説明

モータ駆動制御システムおよびそれを搭載する車両、ならびにモータ駆動制御システムの制御方法

【課題】交流電動機を駆動するモータ駆動制御システムにおいて、矩形波制御からPWM制御への切換えの際の制御安定性を向上する。
【解決手段】モータ駆動制御システム100は、インバータ140により交流電動機200を駆動する。ECU300は、矩形波制御モードおよびパルス幅変調制御モードのいずれかの制御モードによってインバータ140を制御する。ECU300は、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機200へ印加される電流位相φi#がしきい値φthに到達したことに応じて、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへ切換える。そして、ECU300は、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機200へ印加される電圧位相φvの変化に基づいて電流位相φi#のしきい値φthを変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御システムおよびそれを搭載する車両、ならびにモータ駆動制御システムの制御方法に関し、より特定的には、矩形波制御およびパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御が適用される交流電動機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電源を用いて交流電動機を駆動制御するために、インバータを用いた駆動方法が一般的に採用される。インバータは、インバータ駆動回路によりスイッチング制御されており、たとえばPWM制御に従ってスイッチングされた電圧が交流電動機に印加される。
【0003】
また、電圧利用率を向上させてモータ回転数の高い領域で高出力を得るために、正弦波PWM制御よりもモータ印加電圧の基本波成分が大きい変調方式による交流電動機制御として、過変調PWM制御および矩形波制御が適用される場合がある。
【0004】
特開2005−218299号公報(特許文献1)には、矩形波制御で動作している場合に、交流電動機に供給される実電流位相の絶対値が所定の切換電流位相の絶対値を下回ると、矩形波制御からPWM制御へ切換える構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−218299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PWM制御および矩形波制御が適用される交流電動機の制御においては、電圧位相を制御する矩形波制御から電流フィードバックによるPWM制御への切換えの際に、2つの制御モードが頻繁に切換わる、いわゆるチャタリングを防止するために、制御モードの理想的な切換点を少し行き過ぎた動作ポイントにおいて制御モードを切換えるように、ヒステリシスが付与された制御がなされることがある。
【0007】
このような制御においては、矩形波制御からPWM制御に切換わった直後にPWM制御における電流指令が不連続に変化することによって、交流電動機に印加されるインバータの出力電圧がステップ状に変化してしまい、瞬間的にトルクが大きく変動する可能性がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、交流電動機を駆動するモータ駆動制御システムにおいて、矩形波制御からPWM制御への切換えの際の制御安定性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるモータ駆動制御システムは、交流電動機の駆動電圧を制御するインバータと、インバータを制御するための制御装置とを備える。インバータは、交流電動機に印加される矩形波電圧の電圧位相を制御することによって交流電動機を駆動する矩形波制御モード、および交流電動機を動作させるための交流電圧指令と搬送波との比較に基づくパルス幅変調制御を行なうことによって交流電動機を駆動するパルス幅変調制御モードにより制御される。制御装置は、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機へ印加される電流位相がしきい値に到達したことに応じて、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切換えを実行する。そして、制御装置は、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機へ印加される電圧位相の変化に基づいてしきい値を変更する。
【0010】
好ましくは、制御装置は、電圧位相が加速方向へ変化しているときは、電圧位相が変化しないときに比べて、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切換えが遅くなるようにしきい値を変更する。
【0011】
好ましくは、制御装置は、電圧位相が減速方向へ変化しているときは、電圧位相が変化しないときに比べて、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切換えが早くなるようにしきい値を変更する。
【0012】
好ましくは、制御装置は、電圧位相の時間的変化の大きさが第1の基準値より大きい場合に、しきい値を変更する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、交流電動機に印加される電圧指令値の時間的変化の大きさが第2の基準値より小さい場合は、しきい値の変更を禁止する。
【0014】
好ましくは、電圧位相は、交流電動機に印加される電圧指令値についての、q軸電圧指令値に対するd軸電圧指令値に基づいて定められる。
【0015】
好ましくは、電流位相は、交流電動機に流れる電流のq軸電流値に対するd軸電流値に基づいて定められる。
【0016】
本発明による車両は、蓄電装置と、交流電動機と、上記いずれかのモータ駆動制御システムとを備える。
【0017】
本発明によるモータ駆動制御システムの制御方法は、インバータにより交流電動機を駆動するモータ駆動制御システムについての制御方法である。制御方法は、交流電動機に印加される矩形波電圧の電圧位相を制御することによって交流電動機を駆動する矩形波制御モードを選択するステップと、交流電動機を動作させるための交流電圧指令と搬送波との比較に基づくパルス幅変調制御を行なうことによって交流電動機を駆動するパルス幅変調制御モードを選択するステップと、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機へ印加される電流位相がしきい値に到達したことに応じて、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへ切換えるステップと、矩形波制御モードの実行中に、交流電動機へ印加される電圧位相の変化に基づいてしきい値を変更するステップとを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、交流電動機を駆動するモータ駆動制御システムにおいて、矩形波制御からPWM制御への切換えの際の制御安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に従うモータ駆動制御システムの全体ブロック図である。
【図2】本実施の形態による、モータ駆動システムにおける交流電動機の制御モードを概略的に説明する図である。
【図3】本実施の形態による、交流電動機の動作状態と各制御モードとの対応関係を説明する図である。
【図4】本実施の形態による、モータ駆動システムの制御構成を示す機能ブロック図である。
【図5】矩形波制御およびPWM制御でのd−q軸平面上のd軸,q軸電流指令値の変化を示す概念図である。
【図6】矩形波制御からPWM制御への切換時の、d−q軸平面上のd軸,q軸電流指令値の変化を示す概念図である。
【図7】本実施の形態における、モード切換制御の概要を説明するための第1の図である。
【図8】本実施の形態における、モード切換制御の概要を説明するための第2の図である。
【図9】本実施の形態における、モード切換制御の概要を説明するための第3の図である。
【図10】本実施の形態において、ECUで実行されるモード切換制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図11】図10のステップS150における処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
(電動機制御の全体構成)
図1は、本発明の実施の形態に従うモータ駆動制御システム100を搭載した車両10の全体ブロック図である。
【0022】
図1を参照して、車両10は、モータ駆動制御システム100と、交流電動機200と、駆動輪210とを備える。モータ駆動制御システム100は、直流電圧発生部105と、コンデンサC1と、インバータ140と、制御装置(以下、ECU「Electronic Control Unit」とも称する。)300とを含む。
【0023】
交流電動機200は、たとえば、ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生する車両において、駆動輪210を駆動するためのトルクを発生する駆動用電動機である。あるいは、この交流電動機200は、エンジン(図示せず)によって駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、または電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流電動機200は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。すなわち、本実施の形態において、「交流電動機」は、交流駆動の電動機、発電機および電動発電機(モータジェネレータ)を含むものである。
【0024】
直流電圧発生部105は、直流電源110と、システムリレーSR1,SR2と、コンデンサC2と、コンバータ120と、電圧センサ150,170と、電流センサ160とを含む。
【0025】
直流電源110は、代表的には、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置により構成される。電圧センサ150は、直流電源110が出力する直流電圧VBを検出する。電流センサ160は、直流電源110に入出力される直流電流IBを検出する。そして、これらの検出値は、ECU300へ出力される。
【0026】
システムリレーSR1は、直流電源110の正極端子と電力線PL1との間に接続される。システムリレーSR2は、直流電源110の負極端子と接地線NL1との間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、ECU300からの制御信号SEにより制御され、直流電源110とコンバータ120との間での電力の供給と遮断とを切換える。
【0027】
コンバータ120は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1,Q2は、電力線PL2と接地線NL1との間に直列に接続される。スイッチング素子Q1,Q2は、ECU300からのスイッチング制御信号PWCによって制御される。
【0028】
本実施の形態においては、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置される。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1,Q2の接続ノードと電力線PL1との間に接続される。
【0029】
コンデンサC2は、電力線PL1および接地線NL1の間に接続され、電力線PL1と接地線NL1との間の電圧変動を低減する。電圧センサ170は、コンデンサC2の両端の電圧VLを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0030】
コンバータ120は、基本的には、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1,Q2が相補的かつ交互にオン・オフするように制御される。コンバータ120は、昇圧動作時には、直流電源110から供給された直流電圧VLを直流電圧VH(インバータ140への入力電圧に相当するこの直流電圧を、以下「システム電圧」とも称する)に昇圧する。この昇圧動作は、スイッチング素子Q2のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q1および逆並列ダイオードD1を介して、電力線PL2へ供給することにより行なわれる。
【0031】
また、コンバータ120は、降圧動作時には、直流電圧VHを直流電圧VLに降圧する。この降圧動作は、スイッチング素子Q1のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q2および逆並列ダイオードD2を介して、接地線NL1へ供給することにより行なわれる。これらの昇圧動作および降圧動作における電圧変換比(VHおよびVLの比)は、上記スイッチング周期におけるスイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)により制御される。なお、スイッチング素子Q1をオンに、スイッチング素子Q2をオフにそれぞれ固定すれば、VH=VL(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0032】
コンデンサC1は、コンバータ120からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ140へ供給する。電圧センサ130は、コンデンサC1の両端の電圧、すなわち、システム電圧VHを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0033】
インバータ140は、電力線PL2と接地線NL1との間に並列に設けられる、U相上下アーム141と、V相上下アーム142と、W相上下アーム143とを含んで構成される。各相上下アームは、電力線PL2と接地線NL1との間に直列接続されたスイッチング素子を含む。たとえば、U相上下アーム141はスイッチング素子Q3,Q4を含み、V相上下アーム142はスイッチング素子Q5,Q6を含み、W相上下アーム143はスイッチング素子Q7,Q8を含む。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続される。スイッチング素子Q3〜Q8は、ECU300からの制御信号PWIによって制御される。
【0034】
交流電動機200は、代表的には3相の永久磁石型同期電動機であり、U,V,W相における3つのコイルの一方端が中性点に共通に接続される。さらに、各相コイルの他方端は、各相上下アーム141〜143におけるスイッチング素子の接続ノードに接続される。
【0035】
インバータ140は、交流電動機200のトルク指令値が正(Trqcom>0)の場合には、ECU300からの制御信号PWIに応答したスイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により、コンデンサC1から供給される直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流電動機200を駆動する。また、インバータ140は、交流電動機200のトルク指令値が零の場合(Trqcom=0)には、制御信号PWIに応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流電動機200を駆動する。これにより、交流電動機200は、トルク指令値Trqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
【0036】
さらに、モータ駆動制御システム100が搭載された車両の回生制動時には、交流電動機200のトルク指令値Trqcomは負に設定される(Trqcom<0)。この場合には、インバータ140は、制御信号PWIに応答したスイッチング動作により、交流電動機200が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧VH)を、コンデンサC1を介してコンバータ120へ供給する。なお、ここで言う回生制動とは、車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0037】
電流センサ240は、交流電動機200に流れるモータ電流MCRTを検出し、その検出したモータ電流をECU300へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ240は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
【0038】
回転角センサ(レゾルバ)250は、交流電動機200の回転角θを検出し、その検出した回転角θをECU300へ出力する。ECU300では、回転角θに基づき交流電動機200の回転速度MRTおよび角速度ω(rad/s)を算出できる。なお、回転角センサ250については、ECU300にてモータ電圧や電流から回転角θを直接演算することによって、配置を省略してもよい。
【0039】
ECU300は、電子制御ユニット(制御装置)により構成され、予め記憶されたプログラムを図示しないCPUで実行することによるソフトウェア処理、および/または、専用の電子回路によるハードウェア処理によって、モータ駆動制御システム100の動作を制御する。
【0040】
代表的な機能として、ECU300は、入力されたトルク指令値Trqcom、電圧センサ150,170によって検出された直流電圧VB,VL、電流センサ160によって検出された直流電流IB、電圧センサ130によって検出されたシステム電圧VHおよび電流センサ240からのモータ電流iv,iw、回転角センサ250からの回転角θ等に基づいて、トルク指令値Trqcomに従ったトルクを交流電動機200が出力するように、コンバータ120およびインバータ140の動作を制御する。すなわち、ECU300は、コンバータ120およびインバータ140を制御するための制御信号PWC,PWIを生成して、コンバータ120およびインバータ140へ出力する。
【0041】
コンバータ120の昇圧動作時には、ECU300は、システム電圧VHをフィードバック制御し、システム電圧VHが電圧指令値に一致するように制御信号PWCを生成する。
【0042】
また、ECU300は、車両が回生制動モードに入ったことを示す回生信号RGEを外部制御装置から受けると、交流電動機200で発電された交流電圧を直流電圧に変換するように制御信号PWIを生成してインバータ140へ出力する。これにより、インバータ140は、交流電動機200で発電された交流電圧を直流電圧に変換してコンバータ120へ供給する。そして、ECU300は、インバータ140から供給された直流電圧を降圧するように制御信号PWCを生成し、コンバータ120へ出力する。これにより、交流電動機200が発電した交流電圧は、直流電圧に変換かつ降圧されて直流電源110に供給される。
【0043】
(制御モードの説明)
ECU300による交流電動機200の制御についてさらに詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態に従うモータ駆動制御システム100における交流電動機200の制御モードを概略的に説明する図である。
【0044】
図2に示すように、本発明の実施の形態に従うモータ駆動制御システム100では、交流電動機200の制御、すなわち、インバータ140における電力変換について、3つの制御モード(正弦波PWM制御,過変調PWM制御,矩形波制御)を切換えて使用する。
【0045】
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相上下アーム素子のオン・オフを、正弦波状の電圧指令と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティが制御される。周知のように、正弦波状の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲に制限される正弦波PWM制御では、交流電動機200への印加電圧(以下、単に「モータ印加電圧」とも称する)の基本波成分をインバータの直流リンク電圧の約0.61倍程度までしか高めることができない。以下、本明細書では、インバータ140の直流リンク電圧(すなわち、システム電圧VH)に対するモータ印加電圧(線間電圧)の基本波成分(実効値)の比を「変調率」と称する。
【0046】
正弦波PWM制御では、正弦波の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲であるため、交流電動機200に印加される線間電圧が正弦波となる。
【0047】
矩形波制御では、上記一定期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流電動機に印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
【0048】
過変調PWM制御は、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きい範囲で上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。特に、電圧指令を本来の正弦波波形から歪ませる振幅補正によって基本波成分を高めることができ、変調率を正弦波PWM制御モードでの最高変調率から0.78の範囲まで高めることができる。過変調PWM制御では、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きいため、交流電動機200に印加される線間電圧は、正弦波ではなく歪んだ電圧となる。
【0049】
交流電動機200では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるため、必要となる駆動電圧(モータ必要電圧)が高くなる。コンバータ120による昇圧電圧、すなわちシステム電圧VHは、このモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。その一方で、コンバータ120による昇圧電圧すなわち、システム電圧VHには限界値(VH最大電圧)が存在する。
【0050】
したがって、交流電動機200の動作状態に応じて、モータ電流のフィードバックによってモータ印加電圧(交流)の振幅および位相を制御するPWM制御モード(正弦波PWM制御または過変調PWM制御)、および、矩形波制御モードのいずれかが選択的に適用される。なお、矩形波制御では、モータ印加電圧の振幅が固定されるため、制御可能なパラメータはモータ印加電圧の位相のみとなる。矩形波制御においては、目標のトルク指令値とトルク実績値との偏差に基づいて、矩形波電圧パルスの位相を直接制御するトルクフィードバック制御を実行する場合、および、PWM制御と同様にモータ電流のフィードバックによって、モータ印加電圧の位相を制御する場合がある。
【0051】
図3には、交流電動機200の動作状態と上述の制御モードとの対応関係が示される。図3を参照して、概略的には、低回転数域A1ではトルク変動を小さくするために正弦波PWM制御が用いられ、中回転数域A2では過変調PWM制御、高回転数域A3では、矩形波制御が適用される。特に、過変調PWM制御および矩形波制御の適用により、交流電動機200の出力向上が実現される。このように、図2に示した制御モードのいずれを用いるかについては、基本的には、実現可能な変調率の範囲内で決定される。
【0052】
(制御装置の構成)
図4は、本実施の形態におけるECU300の制御構成を示す機能ブロック図である。図4で説明されるブロック図に記載された各機能ブロックは、ECU300によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0053】
図4を参照して、ECU300は、PWM制御部310と、矩形波制御部320と、制御モード選択部330とを含む。なお、PWM制御部310は、正弦波PWM制御部312および過変調PWM制御部314を含み、図2および図3で説明したように、変調率に応じて、正弦波PWM制御および過変調PWM制御が選択的に実行される。
【0054】
PWM制御モードおよび矩形波制御モードにおける制御動作の概要について説明する。なお、各制御モードにおける制御の詳細については、当業者によく知られているのでここでは説明しない。
【0055】
まず、PWM制御モードが選択されている場合について説明する。PWM制御部310は、上位の制御装置(図示せず)からのトルク指令値Trqcomと、モータ電流iv,iwおよび回転角θとを受ける。そして、PWM制御部310は、トルク指令値Trqcomから算出されるd軸,q軸の電流指令値と、モータ電流検出値をd軸、q軸に変換した電流検出値とを用いて電流フィードバック制御を行ない、インバータ140に印加する電圧指令値Vd#,Vq#を生成する。生成した電圧指令値Vd#,Vq#は、制御モード選択部330へ出力される。さらに、PWM制御部310は、電圧指令値Vd#,Vq#に基づいて、インバータ140を駆動する制御信号PWIを生成してインバータ140へ出力する。
【0056】
また、PWM制御部310において、過変調PWM制御が選択される場合には、過変調PWM制御部314が選択される。過変調PWM制御部314は、上記の正弦波PWM制御に電圧振幅補正を行なう機能が追加されており、これにより電圧指令値の基本波成分を高めて、正弦波PWM制御よりも大きな出力を発生する。
【0057】
次に、矩形波制御モードが選択されている場合について説明する。矩形波制御部320は、トルク指令値Trqcomと、モータ電流iv,iwおよび回転角θとを受ける。そして、矩形波制御部320は、トルク指令値Trqcomと、モータ電流検出値iv,iwおよび現在の各相の電圧指令値から算出されるトルクとを比較してトルクフィードバック制御を行ない、インバータ140に印加する電圧指令値Vd#,Vq#を生成する。なお、矩形波制御においては、電圧指令の振幅(VR=(Vd#2+Vq#21/2)はシステム電圧VHに対応したものに固定されるので、結果的に電圧指令の位相φvのみが制御されるように電流,電圧指令値が生成されることになる。
【0058】
電流指令値Id#,Iq#の生成については、たとえば、q軸電流値のみをフィードバック制御により設定する一方で、d軸電流については、電圧指令の大きさが所定の大きさとなるように逆算することによって算出することもできる。矩形波制御部320は、このようにして生成した電流指令値Id#,Iq#を、制御モード選択部330へ出力する。
【0059】
このように、矩形波制御モードの適用時には、トルクフィードバック制御により、モータトルク制御を行なうことができる。ただし、PWM制御モードではモータ印加電圧の振幅および位相が操作量となるのに対し、矩形波制御モードではモータ印加電圧の位相のみが操作量となる。このため、矩形波制御モードの適用時には、PWM制御モードの適用時に比較して制御応答性が低下する。
【0060】
制御モード選択部330は、システム電圧VHと、PWM制御部310からの電圧指令値Vd#,Vq#と、矩形波制御部320からの電流指令値Id♯,Iq♯と、モータ電流iv,iwおよび回転角θとを受ける。そして、制御モード選択部330は、システム電圧VHと電圧指令値Vd#,Vq#とから算出される変調率に基づいてPWM制御モードから矩形波制御モードへの切換要否の判定を行なう。また、制御モード選択部330は、電流指令値Id♯,Iq♯から算出されるインバータ140から交流電動機200に供給される交流電流位相(実電流位相)φi#に基づいて、矩形波制御モードからPWM制御モードへの切換要否の判定を行なう。
【0061】
(矩形波制御からPWM制御への切換時の問題点)
次に、矩形波制御からPWM制御への切換時におけるモータ制御の問題点について説明する。特に、交流電動機200が高出力領域から出力低下することによって、制御モードが矩形波制御からPWM制御へと移行する際における、制御安定性上の問題点について説明する。なお、以降の説明においては、理解を容易にするために力行動作の場合を例として説明する。
【0062】
図5に、矩形波制御およびPWM制御における、d−q軸平面上のd軸,q軸電流指令値の変化の様子についての例が示される。図5を参照して、図の横軸および縦軸は、それぞれd軸およびq軸の電流指令値を示す。そして、W10がPWM制御における電流指令ラインを示している。このPWM制御における電流指令ラインは、d−q軸平面上において、同一電流に対してトルクが最大となる電流位相を示す電流ベクトルの軌跡を表したものである。したがって、この電流指令ラインに沿った電流指令によってモータを駆動することで、モータ電流に対して最も効率的にトルクを発生することができる。また、W20は、矩形波制御において、目標トルクを出力するための電圧位相が達成できるように定められた電流指令の軌跡を示すラインである。
【0063】
矩形波制御からPWM制御への切換えにおいては、矩形波制御モードにおいて、出力低下とともに、W20の電流指令ラインに沿って図中の矢印AR10に示す方向に電流指令が変化する。そして、理想的には、W10とW20の交点P1となったときに、矩形波制御からPWM制御に制御モードが切換えられ、その後はW10に沿って電流指令が変化する。
【0064】
なお、出力が増加する場合は、図中の矢印AR10と逆の方向に変化する。すなわち、PWM制御によってW10に沿って電流指令が変化し、交点P1となったときにPWM制御から矩形波制御に制御モードが切換えられる。そして、その後はW20に沿って矩形波制御が実行される。
【0065】
ただし、このような切換えの場合、交点P1近傍では、矩形波制御およびPWM制御の両制御モードの切換えが頻繁に繰返される、いわゆるチャタリングが発生する可能性がある。そのため、実際の制御においては、このチャタリングを防止するために、図6のように、矩形波制御を実行中に、W20に沿って交点P1を少し行き過ぎた動作点P20となったときに、矩形波制御からPWM制御へ制御モードを切換えるようなヒステリシスを付与した手法が採用される場合がある。
【0066】
この、矩形波制御からPWM制御への切換えを行なう動作点P20は、電流指令値の位相φi#についてのしきい値を設定することによって定められる。具体的には、電流指令値が動作点P20となるときの電流位相のしきい値がφth0であるとすると、電流指令値の位相φi#の大きさがしきい値φth0よりも小さくなったことに応答して、制御モードが矩形波制御からPWM制御へ切換えられる。
【0067】
しかしながら、このような切換手法では、図6のP20からP10に電流指令が不連続に変化するため、制御モードの切換え直後の電流偏差が大きくなってしまう場合がある。そして、この電流偏差に対して、PWM制御における電流フィードバックが行なわれることによって過大なトルクが出力される。これによって、トルクショックや振動が発生し、制御安定性が損なわれる可能性がある。特に、出力トルクが大きい場合には、この電流の変動幅が大きくなるのでその影響が顕著になる。
【0068】
(モード切換制御の説明)
そこで、本実施の形態においては、図7に示すように、制御モードがPWM制御へ切換わった後の電流指令値の変動方向を考慮して、矩形波制御からPWM制御へ切換えるためのしきい値φthを変更するモード切換制御を実行する。
【0069】
より具体的には、矩形波制御からPWM制御へ制御モードが切換えられて動作点がP10に移行した後に、矢印AR11に示すような加速方向(出力増加方向)に電流指令値が遷移する場合には、再びPWM制御から矩形波制御へ制御モードが戻されることになる。この場合は、矩形波制御からPWM制御へ、そして、PWM制御から矩形波制御へと制御モードが頻繁に切換わるので、しきい値φthの大きさ小さい値としておくとチャタリングが発生する可能性が高い。そのため、このような場合には、トルクショックの発生よりもチャタリングの防止を優先して、しきい値φthの大きさをより小さく、言い換えれば矩形波制御からPWM制御への切換えが遅くなるようにしきい値φthを設定する。これにょりヒステリシスを大きくできるので、チャタリングの発生を抑制できる。
【0070】
一方、動作点がP10に移行した後に、矢印AR12に示すような減速方向(出力減少方向)に電流指令値が遷移する場合にはPWM制御が引き続き継続されることになる。この場合には、チャタリングの発生する可能性は少ないので、トルクショックおよび振動の発生の抑制を優先し、しきい値φthの大きさをより大きく、言い換えれば、切換えの動作点を曲線W10とW20との交点である点P1に近づけて矩形波制御からPWM制御への切換えが早くなるようにしきい値φthを設定する。
【0071】
このとき、上述のように、矩形波制御における制御パラメータは電圧位相であるので、電流位相の変化では、動作ポイントが加速方向に遷移しているのか、減速方向に遷移しているのかを正しく判断できない。そのため、本実施の形態においては、矩形波制御における電圧位相の変化状態によって、動作ポイントの遷移方向を判定する。
【0072】
図8は、PWM制御および矩形波制御を行なう際の、d−q軸平面上での電圧指令値の変化を示す。図8において、曲線W30はPWM制御における電圧指令値の軌跡を示し、円周上を移動する曲線W31は矩形波制御における電圧指令値の軌跡を示す。そして、車両のアクセルが踏込まれて加速するような場合には、図8中の実線の矢印AR31に示す方向に電圧指令値が変化し、点P30においてPWM制御から矩形波制御へ切換わる。一方、ブレーキが踏まれて減速するような場合は、図8中の破線の矢印AR32に示す方向に電圧指令値が変化し、矩形波制御からPWM制御へ切換わる。
【0073】
このとき、PWM制御においては、電圧指令値の増加(減少)に伴って電圧位相φvも増加(減少)する。一方、矩形波制御においては、電圧指令値の大きさはVHに固定されるので電圧位相φvのみが変化する。そして、加速方向のときには電圧位相φvが増加、すなわち進角方向に変化し、減速方向のときには電圧位相φvが減少、すなわち戻角方向に変化する。
【0074】
したがって、電圧位相φvの変化方向が、図8における矢印AR31の方向、すなわち加速方向に変化している場合には、図9における点P21のように矩形波制御からPWM制御へ切換えるための電流位相のしきい値φthを小さく設定する(φth1<φth0)。一方、電圧位相φvの変化方向が、図8における矢印AR32の方向、すなわち減速方向に変化している場合には、図9における点P22のように電流位相のしきい値φthを大きく設定する(φth2>φth0)。
【0075】
このように、矩形波制御における電圧位相φvの変化方向を考慮して、制御モードを切換えるための電流位相のしきい値φthを変化させることによって、PWM制御への切換後に再び矩形波制御に切換えられる可能性が高い場合にはチャタリング防止を優先させ、PWM制御への切換後にPWM制御が継続する可能性が高い場合にはトルク変動を抑制させることができる。
【0076】
なお、上記の図8は、特定の値のシステム電圧VHである場合の図であり、図1のコンバータ120で調整されるシステム電圧VHが変動すれば、図8における円周の半径が変動してしまう。そうすると、車両の動作ポイントが同じであったとしても電圧位相φvが変化する場合がある。そのため、上記で説明したモード切換制御は、システム電圧VHの時間的変化(ΔVH/Δt)(以下、「電圧指令レート」とも称する。)の大きさ(絶対値)が小さい場合、より好ましくは電圧指令レートがゼロの場合に適用することが望ましい。
【0077】
また、電圧位相φvの変化についても、緩やかに加速または減速するような場合においても、上記のような電流位相のしきい値φthを変化させてしまうと、しきい値φth自体が頻繁に切換わってしまい、かえって制御安定性を阻害してしまうことになりかねない。そのため、電圧位相φvの時間的変化(Δφv/Δt)(以下、「電圧位相レート」とも称する。)の大きさがある程度大きい場合に、当該モード切換制御を適用することが望ましい。
【0078】
図10は、本実施の形態において、ECU300で実行されるモード切換制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。図10および後述する図11に示されるフローチャート中の各ステップについては、ECU300に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0079】
図1および図10を参照して、ECU300は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100により、現在の制御モードがPWM制御モードであるかどうかを判定する。
【0080】
制御モードがPWM制御モードである場合(S100にてYES)は、処理がS110に進められ、ECU300は、PWM制御モードに従う電圧指令値Vd#,Vq#、およびシステム電圧VHに基づいて、たとえば下記(1)式によって変調率FMを演算する。
【0081】
FM=(Vd#2+Vq#21/2/VH …(1)
そして、ECU300は、S120にて、S110で求めた変調率が0.78以上であるかどうかを判定する。
【0082】
変調率が0.78以上のとき(S120にてYES)には、ECU300は、PWM制御モードでは適切な交流電圧を発生することができないと判定し、処理をS170に進めて、矩形波制御モードを選択する。
【0083】
変調率が0.78より小さい場合(S120にてNO)は、処理がS130に進められて、ECU300は、PWM制御モードを継続的に選択する。
【0084】
ECU300は、PWM制御モードが選択されると、S140にて、正弦波PWM制御および過変調PWM制御のいずれを適用するかをさらに判定する。この判定は、変調率FMを所定の基準値(たとえば、正弦波PWM制御の変調率の理論最大値である0.61)と比較することにより実行できる。そして、変調率が基準値以下であるときには、正弦波PWM制御が適用され、変調率が基準値より大きいときには、過変調PWM制御が適用される。
【0085】
一方、現在の制御モードが矩形波制御モードである場合(S100にてNO)は、S150に処理が進められ、ECU300は、図11でより詳細に説明されるように、矩形波制御モードからPWM制御モードへ切換えるための電流位相のしきい値φthを設定する。
【0086】
そして、ECU300は、S160にて、矩形波制御における電流指令値Id#,Iq#の電流位相φi#の絶対値が、S150で設定されたしきい値φthの絶対値より小さいか否かを判定する。
【0087】
電流位相φi#の絶対値がしきい値φthの絶対値より小さい場合(S160にてYES)は、ECU300は、制御モードを矩形波制御モードからPWM制御モードへの切換が必要と判定する。そして、処理がS130に進められて、ECU300は、PWM制御モードを選択する。
【0088】
一方、電流位相φi#の絶対値がしきい値φthの絶対値以上の場合(S160にてNO)は、処理がS170に進められて、ECU300は、矩形波制御モードを継続的に選択する。
【0089】
図11は、図10のステップS150における処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0090】
図1および図11を参照して、図10のS100において、現在の制御モードが矩形波制御であると判定されると、ECU300は、S151にて、電圧指令レート(ΔVH/Δt)および電圧位相レート(Δφv/Δt)を取得する。この電圧指令レートおよび電圧位相レートは、たとえば、前回の制御周期におけるシステム電圧VHおよび電圧位相φvからの変化量としてそれぞれ算出してもよい。あるいは、直近の複数回の制御周期で演算されたそれぞれの値の移動平均としてもよい。
【0091】
ECU300は、S152にて、電圧指令レートの絶対値が予め定められた基準値α(α>0)よりも小さいか否か(|ΔVH/Δt|<α)を判定する。
【0092】
電圧指令レートの絶対値が予め定められた基準値α以上の場合(S152にてNO)は、処理がS157に進められて、ECU300は、電流位相しきい値φthとして、デフォルト値であるφth0を選択する。
【0093】
電圧指令レートの絶対値が予め定められた基準値αより小さい場合(S152にてYES)は、処理がS153に進められて、ECU300は、次に電圧位相レートが所定値β1(β1<0)より小さいか否か、すなわち、動作ポイントがある程度の大きさで減速方向に遷移しているか否かを判定する。
【0094】
電圧位相レートが所定値β1より小さい場合(S153にてYES)は、処理がS155に進められて、ECU300は、トルク変動を抑制するために、電流位相しきい値φthとして、図9における点P1の電流位相との位相差を小さくする(狭める)ようなφth2(φth2>φth0)を選択する。
【0095】
一方、電圧位相レートが所定値β1以上の場合(S153にてNO)は、処理がS154に進められて、ECU300は、電圧位相レートが所定値β2(β2>0)より大きいか否か、すなわち、動作ポイントがある程度の大きさで加速方向に遷移しているか否かを判定する。
【0096】
電圧位相レートが所定値β2より大きい場合(S154にてYES)は、処理がS156に進められて、ECU300は、制御モード切換えのチャタリングを防止するために、電流位相しきい値φthとして、図9における点P1の電流位相との位相差を大きくする(広げる)ようなφth1(φth1<φth0)を選択する。
【0097】
一方、電圧位相レートが所定値β2以下の場合(S154にてNO)は、電圧位相レートはβ1≦Δφv/Δt≦β2であり、ECU300は、定常状態あるいは緩加減速状態であると判定し、処理をS157に進めて、電流位相しきい値φthとして、デフォルト値であるφth0を選択する。
【0098】
このような処理によって電流位相しきい値φthを設定した後、ECU300は、図10のS160に処理を進めて、上述のように矩形波制御からPWM制御へ制御モードを切換えるか否かを判定する。
【0099】
なお、β1およびβ2の大きさ(絶対値)は、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0100】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、モータ駆動制御システムにおいて矩形波制御からPWM制御への制御モードの切換えの際に、制御モードが頻繁に切換わるチャタリングを防止しつつ、一方でチャタリングが発生しにくい状態では制御モード切換時のトルク変動を低減することが可能となる。これにより、矩形波制御からPWM制御への制御モードの切換えにおける制御安定性を向上することができる。
【0101】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
10 車両、105 直流電圧発生部、100 モータ駆動制御システム、110 直流電源、120 コンバータ、130 電圧センサ、140 インバータ、141 U相上下アーム、142 V相上下アーム、143 W相上下アーム、150,170 電圧センサ、160,240 電流センサ、200 交流電動機、210 駆動輪、250 回転角センサ、300 ECU、310 PWM制御部、312 正弦波PWM制御部、314 過変調PWM制御部、320 矩形波制御部、330 制御モード選択部、C1,C2 コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L1 リアクトル、NL1 接地線、PL1,PL2 電力線、Q1〜Q8 スイッチング素子、SR1,SR2 システムリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機を駆動するためのモータ駆動制御システムであって、
前記交流電動機の駆動電圧を制御するインバータと、
前記インバータを制御するための制御装置とを備え、
前記インバータは、前記交流電動機に印加される矩形波電圧の電圧位相を制御することによって前記交流電動機を駆動する矩形波制御モード、および前記交流電動機を動作させるための交流電圧指令と搬送波との比較に基づくパルス幅変調制御を行なうことによって前記交流電動機を駆動するパルス幅変調制御モードにより制御され、
前記制御装置は、前記矩形波制御モードの実行中に、前記交流電動機へ印加される電流位相がしきい値に到達したことに応じて、前記矩形波制御モードから前記パルス幅変調制御モードへの切換えを実行し、
前記制御装置は、前記矩形波制御モードの実行中に、前記交流電動機へ印加される電圧位相の変化に基づいて前記しきい値を変更する、モータ駆動制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電圧位相が加速方向へ変化しているときは、前記電圧位相が変化しないときに比べて、前記矩形波制御モードから前記パルス幅変調制御モードへの切換えが遅くなるように前記しきい値を変更する、請求項1に記載のモータ駆動制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電圧位相が減速方向へ変化しているときは、前記電圧位相が変化しないときに比べて、前記矩形波制御モードから前記パルス幅変調制御モードへの切換えが早くなるように前記しきい値を変更する、請求項1または2に記載のモータ駆動制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電圧位相の時間的変化の大きさが第1の基準値より大きい場合に、前記しきい値を変更する、請求項2または3に記載のモータ駆動制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記交流電動機に印加される電圧指令値の時間的変化の大きさが第2の基準値より小さい場合は、前記しきい値の変更を禁止する、請求項2〜4のいずれかに記載のモータ駆動制御システム。
【請求項6】
前記電圧位相は、前記交流電動機に印加される電圧指令値についての、q軸電圧指令値に対するd軸電圧指令値に基づいて定められる、請求項1に記載のモータ駆動制御システム。
【請求項7】
前記電流位相は、前記交流電動機に流れる電流のq軸電流値に対するd軸電流値に基づいて定められる、請求項1に記載のモータ駆動制御システム。
【請求項8】
蓄電装置と、
前記交流電動機と、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモータ駆動制御システムとを備える、車両。
【請求項9】
インバータにより交流電動機を駆動するモータ駆動制御システムの制御方法であって、
前記交流電動機に印加される矩形波電圧の電圧位相を制御することによって前記交流電動機を駆動する矩形波制御モードを選択するステップと、
前記交流電動機を動作させるための交流電圧指令と搬送波との比較に基づくパルス幅変調制御を行なうことによって前記交流電動機を駆動するパルス幅変調制御モードを選択するステップと、
前記矩形波制御モードの実行中に、前記交流電動機へ印加される電流位相がしきい値に到達したことに応じて、前記矩形波制御モードから前記パルス幅変調制御モードへ切換えるステップと、
前記矩形波制御モードの実行中に、前記交流電動機へ印加される電圧位相の変化に基づいて前記しきい値を変更するステップとを備える、モータ駆動制御システムの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−244804(P2012−244804A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113596(P2011−113596)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】