説明

メータ駆動回路

【課題】 ゲインリダクションメータとゲインメータに同じ構成のメータ駆動回路を使用しても、ゲインリダクションメータにおいて圧縮率の極小値を明確に認識できること。
【解決手段】 メータ駆動回路40は、入力されたエンベロープ信号を反転してエンベロープフォロワ部40bに入力することのできる第1の選択部SWaと、エンベロープフォロワ部40bの出力を反転してゲインリダクションメータに供給することのできる第2の選択部SWbを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゲインメータやゲインリダクションメータを駆動する際に共通に使用することのできるメータ駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
入力信号がある一定のレベル(スレッショルド・レベル)を超えた際に、出力信号の増大を防ぐために、入力信号が大きくなるにつれて逆にゲインを減少させるコンプレッサが知られている。入力信号のゲインとは、入力信号の振幅レベル(音量)である。コンプレッサはエフェクタの一種であって、オーディオ信号のダイナミックレンジを圧縮する回路(装置)とされている。そして、入力されたオーディオ信号のゲインがスレッショルドレベル(閾値)を超えた場合に、オーディオ信号のゲインを設定した比率(レシオ)で圧縮するようにしている。このように、コンプレッサでは入力信号のゲインを下げる量をレシオの設定値で調整できるようにされており、ゲインの最大と最小の差が圧縮されるため、アンサンブルにおける音の突出を抑えることができるようになる。
【0003】
コンプレッサを備えるオーディオ装置においては、入力信号のゲインを表示するゲインメータと、コンプレッサのゲインリダクションレベルを表示するゲインリダクションメータとを設ける場合が多くされている。ユーザはゲインメータで入力信号のゲインを確認して、入力信号のゲインを調整する。また、ユーザは、ゲインリダクションメータでゲインリダクションレベルを確認して、最適な状態(圧縮がかかりすぎないような状態)となるように、ゲインリダクションレベルを調整するようにしている。ゲインリダクションレベルとは、コンプレッサで入力信号のゲインを圧縮する際の圧縮の大きさ(圧縮率)であり、圧縮率とはコンプレッサをかける前の音量とかけた後の音量との関係をあらわす比率である。圧縮率は、(出力信号のゲイン)/(入力信号のゲイン)で表される。この圧縮率は、0〜1の値をとり、この値が小さいほど、圧縮が大きいことを表している。
【0004】
図6(a)に入力信号のゲインを表示するゲインメータの構成の一例を示す。この図に示すゲインメータは、セグメント数が10の発光部を縦方向に並べて配置した構成とされており、−∞dBから+10dBまでのゲインレベルを表示するゲインメータとされている。このゲインメータは、入力信号のゲインが高くなるに従い下から上に向かって点灯する発光部の数が増加するバーグラフ状の表示態様とされる。ゲインメータの上から2段の点灯色は例えば「赤」とされ、その下の2段の点灯色は例えば「橙」とされ、それより下段の点灯色は「緑」とされて、点灯色により入力信号のゲインの概要を把握できるようにされている。
また、図6(b)にコンプレッサのゲインリダクションレベルを表示するゲインリダクションメータの構成の一例を示す。この図に示すゲインリダクションメータは、セグメント数が10の発光部を縦方向に並べて配置した構成とされており、0dBから+20dBまでのゲインリダクションレベルを表示するゲインリダクションメータとされている。このゲインリダクションメータは、コンプレッサのゲインリダクションレベルが大きくなるに従い上から下に向かって点灯する発光部の数が増加するバーグラフ状の表示態様とされる。ゲインメータの下ら2段の点灯色は例えば「赤」とされ、その上の2段の点灯色は例えば「橙」とされ、それより上段の点灯色は「緑」とされて、点灯色によりゲインリダクションレベルの概要を把握できるようにされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンプレッサにより入力信号のダイナミックレンジを圧縮する態様の一例を図7に示す。図7の上段に示す波形信号はコンプレッサに入力される入力信号の波形であり、横軸が時間、縦軸がゲイン[dB]とされている。この入力信号には図示するようにスレッショルド・レベルを超えるゲインの波形が含まれている。このような入力信号をコンプレッサに入力すると、コンプレッサにおいてはスレッショルド・レベルを超えるゲインの入力信号を圧縮して出力する。圧縮された出力信号の波形は図7の下段に実線で示されており、図7の下段に波線で示す波形は圧縮する前の波形とされている。すなわち、波線で示す波形のゲインが実線で示す波形のゲインに圧縮され、この圧縮した量がゲインリダクションレベル(GR)とされている。ゲインリダクションレベルは、図示するように入力信号の波形のピーク時点tpにおいて最大となり、出力信号のゲインをGoutとし、入力信号のゲインをGinとすると、圧縮率は次式で表される。
圧縮率=Gout/Gin
ただし、出力信号のゲインGoutと入力信号のゲインGinの単位が[dB]とされている場合は、
圧縮率=Gout[dB]−Gin[dB]
となる。また、出力信号のゲインGoutはレシオにより調整することができ、出力信号のゲインGoutは次式で表される。なお、ゲインリダクションメータでは圧縮率の符号が反転されて表示される。
Gout=(Gin−SL)*レシオ+SL
ただし、SLはスレッショルド・レベルである。
【0006】
ところで、ゲインメータにおいては入力信号のピークを所定時間ホールドすることによりエンベロープ信号を検出するエンベロープフォロワ回路を備え、このエンベロープフォロワ回路から出力される入力信号のエンベロープのレベルをゲインメータで表示するようにしている。また、ゲインリダクションメータではコンプレッサのゲイン調整部で決定された圧縮率の信号をエンベロープフォロワ回路に供給し、このエンベロープフォロワ回路から出力される圧縮率のエンベロープ信号のレベルをゲインリダクションメータで表示するようにしている。このように、ゲインリダクションメータとゲインメータではエンベロープフォロワ回路を共に用いていることから、コスト削減・設計の容易化などの理由で、ゲインリダクションメータとゲインメータに同じ構成のメータ駆動回路を使用するようにしている。なお、エンベロープフォロワ回路は、ユーザに極大値を明確に認識させることができることから、ゲイン(入力される信号の振幅値)の極大値の表示を一定時間保持するピークホールド処理を行うようにしている。ここで、ゲインメータでは入力信号のゲインの極大値を確認できることが重要とされ、ピークホールド処理を利用することに意義がある。しかしながら、ゲインリダクションメータでは、圧縮率の極小値(最も強く圧縮されている状態)を確認できることが重要とされているが、ピークホールド処理は極大値を明確にするものであって極小値を明確にすることができない(極小値が表示されない可能性もある)。このように、従来のゲインリダクションメータでは圧縮率の極小値を明確あるいは正確に認識することができないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明はゲインリダクションメータとゲインメータに同じ構成のメータ駆動回路を使用しても、ゲインリダクションメータにおいて圧縮率の極小値を明確かつ正確に認識することができるメータ駆動回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のメータ駆動回路は、入力信号と反転された入力信号のいずれかを選択してエンベロープフォロワ手段に入力する第1の選択手段と、エンベロープフォロワ手段の出力あるいは反転した出力のいずれかを選択してメータに供給する第2の選択手段を備えるようにしたことを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、入力信号と反転された入力信号のいずれかを選択してエンベロープフォロワ手段に入力する第1の選択手段と、エンベロープフォロワ手段の出力あるいは反転した出力のいずれかを選択してメータに供給する第2の選択手段を備え、第1の選択手段および第2の選択手段の設定を切り替えることにより、ゲインリダクションメータにおいて圧縮率の極小値を明確かつ正確に認識することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例のメータ駆動回路を備えるゲインメータおよびゲインリダクションメータを適用することのできるディジタルミキサ1の構成を示すブロック図を図1に示す。
図1に示す本発明の実施例に係るディジタルミキサ1は、ディジタルミキサ1の全体の動作を制御すると共に、ミキシング用の操作子の操作に応じて制御信号を生成しているCPU(Central Processing Unit)10と、CPU10が実行するミキシング制御プログラム等の動作ソフトウェアが格納されている書き換え可能な不揮発性のフラッシュメモリ11と、CPU10のワークエリアや各種データ等が記憶されるRAM(Random Access Memory)12を備えている。このように、フラッシュメモリ11に動作ソフトウェアを格納することにより、フラッシュメモリ11内の動作ソフトウェアを書き換えることで、動作ソフトウェアをバージョンアップすることができる。また、ディジタルレコーダ等のその他の機器は、入出力インタフェースであるその他I/O 13を介してディジタルミキサ1に接続される。
【0011】
表示器14は、各チャンネルのパラメータを設定する各種設定画面等を表示する液晶表示器からなるLCDディスプレイであり、LCDディスプレイには選択されたチャンネルにおける検出ポイントのゲインを表示するゲインメータとコンプレッサの圧縮率を表示するゲインリダクションメータを表示することができるようにされている。この場合のゲインメータおよびリダクションメータは図6(a)(b)のような構成とされる。電動フェーダ15は、入力チャンネルの信号あるいは出力チャンネルの信号のレベルを調整するフェーダであり、手動および電動によりレベル調整することができる。操作子16は、モニタに関する操作を行う操作子や、表示器14に表示されるカーソルを移動するカーソル移動キー、設定される値を増減する増減キー、設定される値を選択するロータリエンコーダ、設定した値を確定させるエンターキー等からなるパネルに設けられている操作子である。ディジタルミキサ1の全ての入力と全ての出力は波形I/O(波形データインタフェース)17により行われる。この波形I/O17は、アナログ信号が入力される複数のA入力ポートと、アナログ信号が出力される複数のA出力ポートと、外部からディジタル信号を入力すると共に外部へディジタル信号を出力する双方向とされている複数のD入力/D出力ポートとを備えている。
【0012】
また、波形I/O17には、ディジタルミキサ1のオペレータが操作子を操作する際のモニタ信号を出力するモニタ用ポートも備えられている。このモニタ用ポートからのモニタ信号がオペレータルームの操作者用モニタ18に供給されることにより、オペレータルームのオペレータは出力チャンネルの信号をモニタしながらディジタルミキサ1の操作を行うことができる。さらに、ミキシング状態を変化させずに、ある入力チャンネルあるいは出力チャンネルの信号や出演者に送られる信号を検聴することができる。また、信号処理部19は多数のDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成されており、CPU10の制御の元でミキシング処理やエフェクト処理などを行っている。この信号処理部19においてミキシング処理されたミキシング信号をレコーダ20に供給して記録することができると共に、レコーダ20から再生したミキシング信号を信号処理部19へ供給することができる。この場合、レコーダ20においてはミキシング信号を圧縮して記録し、再生したミキシング信号を伸張して出力することができるようにされている。各部は通信バス21に接続されている。
【0013】
次に、本発明にかかる図1に示す構成のディジタルミキサ1においてミキシング処理が行われる等価的なミキサの機能ブロック図を図2に示す。
図2において、複数のアナログ入力(A入力)ポート30に入力されたアナログ信号は、内蔵されているAD変換器によりディジタル信号に変換されて入力パッチ32に入力される。また、複数のディジタル入力(D入力)ポート31に入力されたディジタル信号は、そのまま入力パッチ32に入力される。入力パッチ32では、信号の入力元である複数の入力ポートの何れか1つの入力ポートを、例えば32チャンネルとされる複数の入力チャンネル部33a〜33nの各入力チャンネル毎に選択的にパッチ(結線)することができ、各入力チャンネルには、入力パッチ32でパッチされた入力ポートからの信号が供給される。
【0014】
入力チャンネル部33a,33b,・・・,33nにおける各入力チャンネルには、アッテネータ、イコライザ、コンプレッサ、フェーダ、MIXバス34a〜34mへの送り出しレベルを調整するセンド調整部が備えられており、これらの入力チャンネルにおいて、周波数バランスやMIXバス34a〜34mへ送出されるレベルが制御される。入力チャンネル部33a〜33nから出力される32チャンネルのディジタル信号は、それぞれMIX1〜MIX16の16本のMIXバス34a,34b,・・・,34mの1ないし複数に選択的に出力される。MIXバス34a〜34mにおいては、16本の各バスにおいて、32入力チャンネルのうちの任意の入力チャンネルから選択的に入力された1ないし複数のディジタル信号がミキシングされて、合計16チャンネルのミキシング出力がMIX出力チャンネル部(MIXch)35a〜35mに出力される。これにより、16通りにミキシングされた16チャンネルのミキシング出力を得ることができる。このMIXバス34a〜34mからの出力を最終出力としてスピーカ等に供給する場合が多くされる。
【0015】
MIX出力チャンネル部35a〜35mにおける各出力チャンネルには、アッテネータ、イコライザ、コンプレッサ、フェーダが備えられており、これらの出力チャンネルにおいて、周波数バランスおよび出力パッチ36へ送出されるレベルが制御される。出力パッチ36では、信号の入力元であるMIX出力チャンネル部35a〜35mの16チャンネルのミキシング信号の何れか1つのチャンネルを、アナログ出力(A出力)ポート部37やディジタル出力(D出力)ポート部38の各出力ポート毎に選択的にパッチ(結線)することができ、各出力ポートには、出力パッチ36でパッチされたチャンネルからの信号が供給される。
また、複数のアナログ出力ポートを備えるアナログ出力(A出力)ポート部37へ供給されたディジタル出力信号は、内蔵されているDA変換器によりアナログ出力信号に変換されてアナログ出力ポートから出力される。そして、アナログ出力(A出力)ポート部37から出力されるアナログ出力信号は、増幅されてメインのスピーカから放音される。さらに、このアナログ出力信号は出演者が耳に装着するインイヤーモニタに供給されたり、その出演者の近傍に置かれたステージモニタスピーカで再生される。また、複数のディジタル出力ポートを備えるディジタル出力(D出力)ポート部38から出力されるディジタルオーディオ信号は、レコーダ20や外部接続されたDAT等に供給されてディジタル録音することができるようにされている。
【0016】
上記したように入力チャンネル部33a〜33nの各入力チャンネルおよびMIX出力チャンネル部35a〜35mにおける各出力チャンネルにはコンプレッサが備えられており、入力される信号のゲインが設定されたスレッショルド・レベルを超えると図7に示すように信号のダイナミックレンジを圧縮するようにしている。そして、入力チャンネル部33a〜33nの各入力チャンネルおよびMIX出力チャンネル部35a〜35mの各出力チャンネルにおける検出ポイントのゲインを選択的にゲインメータにより表示することができると共に、入力チャンネル部33a〜33nの各入力チャンネルおよびMIX出力チャンネル部35a〜35mの各出力チャンネルにおけるコンプレッサの圧縮率を選択的にゲインリダクションメータに表示することができる。この場合、ユーザはゲインメータおよびゲインリダクションメータに表示するチャンネルと、ゲインメータに表示する検出ポイントを選択する。これにより、ユーザは、ゲインメータに表示される信号のゲインの極大値を確認し、ゲインが大きすぎる場合は所定の操作子16を操作して信号のゲインを絞ることができるようになる。また、ゲインリダクションメータに表示される圧縮率の極小値を確認しながら圧縮されすぎないようにレシオやスレッショルド・レベルの調整を行うことができるようになる。なお、圧縮率は0〜1の値をとり、この値が小さいほど大きく圧縮されている。
【0017】
次に、本発明の実施例のメータ駆動回路の構成を示す回路ブロック図を図3に示す。
図3に示すメータ駆動回路40は、第1の信号反転部40aと、第1の選択部SWaと、エンベロープフォロワ部40bと、第2の信号反転部40cと、第2の選択部SWbとを備えている。第1の信号反転部40aは入力された信号の正負を反転しており、第2の信号反転部40cはエンベロープフォロワ部40bから出力されるエンベロープ信号の正負を反転している。第1の選択部SWaは可動接点aと2つの固定接点b,cとを有しており、入力された信号あるいは反転された入力された信号のいずれかを選択して出力している。第2の選択部SWbは可動接点dと2つの固定接点e,fとを有しており、エンベロープフォロワ部40bから出力されるエンベロープ信号あるいは反転されたエンベロープ信号のいずれかを選択して出力している。エンベロープフォロワ部40bは、第1の選択部SWaにより選択された信号にピークホールド処理を施すことにより、当該信号のエンベロープを検出している。
【0018】
ここで、エンベロープフォロワ部40bが行うピークホールド処理を説明すると、まず、入力された信号のピーク(極大値)を検出し、検出した時点から設定されたホールドの時間だけピーク値を出力値とする。次いで、ホールドの時間が経過すると、ディケイの設定値に基づいて出力値を徐々に減衰させていき、入力信号の値と出力値の一致が検出されると、検出された時点から入力信号の値を出力値とする。このような処理を繰り返し行うことにより、エンベロープフォロワ部40bは入力された信号のエンベロープ信号を出力するようになる。エンベロープフォロワ部40bにおいて、入力される信号のピークの部分を強調して出力する場合は、ホールドの時間長を長く設定すると共にディケイの傾きをゆるやかに設定し、正確なエンベロープを出力する場合は、ホールドの時間長を短く設定すると共に、ディケイの傾きが急になるよう設定する。
図3に示すメータ駆動回路40は、第1の選択部SWaと第2の選択部SWbの選択態様を切り替えることにより、ゲインメータのメータ駆動回路およびゲインリダクションメータのメータ駆動回路に共通に使用することができる。
【0019】
そこで、ゲインメータのメータ駆動回路であるメータ部42とゲインリダクションメータのメータ駆動回路であるメータ部43にメータ駆動回路40を適用した構成を示す回路ブロック図をコンプレッサ部41の構成を示す回路ブロック図と共に図4に示す。なお、コンプレッサ部41は入力チャンネル部33a〜33nの各入力チャンネルおよびMIX出力チャンネル部35a〜35mの各出力チャンネルに備えられるコンプレッサのいずれかとされている。
図4に示すように、各チャンネルのコンプレッサ部41に入力されるオーディオ信号とされる入力信号の波形が波形Sとして図示されている。この入力信号は乗算器41aとエンベロープフォロワ部41bに入力される。コンプレッサ部41のエンベロープフォロワ部41bでは、入力された波形Sの包絡線であるエンベロープが正確に検出される。このエンベロープフォロワ部41bにおいて検出されたエンベロープ波形が波形Ev1として図示されている。コンプレッサ部41のエンベロープフォロワ部41bは、入力信号にピークホールド処理を施すことにより入力信号の正側のエンベロープを検出している。なお、コンプレッサ部41におけるエンベロープフォロワ部41bは、入力されるオーディオ信号の正確なエンベロープを出力できるように、ホールドの時間長が短くなるよう設定されていると共に、ディケイの傾きが急になるよう設定されている。
【0020】
コンプレッサ部41のエンベロープフォロワ部41bから出力されたエンベロープ信号は、ゲイン調整部41cに入力されエンベロープ信号が設定されたスレショルド・レベルを超えた際に、エンベロープのレベルと設定されたレシオに従って決定されたゲイン調整信号を出力する。このゲイン調整信号はコンプレッサ部41において入力信号を圧縮する圧縮率を表しており、圧縮率の波形が波形Rd1として図示されている。ゲイン調整部41cでは、エンベロープの各値ごとのレシオに応じた圧縮率を規定しているテーブルや、エンベロープとレシオの値から圧縮率を算出する関数などを利用して、エンベロープの値からゲイン調整信号(圧縮率)を算出している。
なお、圧縮率とは、コンプレッサをかける前の音量とかけた後の音量との関係をあらわす比率、すなわち、入力されるオーディオ信号の音量を圧縮するための比率である。そして、ゲイン調整信号(圧縮率)は入力されるオーディオ信号に乗算される値であり0〜1の値をとる。この場合、圧縮率が小さいとコンプレッサ部41から出力される出力信号も小さくなり、圧縮率が小さいほど大きく圧縮されることになる。
【0021】
図4に戻ると、ゲイン調整信号(圧縮率)は乗算器41aに乗算係数として供給される。乗算器41aにおいては、供給されたゲイン調整信号(圧縮率)を乗算係数として入力された信号に乗算することにより、図7に示すように入力された信号がスレッショルド・レベルを超えた際にそのダイナミックレンジがゲイン調整信号(圧縮率)の値に応じて圧縮されるようになる。この乗算器41aの出力がコンプレッサ部41の出力となる。乗算器41aから出力される出力信号は当該チャンネル部における次段に供給されると共に、メータ部42に入力される。
メータ部42は、第1の信号反転部42aと、第1の選択部SWa1と、エンベロープフォロワ部42bと、第2の信号反転部42cと、第1の選択部SWa1と連動して切り換えられる第2の選択部SWb1とを備えている。第1の信号反転部42aと第2の信号反転部42cとは、信号の正負を反転しており、第1の選択部SWa1は可動接点a1と固定接点b1,c1とを有しており、第2の選択部SWb1は可動接点d1と固定接点e1,f1とを有している。第1の選択部SWa1における可動接点a1は固定接点b1に接続されて、第1の反転部42aで反転されていないメータ部42に入力された信号が選択されて、メータ部42のエンベロープフォロワ部42bに入力される。
【0022】
メータ部42のエンベロープフォロワ部42bに入力されるコンプレッサ部41から出力される信号の波形(圧縮後のオーディオ信号の波形)が波形S’として図示されており、この波形S’のエンベロープがエンベロープフォロワ部42bにおいて検出される。エンベロープフォロワ部42bにおいて検出されたエンベロープ波形が波形Evとして図示されている。エンベロープフォロワ部42bは、入力された信号にピークホールド処理を施すことにより入力された信号の正側のエンベロープを検出している。第2の選択部SWb1における可動接点d1は固定接点e1に接続されて、第2の信号反転部42cで反転されていないエンベロープフォロワ部42bから出力されるエンベロープ信号が選択されて、図6(a)に示すようなゲインメータ(Gメータ)へ供給される。なお、メータ部42のエンベロープフォロワ部42bは、入力される信号のピークの部分を強調的に出力できるように、ホールドの時間長が長くなるよう設定されていると共にディケイの傾きがゆるやかになるよう設定されている。これにより、図示するようにピーク部分が強調された波形Evのエンベロープ信号がエンベロープフォロワ部42bから出力されてゲインメータに供給されることから、ゲインメータを視認することによりコンプレッサ部41から出力される信号のピークレベルを容易に確認することができるようになる。
【0023】
また、ゲイン調整部41cから出力される波形Rd1とされるゲイン調整信号(圧縮率)は、乗算器41aに供給されると共にメータ部43に入力される。メータ部43は、第1の信号反転部43aと、第1の選択部SWa2と、エンベロープフォロワ部43bと、第2の信号反転部43cと、第1の選択部SWa2と連動して切り換えられる第2の選択部SWb2とを備えている。第1の信号反転部43aと第2の信号反転部43cとは、信号の正負を反転しており、第1の選択部SWa2は可動接点a2と固定接点b2,c2とを有しており、第2の選択部SWb2は可動接点d2と固定接点e2,f2とを有している。第1の選択部SWa2における可動接点a2は固定接点c2に接続されて、第1の信号反転部43aで正負が反転されたゲイン調整信号(圧縮率)が選択されて、メータ部43のエンベロープフォロワ部43bに入力されている。
【0024】
メータ部43のエンベロープフォロワ部43bに入力される正負が反転されたゲイン調整信号(圧縮率)の波形が波形Rd2として図示されており、この波形Rd2にエンベロープフォロワ部43bはピークホールド処理を施すことにより反転されたゲイン調整信号(圧縮率)のピークを強調して出力している。エンベロープフォロワ部43bから出力される反転されたゲイン調整信号(圧縮率)のエンベロープ波形が波形Rd3として図示されている。第2の選択部SWb2における可動接点d2は固定接点f2に接続されて、第2の信号反転部43cでエンベロープフォロワ部43bから出力されるエンベロープ波形(波形Rd3)の正負が反転されて正負が元に戻されたゲイン調整信号(圧縮率)のエンベロープ波形が選択されて、図6(b)に示すようなゲインリダクションメータ(GRメータ)へ供給される。第2の選択部SWb2から出力される第2の信号反転部43cから出力されるゲイン調整信号(圧縮率)のエンベロープ波形が波形Rd4として図示されている。なお、メータ部43におけるエンベロープフォロワ部43bは、反転されたゲイン調整信号(圧縮率)のピークの部分を強調的に出力できるように、ホールドの時間長が長くなるよう設定されていると共にディケイの傾きがゆるやかになるよう設定されている。これにより、図示するようにピークの部分が強調された波形Rd3の反転されたゲイン調整信号(圧縮率)がエンベロープフォロワ部43bから出力され、さらに反転されることで極小値の部分が強調されたゲイン調整信号(圧縮率)の波形Rd4がゲインリダクションメータに供給される。これにより、ゲインリダクションメータを視認することによりコンプレッサ部41における圧縮率の極小値を容易に確認することができるようになる。
【0025】
図4に示すようにメータ部42とメータ部43との回路構成は同一とされており、内蔵する2つの選択部がいずれの経路を選択するかに応じて、ゲインメータのメータ駆動回路(メータ部42)とすることができると共に、ゲインリダクションメータのメータ駆動回路(メータ部43)とすることができる。このように、メータ部42とメータ部43とに共通のメータ駆動回路を使用することができることからコスト削減および設計を容易化することができるようになる。なお、選択部SWa1(SWa2)と選択部SWb1(SWb2)は連動して切り換えられ、選択部SWa1ないし選択部SWb2はディップスイッチや電子スイッチ等のスイッチとすることができ、プリント基板上に組まれたメータ駆動回路において選択部SWa1ないし選択部SWb2に対応するディップスイッチや電子スイッチ等のスイッチを用途に応じて図4に示すように予め固定的に切り替えておくことでメータ部42あるいはメータ部43とすることができる。
【0026】
次に、エンベロープフォロワ部41b、42b、43bとして用いられるエンベロープフォロワ部50の回路構成の一例を示す回路ブロック図を図5に示す。
図5に示すエンベロープフォロワ部50では、減算器51において入力INからフィードバックされた遅延信号(前回の出力信号)を減算している。この遅延信号(前回の出力信号)は遅延部55からの出力である。減算器51の出力が入力される判断部52では、入力INと遅延信号(前回の出力信号)との振幅値の大小関係を入力される減算信号の正負の符号から判断し、入力INのピーク値を減算信号の符号が逆転するポイントで検出している。この場合、減算信号の符号が正から負へ切り替わるポイントの直前までが入力INのアタック部分となり、直後からがホールド部分となる。また、減算信号の符号が負から正へ切り替わるポイントの直前までがディケイ部分となる。
【0027】
減算器51の出力が入力される制御部53では、判断部52から入力される入力INと遅延信号(前回の出力信号)との振幅値の大小関係が切り替わるポイントの情報に基づいて、入力INのアタック部分では減算器51の出力をそのまま出力値として出力し、ホールド部分ではホールドが開始されたときの値を出力値として出力し、ディケイ部分ではホールドの出力値をディケイにそって徐々に減衰して、その値を出力値として出力する。制御部53からの出力は加算器54に入力され遅延信号(前回の出力信号)と加算されて入力INのエンベロープ信号である出力OUTとされる。出力OUTは遅延部55により1サンプル時間だけ遅延されて、減算器51および加算器54に供給される。
ここで、制御部53におけるホールドの時間を短く設定すると共にディケイの傾きを急に設定したエンベロープフォロワ部50は、正確なエンベロープを検出することができることからコンプレッサ部41のエンベロープフォロワ部41bとして使用される。また、制御部53におけるホールドの時間を長く設定すると共にディケイの傾きを緩やかに設定したエンベロープフォロワ部50は、ピークを強調して出力することができることからメータ部42,43におけるエンベロープフォロワ部42b,43bとして使用される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明した本発明においては、メータ駆動回路はディジタルミキサにおけるゲインメータやゲインリダクションメータのメータ駆動回路としたが、これに限るものではなく一般的なオーディオ機器のゲインメータやゲインリダクションメータのメータ駆動回路とすることができる。
なお、ゲインリダクションメータのメータ駆動回路であるメータ部43の出力側にある信号反転部43cを省略し、それに替えて、エンベロープフォロワ部43bの出力にオフセットをかけて出力するようにしてもよい。このようにしても、ゲインリダクションメータに圧縮率の極小値が明確に認識できる表示をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例のメータ駆動回路を備えるゲインメータおよびゲインリダクションメータを適用することのできるディジタルミキサの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明にかかる図1に示す構成のディジタルミキサにおいてミキシング処理が行われる等価的なミキサの機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施例のメータ駆動回路の構成を示す回路ブロック図である。
【図4】本発明にかかるメータ駆動回路を適用したゲインメータのメータ駆動回路およびゲインリダクションメータのメータ駆動回路をコンプレッサ部の構成と共に示す回路ブロック図である。
【図5】本発明にかかるメータ駆動回路に適用可能なエンベロープフォロワ部の回路構成の一例を示す回路ブロック図である。
【図6】入力信号のゲインを表示するゲインメータの構成、コンプレッサのゲインリダクションレベルを表示するゲインリダクションメータの構成の一例を示す図である。
【図7】コンプレッサにより入力信号のダイナミックレンジを圧縮する態様の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ディジタルミキサ、10 CPU、11 フラッシュメモリ、12 RAM、13 その他I/O、14 表示器、15 電動フェーダ、16 操作子、17 波形I/O、18 操作者用モニタ、19 信号処理部、20 レコーダ、21 通信バス、30 アナログ入力(A入力)ポート、31 ディジタル入力(D入力)ポート、32 入力パッチ、33a〜33n 入力チャンネル部、34a〜34m MIXバス、35a〜35m 出力チャンネル部、36 出力パッチ、37 アナログ出力(A出力)ポート部、38 ディジタル出力(D出力)ポート部、40 メータ駆動回路、40a 乗算器、40a 第1の信号反転部、40b エンベロープフォロワ部、40c 第2の信号反転部、41 コンプレッサ部、41a 乗算器、41b エンベロープフォロワ部、41c ゲイン調整部、42 メータ部、42a 第1の信号反転部、42b エンベロープフォロワ部、42c 第2の信号反転部、43 メータ部、43a 第1の信号反転部、43b エンベロープフォロワ部、43c 第2の信号反転部、50 エンベロープフォロワ部、51 減算器、52 判断部、53 制御部、54 加算器、55 遅延部、SWa 第1の選択部、SWa1 第1の選択部、SWa2 第1の選択部、SWb 第2の選択部、SWb1 第2の選択部、SWb2 第2の選択部、a 可動接点、a1 可動接点、a2 可動接点、b,c 固定接点、b1,c1 固定接点、b2,c2 固定接点、d 可動接点、d1 可動接点、d2 可動接点、e,f 固定接点、e1,f1 固定接点、e2,f2 固定接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を反転する第1の信号反転手段と、
該第1の信号反転手段により反転された第1の反転信号と、前記入力信号のいずれかを選択する第1の選択手段と、
該第1の選択手段により選択された第1の選択信号のピークを一定時間ホールドすることにより検出した前記第1の選択信号のエンベロープ信号を出力するエンベロープフォロワ手段と、
該エンベロープフォロワ手段から出力された前記エンベロープ信号を反転する第2の信号反転手段と、
該第2の信号反転手段により反転された第2の反転信号と、前記エンベロープ信号のいずれかを選択する第2の選択手段とを備え、
前記第2の選択手段により選択された第2の選択信号をメータに供給するようにしたことを特徴とするメータ駆動回路。
【請求項2】
前記メータをゲインメータとする際には、前記第1の選択手段が前記入力信号を選択すると共に、前記第2の選択手段が前記エンベロープ信号を選択するように、前記第1の選択手段および前記第2の選択手段を設定することを特徴とする請求項1記載のメータ駆動回路。
【請求項3】
前記メータをゲインリダクションメータとする際には、前記第1の選択手段が前記第1の反転信号を選択すると共に、前記第2の選択手段が前記第2の反転信号を選択するように、前記第1の選択手段および前記第2の選択手段を設定することを特徴とする請求項1記載のメータ駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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