説明

モードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法

【課題】ゴースト応答の判定の確実性を向上し得るモードSを有する二次監視レーダ装置を提供する。
【解決手段】複数のレーダ地上局による重複監視領域をSLO設定領域とし、制御装置16において、まずオールコールによりレーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報をアドレスとともにメモリ17に記憶しておき、SLO設定領域に対しSLO走査と非SLO走査とを実行し、SLO走査と非SLO走査とにより応答信号を返送する目標のアドレスと、メモリ17に登録されロールコールに移行した目標のアドレスとが一致するか否かを判定し、一致する場合に、SLO質問に対し返送された応答信号をゴースト応答として検出するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空管制用レーダ装置に用いられるモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空管制用の二次監視レーダ装置は、例えば特許文献1に示されているように、質問信号を航空機上のトランスポンダ(応答装置)に送信し、このトランスポンダにより復号された質問信号に対応する応答信号を受信することによって航空機の識別を行なうものである。この場合、モノパルス測角方式により航空機の距離及び方位を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−332892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記二次監視レーダ装置を用いるレーダ地上局では、監視領域に進入する航空機に対しオールコールによる質問信号を送出し、この質問に対し返送される応答信号を受信した航空機に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで航空機の追跡を行うようにしている。また、複数のレーダ地上局により重複する重複監視領域に対しては、オールコールによる質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された航空機に対し重複監視領域内でロックアウト無視の指示を出して応答確率を下げる質問を行うロックアウトオーバライドオールコール(以下SLOと称する)スキャンを行うようにしている。
【0005】
しかしながら、SLO領域内に反射物があった場合に、SLO領域内でロックアウトオーバライドした質問が反射物に反射して航空機に届いた場合、ロールコールに移行した航空機であってもオールコール応答を返送してしまうため、本来の位置と違ったゴースト応答を検出してしまうことになる。
【0006】
そこで、この発明の目的は、ゴースト応答の判定の確実性を向上し得るモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係るモードSを有する二次監視レーダ装置は、複数のレーダ地上局のうち1つのレーダ地上局に備えられ、当該複数のレーダ地上局により重複する重複監視領域内に進入する目標対象物に対しオールコールによる質問信号を送出し、この質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置において、オールコールによりレーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報を当該目標対象物を特定するアドレスとともに記憶する記憶手段と、重複する監視領域において、オールコールによる質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対し重複監視領域内でロックアウト無視の指示を出して応答確率を所定値より下げる質問を行うロックアウトオーバライドオールコール走査と、ロックアウトオーバライドオールコールを行わない非ロックアウトオーバライドオールコール走査とを重複監視領域内で実行する走査実行手段と、ロックアウトオーバライドオールコール走査及び非ロックアウトオーバライドオールコール走査で応答信号を返送した目標対象物のアドレスと、記憶手段に記憶されロールコールに移行済みの目標対象物のアドレスが重複した場合に、ロックアウトオーバライドオールコールによる走査で返送された応答信号をゴースト応答として検出するゴースト応答検出手段とを備えるようにしたものである。
【0008】
この構成によれば、重複監視領域をSLO設定領域とし、オールコールによりレーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報を当該目標対象物を特定するアドレスとともにメモリに記憶しておき、SLO設定領域に対しSLO走査と非SLO走査とを実行し、SLO走査と非SLO走査とにより応答信号を返送する目標対象物のアドレスと、メモリに記憶されロールコールに移行した目標対象物のアドレスとが一致するか否かを判定し、一致する場合に、SLO質問に対し返送された応答信号をゴースト応答として検出するようにしている。
【0009】
従って、SLO設定領域内の反射物の反射により生じるゴースト応答を確実に判定することができる。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、ゴースト応答の判定の確実性を向上し得るモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】複数のレーダ地上局により重複する監視領域に航空機が進入する様子を説明するために示す図。
【図2】SLO質問を行う様子を説明するために示す図。
【図3】SLO領域内に反射物が存在する例を説明するために示す図。
【図4】本発明に係る二次監視レーダ装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図5】上記図4に示したメモリの記憶内容の一例を示す図。
【図6】同実施形態における制御装置の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
まず、この発明に係る実施形態を説明するに先立ち、その動作原理について説明する。
【0013】
図1は、複数のレーダ地上局により重複する監視領域に航空機が進入する様子を説明するために示す図である。
【0014】
重複する領域内にいる航空機Tの監視は、1地上局のみが行うものでなく、領域が重複する複数のレーダ地上局の全てが行わなくてはならない。従って、もし、地上局の識別コード(以下IIコードと略す)が同一で複数のレーダ地上局BS1,BS2が存在し、それらの領域が重複しているとすると、一方の地上局BS1により、オールコールから個別質問に移った航空機Tは、そのIIコードのレーダ地上局BS1からロックアウトがかけられるため、他方のレーダ地上局BS2のオールコールには応答せず、重複した領域内ではいつまでも探知されない現象が起きてしまう。
【0015】
そこで、対策として、ロックアウトオーバライドのオールコール質問を行うSLO機能がある。
【0016】
SLO質問とは、図2に示すように、複数地上局の領域が重複するアジマス範囲でロックアウト無視の指示をし、応答確率(PR値)を下げる質問をすることで、領域が重複する他の地上局でロックアウトした航空機に対してもオールコールが受信できるようにしたものである。なお、PR値が0.25である場合、4回の質問信号に対し1回は応答信号を返送し、PR値が0.5である場合、2回の質問信号に対し1回は応答信号を返送する。
【0017】
なお、SLO領域内に反射物Rがあった場合、図3に示すように、SLO領域内でロックアウトオーバライドした質問が反射物Rに反射して航空機Tに届いた場合、ロールコールに移行した航空機Tであった場合でもオールコール応答を返してしまうため、本来の位置と違ったゴースト応答を検出してしまう欠点があった。
【0018】
一般的なゴースト応答の判定方法は、応答信号の遅延時間が長い方をゴースト応答としているが、マルチパスの距離差が小さい場合には判断できない欠点があった。
【0019】
上記の原理に基づき、以下にこの発明の実施形態について説明する。
【0020】
図4は、本発明に係る二次監視レーダ装置の構成を示すブロック図である。図4において、質問信号送信器11から発生されたオールコールによる質問信号は、アンテナ12により所定方向に向けて送出される。航空機Tから返送される応答信号は、アンテナ12で受信され、増幅器13で増幅された後、和・差信号検出器に供給される。この和・差信号検出器14は、各象限の受信信号を加算して和信号Σを生成し、各象限の受信信号を減算することで差信号Δを生成する。
【0021】
上記和・差信号検出器14で得られた和信号Σ及び差信号Δは、目標情報検出器15に供給される。目標情報検出器15は、和信号Σ及び差信号Δから目標方向及び目標とする航空機Tまでの距離を検出するものである。この検出情報は、制御装置16に供給される。
【0022】
制御装置16は、目標情報検出器15により監視領域内に目標とする航空機Tが検出された場合に、メモリ17に目標位置と目標を特定するアドレスとを対応付けて記憶する。メモリ17には、図5に示すデータが記憶される。そして、制御装置16は、メモリ17に記憶された目標に対し個別質問を行うように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御する。
【0023】
ところで、上記制御装置16は、この発明に係わる機能として、SLOスキャン制御部161と、ゴースト応答検出部162とを備えている。SLOスキャン制御部161は、SLOスキャンと、非SLOスキャンとを複数のレーダ地上局による重複監視領域内で実行するように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御する。ゴースト応答検出部162は、SLOスキャン及び非SLOスキャンで応答信号を返送した航空機のアドレスと、メモリ17に記憶されロールコールに移行済みの目標のアドレスが重複した場合に、SLOスキャンで返送された応答信号をゴースト応答として検出し、メモリ17中に2重アドレス航空機としてフラグを立てて登録する。なお、制御装置16は、フラグが立てられた航空機については、個別質問をしないようにする。
【0024】
次に、上記構成における動作について説明する。
図6は、ゴースト応答を検出する際の制御装置16の処理手順を示すフローチャートである。まず、制御装置16は、質問信号送信器11及びアンテナ12を制御して、オールコール質問によるスキャンを自局の監視領域内で実行する(ステップST6a)。そして、スキャン実行中に応答信号を返送した目標位置と目標を特定するアドレス(ab)とを対応付けてメモリ17に登録する(ステップST6b)。
【0025】
続いて、制御装置16は、メモリ17に登録された各航空機に対し個別質問を行うように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御するとともに、複数のレーダ地上局による重複監視領域内つまりSLO設定領域内でSLOスキャンと非SLOスキャン(通常質問)とを実行し(ステップST6c)、応答信号が返送されるか否かの判断を行う(ステップST6d)。なお、SLOスキャン及び非SLOスキャンは、同時に実行されてもよく、予め設定された順序で実行するようにしてもよい。
【0026】
ここで、応答信号が返送された場合に(Yes)、制御装置16は応答信号を返送した目標のアドレスとメモリ17に登録され既にロールコールに移行ずみの目標のアドレスとが一致するか否かの判断を行う(ステップST6e)。
【0027】
ここで一致した場合(Yes)、制御装置16は2重アドレス航空機としてメモリ17に登録する。2重アドレス航空機において応答信号の遅延時間が長い方をゴースト応答の候補とするが、マルチパスの距離差が閾値以下であった場合、SLO質問に対し応答があったほうをゴースト応答と特定する(ステップST6f)。そして、制御装置16は、ゴースト応答に対して、ロールコール質問から除外する(ステップST6g)。
【0028】
なお、上記ステップST6dにおいて応答がなかった場合(No)や、上記ステップST6eにおいて一致しなかった場合には(No)、制御装置16は上記ステップST6cの処理に移行する。
【0029】
以上のように上記実施形態では、複数のレーダ地上局による重複監視領域をSLO設定領域とし、制御装置16において、まずオールコールによりレーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報をアドレスとともにメモリ17に記憶しておき、SLO設定領域に対しSLO走査と非SLO走査とを実行し、SLO走査と非SLO走査とにより応答信号を返送する目標のアドレスと、メモリ17に登録されロールコールに移行した目標のアドレスとが一致するか否かを判定し、一致する場合に、SLO質問に対し返送された応答信号をゴースト応答として検出するようにしている。
【0030】
従って、SLO設定領域内の反射物Rの反射により生じるゴースト応答を確実に判定することができる。
【0031】
なお、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0032】
11…質問信号送信器、12…アンテナ、13…増幅器、14…和・差信号検出器、15…目標情報検出器、16…制御装置、17…メモリ、161…SLOスキャン制御部、162…ゴースト応答検出部、T…航空機、R…反射物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーダ地上局のうち1つのレーダ地上局に備えられ、当該複数のレーダ地上局により重複する重複監視領域内に進入する目標対象物に対しオールコールによる質問信号を送出し、この質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置において、
前記オールコールにより前記レーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報を当該目標対象物を特定するアドレスとともに記憶する記憶手段と、
オールコールによる質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対し前記ロックアウト無視の指示を出して応答確率を所定値より下げる質問を行うロックアウトオーバライドオールコール走査と、ロックアウトオーバライドオールコールを行わない非ロックアウトオーバライドオールコール走査とを前記重複監視領域内で実行する走査実行手段と、
前記ロックアウトオーバライドオールコール走査及び非ロックアウトオーバライドオールコール走査で応答信号を返送した目標対象物のアドレスと、前記記憶手段に記憶されロールコールに移行済みの目標対象物のアドレスが重複した場合に、前記ロックアウトオーバライドオールコールによる走査で返送された応答信号をゴースト応答として検出するゴースト応答検出手段とを具備したことを特徴とするモードSを有する二次監視レーダ装置。
【請求項2】
前記走査実行手段は、前記ロックアウトオーバライドオールコール走査と非ロックアウトオーバライドオールコール走査とを同時、または予め設定された順序で実行することを特徴とする請求項1記載のモードSを有する二次監視レーダ装置。
【請求項3】
複数のレーダ地上局のうち1つのレーダ地上局に備えられ、当該複数のレーダ地上局により重複する重複監視領域内に進入する目標対象物に対しオールコールによる質問信号を送出し、この質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置で使用される制御方法において、
前記オールコールにより前記レーダ地上局がカバーする監視領域を走査して得られた目標情報を当該目標対象物を特定するアドレスとともにメモリに記憶し、
オールコールによる質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対し前記ロックアウト無視の指示を出して応答確率を所定値より下げる質問を行うロックアウトオーバライドオールコール走査と、ロックアウトオーバライドオールコールを行わない非ロックアウトオーバライドオールコール走査とを前記重複監視領域内で実行し、
前記ロックアウトオーバライドオールコール走査及び非ロックアウトオーバライドオールコール走査で応答信号を返送した目標対象物のアドレスと、前記メモリに記憶されロールコールに移行済みの目標対象物のアドレスが重複した場合に、前記ロックアウトオーバライドオールコールによる走査で返送された応答信号をゴースト応答として検出するようにしたことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−27631(P2011−27631A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175551(P2009−175551)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】