説明

メンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法

【課題】簡易な構成でノズル開口の閉塞とノズル内の吸引クリーニングとを行うことができるメンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】プリンターのメンテナンス装置は、キャップ50と、凹部59内を吸引する吸引ポンプと、移動機構とを備える。キャップ50は、流体噴射ヘッド18に対して、ノズル列単位でノズル23を封止するようにノズル開口25に当接する複数の当接部56と、各当接部56と隣接する位置に設けられた複数の開口部57と、当接部56によって開口の一部が覆蓋されるとともに開口部57を通じて内部空間が外部と連通する凹部59とを有する。また、移動機構は、当接部56がノズル開口25を閉塞する閉塞位置と、開口部57を通じてノズル23内と凹部59内とが連通する連通位置との間で、キャップ50と流体噴射ヘッド18とを相対移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体に対して流体を噴射する流体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、流体噴射ヘッドに形成されたノズルからインク(流体)を噴射することで、媒体に印刷を施すようになっている。
【0003】
こうしたプリンターにおいては、印刷処理を行っていない待機状態の時や電源OFF状態の時に、ノズル開口からのインク溶媒の蒸発を抑制するためのキャップ部材を備えたものがあった(例えば、特許文献1)。
【0004】
なお、蒸発の抑制という点では、ノズル内に残る空気の量が少ない方が好ましいため、特許文献1では、ノズル開口部に密着することでノズル開口を閉塞する板状の密着キャップを備えていた。
【0005】
また、このようなプリンターにおいては、ノズルの目詰まりを防止するために、ノズル内を吸引する吸引クリーニングを行うこともある。そのため、特許文献1のプリンターでは、密着キャップとは別に、複数のノズル開口との間に吸引のための空間を囲み形成する有底箱状の吸引キャップも備えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−103594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1では、キャップ部材として密着キャップと吸引キャップとを備えているため、各キャップ部材を移動させるための移動機構をそれぞれ備える必要があった。そのため、装置の構成が複雑になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成でノズル開口の閉塞とノズル内の吸引クリーニングとを行うことができるメンテナンス装置、流体噴射装置及びメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドに対して、ノズル列単位で前記ノズルのノズル開口を閉塞するように当接する複数の当接部、該各当接部と隣接する位置に設けられた複数の開口部及び前記当接部によって開口の一部が覆蓋されるとともに前記開口部を通じて内部空間が外部と連通する凹部を有するキャップと、前記凹部内を吸引する吸引機構と、前記当接部が前記ノズル開口を閉塞する閉塞位置と、前記開口部を通じて前記ノズル内と前記凹部内とが連通する連通位置との間で、前記キャップと前記流体噴射ヘッドとを相対移動させる移動機構と、を備える。
【0010】
この構成によれば、キャップは閉塞位置においてノズル開口を閉塞することができる。また、キャップが連通位置にあるときに吸引機構が凹部内を吸引することで、開口部を通じてノズル内の吸引クリーニングを行うことができる。そして、キャップにおいて、開口部は当接部と隣接する位置に設けられているとともに、当接部はノズル列単位でノズル開口を閉塞することができるので、移動機構を複数備える必要がない。したがって、簡易な構成でノズル開口の閉塞とノズル内の吸引クリーニングとを行うことができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記移動機構は、前記吸引機構が前記連通位置にある前記キャップの前記開口部を通じて前記ノズル内を吸引しているときに、前記キャップを前記連通位置から前記閉塞位置に移動させる。
【0012】
この構成によれば、吸引機構が開口部を通じてノズル内を吸引しているときに、移動機構がキャップを連通位置から閉塞位置に移動させることで、吸引クリーニングを瞬間的に強制終了させることができる。すなわち、吸引機構が吸引を終えた後にノズル開口を閉塞する場合には、吸引が終了してからノズル開口が閉塞されるまでの間に、凹部内に残った負圧によってノズル内から流体が流出してしまうのに対して、吸引クリーニングを瞬間的に強制終了させることで、流体の無駄な消費を抑制することができる。
【0013】
本発明のメンテナンス装置において、前記移動機構は、前記吸引機構が前記閉塞位置にある前記キャップの前記凹部内を吸引しているときに、前記キャップを前記閉塞位置から前記連通位置に移動させる。
【0014】
この構成によれば、キャップによってノズル開口が閉塞された状態で吸引機構が凹部内を吸引することで、凹部内の負圧を高めることができる。そして、凹部内の負圧が高まった状態で移動機構がキャップを閉塞位置から連通位置に移動させることにより、ノズル内の流体の流速を速くして、効果的な吸引クリーニングを行うことができる。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の流体噴射装置は、複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドと、上記メンテナンス装置と、を備える。
この構成によれば、上記メンテナンス装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス方法は、複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドに対して、ノズル列単位で前記ノズルのノズル開口を閉塞するように当接する複数の当接部、該各当接部と隣接する位置に設けられた複数の開口部及び前記当接部によって開口の一部が覆蓋されるとともに前記開口部を通じて内部空間が外部と連通する凹部を有するキャップと、前記流体噴射ヘッドとを、前記当接部が前記ノズル開口を閉塞する閉塞位置から、前記開口部を通じて前記ノズル内と前記凹部内とが連通する連通位置に相対移動させる移動工程と、前記凹部内を吸引する吸引工程と、を備える。
【0017】
この構成によれば、上記メンテナンス装置と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態におけるプリンター概略構成を示す断面図。
【図2】流体噴射ヘッド及びキャップの構成を模式的に示す断面図。
【図3】流体噴射ヘッド及びキャップの斜視図。
【図4】(a)はキャップが連通位置にある状態を示す断面図で、(b)はキャップが閉塞位置にある状態を示す断面図。
【図5】吸引クリーニングにおけるキャップの移動タイミングを説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」という)に具体化した実施形態を図1〜図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は各図中に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0020】
図1に示すように、流体噴射装置としてのプリンター11は、本体ケース12と、本体ケース12内に収容された記録部13と、メンテナンス装置14とを備えている。また、本体ケース12内には、左右方向に延びる棒状のガイド軸15と、媒体となる用紙Pを支持するプラテン16とが収容されている。
【0021】
記録部13は、ガイド軸15に左右方向への往復移動可能な状態で支持されたキャリッジ17と、キャリッジ17の下面側に支持された流体噴射ヘッド18とを備える。キャリッジ17は、図示しない駆動機構により、左右方向に往復移動するようになっている。なお、本実施形態においては、本体ケース12内の右端側をホームポジション側とするとともに、ホームポジション側から印刷領域となる左側に向かう左方向を移動方向Xとして図示している。
【0022】
キャリッジ17には、流体としてのインクを収容したインクカートリッジ19が着脱可能に装着されるとともに、流体噴射ヘッド18側となる下流側に向けてインクを供給する流体供給流路としてのインク供給路20が設けられている。インクカートリッジ19及びインク供給路20は、インクの色数等(本実施形態では4色)に対応して複数設けられている。
【0023】
また、キャリッジ17には加圧ポンプ(図示略)が設けられている。そして、加圧ポンプの駆動により、インクカートリッジ19に収容されたインクがインク供給路20を通じて下流側に供給されるようになっている。なお、加圧ポンプは、複数のインクカートリッジ19に対して加圧力を供給するように構成してもよい。
【0024】
流体噴射ヘッド18には、各インク供給路20を通じて供給されたインクを噴射する複数のノズル23が設けられているとともに、流体噴射ヘッド18の下面側からなるノズル形成面24には、ノズル23のノズル開口25が形成されている。また、プラテン16上には、図示しない搬送機構によって後方から前方に向けて用紙Pが搬送される。そして、キャリッジ17が移動方向Xに沿って直線移動(走査)しながら、ノズル23からプラテン16上の用紙Pにインク滴を噴射することにより、印刷(記録)が行われるようになっている。
【0025】
なお、流体噴射ヘッド18においては、各色に対応するノズル23が移動方向Xに沿って配置されるとともに、同一色のインクを噴射する複数のノズル23が用紙Pの搬送方向と一致するノズル列方向Yに沿って延びるノズル列N(図2参照)を形成している。すなわち、流体噴射ヘッド18には、複数のノズル23からなるノズル列Nが複数列設けられている。そして、キャリッジ17の走査毎にノズル列Nの長さに対応する幅の印刷が行われるとともに、間欠的に用紙Pが搬送されるようになっている。
【0026】
次に、流体噴射ヘッド18の構成について詳述する。
図1の一部拡大断面図に示すように、流体噴射ヘッド18は、上下方向に積層された流路形成部材40、振動板41、流路形成部材42及びノズルプレート43を備えている。
【0027】
流路形成部材40には貯留部としてのリザーバー44と、収容室45とが形成されている。また、流路形成部材40には、リザーバー44内にインクを流入させるための流入孔46が形成されている。また、振動板41には、リザーバー44内のインクを各ノズル23に向けて供給する複数の流出孔47が設けられている。
【0028】
図2に示すように、リザーバー44は、インクを一時貯留するために一方向(ノズル列方向Y)に沿って延びるように設けられている。そして、流入孔46は、リザーバー44のノズル列方向Yにおける中央付近に設けられているとともに、複数の流出孔47はノズル列方向Yに沿って並ぶように配置されている。なお、図2及び図3においては、簡略化のため、それぞれノズル列Nを構成するノズル23及び流出孔47の数を省略して図示している。
【0029】
図1に示すように、流路形成部材42には、流出孔47を通じてリザーバー44と連通するキャビティ48が形成されている。また、収容室45内において振動板41の上面側には、キャビティ48の上方となる位置に圧電素子49が配設されている。
【0030】
ノズルプレート43にはキャビティ48と連通するノズル23が貫通形成されている。また、流体噴射ヘッド18のノズル形成面24はノズルプレート43の下面(底面)によって構成されている。すなわち、複数のノズル23のノズル開口25は、一平面としてのノズル形成面24上に並ぶように配置されている。
【0031】
振動板41は上下方向に振動可能に貼り付けられているとともに、圧電素子49は駆動信号を受けて伸縮することで、振動板41を上下方向に振動させるようになっている。また、振動板41が上下方向に振動すると、キャビティ48の容積が拡縮するようになっている。そして、キャビティ48の容積が縮小されると、キャビティ48内のインクがノズル23からインク滴として噴射されるようになっている。
【0032】
なお、ノズル23からインク滴が噴射されると、ノズル23内にはキャビティ48内から毛管力によってインクが補充される。すなわち、各インクカートリッジ19からインク供給路20を通じて流体噴射ヘッド18に供給されたインクはリザーバー44に一時貯留され、リザーバー44から流出孔47及びキャビティ48を通じて各ノズル23に供給されるようになっている。本実施形態において、流入孔46、リザーバー44、流出孔47及びキャビティ48は、インク供給路20の一部を構成する。
【0033】
次に、メンテナンス装置14について説明する。
図1に示すように、メンテナンス装置14は、キャップ50と、キャップ50を移動させるための移動機構51と、廃液タンク52と、廃液チューブ53aと、吸引機構としての吸引ポンプ53と、ワイパー部材54とを備えている。キャップ50は、移動機構51によって上下方向及び相対移動方向となる移動方向Xに沿って移動されるようになっている。廃液チューブ53aはキャップ50と廃液タンク52とを接続するとともに、その途中位置には吸引ポンプ53が設けられている。
【0034】
ワイパー部材54は、移動機構51によってノズル形成面24に当接するワイピング位置まで上昇移動することが可能となっている。そして、ワイパー部材54をワイピング位置に移動させた状態でキャリッジ17を移動させることで、流体噴射ヘッド18のノズル形成面24をワイピング(払拭)するようになっている。
【0035】
図2及び図3に示すように、キャップ50は、内底部に廃液チューブ53aの上流端が開口する有底箱状のキャップ部材50aと、キャップ部材50aの開口を覆うようにキャップ部材50aの上端側に固定された当接部材55とを備えている。
【0036】
図3に示すように、当接部材55には、ノズル23のノズル開口25を閉塞するように流体噴射ヘッド18に当接する複数の当接部56と、各当接部56と隣接する位置に設けられた複数の開口部57とが形成されている。当接部56及び開口部57は、同色のインクを噴射する各ノズル列Nに対応するように、ノズル列方向Yに沿って延びるとともに、移動方向Xに沿って並ぶように配置されている。
【0037】
図2に示すように、キャップ部材50aには、当接部56によって開口の一部が覆蓋されるとともに開口部57を通じて内部空間が外部と連通する凹部59が形成されている。キャップ50は、流体噴射ヘッド18のノズル形成面24に当接することで、凹部59によって空間RSを囲み形成する。このとき、当接部材55は、流体噴射ヘッド18とキャップ部材50aとの間に配置される態様となる。
【0038】
また、ノズル開口25の下方に開口部57が配置されると、ノズル23は開口部57を通じて空間RSに連通する態様となる。そして、吸引ポンプ53が廃液チューブ53aを通じて凹部59内を吸引することで、ノズル23内のインクが排出される吸引クリーニングが行われる。
【0039】
次に、メンテナンス装置14によるメンテナンス動作について説明する。
キャリッジ17は、印刷が終了すると、プラテン16上の印刷領域から右方に移動して、メンテナンス装置14の上方となるホームポジションに停止する。そして、メンテナンス動作として、キャッピング、クリーニング及びワイピングなどが行われる。
【0040】
キャッピングは、ホームポジションに停止されたキャリッジ17の流体噴射ヘッド18に向かって、移動機構51がキャップ50を上昇移動させることで行われる。このとき、図4(a)に示すように、開口部57がノズル列Nの下方に配置された状態でキャップ50が流体噴射ヘッド18に当接すると、各ノズル23は開口部57を通じて空間RS内に連通した状態でキャッピングが行われる。以下、このようなキャッピングを「吸引キャッピング」といい、このときのキャップ50の位置を「連通位置」という。
【0041】
一方、図4(b)に示すように、当接部56がノズル列Nの下方に配置された状態でキャップ50が流体噴射ヘッド18に当接すると、当接部56によって各ノズル23のノズル開口25が閉塞された状態でキャッピングが行われる。以下、このようなキャッピングを「密着キャッピング」といい、このときのキャップ50の位置を「閉塞位置」という。そして、移動機構51は、キャップ50をノズル形成面24に摺接させつつ、連通位置と閉塞位置との間で移動方向Xに沿ってスライド移動させることで、キャップ50と流体噴射ヘッド18とを相対移動させるようになっている。
【0042】
密着キャッピングは、印刷待機時や電源オフ時などに、ノズル開口25からのインク溶媒の蒸発を抑制するために行われる。蒸発の抑制という点ではノズル23の内部に残る空気の量が少ない方が好ましいし、ノズル23が空間RSに連通していると、廃液チューブ53aからの透過やその下端側の開口を通じて気体が出入りするため、密閉状態にするのが難しいためである。
【0043】
これに対して、吸引キャッピングは、吸引クリーニングの際に行われる。吸引クリーニングは、例えばインクカートリッジ19の交換時や電源ON時などに行われ、吸引ポンプ53を駆動して凹部59内の空気を吸引し、空間RSに負圧を生じさせることで、空間RSに連通する全てのノズル23からドット抜けの要因となる気泡や増粘インクを排出する。
【0044】
次に、吸引クリーニングついて説明する。
吸引クリーニングに際しては、まず、第1閉塞工程として、図4(b)に示すようにキャップ50を閉塞位置に移動させて、各ノズル開口25を閉塞する。次に、吸引工程として、吸引ポンプ53を駆動して凹部59内の吸引を開始する。すると、空間RS内が減圧され、図5に示すように、時間経過とともに負圧が増していく。
【0045】
そして、吸引開始から所定時間Toが経過して空間RS内の圧力が所定値(―Ps)に至ると、移動工程として、移動機構51がキャップ50を閉塞位置から連通位置に移動させる。すなわち、移動機構51は、吸引ポンプ53が閉塞位置にあるキャップ50の凹部59内を吸引しているときに、キャップ50を閉塞位置から連通位置に移動させる。すると、各ノズル23内に急激に負圧が作用することで、図4(a)に示すようにインクが一気に吸引され、速い速度で廃液チューブ53aを通じて廃液タンク52内に排出される。
【0046】
続いて、吸引開始から所定時間Tcが経過すると、第2閉塞工程として、移動機構51がキャップ50を連通位置から閉塞位置に移動させ、各ノズル開口25を閉塞する。すなわち、移動機構51は、吸引ポンプ53が連通位置にあるキャップ50の開口部57を通じてノズル23内を吸引しているときに、キャップ50を連通位置から閉塞位置に移動させる。これにより、ノズル23内の吸引が瞬間的に遮断され、インクの排出が強制的に終了される。そしてその後、吸引ポンプ53による駆動を停止して、吸引工程を終了する。
【0047】
すなわち、空間RS内の負圧が十分に高まっていなうちにノズル23内を吸引すると、インクは遅い流速で流出することになる。すると、例えばリザーバー44内やキャビティ48内に滞留した気泡や増粘したインクは排出されず、印刷に用いるべきインクばかりが消費されてしまうことにもなる。その点、負圧を十分に蓄積してからノズル開口25の閉塞を解除することで、吸引ポンプ53の時間あたりの吸引能力を増大させることなく、高い吸引効果を得ることができる。
【0048】
なお、空間RS内に蓄積された負圧は、移動工程でインクが一気に排出されるのに伴ってある程度解消されるが、吸引ポンプ53の駆動を継続することで、空間RS内は大気圧より低い負圧に保たれる。そのため、吸引ポンプ53の駆動を停止したときにキャップ50が連通位置にあると、空間RS内に残った負圧でインクが消費されてしまう。その点、吸引ポンプ53の停止を待たずにノズル開口25を閉塞することで、ピーク値(−Pmax)付近の負圧のみをノズル23内の吸引に用いることができる。
【0049】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)キャップ50は閉塞位置においてノズル開口25を閉塞することができる。また、キャップ50が連通位置にあるときに吸引ポンプ53が凹部59内を吸引することで、開口部57を通じてノズル23内の吸引クリーニングを行うことができる。そして、キャップ50において、開口部57は当接部56と隣接する位置に設けられているとともに、当接部56はノズル列単位でノズル開口25を閉塞することができるので、移動機構を複数備える必要がない。したがって、簡易な構成でノズル開口25の閉塞とノズル23内の吸引クリーニングとを行うことができる。
【0050】
(2)吸引ポンプ53が開口部57を通じてノズル23内を吸引しているときに、移動機構51がキャップ50を連通位置から閉塞位置に移動させることで、吸引クリーニングを瞬間的に強制終了させることができる。すなわち、吸引ポンプ53が吸引を終えた後にノズル開口25を閉塞する場合には、吸引が終了してからノズル23が閉塞されるまでの間に、凹部59内に残った負圧によってノズル23内からインクが流出してしまうのに対して、吸引クリーニングを瞬間的に強制終了させることで、インクの無駄な消費を抑制することができる。
【0051】
(3)キャップ50によってノズル開口25が閉塞された状態で吸引ポンプ53が凹部59内を吸引することで、凹部59内の負圧を高めることができる。そして、凹部59内の負圧が高まった状態で移動機構51がキャップ50を閉塞位置から連通位置に移動させることにより、ノズル23内のインクの流速を速くして、効果的な吸引クリーニングを行うことができる。
【0052】
(4)当接部材55が流体噴射ヘッド18のノズル形成面24に取り付けられているとワイピングの妨げとなるが、当接部材55はキャップ部材50aとともに移動するので、ワイパー部材54によるワイピングを妨げることがない。
【0053】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・キャップ50を連通位置に配置した後に吸引工程を開始してもよいし、キャップ50を連通位置に配置したまま吸引工程を終了してもよい。
【0054】
・キャップ50に対して、キャリッジ17を左右方向に移動させるようにしてもよい。この場合には、キャップ50を左右方向に移動させる必要がない。すなわち、キャップ50と流体噴射ヘッド18とが相対移動可能な構成であればよい。
【0055】
・流体噴射ヘッド18やノズル23の数、ノズル列Nの列数などは任意に設定することができる。また、同色のインク(同種の流体)に対応するノズル列Nが隣接するように複数列設けられる場合には、該複数列のノズル列に対応するように開口部を設けてもよい。
【0056】
・インクカートリッジ19に代えて、着脱式でないインクタンクを採用してもよい。
・ノズル23は、ノズルプレート43に貫通形成されるものに限らず、流体噴射ヘッド18から突設される円筒状の細い管によって形成されてもよい。
【0057】
・メンテナンス装置14は、ワイパー部材54を備えなくてもよい。
・プリンターは、長尺の流体噴射ヘッドを備えるフルラインタイプのラインヘッド式プリンターや、ラテラル式プリンターとして実現してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
11…流体噴射装置としてのプリンター、14…メンテナンス装置、18…流体噴射ヘッド、23…ノズル、25…ノズル開口、50…キャップ、51…移動機構、54…吸引機構としての吸引ポンプ、56…当接部、57…開口部、59…凹部、N…ノズル列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドに対して、ノズル列単位で前記ノズルのノズル開口を閉塞するように当接する複数の当接部、該各当接部と隣接する位置に設けられた複数の開口部及び前記当接部によって開口の一部が覆蓋されるとともに前記開口部を通じて内部空間が外部と連通する凹部を有するキャップと、
前記凹部内を吸引する吸引機構と、
前記当接部が前記ノズル開口を閉塞する閉塞位置と、前記開口部を通じて前記ノズル内と前記凹部内とが連通する連通位置との間で、前記キャップと前記流体噴射ヘッドとを相対移動させる移動機構と、を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記吸引機構が前記連通位置にある前記キャップの前記開口部を通じて前記ノズル内を吸引しているときに、前記キャップを前記連通位置から前記閉塞位置に移動させることを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記吸引機構が前記閉塞位置にある前記キャップの前記凹部内を吸引しているときに、前記キャップを前記閉塞位置から前記連通位置に移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドと、
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置と、を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
複数のノズルからなるノズル列が複数列設けられた流体噴射ヘッドに対して、ノズル列単位で前記ノズルのノズル開口を閉塞するように当接する複数の当接部、該各当接部と隣接する位置に設けられた複数の開口部及び前記当接部によって開口の一部が覆蓋されるとともに前記開口部を通じて内部空間が外部と連通する凹部を有するキャップと、前記流体噴射ヘッドとを、前記当接部が前記ノズル開口を閉塞する閉塞位置から、前記開口部を通じて前記ノズル内と前記凹部内とが連通する連通位置に相対移動させる移動工程と、
前記凹部内を吸引する吸引工程と、を備えることを特徴とするメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−245680(P2011−245680A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119278(P2010−119278)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】