説明

メモリ素子、データ記録方法及びICタグ

【課題】構造が単純で製造が容易なメモリ素子を提供すること。
【解決手段】メモリ素子10は、第1の電極13、第2の電極16、第3の電極18を有する。またメモリ素子10は、第1の電極13と加熱ヒータ部15との間に介在する記憶部14を有する。加熱ヒータ部15の上に第3の電極18が配置されており、また加熱ヒータ部15の側部に第2の電極16が配置されている。記憶部14は、長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物を含む。加熱ヒータ部15の加熱により記憶部14の加熱処理を行い、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つ記憶部を選択的に形成させて情報の書き込みを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性液晶化合物を用いたメモリ素子、データ記録方法及びICタグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンや化合物半導体に替わる半導体素材として有機半導体が注目されている。従来の半導体による半導体素子は高真空下、高温下の製造プロセスが不可欠であるため製造コストの低減が困難である。これに対して、有機物が半導体素材として使用できれば、半導体塗液の塗布や室温域での真空蒸着等の単純なプロセスによって半導体素子が形成可能になる。
【0003】
ところで本発明者らは、先に、長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する液晶化合物は、スメクチック相の液晶状態で電圧を印加するか、又はスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加することにより、光励起なしで優れた電荷輸送能を有することを見出し、該液晶化合物を、例えば有機エレクトロルミネッセンス材料や薄膜トランジスター等の有機半導体素子或いは情報記録媒体に用いることを提案した(例えば、特許文献1〜6参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−6271号公報
【特許文献2】国際公開第2004/85359号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/85360号パンフレット
【特許文献4】特開2004−311182号公報
【特許文献5】特開2005−142233号公報
【特許文献6】特開2006−342318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の液晶化合物を含む導電性液晶化合物を用いた新規なメモリ素子、これを用いたデータ記録方法及びICタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、導電性液晶化合物を含む記憶部を選択的に加熱して該液晶化合物の液晶状態の分子配向を利用して情報を記憶するメモリ素子であって、
互いに平行に一方向へ伸びる複数の第1の電極と、
各第1の電極上に所定間隔をおいて不連続に位置し、且つ長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物を含む複数の記憶部であって、第1の電極の延びる方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置され、且つ第1の電極と交差する方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置されている該記憶部と、
各記憶部上に配置され、該記憶部を加熱する複数の加熱ヒータ部と、
第1の電極と交差するように、互いに平行に一方向へ伸びると共に、その延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部の側部に配置され且つ該加熱ヒータ部と接続している複数の第2の電極と、
第2の電極と同方向へ且つ互いに平行に一方向へ伸びると共に、その延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部の上部に配置され且つ該加熱ヒータ部と接続している複数の第3の電極とを有することを特徴とするメモリ素子を提供するものである。
【0007】
また本発明は、前記のメモリ素子を用いたデータ記録方法であって、
液晶分子配列を持っていない状態の導電性液晶化合物を含む前記記憶部に対し、第2の電極と第3の電極との間に電圧を印加して加熱ヒータ部を駆動することで該記憶部の加熱処理を行い、該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つ記憶部を選択的に形成させることを特徴とするデータ記録方法を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記のメモリ素子を用いたデータ記録方法であって、電極に対して垂直な液晶分子配列を持つか、又は液晶分子配列が無秩序な状態の導電性液晶化合物を含む前記記憶部に対し、第2の電極と第3の電極との間に電圧を印加して加熱ヒータ部を駆動することで該記憶部の加熱処理を行い、誘電率異方性及び磁化率異方性を利用し、電場又は磁場をかけることによって、該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、該導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光するスポットを形成させ、1スポットに光学的に多重記録することを特徴とするデータ記録方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記のデータ記録方法により記録されたデータの読み出し方法であって、
前記導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光する記憶部に励起光を照射し、それによって生じた蛍光偏光の振動方向に、偏光板の透過軸の方向を合わせることを特徴とする多重記録されたデータの読み出し方法を提供するものである。
【0010】
更に、本発明が提供する第3の発明は、第1の発明のメモリ素子を用いてなることを特徴とするICタグである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメモリ素子においては、加熱ヒータ部を作動させるだけで情報を記録することができるので、素子の構造が単純なものとなる。したがって、メモリ素子の作製からICタグの作製までを単純なプロセスにより行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明のメモリ素子の一実施形態を示す平面図が示されている。また図2には、図1に示すメモリ素子の分解斜視図が示されている。図3ないし図6は、それぞれ図1におけるIII−III線断面図、IV−IV線断面図、V−V線断面図、及びVI−VI線断面図である。
【0013】
本実施形態のメモリ素子10は、下部基板11と上部基板12とを備える。各基板は、X方向及びこれに直交するY方向を有する矩形状のものである。下部基板11の上には、複数の第1の電極13が直接設けられている。各第1の電極13は、何れも同じ幅を有する帯状のものであり、互いに平行に一方向に延びている。第1の電極13が延びる方向は、基板11,12のY方向と一致している。隣り合う第1の電極間の距離は何れも同じになっている。なお、本明細書において、「幅」と言うときには、X方向における長さを意味する。
【0014】
各第1の電極13の直上には、所定間隔をおいて複数の記憶部14が不連続に設けられている。記憶部14は、第1の電極13の上に直接設けられている。記憶部14の幅は、第1の電極13の幅と等しくなっている。記憶部14の長さは、記憶部14の幅よりも若干大きくなっている。各記憶部14は、メモリ素子10を平面視したときに、格子の交点に位置するように配置されている。つまり、記憶部14は、基板11,12のY方向、即ち第1の電極13の延びる方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置され、且つ基板11,12のX方向、即ち第1の電極13延びる方向と直交する方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置されている。
【0015】
各記憶部14の直上には加熱ヒータ部15が直接形成されている。加熱ヒータ部15は、記憶部14を加熱するために用いられる。加熱ヒータ部15の幅は、記憶部14及び第1の電極13の幅と等しくなっている。加熱ヒータ部15の長さは、記憶部14の長さよりも若干短くなっている。したがって、図2及び図3に示すように、Y方向に関し、記憶部14は、加熱ヒータ部15の端部から若干延出している。記憶部14と同様に、加熱ヒータ部15は、メモリ素子10を平面視したときに、格子の交点に位置するように配置されている。つまり、加熱ヒータ部15は、基板11,12のY方向、即ち第1の電極13の延びる方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置され、且つ基板11,12のX方向、即ち第1の電極13の延びる方向と直交する方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置されている。
【0016】
Y方向における加熱ヒータ部15の側部には、第2の電極16が複数配置されている。第2の電極16は、第1の電極13と交差するように、互いに平行に一方向へ延びている。具体的には、第2の電極16は、第1の電極13と直交するように、X方向へ延びている。各第2の電極16は、何れも同じ幅を有する帯状のものである。隣り合う第2の電極間の距離は何れも同じになっている。各第2の電極16は、その延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部15と接続している。
【0017】
図1〜図6に示すように、メモリ素子10において、第2の電極16は絶縁部17内に格納され、第2の電極16と、後述する第3の電極18とは電気的に分離されている。第2の電極16は、加熱ヒータ部15を介して唯一接続されている。このため、第2の電極16と第3の電極18との間で電圧を印加することにより、加熱ヒータ部15を駆動させることができる。
【0018】
加熱ヒータ部15の上には、第3の電極18が配置されている。第3の電極18は、何れも同じ幅を有する帯状のものであり、互いに平行に一方向に延びている。第3の電極18が延びる方向は、基板11,12のX方向と一致している。即ち、第2の電極16の延びる方向と一致している。図3に示すように、Y方向における第3の電極18の長さは、同方向における加熱ヒータ部15の長さよりも若干小さくなっている。第3の電極18は、第2の電極16の延びる方向(即ちX方向)に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部15の直上に配置されている。
【0019】
第3の電極18は、所定の幅を有する細長い平板状の基部18aと、基部18aの下面から垂下した直方体状の凸部18bとから構成されている。凸部18bは、基部18bの長手方向に沿って一定の間隔をおいて断続的に設けられている。凸部18bの配置間隔は、基板11,12のX方向、即ち第2の電極16の延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす各加熱ヒータ部15の配置間隔と一致している(図5参照)。そして、第3の電極18は、凸部18bの下面において、当該一直線の列をなす各加熱ヒータ部15と接続している。第3の電極18のその他の部位は、加熱ヒータ部15とは接続していない。なお、第3の電極18は、その基部18aの上面において、上部基板12と直接接している。
【0020】
下部基板11及び上部基板12の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス、合成樹脂類、天然樹脂類が単体又は混合体、共重合体或いは複合体として用いられる。具体的には、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、変性PPO樹脂、ポリブチレンフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファルド樹脂等の熱可塑性樹脂、もしくはそれらの材料の複合による樹脂の混合体、共重合体等を用いることができる。更には、ガラス繊維又は顔料、充填剤の添加による強化樹脂等が挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ(3ヒドロキシブチレート−ヒドロキシヴァリレート)、ポリビニルアルコール樹脂などの生分解性樹脂を用いることができる。更にはそれら樹脂単体又は樹脂混合体、共重合体を用いることができる。
【0021】
第1の電極13に使用される材料は、導電性のものであればその種類に特に制限はなく、例えば白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペースト及びカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が挙げられる。或いはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。中でも半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0022】
第1の電極13は、その幅が例えば0.1〜200μm、特に5〜100μmのものである。またその厚みが例えば0.01〜2μmのものである。
【0023】
記憶部14は、本実施形態のメモリ素子10において情報記録媒体となる導電性液晶化合物を含む。記憶部14は、通常、液晶分子配列を持っていない状態の導電性液晶化合物を含む。記憶部14は、後述する加熱ヒータ部15によって選択的な加熱処理を受け、選択的に加熱処理された記憶部のみがスメクチック相の分子配列を形成する。この記憶部(スメクチック液晶状態のスポット)は室温下においても導電性を持つと同時に光学的異方性を持つ。したがって本実施形態のメモリ素子10は、電気的な読み出しに不具合が生じた場合においても光学的方法により情報の読み出しができるので、バックアップ機能に優れたものである。
【0024】
記憶部14は、長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物を含むものである。記憶部14は、該導電性液晶化合物を好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含む。該導電性液晶化合物の含有率を70重量%以上とすることで、スメクチック相の分子配列を保持させることが容易になる。また、加熱処理を施すことで記憶部14の導電性が高くなり、加熱ヒータ部15の加熱処理による情報の記録が容易となる。
【0025】
記憶部14は、その幅が、上述のとおり第1の電極13の幅と等しい。記憶部14の長さは0.1〜200μm程度であることが好ましい。記憶部14の厚みは0.01〜2μm程度であることが好ましい。
【0026】
前記の長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物(以下、「本発明に係る導電性液晶化合物」ともいう)としては、下記一般式(3a)〜(3g)で表される導電性液晶化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
前記一般式(3a)〜(3g)で表される本発明に係る導電性液晶化合物の式中のR1及びR2は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、F、−C(O)O(CH2m−CH3、−C(O)−(CH2m−CH3、又は下記一般式(2)を示す。nは1〜3の整数を示す。
【0029】
【化3】

【0030】
前記一般式(3a)〜(3g)の式中のR1又はR2の前記アルキル基としては、炭素数3〜20のものが好ましく用いられる。アルキル基の具体例としては、例えば、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。特に、分岐状のアルキル基が一般式CH3−(CH2x−CH(CH3)−(CH2y−CH2−(式中、xは0〜7の整数、yは0〜7の整数を示す)で表されるアルキル基の場合は各種溶媒への溶解性を向上させることができる。前記アルコキシ基としては、一般式Cn2n+1O−で表される式中のnが3〜20の整数であることが好ましい。特に、分岐状のアルコキシ基が一般式CH3−(CH2x−CH(CH3)−(CH2y−CH2−O−(式中、xは0〜7の整数、yは0〜7の整数を示す)で表されるアルコキシ基の場合は各種溶媒への溶解性を向上させることができる。式中のAとしては、下記一般式(4a)〜(4e)の基が挙げられる。
【0031】
【化4】

【0032】
前記本発明の導電性液晶化合物はシス体、トランス体或いはその混合物であってもよい。
【0033】
本発明に係る導電性液晶化合物は、特に、下記一般式(1)で表されるスチレン誘導体であることが好ましい。
【0034】
【化5】

【0035】
一般式(1)で表されるスチリル誘導体は、下記反応式(1)、下記反応式(2)又は下記反応式(3)にしたがって容易に製造することができる。
【0036】
即ち、反応式(1)によれば、式中のR1とR2が同一の基を有し、nが2のスチリル誘導体を得ることができる。反応式(2)によれば、式中のR1とR2が異なる基を有し、nが2のスチリル誘導体を得ることができる。反応式(3)によれば、nが3のスチリル誘導体を得ることができる。
【0037】
【化6】

【0038】
反応式(1)の反応は、具体的には、ベンズアルデヒド誘導体(化合物(5))を、p−キシレンビス−(トリフェニルホスホニウムブロマイド)(化合物(6))に対して、好ましくは2〜4倍モル、更に好ましくは2〜2.5倍モルで用い、またアルコキシド等の塩基をp−キシレンビス−(トリフェニルホスホニウムブロマイド)(化合物(6))に対して好ましくは1〜5倍モル、更に好ましくは3.5〜4.5倍モルで用い、メタノール、エタノール等のアルコール等の溶媒中で、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは20〜50℃で、好ましくは0.5〜50時間、更に好ましくは5〜30時間行う。この反応により、目的とする一般式(1)で表されるスチリル誘導体(化合物(1−1))を得ることができる(特開2004−6271号公報及び国際公開第2004/085360号公報参照)。
【0039】
【化7】

【0040】
反応式(2)の反応は、具体的には、ホスホニウム塩(化合物(8))をベンズアルデヒド誘導体(化合物(7))に対して好ましくは1〜3倍モル、更に好ましくは1〜1.5倍モルで用い、またアルコキシド等の塩基をベンズアルデヒド誘導体(化合物(7))に対して好ましくは1〜4倍モル、更に好ましくは2〜3倍モルで用い、メタノール、エタノール等のアルコール等の溶媒中で好ましくは−20〜50℃、更に好ましくは−5〜25℃で、好ましくは1〜20時間、更に好ましくは5〜15時間行う。この反応により、目的とする一般式(1)で表されるスチリル誘導体(化合物(1−2))を得ることができる(国際公開第2004/085359号公報参照。)。
【0041】
【化8】

【0042】
反応式(3)の反応は、具体的には、ホスホニウム塩(化合物(9))をベンズアルデヒド誘導体(化合物(7))に対して好ましくは0.9〜1.1倍モル、更に好ましくは1倍モル程度で用い、またアルコキシド等の塩基をホスホニウム塩(化合物(9))に対して好ましくは0.8〜5倍モル程度で用い、メタノール、エタノール等のアルコール等の溶媒中で、好ましくは0〜150℃、更に好ましくは30〜80℃で、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10〜30時間行う。これにより、目的とする一般式(1)で表されるスチリル誘導体(化合物(1−3))を得ることができる(特願2006−37149号参照。)。
【0043】
更に、反応式(1)、反応式(2)又は反応式(3)の反応において、得られたスチリル誘導体(化合物(1−1、1−2、1−3))をヨウ素の存在下に溶媒中で加熱処理することにより、該スチリル誘導体(化合物(1−1、1−2、1−3))に相当するトランス体を選択的に得ることができる。この場合、ヨウ素の添加量はスチリル誘導体(化合物(1−1、1−2、1−3))に対して好ましくは0.001〜0.1倍モル、更に好ましくは0.005〜0.01倍モルである。加熱処理温度は好ましくは100〜180℃、更に好ましくは130〜150℃である。この際、用いることができる溶媒は、例えばベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は1種又は2種以上で用いることができる。
【0044】
更に、記憶部14の構成材料として、アルキル鎖の長さが異なる前記一般式(1)で表されるスチリル誘導体から選ばれた化合物を2成分以上用いることにより、液晶分子のスメクチック相の分子配列の記憶が向上し、室温域に戻った状態でもスメクチック相の分子配列をほぼ完全に記憶させることができるので特に好ましい。また、特に導電性が高いものが得られるので特に好ましい。
【0045】
この場合、アルキル鎖の長さが異なる前記一般式(1)で表されるスチリル誘導体どうしの組合せが好ましく、アルキル鎖の長さが異なる炭素数3〜18の任意の2成分以上の化合物の組合せが特に好ましい。このアルキル鎖とは、本発明において、R1とR2がアルコキシ基の場合は、一般式;Cn2n+1O−のアルコキシ基の式中の「Cn2n+1」のアルキル基の部分を示す。
【0046】
記憶部14に使用される特に好ましい組合せは、前記一般式(1)で表されるスチリル誘導体の式中のR1とR2が、炭素数12〜18のアルキル基又は一般式;Cn2n+1O−(式中、nは12〜18の整数。)で表されるアルコキシ基から選ばれる基を有するジスチリル誘導体(A)と、前記一般式(1)で表されるスチリル誘導体の式中のR1とR2が炭素数6〜11のアルキル基又は一般式;Cn2n+1O−(式中、nは6〜11の整数。)で表されるアルコキシ基から選ばれる基を有するスチリル誘導体(B)との組合せである。
【0047】
記憶部14を、前記2成分以上の混合物から構成する場合、スメクチック相の液晶相を示す温度範囲が好ましくは100〜250℃、更に好ましくは130〜250であると、少なくとも100℃程度、好ましくは130℃程度の実用的な温度での耐熱性を有し、また、特に室温域での導電性が高いものが得られる点で好ましい。この理由により、記憶部14を、前記2成分以上の混合物から構成する場合、スメクチック相の液晶相を示す温度範囲が好ましくは100〜250℃、更に好ましくは130〜250℃となるように、各成分の配合割合を適宜調整することが好ましい。各成分の配合割合は、用いる長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物によって大きく異なるが、例えば、本発明において好ましい組合せの一つである前記スチリル誘導体(A)として前記一般式(1)の式中のR1とR2がC1531O−のアルコキシ基であるスチリル誘導体を用い、前記スチリル誘導体(B)として前記一般式(1)の式中のR1とR2がC1021O−のアルコキシ基であるスチリル誘導体を用いる場合には、前記スチリル誘導体(A)に対するモル比で前記スチリル誘導体(B)が0.90〜1.10、好ましくは1である。
【0048】
本発明では、記憶部14を、少なくとも誘電率異方性及び磁化率異方性が正の導電性液晶化合物を含んで構成することにより、効率的に液晶状態の分子配列を制御して、データ記録を行うことができる。前記誘電率異方性及び磁化率異方性が正の導電性液晶化合物としては、一般式(3a)〜(3g)で表される化合物の式中のR1又はR2の何れかがシアノ基、ニトロ基である導電性液晶化合物が好ましく用いられる。該誘電率異方性及び磁化率異方性が正の導電性液晶化合物の配合量は10重量%以上、特に30重量%以上とすることが望ましい。
【0049】
加熱ヒータ部15は、記憶部14を加熱処理し、該記憶部14中の導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つ記憶部14を選択的に形成させる機能を有する。更に、加熱ヒータ部15を介して記憶部14の導電性の有無の検出を、第1の電極13と第3の電極18との間で行う。
【0050】
加熱ヒータ部15の材質は、通電により発熱するものであればその種類に特に制限はなく、例えば熱分解グラファイト、モリブデン、タンタル、タングステン、Ni−Cr系合金、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Al系合金等が用いられる。加熱ヒータ部15は、その幅が、第1の電極13の幅と等しい。加熱ヒータ部15の厚みは0.1〜1μm程度であることが好ましい。
【0051】
第2の電極16及び第3の電極18の材質は、導電性を有するものであればその種類に特に制限はなく、例えば第1の電極13の材料と同様のものを用いることができる。第2及び第3の電極16,18の幅及び厚みは、第1の電極13と同様とすることができる。
【0052】
絶縁部17の材質は、絶縁性のものであればその種類に特に制限はなく、例えばポリイミド、ポリクロロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルクロライド、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、ポリサルフォン、ポリカーボネート、窒化アルミニウムや、その他、アルミナ、SiO2、ムライト、コージェライト等の酸化物セラミック、窒化ケイ素、及び、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0053】
本実施形態のメモリ素子10においては、電気的な読み出しだけでなく、光学的方法により読み出し可能にするため、少なくとも下部基板11及び第1の電極13は透明性のものを使用することが好ましい。
【0054】
本実施形態のメモリ素子10における各電極13,16,18は、それぞれ該メモリ素子10を駆動させるための半導体集積回路等の電気回路(図示せず)に電気的に接続される。
【0055】
本実施形態のメモリ素子10においては、前記導電性液晶化合物を含む記憶部14を加熱ヒータ部15により選択的に加熱処理することによりデータ記録を行う。詳細には、液晶分子配列を持っていない状態の前記導電性液晶化合物を含む記憶部14に対し、第2の電極16と第3の電極18との間に電圧を印加して加熱ヒータ部15を駆動することで選択的に記憶部14の加熱処理を行い、該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つスポットを形成させ、該導電性を持つスポットと非導電性のスポット及び光学異方性の相違により情報を記録することができる。この方法によれば、電気的方法及び光学的方法の異なる2つの方法の何れでも情報の読み出しが可能である。かかるメモリ素子10を用いたデータ記録は、例えば次のようにして行うことができる。
【0056】
即ち、本実施形態のメモリ素子10を用いたデータ記録においては、第2の電極16と第3の電極18との間に電圧を印加することにより、加熱ヒータ部15が、予め設定された温度まで加熱される。この加熱によって記憶部14中の導電性液晶化合物をスメクチック相の液晶状態にする。複数の記憶部14のうち、加熱処理されないものは絶縁性である。これに対して、加熱ヒータ部15で加熱処理された記憶部14のみが、スメクチック相の液晶状態となり、加熱処理後、室温下においてもスメクチック相の分子配列がほぼ完全に保持された固体状態となり、極めて高い導電性と光学異方性を示す。このため、例えば図7(a)に示すように、絶縁状態で光学的異方性も示さない状態の導電性液晶化合物を含む記憶部を選択的に加熱処理して、図7(b)に示すようにスメクチック液晶状態の記憶部を形成させることにより、この記憶部は極めて高い導電性と光学異方性を示すようになる。その結果、非導電性部分と導電性部分或いは光学異方性の相違により同時にデータの記録を行うことができる。メモリ素子10からの情報の読み取りにおいては、非導電性部分と導電性部分の読み出しは、図7(c)に示すように第1の電極13と第3の電極18間に電圧を印加することで行うことができる。
【0057】
加熱ヒータ部15の加熱処理温度は、記憶部14中の導電性液晶化合物がスメクチック液晶状態をとる温度以上で且つ該化合物が分解する温度までの間の温度であれば特に制限されるものではない。前述した好ましい導電性液晶化合物を使用する場合には100〜250℃、特に130〜250℃とすることが好ましい。加熱ヒータ部15の温度調整は、加熱ヒータ部15に供給する電流量を調整することにより行うことができる。
【0058】
本実施形態のメモリ素子10において、データ記録前(加熱処理前)における、記憶部14に含まれるすべての前記導電性液晶化合物に占める前記「液晶分子配列を持っていない状態の導電性液晶化合物」の割合は、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。該割合を95重量%以上とすることで、記録されたデータの信頼性が十分に高くなる。
【0059】
前記加熱処理により図8に示すように、記憶部14に、高導電性・光学異方性を示すスポット[1]と、低導電性・高光学的異方性を示すスポット[0]とによる[0][1]記載によりデータが記録される。本実施形態の[0][1]記載のメモリ素子10は、既存の読み取り回路に接続して[0][1]を読み込むことができる。
【0060】
本実施形態のメモリ素子10においては、電極に対して垂直な液晶分子配列を持つか、又は液晶分子配列が無秩序な状態の導電性液晶化合物を含む記憶部14を加熱ヒータ部15で選択的に加熱処理を行ったスポットは、導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光するスポットを形成する。したがって、本実施形態のメモリ素子10を用いたデータ記録方法は、液晶分子配列を持っていない状態の前記導電性液晶化合物を含む記憶部14に対し、第2の電極16と第3の電極18との間に電圧を印加して加熱ヒータ部15を駆動することで記憶部14の加熱処理を行い、誘電率異方性及び磁化異方性を利用して、電場又は磁場をかけることによって該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、該導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光するスポットを形成させ、1スポットに光学的に多重記録する形態も含む。
【0061】
この光学的に多重記録する方法は、記憶部14の加熱処理による液晶化合物の分子配列の生成と液晶化合物の分子長軸方向が磁場方向に配向する性質を利用する。なお、磁界強度は強くても特に問題はなく、多くの場合0.3テスラ以上、好ましくは0.5テスラ以上とすることが望ましい。例えば、分子配列1スポットに光学的に多重記録させるには図9に示すように、次の(1)〜(4)の各操作を順次行えば1スポットに光学的に4つの情報を多重記録することができる。
【0062】
(1)すべての記憶部14を加熱ヒータ部15で加熱処理し、垂直方向(Z軸方向)に電磁気等で磁場をかけ冷却することで、分子長軸方向の分子配列が垂直方向(Z軸方向)に配列する(図9の(1)参照)。
(2)磁場をかけずに加熱ヒータ部15で記憶部14を加熱処理することにより、分子長軸方向の分子配列が、X軸−Y軸面に対して水平方向になり、且つ各分子の分子長軸方向の向きがランダムに配列する(図9の(2)参照)。
(3)記憶部14を加熱ヒータ部15で加熱処理し、X軸方向に磁場をかけ冷却することで、分子長軸方向の分子配列がX軸に対して水平方向に配列する(図9の(3)参照)。
(4)記憶部14を加熱ヒータ部15で加熱処理し、Y軸方向に電磁気等で磁場をかけ冷却することで、分子長軸方向の分子配列がY軸に対して水平方向に配列する(図9の(4)参照)。
【0063】
1スポットに光学的に多重記録されたデータの読み出し(多重記録されたデータの読み出し)を行うために、少なくとも下部基板11及び第1の電極13は透明な材質のものを使用することが好ましい。
【0064】
上述のデータ記録方法によりメモリ素子10に記録されたデータの読み出し(多重記録されたデータの読み出し)は、前記導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光するスポットに励起光を照射し、それによって生じた蛍光偏光の振動方向に、偏光板の透過軸の方向を合わせる方法により行うことができる。或いは、前記のスポットに励起光を照射し、平面的にCCDカメラで各分子配列による発光強度の相違を認識する方法により行うこともできる。更に、前記のスポットに励起光を照射し、1列毎にスキャンして、各分子配列による発光強度の相違を認識する方法により行うこともできる。また、照射する励起光として、偏光の紫外光を当てることにより、各スポットの反射光の強度を読み取りやすくすることができる。一方、読み取り側では、1方向の偏光蛍光を検出できるように偏光板を置くことで、発光強度の相違を読み取ることができる。
【0065】
記憶部14中の導電性液晶化合物のスメクチック液晶状態は可逆的である。したがって、図10(a)に示すように、第2の電極16と第3の電極18との間に電圧を印加して加熱ヒータ部15を駆動し、スメクチック液晶状態を示す以上の温度となるように記憶部14に再加熱処理を行い、次いで図10(b)に示すように、第1の電極13と第3の電極18との間に閾値以上の電圧をかけるか、又は垂直に磁場を印加する等の手段を用い、分子配向を電極に垂直に揃えるか又は分子配向を乱すことにより、低導電性・低光学的異方性を示す状態になり、情報の消去が行われる。その後、再び第2の電極16と第3の電極18との間に電圧を印加して加熱ヒータ部15を駆動し記憶部14の加熱処理を行うことにより、再記憶が可能になる。
【0066】
本実施形態のメモリ素子10は、例えば下記(A1)〜(A6)工程によって好適に製造することができる。
(A1)下部基板11上にフォトリソグラフィで第1の電極13の電極線パターンを形成する。
(A2)低抵抗金属を電極線として用い、蒸着又はスパッタで製膜し第1の電極13を形成する。
(A3)フォトリソグラフィで絶縁部17のパターンを形成し、スピンコーティング等の塗布方法で絶縁部17を製膜する。
(A4)第1の電極13の電極線金属上における記憶部14を形成すべき部分に、真空蒸着やスピンコーティングによって、記憶部14となる液晶化合物の薄膜を形成する。
(A5)記憶部14上における加熱ヒータ部15となるべき部分に、加熱用金属のパターンを真空蒸着やスパッタで製膜する。
(A6)第2の電極16及び第3の電極18となるべき電極線用金属のパターンを、真空蒸着やスパッタで製膜する。
【0067】
以上の工程では、IC製造工程と同様のフォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0068】
次に、本発明のICタグについて説明する。本発明のICタグは、前述した本発明のメモリ素子を用いてなることを特徴とするものである。以下、本発明のICタグを、図11を用いて説明する。図11は、本発明のICタグの一実施形態を示す上面図である。
【0069】
図11に示すように、ICタグ20は、フィルム状のプラスチック基板21と、プラスチック基板21上に設けられたアンテナ部22及び集積回路部23とを備える。また、絶縁層24が、アンテナ部22を構成するアンテナ線の始点と終点との間にあるアンテナ線を覆っている。そして絶縁層24の上を跨ぐように、アンテナ線の始点と終点とがジャンパー線で接続されている。集積回路部23には、前述した本発明のメモリ素子が設けられている。ICタグ20は、その表面に保護膜を更に備えていてもよい。また、ICタグ20の裏面に粘着効果を持たせることで、菓子袋やドリンク缶のような曲面形状を有するものに、ICタグ20を貼り付けて使用することができる。
【0070】
前記フィルム状のプラスチック基板21の材質は特に限定されるものではなく、一般的にICカードやICタグに用いられる樹脂が用いられる。そのような樹脂としては、例えば下部基板11の構成材料として先に例示したものと同様のものが挙げられる。
【0071】
アンテナ部22の構成材料は、導電性のものであればその種類に特に制限はない。そのような材料としては、例えば第1ないし第3の電極の構成材料として先に例示したものと同様のものを用いることができる。
【0072】
アンテナ部22の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。特にスクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等の印刷法が好ましい。印刷法を適用する場合、必要に応じて導電性ペーストにバインダ樹脂を含有させ基板への接着性を向上させることができる。
【0073】
以上のようにしてアンテナ部22を形成した後、本発明のメモリ素子を備えた集積回路部23を実装してICタグを製造する。集積回路部23とアンテナ部22を接続する接着材料としては、公知の異方導電性フィルム、異方導電性ペースト、絶縁性ペースト等を用いることができる。塗布方法としては、ディスペンス法や印刷法等が挙げられる。
【0074】
以下に、図11に示すICタグ20の製造方法の具体例を示す。なお、本具体例で使用するメモリ素子は、前記メモリ素子10の製造方法にしたがって製造することができるものである。
【0075】
<ICタグ20の製造方法の具体例>
(1)ポリエチレンテレフタレート製のプラスチック基板21を用い、銀分75重量%、バインダ樹脂15重量%、溶剤10重量%を含む市販の導電性ペーストを用い、ループ状アンテナをスクリーン印刷する。50℃20分の予備乾燥を経て、150℃で30分の焼成を行うことでアンテナ部22を製造する。
(2)ジャンパー部に市販の絶縁ペーストを2回印刷し、更にアンテナを形成したものと同じ導電性ペーストを使用してスクリーン印刷してジャンパー線を製造する。
(3)アンテナ両端に、集積回路部23として、メモリ素子10と、図示しない信号回路ICとを、ACF(異方導電性フィルム(粘着テープ))で圧着して実装する。これによりICタグ20を得る。
【0076】
以上、本発明の一実施形態に係るメモリ素子及びICタグについて説明したが、本発明はこれらに限定されない。例えば、ICタグにおいては、アンテナ部、集積回路部の配置や構成は任意に設定でき、また、信号処理IC等の論理回路部を更に組み込むことも可能である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に限定されるものでない。
【0078】
まず、メモリ素子の記憶部に用いられるスチリル誘導体の調製について説明する。
【0079】
<合成例1;スチリル誘導体(A)>
1,4−ビス(4'−ペンタデカンオキシスチリル)ベンゼン−(E,E)の合成
(1)下記反応式にしたがって下記手順によりp−ペンタデカンオキシベンズアルデヒドを調製した。
【0080】
【化9】

【0081】
100mlの四つ口フラスコを使用して85wt%苛性カリ2.79g(42.3mM)をジメチルホルムアミド30mlに懸濁させ、ここにヒドロキシベンズアルデヒド5.28g(43.2mM)を含むジメチルホルムアミド溶液10mlを20℃以下に保持しながら滴下した。その後30℃で1時間熟成した。次に1−ブロモペンタデカン9.58g(32.9mM)加え、70℃で21時間熟成した。反応液を水に分散後、トルエンで抽出し、水で洗浄後、濃縮して微着色粘ちょう液11.03gを得た。次いでヘキサンで再結晶処理してp−ペンタデカノキシベンズアルデヒド8.91g(純度98.3%)を得た。
【0082】
(2)下記反応式にしたがって下記手順により1,4−ビス(4'−ペンタデカンオキシスチリル)ベンゼン異性体混合物(化合物(1a))を調製した。
【0083】
【化10】

【0084】
30mlの四つ口フラスコを使用して前記で合成したp−ペンタデカンオキシベンズアルデヒド7.87g(23.7mM)、p−キシリレンビス(トリフェニルホスホニウムブロミド)8.65g(11.0mM)をメタノール100mlに懸濁させ、ここに室温(25℃)で28wt%メチラート6.87g(35.6mM)を滴下した。その後還流温度65℃で3時間熟成した。メタノールを留去し、残留物に水200mlを加えて攪拌の後、沈澱物を濾過した。この沈澱物を更に水とアセトンで洗浄し、乾燥して1,4−ビス(4'−ペンタデカノキシスチリル)ベンゼン異性体混合物(化合物(1a))7.49gを得た。同定データとして、1H-NMRの分析データを次に示す。
1H-NMR;7.45ppm(4H,s), 7.42(4H,d), 7.06(2H,d), 6.94(2H,d), 6.88(4H,d), 3.96(4H,t), 1.78(4H,m), 1.2-1.5(48H,m), 0.87(6H,t).
【0085】
(3)下記手順により1,4−ビス(4'−ペンタデカノキシスチリル)ベンゼン−(E,E)を調製した。
100mlのナスフラスコに前記で合成した1,4−ビス(4'−ペンタデカノキシスチリル)ベンゼン異性体混合物7.49g(10.2mM)、ヨウ素20mg(0.08mM)をp−キシレン50mlに懸濁させ、139℃で8時間還流熟成した。反応終了後、沈澱を濾過、次いで乾燥して1,4−ビス(4'−ペンタデカノキシスチリル)ベンゼン−(E,E)7.06g(純度99.9%)を得た。同定データとして、1H-NMRの分析データを次に示す。
1H-NMR;7.45ppm(4H,s), 7.42(4H,d), 7.06(2H,d), 6.94(2H,d), 6.88(4H,d), 3.96(4H,t), 1.78(4H,m), 1.2-1.5(48H,m), 0.87(6H,t).
【0086】
<合成例2;スチリル誘導体(B)>
1,4−ビス(4'−デカンオキシスチリル)ベンゼン−(E,E)の合成
前記合成例1において1−ブロモペンタデカンを1−ブロモデカンに代えた以外は合成例1と条件及び反応操作は同じにして下記一般式(1b)で表される1,4−ビス(4'−デカンオキシスチリル)ベンゼン−(E,E)3.43g(純度99.9%)を得た。同定データとして、1H-NMRの分析データを次に示す。
1H-NMR;7.45ppm(4H,s), 7.43(4H,d), 7.06(2H,d), 6.94(2H,d), 6.87(4H,d), 3.98(4H,t), 1.77(4H,m), 1.2-1.5(28H,m), 0.88(6H,t).
【0087】
【化11】

【0088】
前記合成例1及び合成例2で得られたスチリル誘導体は、偏光顕微鏡による液晶相のtextureの観察により、下記表1に示す相転移を示すことが明らかになった。
【0089】
【表1】

【0090】
<導電性液晶層の評価>
(1−1)
寸法2×2mm、厚さ0.7mmのITO電極のパターンを持つガラス基板各4枚にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(以下、PEDOT−PSSと呼ぶ)をスピンコーティングした。基板上の不要な部分を、イソプロパノールを用いて除去し、次いで200℃で30分間熱処理し、PEDOT−PSSを硬化させてPEDOT−PSS層(膜厚0.1μm)を得た。この基板を真空蒸着装置に取付け、前記合成例1と合成例2で得られたスチリル系誘導体の等モルの混合試料40mgをサンプルボードに入れ、蒸着装置に取り付けた。基板と試料との距離を12cmとして、真空計を見て気化状態を確認しながらサンプルボードに電流を流してゆき、真空蒸着を行った。蒸着終了後、窒素ガスを、乾燥剤を通して導入し、大気圧に戻し、膜厚が300nmのスチリル誘導体を含む導電性液晶層を形成した。
また、前記導電性液晶半導体(合成例1+合成例2)を含む膜の相転移を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
前記(1−1)で調製した4枚の基板を偏光顕微鏡観察したところ暗視野であった。このうち2枚の基板を真空蒸着装置に戻し、窒素雰囲気中に、150℃で3分間加熱処理してスメクチック液晶状態を発現させた。この基板を取り出し、室温下で偏光顕微鏡観察したところ、図12に示すように明視野が確認された。また、前記(1−1)で調製した4枚の基板を真空蒸着装置に戻し、膜厚が300nmのスチリル誘導体を含む導電性液晶層の上にアルミニウムを蒸着し電極を形成して図13に示す素子を作製した。この素子は、導電性液晶層の導電性(電圧と電流量との関係)を評価するためのものである。この素子のITO側にプラス電圧を、アルミ電極側にマイナス電圧を印加し、電圧毎に素子に流れる電流量を測定した。その結果、150℃で加熱処理してスメクチック液晶状態を発現させた基板は、電圧6ボルトにおいて、加熱処理をしないものに対して1,000,000倍の高い導電性を示した(図14参照)。これらの結果から、加熱処理により形成された基板では、スメクチック液晶分子配列が室温においても固定化され導電性及び光学異方性を示すものであることが確認された。これに対して加熱処理を行わなかった基板では、分子配列がバラバラであり絶縁体で光学異方性も示さないものであった。これにより加熱処理の有無により、導電性と絶縁性の状態のもの、或いは光学的異方性の相違があるものが得られることが確認された。
【0093】
(2−1)
寸法2×2mm、厚さ0.7mmのITO電極のパターンを持つガラス基板各4枚にPEDOT−PSSをスピンコーティングした。基板上の不要な部分を、イソプロパノールを用いて除去し、次いで200℃で30分間熱処理し、PEDOT−PSSを硬化させてPEDOT−PSS層(膜厚0.1μm)を得た。この基板を真空蒸着装置に取付け、前記合成例1と合成例2で得られたスチリル系誘導体の等モルの混合試料40mgをサンプルボードに入れた。蒸着角45°で基板と試料との距離を12cmとして、真空計を見て気化状態を確認しながらサンプルボードに電流を流してゆき、真空蒸着を行った。蒸着終了後、窒素ガスを、乾燥剤を通して導入し、大気圧に戻し、膜厚が300nmのスチリル誘導体を含む導電性液晶半導体材料層を形成した。更に真空蒸着装置を用いて、窒素雰囲気中に、150℃で3分間加熱処理してスメクチック液晶状態を発現させた。該液晶化合物の分子長軸方向を偏光顕微鏡により確認し、その分子長軸方向に偏光板の透過軸を合わせ、非偏光紫外線を基板に照射すると偏光板を通過する青色偏光が観察された(図15(a)参照)。次に、その偏光板の透過軸を90度回転させ非偏光紫外線を基板に照射すると偏光板を青色偏光は通過しなかった(図15(b)参照)。基板からは、図15(a)の矢印方向の偏光が出ていて、これをこの方向の透過軸を持つ偏光板で読み取ることができる。したがって、液晶半導体材料の分子長軸の向きの違いにより、多重記録ができ、偏光板の透過軸の角度をそれぞれ分子長軸の向きに合わせることにより、そのそれぞれの読み出しが可能である(図16参照)。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明のメモリ素子の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示すメモリ素子の分解斜視図である。
【図3】図3は、図1におけるIII−III線断面図である。
【図4】図4は、図1におけるIV−IV線断面図である。
【図5】図5は、図1におけるV−V線断面図である。
【図6】図6は、図1におけるVI−VI線断面図である。
【図7】図7(a)ないし(c)は、図1に示すメモリ素子に情報を書き込む状態及び読み込む状態を示す模式図である。
【図8】図8は、図1に示すメモリ素子において、加熱ヒータ部により選択的に加熱処理した後の該メモリ素子内の記憶部の[0]、[1]の書き込み状態を示す模式図である。
【図9】図9は、図1に示すメモリ素子の記憶部の加熱処理及び磁場による分子配向の状態を示す模式図である。
【図10】図10(a)及び(b)は、図1に示すメモリ素子に書き込まれた情報を消去する状態を示す模式図である。
【図11】図11は、本発明のICタグの一実施形態の上面構造を示す模式図である。
【図12】図12は、実施例で調製した導電性液晶層を150℃で3分間加熱処理し、室温(25℃)まで自然冷却して得られた固体状態のものが基板に対して分子配向として水平配向をとっていることが観察された偏光顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実施例で調製した導電性液晶層の導電性(電圧と電流量との関係)を評価するために使用した素子の概略構成図である。
【図14】図14は、実施例で調製した導電性液晶層を加熱してスメクチック液晶状態とした後、自然冷却し固体状態にしたときの電圧と電流量との関係、及び加熱処理を行わなかった該導電性液晶層についての電圧と電流量との関係を示す図である。
【図15】図15は、実施例で調製した導電性液晶半導体材料層を150℃で3分間加熱処理し、室温(25℃)まで自然冷却して得られた固体状態の液晶化合物が分子長軸方向に偏光した蛍光を発光することが観察された偏光顕微鏡写真である。
【図16】図16は、図1に示すメモリ素子において、液晶分子の分子長軸方向と読み取る偏光板の透過軸の方向との関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0095】
10 メモリ素子
11 下部基板
12 上部基板
13 第1の電極
14 記憶部
15 加熱ヒータ部
16 第2の電極
17 絶縁部
18 第3の電極
20 ICタグ
21 プラスチック基板
22 アンテナ部
23 集積回路部
24 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性液晶化合物を含む記憶部を選択的に加熱して該液晶化合物の液晶状態の分子配向を利用して情報を記憶するメモリ素子であって、
互いに平行に一方向へ伸びる複数の第1の電極と、
各第1の電極上に所定間隔をおいて不連続に位置し、且つ長い直線的共役構造部分を持ち液晶相としてスメクチック相を有する導電性液晶化合物を含む複数の記憶部であって、第1の電極の延びる方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置され、且つ第1の電極と交差する方向に沿ってみたときに一直線の列をなし、その列が多列となるように配置されている該記憶部と、
各記憶部上に配置され、該記憶部を加熱する複数の加熱ヒータ部と、
第1の電極と交差するように、互いに平行に一方向へ伸びると共に、その延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部の側部に配置され且つ該加熱ヒータ部と接続している複数の第2の電極と、
第2の電極と同方向へ且つ互いに平行に一方向へ伸びると共に、その延びる方向に沿って配列された一直線の列をなす複数の加熱ヒータ部の上部に配置され且つ該加熱ヒータ部と接続している複数の第3の電極とを有することを特徴とするメモリ素子。
【請求項2】
前記液晶化合物が下記一般式(1)で表されるスチリル誘導体である請求項1記載のメモリ素子。
【化1】

【請求項3】
請求項1記載のメモリ素子を用いたデータ記録方法であって、
液晶分子配列を持っていない状態の導電性液晶化合物を含む前記記憶部に対し、第2の電極と第3の電極との間に電圧を印加して加熱ヒータ部を駆動することで該記憶部の加熱処理を行い、該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つ記憶部を選択的に形成させることを特徴とするデータ記録方法。
【請求項4】
前記記憶部は少なくとも誘電率異方性及び磁化率異方性が正の導電性液晶化合物を含有し、
該導電性液晶化合物の水平又は垂直方向の液晶状態の分子配列の生成を行って、導電性及び光学異方性の2つの性質を同時に持つ記憶部を選択的に形成させる請求項3記載のデータ記録方法。
【請求項5】
請求項1記載のメモリ素子を用いたデータ記録方法であって、
電極に対して垂直な液晶分子配列を持つか、又は液晶分子配列が無秩序な状態の導電性液晶化合物を含む前記記憶部に対し、第2の電極と第3の電極との間に電圧を印加して加熱ヒータ部を駆動することで該記憶部の加熱処理を行い、電場又は磁場をかけることによって、該導電性液晶化合物の液晶状態の分子配列の生成を行って、該導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光するスポットを形成させ、1スポットに光学的に多重記録することを特徴とするデータ記録方法。
【請求項6】
請求項5記載のデータ記録方法により記録されたデータの読み出し方法であって、
前記導電性液晶化合物の分子長軸方向に偏光した蛍光を発光する記憶部に励起光を照射し、それによって生じた蛍光偏光の振動方向に、偏光板の透過軸の方向を合わせることを特徴とする多重記録されたデータの読み出し方法。
【請求項7】
請求項1又は2の何れか1項に記載のメモリ素子を用いてなることを特徴とするICタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−294166(P2008−294166A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137256(P2007−137256)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】