沈殿、洗浄され、その後、水に再懸濁され得る。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において、シトシンをウラシルに変換するための方法は、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸サンプルを、式I:
【0054】
【化12】

に従う求核性有機硫黄化合物、またはその塩(式中、RおよびRは上記のとおりである)と反応させる工程を包含する。
【0055】
求核性有機硫黄化合物とシトシン含有核酸との反応は、シトシンからウラシルへの特定の変換を生じるが、5−メチルシトシンの変換は生じない。変換の際、公知の技術(例えば、PCR、MSPおよび他の技術)が、そのサンプルのメチル化状態を評価するために使用され得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、求核性有機硫黄化合物は、一置換型化合物(Rが−OHであり、Rが上記のとおりである)である。好ましくは、Rは、メチルまたはエチルから選択される。
【0057】
さらに、反応の完了の際、公知の技術が、変換データを分析することによってそのサンプルのメチル化状態を評価するために使用され得る。
【0058】
一置換型求核性有機硫黄化合物の塩もまた利用され得る。特に、Rの−OH基が加水分解されて、カチオンとのイオン結合が形成される。好ましいカチオンは、リチウム、ナトリウム、アンモニウムまたはマグネシウムであり、より具体的には、ナトリウムであるが、但し、その化合物は、亜硫酸化合物ではない。
【0059】
いくつかの実施形態において、求核性化合物は、ビス置換型化合物(RおよびRの各々はヒドロキシル以外である)である。Rは好ましくは、メチルまたはエチルであり、Rは好ましくは、メチルまたはエチルである。本明細書の他の実施形態と同様に、変換の際、メチル化状態が公知の技術によって評価される。
【0060】
他の実施形態は、標識の使用、およびメチル化状態を決定するための標識の異なるレベルの検出を利用する。標識スキームは、既存の単分子DNAスキャニング手順、またはAFM(原子間力顕微鏡)技術、および他の技術と併せて、例えば、現在使用されるRLGS方法論に関連する制限なしに遺伝子のメチル化プロモーターの発見および分析のための強力なツールを提供する。
【0061】
例えば、RまたはRのいずれか、あるいは両方は、全体の5−メチルシトシン 対 非メチル化シトシン含量の測定のために、Hまたは14C標識を含み得る。他の放射性標識が同様に使用され得る。この型のアッセイにおいて、目的のDNAサンプル(S)およびコントロールサンプル(C)は別々に、同一の反応条件化で標識試薬と反応される。過剰な標識試薬の除去後、これらの2種のサンプルの放射活性(それぞれ、RおよびR)の差により、シトシンと比べて5−メチルシトシンについて予期される示差反応性(すなわち、シトシンは5−メチルシトシンよりもはるかに速く反応する)に基づく5−メチルシトシン含量の相対測定が提供される。例えば、R=1000カウント/ヌクレオチド当量およびR=2000カウント/ヌクレオチド当量である場合、目的のサンプルSは、50%メチル化されている。完全にメチル化されたオリゴヌクレオチド配列およびメチル化されていないオリゴヌクレオチドからなる合成内部標準が、コントロールとして使用されて、それぞれ、低レベルの非特異的反応または不完全反応を補正することによって生データが正規化され得る。
【0062】
標識技術は、放射性標識を超えて拡張されて、蛍光部分、または化学発光が検出されることを可能にする部分を生じ得る。差別的標識を利用しない現在の光学的方法は、洗練された高価なHPLCまたはCE機器の使用、および熟練した操作者を必要とする。そのような試薬を用いるメチル化DNAの差別的標識の有意な利点は、その標識がメチル化の部位(例えば、遺伝子のプロモーター領域中のCpGアイランド)を光学的に検出する手段を提供することである。蛍光標識された硫黄求核剤と反応させたDNAは、既存の単分子DNAスキャニング法(S.Zhouら、Genome res.(2003)13,2142−2151)と使用されて、メチル化プロモーターに関する全ゲノム分析のための方法を可能にし得、この方法は、放射性標識の使用を必要とせず、さらにメチル化特異的部位を有するプロモーター領域に限定されない。
【0063】
この新規アプローチにおいて、伸長された単分子のDNAが、最初に、記載されるように(S.Zhouら、Genome res.(2003)13,2142−2151)、YOYO−1色素を用いて画像化され、その後、この色素が除去され、蛍光標識された硫黄求核剤と反応され、その結果、目的のDNAがある1つの色で標識され、コントロールDNAが第二の色で標識される。後者の画像は電子的に差し引かれ、その結果、5−メチルシトシンがポジティブシグナルとして見られ、これは次いで、記載されるように(S.Zhouら、Genome res.(2003)13,2142−2151)、YOYO−1データに由来する全ゲノムマップにオーバーレイされる。この様式において、全遺伝子のメチル化プロモーター領域が見られ、関連するゲノム配列との比較によって同定される。
【0064】
改善されたシグナル対ノイズ比が、式Iの硫黄求核剤(式中、Rおよび/またはRは化学発光画像化を可能にする部分を提供する)の使用によって得られ得る。
【0065】
根本的に異なるスキャニングアプローチは、原子間力顕微鏡の適応を用いる(K.Virnikら、J.Mol.Biol.(2003)334,56−63)。基本的な考えは、異なる形で反応したDNAをAFMの異なる読み出しとして分析することである。
【0066】
上記の方法による全体のメチル化DNAの分析は、比較的単純であり、熟練者によって操作される洗練された高価な機器を必要としない。これらの特徴は、臨床的設定において特に有利である。
【0067】
いくつかの実施形態において、シトシンをウラシルに変換するための方法は、少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸を、亜硫酸イオンと上記の式Iに従う求核性有機硫黄化合物、または式Iに従うその塩とを含む混合物と反応させる工程を包含する。この反応において、亜硫酸イオンが求核性有機硫黄化合物よりも迅速に反応することが企図される。次いで、亜硫酸塩は、求核性有機硫黄化合物によって置換される。次いで、メチル化状態が公知の技術に従って評価され得る。このアプローチは、標識求核剤および標識されていない求核剤と使用され得るが、標識求核剤との使用が特に好ましい。
【0068】
本明細書に記載される実施例は、本発明を例示するために選択されており、制限することを意図しない。当業者は、本明細書に開示される本発明の範囲および精神から逸脱しないさらなる実施形態を容易に認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸においてシトシンをウラシルに変換するための方法であって、
少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含む核酸を提供する工程;および
該核酸を求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記求核性有機硫黄化合物が、式I:
【化1】

の化合物、またはその塩であり、ここで、
およびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシからなる群より選択され、その各々は必要に応じて置換され得るか;
あるいはRおよびRは結合して、必要に応じてN、SおよびOから選択される1もしくは2個のさらなるヘテロ環原子を有する4〜8員環を形成し得、該環は必要に応じて1以上の置換基で置換される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Rおよび前記Rのアミノが、式NRを有し、該Rおよび該Rのアルコキシが式ORを有し;
ここで、R、RおよびRは各々独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−ヒドロキシエチル、および2−メトキシエチルからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機硫黄化合物が式Iの塩であり、RおよびRのうちの一方が、リチウム、ナトリウム、マグネシウムおよびアンモニウムから選択されるカチオンとイオン結合を形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記反応工程が、亜硫酸イオンおよび前記求核性有機硫黄化合物を含む混合物を用いて行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
シトシンのメチル化状態を評価するための方法であって、
不明なメチル化状態の少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含むサンプル核酸を提供する工程;および
該核酸を、放射性標識置換基を含む求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記求核性有機硫黄化合物が、式I:
【化2】

の化合物、またはその塩であり、ここで、
およびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシ、ならびに放射性標識置換基からなる群より選択され、ここで該アルキル、アリール、アミノ、アルコキシ、およびアリールオキシの各々が、必要に応じて置換され得;
ここで、RおよびRのうちの少なくとも一方が、放射性標識置換基を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
既知の非メチル化状態の少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含むコントロール核酸を提供する工程;
該核酸を同一の前記求核性有機硫黄化合物と反応させる工程;および
前記サンプルおよびコントロールの放射活性のレベルを比較し、メチル化シトシンおよび非メチル化シトシンの反応割合に基づいて、該サンプル中のメチル化シトシン相対含量を決定する工程
をさらに包含する、方法。
【請求項10】
前記Rおよび前記Rのアミノが、式NRを有し、該Rおよび該Rのアルコキシが、式ORを有し;
ここで、R、RおよびRは各々独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−ヒドロキシエチル、および2−メトキシエチルからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記有機硫黄化合物が、式Iの塩であり、RおよびRの一方が、リチウム、ナトリウム、マグネシウムおよびアンモニウムから選択されるカチオンとイオン結合を形成する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記反応工程が、亜硫酸イオンおよび前記求核性有機硫黄化合物を含む混合物を用いて行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
シトシンのメチル化状態を評価するための方法であって、
不明なメチル化状態の少なくとも1つのシトシンを含むサンプル核酸を提供する工程;および
該核酸を、蛍光部分または化学発光部分を含む求核性有機硫黄化合物と反応させる工程
を包含する、方法。
【請求項14】
前記求核性有機硫黄化合物が、式I:
【化3】

の化合物、またはその塩であり、ここで、
およびRは各々独立して、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アミノ、アルコキシおよびアリールオキシ、ならびに放射性標識置換基からなる群より選択され、ここで、該アルキル、アリール、アミノ、アルコキシおよびアリールオキシの各々は、必要に応じて置換され得;
ここで、RおよびRのうちの少なくとも1つが、蛍光部分または化学発光部分を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Rおよび前記Rのアミノが、式NRを有し、該Rおよび該Rのアルコキシが、式ORを有し;
ここで、R、RおよびRは各々独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−ヒドロキシエチル、および2−メトキシエチルからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記有機硫黄化合物が、式Iの塩であり、RおよびRのうちの一方が、リチウム、ナトリウム、マグネシウムおよびアンモニウムから選択されるカチオンとイオン結合を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記放射性標識置換基が、Hおよび14Cのうちの一方を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法であって、
既知の非メチル化状態の少なくとも1つのシトシン核酸塩基を含むコントロール核酸を提供する工程;
該コントロール核酸を同一の前記求核性有機硫黄化合物と反応させる工程;および
該サンプルおよびコントロールの光学活性のレベルを検出し比較して、メチル化シトシンの相対含量を決定する工程
をさらに包含する、方法。
【請求項19】
前記反応工程が、亜硫酸イオンおよび前記求核性有機硫黄化合物を含む混合物を用いて行われる、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2008−515784(P2008−515784A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532609(P2007−532609)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/033639
【国際公開番号】WO2006/034264
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500069057)アプレラ コーポレイション (120)
【住所又は居所原語表記】850 Lincoln Centre Drive Foster City CALIFORNIA 94404 U.S.A.
【Fターム(参考)】