説明

モータ制御装置

【課題】モータの磁束を検出し、エンコーダ等の位置検出器を用いずに過渡応答時でも起動時でも正弦波駆動を安価に実現することを可能にするものである。
【解決手段】モータ100にモータの磁束を検出する磁束検出器102が取り付けられている。本実施例では説明の都合上、モータ100は三相の同期モータであるとする。磁束検出器102は図2に示すように、モータの磁石が発生する磁束を検出して、それぞれの位相差が約120度の正弦波状の磁束信号CS1 ,CS2 ,CS3を出力する。3相の巻線うち2相を励磁し、励磁時の前記位置検出手段の検出位置を前記制御手段が前記ブラシレスモータを駆動する出力波形の原点とすることで、起動時から正弦波駆動を可能とし、さらに過渡時においても、常に効率の良い正弦波駆動が安価に実現可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータの位置を検出するためにモータの磁束を検出する磁束検出器を具備する同期モータ等の磁石を有するモータを制御するモータ制御装置において、起動時から正弦波駆動を可能とし、さらに過渡時においても、常に正弦波駆動が可能とするモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータを駆動するモータ制御装置について、以下に図面を参照しながら説明する。同期モータを駆動するには、ブラシ付きの直流モータと異なり、モータの磁極の位置を検出し、磁極に応じてモータの巻線に流す電流や電圧を制御する必要がある。そのため、三相のブラシレスモータを駆動する場合は、図6に示すような磁極位置信号であるCS信号を取り付け、三相のCS信号であるCS1,CS2,CS3の論理により三相のu,v,w相にいわゆる120度通電の矩形波駆動するのが一般的である。
【0003】
また、3相ブラシレスモータモータの振動が少なく高効率駆動が可能な正弦波駆動する際には、一定回転の場合は、例えば特許文献1のように、磁極信号の論理の変化点の間隔をタイマーで測定し、そのタイマーの値により分割して正弦波駆動を実現するか、別にエンコーダ等の精度の良い位置検出器を取り付け、図7に示すように三相のCS信号の論理の変化点からのエンコーダ等の位置検出器の位置情報を併用して三相のu,v ,w相にいわゆる180度通電の正弦波駆動を実現していた。(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−137080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来の磁極位置信号のみでは矩形波駆動しか実現できず、正弦波駆動を具現化するにはエンコーダ等の位置検出器を別途取り付けなければならず、大きさの面でも、コストの面でも不利となるといった問題点を有していた。また、タイマーで分割する場合は、過渡応答時や速度変化の大きい場合には対応できず、正弦波が連続でないといった問題点を有していた。
【0006】
また、三相のCS信号の論理の変化点が3相ブラシレスモータの誘起電圧のゼロクロス点と同位相であれば効率が最大となり、かつトルクリップルも最小となる。しかしながら、CS信号を検出する磁束検出器がそれ自体のパッケージ内のセンサ位置の誤差や、基板実装および組立て誤差により三相のCS信号の論理の変化点が3相ブラシレスモータの誘起電圧のゼロクロス点と同位相とならず、効率やトルクリップル悪化により騒音や振動となるといった問題点を有していた。
【0007】
さらに、エンコーダを取り付けた場合でも、電源を投入後の起動時には、磁極位置信号の論理が変化するまでは、絶対位置が検出できないため正弦波で駆動することができず矩形波で駆動せざるをえないといった問題点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためにロータに永久磁石を有し、かつステータの3相の巻線を有する3相ブラシレスモータと、前記ロータの互いに位相差がほぼ120度である三相の磁束を直接的にあるいは間接的に検出する磁束検出手段と、前記磁束検出手段の磁束量の位置領域を用いて演算し前記ロータの位置に変換する位置検出手段と、前記位置検出手段の検出位置を用いて前記3相ブラシレスモータを駆動する制御手段とにより構成され、前記3相ブラシレスモータの始動時に、前記3相の巻線うち2相を励磁し、励磁時の前記位置検出手段の検出位置を前記制御手段が前記ブラシレスモータを駆動する出力波形の原点とすることを特徴とする。
【0009】
第1の発明は、ロータに永久磁石を有し、かつステータの3相の巻線を有する3相ブラシレスモータと、前記ロータの互いに位相差がほぼ120度である三相の磁束を直接的にあるいは間接的に検出する磁束検出手段と、前記磁束検出手段の磁束量の位置領域を用いて演算し前記ロータの位置に変換する位置検出手段と、前記位置検出手段の検出位置を用いて前記3相ブラシレスモータを駆動する制御手段とにより構成され、前記3相ブラシレスモータの始動時に、前記3相の巻線うち2相を励磁し、励磁時の前記位置検出手段の検出位置を前記制御手段が前記ブラシレスモータを駆動する出力波形の原点とすることを特徴とするモータ制御装置であり、3相ブラシレスモータの誘起電圧と磁束信号の位相を合わせることができ、効率がよく、かつトルクリップの発生を抑えることが可能となり騒音、振動を低減することが出来るという作用を有する。
が出来るという作用を有する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記3相の巻線のうちの2相の励磁を直流励磁とするモータ制御装置であり、3相ブラシレスモータの誘起電圧と磁束信号の位相を合わせることができ、効率がよく、かつトルクリップの発生を抑えることが可能となり騒音、振動を低減することが出来るという作用を有する。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記3相の巻線のうちの2相の励磁の組み合わせを少なくとも1つ以上で励磁するモータ制御装置であり、3相ブラシレスモータの誘起電圧と磁束信号の位相を複数合わせることができるため、より細かく電流と誘起電圧の位相をあわすことができ、効率がよく、かつトルクリップの発生を抑えることが可能となり騒音、振動を低減することが出来るという作用を有する。
【0012】
第4の発明は、第1から第3の発明において、前記3相の巻線のうちの2相の励磁を電気角で360度の範囲で励磁するモータ制御装置であり、3相ブラシレスモータの誘起電圧と磁束信号の位相を複数合わせることができるため、より細かく電流と誘起電圧の位相をあわすことができ、効率がよく、かつトルクリップの発生を抑えることが可能となり騒音、振動を低減することが出来るという作用を有する。
【0013】
第5の発明は、第1から第4の発明において、前記3相の巻線のうちの2相の励磁を機械角で360度の範囲で励磁するモータ制御装置であり、3相ブラシレスモータの誘起電圧と磁束信号の位相を複数合わせることができるため、より細かく電流と誘起電圧の位相をあわすことができ、効率がよく、かつトルクリップの発生を抑えることが可能となり騒音、振動を低減することが出来るという作用を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のモータ制御装置は、モータと、前記モータの磁束を直接的にあるいは間接的に検出する磁束検出手段を有するモータ制御装置において、前記磁束検出手段の磁束量から前記モータの位置に変換する位置検出手段と、前記位置検出手段の検出位置を用いて前記モータを正弦波駆動する制御手段とを具備することで、起動時から効率が良く、トルクリップルの少ない正弦波駆動を可能とし、さらに過渡時においても、常に正弦波駆動が安価に実現可能とするものである。
【0015】
また、正弦波駆動に係わらず、位置検出手段の検出位置を用いて、モータの位置を検出し、位置制御、速度制御が可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施例におけるモータ制御装置の構成を示す全体図
【図2】磁束検出器102の出力である磁束信号の一例を示す説明図
【図3】磁束検出器102の出力である磁束信号とモータ駆動波形の一例を示す説明図
【図4】磁束検出器102の出力である磁束信号とモータ駆動波形のその他一例を示す説明図
【図5】磁束検出器102の出力である磁束信号とモータの誘起電圧を示す説明図
【図6】従来例における磁極位置センサの波形と矩形波駆動を示す説明図
【図7】従来例における磁極位置センサの波形と正弦波駆動を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の第1の実施例におけるモータ制御装置の構成を示す全体図である。図1において、100はモータ、102は磁束検出器、104はPWM制御器、106は速度制御器、108は微分器、110は位置信号変換器である。
【0019】
図2は磁束検出器102の出力である磁束信号の一例を示す説明図である。
【0020】
図3は磁束検出器102の出力である磁束信号とモータ駆動波形の一例を示す説明図である。
【0021】
図4は磁束検出器102の出力である磁束信号とモータ駆動波形の他の一例を示す説明図である。
以上のように構成されたモータ制御装置について、以下図1、図2、図3、図4を用いてその動作を説明する。
【0022】
モータ100にモータの磁束を検出する磁束検出器102が取り付けられている。本実施例では説明の都合上、モータ100は三相の同期モータであるとする。磁束検出器102は図2に示すように、モータの磁石が発生する磁束を検出して、それぞれの位相差が約120度の正弦波状の磁束信号CS1 ,CS2 ,CS3を出力する。
【0023】
この磁極検出器は、従来のモータ制御装置と同様に、三相モータの線間の誘起電圧と位相が合うようにモータの固定子巻線に固定されている。そのため、従来のモータ制御装置の矩形波駆動では、比較器等により図17のようなパルス状の信号を生成し、信号の論理によって矩形波を生成していた。
【0024】
本発明では、これらのCS1,CS2,CS3の正弦波信号を、位置信号変換器110に入力しモータの位置を検出する。この位置信号変換器110の動作は、例えばCS1,CS2,CS3の磁束信号のアナログ値をマイコンのA/D変換器で取り込み、マイコン内で逆三角関数演算等で求めればよい。
【0025】
ここで、逆三角関数演算は、CS1,CS2,CS3の磁束信号のいずれかで演算してもよいが、図2からも分かるように、演算精度がよい各磁束信号が交わる振幅の半分以下の領域を使う方がよい。即ち、振幅の半分のしきい値で磁束信号を切り替えて演算し、磁束信号の符号を用いて磁束信号1周期の位置に換算すればよい。
【0026】
そして、この位置信号変換器110の位置情報から、図3に示すような三相のu,v,w相に正弦波駆動が可能となる。このu,v,w相の電流波形は各相の誘起電圧と位相を合わせればよいが、磁束信号が線間の誘起電圧と合わせているため、この磁束信号とu,v,w相の位相を30度ずらせばよい。なお、電圧駆動する場合は、電流の位相が合うように、モータ速度や負荷に応じて、位相を進ませればよい。
【0027】
しかしながら、上記は誘起電圧と磁束信号の位相を合わせている構成を説明しており、理想的には出力トルクが最大であり、高効率の状態となっているが、実際の3相ブラシレスモータにおいては、磁極を検出する例えばホールICやホール素子の基板の実装ばらつきや基板の寸法ばらつきおよび基板の取り付けばらつき等々により、上記の誘起電圧と磁束信号の位相が合っていない場合がある。
【0028】
図4は上記の誘起電圧と磁束信号の位相が合っていない場合であり、電流が誘起電圧に比べ進んでいる場合の図である。
【0029】
このように電流が誘起電圧が進んでいる場合は、電圧駆動している場合は電流自体も進んでいる状態となり合成トルクも脈動が発生する。この脈動がトルクリップルである。
【0030】
図5は、上記の電圧駆動時の磁束信号と誘起電圧との関係を示した図である。図5の状態であれば、磁束信号のゼロになった点Bの時点を電圧出力の原点すなわち始点となる。この場合は上記の通り、電流が誘起電圧に比べ進んでいる状態となり、上記の効率低下およびトルクリップルの発生となり課題となっている。
【0031】
図5において点Bでは進みすぎており、点Aが理想の原点である。この点Aにおいては、U相とW相に同じ大きさのトルクをかけ、V相にトルクがゼロの場合にロータが点Aに固定される。すなわち、U相とW相に電流を流しているときにロータが点Aに固定され、その時点のU相、V相およびW相の磁束信号の値を原点とすることにより誘起電圧と磁束信号の位相を合わせることができる。
【0032】
また、上記はU相とW相に電流を流しトルクをかけてロータの位置を固定することで、固定された点を電圧の波形出しの原点としたが、3相のうち2相の組み合わせで流すことで電気角および機械角の中での原点を複数持つことでより細かな波形出しを出力することが可能となる。
【0033】
さらに、この位置信号を微分器108によりモータの速度に変換される。速度制御器106はこの検出された速度が速度指令値に追従するように、例えば公知のPI制御等で制御すればよく、そのための制御指令をPWM制御器104に出力する。なお、ここでは、速度制御の例について説明したが、公知の位置制御やトルク制御でも同様に制御可能である。
【0034】
そして、 PWM制御器104は、指令された制御指令を発生するようにモータ100へ公知のPWM制御を行う。なお、PWM制御でなくても、パワーオペアンプのようなリニア駆動でも構わない。
【0035】
以上の構成により、磁束検出器のアナログ量の磁束量を検出することにより、電源投入時の起動時から磁極位置を把握することができるため、起動時から正弦波駆動を行うことが容易に実現できる。また、過渡応答時等の速度の変化が大きい場合でもエンコーダ等の位置検出器を設けなくても正弦波駆動が安価にかつ容易に実現できる。
【0036】
なお、本実施例では説明の都合上、回転型の三相の同期モータで説明したが、二相のモータなど多相の同期モータやステッピングモータでも、直線型のリニアモータでも同様な手法で実現できる。
【0037】
さらに、本実施例から明らかなように、モータの磁束を直接検出しなくても、磁束が発生する周期と同じ周期の正弦波を出力する、例えば、センサマグネットとM R センサ等の検出器でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のモータ制御装置は、モータの誘起電圧と磁束信号の位相差を無くすことにより運転を効率よく、かつトルクリップルも低減できるため、主にモータの高効率化および低振動、低騒音化が要望される機器で、例えばエアコン室内機、エアコン室外機、給湯機、空気清浄機などに搭載される電動機に有効である。
【符号の説明】
【0039】
100 モータ
102 磁束検出器
104 PWM制御器
106 速度制御器
108 微分器
110 位置信号変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに永久磁石を有し、かつステータの3相の巻線を有する3相ブラシレスモータと、
前記ロータの互いに位相差がほぼ120度である三相の磁束を直接的にあるいは間接的に検出する磁束検出手段と、前記磁束検出手段の磁束量の位置領域を用いて演算し前記ロータの位置に変換する位置検出手段と、前記位置検出手段の検出位置を用いて前記3相ブラシレスモータを駆動する制御手段とにより構成され、前記3相ブラシレスモータの始動時に、前記3相の巻線うち2相を励磁し、励磁時の前記位置検出手段の検出位置を前記制御手段が前記ブラシレスモータを駆動する出力波形の原点とする構成を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記3相の巻線のうちの2相の励磁を直流励磁とする構成を具備する請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記3相の巻線のうちの2相の励磁の組み合わせを少なくとも1つ以上で励磁する構成を具備する請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記3相の巻線のうちの2相の励磁を電気角で360度の範囲で励磁する校正を具備する請求項1から3のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記3相の巻線のうちの2相の励磁を機械角で360度の範囲で励磁する構成を具備する請求項1から4のいずれかに記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66324(P2013−66324A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204082(P2011−204082)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】