説明

モータ制御装置

【課題】単相のエンコーダ信号によって三相スイッチング制御を実行する。
【解決手段】エンコーダ8は、二相のエンコーダ信号PA、PBを出力する。二相制御手段17は、両方のエンコーダ信号PA、PBに同期して励磁相を切換える。ひとつのエンコーダ信号だけが失われると、単相制御手段18によってモータ7が制御される。単相制御手段18は、失われたエンコーダ信号に代わって切換時期を推定する推定手段23を備える。単相制御手段18は、初期にオープン制御手段25によるオープン制御を実行する。オープン制御によってモータ7の回転が安定すると、単相フィードバック制御手段24による制御へ移行する。単相フィードバック制御手段24は、正常なエンコーダ信号と、推定された切換時期との両方に応答して励磁相を切換える。この結果、単相だけでもモータ7の制御が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダによってモータ(ロータ)の回転位置を検出し、モータへの通電を制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンコーダによってモータ(ロータ)の回転位置を検出し、モータへの通電を制御するモータ制御装置が知られている。例えば、特許文献1は、SR(Switched Reluctance)モータを用いる装置を開示している。この装置では、モータをフィードバック制御するように、モータの励磁相を決定している。この装置では、制御開始時にロータ位置と励磁相との対応関係を学習する処理を実行する。このような処理は、例えば、励磁相学習処理と呼ばれる。この処理では、所定のタイムスケジュールで励磁相を一巡させるとともに、その期間におけるエンコーダ出力を観測する。そして、この観測結果に基づいて、その後の通常駆動における励磁相が決められる。
【0003】
この装置では、励磁相を切換えるために、インクリメンタル型のエンコーダが用いられる。インクリメンタル型のエンコーダは、回転方向を特定するために、2相の信号を出力する。エンコーダの出力信号は、A相およびB相と呼ばれる。エンコーダの出力信号は、励磁相を切換えるための位置において反転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−15849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の構成では、モータの三相の励磁相を切換えるためのタイミングを検出するために、二相の信号を出力するエンコーダが必要であった。しかし、例えば、A相信号の伝達経路、またはB相信号の伝達経路に断線、または短絡が発生すると、A相またはB相のいずれか一方が失われるおそれがある。A相またはB相のいずれか一方が失われると、モータを制御できなくなるおそれがあった。
【0006】
また、別の観点では、部品点数の削減、価格の抑制、故障確率の低下の少なくともひとつを図るために、単相の信号だけを出力するエンコーダによってモータを制御できることが望ましい。しかし、単相のエンコーダを用いる場合、高い分解能をもつエンコーダを採用する必要があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンコーダからの単相の信号だけでもモータを制御できるモータ制御装置を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、二相の信号を出力するエンコーダを備えるモータ制御装置において、1相の信号が失われた場合でも残る1相の信号によりモータ制御を継続できるモータ制御装置を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、単相の信号だけを出力するエンコーダを用いてモータを制御することができるモータ制御装置を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、低分解能の単相エンコーダを用いてモータを制御することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0012】
請求項1に記載の発明は、所定の回転角度ごとに設定された複数の切換時期において励磁相が切換えられることにより回転し、制御対象物を少なくとも2位置の間で移動させる多相のモータ(7)と、複数の切換時期の一部においてのみ反転する少なくとも1相のエンコーダ信号を出力するエンコーダ(8、208)と、エンコーダ信号に基づいて、複数の切換時期の残部を推定する推定手段(23)と、エンコーダ信号の反転により示される切換時期と、推定手段によって推定された切換時期とに応答して、モータの励磁相を切換える単相制御手段(18、24)とを備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によると、複数の切換時期のうちの一部だけが1相のエンコーダ信号によって示される場合であっても、複数の切換時期の残部が推定される。この結果、単相制御手段によって、モータを制御することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、単相制御手段は、エンコーダ信号の反転により示される切換時期にも、推定手段によって推定された切換時期にも応答することなくモータの励磁相を切換えるオープン制御手段(25)と、エンコーダ信号の反転により示される切換時期と、推定手段によって推定された切換時期とに応答して、モータの励磁相を切換える単相フィードバック制御手段(24)と、オープン制御手段によってモータが回転したことを判定し、オープン制御手段による制御から、単相フィードバック制御手段による制御へ移行させる回転判定手段(26)とを備えることを特徴とする。この構成によると、エンコーダ信号に同期しないオープン制御の後に、単相フィードバック制御が実行される。このため、モータを速く回転させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、推定手段(23)は、時間を計測するタイマ(190、193)と、タイマの計測時間(TMR)と、エンコーダ信号の反転の後の所定時間(Tfb)とを比較し、所定時間の経過によって切換時期の到来を推定する比較手段(181)とを備えることを特徴とする。この構成によると、タイマによって推定手段を構成することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、推定手段(23)は、さらに、エンコーダ信号の反転の間隔(Pn)を計測する計測手段(171、185)と、間隔に基づいて、反転の間における切換時期を推定するための所定時間(Tfb)を設定する設定手段(186、187、188、189)とを備えることを特徴とする。この構成によると、エンコーダ信号の反転と反転との間における切換時期が推定される。
【0017】
請求項5に記載の発明は、設定手段(186、187、188、189)は、モータの加速および減速を判定する判定手段(186)と、モータが加速しているとき、所定時間(Tfb)を短く補正する加速補正手段(188)と、モータが減速しているとき、所定時間(Tfb)を長く補正する減速補正手段(189)とを備えることを特徴とする。この構成によると、1相のエンコーダ信号だけに基づいて励磁相を切り替えているときであっても、モータの加速と減速とに追従して励磁相の切換時期を適切に設定することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、エンコーダは、複数の切換時期のすべてにおいて交互に反転する二相のエンコーダ信号を出力するように構成されており、さらに、二相のエンコーダ信号の両方に応答して、モータの励磁相を切換える二相制御手段(17、21)と、エンコーダ信号が正常か否かを判定し、二相のエンコーダ信号の両方が正常であるとき二相制御手段によってモータを制御し、二相のエンコーダ信号の一方だけが正常であるとき単相制御手段によってモータを制御する信号判定手段(19)とを備えることを特徴とする。この構成によると、二相のエンコーダ信号の一方だけに異常が発生しても、単相制御手段によってモータの制御が可能である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、エンコーダは、複数の切換時期の一部においてのみ反転する単相のエンコーダ信号を出力するように構成されていることを特徴とする。この構成によると、単相のエンコーダを用いることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、オープン制御手段(25、166)は、タイマによる計測時間(TMR)と所定のオープン制御周期(Topn)とを比較することにより、オープン制御周期ごとにモータの励磁相を切換えるように構成され、単相フィードバック制御手段(24)は、回転判定手段(26)によってオープン制御手段による制御から、単相フィードバック制御手段による制御へ移行した直後に、エンコーダ信号の反転により示される切換時期、または推定手段によって推定された切換時期のいずれか早いほうに応答して、モータの励磁相を切換えることを特徴とする。この構成では、オープン制御手段においても、単相フィードバック制御手段の比較手段においても、タイマが利用される。オープン制御手段においては、タイマだけを利用して励磁相が切換えられる。単相フィードバック制御手段においては、タイマとエンコーダ信号とに応答して励磁相が切換えられる。オープン制御から単相フィードバック制御に移行した直後は、エンコーダ信号の反転により示される切換時期、または推定手段によって推定された切換時期のいずれか早いほうに応答して、モータの励磁相が切換えられる。このため、モータが想定より速く回転して、エンコーダ信号の反転が生じても、モータの回転速度に過剰な変動を生じさせることがない。
【0021】
請求項9に記載の発明は、推定手段によって推定された切換時期(182)に応答して、モータの励磁相を切換えた後に、タイマによる計測時間をキャンセルする手段(190)を備えることを特徴とする。この構成によると、オープン制御手段と単相フィードバック制御手段とが同じタイマを利用する。しかも、オープン制御から単相フィードバック制御への移行がスムーズに行われる。
【0022】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係るシフトバイワイヤ装置を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の制御を示すフローチャートである。
【図3】第1実施形態の制御を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の制御を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の制御を示すフローチャートである。
【図6】第1実施形態の制御を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態の作動の一例を示すタイムチャートであって、図7Aはモータの制御モードMTMDを示し、図7BはエンコーダのA相信号PAを示し、図7CはエンコーダのB相信号PBを示し、図7Dはタイマの計測値TMRを示し、図7EはモータのU相への通電状態を示し、図7FはモータのV相への通電状態を示し、図7GはモータのW相への通電状態を示し、図7Hはモータの位置を示すカウント値CTt、CTrを示し、図7Iはモータの速度SPDに相当するパルス間隔Pnを示す。
【図8】第1実施形態の作動の一例を示すタイムチャートであって、図8Aはモータの制御モードMTMDを示し、図8BはエンコーダのA相信号PAを示し、図8CはエンコーダのB相信号PBを示し、図8Dはタイマの計測値TMRを示し、図8EはモータのU相への通電状態を示し、図8FはモータのV相への通電状態を示し、図8GはモータのW相への通電状態を示し、図8Hはモータの位置を示すカウント値CTt、CTrを示し、図8Iはモータの速度SPDに相当するパルス間隔Pnを示す。
【図9】本発明を適用した第2実施形態に係るシフトバイワイヤ装置を示すブロック図である。
【図10】第2実施形態の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。また、後続の実施形態においては、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分に百以上の位だけが異なる参照符号を付することにより対応関係を示し、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明を適用した第1実施形態に係るシフトバイワイヤ装置1を示すブロック図である。シフトバイワイヤ装置(以下、SBW装置という)1は、車両に搭載されている。SBW装置1は、車両の動力源(PWS)2と、伝達機構(DRT)3とを備える。動力源2は、内燃機関と電動機との両方を含む。この車両は、内燃機関と電動機との両方、またはいずれか一方の動力によって走行することができるいわゆるハイブリッド車両である。
【0026】
伝達機構3は、動力源2が供給する動力を車両の駆動輪に伝達する。伝達機構3は、その動力伝達状態を複数の状態に切り替え可能である。例えば、伝達機構3は、車両用の自動変速装置によって提供される。伝達機構3が提供する動力伝達状態は、シフト位置、シフトレンジ、変速位置などとも呼ばれる。伝達機構3が提供する動力伝達状態には、第1位置としての非パーキング位置と、第2位置としてのパーキング位置とを含むことができる。非パーキング位置は、この明細書、および図面において、Non−Pと表記される。非パーキング位置では、伝達機構3は動力を伝達し、動力源2による車両の移動を許容する。パーキング位置は、この明細書、および図面において、Pと表記される。パーキング位置では、伝達機構3は動力の伝達を遮断し、駆動輪を拘束して車両の移動を禁止する。伝達機構3は、動力の伝達状態を上記のように切換えるためのマニュアルレバー4を有する。マニュアルレバー4は、少なくともP位置とNon−P位置との2位置の間で移動可能である。マニュアルレバー4は、モータ制御装置における制御対象物である。伝達機構3は、マニュアルレバー4の作動可能範囲の両端に、マニュアルレバー4の移動を機械的に拘束する壁5、6を有している。壁5、6は、マニュアルレバー4を駆動するための減速機構に設けることができる。マニュアルレバー4の作動可能範囲の中央からP位置を越えてさらにマニュアルレバー4を移動させた位置にP壁5が設けられている。マニュアルレバー4の作動可能範囲の中央からNon−P位置を越えてさらにマニュアルレバー4を移動させた位置にNon−P壁6が設けられている。
【0027】
制御装置9は、車両の運転者によって操作されるレバーの位置に応じて、マニュアルレバー4を移動させる。レバーは、P位置、またはNon−P位置に選択的に操作可能である。
【0028】
SBW装置1は、マニュアルレバー4の位置を移動させる電動機(以下、モータ(MT)という)7を備える。モータ7は、三相のスイッチトリラクタンス型(SR型)(Switched Reluctance)のモータである。モータ7は、U相巻線、V相巻線、およびW相巻線を備える。モータ7は、所定の回転角度ごとに設定された複数の切換時期において励磁相が切換えられることにより回転する。モータ7は、マニュアルレバー4を少なくとも2位置の間で移動させる多相のモータである。
【0029】
SBW装置1は、エンコーダ(ENC)8を備える。エンコーダ8は、インクリメンタル型の二相のエンコーダである。エンコーダ8は、モータ7の回転軸に連結されている。エンコーダ8は、モータ7の所定の回転角度ごとに信号を出力する。エンコーダ8は、モータ7が回転すると、位相がずれた多相信号を出力する。多相信号は、所定の回転角度間隔で反転する。エンコーダ8は、少なくともA相信号PAとB相信号PBとを出力する。A相信号PAは、所定の回転角度ごとにレベルが反転する。B相信号PBは、A相信号PAから位相がずれており、かつ所定の回転角度ごとにレベルが反転する。エンコーダ8は、モータ7の励磁相を順に切換えるためのすべての切換時期をA相信号PAとB相信号PBとの反転によって検出する。すなわち、エンコーダ8は、二相出力によって、モータ7の励磁相切換時期のすべてを検出できる分解能を実現している。よって、エンコーダ8は、A相信号PAだけ、またはB相信号PBだけでは、モータ7の励磁相切換時期のすべてを検出できない。エンコーダ8のA相信号PAだけ、またはB相信号PBだけは、そのような低い分解能を提供する。よって、エンコーダ8は、複数の切換時期の一部においてのみ反転する少なくとも1相のエンコーダ信号を出力する。ひとつのエンコーダ信号は、奇数番目、または偶数番目の切換時期においてのみ反転する。エンコーダ8は、複数の切換時期のすべてにおいて交互に反転する二相のエンコーダ信号PA、PBを出力するように構成されている。
【0030】
SBW装置1は、制御装置(ECU)9を備える。 制御装置9は、モータ制御装置を構成している。制御装置9は、マイクロコンピュータ(COM)11、入力回路(ITF)12、三相ドライバ回路(TPD)13、およびメモリ(MMR)14を備える。入力回路12は、エンコーダ8から供給されるエンコーダ信号を波形整形し、マイクロコンピュータ11に入力する。マイクロコンピュータ11は、入力回路12から供給されるエンコーダ信号を割込み信号として入力する。三相ドライバ回路13は、マイクロコンピュータ11の指令に応じてモータ7の三相の巻線への通電を制御する。メモリ14は半導体メモリであって、マイクロコンピュータ11が実行するモータ制御のためのプログラムを記憶している。マイクロコンピュータ11は、エンコーダ8から出力される信号に基づいてモータ7を制御する制御手段を提供する。マイクロコンピュータ11は、入力回路12を経由して入力されるA相信号とB相信号とからモータ7の回転位置を認識する。さらに、マイクロコンピュータ11は、三相ドライバ13を制御することによってモータ7の位置、すなわちマニュアルレバー4の位置をフィードバック制御する制御手段を提供する。
【0031】
制御装置9は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納している。記憶媒体は、半導体メモリ14または磁気ディスクによって提供されうる。プログラムは、制御装置9によって実行されることによって、制御装置9をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置9を機能させる。制御装置9が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0032】
マイクロコンピュータ11は、モータ制御手段(MTCM)15と、切換制御手段(SWCM)16とを備える。モータ制御手段15は、マニュアルレバー4の現在位置CTrを目標位置CTtに移動させるようにモータ7を制御する。切換制御手段16は、モータ制御手段15に含まれる複数の制御機能を切換える。
【0033】
モータ制御手段15は、二相制御手段(DPCM)17と、単相制御手段(SPCM)18とを備える。二相制御手段17は、エンコーダ8から供給されるA相信号PAとB相信号PBとの両方に応答して、モータ7の励磁相を切換えることによりモータ7を制御する。単相制御手段18は、A相信号PAとB相信号PBとのいずれか一方だけに基づいてモータ7を制御する。切換制御手段16は、信号判定手段(SGND)19を備える。信号判定手段19は、二相制御手段17と単相制御手段18とを選択的に活性化する選択手段でもある。信号判定手段19は、A相信号PAとB相信号PBとが異常か否かを判定する異常判定手段でもある。信号判定手段19は、A相信号PAとB相信号PBとの両方が正常であるか、またはA相信号PAとB相信号PBとのいずれか一方だけが異常であるかを判定する。
【0034】
信号判定手段19は、A相信号PAとB相信号PBとの両方が正常であるとき、二相制御手段17によるモータ制御を有効にし、単相制御手段18によるモータ制御を無効にさせる。この結果、A相信号PAとB相信号PBとの両方が正常であるとき、二相制御手段17によってモータ7が制御される。信号判定手段19は、A相信号PAとB相信号PBとのいずれか一方だけが正常であるとき、二相制御手段17によるモータ制御を無効にし、単相制御手段18によるモータ制御を有効にさせる。このとき、信号判定手段19は、A相信号PAとB相信号PBとのうち、正常なエンコーダ信号だけに応答して単相制御手段18が機能するように単相制御手段18を制御する。この結果、A相信号PAとB相信号PBとのいずれか一方だけが異常であるとき、単相制御手段18によってモータ7が制御される。
【0035】
二相制御手段17は、A相信号PAとB相信号PBとの両方に応答してモータ7を制御する二相フィードバック制御手段(DFBM)21を備える。二相フィードバック制御手段21は、A相信号PAとB相信号PBとの両方に基づいてモータ7の位置を検出し、A相信号PAとB相信号PBとの両方に応答して三相スイッチングを実行することによりモータ7の励磁相を切換える。二相フィードバック制御手段21は、A相信号PAとB相信号PBとの両方に同期して三相スイッチングを実行するから、完全に同期したモータ制御を提供する。
【0036】
単相制御手段18は、選択手段(SLCT)22、推定手段(ESTM)23、単相フィードバック制御手段(SFBM)24、およびオープン制御手段(OPCM)25を備える。選択手段22は、A相信号PAとB相信号PBとのうち、正常な信号だけを選択し、通過させる。選択手段22は、信号判定手段19による異常判定結果に応じて、正常なエンコーダ信号だけを通過させる。
【0037】
推定手段23は、選択手段22を通過したエンコーダ信号に基づいて、励磁相を切換えるべき切換時期を推定し、推定された切換時期を示す代替信号を発生し、出力する。代替信号は、A相信号とB相信号とのうち、異常となった信号の代わりに利用することができる信号である。代替信号は、正常なエンコーダ信号に基づいて生成される。代替信号は、A相信号PAが正常であるときには、A相信号PAに基づいて生成される。このとき、代替信号は、B相信号PBに代わる信号として生成される。代替信号は、B相信号PBが正常であるときには、B相信号PBに基づいて生成される。このとき、代替信号は、A相信号PAに代わる信号として生成される。このように、推定手段23は、正常な1相のエンコーダ信号によって複数の切換時期の一部だけが示される場合に、1相のエンコーダ信号に基づいて、複数の切換時期の残部を推定し、それらを示す信号を出力する。推定手段23は、例えばタイマ手段(TMRM)を含むことができる。タイマ手段は、正常なエンコーダ信号に基づいて、切換時期を推定し、代替信号を発生させるために利用される。
【0038】
以下では、A相信号PAが正常であり、B相信号PBが異常である場合について説明する。A相信号PAが異常であり、B相信号PBが正常である場合は、以下の説明から理解される。推定手段23は、正常なエンコーダ信号であるA相信号PAの反転周期Pnを計測する。さらに、推定手段23は、反転周期Pnに基づいて、A相信号PAの反転時期Tp(n)と、次の反転時期Tp(n+1)との間の中間時期Pn/2を設定する。そして、推定手段23は、その中間時期Pn/2に到達したときに反転する代替信号を生成する。タイマは、中間時期Pn/2への到達を検出するために用いることができる。また、推定手段23は、A相信号PA、すなわち正常なエンコーダ信号の反転周期Pnの変化に基づいて、中間時期Pn/2を補正する。補正の一例では、反転周期Pnが減少するとき、すなわちモータ7が加速しているときには、中間時期Pn/2を速めに設定するために、中間時期Pn/2から所定値C1を減らす。補正の一例では、反転周期Pnが増加するとき、すなわちモータ7が減速しているときには、中間時期Pn/2を遅めに設定するために、中間時期Pn/2に所定値C1を加える。この結果、推定手段23は、異常となったエンコーダ信号、すなわちB相信号PBに代替しうる代替信号を生成することができる。
【0039】
単相フィードバック制御手段24は、正常なエンコーダ信号と代替信号とに応答して三相スイッチングを実行することによりモータ7の励磁相を切換える。言い換えると、単相フィードバック制御手段24は、1相のエンコーダ信号の反転により示される切換時期と、推定手段23によって推定された切換時期とに応答して、モータ7の励磁相を切換える。単相フィードバック制御手段24は、A相信号PAだけに同期して三相スイッチングを実行するから、不完全に同期したモータ制御、または半分だけ同期したモータ制御を提供する。
【0040】
オープン制御手段25は、エンコーダ信号PA、PBに依存することなく、すなわちフィードバック情報を用いることなく、三相スイッチングを実行することによりモータ7の励磁相を切換える。オープン制御手段25は、エンコーダ信号の反転により示される切換時期にも、推定手段23によって推定された切換時期にも応答することなくモータ7の励磁相を切換える。オープン制御手段25は、予め定められた周期でモータ7の励磁相を順に切換える。オープン制御手段25は、推定手段23のタイマを利用して所定のオープン制御周期Topnを計測する。よって、オープン制御手段25と単相フィードバック制御手段24とが同じタイマを利用する。オープン制御手段25は、タイマによる計測時間TMRと所定のオープン制御周期Topnとを比較することにより、オープン制御周期ごとにモータの励磁相を切換えるように構成されている。オープン制御手段25は、単相制御手段18によるモータ制御が開始された初期にだけモータ7を制御する。
【0041】
切換制御手段16は、回転判定手段(RTTD)26を備える。回転判定手段26は、オープン制御手段25によってモータ7が制御されているときのモータ7の挙動を監視する。回転判定手段26は、モータ7が安定的に回転しているか否かを判定する。回転判定手段26は、オープン制御手段25によってモータ7が回転したことを判定し、オープン制御手段25による制御から、単相フィードバック制御手段24による制御へ移行させる。回転判定手段26は、モータ7が安定的に回転していることを検出すると、上記の移行を実行する。回転判定手段26は、単相制御手段18によるモータ制御の初期において、オープン制御手段25によるモータ7の制御を有効とし、単相フィードバック制御手段24によるモータ7の制御を無効とする。やがて、オープン制御手段25によってモータ7が安定的に回転すると、回転判定手段26は、オープン制御手段25によるモータ7の制御を無効とし、単相フィードバック制御手段24によるモータ7の制御を有効とする。この結果、モータ7は、単相制御手段18によるモータ制御の初期においてだけオープン制御によって制御され、中期と後期とにおいては、フィードバック制御によって制御される。この結果、エンコーダ信号PA、PBのひとつが失われていても、モータ7を起動することができる。しかも、オープン制御からフィードバック制御へ切換えられるため、位置制御の遅れを抑制することができる。
【0042】
図2は、第1実施形態におけるレンジ切換え制御130を示すフローチャートである。ステップ131では、シフトレンジの切換えが必要か否かを判定する。ここでは、車両の利用者によってシフトレバー、またはパーキングスイッチが操作されたか否かを判定する。ステップ131において肯定判定されると、シフトレンジの切換えが必要である場合、ステップ132に進む。ステップ132では、目標位置CTtを計算する。ステップ133では、現在位置CTrを計算する。ステップ134では、現在位置CTrと目標位置CTtとがほぼ一致しているか否かを判定する。ここでは、現在位置CTrが目標位置CTtの許容誤差範囲±k内にあるか否かを判定する。ステップ134において肯定判定されるとステップ135に進む。この場合、モータ7を回転させる必要はない。ステップ135では、モータ7を停止させる。ここでは、モータ7を二相励磁状態に維持する。ステップ136では、タイマによる計測を開始する。ステップ137では、タイマの計測時間TMRが所定の停止時間Tstpを上回ったか否かを判定する。計測時間TMRが停止時間Tstpを上回ると、ステップ138へ進む。ステップ138では、モータ7の制御モードMTMDをスタンバイ状態(STB)に制御する。ステップ131において否定判定されると、ステップ138へ進む。ステップ134において否定判定されるとステップ139へ進む。ステップ139では、エンコーダ8が出力するすべてのエンコーダ信号PA、PBが正常か否かを判定する。ここでは、A相信号PAとB相信号PBとの両方が正常か否かを判定する。例えば、信号伝達経路の断線、または短絡を検出する。ステップ139により、信号判定手段19が提供される。すべてのエンコーダ信号PA、PBが正常である場合、ステップ140に進む。ステップ140では、すべてのエンコーダ信号PA、PBを利用する二相制御が実行される。ステップ140により二相制御手段17が提供される。少なくともひとつのエンコーダ信号PA、PBが異常である場合、ステップ150に進む。ステップ150では、正常なエンコーダ信号PA、PBだけを利用する単相制御が実行される。ステップ150により単相制御手段18が提供される。
【0043】
図3は、第1実施形態の二相制御140を示すフローチャートである。ステップ141では、エンコーダ信号PA、PBによる割込み要求があるか否かを判定する。エンコーダ割込みがない場合、以下の処理をスキップする。ステップ141においてエンコーダ割込みがあると、ステップ142に進む。ステップ142では、三相スイッチング処理が実行される。三相スイッチング処理は、励磁相を切換える処理である。三相スイッチング処理では、要求に応答して、励磁相を順に切換える処理が実行される。例えば、励磁される相は、U相のみ、U相とV相の二相、V相のみ、V相とW相の二相、W相のみ、そしてW相とU相の二相、の順序で繰り返して切換えられる。この結果、エンコーダ8によって検出される切換タイミングに同期して励磁相が切換えられる。ステップ143では、割込み要求に応答して、モータ7の回転位置を示すカウント値、すなわち現在位置CTrが計数される。二相制御140は、いわゆる完全な同期制御を提供する。
【0044】
図4は、第1実施形態の単相制御150を示すフローチャートである。ステップ151では、オープン制御を実行すべきか否かを判定する。ここでは、正常なエンコーダ信号の反転周期Pnが所定値Pthを上回るか否かを判定する。この判定は、モータ7の回転速度が所定値を下回るか否かの判定に相当する。反転周期Pnが所定値Pthを上回る場合、すなわちモータ7の回転速度が所定値を下回る場合、ステップ160に進む。ステップ160では、オープン制御が実行される。ステップ160により、オープン制御手段25が提供される。反転周期Pnが所定値Pthを上回らない場合、すなわち、モータ7の回転速度が所定値を上回ると、ステップ180に進む。ステップ180では、単相フィードバック制御が実行される。ステップ180により、単相フィードバック制御手段24が提供される。
【0045】
図5は、第1実施形態のオープン制御160を示すフローチャートである。ステップ161では、現在のモータ7の制御モードがスタンバイか否かを判定する。ステップ161において肯定判定される場合、すなわちスタンバイ状態からの単相制御150の開始直後である場合には、ステップ162へ進む。ステップ162では、オープン制御を開始する。ステップ163では、所定の周期信号に応答して三相スイッチング処理を実行する。ステップ164では、モータ7の回転位置を示すカウント値が計数される。ステップ165では、タイマによる計測が開始される。ここでは、タイマは、オープン制御のための固定周期を計測するための計測手段を提供する。
【0046】
ステップ161において否定判定される場合、すなわちステップ162においてオープン制御が開始された後である場合、ステップ166へ進む。ステップ166では、タイマの計測時間TMRが所定のオープン制御周期Topnを上回ったか否かを判定する。ステップ166で肯定判定されると、ステップ167へ進む。ステップ167では、タイマの計測時間TMRが所定値Topnに到達したこと、すなわちタイマ割込みに応答して、三相スイッチング処理が実行される。ステップ168では、モータ7の回転位置を示すカウント値が計数される。ステップ169では、タイマによる計測を再び開始する。この結果、次のオープン制御周期が計測される。この後、ステップ170へ進む。ステップ166において否定判定された場合、すなわちタイマ割込みがない場合にも、ステップ170へ進む。
【0047】
ステップ170では、正常なエンコーダ信号による割込み要求があるか否かを判定する。エンコーダ割込みがない場合、以下の処理をスキップする。ステップ170においてエンコーダ割込みがあると、ステップ171に進む。ステップ171では、反転周期Pnが計測される。反転周期Pnは、今回のエンコーダ割込み時刻Tp(n)と、前回のエンコーダ割込み時刻Tp(n−1)との差である。ステップ171は、エンコーダ信号の反転間隔Pnを計測する計測手段を提供する。ステップ172では、単相フィードバック制御に移行した後に使用されるフィードバック周期Tfbを設定する。フィードバック周期Tfbは、Tfb←Pn/2によって設定される。ステップ173では、オープン制御が実行されている間における正常なエンコーダ信号に基づいて、励磁すべき相を特定し、学習するための学習処理が実行される。オープン制御の期間中に、モータ7の回転位置と励磁相との対応関係が学習されるから、単相フィードバック制御が開始された後に、モータ7を正しく駆動することができる。オープン制御が実行されている間中は、正常なエンコーダ信号が反転しても、三相スイッチング処理は実行されない。すなわち、オープン制御の間中、モータ7の励磁相は完全に非同期的に切換えられるから、オープン制御は、完全な非同期制御を提供する。
【0048】
オープン制御160は、ステップ150によって単相制御が開始されてから、ステップ151において否定判定されるまで継続される。この結果、モータ7はオープン制御によって回転を開始する。さらに、モータ7はオープン制御によって回転速度を増加させ、安定的な回転状態に到達する。この後、単相フィードバック制御180が実行される。
【0049】
図6は、第1実施形態の単相フィードバック制御180を示すフローチャートである。ステップ181では、タイマの計測時間TMRが、励磁相を切換える時期を示すか否かを判定する。ステップ181は、タイマの計測時間TMRと、エンコーダ信号の反転の後の所定時間Tfbとを比較し、所定時間の経過によって切換時期の到来を推定する比較手段を提供する。オープン制御160から単相フィードバック制御180に移行した直後は、前述のステップ172で設定されたフィードバック周期Tfbが利用される。ステップ181では、タイマの計測時間TMRがフィードバック周期Tfbを上回ったか否かを判定する。計測時間TMRがフィードバック周期Tfbを上回っていない場合、ステップ181では否定判定され、ステップ182へ進む。ステップ182では、正常なエンコーダ信号による割込み要求があるか否かを判定する。エンコーダ割込みがない場合、以下の処理をスキップする。ステップ182においてエンコーダ割込みがあると、ステップ183に進む。ステップ183では、三相スイッチング処理を実行する。すなわち、正常なエンコーダ信号に応答して、三相スイッチング処理が実行される。ステップ184では、モータ7の回転位置を示すカウント値が計数される。
【0050】
ステップ185では、反転周期Pnが計測される。反転周期Pnは、今回のエンコーダ割込み時刻Tp(n)と、前回のエンコーダ割込み時刻Tp(n−1)との差である。ステップ185は、エンコーダ信号の反転間隔Pnを計測する計測手段を提供する。ステップ186では、反転周期Pnの変化が評価される。ここでは、反転周期Pnの変化に基づいて、モータ7が加速しているか否かを判定する。また、ここでは、反転周期Pnの変化に基づいて、モータ7が減速しているか否かを判定する。さらに、ここでは、反転周期Pnの変化に基づいて、モータ7が等速回転しているか否かを判定する。ステップ186では、現在の反転周期Pnと、前回の反転周期Pn−1とを比較する。ステップ186は、モータ7の加速および減速を判定する判定手段を提供する。Pn=Pn−1である場合、すなわち、モータ7の回転が等速である場合、ステップ187に進む。ステップ187では、フィードバック周期Tfbが設定される。ここでは、反転周期Pnに基づいてフィードバック周期Tfbが設定される。フィードバック周期Tfbは、反転周期Pnから設定される中間時期Pn/2を示すように設定される。Pn<Pn−1である場合、すなわち、モータ7の回転が減速している場合、ステップ188に進む。ステップ188では、フィードバック周期Tfbが設定される。ここでは、フィードバック周期Tfbは、中間時期Pn/2より所定値C1だけ前を示すように設定される。ステップ188は、モータ7が加速しているとき、所定時間Tfbを短く補正する加速補正手段を提供する。Pn>Pn−1である場合、すなわち、モータ7の回転が加速している場合、ステップ189に進む。ステップ189では、フィードバック周期Tfbが設定される。ここでは、フィードバック周期Tfbは、中間時期Pn/2より所定値C1だけ後を示すように設定される。ステップ189は、モータ7が減速しているとき、所定時間Tfbを長く補正する減速補正手段を提供する。ステップ186−189は、反転間隔Pnに基づいて、反転の間における切換時期を推定するための所定時間Tfbを設定する設定手段を提供する。さらに、ステップ186−189は、フィードバック周期Tfbをモータ7の速度変化に応じて補正する補正手段を提供する。この構成によると、1相のエンコーダ信号だけに基づいて励磁相を切り替えているときであっても、モータの加速と減速とに追従して励磁相の切換時期を適切に設定することができる。ステップ190では、タイマによる計時を開始する。ステップ190は、時間の計測を開始するから、タイマを提供する。
【0051】
ステップ181において肯定判定された場合、ステップ191へ進む。ステップ191では、三相スイッチング処理を実行する。すなわち、タイマに応答して、三相スイッチング処理が実行される。すなわちステップ191では、タイマに応答する三相スイッチング処理が実行される。ここで、タイマの計測時間TMRとフィードバック周期Tfbとを比較するステップ181の処理は、推定手段23を提供している。よって、ステップ191における三相スイッチング処理は、代替信号に応答する三相スイッチング処理とも呼ぶことができる。ステップ192では、モータ7の回転位置を示すカウント値が計数される。ステップ193では、タイマが停止される。この後、再びステップ181に到達すると、タイマが停止されているため、否定判定され、ステップ182へ進む。この結果、単相フィードバック制御180によると、ステップ183におけるエンコーダ割込みに応答する三相スイッチング処理と、ステップ191におけるタイマに応答する三相スイッチング処理とが交互に実行される。
【0052】
上述の単相フィードバック制御180では、オープン制御160から単相フィードバック制御180に移行した直後は、オープン制御中に設定されたフィードバック周期Tfbが利用されている。上記移行の後に、ステップ182の肯定判定より前に、ステップ181において肯定判定された場合、タイマに応答して励磁相が切換えられた後は、必ずエンコーダ割込みに応答して励磁相が切換えられる。しかし、上記移行後に、計測時間TMRがフィードバック周期Tfbに到達する前に、エンコーダ割込みが発生する場合がある。この場合、ステップ181の肯定判定より前に、ステップ182において肯定判定され、エンコーダ割込みに応答して励磁相が切換えられた後は、必ずタイマに応答して励磁相が切換えられる。したがって、ステップ181およびステップ182を備える単相フィードバック制御手段24は、回転判定手段26によってオープン制御手段25による制御から、単相フィードバック制御手段24による制御へ移行した直後に、エンコーダ信号の反転により示される切換時期、または推定手段23によって推定された切換時期のいずれか早いほうに応答して、モータ7の励磁相を切換える。このため、モータが想定より速く回転して、エンコーダ信号の反転が生じても、モータの回転速度に過剰な変動を生じさせることがない。
【0053】
また、ステップ193の処理は、タイマをリセットすることによってオープン制御160の最後の計時をキャンセルする処理を提供する。また、ステップ190の処理は、タイマをリセットすることによってオープン制御160の最後の計時をキャンセルする処理を提供する。言い換えると、ステップ190は、推定手段23によって推定された切換時期に応答して、モータ7の励磁相を切換えた後に、タイマによる計測時間をキャンセルする手段を提供する。この結果、オープン制御160から単相フィードバック制御180への移行時に、モータ7の回転速度がスムーズに変化する。
【0054】
図7A−図7Iは、第1実施形態の二相制御手段17によってモータ7が制御されているときの作動の一例を示すタイムチャートである。図示の作動においては、両方のエンコーダ信号PA、PBが正常である。モータ7の制御モードMTMDは、スタンバイ状態(STB)、二相フィードバック制御状態(DFB)、および停止状態(STP)に切換えられている。
【0055】
時刻t11において、目標位置CTtが現在位置CTrから離れると、二相制御が開始される。モータ7のU相、V相、W相は、エンコーダ信号PA、PBに同期して切換えられる。やがて時刻t12において現在位置CTrが目標位置CTtに到達すると、励磁相の切換が停止され、モータ7の回転位置を維持するように励磁相が固定される。停止状態は、タイマの計測時間TMRが所定値Tstpに到達するまで継続される。時刻t13において停止状態が解除され、スタンバイ状態に戻る。
【0056】
図8A−図8Iは、第1実施形態の単相制御手段18によってモータ7が制御されているときの作動の一例を示すタイムチャートである。モータ7の制御モードMTMDは、スタンバイ状態(STB)、オープン制御状態(OP)、単相フィードバック制御状態(SFB)、および停止状態(STP)に切換えられている。
【0057】
時刻t21において、目標位置CTtが現在位置CTrから離れると、単相制御が開始される。単相制御の初期においては、オープン制御が実行される。オープン制御の期間においては、モータ7のU相、V相、W相は、タイマの計測時間TMRだけに応答して切換えられる。ここでは、計測時間TMRが所定値Topnに到達するごとに、励磁相が切換えられる。オープン制御の間は、励磁相の切換がモータ7の回転に同期していない。オープン制御においては、モータ7を回転させるために、励磁相の切換周期Topnは比較的長く設定されている。よって、オープン制御の間は、モータ7は低速で回転する。オープン制御の間に、モータ7は回転を開始し、さらに回転速度(SPD)を徐々に上昇させてゆくから、パルス間隔Pnが低下する。やがて、時刻t22において、パルス間隔Pnが所定値Pthを下回る。時刻t22においてオープン制御が停止され、単相フィードバック制御が開始される。まず、時刻t22の後の最初のエンコーダ割込みに応答してモータ7の励磁相が切換えられる。次に、タイマの計測時間TMRがフィードバック周期Tfbに到達すると、モータ7の励磁相が切換えられる。この後、エンコーダ割込みによる励磁相切換えと、タイマによる励磁相切換えとが交互に繰り返えされる。単相フィードバック制御の間、フィードバック周期Tfbは、モータ7の回転速度の変化量が正方向に大きいほど短くなるように、モータ7の回転速度の変化量に応じて反比例的に補正される。この結果、フィードバック周期Tfbは、単相フィードバック制御の開始初期において徐々に短くなるように設定され、単相フィードバック周期の周期において徐々に長くなるように設定される。やがて時刻t23において現在位置CTrが目標位置CTtに到達すると、励磁相の切換が停止され、モータ7の回転位置を維持するように励磁相が固定される。停止状態は、タイマの計測時間TMRが所定値Tstpに到達するまで継続される。時刻t24において停止状態が解除され、スタンバイ状態に戻る。
【0058】
この実施形態の単相制御によると、単相のエンコーダ信号だけでモータ7の制御を継続することができる。しかも、単相制御の初期にオープン制御を実行し、その後、正常なエンコーダ信号と、代替信号とに基づいて単相フィードバック制御が実行される。このため、オープン制御だけを実行する場合に比べて、現在位置CTrが速く目標位置CTtに到達するようにモータ7を制御することができる。
【0059】
この実施形態のエンコーダ8は、モータ7の制御のために必要な分解能を二相によって提供する。よって、A相信号PAまたはB相信号PBだけの一相だけでは、モータ7を制御するための分解能を提供できない。しかし、この実施形態の単相制御は、タイマによって代替信号を発生するから、一相のエンコーダ信号が失われた場合でも、残る一相のエンコーダ信号によりモータ7を制御することができる。
【0060】
(第2実施形態)
図9は、本発明を適用した第2実施形態に係るシフトバイワイヤ装置201を示すブロック図である。上記実施形態では、二相のエンコーダ8を採用した。これに代えて、この実施形態では、単相のエンコーダ208を採用する。また、上記実施形態では、エンコーダ8が正常なときには二相制御を実行し、エンコーダ8が異常なときにだけ単相制御を実行した。これに代えて、この実施形態では、単相制御のみを実行する。
【0061】
エンコーダ208は、上記実施形態のA相信号PAに相当するエンコーダ信号だけを出力する。よって、A相信号PAだけでは、モータ7の三相巻線への通電を三相スイッチング制御するための分解能を提供できない。言い換えると、エンコーダ208は、複数の切換時期の一部においてのみ反転する単相のエンコーダ信号を出力するように構成されている。
【0062】
マイクロコンピュータ11は、モータ制御手段215と、切換制御手段216とを備える。モータ制御手段215は、単相制御手段218だけを備える。単相制御手段218は、推定手段23、単相フィードバック制御手段24、およびオープン制御手段25を備える。切換制御手段216は、回転判定手段26だけを備える。
【0063】
図10は、第2実施形態におけるレンジ切換え制御230を示すフローチャートである。この実施形態では、レンジ切換え制御230は、上述のステップ131−138、およびステップ150を備える。したがって、この実施形態では、単相制御150だけが実行される。単相制御150の詳細は、上記実施形態の説明を参照することができる。
【0064】
この実施形態の単相制御によると、エンコーダ208だけでは、モータ7の制御に必要な分解能を提供できないが、代替信号を発生することによって、低分解能の一相のエンコーダ信号だけでモータ7を制御することができる。
【0065】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0066】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。また、上記実施形態では、推定手段23をソフトウェアによって構成した。これに代えて、推定手段23の一部、または全部をハイドウェアによって構成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、制御装置9は、P位置とNon−P位置との2位置間での切換を提供した。これに代えて、制御装置9は、3つ以上の複数の位置間での切換えを提供するように構成することができる。例えば、P位置、R(後退)位置、N(ニュートラル)位置、D(ドライブ)位置といった4位置間の切換を提供することができる。
【0068】
また、上記実施形態では、ハイブリッド車両に本発明を適用したが、本発明は内燃機関のみを動力源とする車両、または電動機のみを動力源とする車両にも適用することができる。
【0069】
また、上記実施形態では、回転判定手段26は、モータ7の回転数が所定値を上回るとオープン制御から単相フィードバック制御への切換えを実行した。これに代えて、オープン制御の継続時間が所定時間を越えるとオープン制御から単相フィードバック制御への切換えを実行するように構成してもよい。また、回転判定手段26は、モータ7の回転量が所定量を上回ると、オープン制御から単相フィードバック制御への切換えを実行するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 シフトバイワイヤ装置、 2 動力源、 3 伝達機構、 7 モータ、 8 エンコーダ、 9 制御装置、 11 マイクロコンピュータ、 15 モータ制御手段、 16 切換制御手段、 17 二相制御手段、 18 単相制御手段、 19 信号判定手段、 21 二相フィードバック制御手段、 22 選択手段、 23 推定手段、 24 単相フィードバック制御手段、 25 オープン制御手段、 26 回転判定手段、201 シフトバイワイヤ装置、208 エンコーダ、 215 モータ制御手段、 216 切換制御手段、 218 単相制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転角度ごとに設定された複数の切換時期において励磁相が切換えられることにより回転し、制御対象物を少なくとも2位置の間で移動させる多相のモータ(7)と、
複数の前記切換時期の一部においてのみ反転する少なくとも1相のエンコーダ信号を出力するエンコーダ(8、208)と、
前記エンコーダ信号に基づいて、複数の前記切換時期の残部を推定する推定手段(23)と、
前記エンコーダ信号の反転により示される切換時期と、前記推定手段によって推定された切換時期とに応答して、前記モータの励磁相を切換える単相制御手段(18、24)とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記単相制御手段は、
前記エンコーダ信号の反転により示される切換時期にも、前記推定手段によって推定された切換時期にも応答することなく前記モータの励磁相を切換えるオープン制御手段(25)と、
前記エンコーダ信号の反転により示される切換時期と、前記推定手段によって推定された切換時期とに応答して、前記モータの励磁相を切換える単相フィードバック制御手段(24)と、
前記オープン制御手段によって前記モータが回転したことを判定し、前記オープン制御手段による制御から、前記単相フィードバック制御手段による制御へ移行させる回転判定手段(26)とを備えることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記推定手段(23)は、
時間を計測するタイマ(190、193)と、
前記タイマの計測時間(TMR)と、前記エンコーダ信号の反転の後の所定時間(Tfb)とを比較し、前記所定時間の経過によって前記切換時期の到来を推定する比較手段(181)とを備えることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記推定手段(23)は、さらに、
前記エンコーダ信号の反転の間隔(Pn)を計測する計測手段(171、185)と、
前記間隔に基づいて、前記反転の間における前記切換時期を推定するための前記所定時間(Tfb)を設定する設定手段(186、187、188、189)とを備えることを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記設定手段(186、187、188、189)は、
前記モータの加速および減速を判定する判定手段(186)と、
前記モータが加速しているとき、前記所定時間(Tfb)を短く補正する加速補正手段(188)と、
前記モータが減速しているとき、前記所定時間(Tfb)を長く補正する減速補正手段(189)とを備えることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記エンコーダは、複数の前記切換時期のすべてにおいて交互に反転する二相のエンコーダ信号を出力するように構成されており、
さらに、
二相の前記エンコーダ信号の両方に応答して、前記モータの励磁相を切換える二相制御手段(17、21)と、
前記エンコーダ信号が正常か否かを判定し、二相の前記エンコーダ信号の両方が正常であるとき前記二相制御手段によって前記モータを制御し、二相の前記エンコーダ信号の一方だけが正常であるとき前記単相制御手段によって前記モータを制御する信号判定手段(19)とを備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記エンコーダは、複数の前記切換時期の一部においてのみ反転する単相のエンコーダ信号を出力するように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記オープン制御手段(25、166)は、前記タイマによる計測時間(TMR)と所定のオープン制御周期(Topn)とを比較することにより、前記オープン制御周期ごとに前記モータの励磁相を切換えるように構成され、
前記単相フィードバック制御手段(24)は、前記回転判定手段(26)によって前記オープン制御手段による制御から、前記単相フィードバック制御手段による制御へ移行した直後に、前記エンコーダ信号の反転により示される切換時期(181)、または前記推定手段によって推定された切換時期(182)のいずれか早いほうに応答して、前記モータの励磁相を切換えることを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記推定手段によって推定された切換時期(182)に応答して、前記モータの励磁相を切換えた後に、前記タイマによる計測時間をキャンセルする手段(190)を備えることを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−55855(P2013−55855A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194034(P2011−194034)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】