説明

モータ制御装置

【課題】幅広い電源状態や負荷状態に対応して装置を駆動できるようにするモータ制御装置を提供する。
【解決手段】少なくとも二つ以上のモータを並列に駆動するモータ制御装置において、駆動電流の合計値の上限が所定の値を超えない一定値となるように、少なくとも一つ以上のモータについて時間とともにデューティ比を変更するデューティ制御を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも二つ以上のモータを並列に駆動するモータ制御装置に関し、駆動電流の合計値の上限が所定の値を超えない一定値となるように、少なくとも一つ以上のモータについて時間とともにデューティ比を変更するデューティ制御を行うことで、幅広い電源状態や負荷状態に対応して装置を駆動できるようにするモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、モータの駆動制御は、モータの起動時にピーク状の突入電流が発生し、モータの回転数が定格値に収束するにつれて電流値も一定の値に収束し、所定の動作を完了したところで給電が止められ終了する。ここで2つ以上のモータを並列に駆動する場合、その駆動間隔が近づくにつれてそれぞれのモータの突入電流が重なることで装置全体としての駆動電流が急激に増大する。特に、モータが電池駆動の場合、駆動電流の増大は電源電圧の低下を伴い、該モータ制御装置を含むシステム全体の安定した動作に悪影響を及ぼす。
【0003】
モータの複数駆動による駆動電流の増大を防ぐために、並列に駆動する複数のモータに供給されるそれぞれの電流を電流検出部によって検出し、加算部によって計算されたその合計値が所定閾値を超えた分を差動増幅器で制御信号として生成し、その信号に基づいて電流調整部でそれぞれモータに供給される電流の量を制御することで電流値のピーク値を抑える方法が提案されている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−293233
【0005】
しかしながら、電流調整部でそれぞれのモータに供給する電流の量を制御することで電流値の増大を防ぐ方法(特許文献1)では、目的の電流の制御のために加算部、差動増幅部、各モータ駆動回路ごとに電流検出部および電流調整部が必要となるためシステムが複雑になるとともに、フィードバック制御を行うための処理回路が複雑になるといった問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、上記課題を解決し、幅広い電源状態や負荷状態に対応して装置を駆動できるようにするモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、上記課題解決のために、少なくとも二つ以上のモータを並列に駆動するモータ制御装置において、駆動電流の合計値の上限が所定の値を超えない一定値となるように、少なくとも一つ以上のモータについて時間とともにデューティ比を変更するデューティ制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、少なくとも二つ以上のモータを並列に駆動するモータ制御装置において、駆動電流の増大を防ぎつつ電源に対する負荷を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】複数の駆動モータを有するカメラの概要斜視図
【図2】ミラー駆動モータとシャッタチャージモータの駆動電流波形図
【図3】シャッタチャージモータのデューティ制御波形図
【図4】ミラー駆動モータの駆動電流とシャッタチャージモータの駆動電流からデューティ比を算出する説明図
【図5】リチウムイオン電池の放電特性図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、レフレックスタイプのカメラに搭載されたミラー駆動モータとシャッタチャージモータの二つのモータを並列に駆動する場合を例にとり、特にミラー駆動モータをフル駆動し、シャッタチャージモータをデューティ制御する実施例について図面を参照して説明する。
なお、本発明において並列駆動するモータの数並びにデューティ制御するモータの数及び種別については、本実施例の形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、ミラー駆動モータ4及びシャッタチャージモータ5を含むレフレックスタイプの電子カメラ1の斜視図である。
【0012】
図1に示すレフレックスタイプの電子カメラ1において、レリーズボタン6を押下すると撮影光路上に位置するレフレックスミラー2が前記ミラー駆動モータ4によって回動されて撮影光路上から退避する。その後チャージされていたシャッタ3の先幕がリリースされ図示せぬ撮像面に光を導くことで露光が行なわれる。適正露光に達するとチャージされていた前記シャッタ3の後幕がリリースされ、露光が終了すると再び前記ミラー駆動モータ4によって前記レフレックスミラー2が回動されて撮影光路上に復帰すると共に、前記シャッタチャージモータ5によって前記シャッタ3の先幕及び後幕が共にチャージされて撮影可能な初期状態へ復帰する。ここで、前記ミラー駆動モータ4及び前記シャッタチャージモータ5への駆動電流は、図示せぬ電源電池により供給される。
【0013】
図2は、露光後に前記ミラー駆動モータ4によって前記レフレックスミラー2が回動されて撮影光路上に復帰し、前記シャッタチャージモータ5によって前記シャッタ3がチャージされる間のそれぞれのモータ4、5の電流波形の時間変化を示す。
【0014】
図2において、縦軸はモータ駆動電流及び横軸は時刻を表し、実線210は前記シャッタチャージモータ5をデューティ制御しない場合で、該シャッタチャージモータ5を前記ミラー駆動モータ4の起動時間からt秒遅れて起動させた場合の前記シャッタチャージモータ5と前記ミラー駆動モータ4の合計電流波形、点線220は前記シャッタチャージモータ5をデューティ制御する場合で、該シャッタチャージモータ5を前記ミラー駆動モータ4と同時に起動させた場合の前記シャッタチャージモータ5と前記ミラー駆動モータ4に流れる電流の合計の電流波形、一点鎖線230は前記シャッタチャージモータ5をデューティ制御する場合で、前記シャッタチャージモータ5の駆動電流と前記ミラー駆動モータ4の駆動電流の合計電流の上限値を示している。
【0015】
実線210において、一つ目のピークは前記ミラー駆動モータ4の起動時、二つ目のピークは前記シャッタチャージモータ5の起動時に対応している。一般に、モータの起動時にはこのようなピーク状の突入電流が発生し、モータの回転数が定格値に収束するにつれて電流値も一定の値に収束し、所定の動作を完了したところで給電が止められる。
【0016】
ここで、電子カメラの撮影サイクルを早める場合、例えば、スポーツモードや連写モードにおいては、前記シャッタチャージモータ5の突入電流が前記ミラー駆動モータ4の突入電流に限りなく近づいてくる。したがって、本実施例の説明では、電源電池にとって最悪の条件である前記シャッタチャージモータ5を前記ミラー駆動モータ4と同時に起動した場合、即ち、t=0の場合を説明する。
【0017】
デューティ制御とはある周期の下でモータに電圧を印加する時間の比率(デューティ比)を変化させることで、モータの回転速度や駆動電流を制御する一つの方法である。
図3はモータのデューティ制御波形図の一例を示し、図示するようにデューティ比を徐々に上げてモータを制御した場合、モータ起動時の突入電流を抑えることができる。
【0018】
本実施例では前記シャッタチャージモータ5及び前記ミラー駆動モータ4共にDCモータを使用している。さらに、前記シャッタチャージモータ5及び前記ミラー駆動モータ4を同時に起動し、該ミラー駆動モータ4の電流波形に応じて駆動電流の合計値の上限が所定の値を超えない一定値となるように前記シャッタチャージモータ5のデューティ比を制御する場合で説明する。
【0019】
前記シャッタチャージモータ5の駆動電流とデューティ比の算出について以下に示す。
なお式中、T:モータトルク、E:電源電圧、θ:モータ回転角、R:回路抵抗、I:駆動系慣性モーメント、i:駆動電流、a:トルク定数、b:逆起電力定数とする。
【0020】
DCモータ基本式
【数1】

よって、
【数2】

モータの負荷トルクをT、摩擦トルクをTとすると
【数3】

これにより
【数4】

式(3)より
【数5】

式(4)を式(2)に代入して、
【数6】

ここで i:シャッタチャージモータの駆動電流、ilimit:駆動電流の上限値、
:ミラー駆動モータの駆動電流とすると
=ilimit−i (7)
シャッタチャージモータをデューティ比Dで制御するとき
式(5)より
【数7】

ここで、i、R、C等の下付きの「」は、シャッタチャージモータに関する値を示す。
【0021】
図4は、前記ミラー駆動モータ4の駆動電流iと前記シャッタチャージモータ5の駆動電流iの関係を示す図であり、ここで、実線410は、前記ミラー駆動モータ4をフル駆動した場合の駆動電流iの変動を示し、点線は、図2と同様に前記シャッタチャージモータ5をデューティ制御する場合の前記ミラー駆動モータ4と前記シャッタチャージモータ5の合計電流値を示す。したがって、前記シャッタチャージモータ5のデューティ制御による駆動電流iの値は、ポイント425までは、所定の上限値ilimitから前記ミラー駆動モータ4単体の駆動電流iを差し引いた値iとなる。
【0022】
このときのデューティ比Dは式(8)によって求められる。ここで前記ミラー駆動モータ4の駆動電流iはあらかじめ幅広い電源状態や負荷状態における波形をテーブル化したものを引用することで、前記シャッタチャージモータ5を駆動する電流iは算出でき、前記シャッタチャージモータ5を駆動する電流iを流すためのデューティ比の変更特性値をメモリ手段に記憶することができる。この場合、前記シャッタチャージモータ5は前記変更特性値を前記メモリ手段から読み出したデューティ比で制御でき、フィードバック制御を行う場合と比較してシステムへの回路負荷を小さくすることができる。
【0023】
前記シャッタチャージモータ5の駆動電流iは、起動後からデューティ比を徐々に増加していき、やがて点線420のポイント425においてデューティ比D=1となった後は前記ミラー駆動モータ4及び前記シャッタチャージモータ5共に100%即ち、フル駆動電圧で駆動される。
【0024】
ここで本実施例においては、前記シャッタチャージモータ5は前記ミラー駆動モータ4と同時に起動されているため駆動電流の合計値の収束が早まり、全体として駆動時間の短縮が実現されている。また、前記シャッタチャージモータ5の起動に伴う突入電流のピークがなくなり駆動電流の合計値は一定の値に制御されているため、電源に対する負荷は安定している。
【0025】
図5は電子カメラ等に用いられる一般的なリチウムイオン電池の放電特性を示すグラフである。
【0026】
図5は、リチウムイオン電池の放電特性を表し、縦軸は電池電圧及び横軸は放電容量を示している。図5において、実線500は、電池の消費電流の上限を0.4A(アンペア)に抑えた場合の電池の放電特性を表し、同様に点線510、一点鎖線520、二点鎖線530は、それぞれ電池の消費電流の上限を約1A、2A、4Aに抑えた場合の電池の放電特性を表わす。
【0027】
そこで、前記ミラー駆動モータ4および前記シャッタチャージモータ5が図5の電池で駆動されているとすると、電池残量がゼロとなる電圧が図示した値3.4Vの場合、前記シャッタチャージモータ5(もしくは前記ミラー駆動モータ4、前記シャッタチャージモータ5それぞれ)をデューティ制御して駆動電流の上限値ilimitを4Aから2Aに抑えるように制御することで図示したように電池寿命が延びる。これにより、電池残量が十分にあり連写速度などが優先される場合には通常の制御を行い、電池残量が少なくなり連写速度などが低下した場合にはより長く撮影ができるように電池寿命を伸ばすように制御を変更するといった電源状態に応じた制御の使い分けが実現できる。
【0028】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)複数のモータの駆動電流の総和を一定値で抑えることができ、電源電池に対する負荷を安定させることができる。
【0029】
(2)複数のモータの駆動間隔を短縮することも可能となるため、該モータ制御装置を含むシステムに関して自由度の高い設計が可能となる。
【0030】
(3)幅広い電源状態や負荷状態でのモータの駆動電流波形をテーブル化してメモリ手段に記憶し、この記憶値をデューティ制御に用いることで、フィードバック制御を行う場合と比較して処理回路を単純化することができる。
【0031】
―変形例―
なお、上述した実施の形態は、以下のように変形することもできる。
(1)複数のモータの例として、ミラー駆動用モータ、シャッタチャージ用モータの例を示したが、電子カメラとして他に、絞り駆動用モータ、レンズ駆動用モータ等にも応用できる。
【0032】
(2)2つのモータのうち一方をデューティ制御する場合を示したが、両方のモータともデューティ制御、例えば、ミラー駆動用モータもスタート時に、デューティ制御により滑らかにスタートさせることにより、両方のモータの突入電流を少なくすることすることも可能である。
【0033】
なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。また、上述の実施の形態と複数の変形例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 レフレックスカメラ
2 レフレックスミラー
3 シャッタ
4 ミラー駆動用モータ
5 シャッタチャージ用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つ以上のモータを並列に駆動するモータ制御装置において、駆動電流の合計値の上限が所定の値を超えない一定値となるように、少なくとも一つ以上のモータについて時間とともにデューティ比を変更するデューティ制御を行うことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
電池の放電特性に合わせて、モータの駆動電流の合計値の上限を可変させることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御装置において、
前記少なくとも二つ以上のモータは、ミラー駆動用モータ及びシャッタチャージモータを含み、前記ミラー駆動用モータはフル駆動させ、前記シャッタチャージモータはデューティ比を変更するデューティ制御を行うことを特徴とするレフレックスカメラ用モータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記デューティ比の制御の変更特性値は、予めメモリ手段に記憶されていることを特徴とするレフレックスカメラ用モータ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−203116(P2012−203116A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66237(P2011−66237)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】