説明

メラニン生成抑制剤

【課題】持続的で優れたメラニン生成抑制作用又は美白作用を奏する美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物を提供すること。
【解決手段】下式(1)


(但し、式中のR1及びR2は、それぞれ水素原子、置換又は非置換のアルキル基又はベンジル基を示す。)で表されるハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤、並びに、該メラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイビスカス酸類を有効成分とするメラニン生成抑制剤、及び該メラニン生成抑制剤を含む美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シミやそばかす等の色素の沈着は、皮膚細胞内でメラニンが生成し、蓄積することによって生じることが知られている。また、皮膚だけでなく口腔内粘膜内でもメラニンが生成するといわれている。
【0003】
メラニンの生成過程については未だ十分に解明されているとはいえないが、その主要な生成過程の一つとして以下に示す過程が明らかとなっている。即ち、(1)皮膚が紫外線を浴びることによって皮膚の表皮細胞に活性酸素が発生する、(2)活性酸素によって細胞が損傷を受け、種々の情報伝達物質が生成・放出される、(3)種々の情報伝達物質によって、チロシナーゼの生成促進および活性化が引き起こされ、メラニンが生成する。
【0004】
従って、メラニンの生成を抑制して肌を白く保つには、皮膚上の活性酸素を消去すること、チロシナーゼの生成を抑制すること、或いはチロシナーゼ活性を阻害すること等が有効な手段として考えられている。
【0005】
これまでにアスコルビン酸等の活性酸素消去剤やコウジ酸やアルブチン等のチロシナーゼ活性阻害剤が美白剤の有効成分として提案されている(特許文献1等参照)。しかしながら、従来の美白剤の有効成分として提案されている物質は、メラニンの生成過程の一部分に作用するに過ぎず、メラニンは他の過程によっても生成するため、そのメラニン生成抑制効果は満足できるものではなかった。さらに、従来の美白剤成分では、効果の持続性の観点からも満足できるものではなかった。
【0006】
一方、ハイビスカス酸類を含有させた化粧料や医薬品が知られている。例えば、特許文献2には、3−ヒドロキシ−3,4−ジカルボキシ−1,4−ブタノリド又はその誘導体を含有することを特徴とする化粧料が記載されている。また、特許文献3には、ハイビスカス酸類を有効成分として含有するグリコシダーゼ阻害剤及び糖尿病治療剤が記載されている。しかし、ハイビスカス酸類のメラニン生成抑制作用及び美白作用については今まで知られていなかった。
【特許文献1】特開平1−85907号公報
【特許文献2】特開2000−154134号公報
【特許文献3】特開2000−239164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れたメラニン生成抑制作用を有し、しかもメラニン生成抑制作用の持続性があり、且つ、安全に使用し得るメラニン生成抑制剤、美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する化合物が優れたメラニン生成抑制作用を有することを見出し、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下のメラニン生成抑制剤、美白剤、化粧料、食品及び口腔用組成物に関する。
【0010】
項1:下式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(但し、式中のR及びRは、それぞれ水素原子、置換又は非置換のアルキル基又はベンジル基を示す。)
で表されるハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【0013】
項2:式(1)で表されるハイビスカス酸類のR及びRの少なくとも1つが置換又は非置換のアルキル基である項1に記載のメラニン生成抑制剤。
【0014】
好ましくは、下式(1)
【0015】
【化2】

【0016】
(但し、式中のR1及びRは、それぞれ水素原子、或いは置換又は非置換のアルキル基又はベンジル基を示し、且つ、R及びRの少なくとも1つが置換又は非置換のアルキル基である。)で表されるハイビスカス酸類からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【0017】
好ましくは、ハイビスカス酸モノアルキルエステル及びハイビスカス酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【0018】
更に好ましくは、ハイビスカス酸モノメチルエステル、ハイビスカス酸モノエチルエステル、ハイビスカス酸ジメチルエステル及びハイビスカス酸ジエチルエステルからなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【0019】
項3:項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白剤。
【0020】
項4:項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白用化粧料。
【0021】
項5:項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白用食品。
【0022】
項6:項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む口腔用組成物。
【0023】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0024】
メラニン生成抑制剤
本発明のメラニン生成抑制剤は、下式(1)
【0025】
【化3】

【0026】
(但し、式中のR1及びRは、それぞれ水素原子、置換又は非置換のアルキル基又はベンジル基を示す。)で表されるハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とする。
【0027】
アルキル基の種類は、本発明の効果が奏される範囲であれば、特に限定されず、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。
【0028】
アルキル基の炭素数は、本発明の効果が奏される範囲で適宜設定し得るが、好ましくは炭素数1〜6程度、特に1〜3程度である。
【0029】
アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
アルキル基又はベンジル基は置換基を有していてもよい。置換基の種類は、本発明の効果が奏される範囲で適宜設定し得るが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。
【0031】
本発明で使用されるハイビスカス酸類の具体例としては、例えば、式中のR及びRが共に水素原子であるハイビスカス酸、式中のR1及びRの一方が置換されているハイビスカス酸モノエステル、式中のR1及びRが共に置換されているハイビスカス酸ジエステルが挙げられる。
【0032】
ハイビスカス酸モノエステルには、例えば、ハイビスカス酸モノメチルエステル、ハイビスカス酸モノエチルエステル等のハイビスカス酸モノアルキルエステルなどが含まれる。
【0033】
ハイビスカス酸ジエステルには、例えば、ハイビスカス酸ジメチルエステル、ハイビスカス酸ジエチルエステル等のハイビスカス酸ジアルキルエステルなどが含まれる。
【0034】
本発明で使用されるハイビスカス酸類の塩には、上記ハイビスカス酸類の塩、例えば、R及び/又はRが水素原子である場合にそれらが1価や2価の金属塩基で置換されているアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が含まれる。
【0035】
アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。また、アルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩やマグネシウム塩などが挙げられる。また、塩には、錯体を形成しているものも含まれる。例えば、錯体の例としては、R1及び/又はR2がカルシウムやマグネシウムで置換されて形成されたアルカリ土類金属錯体が挙げられる。
【0036】
本発明で使用されるハイビスカス酸類及びその塩の生産手段は、特に限定されず、化学的に合成して得られるものでもよく、植物体やその抽出物などから分離して得られるものでもよい。また、エステル体や塩は、植物体やその抽出物から分離して得られるハイビスカス酸類を、常法に従ってエステル化したり、各種塩基と反応させたりすることにより得られるものでもよい。
【0037】
植物体やその抽出物からハイビスカス酸類を分離する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。例えばハイビスカス酸を含有している植物体を、適当な抽出溶媒で、抽出した後、クロマトグラフィー等の手段を用いて分離すればよい。
【0038】
ハイビスカス酸類を含有している植物には、例えば、フヨウ属に属する植物が挙げられる。
【0039】
フヨウ属に属する植物としては、例えば熱帯原産の一年草ロゼル(Hibiscus sabdariffa L.)、熱帯性低木のブッソウゲ(Hibiscus rosa-sinensis L.)、中国原産のムクゲ(Hibiscus syriacus L.)、アフリカ原産のケナフ(Hibiscus cannabinus L.)、北米原産のモミジアオイ(Hibiscus coccineus L.)、日本原産のハマボウ(Hibiscus hamabo)、中国原産のフヨウ(Hibiscus mutabilis L.)などを挙げることができる。このうち、ロゼル、ブッソウゲ、ムクゲを用いることが好ましく、特に、ロゼル、ブッソウゲが、好ましい。
【0040】
植物体の抽出部位については特に制限されず、例えば該植物の全草、或いは花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等の該植物の一部を挙げることができる。これらの中で、好ましくは、花、葉を挙げることができる。
【0041】
また抽出原料は、植物体をそのまま用いてもよく、その粉砕物、或いは、それらを乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを用いてもよい。
【0042】
抽出に使用される溶媒の種類は、適宜設定し得るが、例えば、水又は各種有機溶媒、或いは水と有機溶媒の混合物が挙げられる。有機溶媒には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、塩酸等の単独或いは2種以上の組み合わせが含まれる。このうち、好ましい抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、あるいは水と低級アルコールの混合物を挙げることができる。
【0043】
抽出後は、溶解、再抽出、分液、傾斜、濾過、濃縮、蒸留、昇華、結晶化、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーを用いた分離等の各種方法を単独で又は組み合わせて、適宜精製を行うことができる。
【0044】
また必要に応じて、さらに、減圧乾燥や凍結乾燥等の乾燥処理を施すことにより水分を取り除き、乾燥品として用いることもできる。
【0045】
抽出の際の具体的条件も、特に制限されるものではなく、常法に従って適宜設定することができる。例えば、乾燥したロゼルの花を粉砕し、これに抽出対象物1重量部に対して 10重量部程度の1.5%塩酸−エタノール水溶液を加え、室温で撹拌した後、濾過により固形分を取り除き、更にHPLCにて精製を行う方法を挙げることができる。
【0046】
また、ハイビスカス酸類は、簡便には、商業的に入手したものを用いることもできる。また、エステル体は、商業的に入手したハイビスカス酸を公知の方法に従って、エステル化することにより、得ることもできる。
【0047】
本発明のメラニン生成抑制剤の有効成分として用いる化合物は、上記ハイビスカス酸類又はその塩からなる群から選ばれる1種単独の化合物であってもよく、2種以上の化合物からなる混合物であってもよい。
【0048】
2種以上の化合物からなる混合物は、合成又は植物体から単離して得られる各種ハイビスカス酸類又はその塩を混合して得られるものであってもよく、ハイビスカス酸類を含有する植物体又はその抽出物から得られる混合物や分画物であってもよい。
【0049】
本発明のメラニン生成抑制剤は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物を有効成分として含むものであり、好ましくは、ハイビスカス酸モノアルキルエステル及びハイビスカス酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1又は2以上の化合物を有効成分として含むものである。
【0050】
また、更に好ましくは、ハイビスカス酸モノメチルエステル、ハイビスカス酸モノジメチルエステル、ハイビスカス酸ジメチルエステル及びハイビスカス酸ジエチルエステルからなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分として含むものである。
【0051】
本発明のメラニン生成抑制剤は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物を有効成分として含み、高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を有し、効果的で且つ持続的なメラニン生成抑制作用を奏するものである。
【0052】
美白剤
本発明の美白剤は、上記本発明のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む。
【0053】
本発明の美白剤は、メラニン生成抑制剤そのものからなるものであってもよいし、それを有効成分として薬学上又は衛生上許容される担体又は添加物等の他の成分が配合されているものであってもよい。
【0054】
かかる担体又は添加物の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、美白剤の剤型又は適用対象に応じて、適宜選択調整することができる。
【0055】
また、美白剤の形態についても特に制限されず、適用される製品等の剤型、形態、用途等に応じて、液状、乳液状、クリーム状、粉末状、顆粒、丸剤、軟膏等に任意に調製することができる。
【0056】
また、本発明の美白剤は、外用剤とすることも、また内用剤とすることもできる。
【0057】
本発明の美白剤を外用剤として処方するにあたっては、必要に応じて、無機顔料、紫外線吸収剤、他の美白成分、チロシナーゼ活性阻害剤又はメラニン色素還元剤、界面活性剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、抗菌剤、保湿剤、香料、着色剤等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0058】
本発明の美白剤を適用できる外用剤の種類は、特に制限されないが、例えば、外用医薬品類や外用医薬部外品類(皮膚外用剤等)、基礎化粧料(化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等)、メークアップ化粧料(ファンデーション、口紅、頬紅、マスカラ等)、その他皮膚用化粧料(洗顔料、皮膚洗浄料、マッサージ剤、クレンジング剤等)、口腔用組成物、あるいは浴用剤等が挙げられる。
【0059】
本発明の美白剤を外用剤として処方する場合、その外用剤の配合量は、配合対象、剤型、期待される効果等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常、外用剤全体に対し、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00005〜5重量%、更に好ましくは0.0001〜3重量%程度である。
【0060】
本発明の美白剤を内用剤として処方するにあたっては、必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、賦形剤、増量剤、保存剤、香料等の添加剤を配合することができる。また、本発明の美白剤を内用剤として処方するにあたって、更に他の薬学的活性成分を配合することもできる。
【0061】
本発明の美白剤を適用できる内用剤の種類は、特に制限されないが、例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、あるいはシロップ剤等の経口用剤が挙げられる。
【0062】
本発明の美白剤を内用剤として処方する場合、その内用剤の配合割合は、投与対象、剤型、投与方法等によっても異なり、一律に規定することはできないが、例えば、内用剤全体に対し、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜100重量%、好ましくは0.0001〜50重量%、更に好ましくは0.001〜30重量%程度である。
【0063】
本発明の美白剤は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤を有効成分として含み、高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を含む、持続的で優れたメラニン生成抑制作用を有し、持続的で優れた美白作用を奏するものである。
【0064】
美白用化粧料
本発明の美白用化粧料は、上記本発明のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む。
【0065】
化粧料の種類は、特に限定されず、種々の化粧料に適用できる。たとえば、クリーム、乳液、化粧水、パック剤、洗顔料、パッチなどの各種基礎化粧料、ファンデーション、ほほ紅、白粉などの各種メーキャップ料、洗髪料、養毛剤、シャンプー、リンスなどの各種頭髪用化粧料、石鹸、美爪料、オーデコロン、入浴剤等の各種化粧料に適用できる。
【0066】
化粧料の形態も特に限定されず、溶液、エマルジョン、軟膏、ゾル、ゲル、パウダー、スプレー、シート、フィルムなどの種々の形態で用いることができる。
【0067】
本発明の化粧料には、本発明の効果を奏する範囲内で、一般に化粧料に配合される各種成分、例えば、水性成分、粉末成分、保湿剤、界面活性剤、防腐剤、増粘剤、紫外線吸収剤、香料等を配合することができる。
【0068】
本発明の化粧料の製造方法は特に限定されず、公知の方法に従って、適宜製造することができる。
【0069】
本発明の化粧料の適用方法も特に限定されないが、例えば、顔、首、腕及び手等のシミ、ソバカス等のでき易い部位もしくは患部、日焼けし易い部位もしくは日焼けした部位等に、1日1回乃至数回、適当量塗布すれば良い。
【0070】
本発明の化粧料におけるメラニン生成抑制剤の含有割合は、本発明の効果が奏し得る範囲で適宜設定し得るが、化粧料組成物全体に対し、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00005〜5重量%、更に好ましくは0.0001〜3重量%程度である。
【0071】
本発明の美白用化粧料は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤を有効成分として含み、高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を含む、持続的で優れたメラニン生成抑制作用を有し、持続的で優れた美白作用を奏するものである。
【0072】
美白用食品
本発明の美白用食品は、有効成分として上記本発明のメラニン生成抑制剤を含む。
【0073】
本発明の美白用食品は、例えば、健康食品、食品添加剤、機能性食品、栄養機能食品、保健機能食品などとして用いることができる。
【0074】
美白用食品の製造方法は特に限定されず、公知の方法に従って、適宜製造することができる。例えば、上記美白剤を各種食品又は食品素材と混合することにより、得ることができる。
【0075】
食品の種類は、特に限定されず、公知の各種飲食品から適宜設定することができる。例えばクッキー、シリアル、キャンディー、タブレット、ゼリー、水産練り製品、調味料、パン、清涼飲料、炭酸飲料、ミネラルウォーター、果汁飲料、茶類、栄養飲料、ドリンク剤等として用いることができる。
【0076】
また、本発明の食品には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常の飲食品に用いられる他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、各種ビタミン、ミネラル、動植物成分、賦形剤、甘味料、香味剤、着色剤、防腐剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、増量剤、香料などが挙げられる。
【0077】
本発明の食品におけるメラニン生成抑制剤の含有割合は、本発明の効果が奏し得る範囲で適宜設定し得るが、食品組成物全体に対し、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00005〜5重量%、更に好ましくは0.0001〜3重量%程度である。
【0078】
本発明の美白用食品を食する際の摂取量は、適用対象の年齢、体重、症状などに応じて適宜設定し得るが、通常、成人1日当たり、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜50mg程度、好ましくは0.0001〜20mg程度、さらに好ましくは0.001〜10mg程度である。
【0079】
本発明の美白用食品は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤を有効成分として含み、高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を含む、持続的で優れたメラニン生成抑制作用を有し、持続的で優れた美白作用を奏するものである。
【0080】
口腔用組成物
本発明の口腔用組成物は、上記本発明のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む。
【0081】
口腔用組成物の種類は、特に限定されず、種々の口腔用組成物に適用できる。
【0082】
例えば、練り歯磨き等の歯磨き剤、洗口液、マウスリンス、口腔用パスタ、トローチ、歯茎のマッサージクリーム等の各種口腔用組成物に適用できる。
【0083】
口腔用組成物の形態も特に限定されず、溶液、エマルジョン、軟膏、ゾル、ゲル、ペースト、錠剤、パウダー、スプレー、シート、フィルムなどの種々の形態で用いることができる。
【0084】
本発明の口腔用組成物には、本発明の効果を奏する範囲内で、一般に口腔用組成物に配合される各種成分を配合することができる。各種成分としては、例えば、粘着剤、清涼剤、結合剤、甘味料、着香料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0085】
本発明の口腔用組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法に従って、適宜製造することができる。
【0086】
本発明の口腔用組成物の適用方法も特に限定されず、例えば、患部もしくは口腔内全体等に、1日1回乃至数回、適当量適用すれば良い。
【0087】
本発明の口腔用組成物におけるメラニン生成抑制剤の含有割合は、本発明の効果が奏し得る範囲で適宜設定し得るが、口腔用組成物全体に対し、ハイビスカス酸類及びその塩として、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00005〜5重量%、更に好ましくは0.0001〜3重量%程度である。
【0088】
本発明の口腔用組成物は、上記ハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分として含有するメラニン生成抑制剤を有効成分として含み、高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を含む、持続的で優れたメラニン生成抑制作用を有し、歯茎に沈着した色素を除去し、優れた美白作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0089】
本発明によれば、特定の構造を有するハイビスカス酸及びその塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤が提供される。
【0090】
本発明のメラニン生成抑制剤の有効成分となる化合物は、高いチロシナーゼ活性阻害作用及び高いチロシナーゼ生成抑制作用を含む、優れたメラニン生成抑制作用を有し、且つ、優れた美白効果を奏するものである。更に該美白効果は長時間にわたって奏される。しかも該化合物は安全性も高い。
【0091】
このような化合物を有効成分とする本発明のメラニン生成抑制剤は、優れた美白作用を有し、しかも美白作用の持続性を有するものであり、皮膚細胞や口腔内粘膜等で発生するメラニンを有効に抑制し、シミやそばかす等の色素の沈着を効果的に抑えることができる。更に本発明のメラニン生成抑制剤は安心して使用し得るものである。
【0092】
そして、該メラニン生成抑制剤は、美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物の有効成分として使用することができ、本発明によって、優れた美白作用を有し、しかも美白作用の持続性を有し、かつ安全に使用し得る美白剤、美白用化粧料、美白用食品及び口腔用組成物も提供される。
【0093】
このような特徴を有する本発明は、近年、特に美白効果に関する関心が高まっている化粧品産業や医薬品産業、食品産業等において、好適に利用し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
以下、実施例、製造例及び試験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
製造例1(ハイビスカス酸)
乾燥したHibiscus sabdariffa L.の花800gをミルで粉砕し、これに1.5%塩酸-メタノ
ール水溶液8Lを加え、室温で撹拌しながら3時間抽出処理した。次いで、濾過により固形分を取り除き、濾液をエバポレーター(45℃)にて濃縮した。この濾液をHP-20(φ=70mm、h=500mm)カラムクロマトグラフィーにて精製、濃縮し、粗生成物118gを得た。
【0096】
得られた粗生成物をODS(φ=110mm、h=1200mm)カラムクロマトグラフィーにて数回精製濃縮を行い、その後結晶化を経て、ハイビスカス酸34.8gを得た。
【0097】
確認のため得られた物質を分析したところ、マススペクトルによる分子量は190であった。またプロトンNMRは次のとおりであった。
【0098】
プロトンNMRスペクトル(400MHz)(アセトン−d6)δ(ppm):5.35(1H,S),3.26(1H,d,J=17.2Hz),2.78(1H,d,J=17.2Hz)。
これらの値は、Bollら(Acta Chemica Scandinavica,1969年, Vol.23, 286-293頁)によって報告されたハイビスカス酸の値と一致した。
【0099】
製造例2(ハイビスカス酸モノエチルエステル)
乾燥したHibiscus sabdariffa L.の花100gをミルで粉砕し、これに30%エタノール
水溶液500mLを加え、室温で撹拌しながら3日間抽出処理した。次いで、酢酸エチル抽出を行い、得られた水層を更にブタノールで抽出し、その後、シリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル−メタノール溶液)にて、精製を行い、分画物を得た。
【0100】
得られた分画物について分析したところ、マススペクトルによる分子量は218であった。また、プロトンNMRは、いくつかのシグナルの重なりが見られ、数種の異性体の存在が予想された。またそのうちの一つと考えられる、以下のシグナルを有する化合物が認められた。
【0101】
プロトンNMRスペクトル(500MHz)(CDCl3)δ(ppm):5.23(1H,S),3.20(1H,d,J=17.4Hz),2.90(1H,d,J=17.4Hz),4.29(2H,m),1.37(3H,t,J=7.4Hz)。
【0102】
以上の分析結果と、Hibiscus sabdariffa L.中にハイビスカス酸が多く含まれる事から、該分画物には、ハイビスカス酸モノエチルエステル及びその異性体が含まれると推察した。
【0103】
該ハイビスカス酸モノエチルエステル及びその異性体の構造は、下記(a)及び(b)と推察される。
【0104】
【化4】

【0105】
以下、得られた分画物を「ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物」ともいう。
【0106】
製造例3(ハイビスカス酸ジメチルエステル)
製造例1で得たハイビスカス酸450mgをメチル-t-ブチルエーテル(MTBE)1.8mlとメタノール1.8mlの混合溶媒に溶解した。この溶液を氷水浴にて冷却しながら攪拌し、トリメチルシリルジアゾメタン2.0Mジエチルエーテル溶液3.5mlを少しずつ添加した。できた析出物をろ過し、MTBEで洗浄後、減圧乾燥させ、ハイビスカス酸ジメチルエステルを300mg得た。
【0107】
確認のため得られた物質を分析したところ、マススペクトルによる分子量は218であった。またプロトンNMRは次のとおりであった。
【0108】
プロトンNMRスペクトル(400MHz)(クロロホルム−d1)δ(ppm):5.11(1H,S),3.08(1H,d,J=17.5Hz),2.88(1H,d,J=17.2Hz),3.80(1H,S),3.84(3H,S),3.96(3H,S)。
【0109】
これらの値は、IBnusaudら(Tetrahedron,2002年, Vol.58, 4887-4892頁)によって報告されたハイビスカス酸ジメチルエステルの値と一致した。
【0110】
製造例4(ハイビスカスエキス)
比較として用いるために以下の方法で、ハイビスカスエキス(抽出物)を製造した。
【0111】
乾燥したHibiscus sabdariffa L.の花100gをミルで粉砕し、これに30%エタノール水溶液500mLを加え、室温で撹拌しながら3日間抽出処理した。次いで、濾過により固形分を取り除き、濾液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して15gのHibiscussabdariffa L.抽出物を得た。
【0112】
実施例1 チロシナーゼ生成抑制効果の評価
ハイビスカス酸のチロシナーゼ生成抑制効果を評価するために、以下のようにウエスタンブロットを行った。
【0113】
マウス由来のB16メラノーマ細胞(大日本製薬製、B16F0)を25cm2フラスコで8mlの培養液中で24時間培養した後に、製造例1で得られたハイビスカス酸の5重量%水溶液をそれぞれ12.5、25、50又は100ml添加し、72時間培養を行った。
【0114】
培養終了後、細胞を粉砕処理してタンパク質を抽出し、電気泳動を行った。次に、ポリビニリデンジフルオリド膜(PVDF膜)にタンパク質を転写し、ヤギ抗チロシナーゼ抗体を反応させた後、さらにアルカリフォスファターゼ標識抗ヤギ抗体を反応させ、最後に発色基質を加えることによって、チロシナーゼを検出した。なお、比較として、ハイビスカス酸無添加のものを用いて、同様に試験を行った。
【0115】
得られた結果を図1に示す。図1は、ハイビスカス酸の存在下又は非存在下で培養したB16メラノーマ細胞のチロシナーゼの発現量を示すPVDF膜像を示す。
【0116】
図中レーンIはハイビスカス酸溶液無添加、レーンIIは5%ハイビスカス酸溶液を100μl添加、レーンIIIは5%ハイビスカス酸溶液50μl添加、レーンIVは5%ハイビスカス酸溶液25μl添加、レーンVは5%ハイビスカス酸12.5μl添加したサンプルの結果を示す。
【0117】
図1に示されるバンドの太さから明らかなように、ハイビスカス酸無添加のものとくらべ、ハイビスカス酸を添加して培養したものは、その添加濃度の上昇に伴って、チロシナーゼの発現が抑制される傾向があることが確認された。
【0118】
この結果、ハイビスカス酸は、チロシナーゼ生成抑制作用を有することが明らかとなった。
【0119】
実施例2 チロシナーゼ活性阻害効果の評価(ハイビスカス酸)
ハイビスカス酸のチロシナーゼの活性阻害効果を評価するために、以下の試験を行った。
【0120】
マウス由来B16メラノーマ細胞(大日本製薬製、B16F0)を96ウェルマイクロプレートに5×104cells/wellとなるように播種して一晩培養し、細胞を定着させた。次に、培養プレートの培養液をアスピレーターで取り除き、1%トライトンX-100を含むPBS(リン酸緩衝食塩水)を50μl/well添加し、細胞の膜構造を破壊して、粗チロシナーゼ溶液とした。次に、ウェル中のハイビスカス酸の最終濃度が0.3〜2.5mg/mlとなるように、製造例1で得られたハイビスカス酸をPBSで希釈した溶液(下式数1においてハイビスカス酸添加サンプルともいう。)を50μl/well添加した。その後、PBSで希釈した0.1%ドーパ溶液を各ウェルに50μL添加し、直ちに37℃で4時間インキュベート後、マイクロプレートリーダーを用いて、405nmの吸光度を測定した。
【0121】
なお、コントロールとして、下記の条件についても同様の方法で測定した。
【0122】
測定した吸光度の値から下式数1に基づいてチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
・ブランク:B16メラノーマ細胞無播種:ハイビスカス酸溶液無添加
・ハイビスカス酸添加サンプル:B16メラノーマ細胞播種・ハイビスカス酸溶液添加
・コントロール1:B16メラノーマ細胞播種・ハイビスカス酸溶液無添加(代わりにPBSを添加)
・コントロール2: B16メラノーマ細胞無播種・ハイビスカス酸溶液無添加(代わりにPBSを添加)
【0123】
【数1】

【0124】
又、比較のため、ハイビスカス酸の代わりに、製造例4で得られたハイビスカス(Hibiscus sabdariffa L.)エキスを用いる以外は上記と同様に試験を行い、ハイビスカスエキスのチロシナーゼ活性阻害率(%)も算出した。
【0125】
得られた結果を図2に示す。図2には、ハイビスカス酸およびハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性の阻害率(%)の関係を図示している。
【0126】
この結果から、ハイビスカス酸には、ハイビスカスエキスよりも高いチロシナーゼ活性阻害作用があること、そしてその効果は濃度依存的に増強することが確認された。
【0127】
実施例3 チロシナーゼ活性阻害効果の評価(ハイビスカス酸モノエチルエステル)
実施例2において、ハイビスカス酸に代えて製造例2で得られたハイビスカス酸モノエチルエステル分画物を用い、ハイビスカス酸モノエチルエステルの最終濃度を0.25〜5mg/mlとなるように調製した以外は、実施例2と同様にして評価を行った。
【0128】
又、実施例2と同様に、比較のため、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物の代わりに、製造例4で得られたハイビスカス(Hibiscus sabdariffa L.)エキスを用いる以外は同様に試験を行い、ハイビスカスエキスのチロシナーゼ活性阻害率(%)も算出した。
【0129】
得られた結果を図3に示す。図3には、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物およびハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性の阻害率(%)の関係を図示している。
【0130】
この結果から、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物には、ハイビスカスエキスよりも高いチロシナーゼ活性阻害作用があること、そしてその効果は濃度依存的に増強することが確認された。
【0131】
実施例4 チロシナーゼ活性阻害効果の評価(ハイビスカス酸ジメチルエステル)
実施例2において、ハイビスカス酸に代えて製造例3で得られたハイビスカス酸ジメチルステル分画物を用い、ハイビスカス酸ジメチルエステルの最終濃度を0.25〜5mg/mlとなるように調製した以外は、実施例2と同様にして評価を行った。
【0132】
又、実施例2と同様に、比較のため、ハイビスカス酸ジメチルエステルの代わりに、製造例4で得られたハイビスカス(Hibiscus sabdariffa L.)エキスを用いる以外は同様に試験を行い、ハイビスカスエキスのチロシナーゼ活性阻害率(%)も算出した。
【0133】
得られた結果を図4に示す。図4には、ハイビスカス酸ジメチルエステルおよびハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性の阻害率(%)の関係を図示している。
【0134】
この結果から、ハイビスカス酸ジメチルエステルには、ハイビスカスエキスと同等にチロシナーゼ活性阻害作用があること、そしてその効果は濃度依存的に増強することが確認された。
【0135】
実施例5 チロシナーゼ活性阻害効果の持続性の評価(ハイビスカス酸)
ハイビスカス酸のメラニン生成抑制効果の持続性を評価するために、以下の方法に従って、チロシナーゼ活性阻害効果の持続性確認試験を行った。
【0136】
マウス由来B16メラノーマ細胞(大日本製薬製、B16F0)を96ウェルマイクロプレートに5×104cells/wellとなるように播種して一晩培養し、細胞を定着させた。次に、培養プレートの培養液をアスピレーターで取り除き、1%トライトンX-100を含むPBS(リン酸緩衝食塩水)を50μl/well添加し、細胞の膜構造を破壊して粗チロシナーゼ溶液とした。次に、ウェル中のハイビスカス酸の最終濃度が0.3〜10mg/mLとなるように製造例1で得られたハイビスカス酸をPBSで希釈した溶液を、50μl/well添加した(以下、ハイビスカス酸添加サンプルともいう。)。その後、PBSで希釈した0.1%ドーパ溶液を各ウェルに50μL添加し、直ちに37℃でインキュベートした。
【0137】
インキュベート開始から20時間後及び108時間後に、マイクロプレートリーダーを用いて、405nmの吸光度を測定した。
【0138】
なお、コントロールとして、下記の条件についても同様の方法で測定した。
【0139】
測定した吸光度の値から下式数2に基づいてチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0140】
・ブランク:B16メラノーマ細胞無播種:ハイビスカス酸溶液無添加
・ハイビスカス酸添加サンプル:B16メラノーマ細胞播種・ハイビスカス酸溶液添加
・コントロール1:B16メラノーマ細胞播種・ハイビスカス酸溶液無添加(代わりにPBSを添加)
・コントロール2:B16メラノーマ細胞無播種・ハイビスカス酸溶液無添加(代わりにPBSを添加)
【0141】
【数2】

【0142】
又、比較のため、ハイビスカス酸の代わりにアルブチンを用いる以外は同様に試験を行
い、アルブチンのチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した(以下、アルブチン添加サンプルという。)。
【0143】
得られた結果を図5に示す。図5において、○及び●はハイビスカス酸添加サンプルのチロシナーゼ活性阻害率(%)、△及び▲はアルブチン添加サンプルのチロシナーゼ活性阻害率(%)を示す。また、点線は20時間後の測定結果、実線は108時間後の測定結果を示す。
【0144】
図5から明らかなように、20時間後の測定結果において、ハイビスカス酸はアルブチンより高いチロシナーゼ阻害効果を示していた。さらに108時間後の測定結果においてハイビスカス酸添加サンプルはその高いチロシナーゼ阻害効果を維持していた。
【0145】
それに対し、アルブチン添加サンプルでは、20時間後に比べ108時間後ではチロシナーゼ活性阻害率の顕著な減少が認められた。
【0146】
この結果から、ハイビスカス酸は高く且つ持続的なチロシナーゼ活性阻害効果を有し、高い美白効果を長時間にわたって持続できることが示唆された。
【0147】
実施例6 メラニン生成抑制効果(ハイビスカス酸)
上記の結果からハイビスカス酸は、メラニンの生成に関与するチロシナーゼ生成抑制作用、及びチロシナーゼ活性阻害作用を有していることが明らかとなったが、更に、ハイビスカス酸のメラニン自体に対する生成抑制効果についても評価した。
【0148】
評価試験は、以下の方法に従って行った。
【0149】
マウス由来B16メラノーマ細胞(大日本製薬製、B16F0)を、6ウェルプレートに約1×105cells/wellとなるように播種し、一晩培養して、細胞を定着させた。次に、最終的にハイビスカス酸のウェル内濃度が0.2〜2mg/mlとなるように製造例1で得られたハイビスカス酸をPBSで希釈した溶液(下式数3において目的サンプルともいう。)を添加し、4日培養後、0.25%トリプシン液を用いて細胞を剥がし、遠心操作により細胞を回収した。回収した細胞の色差を目視で確認した後、5NNaOHにて細胞の膜構造を破壊しメラニンを溶出させて、405nmの吸光度を測定した。
【0150】
なお、コントロールとして、ハイビスカス酸を添加しない系(以下、下式数3において、無添加サンプルという。)について同様に測定した。
【0151】
さらに、溶液調製時の誤差を補正する為、サンプル中のタンパク量を、定量キットを用いて測定し、単位タンパク量で補正し、メラニン生成率(%)を下式数3に基づいて算出した。
【0152】
【数3】

【0153】
得られた結果を図6に示す。図6は、ハイビスカス酸の各添加濃度におけるメラニン生成率(%)を示す。
【0154】
この結果、ハイビスカス酸の添加によって、メラニンの生成が有意に抑制されていることが確認され、ハイビスカス酸がメラニン生成抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0155】
実施例7 メラニン生成抑制効果(ハイビスカス酸モノエチルエステル)
実施例6において、ハイビスカス酸に代えて、製造例2で得られたハイビスカス酸モノエチルエステル分画物を用いる以外は、実施例6と同様に試験し、評価を行った。
【0156】
得られた結果を図7に示す。図7は、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物の各添加濃度におけるメラニン生成率(%)を示す。
【0157】
この結果、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物の添加によって、メラニンの生成が有意に抑制されていることが確認され、ハイビスカス酸モノエチルエステルがメラニン生成抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0158】
実施例8 メラニン生成抑制効果(ハイビスカス酸ジメチルエステル)
実施例6において、ハイビスカス酸に代えて、製造例3で得られたハイビスカス酸ジメチルエステルを用いる以外は、実施例6と同様に試験し、評価を行った。
【0159】
得られた結果を図8に示す。図8は、ハイビスカス酸ジメチルエステルの各添加濃度におけるメラニン生成率(%)を示す。
【0160】
この結果、ハイビスカス酸ジメチルエステルの添加によって、メラニンの生成が有意に抑制されていることが確認され、ハイビスカス酸ジメチルエステルがメラニン生成抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0161】
試験例
ハイビスカス酸には光学異性体が存在するため、植物から得られる抽出物にはハイビスカス酸の光学異性体も含有されていることが考えられる。下式(2)で表されるハイビスカス酸の光学異性体のうち、天然に存在するものとしては、下式(3)で表されるガルシニア酸が考えられる。
【0162】
【化5】

【0163】
そのため、美白作用がハイビスカス酸の立体構造に特徴的なものであるかを確認するために、ハイビスカス酸とガルシニア酸について、メラニン生成抑制作用に関する試験を以下の手順に従って行った。また、併せて、ハイビスカス酸の安全性を確認するために、細胞毒性に関しても評価した。
【0164】
メラニン生成抑制作用については、次のように試験した。
【0165】
マウス由来B16メラノーマ細胞(大日本製薬製、B16F0)を、6ウェルプレートに約1×105cells/wellとなるように播種し、一晩培養して、細胞を定着させた。次に、ハイビスカス酸又はガルシニア酸の最終的なウェル内濃度が0.5mg/mlとなるようにPBSで希釈した溶液(下式数4において「目的サンプル」という。)を添加し、4日培養後、0.25%トリプシン液を用いて細胞を剥がし、遠心操作により細胞を回収した。回収した細胞の色差を目視で確認した後、5NNaOHにて細胞の膜構造を破壊しメラニンを溶出させて、405nmの吸光度を測定した。
【0166】
なお、コントロールとして、ハイビスカス酸又はガルシニア酸を添加しない系(以下、下式数4において「無添加サンプル」という。)について同様に測定した。
【0167】
さらに、溶液調製時の誤差を補正する為、サンプル中のタンパク量を定量キットを用いて測定し、単位タンパク量で補正し、メラニン生成率(%)を次式に基づいて算出した。
【0168】
【数4】

【0169】
また細胞毒性については、回収後の培養液をトリパンブルーにて染色し、生細胞数を血球計算盤にて計測した。
【0170】
得られた結果を図9に示す。図9は、濃度0.5%におけるガルシニア酸及びハイビス
カス酸のメラニン生成率(%)及び細胞数を示す。また、BKはブランク(無添加サンプル)を示す。
【0171】
この結果ハイビスカス酸にはメラニン生成抑制効果があり、細胞毒性も低いことがわかった。
【0172】
一方、ガルシニア酸にはメラニン生成抑制効果がほとんどなく、細胞毒性も高いこと明らかとなった。
【0173】
このことから、ハイビスカス酸の立体構造が、メラニン生成抑制効果に関して重要であることが示唆された。
【0174】
処方例
以下に、本発明の処方例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0175】
<処方例1> 化粧水
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、化粧水を製造した。
(原料) (重量%)
ハイビスカス酸 0.5
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム 3.0
ポリプロピレングリコール 2.0
オキシベンゾン 3.0
パラオキシ安息香酸エステル 0.5
クエン酸 適量
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0176】
<処方例2> 化粧用クリーム
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、化粧用クリームを製造した。
(原料) (重量%)
ハイビスカス酸モノメチルエステル 0.5
アスコルビン酸モノステアリン酸エステル 3.0
システイン 1.0
ステアリルアルコール 5.0
ステアリン酸 8.0
スクワラン 10.0
自己乳化型グリセリルモノステアレート 3.0
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.0)1.0
プロピレングリコール 5.0
水酸化カリウム 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0177】
<処方例3>乳液
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、乳液を製造した。
(原料) (重量%)
ハイビスカス酸モノメチルエステル 1.0
ハイビスカス酸モノエチルエステル 1.0
スクワラン 8.0
ワセリン 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレエート 0.8
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.0)1.2
カルボキシビニルポリマー 0.2
プロピレングリコール 0.5
水酸化カリウム 0.1
エタノール 7.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0178】
<処方例4> パン
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、パンを製造した。
(原料) (重量%)
小麦粉 51.0
砂糖 3.0
食塩 1.0
ハイビスカス酸 0.5
脱脂粉乳 1.0
油脂 3.1
イーストフード 0.1
イースト 1.0
精製水 残部
合計 100.0
【0179】
<処方例5> タブレット
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、タブレットを製造した。
(原料) (重量%)
ハイビスカス酸 5
ハイビスカス酸モノエチルエステル 5
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム 10
プラセンタエキス 10
コラーゲン 20
結晶セルロース 20
デキストリン 14
グリセリン脂肪酸エステル 6
賦形剤 10
合計 100
【0180】
<処方例6> ドリンク剤
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、ドリンク剤を製造した。
(原料) (重量%)
ハイビスカス酸 0.5
果糖ブドウ糖 20.0
クエン酸 0.50
クエン酸ナトリウム 0.10
アスコルビン酸 0.20
香料 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0181】
<処方例7>練り歯磨きA
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、練り歯磨きを製造した。
(原料) (重量%)
第2リン酸カルシウム 30.00
グリセリン 10.00
ソルビトール 20.00
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.00
ラウリル硫酸ナトリウム 1.50
カラギーナン 0.50
サッカリンナトリウム 0.10
香料 1.00
安息香酸ナトリウム 0.30
ハイビスカス酸 0.10
精製水 残部
合計 100.0
【0182】
<処方例8>練り歯磨きB
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、練り歯磨きを製造した。
(原料) (重量%)
ラウリル硫酸ナトリウム 0.80
ラウリル酸ジエタノールアミド 1.00
プロピレングリコール 3.00
60% ソルビット液 35.00
メチルパラベン 0.20
ブチルパラベン 0.01
サッカリンナトリウム 0.15
ゼラチン 0.30
香料 0.60
アルギン酸ナトリウム 0.90
安息香酸ナトリウム 0.10
水酸化アルミニウム 45.00
モノフルオリン酸ナトリウム 0.76
ハイビスカス酸 0.05
精製水 残部
合計 100.0
【0183】
<処方例9>洗口液
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、洗口液を製造した。
(原料) (重量%)
エタノール 10.00
グリセリン 5.00
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.10
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.50
パラオキシ安息香酸メチル 0.10
香料 0.20
ハイビスカス酸 0.1
精製水 残部
合計 100.0
【0184】
<処方例10>口腔用パスタ
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、口腔用パスタを製造した。
(原料) (重量%)
流動パラフィン 13.00
セタノール 10.00
グリセリン 25.00
ソルビタンモノパルミテート 0.60
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 5.00
ラウリル硫酸ナトリウム 0.10
塩化ベンゾトニウム 0.10
サリチル酸メチル 0.10
サッカリン 0.20
香料 0.25
ハイビスカス酸 0.50
精製水 残部
合計 100.0
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】実施例1においてハイビスカス酸の存在下又は非存在下で培養したB16メラノーマ細胞のチロシナーゼ発現量を示すPVDF像である。図中レーンIはハイビスカス酸無添加;レーンIIは5%ハイビスカス酸溶液100μl添加;レーンIIIは5%ハイビスカス酸溶液50μl添加;レーンIVは5%ハイビスカス酸溶液25μl添加;レーンVは5%ハイビスカス酸溶液12.5μl添加のサンプルを示す図である。
【図2】実施例2における、ハイビスカス酸又はハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性阻害率(%)の関係を示す図である。
【図3】実施例3における、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物又はハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性阻害率(%)の関係を示す図である。
【図4】実施例4における、ハイビスカス酸ジメチルエステル又はハイビスカスエキスの添加濃度とチロシナーゼ活性の阻害率(%)の関係を示す。
【図5】実施例5における、ハイビスカス酸添加群及びアルブチン添加群のインキュベート20時間後と108時間後におけるチロシナーゼ活性阻害率(%)を示す図である。
【図6】実施例6における、ハイビスカス酸の添加濃度とメラニン生成率(%)の関係を示す図である。
【図7】実施例7における、ハイビスカス酸モノエチルエステル分画物の添加濃度とメラニン生成率(%)の関係を示す図である。
【図8】実施例8における、ハイビスカス酸ジメチルエステルの添加濃度とメラニン生成率(%)の関係を示す。
【図9】試験例における、ハイビスカス酸とガルシニア酸のウェル中濃度が0.5mg/mlであるときの細胞数とメラニン生成率(%)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)
【化1】

(但し、式中のR1及びRは、それぞれ水素原子、置換又は非置換のアルキル基又はベンジル基を示す。)で表されるハイビスカス酸類及びその塩からなる群から選ばれる1又は2種以上の化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
式(1)で表されるハイビスカス酸類のR及びRの少なくとも1つが置換又は非置換のアルキル基である請求項1に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白剤。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白用化粧料。
【請求項5】
請求項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む美白用食品。
【請求項6】
請求項1〜2のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を有効成分として含む口腔用組成物。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−306863(P2006−306863A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97110(P2006−97110)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】