説明

ヤーン

【課題】グランドパッキン用として好適な膨張黒鉛とPTFEとを用いて成るヤーンが、コア材である膨張黒鉛が露出することがなく、かつ、簡便に作成することが可能なものに改良して提供する。
【解決手段】互いに長手方向に位置の異なる複数の短冊状膨張黒鉛1とPTFEフィルム2とが互いに長手方向が揃えられる状態において、複数の短冊状膨張黒鉛1をPTFEフィルム2で包んで成る基材3が加撚されることで形成されるヤーンY。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプやバルブ等の流体機器のシール部品として使用されるグランドパッキンに好適に用いられるヤーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、バルブ等の流体機器の軸封部などに用いるグランドパッキンや、それに用いるヤーン(編み糸)に関する従来技術としては、従来から膨張黒鉛を用いたものが知られている。そして、特許文献1や特許文献2においては、膨張黒鉛に加えてPTFE(ポリ四フッ化エチレン)も用いて成るものが開示されている。
【0003】
つまり、膨張黒鉛本来の高い圧縮復元性及びなじみ性を維持しつつ、引張り強さ及び靭性の高いヤーンを形成し、それによってパッキンとして高い封止特性を発揮可能となることを目指して創作されたものである。しかしながら、それら前記特許文献1,2のものでは、次のような問題があった。
【0004】
即ち、コアとなる膨張黒鉛又は高強度材料の回りにPTFE等のシートを巻回することによって成るもの、或いは膨張黒鉛テープの表面にPTFEをラミネートすることによって成るものであるので、コア材料(膨張黒鉛)が露出し易い。また、シートを螺旋状に巻き付けて行くものであるから、製作するに比較的多くの時間が掛る不利もあった。
【0005】
要約すると、巻回(螺旋巻き)製法によって成るヤーンは、コア材の回りにPTFE等のシートを巻付けているから、コア材料が露出し易い傾向があるとともに多くの製作時間を要する。そして、ラミネート法によって成るヤーンでは、シートの両端部にコア材が露出する問題が残る。
【特許文献1】特開2000−320681号公報
【特許文献2】実用新案登録第2600887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グランドパッキン用として好適な膨張黒鉛とPTFEとを用いて成るヤーンが、コア材である膨張黒鉛が露出することがなく、かつ、簡便に作成することが可能なものに改良して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、ヤーンにおいて、複数の短冊状膨張黒鉛1とPTFEフィルム2とが互いに長手方向が揃えられる状態において、複数の前記短冊状膨張黒鉛1を前記PTFEフィルム2で包んで成る基材3が加撚されることで形成されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のヤーンにおいて、複数の前記短冊状膨張黒鉛1の長手方向での相対位置が互いに異なるように設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のヤーンにおいて、前記短冊状膨張黒鉛1と前記PTFEフィルム2とが又は/及び前記PTFEフィルム2の重ね合わさり部分5,6どうしが接着されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーンにおいて、前記短冊状膨張黒鉛の外部に補強線が配備されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載のヤーンにおいて、前記PTFEフィルム2の重量割合が5〜30%に設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、短冊状膨張黒鉛を長手方向に引き揃えたPTFEフィルムで包み込む構造のため、膨張黒鉛の弾性を維持しつつ、膨張黒鉛の露出が生じない。そして、PTFEフィルムによる複数の短冊状膨張黒鉛の被覆構造として、従来のような螺旋状巻き付けではなく、互いの長手方向を合せて単純に巻いて包み込むようにしたので、被覆構造が単純化されて製作が容易化されるとともに、PTFEフィルムの必要量の低減による低コスト化も可能となる。その結果、膨張黒鉛とPTFEとを用いて成るヤーンを、コア材である膨張黒鉛が露出することがなく、かつ、簡便に作成することが可能なものに改良して提供することができる。この場合、短冊状膨張黒鉛を、補強材やバインダーを含まないものとすれば、高温域での体積減少を従来品に比べて抑制可能となる利点がある。
【0013】
請求項2の発明によれば、複数の短冊状膨張黒鉛は互いの長手方向位置が異なるように配置されているから、例えば、互いの長手方向が一致して膨張黒鉛の途切れる箇所が集中するような構成に比べて、応力集中が起き難く、従って機械的強度が良好で、かつ、均一化されるという利点が追加される。
【0014】
請求項3の発明によれば、接着によって基材としての強度向上、或いはPTFEフィルムの重ね合せ部分が開いて内部の短冊状膨張黒鉛が露出するおそれを皆無とすることが可能であり、より安定性や信頼性に優れる利点も有するヤーンを提供することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、PTFEフィルムと短冊状膨張黒鉛との互いの長手方向が揃っているので、短冊状膨張黒鉛の強度向上のためにその長手方向に合致される状態で外部配備される補強線を、容易にPTFEフィルムで包み込むことが可能となる利点がある。
【0016】
請求項5の発明によれば、ヤーンを用いて製品(グランドパッキン等)に形成した場合における特性、即ちシール特性に優れるものとなるヤーンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明によるヤーンの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は実施例1によるヤーンとその作り方を示す斜視図、図2は図1のヤーンの断面図、図3は実施例2によるヤーンとその作り方を示す斜視図、図4は実施例1,2及び従来例のヤーンにおける温度と質量減量率との関係を示す図表、図5は螺旋巻き構造を持つ従来のヤーンを示す斜視図である。
【0018】
〔実施例1〕
実施例1によるヤーンYは、図1,図2に示すように、複数の短冊状膨張黒鉛1とPTFEフィルム2とが互いに長手方向が揃えられる状態において、複数の短冊状膨張黒鉛1をPTFEフィルム2で包んで成る基材3が加撚されることで形成される。
【0019】
コア材である短冊状膨張黒鉛1は、膨張黒鉛シートを切断して形成されるものであって、一例として、幅1.0mm、厚み0.38mm、長さ200mmのものが使用される。この材料である膨張黒鉛としては、有機繊維や無機繊維等の所謂補強材が含まれていないものが用いられている。それにより、高温域(特に、200℃以上)での使用における体積減少(質量減少)を従来に比べて少なく、或いは殆ど生じないようにできる利点がある。
【0020】
PTFEフィルム2は、例えば、図1に示すように、ロール状に巻回されているフィルムロール2Rから巻き解されての長尺状のもの、例えば幅12mm、厚み0.08mmのものとして用いられる。長手方向に引き出されたPTFEフィルム2は、その一端2aが他端2bの内側(又は外側)となる状態に巻くように(海苔巻き寿司のように)折り曲げ、ロール状フィルム2Lに形成する。
【0021】
そのロール状フィルム2L形成の際に、言わば膨張黒鉛シートの切断小片多数である短冊状膨張黒鉛1の多数(複数の一例)が、それらの長手方向での相対位置が互いに異なる状態でロール状フィルム2Lの内側に位置するように配されている。つまり、図1等に示すように、隣合う短冊状膨張黒鉛1,1における長手方向上手側端1aや長手方向下手側端1bの位置が、PTFEフィルム2の長手方向に関して異なるように設定されている。従って、ロール状フィルム2Lに形成されたときには、図2に示すように、ロール状フィルム2Lの内側には多数の短冊状膨張黒鉛1が覆って包まれる状態の基材3が作成される。
【0022】
基材3は、図2に示すように、内外の重なり代5,6を持つように丸められた断面形状を有するPTFEフィルム2の内部に多数の短冊状膨張黒鉛1が充填されて成るもの、即ち、短冊状膨張黒鉛1が露出されないように、全体として円形断面形状を呈する状態に形成されいる。そして、基材3が矢印イ方向に捻られる(加撚される)ことでヤーンYに形成される。実施例1によるヤーンYにおけるPTFEフィルム2の重量割合(単位長さ当りのヤーンYの重量に対するPTFEフィルム2の重量割合)は5〜30%の範囲内であった。
【0023】
尚、短冊状膨張黒鉛1とPTFEフィルム2の内周面とが接着剤を用いる等して接着されるようにしても良いし、PTFEフィルム2の、即ちロール状フィルム2Lの重ね合わさり部分5,6どうしが接着されているようにしても良い。また、それら双方共に接着されている構成でも良い。
【0024】
〔実施例2〕
実施例2によるヤーンYは、図3に示すように、短冊状膨張黒鉛1の外部に補強線が配備されるものである。即ち、多数の短冊状膨張黒鉛1と共にステンレス線4(補強線の一例)を、ステンレス線(例:線径0.1mm)巻きロール4Rから巻き解してPTFEフィルム2で包み込んで成るものである。つまり、実施例1によるヤーンYにおける短冊状膨張黒鉛1に外補強が施された状態のものであり、より機械的特性に優れるヤーンYが実現される。
【0025】
〔加熱テスト〕
実施例1,2によるそれぞれのヤーン、及び、図5に示す螺旋巻き構造を持つ従来のヤーンY(内装される補強線14の複数を有して内補強される膨張黒鉛シート材11が加撚されて成る基材13を、テープロール12Rから巻き解されてのPTFEテープ12で螺旋巻きすることで包んで成るヤーンy)の三者に対して、加熱とそれによる質量減量率との関係を求めたもの、即ち、「加熱−質量減量率の表」(加熱と質量減量率との関係図表)を図4に示す。
【0026】
図4の表から、従来品に比べて本発明によるヤーンYでは、各温度域において従来品より質量減量率が低く、優れた温度特性を有していることが理解できる。尚、実施例1及び2によるヤーンYにおいては、所定位置でのPTFEフィルム2に内包される短冊状膨張黒鉛1の数は7個のものを使用した。
【0027】
〔グランドパッキン〕
参考に記すが、グランドパッキンは、図示は省略するが、上述(実施例1や2)のヤーンYの複数本(例:8本)を芯材の周りに(芯材が無くても良い)集束してひねり加工又は編組(8打角編等)して紐状に構成されたものであり、これを連続して丸めて圧縮成形することにより、断面が矩形で全体形状がドーナツ型のリング形のグランドパッキンとすることができる。例えば、グランドパッキンは、回転軸の軸方向に複数個並ぶ状態でパッキンボックスに装備され、かつ、パッキン蓋によって軸方向に押圧されることにより、回転軸の外周面に対してシール作用するように用いられる。
【0028】
本発明によるヤーンYによれば次の1.〜6.のような作用や効果を得ることができる。1.短冊状膨張黒鉛1は、有機繊維や無機繊維等の補強材或いはバインダーを含まないものが使用されているので、高温域における質量減少(体積減少)を少なくすることが可能になる。2.短冊状膨張黒鉛1を長手方向に引き揃えたPTFEフィルム2で包み込む構造のため、膨張黒鉛の弾性を維持しつつ、膨張黒鉛の露出が生じない。3.PTFEフィルム2と短冊状膨張黒鉛1との互いの長手方向が揃っているので、短冊状膨張黒鉛1の長手方向に合致される状態で強度向上のために内包される金属線や炭素繊維等の補強線を容易にPTFEフィルム2で同時に包み込むことが可能になる。
【0029】
4.PTFEフィルム2を表面に配置し、コア材料である短冊状膨張黒鉛1の露出が無くなるので、耐食性と摺動特性の向上を図ることが可能になる。5.PTFEフィルム2による短冊状膨張黒鉛1の被覆構造として、従来のような螺旋状巻き付けではなく、互いの長手方向を合せて単純に巻いて包み込むようにしたので、PTFEフィルム2の必要量の低減が可能になり、高温での安定性を得ながらも低コスト化が図れる。6.PTFEフィルム2による短冊状膨張黒鉛1の被覆構造が、互いの長手方向を合せて単純に巻いて包み込むものであるから、PTFEフィルム2自身の引張強度が利用できてヤーンYとしての強度向上が図れる。
【0030】
〔別実施例〕
PTFEフィルム2は、多孔質なものや充填材入りのものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1によるヤーン及びその製造方法を示す斜視図
【図2】図1のa−a線断面図
【図3】実施例2によるヤーン及びその製造方法を示す斜視図
【図4】加熱と質量減量率との関係を示す図表
【図5】螺旋巻き構造を有する従来のヤーンの例を示す斜視図
【符号の説明】
【0032】
1 短冊状膨張黒鉛
2 PTFEフィルム
3 基材
5,6 重ね合わさり部分
Y ヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の短冊状膨張黒鉛とPTFEフィルムとが互いに長手方向が揃えられる状態において、複数の前記短冊状膨張黒鉛を前記PTFEフィルムで包んで成る基材が加撚されることで形成されるヤーン。
【請求項2】
複数の前記短冊状膨張黒鉛の長手方向での相対位置が互いに異なるように設定されている請求項1に記載のヤーン。
【請求項3】
前記短冊状膨張黒鉛と前記PTFEフィルムとが又は/及び前記PTFEフィルムの重ね合わさり部分どうしが接着されている請求項1又は2に記載のヤーン。
【請求項4】
前記短冊状膨張黒鉛の外部に補強線が配備されている請求項1〜3の何れか一項に記載のヤーン。
【請求項5】
前記PTFEフィルムの重量割合が5〜30%に設定されている請求項1〜4の何れか一項に記載のヤーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−65758(P2010−65758A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232046(P2008−232046)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】