説明

モジュール式のステントのための裏返し可能なロック機構

本発明は、雄形部品(20)上の裏返し可能な延長部(21)を用いて、モジュール式自己拡張型のステント部品(20、30)同士を互いにロックさせるための装置及び方法を提供する。雄形部品(20)は、雌形部品(30)内に部分的に配置され、裏返し可能な延長部(25)は、雄形部品(20)上で裏返される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には内腔用のステントに関するものであり、とくにはモジュール式のステント部品同士を確実に接続するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モジュール式のステントは、人体における内腔の欠陥の処置に用いられる。例えば、大動脈分岐部用部品及び腸骨枝部用部品を含むモジュール式のステントは、腹部大動脈瘤(AAA)をバイパスさせる通路を設けるのに用いることができる。この典型的なモジュール式のステントにおいて、大動脈分岐部用部品は、二股に分かれた雌形の被覆付きステントないしはステントグラフトである(ときには、長脚部−短脚部と呼ばれる)。この被覆付きステントないしはステントグラフトは、一方の腸骨動脈中に伸びる長脚部と、他方の腸骨動脈中に伸びる短脚部又は切り株部とを備えた、大動脈分岐部に最も近い大動脈内に配置できるように形成されている。腸骨枝部用部品は、腸骨動脈内に配置できるように構成された雄形被覆付きステントである。ここで、短脚部は、該短脚部又は切り株部内に配置されたその近位端とともに伸びている。このような組み合わせのステントは、典型的には、種々の方法で互いに交差ないしは交錯しているワイヤ又は薄い金属部材などの開放型の骨組み又は網目構造要素を含んでいる。このようなステントグラフト構造の1つとしては、反対向きの螺旋状のステント部材同士が互いに重なり合って交差して交差部を形成している編まれたステントが挙げられる。典型的な編まれたステントは、例えば、本明細書に参照のため組み入れられているハンス、I、ウォールステン(Hans I. Wallsten)に係る特許文献1に開示されている。編まれたステントは、患者の体内に内挿・配置されるときに半径方向に収縮し、かつ、グラフトないしは被覆部が体内の内腔の壁部に対して強制的に開かれた内腔を形成するように配置された構造となるように半径方向に自己拡張する仕様となっている。編まれたステント部材に形状記憶材料を用いれば、このような自己拡張を実現できるであろう。ステントグラフトにおけるグラフトは、被覆型であっても裏張型であってもよく、ステントの内側又は外側のいずれに配置されてもよく、ステントを覆ってステントの内腔を通る流体通路を形成する。
【特許文献1】米国特許第4,655,771号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モジュール式のステント部品については、部品相互の相対的な移動を防止するために相互間に確実な接続を形成することが重要である。なお、このような移動は、血液の流れによって惹起される力、モジュール式のステントが配置された内腔の形態、又はその他の因子に起因する。また、被覆付きステントにおいては、接続が十分に確実でない場合、これらの因子は、モジュール式のステント間で体液の漏れを生じさせるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の典型的な実施態様によれば、モジュール式のステントシステムは、該モジュール式のステントシステムの雄形部品上の裏返し可能な延長部(eversible extension)によって接続される。裏返し可能な延長部は、雄形部品に自己拡張型ステントを形成するのに用いられるステント部材を連続して編むことにより雄形部品上に形成される。裏返し可能な延長部は、自己拡張型ステント上で裏返され又は折り返され、裏返された状態で半径方向に拘束される。裏返し可能な延長部及び自己拡張型ステントは、モジュール式のステントの雌形部品の内腔(lumen)内に少なくとも部分的に導入され、裏返し可能な延長部は、裏返された状態で半径方向に拘束される。裏返し可能な延長部及び自己拡張型ステントは、解放され、又は、雌形部品の内表面に対して自己拡張することが可能となり、モジュール式の部品同士を互いにロックする(lock)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本願出願人は、好ましくかつ代替的な実施の形態により本発明を説明するが、本発明がこれらの実施の形態に限定されるものでないということを理解すべきである。さらに、図面は必ずしも正しい縮尺ではないということも理解すべきである。また、本願出願人は、本発明を理解するために必要でない詳細な事項を割愛している場合がある。
【0006】
次に、添付の図面を参照しつつ本発明を説明する。これらの図面のすべてにおいて、同一の参照番号は同一の要素を示している。これらの図面は、制限的なものではなく例示的なものであるということが意図され、本発明に係る装置の説明を助けるために用いられている。
【0007】
次の語句は、本願で用いられるときには、以下の意味を有するということを理解すべきである。「近位」との語句は患者の心臓により近い方向を意味し、「遠位」との語句は患者の心臓からより遠い方向を意味する。「ステント」との語句は、体内の内腔内に配置するための一般的に管形構造を有する部品を意味する。「グラフト」及び「被覆部」との語句は、それを通り抜ける通路を形成する可撓性を有する管形の部材を意味する。「ステントグラフト」との語句は、グラフト又は被覆部が取り付けられたステントを意味する「裏返す」との語句は、管形の部材を内側から外向きに巻き(roll)又は旋回させる(pivot)ことを意味する。
【0008】
図1及び図2は、それぞれ、本発明の典型的な実施の形態に係るモジュール式のステントグラフトの雌形部品30及び雄形部品20を示している。雄形部品20は、雌形部品30内に部分的に配置されてモジュール式のステントグラフトを形成するように形成されている。雌形部品30は、それぞれ流体を連通させる、長脚部32と短脚部33と主幹部31(trunk)とを有する二股に分かれた被覆付きステントである。主幹部31は腹部大動脈内に配置できるように形成され、長脚部32は第1の腸骨動脈内に配置できるように形成され、短脚部ないしは腸骨切り株部33(iliac stub)は第2の腸骨動脈内で伸びることができるように形成されている。雄形部品20は、雌形部品30の腸骨切り株部33内にその近位端を配置できるように構成され、モジュール式のステントグラフトを形成する腸骨枝部(iliac limb)である。雄形部品20及び雌形部品30は、いずれも、自己拡張型のステント(図示せず)、好ましくはグラフトないしは被覆部24、34が取り付けられた編まれたステント(braided stent)を含んでいる。本発明の典型的な実施の形態においては、被覆部24は糸状体22(filament)を用いて雄形部品20のステントに結び付けられ(lashed)、又は縫い合わされる(stitched)。例えば動脈瘤を処置するのに用いられるモジュール式のステントグラフトが図示され説明されているが、被覆されていないモジュール式のステントシステムも本発明の範囲内であることが意図されている。被覆されていないモジュール式のステントシステムは、例えば、狭窄(stenosis)の処置に用いることができる。また、編まれた自己拡張型のステントについて説明されているが、その他の自己拡張型のステント構造も、本発明の範囲内であることが意図されている。
【0009】
自己拡張型の各ステントは、好ましくは螺旋状に編まれて管形のステントを形成する、交差するステント部材(intersecting stent members)を含んでいるのが好ましい。典型的な編まれたステントは、第1の螺旋方向に巻かれた第1のステント部材の集合と、これとは反対の第2の螺旋方向に巻かれた第2のステント部材の集合とを含み、複数の交差部(intersections)を形成している。第1及び第2のステント部材の集合は、雄形及び雌形の部品の端部で、反対の軸方向を向いている連続したステント部材であってもよい。これらのステント部材は、ニチノール(nitinol)又はステンレススチールなどのワイヤであってもよく、また高分子材料又はこの技術分野で知られているその他のステント材料を含んでいてもよい。しかしながら、ニチノールなどの形状記憶材料が好ましい。
【0010】
裏返し可能なステント延長部21は、雄形部品20内のステントから伸びている。裏返し可能なステント延長部21は、好ましくは、雄形部品20の自己拡張型のステントを形成している編まれたステント部材と連続して形成される。裏返し可能なステント延長部21は、自己拡張型のステント上で裏返し又は後ろ向きに旋回させられるように形成され、配給鞘管25(図3参照)によって裏返された状態に保持される。次に、裏返し可能なステント延長部21は雌形部品30内に配置され、配給鞘管25(delivery sheath)が引き抜かれ、裏返された状態にある裏返し可能なステント延長部21は、モジュール式のステントグラフト部品同士を互いにロックする。モジュール式のステント部品は、雄形部品20の外表面と雌形部品30の内表面との間の摩擦によって接続(連結)される。この摩擦は、雌形部品及び/又は体内の内腔の壁部の周方向の強度に起因して惹起される内向きの力と、雄形部品の自己拡張型のステントによって惹起される外向きの力とによって生じる。
【0011】
図3に示すように、裏返し可能なステント延長部21は、雄形部品20上で外向き及び後ろ向きに旋回(反転)させられる。裏返し可能なステント延長部に連続する各ステント部材は、雄形部品20のステントのまわりの周方向の一連の位置で曲げられ、裏返し可能なステント延長部21は裏返る。この裏返りを促進するために、裏返し可能なステント延長部21を、雄形部品20のステントの直径に相当する形状よりも外向きに口を広げ、ステント部材上により大きいねじり力を生成するようにしてもよい。また、裏返し可能なステント延長部21は、被覆されていないのが好ましい。本発明の典型的な実施の形態においては、裏返し可能なステント延長部21は、雄形部品20のステントの上で後ろ向きに曲げることによって裏返される。裏返し可能な延長部21は、裏返された後、体内の内腔内に内挿するために、図3に示すように裏返された状態で配給鞘管25内に導入される。
【0012】
図3に示すように、雄形部品20がステントグラフトである場合、裏返し可能な延長部21は、被覆部24の端部で裏返すのが好ましい。被覆部24の端部は、連続する糸状体22などを備えたステントのまわりにおいて周方向にステント部材を縫い合わせ又は結びつけるのが好ましい。連続する糸状体は、交差しているステント部材のまわりで結びつけ(knotted)てもよい。糸状体は、縫合糸、ワイヤ、又は、ステントにグラフトを取り付けるのに十分な強度と結びつけるのに十分な可撓性とを有するその他の材料であってもよい。
【0013】
図4に示すように、配給鞘管25は雌形部品30内に伸び、雄形部品20は配給鞘管25内で半径方向に拘束され、裏返し可能なステント延長部21は配給鞘管25によって裏返された形態に拘束される。雄形部品20が所望の位置にあるときに(雌形部品30内に伸びている)、配給鞘管25は、雄形部品20に沿って軸方向に引き抜かれる。図4に示すように、雄形部品20の露出部分は、雌形部品30の内表面に対して外向きに伸びる。雄形部品20の位置は、例えばX線写真技術又はこれに類する技術を用いて決定(設定)することができる。配給鞘管25は、雄形部品20が全長にわたって配給鞘管25から解放されるまで、雄形部品20から引き抜かれ、雄形部品20は、その全長に沿って自己拡張することが可能となり、裏返し可能なステント延長部21は被覆部24上で裏返る。
【0014】
図5は、接続された状態にある、本発明の典型的な実施の形態に係るモジュール式のステントグラフトを示している。雄形部品20の近位端は、裏返った状態にある裏返し可能な延長部21を備えた雌形部品30の腸骨切り株部33内に配置される。自己拡張型ステントによって惹起された外向きの力と、裏返っていない形態に戻ろうとする裏返し可能な延長部によって惹起された外向きの力とが、雌形部品30内で雄形部品20をロックする。
【0015】
本発明は、本明細書では特定の実施の形態により図示され説明されているが、本発明は実施の形態で示す詳細なものに限定されるものではない。すなわち、請求項及びその等価物の視野内及び範囲内において、本発明から逸脱することなく、種々の修正をきめ細かく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】モジュール式のステントグラフトの二股に分かれた雌形部品の図である。
【図2】本発明の典型的な実施の形態に係る裏返し可能な延長部を備えたモジュール式のステントグラフトの雄形部品の図である。
【図3】図2に示す雄形部品を拘束する配給鞘間の一部を切り欠いた図であり、配給鞘間によって裏返された状態に拘束された裏返し可能な延長部を示している。
【図4】図3に示す配給鞘管、及び、モジュール式のステントグラフトの雌形部品内に進入したモジュール式のステントグラフトの雄形部品の一部を切り欠いた図であり、モジュール式のステントグラフトの雄形部品が雌形部品内に部分的に配置された状態を示している。
【図5】モジュール式のステントグラフトを示す図であり、雌形部品と雄形部品とが、本発明の典型的な実施の形態に係る雄形部品の裏返し可能な延長部によって接続された状態を示している。
【符号の説明】
【0017】
20 雄形部品、21 裏返し可能なステント延長部、22 糸状体、24 グラフト(被覆部)、25 配給鞘管、30 雌形部品、31 主幹部、32 長脚部、33 短脚部(腸骨枝部)、34 グラフト(被覆部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌形ステント部品の内腔内に部分的に配置されるように構成された雄形ステント部品を有するモジュール式自己拡張型のステントシステムで用いるためのロック機構であって、
上記雄型ステント部品から伸びる裏返し可能なステント延長部を含んでいて、該ステント延長部が、裏返された形態で上記雌形ステント部品内に配置されて上記雄形ステント部品を上記雌形ステント部品にロックするように形成されているロック機構。
【請求項2】
上記モジュール式のステント部品に取り付けられてモジュール式のステントグラフトを形成する被覆部をさらに含んでいる、請求項1に記載のロック機構。
【請求項3】
上記モジュール式のステントグラフトが、腹部大動脈内に配置するために、大動脈分岐部にまたがるように形成されている、請求項2に記載のロック機構。
【請求項4】
上記裏返し可能なステント延長部が外向きに口を広げている、請求項1に記載のロック機構。
【請求項5】
上記雄形ステント部品が1つ又は複数の編まれた糸状体を含んでいる、請求項1に記載のロック機構。
【請求項6】
上記裏返し可能なステント延長部が、上記の編まれた糸状体のうちの1つ又は複数のものを連続して編むことにより形成されている、請求項5に記載のロック機構。
【請求項7】
被覆部が上記雄形ステントに結び付けられてステントグラフトを形成し、上記裏返し可能な延長部が上記被覆部の先方まで伸びている、請求項6に記載のロック機構。
【請求項8】
上記裏返し可能な延長部を裏返された上記形態に一時的に保持するのに用いられる配給鞘管をさらに含んでいる、請求項1に記載のロック機構。
【請求項9】
内部を通り抜ける内腔を有する自己拡張型の雌形ステントグラフト部品と、
上記雌形ステントグラフト部品の上記内腔内に配置可能な近位端を有する自己拡張型の雄形ステントグラフト部品とを含んでいるモジュール式のステントグラフトシステムであって、
上記近位端が、上記雌形ステントグラフト部品内に裏返された形態で配置され、上記雄形ステントグラフト部品を上記雌形ステントグラフト部品にロックする裏返し可能なステント延長部を備えているモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項10】
上記雄形ステントグラフト部品が、ステント上に結び付けられた被覆部を備えた自己拡張型のステントを含んでいる、請求項9に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項11】
上記自己拡張型のステントが、1つ又は複数の編まれた糸状体を含んでいる、請求項10に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項12】
上記裏返し可能な延長部が、上記1つ又は複数の編まれた糸状体の少なくとも1つを連続して編んだものである、請求項11に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項13】
上記裏返し可能な延長部を裏返す前においては、上記裏返し可能な延長部は外向きに口を広げている、請求項9に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項14】
上記雌形ステントグラフトが、腹部大動脈内に配置できるように形成された主幹部と、第1の腸骨動脈内に配置できるように形成された腸骨脚部と、上記腸骨脚部より短く第2の腸骨動脈内に配置できるように形成された上記雄形ステントグラフトを受け入れるための腸骨軸部とを含む二股型のステントグラフトである、請求項9に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項15】
上記裏返し可能な延長部は編まれたステントと一体化され、上記編まれたステントは該ステントに取り付けられた被覆部を有し、上記裏返し可能な延長部は被覆されていない、請求項9に記載のモジュール式のステントグラフトシステム。
【請求項16】
モジュール式のステントグラフトの雄形部品と雌形部品とを接続する方法であって、
体内の内腔内に、雌形ステントグラフト部品を内挿・配給するステップと、
裏返し可能な延長部を備えた雄形ステントグラフト部品を準備するステップと、
上記雄形ステントグラフト部品上で上記裏返し可能な延長部を裏返すステップと、
上記裏返し可能な延長部を、裏返された状態を保つよう半径方向に拘束するステップと、
上記雄形ステントグラフト部品と上記裏返し可能な延長部とを、上記雌形ステントグラフト部品内に部分的に内挿・配置するステップと、
上記裏返し可能な延長部を解放して、上記雄形ステントグラフト部品を上記雌形ステントグラフト部品にロックするステップとを含む方法。
【請求項17】
上記裏返し可能な延長部を、軸方向に移動可能な配給鞘管により拘束するようにした、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記裏返し可能な延長部を、上記配給鞘管を軸方向に引き抜くことにより解放するようにした、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記裏返し可能な延長部を、上記雄形ステントグラフト部品を配備鞘管内に導入することにより裏返るよう外向きに口を広げるようにした、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−501091(P2007−501091A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532527(P2006−532527)
【出願日】平成16年5月3日(2004.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/013509
【国際公開番号】WO2004/100835
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(500238446)ボストン サイエンティフィック リミテッド (53)
【氏名又は名称原語表記】Boston Scientific Limited
【Fターム(参考)】