説明

モータ制御装置

【課題】試験体を回転させるモータの回転数の制御の精度を向上させることが可能なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】レゾルバ34及びエンコーダ35は、モータ33の回転数を検出する。トルクメータ36は、モータ33のトルクを検出する。フィードバック制御部23は、目標の回転数と目標のトルクとを示すパラメータマップに従って、目標の回転数でモータ33が回転するように、又は、目標のトルクをモータ33が出力するように、レゾルバ34によって検出された回転数、及びトルクメータ36によって検出されたトルクに基づいて、モータ33の動作をフィードバック制御し、トルクの変動幅が閾値以上となる場合、レゾルバ34によって検出された回転数とエンコーダ35によって検出された回転数とから求められる回転数に基づいて、モータ33の動作をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能試験の対象となる試験体を回転させるモータの動作を制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、予め作成された速度パターンとトルクパターンとを用いて、性能試験すべきモータと負荷モータとを制御する電動機試験装置が開示されている。
【0003】
また、モータを用いて車両搭載機器(試験体)の性能試験を行う場合がある。例えば、エンジンや車輪(負荷)の代わりにモータを用いて、トランスミッションの性能試験を行う場合がある。この場合、エンジンの代わりとなる入力軸モータをトランスミッションの入力軸に接続し、車輪の代わりとなる出力軸モータをトランスミッションの出力軸に接続する。そして、入力軸モータを一定の回転数及び一定のトルクで駆動させ、出力軸モータの回転数及びトルクを検出することにより、トランスミッションの性能を評価する。
【0004】
一般的に、車両駆動用のモータには同期モータが使用されており、その車両駆動用同期モータの制御装置は、車両用に最適化された専用のインバータと電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)とを含んで構成されている。車両駆動用同期モータの制御装置は、トルク指令値に基づいて同期モータを制御する。同期モータの回転子(ロータ)の回転角度を検出し、同期モータに所望のトルクを発生させるように制御するために、同期モータにはレゾルバが設けられる。レゾルバは、同期モータの回転子の回転角度を検出し、回転子の各回転角度に対応する信号を出力する。車両駆動用同期モータの制御装置は、回転子の回転角度に応じた磁界を界磁巻線から発生させるように同期モータに供給する電流を制御し、回転子に所望のトルクを発生させる。
【0005】
上述した車両駆動用の同期モータを用いてトランスミッション等の試験体の性能試験を行う場合、入力軸に接続された同期モータを目標の回転数で駆動させる必要があるため、同期モータの回転数を高精度に制御する必要がある。従来技術に係る車両駆動用同期モータの制御装置は、トルク指令値に基づいて同期モータを制御しているため、回転数を高精度に制御するためには、車載用ECUを改造し、回転数をトルクに変換する回転数制御装置を追加する必要がある。
【0006】
ここで、図7を参照して従来技術に係る制御装置について説明する。図7は、従来技術に係るモータ制御装置を示すブロック図である。従来技術に係るモータ制御装置は、車載用のECU(電子制御ユニット)110と、インバータ120と、統合制御部150とを含んで構成されている。さらに、車両駆動用の同期モータ130の回転数を高精度に制御するために、回転数をトルクに変換する回転数制御装置160がモータ制御装置に追加で設けられている。ECU110と統合制御部150とは専用通信で接続されており、統合制御部150と回転数制御装置160とはCAN通信(Controller Area Network)で接続されている。
【0007】
ECU110は、トルク指令値に基づいて同期モータ130を制御する。また、同期モータ130には、同期モータ130の回転子の回転角度を検出するレゾルバ140が設けられている。ECU110は、レゾルバ140によって検出された同期モータ130の回転角度に基づいて同期モータ130の回転数(回転速度)を求める。
【0008】
回転数制御装置160は、第1変換部161と第2変換部162とフィードバック制御部163とを含んで構成されている。例えば、目標の回転数で同期モータ130を回転させるために、回転数の指令値を回転数制御装置160に入力する。第1変換部161は、回転数の指令値をトルク指令値に変換する。また、第2変換部162は、レゾルバ140によって得られた同期モータ130の回転数(回転速度)をトルクに変換する。フィードバック制御部163は、トルク指令値が示す目標のトルクを同期モータ130に発生させるために、変換されたトルク指令値とトルクとに基づいてフィードバック制御値を求める。フィードバック制御値は、統合制御部150を介してECU110に出力される。ECU110は、フィードバック制御値に基づいてインバータ120のスイッチングを制御する。これにより、ECU110は、同期モータ130の動作を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−248104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術に係るモータ制御装置は、レゾルバ140のみによって同期モータ130の回転数を検出して回転数を制御しているため、同期モータ130の回転数を高精度に制御することは困難である。また、従来技術に係るモータ制御装置のECU110は、トルク指令値に基づいて同期モータ130を制御しているため、回転数をトルクに変換するための回転数制御装置を追加で設置する必要がある。そのため、モータ制御装置の構成が複雑になり、モータ制御装置の製造コストが増大する問題がある。
【0011】
本発明の目的は、試験体を回転させるモータの回転数の制御の精度を向上させることが可能なモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、性能試験の対象となる試験体を回転させる車両駆動用モータの動作を制御するモータ制御装置において、前記車両駆動用モータの回転数を検出するレゾルバと、前記車両駆動用モータの回転数を検出するエンコーダと、前記車両駆動用モータのトルクを検出するトルクメータと、前記試験体に対する試験内容に応じた目標の回転数と目標のトルクとを示すパラメータマップに従って、前記パラメータマップが示す前記目標の回転数で前記車両駆動用モータが回転するように、又は、前記パラメータマップが示す前記目標のトルクを前記車両駆動用モータが出力するように、前記レゾルバによって検出された回転数、及び前記トルクメータによって検出されたトルクに基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御し、前記トルクメータによって検出されたトルクの変動幅が予め設定された閾値以上となる場合、前記レゾルバによって検出された回転数と前記エンコーダによって検出された回転数とによって求められる回転数に基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るモータ制御装置であって、前記制御部は、前記トルクの変動幅が前記閾値以上となる場合、前記レゾルバによって検出された回転数と前記エンコーダによって検出された回転数との重み付け平均値に基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、トルクの変動幅が閾値以上となる場合に、レゾルバによって検出された回転数とエンコーダによって検出された回転数とから求められる回転数に基づいて車両駆動用モータの動作をフィードバック制御することにより、車両駆動用モータの回転数を高精度に制御することが可能となる。また、試験内容に応じたパラメータマップを用いることで試験体に対する試験内容に合った制御を行うことができ、パラメータマップを編集するだけで、多様な試験を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るモータ制御装置を示すブロック図である。
【図2】回転数及びトルクの時間変化を示すグラフを示す図である。
【図3】パラメータマップを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るモータ制御装置による動作を示すフローチャートである。
【図5】同期モータを用いた試験装置を示すブロック図である。
【図6】回転数及びトルクの時間変化を示すグラフである。
【図7】従来技術に係るモータ制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、本発明の実施形態に係るモータ制御装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るモータ制御装置を示すブロック図である。モータ制御装置は、電源30からモータ33に供給される電力を調整し、モータ33の動作を制御する。
【0017】
モータ33は、例えば車両駆動用の3相交流同期モータであり、U、V、W相の3つのコイルを備えた固定子と回転子とを含む。U、V、W相の3つのコイルの一端は中点で互いに接続され、他端はインバータ32に接続される。モータ33には、試験体(産業用設備)が接続される。試験体はモータ33によって回転させられる。
【0018】
コンバータ31は、制御装置20の制御の下で動作する複数のスイッチング素子を含んで構成されている。コンバータ31は、制御装置20の制御に基づいて、直流電源である電源30から供給される直流電力を調整してインバータ32に供給する。
【0019】
インバータ32は、制御装置20の制御の下で動作する複数のスイッチング素子を含んで構成されている。インバータ32は、制御装置20の制御に基づいて、コンバータ31から供給された直流電力を3相交流電力に変換してモータ33に供給する。モータ33は、インバータ32から供給された3相交流電力に基づいて回転する。
【0020】
モータ33にはレゾルバ34が設けられている。レゾルバ34は、モータ33の回転子の回転角度を検出し、回転角度を示す回転角度データを制御装置20に出力する。制御装置20は、回転角度データに基づいてモータ33の回転数Nrを求める。また、モータ33の回転軸にはエンコーダ35が設けられている。エンコーダ35は、モータ33の回転子の回転数Neを検出し、回転数Neを示す回転数データを制御装置20に出力する。また、モータ33の回転軸にはトルクメータ36が設けられている。トルクメータ36は、モータ33の回転軸におけるトルクを計測し、トルクを示すトルクデータを制御装置20に出力する。
【0021】
制御装置20は、設定部21と、サイクル制御部22と、フィードバック制御部23と、I/F26とを含んで構成されている。制御装置20は、予め設定された動作特性パターンに合致したパラメータマップに従ってインバータ32を制御することにより、モータ33の動作を制御する。動作特性パターン及びパラメータマップは、モータ33に接続される試験体に対する試験内容に応じた内容となっている。また、制御装置20は、レゾルバ34、エンコーダ35、及びトルクメータ36の出力に基づいて、モータ33の動作をフィードバック制御する。制御装置20は、モータ33が目標の回転数で回転するように、又はモータ33が目標のトルクを出力するように、インバータ32のスイッチング制御を行う。スイッチング制御において、制御装置20は、インバータ32の各スイッチング素子をオン/オフするためのPWM信号を生成し、そのPWM信号をインバータ32に出力する。
【0022】
図2及び図3を参照して、モータ33に接続される試験体(産業用設備)に対する試験内容に応じたパラメータマップについて説明する。図2は、回転数及びトルクの時間変化を示すグラフを示す図である。図2において、横軸は時間を示し、縦軸は回転数とトルクとを示す。図3は、パラメータマップを示す図である。
【0023】
図2において、回転数グラフ51は、モータ33を駆動して出力したい回転数と時間との関係を示すグラフである。トルクグラフ52は、モータ33を駆動して出力したいトルクと時間との関係を示すグラフである。回転数特性とトルク特性とにおいて、切り替えポイントとなるグラフの変動点で、制御領域を例えば3つの動作特性パターン53,54,55に分割する。動作特性パターン53,54,55のそれぞれでモータ33の制御が可能なように、各動作特性パターンにおけるパラメータマップを予め作成しておく。
【0024】
図3にパラメータマップの一例を示す。このパラメータマップは、モータ33に接続される試験体に対する試験内容に応じた値となっている。例えば、パラメータマップは、短時間で低回転及び高トルクの発生が要求される試験内容に応じた値や、高速回転を長時間で高精度に行う試験内容に応じた値等となっている。パラメータマップの項目には、各時間におけるフィードバック制御方法(速度又はトルク)、モータ33の目標の回転数N、モータ33の目標のトルクT、電流Id、及び電流Iqが含まれる。フィードバック制御方法として、モータ33の速度(回転数)に基づくフィードバック制御方法、又はモータ33のトルクに基づくフィードバック制御方法のいずれかを選択するためのフラグが、パラメータマップに設けられている。モータ33の回転数Nは目標とする回転数であり、モータ33のトルクTは目標とするトルクである。図3に示すパラメータマップは、入力装置10から制御装置20に入力される。また、操作者は、入力装置10を用いてパラメータマップの値を任意に変更してもよい。また、パラメータマップは、図示しない記憶装置に予め記憶されていてもよい。
【0025】
サイクル制御部22は、モータ33に接続される試験体(産業用設備)に対する試験内容に応じた動作特性パターンに従って、動作特性パターンの切替信号を設定部21に出力する。
【0026】
設定部21は、入力装置10からパラメータマップの入力を受ける。設定部21は、サイクル制御部22から出力される動作特性パターンの切替信号のタイミングに従って、パラメータマップによる指示をフィードバック制御部23に出力する。具体的には、設定部21は、各時間に応じて、回転数又はトルクによるフィードバック制御の指示をフィードバック制御部23に出力する。また、設定部21は、各時間におけるモータ33の目標の回転数N、モータ33の目標のトルクT、電流Id、及び電流Iqを示すデータをフィードバック制御部23に出力する。
【0027】
I/F26は、レゾルバ34から出力された回転角度データ、エンコーダ35から出力された回転数データ、及びトルクメータ36から出力されたトルクデータを受け取る。回転角度データ、回転数データ、及びトルクデータは、フィードバック制御部23に出力される。
【0028】
フィードバック制御部23は、トルクフィードバック制御部24と速度フィードバック制御部25とを含んで構成されている。フィードバック制御部23は、回転角度データ、回転数データ、及びトルクデータに基づいて、パラメータマップが示す目標の回転数Nでモータ33が回転するように、又はパラメータマップが示す目標のトルクTをモータ33が出力するように、インバータ32の各スイッチング素子のスイッチングを制御することによりモータ33の動作をフィードバック制御する。
【0029】
一例として、フィードバック制御部23は、図3に示すパラメータマップに従ってインバータ32のスイッチングを制御する。例えば、時間t1〜t2の時間帯では、フィードバック制御方法のフラグとして「速度」が設けられているため、速度フィードバック制御部25が、インバータ32のスイッチングを制御する。時間t1〜t2の時間帯おいては、速度フィードバック制御部25は、レゾルバ34で得られたモータ33の回転数Nrに基づいて、モータ33の回転数が目標の回転数N1となるようにインバータ32のスイッチングを制御する。このように時間t1〜t2の時間帯では、フィードバック制御部23は、モータ33の回転数(速度)に基づいてモータ33の動作をフィードバック制御する。
【0030】
また、時間t2〜t3の時間帯では、フィードバック制御方法のフラグとして「トルク」が設けられているため、トルクフィードバック制御部24が、インバータ32のスイッチングを制御する。時間t2〜t3の時間帯においては、トルクフィードバック制御部24は、トルクメータ36で得られたモータ33のトルクに基づいて、モータ33のトルクが目標のトルクT2となるようにインバータ32のスイッチングを制御する。このように時間帯t2〜t3の時間帯では、フィードバック制御部23は、モータ33のトルクに基づいてモータ33の動作をフィードバック制御する。
【0031】
次に図4を参照して、モータ33の回転数を補正するための処理について説明する。図4は、本発明の実施形態に係るモータ制御装置による動作を示すフローチャートである。
【0032】
ステップS01では、レゾルバ34が、モータ33の回転子の回転角度(位相)を検出する。モータ33の回転角度を示す回転角度データは、I/F26を介してレゾルバ34からフィードバック制御部23に出力される。フィードバック制御部23は、回転角度データに基づいてモータ33の回転数Nr(回転速度)を求める。ステップS02では、エンコーダ35が、モータ33の回転数Ne(回転速度)を検出する。モータ33の回転数Neを示す回転数データは、I/F26を介してエンコーダ35からフィードバック制御部23に出力される。ステップS03では、トルクメータ36が、モータ33のトルクを検出する。モータ33のトルクを示すトルクデータは、I/F26を介してトルクメータ36からフィードバック制御部23に出力される。なお、ステップS01からステップS03は、それぞれ同時に実行される。
【0033】
フィードバック制御部23は、トルクメータ36によって得られたトルクデータに基づいてトルクリプルの発生を検出する。例えば、フィードバック制御部23は、トルクの変動幅が予め設定されたトルク閾値以上となった場合に(ステップS04、Yes)、レゾルバ34によって得られたモータ33の回転数Nrと、エンコーダ35によって得られたモータ33の回転数Neとを比較する(ステップS05)。例えば、フィードバック制御部23は、レゾルバ34によって得られた回転数Nrと、エンコーダ35によって得られた回転数Neとの差分ΔNを求める。そして、フィードバック制御部23は、回転数の差分ΔNが予め設定された許容範囲以内に含まれない場合には(ステップS06、No)、モータ33の回転数の値を補正する(ステップS07)。例えば、フィードバック制御部23は、レゾルバ34によって得られた回転数Nrとエンコーダ35によって得られた回転数Neとの重み付け平均値を求める。フィードバック制御部23は、トルクの変動幅の大きさに応じて、レゾルバ34によって得られた回転数Nrに対する重みと、エンコーダ35によって得られた回転数Neに対する重みとを変えて、回転数の重み付け平均値を求める。一例として、フィードバック制御部23は、トルクの変動幅が大きくなるほど、レゾルバ34によって得られた回転数Nrに対する重みを小さくし、エンコーダ35によって得られた回転数Neに対する重みを大きくして、回転数の重み付け平均値を求めることが好ましい。また、フィードバック制御部23は、レゾルバ34によって得られた回転数Nrと、エンコーダ35によって得られた回転数Neとの中間値を求めてもよい。そして、モータ33の回転数に基づいてモータ33の動作をフィードバック制御する場合には、速度フィードバック制御部25は、パラメータマップが示す目標の回転数Nでモータ33が回転するように、回転数の重み付け平均値に基づいてモータ33の動作をフィードバック制御する(ステップS08)。
【0034】
トルクの変動幅がトルク閾値未満となっている場合には(ステップS04、No)、速度フィードバック制御部25は、パラメータマップが示す目標の回転数Nでモータ33が回転するように、レゾルバ34によって得られた回転数Nrに基づいて、モータ33の動作をフィードバック制御する(ステップS08)。また、回転数の差分ΔNが許容範囲以内に含まれている場合には(ステップS06、Yes)、速度フィードバック制御部25は、パラメータマップが示す目標の回転数Nでモータ33が回転するように、レゾルバ34によって得られた回転数Nrに基づいて、モータ33の動作をフィードバック制御する(ステップS08)。
【0035】
トルクの変動幅がトルク閾値以上となっているときはトルクの変動幅が大きいため、レゾルバ34によって得られた回転数Nrに基づいてモータ33の動作をフィードバック制御することは困難である。この場合において、レゾルバ34によって得られた回転数Nrとエンコーダ35によって得られた回転数Neとの差分が許容範囲外であれば、回転数の重み付け平均値を用いてモータ33の回転数を制御する。これにより、モータ33の回転数を高精度に制御することが可能となる。
【0036】
なお、パラメータマップに従ってトルクによってフィードバック制御を行う場合には、トルクフィードバック制御部24が、パラメータマップが示す目標のトルクTをモータ33が出力するように、トルクメータ36によって得られたトルクに基づいてモータ33の動作をフィードバック制御する。
【0037】
次に図5及び図6を参照して、上述したモータ制御装置を用いて行われる試験体(産業用設備)に対する試験について説明する。図5は、同期モータを用いた試験装置を示すブロック図である。図6は、回転数及びトルクの時間変化を示すグラフである。一例として、車両に搭載されるトランスミッション90を試験体として説明する。このトランスミッション90にはディフェレンシャルギア91が搭載されている。この試験では、エンジンや車輪(負荷)の代わりに同期モータを用いて、トランスミッション90の性能試験を行う。
【0038】
エンジンの代わりとなる入力軸モータ60をトランスミッション90の入力軸に接続し、負荷(車輪)の代わりとなる左出力軸モータ70と右出力軸モータ80とをトランスミッション90の出力軸に接続する。負荷の代わりとなる左出力軸モータ70と右出力軸モータ80とによって、例えば車両の走行抵抗や加減速抵抗を実現する。入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80は、上述したモータ33と同様に、車両駆動用の3相交流同期モータであり、上述したモータ制御装置によって制御される。すなわち、入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80はそれぞれインバータ32に接続され、制御装置20によって制御される。
【0039】
入力軸モータ60には、図示しないレゾルバが設けられている。入力軸モータ60の回転軸には、エンコーダ61とトルクメータ62とが設けられている。また、左出力軸モータ70には、図示しないレゾルバが設けられている。左出力軸モータ70の回転軸には、エンコーダ71とトルクメータ72とが設けられている。また、右出力軸モータ80には、図示しないレゾルバが設けられている。右出力軸モータ80の回転軸には、エンコーダ81とトルクメータ82とが設けられている。レゾルバは、上述したレゾルバ34と同様に、入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80のそれぞれの回転角度を検出し、各モータの回転角度を示す回転角度データを制御装置20に出力する。エンコーダ61,71,81は、上述したエンコーダ35と同様に、入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80のそれぞれの回転数を検出し、各モータの回転数を示す回転数データを制御装置20に出力する。トルクメータ62,72,82は、上述したトルクメータ36と同様に、入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80のそれぞれのトルクを計測し、各モータのトルクを示すトルクデータを制御装置20に出力する。
【0040】
制御装置20は、予め設定された動作特性パターンに合致したパラメータマップに従って、入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80の動作を制御する。また、制御装置20は、パラメータマップが示す目標の回転数Nで入力軸モータ60が回転するように、又はパラメータマップが示す目標のトルクTを入力軸モータ60が出力するように、レゾルバ、エンコーダ61、及びトルクメータ62の出力に基づいて、入力軸モータ60の動作をフィードバック制御する。同様に、制御装置20は、パラメータマップが示す目標の回転数Nで左出力軸モータ70が回転するように、又はパラメータマップが示す目標のトルクTを左出力軸モータ70が出力するように、レゾルバ、エンコーダ71、及びトルクメータ72の出力に基づいて、左出力軸モータ70の動作をフィードバック制御する。同様に、制御装置20は、パラメータマップが示す目標の回転数Nで右出力軸モータ80が回転するように、又はパラメータマップが示す目標のトルクTを右出力軸モータ80が出力するように、レゾルバ、エンコーダ81、及びトルクメータ82の出力に基づいて、右出力軸モータ80の動作をフィードバック制御する。
【0041】
図6を参照して、動作特性パターンについて説明する。図6において、横軸は時間を示し、縦軸は回転数とトルクとを示す。図6において、回転数グラフAは、入力軸モータ60を駆動して出力したい回転数と時間との関係を示すグラフである。トルクグラフB(破線で示すグラフ)は、入力軸モータ60を駆動して出力したいトルクと時間との関係を示すグラフである。この場合も、図3に示すパラメータマップと同様に、図6に示す動作特性パターンに対応するパラメータマップを予め作成しておく。同様に、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80の動作特性パターンに対応するパラメータマップを予め作成しておく。入力軸モータ60、左出力軸モータ70、及び右出力軸モータ80のそれぞれのパラメータマップは、入力装置10から制御装置20に入力される。なお、左出力軸モータ70及び右出力軸モータ80は、車輪(負荷)の代わりにトランスミッション90に接続されているため、左出力軸モータ70及び右出力軸モータ80のパラメータマップは、走行抵抗及び加減速抵抗に相当するパラメータマップであることが好ましい。
【0042】
また、図5に示す試験装置においても、制御装置20は、図4に示すフローチャートに従った制御を行う。すなわち、制御装置20は、トルクの変動幅がトルク閾値以上となったモータについては、パラメータマップが示す目標の回転数Nでモータが回転するように、レゾルバで得られた回転数Nrとエンコーダで得られた回転数Neとの重み付け平均値に基づいて、モータの動作をフィードバック制御する。
【0043】
トランスミッション90等の試験体に対する試験内容に応じて、回転数(速度)によるフィードバック制御方法と、トルクによるフィードバック制御方法とを切り替える。例えば、トランスミッション90を介して出力軸に出力された回転数を検出してトランスミッション90の性能を評価する場合には、回転数(速度)によるフィードバック制御を行う。一方、トランスミッション90を介して出力軸に発生したトルクを検出してトランスミッション90の性能を評価する場合には、トルクによるフィードバック制御を行う。例えば、坂道の状況、ギアがローからバックに入れられたときの状況、又は車両がパーキング中の状況を再現してトランスミッション90の性能を評価する場合には、トルクによるフィードバック制御を行うことが好ましい。このように、試験内容によって制御内容が異なるため、試験内容に応じたパラメータマップを作成しておく。図3に示すパラメータマップも、試験内容に応じた内容となっている。なお、試験内容に応じたパラメータマップを、図示しない記憶装置に予め記憶させておいてもよい。
【0044】
トランスミッション90の試験においては、左出力軸モータ70及び右出力軸モータ80の回転数及びトルクを検出し、その検出結果が規定値に含まれるか否かによって、トランスミッション90の性能を評価することができる。すなわち、左出力軸モータ70及び右出力軸モータ80の回転数及びトルクを検出することにより、入力軸モータ60の回転数及びトルクが、トランスミッション90によって左出力軸モータ70及び右出力軸モータ80に正常に伝達されているか否かを評価することができる。
【0045】
以上のように、エンコーダを用いてモータの回転数Neを検出し、レゾルバによって検出された回転数Nrを補正することにより、モータの回転数を高精度に制御することが可能となる。そのことにより、モータに接続されたトランスミッション等の試験体について、回転数に基づく性能評価を高精度に行うことが可能となる。また、試験体に対する試験内容に応じたパラメータマップを用いてモータの動作をフィードバック制御することにより、試験体に対する試験内容に合った制御を行うことが可能となる。また、パラメータマップを編集するだけで、多種多様な駆動ユニットの性能試験を、小型で低コストの同期モータを用いて行うことが可能となる。
【0046】
なお、制御装置20は、一つの態様では、ハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現され、例えば電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。具体的には、制御装置20の機能は、記録媒体に記録された制御プログラムがメインメモリに読み出されてCPU(Central Processing Unit)により実行されることによって実現される。この制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されることも可能であるし、データ通信として通信により提供されることも可能である。ただし、制御装置20は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。また、制御装置20は、物理的に1つの装置により実現されてもよいし、複数の装置により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 入力装置、20 制御装置、21 設定部、22 サイクル制御部、23 フィードバック制御部、24 トルクフィードバック制御部、25 速度フィードバック制御部、26 I/F、30 電源、31 コンバータ、32 インバータ、33 モータ、34 レゾルバ、35,61,71,81 エンコーダ、36,62,72,82 トルクメータ、60 入力軸モータ、70 左出力軸モータ、80 右出力軸モータ、90 トランスミッション、91 ディフェレンシャルギア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
性能試験の対象となる試験体を回転させる車両駆動用モータの動作を制御するモータ制御装置において、
前記車両駆動用モータの回転数を検出するレゾルバと、
前記車両駆動用モータの回転数を検出するエンコーダと、
前記車両駆動用モータのトルクを検出するトルクメータと、
前記試験体に対する試験内容に応じた目標の回転数と目標のトルクとを示すパラメータマップに従って、前記パラメータマップが示す前記目標の回転数で前記車両駆動用モータが回転するように、又は、前記パラメータマップが示す前記目標のトルクを前記車両駆動用モータが出力するように、前記レゾルバによって検出された回転数、及び前記トルクメータによって検出されたトルクに基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御し、前記トルクメータによって検出されたトルクの変動幅が予め設定された閾値以上となる場合、前記レゾルバによって検出された回転数と前記エンコーダによって検出された回転数とによって求められる回転数に基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御する制御部と、
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記制御部は、前記トルクの変動幅が前記閾値以上となる場合、前記レゾルバによって検出された回転数と前記エンコーダによって検出された回転数との重み付け平均値に基づいて、前記車両駆動用モータの動作をフィードバック制御する、
ことを特徴とするモータ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−244822(P2012−244822A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114164(P2011−114164)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】