説明

メンブレン回路基板

【課題】カーオーディオ、あるいはカーナビゲーションシステムに利用されるメンブレンスイッチ等に関し、耐久性に優れたメンブレン回路基板を提供する。
【解決手段】溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステルから形成される絶縁フィルム1と、導電性材料から形成されたメンブレン回路6と、を有するメンブレン回路基板10である。この液晶ポリエステルは、(1)−O−Ar1−CO−、(2)−CO−Ar2−CO−、(3)−X−Ar3−Y−の3種類の構造単位から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンスイッチ等に使用されるメンブレン回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
メンブレン回路基板は、優れた変形自由度を有しており、キーボード等のメンブレンスイッチ、折りたたみ可能な携帯電話、ノート型パソコン等の種々の電子機器に利用されている。
【0003】
メンブレン回路基板を利用した典型的なものとしてメンブレンスイッチがある。このメンブレンスイッチとは、スペーサを介在した2つの基材フィルムの対向する面に、各々相対する接点(メンブレン回路)を配置してなるものであり、押下することで導電、絶縁のスイッチ作用が容易にできるものである。また、メンブレンスイッチを他の電子部品と接続させるために、メンブレンスイッチをコネクタに接続させる使用形態が知られている。
特に、最近のカーオーディオ、カーエアコンのタッチパネル化、あるいはカーナビゲーションシステム等の普及による車内でのリモートコントロールスイッチの使用により、メンブレンスイッチの基材フィルム(絶縁フィルム)に対して高温下での永久変形性が要求されるようになってきた。
【0004】
従来のメンブレン回路基板の絶縁フィルムには、主としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが用いられていたが、このPETフィルムは、前記の永久変形性の要求には適合することが困難である。この永久変形性の要求に応えるものとしては、たとえば特許文献1にポリエチレンナフタレンカルボキシレート(PEN)フィルムが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−082620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されているPENフィルムを備えたメンブレンスイッチは、永久変形性には優れているにもかかわらず、実用的な耐久性を有するメンブレンスイッチを実現することは困難であった。本発明者等が、このようにPENフィルムを備えたメンブレンスイッチが実用的な耐久性を発現できない原因について詳細に検討したところ、該PENフィルムが比較的吸湿性が大きく、環境からの水分の混入等によって、経時的に性能が損なわれているという考えに達した。
かかる状況下、本発明の目的は、実用的に十分な耐熱性を有し、さらに耐水性を高度に備えた絶縁フィルムを有するメンブレン回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の<1>を提供するものである。
<1>溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステルから形成された絶縁フィルムと、導電性材料から形成されたメンブレン回路と、
を有するメンブレン回路基板
【0008】
また、本発明は前記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>〜<6>を提供する。
<2>前記液晶ポリエステルが、以下の式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位とを有し、全構造単位の合計に対して式(1)で表される構造単位が30.0〜60.0モル%、式(2)で表される構造単位が20.0〜35.0モル%、式(3)で表される構造単位が20.0〜35.0モル%からなる液晶ポリエステルである、<1>のメンブレン回路基板;
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
<3>前記式(3)で表される構造単位のX及びYのうち、少なくとも一方がNHである、<2>のメンブレン回路基板;
<4>前記液晶ポリエステルが、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜60.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が20.0〜35.0モル%、テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が20.0〜35.0モル%からなる液晶ポリエステルである、<1>〜<3>の何れかのメンブレン回路基板;
<5>前記メンブレン回路が、導電性ペーストにより形成されたメンブレン回路である、<1>〜<4>の何れかのメンブレン回路基板;
<6>前記メンブレン回路が、前記絶縁フィルムに積層された金属箔をエッチングして形成されたメンブレン回路である、<1>〜<4>の何れかのメンブレン回路基板
【発明の効果】
【0009】
本発明のメンブレン回路基板は、実用的に十分な耐熱性を備え、且つ高耐水性の絶縁フィルムを有する。それゆえ、実用的な耐久性が期待されるメンブレン回路基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のメンブレン回路基板は、溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステルから形成された絶縁フィルムを有することを特徴とする。以下、溶剤可溶性の液晶ポリエステル、それを用いた絶縁フィルム、当該絶縁フィルムを有するメンブレン回路基板の製造方法について順次説明する。なお、必要に応じて図面を参照するが、図面中の構成要素の寸法等は見易さのため任意になっている。
【0011】
<液晶ポリエステル>
本発明に用いる液晶ポリエステルとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を有するポリエステルである。本発明に使用する液晶ポリエステルとしては、下記式(1)で表される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という)と、下記式(2)で表される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という)と、下記式(3)で表される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という)とを有し、全構造単位の合計に対して、式(1)構造単位を30.0〜60.0モル%、式(2)構造単位を20.0〜35.0モル%、式(3)構造単位を20.0〜35.0モル%からなるものが好ましい。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
【0012】
式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸等を挙げることができる。
【0013】
式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、該芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0014】
式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族ジアミンに由来する構造単位である。該芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等を挙げることができる。
また、該フェノール性水酸基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、3−アミノフェノール等を挙げることができ、該芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン等を挙げることができる。
【0015】
本発明に用いる液晶ポリエステルは溶剤可溶性であり、かかる溶剤可溶性とは、温度50℃において、1重量%以上の濃度で溶剤に溶解することを意味する。この場合の溶剤とは、後述する溶液組成物の調製に用いる好適な溶剤の何れか1種であり、詳細は後述する。
このような溶剤可溶性を有する液晶ポリエステルとしては、前記式(3)構造単位として、フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する構造単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)構造単位として、X及びYの少なくとも一方がNHである構造単位(式(3’)で表される構造単位、以下、「式(3’)構造単位」という)を含むと、後述する好適な溶剤(非プロトン性極性溶剤)に対する溶剤可溶性が優れる傾向があるため好ましい。特に、実質的に全ての式(3)構造単位が式(3’)構造単位であることが好ましい。また、この式(3’)構造単位は液晶ポリエステルの溶剤溶解性を十分にすることに加え、液晶ポリエステルの吸湿性がより低くなる点でも有利である。
(3’)−X−Ar3−NH−
(式中、Ar3及びXは前記式(3)と同義である。)
式(3)構造単位は全構造単位の合計に対して、20.0〜35.0モル%であると好ましく、20.0〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましく、このような範囲(モル分率)で式(3’)構造単位を含む液晶ポリエステルは、その溶剤可溶性が一層良好になる。また、式(3’)構造単位を、式(3)構造単位として有する液晶ポリエステルは、溶剤に対する溶解性、低吸水性という特性が良好になることに加え、前記溶液組成物を用いて絶縁フィルムの製造がより容易となるという利点もある。
【0016】
式(1)構造単位は全構造単位の合計に対して、30.0〜60.0モル%の範囲で含むと好ましく、35.0〜60.0モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶剤に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も合わせて考慮すると、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸及び/又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好適である。
【0017】
式(2)構造単位は全構造単位の合計に対して、20.0〜35.0モル%の範囲で含むと好ましく、20.0〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステルは、液晶性を十分維持しながらも、溶剤に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も合わせて考慮すると、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる芳香族ジカルボン酸であると好ましい。
【0018】
また、得られる液晶エステルがより高度の液晶性を発現する点では、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル比は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1.0〜1.0/0.9の範囲が好適である。
【0019】
次に液晶ポリエステルの製造方法について簡単に説明する。
該液晶ポリエステルは、種々公知の方法により製造可能である。好適な液晶ポリエステルである、式(1)構造単位、式(2)構造単位及び式(3)構造単位からなる液晶ポリエステルを製造する場合、これら構造単位を誘導するモノマーを、エステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後、重合させて液晶ポリエステルを製造する方法が、その操作が簡便であるため好ましい。
【0020】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について、例を挙げて説明する。
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のような、カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、酸塩化物、酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや、当該カルボキシル基が、エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のような、フェノール性水酸基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
また、芳香族ジアミンのように、アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも液晶ポリエステルをより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンといったフェノール性水酸基及び/又はアミノ基を有するモノマーとを、脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後、該アシル化物のアシル基と、カルボキシ基を有するモノマーのカルボキシ基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ、液晶ポリエステルを製造する方法が特に好ましい。
このような液晶ポリエステルの製造方法は、例えば、特開2002−220444号公報又は特開2002−146003号公報に記載されている。
【0022】
アシル化においては、フェノール性水酸基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の添加量が1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、1.05〜1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1.0倍当量未満では、重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞し易い傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0023】
アシル化は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
アシル化に使用される脂肪酸無水物は、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸又はこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、特に好ましくは、無水酢酸である。
【0024】
アシル化に続く重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
また、重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0025】
アシル化及び/又は重合の際には、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0026】
なお、アシル化や重合は触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N,N-ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
ただし、金属を含む触媒を使用すると、当該金属が液晶ポリエステルに不純物として混入することになり、絶縁フィルムの絶縁性が損なわれることがある。かかる観点から、前記の触媒の中でも有機化合物触媒が好ましく、N,N-ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が特に好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
該触媒は、通常モノマーの投入時に一緒に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合には、アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0027】
このような重合で得られた液晶ポリエステルは、その流動開始温度が250℃以上であれば、そのまま本発明に用いることができるが、耐熱性や液晶性という特性の更なる向上のためには、より高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた、比較的低分子量の液晶ポリエステルを取り出し、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にする。続いて、粉砕後の液晶ポリエステルを、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で加熱処理するという操作により固相重合は実施できる。該固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステルを得るといった観点から、該固相重合の好適条件を詳述すると、反応温度として210℃を越えることが好ましく、より一層好ましくは220℃〜350℃の範囲である。反応時間は1〜10時間から選択されることが好ましい。
【0028】
本発明に用いる液晶ポリエステルは、流動開始温度が250℃以上であるため、優れた耐熱性を有するフィルムを形成することができる。該流動開始温度は260℃以上であることが好ましい。また、該流動開始温度がこのような範囲であると、本発明のメンブレン回路基板を得たとき、当該メンブレン回路基板のメンブレン回路(スイッチ部)と、前記絶縁フィルムとの間に、高度の密着性が得られるという利点もある。なお、ここでいう流動開始温度とは、フローテスターによる溶融粘度の評価において、9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお、この流動開始温度とは、液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(小出直之編,「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」,95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行)。
【0029】
また、液晶ポリエステルの流動開始温度の上限は、該液晶ポリエステルの溶剤可溶性が維持できる範囲で決定されるが、好適には300℃以下である。流動開始温度が300℃以下であれば、液晶ポリエステルの溶剤に対する溶解性がより良好になることに加え、後述する溶液組成物を得たとき、その粘度が著しく大にならないので、該溶液組成物の取扱性が良好となる傾向がある。この点から、流動開始温度の上限は290℃以下であるとさらに好ましい。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには、前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
【0030】
<溶液組成物>
本発明のメンブレン回路基板に使用される絶縁フィルムを得るには、液晶ポリエステル及び溶剤を含む溶液組成物、特に溶剤に液晶ポリエステルを溶解せしめた溶液組成物を用いることが好ましい。
本発明に用いる液晶ポリエステルとして、上述の好適な液晶ポリエステル、特に前記式(3’)構造単位を含む液晶ポリエステルを用いた場合、該液晶ポリエステルはハロゲン原子を含まない非プロトン性溶剤に対して十分な溶解性を発現する。
ここでハロゲン原子を含まない非プロトン性溶剤とは、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;γ―ブチロラクトン等のラクトン系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶剤;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶剤、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶剤が挙げられる。なお、上述の液晶ポリエステルの溶剤可溶性とは、これらから選ばれる少なくとも1つの非プロトン性溶剤に可溶であることを指すものである。
【0031】
液晶ポリエステルの溶剤可溶性をより一層良好にして、溶液組成物が得られやすい点では、例示した非プロトン性溶剤の中でも、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶剤を用いることが好ましい。具体的にいえば、アミド系溶剤、ラクトン系溶剤が好ましく、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)がより好ましい。更には、前記溶剤が、1気圧における沸点が180℃以下の揮発性の高い溶剤であると、フィルム製膜後に溶媒除去しやすいという利点もある。この点からは、DMF、DMAc、NMP又はこれらから選ばれる2種以上からなる混合溶媒が特に好ましい。
【0032】
前記溶液組成物の調製に前記非プロトン性溶剤を用いた場合、該非プロトン性溶剤100重量部に対して、液晶ポリエステルを20〜50重量部、好ましくは22〜40重量部溶解させると好ましい。該溶液組成物に対する液晶ポリエステル含有量がこのような範囲であると、後述する絶縁フィルムの作製方法において、前記溶液組成物を支持基材上に流延塗工した後、該溶液組成物に含有される溶剤を乾燥除去する際に、厚みムラが生じる等の不都合が起こり難い傾向がある。
【0033】
また、前記溶液組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体に代表されるエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂等、液晶ポリエステル以外の樹脂を一種又は二種以上を添加してもよい。ただし、このような他の樹脂を用いる場合においても、これら他の樹脂も該溶液組成物に使用した溶剤に可溶であることが好ましい。
【0034】
さらに、該溶液組成物には、寸法安定性、熱電導性の改善等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲であれば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が、一種又は二種以上添加されていてもよい。
また、該溶液組成物は必要に応じて溶液中に含まれる微細な異物を、フィルター等を用いたろ過処理により除去してもよい。
さらに、該溶液組成物は必要に応じ、脱泡処理を行ってもよい。
【0035】
<絶縁フィルムの製造方法>
本発明のメンブレン回路基板に使用される絶縁フィルムは、例えば以下のような方法で製造することができる。
まず、前記液晶ポリエステルを溶剤に溶解して、上述したような溶液組成物を調製する。
次に、該溶液組成物を適当な支持基材上に流延塗工する。かかる流延塗工には、たとえばローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の公知の手段を用いることができる。また、該支持基材は、平滑な表面を有し、使用する溶液組成物に対して著しく損なわれることなく、溶液組成物の流延塗工後の加熱処理等に対して十分な耐久性を有するものであればよい。このような支持基材としては、ガラス板、SUS板、銅箔又はSUS箔等が挙げられる。
【0036】
このようにして支持基材上に流延塗工された溶液組成物から溶剤を除去して、該支持基材上にフィルムを形成する。溶剤を除去する方法は、特に限定されないが、溶剤を蒸発させることにより行うことが好ましい。溶剤を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風等の方法が挙げられる。中でも生産効率、取扱性の点から加熱して蒸発することが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発させることがより好ましい。一例として、前記溶液組成物の溶剤にNMP(沸点:204℃)を用いた場合の加熱処理を説明する。まず、50〜60℃で約3時間程度予備乾燥を行う。この予備乾燥の温度が低すぎると、乾燥に時間がかかるうえ、得られる絶縁フィルムの厚みムラが起こり易くなる。一方で、予備乾燥の温度が高すぎると溶剤が急激に蒸発することによって、フィルムの平滑性が損なわれるおそれがある。該予備乾燥を行った後、さらに加熱処理を行う。その際の処理条件としては、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、240〜330℃で、1〜30時間加熱処理するといった方法を挙げることができる。なお、得られる絶縁フィルムの耐熱性をより良好にするためには、該加熱処理の処理条件としては、その温度が250℃を越えるようにして加熱処理することが好ましく、260〜320℃の範囲で加熱処理することがさらに好ましい。該加熱処理の処理時間は1〜10時間から選択されることが、生産性の点で好ましい。このような予備乾燥及び加熱処理を行うことで、液晶ポリエステルをさらに高分子量化することもできる。
【0037】
前記絶縁フィルムは、絶縁性等のメンブレン回路基板として要求される特性を損なわない範囲であれば、必要に応じて表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、UV処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0038】
かくして得られる絶縁フィルムの厚みは、必要とするメンブレン回路基板及び当該メンブレン回路基板を用いてなるメンブレンスイッチ等に要求される特性により適宜最適化できる。該厚みは、好適には10〜350μmであり、50〜200μmであると特に好ましい。絶縁フィルムの厚みがこのような範囲にあれば、十分なフィルム強度の絶縁フィルムとなる。
【0039】
<メンブレン回路基板の製造方法>
以下、本発明のメンブレン回路基板の製造方法に関して説明する。
本発明に係る第1のメンブレン回路の製造方法(第1の実施態様)は、前記のようにして得られた絶縁フィルム上に導電性ペーストを用いてメンブレン回路を形成するという方法である。また、このようにして形成されたメンブレン回路の外形形状をレーザビーム照射によって整形してもよい。
【0040】
この第1の実施態様に用いる導電性ペーストとしては、例えば銀ペースト、カーボンペースト等の導電性微粒子を含むペーストが挙げられる。また、これらのペーストを組み合わせて使用してもよい。中でも、銀ペーストは市場から容易に入手可能であり、より導電性に優れたメンブレン回路が得られるという点で好ましい。該銀ペーストとして市販されているものは、主成分として銀微粒子を含んでなるものであり、バインダー成分として熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が少量加えられたものである。なお、市場から容易に入手できる銀ペーストとしては、例えばソッキョンエイ・ティ(株)製SG−AG47PHT等がある。
【0041】
前記銀ペーストを用いて、前記絶縁フィルム上にメンブレン回路を形成するには、該銀ペーストをスクリーン印刷法で所定形状になるように塗布してパターンを形成する。
続いて、印刷されたパターンに含まれるバインダー成分を融着するために、たとえば所定の温度で加熱し、乾燥固着させる。ここでいう所定の温度とは、導電性ペーストに含有されるバインダー成分の種類により決定される。印刷して得られるパターンは、当該パターンから銀ペーストが滲み出し、所定形状のメンブレン回路が得られなくなることがあるため、バインダー成分を融着することが特に重要となる。ただし、銀ペーストが滲み出して、所定のパターンにならなかった場合、この滲み出した部分をレーザービーム照射により形状を整えることもできる。かかるレーザービーム照射は、パターンに含有されるバインダー成分と絶縁フィルムに含有される液晶ポリエステルとの反応を引き起こし、結果としてメンブレン回路と絶縁フィルムとの間の接着性を良好にすることもある。
【0042】
次に、本発明に係る第2のメンブレン回路の製造方法(第2の実施態様)に関し説明する。この第2の実施態様は、メンブレン回路を金属箔により形成する方法であり、得られるメンブレン回路の導電性と市場から容易に入手できるという点で、該金属箔としては銅箔が特に好ましい。金属箔の厚みは、1〜500μmであると好ましく、3〜100μmがより好ましい。
ここでは好適な金属箔である銅箔を用いた場合に関して詳述することとする。まず、前記絶縁フィルムと銅箔とを積層させる。この積層方法としては、以下に示す2通りの方法がある。
(1)既述のようにして予め絶縁フィルムを製造しておき、得られた絶縁フィルムと銅箔とを接着させる方法;
(2)絶縁フィルム製造用として説明した溶液組成物を、銅箔上に流延塗工し、該銅箔上に直接絶縁フィルムを形成させる方法;
【0043】
前記(1)においては、プレス機又は加熱ロールを用いて、前記銅箔と前記絶縁フィルムとを熱圧着させればよい。この熱圧着に係る温度条件は、該絶縁フィルムに含有されている液晶ポリエステルの流動開始温度を勘案して適宜最適化できる。具体的には、この流動開始温度付近の温度を選択すればよい。また、熱圧着は、真空下で実施することが特に好ましい。該熱圧着の処理時間は1〜30時間、圧力は1〜30MPaから選択される。
また、前記銅箔と前記絶縁フィルムとの接着には、接着剤を使用することもできる。この場合の接着剤としては、アクリル接着剤、ポリウレタン接着剤、エポキシ接着剤等、公知のものが使用できる。また、前記溶液組成物を接着剤として使用することも可能である。
【0044】
前記(2)においては、前記絶縁フィルムの製造方法として説明した方法において、前記支持基材を、銅箔に置き換えれば、当業者には容易に実施可能である。
【0045】
かくして得られた積層体の銅箔に、所定のパターンを形成する。パターンを形成するには、そのマスキングとして、市販のエッチングレジストやドライフィルムを用いることができる。そして、マスキングされた銅箔とマスキングされていない銅箔において、後者の銅箔をウェット法(薬剤処理)というエッチング加工によって除去する。エッチング加工に用いる薬剤としては、例えば塩化第二鉄水溶液が挙げられる。
次いで、マスキングされた銅箔からエッチングレジストやドライフィルムをアセトンや水酸化ナトリウム水溶液で除去する。このようにして銅箔に所定のパターンを形成することでメンブレン回路が形成される。
【0046】
絶縁フィルム上に設けられるメンブレン回路の形状及び個数は、所望のメンブレンスイッチ等の構成により適宜最適化することができる。
【0047】
<メンブレン回路基板の用途>
本発明のメンブレン回路基板は、メンブレンスイッチ等の各種のメンブレン回路に好適に使用することができる。以下、図面を参照しながら、メンブレンスイッチ等に関し簡単に説明する。
図1は、該メンブレンスイッチの構成を模式的に表す断面図である。メンブレンスイッチ100において、本発明のメンブレン回路基板10を2枚使用し、そのメンブレン回路6同士が対向するようにして設けられている。メンブレン回路基板10同士の間にはスペーサー3が設けられ、メンブレン回路6同士の接触を妨げている。そして、メンブレン回路基板10のメンブレン回路が形成されていない方の面には、それぞれ、表面シート4及び裏面粘着シート5が設けられている。このようにして構成されたメンブレンスイッチ100は、方向Aに押下されると、メンブレン回路6同士が密着し、電気的に接合されることとなる。
このようにしてなるメンブレンスイッチ100は、極めて吸湿性が低い絶縁フィルムを備えているので、環境からの水分の混入等によって経時的に性能が損なわれることはなく、極めて耐久性に優れたものとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】メンブレンスイッチの構成を模式的に表す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10・・・メンブレン回路基板,1・・・絶縁フィルム,6・・・メンブレン回路
100・・・メンブレンスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤可溶性であり、流動開始温度が250℃以上の液晶ポリエステルから形成された絶縁フィルムと、
導電性材料から形成されたメンブレン回路と、
を有することを特徴とするメンブレン回路基板。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、以下の式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位とを有し、全構造単位の合計に対して式(1)で表される構造単位が30.0〜60.0モル%、式(2)で表される構造単位が20.0〜35.0モル%、式(3)で表される構造単位が20.0〜35.0モル%からなる液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載のメンブレン回路基板。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレン;Ar2は、フェニレン、ナフチレン又は以下の式(4)で表される基;Ar3は、フェニレン又は以下の式(4)で表される基;X及びYは、それぞれ独立にO又はNHを表わす。なお、Ar1、Ar2及びAr3の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立に、フェニレン又はナフチレンを表す。ZはO、CO又はSO2を表す。)
【請求項3】
前記式(3)で表される構造単位のX及びYのうち、少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項2記載のメンブレン回路基板。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計が30.0〜60.0モル%、4−アミノフェノールに由来する構造単位が20.0〜35.0モル%、テレフタル酸に由来する構造単位、イソフタル酸に由来する構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の合計が20.0〜35.0モル%からなる液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のメンブレン回路基板。
【請求項5】
前記メンブレン回路が、導電性ペーストにより形成されたメンブレン回路であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のメンブレン回路基板。
【請求項6】
前記メンブレン回路が、前記絶縁フィルムに積層された金属箔をエッチングして形成されたメンブレン回路であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のメンブレン回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−129420(P2010−129420A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303866(P2008−303866)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】