説明

モータ駆動装置

【課題】 モータ角度検出器に故障が生じても、モータロータの磁極位置に応じた制御が行えて、モータ駆動が行えるモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 車輪駆動用のモータ6につき、モータ角度検出器36の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御をする基本駆動制御部38を備えたモータ駆動装置20に適用する。モータロータの角度の推測をセンサレスで行うセンサレス角度検出手段46と、モータ角度検出器36の故障を判別するセンサ故障判別手段48を設ける。故障と判別された場合に、基本駆動制御部38による制御を、モータ角度検出器36による角度検出値に代えて、センサレス角度検出手段46の出力で行わせるセンサ切替え手段49を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車における車輪駆動用のモータを制御するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車において、モータの効率の良い駆動のために、モータロータの角度を検出する角度検出器を用い、モータロータの磁極位置に応じて制御することが行われている。この制御として、例えばベクトル制御が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−14300号公報
【特許文献2】特開2000−134716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなモータロータの磁極位置に応じた制御をするモータ駆動装置において、モータロータの角度検出器が破損したり、そのケーブルの断線等があった場合、角度検出値が正しく認識できず、モータの駆動が行えなくなる。または、所望のトルクを発生することができなくなる。
各車輪を個別に駆動するモータを備えたインホイールモータ形式等の電気自動車では、走行中にモータ角度検出器の故障が生じると、トルクバランスが崩れ、スリップやスキッドの発生の原因となる。
【0005】
道路上で車両が停止し、そのままモータ駆動が行えなくなると、交通の障害等となるため、ロータの角度検出器やその配線系に故障が生じても、道路脇の安全な場所まで自力で走行したり、あるいは修理工場まで自力で走行できると、故障への対応が行い易い。
【0006】
この発明の目的は、モータ角度検出器に故障が生じても、モータロータの磁極位置に応じた制御が行えて、モータ駆動が行えるモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のモータ駆動装置20は、電気自動車の車輪駆動用のモータ6を、このモータ6に設けられたモータ角度検出器36の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御をする基本駆動制御部38を備えたモータ駆動装置20において、
前記モータロータの角度の推測をセンサレスで行うセンサレス角度検出手段46と、前記モータ角度検出器36の故障を判別するセンサ故障判別手段48と、このセンサ故障判別手段48が故障と判別した場合に、前記基本駆動制御部38による制御を、前記モータ角度検出器36による角度検出値に代えて、前記センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度を用いて行わせるセンサ切替え手段49とを設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、通常では、モータ角度検出器36の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御が前記基本駆動制御部38により行われ、効率の良いモータ駆動が行われる。モータ角度検出器36の故障は、センサ故障判別手段48により監視され、判別される。センサ故障判別手段48による故障の判別は、モータ角度検出器36の配線系を含めて行うようにしても、モータ角度検出器36のみにつき行うようにしても良い。センサ故障判別手段48により故障と判別されると、センサ切替え手段49は、基本駆動制御部38による制御を、モータ角度検出器36による角度検出値に代えて、前記センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度を用いて行わせる。そのため、モータ角度検出器36に故障が生じても、基本駆動制御部38を用いた磁極位置に応じた制御を行うことができる。
そのため、各車輪2を個別に駆動するモータ6を備えたインホイールモータ形式等の電気自動車において、走行中にモータ角度検出器36の故障が生じても、トルクバランスの崩れを回避し、スリップやスキッドの発生を防止することができる。センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度は、モータ角度検出器36による角度検出値に比べて、精度や信頼性が十分でない場合があるが、修理工場等の車両の修理場所や、道路脇の安全な退避場所等への自力走行が可能となる。
【0009】
この発明において、前記センサ故障判別手段48は、一定時間における前記モータ角度検出器36の角度検出値の変化量、またはモータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流Iq,Idの差、またはこれら角度検出値の変化量と、モータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流の差との両方から判断するものであるのが良い。
一定時間におけるモータ角度検出器36の角度検出値の変化量は、ある程度定まった範囲にあるため、変化量が極端に大きくなった場合は、モータ角度検出器36の故障と考えられる。したがって、適宜の閾値等を設定し、上記変化量が閾値を超えた場合に故障と判定しても良い。前記「一定時間」は、適宜設計すれば良い。また、モータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流Iq,Idとの差は、ある程度定まった範囲にあるため、これも、適宜の閾値等を設定し、前記の差が閾値を超えた場合に故障と判定しても良い。この場合、アクセル動作を監視し、アクセル動作によってモータ電流指令Iqref,Idrefが大きく変化する場合を判別してもよい。モータ角度検出器36の変化量による故障判別と、モータ電流指令とモータ電流の差による故障判別とは、いずれを用いても行えるが、両方を用いて判別するようにすると、前記各閾値を小さく設定しても、確実な判別が行えて、早期の故障判別が行える。
【0010】
この発明において、前記センサレス角度検出手段46は、前記基本駆動制御部38でモータが駆動されている間は、常に、モータロータの角度の推測の動作を行い、モータロータの角度の推測値を前記モータ角度検出器36の角度検出値と比較して補正するようにしても良い。
モータ角度検出器36が正常な間に、その角度検出値で、センサレス角度検出手段46の角度の推測値を補正しておくことで、センサレス角度推測46を精度良く行うことができる。この補正は、例えば、推測の元となる電流値等の検出値やモータコイルの抵抗値、インダクタンスといった予め設定したパラメータ値を用いてモータロータ角度を計算する式における係数を補正することなどで行う。上記の「常に…補正する」とは、必ずしも連続して比較、補正を行わなくても良く、定期的に補正を行うようにしても良い。
【0011】
前記センサレス角度検出手段46は、例えば、前記基本駆動制御部38でモータ6が駆動されている間は、常に、モータロータの角度の推測の動作を行う位相推定部46aと、この位相推定部46aの出力する推定値を前記モータ角度検出器36の角度検出値と比較する比較部46bと、この比較結果が最小になるように、モータの各パラメータの調整、もしくは位置推定値にオフセットを付加するための補正量を決定し、その補正値を記憶する補正量記憶・補正部46cとを有するものとする。この記憶した補正値を基に、車輪回転数検出器24または、回転数演算部101から得られる回転数と前記基本駆動制御部38の生成する電流指令のいずれか一方または両方から、前記補正量を決定し補正を行う補正量記憶・補正部46cとを有するものとする。
これら位相推定部46a、比較部46b、および補正量記憶・補正部46cにより、より一層精度の良いセンサレス角度推測を行うことができる。
【0012】
この発明において、前記センサ故障判別手段48で故障と判別された状態で、モータ停止後にモータ6を始動するときに、モータ6の逆起電圧からモータロータの角度を割り出し、その割り出した角度で前記基本駆動制御部による制御を行わせる始動時ロータ角度割出手段102を設けても良い。
前記基本駆動制御部38は、角度検出値に従って磁極位置に応じた制御をするため、角度が不明であるとモータ6を回転させることができない。センサレス角度検出手段46においても、停止後の起動時には用いることができない。そのため、停止した場合、直ぐにはモータ6を起動できないが、2つ以上のモータ6を有する電気自動車では、健在なモータ6を用いて一応の走行が行える。走行させると、センサ故障の生じたモータ6が車輪2の回転につられて回転する。この時のモータ6の逆起電力を検出することで、磁極位置を検出することができる。電気角の1回転で磁極位置を検出できるため、例えば、タイヤ2aが数分の1回転した時点で、逆起電力による角度検出が可能となり、モータ6を駆動させることができる。このため、片輪駆動による直進性の障害が生じるまでにモータ6を駆動させることができる。
【0013】
この発明において、前記モータ6は、各モータ6がそれぞれ一つの車輪2を駆動する電気自動車におけるモータ6であっても良い。この場合に、前記モータ6は、車輪2に近接して取付けられるインホイールモータ装置8を構成するモータ6であっても良い。
個別にモータ駆動される車輪2が複数ある場合、走行中にモータ角度検出器36の故障が生じると、トルクバランスが崩れ、スリップやスキッドの発生の原因となる。そのため、この発明におけるセンサレス角度検出手段46の角度推定値による制御に切り替える効果が、より一層効果的となる。また、複数のモータ6を有する電気自動車の場合、上記のモータ逆起電力を用いる始動時ロータ角度割出手段102の利用が容易となる。
【0014】
前記インホイールモータ装置8は、車輪用軸受4と、前記モータ6と、このモータ6と車輪用軸受4の間に介在した減速機7とを有するものであっても良い。減速機7を介在させるインホイールモータ装置8では、モータ6が高速回転となるため、センサレス角度検出手段46によるモータロータ角度の推測値を用いて制御することが、より効果的となる。
【0015】
前記減速機7はサイクロイド減速機であっても良い。サイクロイド減速機は円滑な動作で高減速比が得られるが、高減速比のため、モータ6がより高速回転となる。そのため、センサレス角度検出手段46によるモータロータ角度の推測値を用いて制御することが、より効果的となる。
【0016】
この発明の電気自動車は、この発明の上記いずれかの構成のモータ駆動装置20を搭載した電気自動車である。この電気自動車によると、この発明のモータ駆動装置20によるセンサレス角度検出手段46のモータロータ角度推測値を用いる制御により、モータ角度検出器36に故障が生じても走行を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のモータ駆動装置は、電気自動車の車輪駆動用のモータを、このモータに設けられたモータ角度検出器の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御をする基本駆動制御部を備えたモータ駆動装置において、前記モータロータの角度の推測をセンサレスで行うセンサレス角度検出手段と、前記モータ角度検出器の故障を判別するセンサ故障判別手段と、このセンサ故障判別手段が故障と判別した場合に、前記基本駆動制御部による制御を、前記モータ角度検出器による角度検出値に代えて、前記センサレス角度検出手段の出力するモータロータ角度を用いて行わせるセンサ切替え手段とを設けたため、モータ角度検出器に故障が生じても、モータロータの磁極位置に応じた制御が行えて、モータ駆動を行うことができる。
【0018】
この発明の電気自動車は、この発明のモータ駆動装置を用いたため、モータ角度検出器に故障が生じても走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るモータ駆動装置を搭載した電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車のインバータ装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同インバータ装置の回路図である。
【図4】同インバータ装置の出力波形の説明図である。
【図5】同モータ駆動装置の概念構成のブロック図である。
【図6】同モータ駆動装置における基本駆動制御部の概念構成のブロック図である。
【図7】同モータ駆動装置のセンサレス角度検出手段使用時の動作状態を示す概念構成のブロック図である。
【図8】同モータ駆動装置におけるモータロータ角度のセンサレス角度検出への切替えの様子を示す説明図である。
【図9】この発明の他の実施形態に係るモータ駆動装置の概念構成のブロック図である。
【図10】同電気自動車のインホイールモータ装置の一例を示す断面である。
【図11】図10のXI−XI線断面図である。
【図12】図11の部分拡大断面図である。
【図13】同電気自動車における回転センサの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、この実施形態のモータ駆動装置を装備した電気自動車の概念構成を示す平面図である。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪とされた4輪の自動車である。前輪となる車輪3は操舵輪とされている。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ装置8を構成している。インホイールモータ装置8は、モータ6が車輪2に近接して設置されており、一部または全体が車輪2内に配置される。各車輪2,3には、電動式等の機械式のブレーキ(図示せず)がそれぞれ設けられている。なお、ここで言う「機械式」とは、回生ブレーキと区別のための用語であり、油圧ブレーキも含まれる。
【0021】
制御系を説明する。自動車全般の統括制御を行う電気制御ユニットであるメインのECU21と、このECU21の指令に従って各走行用のモータ6の制御をそれぞれ行う複数(図示の例では2つ)のインバータ装置22とが、車体1に搭載されている。ECU21とインバータ装置22とで、モータ駆動装置20が構成される。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。なお、ECU21と各インバータ装置22の弱電系とは、互いに共通のコンピュータや共通の基板上の電子回路で構成されていても良い。
【0022】
ECU21は、トルク配分手段48を有していて、トルク配分手段48は、アクセル操作部16の出力するアクセル開度の信号と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵手段15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値として生成し、各インバータ装置22へ出力する。また、トルク配分手段48は、ブレーキ操作部17の出力する減速指令があったときに、モータ6を回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値と、機械式のブレーキ(図示せず)を動作させる制動トルク指令値とに配分する機能を持つ。回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値は、各走行用のモータ6,6に与える加速・減速指令のトルク指令値に反映させる。アクセル操作部16およびブレーキ操作部17は、それぞれアクセルぺダルおよびブレーキペダル等のペダルと、そのペダルを動作量を検出するセンサとでなる。操舵手段15は、ステアリングホイールとその回転角度を検出するセンサとでなる。バッテリ19は、モータ6の駆動、および車両全体の電気系統の電源として用いられる。
【0023】
図2に示すように、インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられた電力変換回路部であるパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントロール部29とで構成される。モータコントロール部29は、このモータコントロール部29が持つインホイールモータ装置8に関する各検出値や制御値等の情報をECU21に出力する機能を有する。
パワー回路部28は、バッテリ19(図1)の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御する手段であるPWMドライバ32とで構成される。
【0024】
図3において、モータ6は、3相の同期モータ、例えばIPM型(埋込磁石型)同期モータ等からなる。インバータ31は、半導体スイッチング素子である複数の駆動素子31aで構成され、モータ6の3相(U,V,W相)の各相の駆動電流をパルス波形で出力する。PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各駆動素子31aにオンオフ指令を与える。上記パルス幅変調は、例えば図4に示すように正弦波駆動する電流出力が得られるように行う。図3において、パワー回路部28の弱電回路部であるPWMドライバ32と前記モータコントロール部29とで、インバータ装置22における弱電回路部分である演算部33が構成される。演算部33は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。インバータ装置22には、この他に、バッテリ19とインバータ31間に並列に介在させた平滑コンデンサによる平滑部33が設けられている。
【0025】
モータ6には、モータロータの角度を検出するモータ角度検出器36が設けられている。また、図2に示すように、車輪用軸受4またはこの車輪用軸受4を支持するナックル(図示せず)等の支持部材に、車輪2の回転を検出する車輪回転数検出器24が設けられている。車輪回転数検出器24は、アンチロックブレーキシステム(図示せず)に用いられるため、ABSセンサと呼ぶ場合がある。
【0026】
図2,図3におけるインバータ装置22のモータコントロール部29は、図5に示す構成とされている。モータコントロール部29は、モータ6に設けられたモータ角度検出器36の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御を行う基本駆動制御部38を有しており、モータコントロール部29はベクトル制御を行う。ベクトル制御は、トルク電流と磁束電流とに分け、各々を独立に制御することで、高速応答および高精度制御を実現する制御方式である。図6は、図5から基本駆動制御部38を抽出して他を省略した図である。
【0027】
図6において、基本駆動制御部38は、電流指令演算部39、トルク電流制御部40、磁束電流制御部41、αβ座標変換部42、2相/3相座標変換部43、検出側の3相/2相座標変換部44、および回転座標変換部45を有する。
【0028】
電流指令演算部39は、同図中に内部構成をブロックで示すように、トルク電流指令部39aおよび磁束電流設定部39bを有する。トルク電流指令部39aは、上位制御手段から与えられたトルク指令値に従い、トルク電流の指令値Iqrefを出力する手段である。上位制御手段は、ECU21であり、図1のようにECU21がトルク配分手段48を有する場合は、トルク配分手段48である。この上位制御手段から与えられるトルク指令は、アクセル開度およびブレーキの制動指令等により演算されるトルク指令値である。磁束電流設定部39bは、磁束電流の定められた指令値Idrefを出力する手段である。磁束電流の指令値Idrefは、モータ6の特性等に応じて適宜設定されるが、通常は「0」とされる。トルク電流は、以下「q軸電流」と称す。また、磁束電流は、以下「d軸電流」と称す。電圧についても、トルク電圧は「q軸電圧」と、磁束電圧は「d軸電圧」と称す。なお、q軸とはモータ回転方向の軸であり、d軸はq軸に直交する方向の軸である。磁束電流は励磁電流とも呼ばれる。
【0029】
トルク電流制御部40は、電流指令演算部39から与えられるq軸電流指令値Iqrefに対して、モータ6の駆動電流を検出する電流検出手段35の検出値から、3相/2相座標変換部44および回転座標変換部45を介して得られるq軸電流検出値Iqが追随するように制御する手段であり、出力としてq軸電圧指令値Vqを出力する。
トルク電流制御部40は、q軸電流検出値Iqを減算する減算部40bと、減算部40bの出力に対して定められた演算処理を行う演算処理部40aとでなる。演算処理部40aは、この例では比例積分処理を行う。
【0030】
磁束電流制御部41は、電流指令演算部39から与えられるd軸電流指令値Idrefに対して、モータ6の駆動電流を検出する電流検出手段35の検出値から、3相/2相座標変換部44および回転座標変換部45を介して得られるd軸電流検出値Idが追随するように制御する手段であり、出力としてd軸電圧指令値Vdを出力する。
磁束電流制御部41aは、d軸電流検出値Idを減算する減算部41bと、減算部41bの出力に対して定められた演算処理を行う演算処理部41aとなる。演算処理部41aは、この例では比例積分処理を行う。
【0031】
前記3相/2相座標変換部44は、モータ6のU相,V相,W相を流れる電流のうち、2つ、または3つの相の電流、例えばU相の電流Iuと、V相の電流Ivの検出値を、静止直交2相座標成分の実電流(α軸上の実電流、およびβ軸上の実電流)の検出値Iα,Iβに変換する手段である。
回転座標変換部45は、モータ角度検出器36で検出されたモータロータ角度θaに基づき、前記静止直交2相座標成分の実電流の検出値Iα,Iβを、q ,d軸上の検出値Iq ,Id に変換する手段である。
【0032】
αβ座標変換部42は、q軸電圧指令値Vq およびd軸電圧指令値Vd を、モータ角度検出器36で検出されたモータロータ角度θ、つまりモータロータ位相に基づき、固定2相座標成分の実電圧の指令値Vα,Vβに変換する手段である。
2相/3相変換部43は、αβ座標変換部42の出力する実電圧の指令値Vα,Vβを、モータ6のU相,V相,W相を制御する3相交流の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する手段である。
【0033】
パワー回路部28は、上記のようにして基本駆動制御部38の2相/3相変換部43から出力される電圧指令値Vu,Vv,Vwを電力変換してモータ駆動電流Iu,Iv,Iwを出力する。
【0034】
この実施形態は、上記構成の基本駆動制御部38を備えたモータ駆動装置20において、図5のように、センサレス角度検出手段46と、センサ故障判別センサ切替部47とを設けたものである。センサレス角度検出手段46は、モータロータの角度の推測をセンサレスで行う手段であり、位相推定部46aと、比較部46bと、補正量記憶・補正値演算部46cとでなる。センサ故障判別センサ切替部47は、モータ角度検出器36の故障を判別するセンサ故障判別手段48と、このセンサ故障判別手段48が故障と判別した場合に、前記基本駆動制御部38による制御を、モータ角度検出器36による角度検出値に代えて、センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度を用いて行わせるセンサ切替え手段49とでなる。
なお、図7は、センサレス角度検出手段46を用いて制御を行う様子を示しており、分かり易くするために、図5から、センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度を用いて制御する場合に使用される各手段を残し、他の手段を省いてある。
【0035】
図5において、センサ故障判別手段48は、例えば、一定時間におけるモータ角度検出器36の角度検出値の変化量から、故障か否かを判断するものとされる。一定時間におけるモータ角度検出器36の角度検出値の変化量は、ある程度定まった範囲にあるため、変化量が極端に大きくなった場合は、モータ角度検出器36の故障と考えられる。したがって、適宜の閾値や範囲を設定し、上記変化量が閾値や範囲を超えた場合に故障と判定しても良い。前記「一定時間」は、適宜設計すれば良い。
センサ故障判別手段48は、この他に、モータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流Iq,Idの差から、異常か否かを判断するものであっても良い。比較するモータ電流指令は、例えば電流指令演算部39から出力されるモータ電流指令Iqref,Idrefである。また、比較するモータ電流は、検出された電流値をモータ電流指令と同じq軸電流およびd軸電流に座標変換した値である。モータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流Iq,Idとの差は、ある程度定まった範囲にあるため、これも、適宜の閾値等を設定し、前記の差が閾値を超えた場合に故障と判定しても良い。この場合、アクセル動作を監視し、アクセル動作によってモータ電流指令Iqref,Idrefが大きく変化する場合を判別してもよい。
センサ故障判別手段48は、さらに、上記角度検出値の変化量と、モータ電流指令Iqref,Idrefとモータ電流Iq,Idの差との両方から判断するものであっても良い。両方を用いて判別するようにすると、前記各閾値を小さく設定しても、確実な故障判別が行えて、早期の故障判別が行える。
【0036】
センサ切替え手段49は、センサ故障判別手段48が故障と判別した場合に、モータ角度検出器36の検出値に代えて、センサレス角度検出手段46の位相推定部46aから出力されるモータロータ角度の推定値を、電流指令演算部39およびαβ座標変換部42に入力する。
【0037】
センサレス角度検出手段46は、基本駆動制御部38でモータが駆動されている間は、常に、モータロータの角度の推測の動作を行い、モータロータの角度の推測値をモータ角度検出器36の角度検出値と比較して補正する。この実施形態では、センサレス角度検出手段46を、位相推定部46aと、比較部46bと、補正量記憶・補正部46とで構成し、補正を行うようにする。
【0038】
位相推定部46aは、例えばモータ等価回路方程式
【数1】

となり、上式から位置推定をおこなう。
ここで、Rは電気子巻線抵抗値、Lはd軸インダクタンス、Lはq軸インダクタンス、Kは誘起電圧定数を示し、R、L、L、Kは既知、Iα、Iβは検出値、Vα、Vβはベクトル制御時の演算値であり位置推定時は既知であるため、位置推定が可能である。
また、d-q座標系のモータ等価回路方程式で演算し、速度を求め、速度を積分することで位置を推定してもよい。位相推定部46aは、基本駆動制御部38でモータ6が駆動されている間は、常にモータロータの角度の推測の動作を行う。
【0039】
比較部46bは、前記位相推定部46aの出力するモータロータ角度の推定値 estθと、モータ角度検出器36の角度検出値θと比較し、その比較結果となる差をerrθとして出力する。
補正量記憶・補正部46cは、比較部46bの出力となる誤差 errθを最小にするように、モータの各パラメータの調整、もしくは直接位置推定値にオフセットを付加する。モータ角度検出器36から得られる回転数と、基本駆動制御部38の生成する電流指令Iqref,Idrefとのいずれか一方または両方を記憶し、この値に対して、モータパラメータの調整値、もしくは位置推定値のオフセット値を記憶する。この記憶した補正値を基に、車輪回転数検出器24(図2)または、回転数演算部101から得られる回転数と、基本駆動制御部38の生成する電流指令Iqref,Idrefとのいずれか一方または両方から、定められた規則に従って補正量を決定し、位相推定部46aの出力するモータロータ角度 estθの補正を行う。具体的には、モータロータ角度の推定を行うために位相推定部46aで記憶しておくモータ電流の検出値Iα,Iβとモータロータの角度の関係、またはモータ電流の検出値Iα,Iβとモータ電圧の指令値Vα,Vβの比較結果とモータロータの角度との関係を補正する。
【0040】
なお、モータコントロール部29には、上記の各手段の他に、位相推定部46aの出力するモータロータ角度の推定値 estθから、モータの回転数を演算して出力する回転数演算部101が設けられている。
回転数は、車輪回転数検出器24の出力、または回転数演算部101の出力によって補正量記憶部46Cの補正量を決定する。特に車輪回転数検出器24が無い場合は、回転数演算部101の演算結果を使用する。センサレスの場合、絶対角度推定で誤差が発生する可能性があるものの、回転数の推定精度は高く、センサレスの回転数演算出力を使用することは問題ない。
【0041】
上記構成のモータ駆動装置20によると、通常では図6に示すように、モータ角度検出器36の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御が基本駆動制御部38により行われ、効率の良いモータ駆動が行われる。モータ角度検出器36の故障は、センサ故障判別手段48により監視され、判別される。センサ故障判別手段48による故障の判別は、モータ角度検出器36の配線系を含めて行うようにしても、モータ角度検出器36のみにつき行うようにしても良い。
【0042】
センサ故障判別手段48により故障と判別されると、センサ切替え手段49は、基本駆動制御部38による制御を、モータ角度検出器36による角度検出値に代えて、図7,図8(A)のようにセンサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度を用いて行わせる。すなわち、センサレス角度検出手段46の位相推定部46aの推定したモータロータ角度を、電流指令演算部39およびαβ座標変換部42に入力する。そのため、モータ角度検出器36に故障が生じても、基本駆動制御部38を用いた磁極位置に応じた制御を行うことができる。
【0043】
そのため、各車輪2を個別に駆動するモータ6を備えたインホイールモータ形式等の電気自動車において、走行中にモータ角度検出器36の故障が生じても、トルクバランスの崩れを回避し、スリップやスキッドの発生を防止することができる。センサレス角度検出手段46の出力するモータロータ角度は、モータ角度検出器36による角度検出値に比べて、精度や信頼性が十分でない場合があるが、修理工場等の車両の修理場所や、道路脇の安全な退避場所等への自力走行が可能となる。
【0044】
前記モータ6は、この実施形態では、減速機7を有するインホイールモータ装置8を構成しているが、減速機7を介在させる場合、モータ6が高速回転となるため、センサレス角度検出手段46によるモータロータ角度の推測値を用いて制御することが、より効果的となる。また、前記減速機7がサイクロイド減速機である場合、円滑な動作で高減速比が得られるが、高減速比のため、モータ6がより高速回転となる。そのため、センサレス角度検出手段46によるモータロータ角度の推測値を用いて制御することが、より効果的となる。
【0045】
センサレス角度検出手段46は、基本駆動制御部38でモータが駆動されている間は、図8(B)に示すように、常に、モータロータの角度の推測の動作を行い、モータロータの角度の推測値を前記モータ角度検出器36の角度検出値と比較して補正する。このように、モータ角度検出器36が正常な間に、その角度検出値で、センサレス角度検出手段46の角度の推測値を補正しておくことで、センサレス角度推測46を精度良く行うことができる。上記の「常に…補正する」とは、必ずしも連続して比較、補正を行わなくても良く、定期的に補正を行うようにしても良い。
【0046】
前記センサレス角度検出手段46は、上記のように、位相推定部46aと、この位相推定部46aの出力する推定値を前記モータ角度検出器36の角度検出値と比較する比較部46bと、補正量記憶・補正部46cとを有する。補正量記憶・補正部46cは、比較部46bの比較結果から誤差 errθを最小にするように、モータの各パラメータの調整、もしくは比較結果に応じた位置推定値のオフセット量を求め、それを記憶し(図8(C))、推定したモータロータの角度を、記憶された補正値を用いて補正し、基本駆動制御部38の駆動に用いる。詳しくは、前記の記憶した補正値を基に、車輪回転数検出器24または、回転数演算部101から得られる回転数と前記基本駆動制御部38の生成する電流指令のいずれか一方または両方から、前記補正量を決定し補正を行う。このため、精度の良いセンサレス角度推測を行うことができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、センサ故障判別手段48により故障と判別され、センサレス角度検出手段46を用いるようにした場合、その旨をECU21に報告する手段(図示せず)を設けることが好ましい。また、ECU21は、モータ角度検出器36が故障してセンサレス角度検出手段46を用いている旨を運転車に知らせる情報を、コンソールの液晶表示装置やランプ(図示せず)等で知らせるようにすることが好ましい。
【0048】
図9は、この発明の他の実施形態におけるモータコントール部29の構成を示す。この実施形態は、図1〜図8に示した第1の実施形態において、始動時ロータ角度割出手段102を設けたものである。始動時ロータ角度割出手段102は、センサ故障判別手段48で故障と判別された状態で、モータ停止後にモータ6を始動するときに、モータ6の逆起電圧からモータロータの角度を割り出し、その割り出した角度で基本駆動制御部38による制御を行わせる手段である。モータ6の逆起電圧は、インバータ31とモータ6間の配線に設けた電圧検出手段103により検出する。始動時ロータ角度割出手段102の割り出したモータロータの角度は、センサレス角度検出手段46の推定した出力およびモータ角度検出器36の検出値に代えて、電流指令演算部39、αβ座標変換部42および回転座標変換部45に入力する。
【0049】
なお、始動時ロータ角度割出手段102の割り出した角度で基本駆動制御部38を制御するのは、始動時の定められた時間またモータ回転角度までとし、それ以降はセンサレス角度検出手段46の推定した出力を用いる。また、ECU21には、センサ故障判別手段48で故障と判別された状態で、走行停止した後であっても、トルク配分手段48(図1)等から、各モータ6のインバータ装置2へトルク指令を与えるようにする。
【0050】
この実施形態の場合、次の利点が得られる。基本駆動制御部38は、角度検出値に従って磁極位置に応じた制御をするため、角度が不明であるとモータ6を始動させることができない。センサレス角度検出手段46も、停止後の起動時には用いることができない。そのため、停止した場合、直ぐにはモータ6を起動できないが、2つ以上のモータ6を有する電気自動車では、健在なモータ6を用いて一応の走行が行える。走行させると、センサ故障の生じたモータ6が車輪2の回転につられて回転する。この時のモータ6の逆起電力を検出することで、磁極位置を検出することができる。電気角の1回転で磁極位置を検出できるため、例えば、タイヤ2aが数分の1回転した時点で、逆起電力による角度検出が可能となり、モータ6を駆動させることができる。この実施形態におけるその他の構成効果、第1の実施形態と同様である。
【0051】
次に、図10〜図13と共に、前記各実施形態におけるインホイールモータ装置8の具体例を示す。このインホイールモータ装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪2のハブとモータ6の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0052】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0053】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0054】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0055】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図12のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0056】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0057】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0058】
図12に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0059】
図10において、モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータである。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0060】
モータステータ73は、軟質磁性体からなるステータコア部77とコイル78とでなる。ステータコア部77は、その外周面がモータハウジング72の内周面に嵌合して、モータハウジング72に保持されている。モータロータ75は、モータステータ73と同心に回転出力軸74に外嵌するロータコア部79と、このロータコア部79に内蔵される複数の永久磁石80とでなる。
【0061】
モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。ここでは、各角度センサ36として、磁気エンコーダまたはレゾルバが用いられる。モータ6の回転制御は上記モータコントロール部29(図2,5,8)により行われる。なお、インホイールモータ装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0062】
図13は、図1,図2の車輪回転数検出器24の一例を示す。この車輪回転数検出器24は、車輪用軸受4における内方部材52の外周に設けられた磁気エンコーダ24aと、この磁気エンコーダ24aに対向して外方部材51に設けられた磁気センサ24bとでなる。磁気エンコーダ24aは、円周方向に磁極N,Sを交互に着磁したリング状の部材である。この例では、回転センサ24は両列の転動体55,55間に配置しているが、車輪用軸受4の端部に設置しても良い。
【0063】
なお、上記各実施形態では、後輪の2輪を個別にモータ駆動する駆動輪とした4輪の電気自動車に適用した場合につき説明したが、この発明のモータ駆動装置を適用する電気自動車は、前輪の2輪をそれぞれ個別にモータ駆動するものや、4輪ともモータ駆動するも、あるいは1台のモータで駆動する電気自動車にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…車体
2,3…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ装置
20…モータ駆動装置
21…ECU
22…インバータ装置
24…車輪回転数検出器
28…パワータ回路部
29…モータコントロール部
31…インバータ
32…PWMドライバ
36…モータ角度検出器
35…電流検出手段
38…基本駆動制御部
39…指令電流演算部
46…センサレス角度検出手段
46a…位相推定部
46b…比較部
46c…補正量記憶・補正部
47…センサ故障判別センサ切替部
48…センサ故障判別手段
49…センサ切替え手段
102…始動時ロータ角度割出手段
103…電圧検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車の車輪駆動用のモータを、このモータに設けられたモータ角度検出器の角度検出値に従い、磁極位置に応じた制御をする基本駆動制御部を備えたモータ駆動装置において、
前記モータロータの角度の推測をセンサレスで行うセンサレス角度検出手段と、前記モータ角度検出器の故障を判別するセンサ故障判別手段と、このセンサ故障判別手段が故障と判別した場合に、前記基本駆動制御部による制御を、前記モータ角度検出器による角度検出値に代えて、前記センサレス角度検出手段の出力するモータロータ角度を用いて行わせるセンサ切替え手段とを設けたことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記センサ故障判別手段は、一定時間における前記モータ角度検出器の角度検出値の変化量、またはモータ電流指令とモータ電流の差、またはこれら角度検出値の変化量と、モータ電流指令とモータ電流の差との両方から判断するモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記センサレス角度検出手段は、前記基本駆動制御部でモータが駆動されている間は、常に、モータロータの角度の推測の動作を行い、モータロータの角度の推測値を前記モータ角度検出器の角度検出値と比較して補正するモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項3において、前記センサレス角度検出手段は、前記基本駆動制御部でモータが駆動されている間は、常に、モータロータの角度の推測の動作を行う位相推定部と、この位相推定部の出力する推定値を前記モータ角度検出器の角度検出値と比較する比較部と、この比較結果となる補正値を記憶し、この記憶した補正値を基に、車輪回転数検出器もしくは回転数演算部から得られる回転数と前記基本駆動制御部の生成する電流指令のいずれか一方または両方から、前記補正量を決定し補正を行う補正量記憶・補正部とを有するモータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記センサ故障判別手段で故障と判別された状態で、モータ停止後にモータを始動するときに、モータの逆起電圧からモータロータの角度を割り出し、その割り出した角度で前記基本駆動制御部による制御を行わせる始動時ロータ角度割出手段を設けたモータ駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記モータは、各モータがそれぞれ一つの車輪を駆動する電気自動車におけるモータであるモータ駆動装置。
【請求項7】
請求項6において、前記モータは、車輪に近接して取付けられるインホイールモータ装置を構成するモータであるモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項7において、前記インホイールモータ装置は、車輪用軸受と、前記モータと、このモータと車輪用軸受の間に介在した減速機とを有するモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項8において、前記減速機はサイクロイド減速機であるモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のモータ駆動装置を搭載した電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−13286(P2013−13286A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145559(P2011−145559)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】