説明

ヨウ素フィルタのリーク試験方法及びリーク試験装置

【課題】破過時間が長く、かつ放射性ヨウ素の捕集容量を減少させることなく放射性ヨウ素のリーク率を精度良く容易に試験することができるヨウ素フィルタのリーク試験方法及びリーク試験装置を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10は、放射性ヨウ素を含有する排ガス11が送給されるダクト12に設けたチャンバ13内に設けられ、排ガス11中に含まれる放射性ヨウ素を吸着するヨウ素吸着材24を含むヨウ素フィルタ20を備えたヨウ素吸着部14と、ダクト12内に塩素を含まないフッ素含有試薬30を供給するフッ素含有試薬供給部15と、ヨウ素フィルタ20の上流側に設けられ、ヨウ素フィルタ20の上流側及び下流側におけるフッ素含有試薬30の濃度を測定する第1のフッ素含有試薬濃度測定部16及び第2のフッ素含有試薬濃度測定部17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設等から発生する排ガスに含まれる放射性ヨウ素を除去する換気空調設備またはオフガス処理設備に用いられているヨウ素フィルタのリーク試験方法及びリーク試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から放射能が放出されることを防止するため、原子力施設には換気空調設備を設け、ガス中に含まれる放射性ヨウ素を除去している。この換気空調設備のチャンバ等にはヨウ素フィルタが設けられ、ヨウ素フィルタはケーシング内に複数段で収容されてチャンバ等に設置されている。従来よりヨウ素フィルタは放射性ヨウ素の除去効率の高い活性炭フィルタなどが用いられている。
【0003】
一般に、このようなヨウ素フィルタでは、ヨウ素フィルタに充填される活性炭の放射性ヨウ素の除去効率を求めると共に、換気空調設備のチャンバなどに取り付けたヨウ素フィルタとガスケットとの間に発生するおそれのある微小の隙間からのリークの有無を確認するためにリーク率が測定される。
【0004】
ヨウ素フィルタとガスケットとの間に微小の隙間が発生している場合、ヨウ素フィルタの入口側から入った気体の一部は、ヨウ素フィルタを通過せずこの微小の隙間を通過してヨウ素フィルタの下流側に抜ける。この隙間を通過する過程ではいかなる気体も捕集されないため、隙間を通過してヨウ素フィルタの下流側に抜ける量は、物質の種類によらず隙間の大きさに依存することになる。
【0005】
このヨウ素フィルタのリークを試験する方法として、フレオン−112(フロンR−112)をヨウ素フィルタに導入し、ヨウ素フィルタの入口側および出口側でのフロンR−112の濃度を電子捕獲試験器付ガスクロマトグラフ等で試験する方法や、非放射性のヨウ化メチルを導入し上記と同様の方法で試験する方法がある。その他、重水蒸気をヨウ素フィルタに導入してリークを検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−172548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなフレオン−112を用いたリーク試験法の場合、オゾン層破壊の観点からフレオン−112が製造中止であることから、今後将来に渡ってヨウ素フィルタのリーク試験用に用いることができない、という問題がある。
【0008】
また、上記のようなヨウ化メチルを用いたリーク試験法の場合、ヨウ素フィルタに用いられる活性炭は放射性ヨウ素化合物(例えば、I2、CH3I)の除去を目的として使用されるが、同時にヨウ素フィルタに流れ込む非放射性のヨウ化メチルも非可逆的に捕集される。そのため、ヨウ素フィルタの捕集容量が減少する、という問題がある。
【0009】
更に、重水蒸気を用いたリーク試験法の場合、空気中の湿分が高いと重水蒸気が活性炭に吸着されずリークするため正確なリーク試験が困難になる、という問題がある。
【0010】
このため、破過時間を長く維持することができると共に、放射性ヨウ素の捕集容量を減少させることなく放射性ヨウ素のリーク率を精度よく容易に試験することができるヨウ素フィルタのリーク試験方法が切望されている。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑み、破過時間が長く、かつ放射性ヨウ素の捕集容量を減少させることなく放射性ヨウ素のリーク率を精度良く容易に試験することができるヨウ素フィルタのリーク試験方法及びリーク試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、原子力施設から排出される放射性ヨウ素を含む被処理ガスが送給されるダクト又はチャンバ内に前記被処理ガスに含まれる放射性ヨウ素をヨウ素吸着材により除去するヨウ素フィルタのリークを検知するヨウ素フィルタのリーク試験方法であり、前記ヨウ素フィルタより上流側に塩素を含まないフッ素含有試薬を供給し、前記ヨウ素フィルタの上流側および下流側における前記フッ素含有試薬の濃度を測定し、前記ヨウ素フィルタを通過するフッ素含有試薬のリーク率を求めることを特徴とするヨウ素フィルタのリーク試験方法である。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記フッ素含有試薬として、フッ素および炭素を含み、水素と酸素と窒素との少なくとも一つ以上を更に含むと共に、塩素を含まない化合物を用いるヨウ素フィルタのリーク試験方法である。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記フッ素含有試薬は、その大気圧下における沸点が70℃以上であるヨウ素フィルタのリーク試験方法である。
【0015】
第4の発明は、放射性ヨウ素を含有する被処理ガスが送給されるダクト又はチャンバ内に設けられ、前記被処理ガスに含まれる放射性ヨウ素を吸着するヨウ素吸着材を含むヨウ素フィルタと、前記ダクト又はチャンバ内に設けられ、前記ダクト又はチャンバ内に塩素を含まないフッ素含有試薬を供給するフッ素含有試薬供給部と、前記ヨウ素フィルタの上流側および下流側に設けられ、前記フッ素含有試薬の濃度を測定するフッ素含有試薬濃度測定部と、を含むことを特徴とするヨウ素フィルタのリーク試験装置である。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、前記フッ素含有試薬は、フッ素および炭素を含み、水素と酸素と窒素との少なくとも一つ以上を更に含むと共に、塩素を含まない化合物であるヨウ素フィルタのリーク試験装置である。
【0017】
第6の発明は、第4又は5の発明において、前記フッ素含有試薬は、その大気圧下における沸点が70℃以上であるヨウ素フィルタのリーク試験装置である。
【0018】
第7の発明は、第4乃至6の何れか一つの発明において、前記被処理ガスが、原子力施設から排出される排ガスであるヨウ素フィルタのリーク試験装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、破過時間を長く維持することができると共に、かつ放射性ヨウ素の捕集容量を減少させることなくヨウ素フィルタのリークの有無を簡単に検出することができる。本発明は、従来のフレオン−112を用いたリーク試験法と同様の試験方法を用いることができるため、ヨウ素吸着材が破過しているかヨウ素フィルタのリークかの判別が容易となり、高い精度でヨウ素フィルタのリークの有無の試験結果を得ることができる。また、本発明は、ヨウ化メチルを用いたリーク試験方法に比べ、ヨウ素フィルタの捕集容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置の構成を示す概略図である。
【図2】図2は、ヨウ素フィルタを排ガスの流れ方向から見たときの正面図である。
【図3】図3は、相対湿度が60%程度の時の経過時間と破過率との関係を示す概略図である。
【図4】図4は、相対湿度が80%程度の時の経過時間と破過率との関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
本発明による実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10は、放射性ヨウ素を含有する排ガス(被処理ガス)11が送給されるダクト12に設けたチャンバ(容器)13内に設けられる。本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10は、ヨウ素吸着部14と、フッ素含有試薬供給部15と、第1のフッ素含有試薬濃度測定部16と、第2のフッ素含有試薬濃度測定部17とを有する。
【0023】
ヨウ素吸着部14は、3つのヨウ素フィルタ20を含んで構成されている。ヨウ素フィルタ20は、チャンバ13内に設けられたガスケット21の内部に並列して設けられている。ヨウ素フィルタ20は、ガス導入孔22を有する一対のガス導入部23と、排ガス11中に含まれる放射性ヨウ素を吸着するヨウ素吸着材24を収容する一対のフィルタ本体25とからなる。フィルタ本体25には複数の孔が設けられ、フィルタ本体25の内側と外側とを気体が通過可能に構成されている。図2は、ヨウ素フィルタ20を排ガス11の流れ方向から見たときの正面図である。図2に示すように、一対のガス導入部23は、一対の連結部23aにより連結されている。また、一対のフィルタ本体25のガス導入部23とは他端側には後板26が設けられている。また、複数のヨウ素フィルタ20を試験することができるように、ヨウ素吸着部14はチャンバ13から着脱可能にする。
【0024】
排ガス11は、原子力施設から排出される排ガスであり、排ガス11はダクト12を介してチャンバ13内に送給され、ガス導入孔22を通過してフィルタ本体25の内部に侵入し、排ガス11中の放射性ヨウ素がヨウ素吸着材24に吸着された後、フィルタ本体25を通過してヨウ素フィルタ20の後流側に抜ける。ヨウ素吸着部14を通過した排ガス11は、排ガス11中の放射性ヨウ素の濃度を被曝評価上問題のない放射能濃度以下を満たした状態で系外に排出される。
【0025】
ヨウ素吸着材24は、放射性ヨウ素の吸着が可能な材料に成型され、ヨウ素フィルタ20内に充填されている。排ガス11は、ヨウ素吸着材24同士の隙間を通ってヨウ素フィルタ20を通過する。ヨウ素吸着材24として用いられる材料は、排ガス11中の放射性ヨウ素を吸着できるものであればよく、例えば、活性炭を担体としたヨウ素添着活性炭やトリエチレンジアミン(TEDA)添着活性炭、活性炭、銀添着活性炭、または天然ゼオライトあるいは合成ゼオライトを担体とした銀ゼオライト、銀モルデナイト等、またはその他の吸着材を担体として銀を添着した銀シリカゲル、銀アルミナ等などが挙げられる。ヨウ素吸着材24の形状は、ペレット、ブリケット、顆粒状、繊維状、ブランケット状あるいはハニカム状としたものなどが挙げられる。
【0026】
本実施形態では、ヨウ素フィルタ20は、チャンバ13内に設けるようにしているが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、チャンバ13内に1、2つ又は4つ以上設けるようにしてもよく、チャンバ13の内径やヨウ素フィルタ20の設置面積やガス導入部23の外径の大きさ等に応じてヨウ素フィルタ20を設ける数は適宜変更するようにしてもよい。
【0027】
フッ素含有試薬供給部15は、塩素を含まないフッ素含有試薬30を貯留するフッ素含有試薬貯留部31とダクト12内に塩素を含まないフッ素含有試薬30を供給するフッ素含有試薬供給管32とで構成されている。フッ素含有試薬30は、フッ素含有試薬供給部15からフッ素含有試薬供給管32を介してダクト12の内部に試料ガス33に同伴して送給される。試料ガス33としては、例えば空気などが用いられる。フッ素含有試薬30を含む試料ガス33は、フッ素含有試薬供給管32に設けたノズル孔32aからフッ素含有試薬濃度測定部16の上流側に供給される。
【0028】
フッ素含有試薬30は、F(フッ素)およびC(炭素)を含み、H(水素)とO(酸素)とN(窒素)との少なくとも一つ以上を更に含むと共に、Cl(塩素)を含まない化合物を用いることが好ましい。フッ素含有試薬30としては、例えば、組成式が(C373−Nで表される化合物、組成式がC49OC25で表される化合物、組成式がC613OCH3で表される化合物、組成式がCF3(CF25CH2CH3(C3135)で表される化合物、組成式が(CH2CHFCF2CF2CF2)で表される化合物などが挙げられる。これらの化合物は、沸点が何れも70℃以上であるため、好適に用いられる。例えば、組成式が(C373−Nで表される化合物の沸点は、128℃程度であり、組成式がC49OC25で表される化合物の沸点は、76℃程度であり、組成式がC613OCH3で表される化合物の沸点は、98℃程度であり、組成式がCF3(CF25CH2CH3で表される化合物の沸点は、114.7℃程度であり、組成式が(CH2CHFCF2CF2CF2)で表される化合物の沸点は、82.5℃程度である。このため、上記のように例示した化合物はフッ素含有試薬30として好適に用いることができる。
【0029】
第1のフッ素含有試薬濃度測定部16と第2のフッ素含有試薬濃度測定部17とはヨウ素吸着部14を挟んでチャンバ13内に設けられている。第1のフッ素含有試薬濃度測定部16は、ヨウ素フィルタ20の上流側に設けられ、チャンバ13の上流側のダクト12内に挿入され、チャンバ13内のガスを採取する第1のガス採取管41と、採取したガスを分析する第1のガスクロマトグラフ42とを有する。第2のフッ素含有試薬濃度測定部17は、ヨウ素フィルタ20の下流側に設けられ、チャンバ13内に挿入され、チャンバ13内のガスを採取する第2のガス採取管43と採取したガスを分析する第2のガスクロマトグラフ44とを有する。
【0030】
フッ素含有試薬供給部15は、制御装置45に接続され、制御装置45は、フッ素含有試薬30の噴霧の有無とその噴霧量を調整する。フッ素含有試薬供給部15は、液状のフッ素含有試薬30を加熱するための電気ヒータ等の加熱手段と、試料ガス33の流量を制御する流量制御手段とを有している。制御装置45は、前記加熱手段および前記流量制御手段と連結し、前記加熱手段の出力(加熱電気量)を制御すると共に、試料ガス33の流量を制御している。フッ素含有試薬供給部15は、液状のフッ素含有試薬30を電気ヒータ等で加熱し、試料ガス33の流量を一定とすることにより、試料ガス33中に蒸発させて所定の濃度としている。
【0031】
本実施形態では、チャンバ13内に排ガス11を採取するための第1のガス採取管41と第2のガス採取管43とを各々1つずつ設けるようにしているが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、チャンバ13の内径やヨウ素フィルタ20の設置枚数やガス導入部23の外径の大きさ等に応じて第1のガス採取管41と第2のガス採取管43との何れか一方又は両方を設ける数は、チャンバ13に各々複数設け、適宜変更するようにしてもよい。
【0032】
ヨウ素フィルタ20のリークを試験する際、ヨウ素フィルタ20の上流側からフッ素含有試薬30を含んだ試料ガス33をチャンバ13内に供給する。フッ素含有試薬30を含む試料ガス33の一部は、第1のガス採取管41で採取され、第1のガスクロマトグラフ42に送給され、試料ガス33中のフッ素含有試薬30の濃度が測定される。
【0033】
試料ガス33はヨウ素フィルタ20を通過した後、ヨウ素フィルタ20の下流側で第2のガス採取管43に空気の一部は採取され、第2のガスクロマトグラフ44に送給され、試料ガス33中に残存するフッ素含有試薬30の濃度が測定される。試料ガス33中のフッ素含有試薬30はヨウ素フィルタ20のヨウ素吸着材24に殆ど吸着されるため、採取した試料ガス33からフッ素含有試薬30はほとんど検出されない。ヨウ素フィルタ20にリークがある場合、フッ素含有試薬30を含んだ試料ガス33はヨウ素吸着材24を通過しないために吸着されず、ヨウ素フィルタ20の下流側に抜ける。このため、ヨウ素フィルタ20の下流側で第2のガス採取管43により採取された試料ガス33の中からフッ素含有試薬30が検出された場合、ヨウ素フィルタ20にリークがあることが確認できる。
【0034】
本実施形態において、ヨウ素フィルタ20のリークとは、排ガス11がヨウ素吸着材24を通過する際、ヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間を通過してしまい、排ガス11中の放射性ヨウ素がヨウ素吸着材24で除去されないことをいう。フッ素含有試薬30は放射性ヨウ素と同様の挙動を示すことから、ヨウ素フィルタ20にリークがあると、試料ガス33の中のフッ素含有試薬30はヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間を通過することになる。
【0035】
フッ素含有試薬30は、大気圧における沸点が70℃以上であることが好ましい。フッ素含有試薬30の大気圧における沸点が70℃未満の場合、試料ガス33中に含有される水分がフッ素含有試薬30よりヨウ素吸着材24に優先して吸着されるため、フッ素含有試薬30はヨウ素吸着材24に吸着され難くなる。この場合、既にヨウ素吸着材24に吸着している水分によってフッ素含有試薬30の破過時間は極端に短くなるため、ヨウ素フィルタ20のリーク試験が困難となるか実施できなくなる。
【0036】
図3は、相対湿度が60%程度の時の経過時間と破過率との関係を示す図であり、図4は、相対湿度が80%程度の時の経過時間と破過率との関係を示す図である。図3に示すように、試料ガス33中の相対湿度が60%程度の時には、沸点が60℃未満のフッ素含有試薬30を用いても1.5時間程度の間、ヨウ素吸着材24の破過率をほぼ0で維持することができた(図3中、黒丸)。沸点が70℃以上のフッ素含有試薬30を用いても少なくとも5時間はヨウ素吸着材24の破過率をほぼ0で維持することができた(図3中、白丸)。また、従来、放射性ヨウ素のヨウ素フィルタのリーク試験用に用いられたフロンR−112についても沸点が70℃以上のフッ素含有試薬30を用いた場合と同様、少なくとも5時間はヨウ素吸着材24の破過率をほぼ0で維持することができることから(図3中、白丸)、試料ガス33中の相対湿度が60%程度の場合には、沸点が70℃以上のフッ素含有試薬30はヨウ素フィルタ20のリーク試験用に好適に用いることができる。
【0037】
これに対し、図4に示すように、試料ガス33中の相対湿度が80%程度の場合、沸点が60℃未満のフッ素含有試薬30を用いた場合、ヨウ素吸着材24はほぼ試験開始直後に破過してしまった(図4中、黒丸)。このため、ヨウ素フィルタ20をリークしたフッ素含有試薬30はヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間からリークしたものに起因するのかヨウ素吸着材24の破過に起因するのかを区別することは困難であり、ヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間からリークしたフッ素含有試薬30の正確な測定値を得ることが困難であった。一方、沸点が70℃以上のフッ素含有試薬30として、沸点が76℃のフッ素含有試薬30や沸点が98℃のフッ素含有試薬30や沸点が114.7℃のフッ素含有試薬30や沸点が128℃のフッ素含有試薬30を用いた場合、試料ガス33中の相対湿度が80%程度であっても試験開始から30分程度はヨウ素吸着材24の破過が起こらなかった(図4中、白丸、二重丸、白三角、黒四角)。フロンR−112についても沸点が76℃、98℃、114.7℃、128℃のフッ素含有試薬30を用いた場合と同様の挙動を示し、試験開始から30分程度はヨウ素吸着材24の破過が起こらなかった(図4中、黒四角)。このため、試料ガス33中の相対湿度が80%程度の場合でも、沸点が70℃以上のフッ素含有試薬30を用いれば、ヨウ素フィルタ20のリーク試験を実施するのに十分な時間、ヨウ素吸着材24が破過することなくヨウ素フィルタ20のリーク率を測定することができる。
【0038】
ヨウ素フィルタ20のリーク試験でヨウ素フィルタ20に吸着されたフッ素含有試薬30は、大部分がヨウ素フィルタ20に吸着された状態となるが、ヨウ素フィルタ20に吸着されたフッ素含有試薬30は、ヨウ素フィルタのヨウ化メチルの捕集容量を減少させる量よりも大幅に少ない使用量としているためヨウ素フィルタ20の放射性ヨウ素の除去性能に影響を与えることはない。
【0039】
(ヨウ素フィルタのリーク率の評価方法)
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10を用いて行なわれるヨウ素フィルタ20のリーク率の評価方法について具体的に説明する。フッ素含有試薬30を含む試料ガス33はフッ素含有試薬供給管32のノズル孔32aからチャンバ13内へ噴出され、ヨウ素フィルタ20の上流側にフッ素含有試薬30を数分間導入する。ヨウ素フィルタ20の上流側と下流側とで第1のガス採取管41と第2のガス採取管43とからフッ素含有試薬30を含む試料ガス33を採取する。フッ素含有試薬30は試料ガス33中に水分として含まれており、採取したフッ素含有試薬30を第1のガスクロマトグラフ42と第2のガスクロマトグラフ44とにより測定し、下記式(1)よりヨウ素フィルタ20のリーク率を求める。下記式(1)中、Aは、ヨウ素フィルタ20の下流側におけるフッ素含有試薬30の濃度であり、Bは、ヨウ素フィルタ20の上流側におけるフッ素含有試薬30の濃度であり、Cは、ヨウ素フィルタ20の下流側における第2のガスクロマトグラフ44との検出限界濃度であり、Dは、ヨウ素フィルタ20の上流側における第1のガスクロマトグラフ42の検出限界濃度である。
リーク率(%)=(A−C)/(B−D)×100・・・(1)
【0040】
ヨウ素フィルタ20の判定基準は、加圧水型軽水炉(Pressurized Water Reactor;PWR)プラントの場合、リーク率が1%以下である。第1のガスクロマトグラフ42と第2のガスクロマトグラフ44とによる試料ガス33中のフッ素含有試薬30の検出限界濃度は約10×10-9(10ppb)である。このとき、例えば、ヨウ素フィルタ20を3つ含むヨウ素吸着部14が1000m3/hの試料ガス33の処理能力を有するとし、ヨウ素フィルタ20の上流側からフッ素含有試薬30を注入し、試料ガス33中のフッ素含有試薬30の濃度を30×10-6(30ppm)とし、ヨウ素フィルタ20の下流側で30×10-9(30ppb)のフッ素含有試薬30の濃度を検出した場合、ヨウ素フィルタ20のリーク率は、上記式(1)より0.07%程度と求められる。被曝評価上問題のない放射能濃度とするためのリーク率の判定基準の一例としては1.0%であり、この判定基準の場合には、上記のリーク試験で得られたリーク率0.07%は、リーク率の判定基準を満足すると判断できる。なお、上述した通り、フッ素含有試薬は放射性ヨウ素と同じリーク挙動を示すことから、フッ素含有試薬を用いたリーク試験の値は、放射性ヨウ素のリーク率として扱うことが可能である。
【0041】
よって、フッ素含有試薬30は、従来用いられていたフロンR−112と同様、ヨウ素吸着材24に高効率で捕集されることから、フッ素含有試薬30のリーク率は、ガスケット21にヨウ素フィルタ20を設けた際に発生し得るヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間などの有無によって大きく変化することになる。このフッ素含有試薬30のリーク率の挙動は、放射性ヨウ素がヨウ素吸着材24やヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間を通過する場合の挙動と同様である。よって、フッ素含有試薬30がヨウ素フィルタ20を通過する時の挙動から間接的に放射性ヨウ素がヨウ素フィルタ20を通過した際のヨウ素フィルタ20のリークの有無も試験することができる。
【0042】
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10により、ヨウ素フィルタ20のリークがないか、所定の基準値(例えば、1.0%)以下であった場合には、ヨウ素フィルタ20は原子力施設から排出される排ガス11中に含まれる放射性ヨウ素を処理するためにそのまま使用することができる。また、ヨウ素フィルタ20のリークが発見された場合には新たなヨウ素フィルタ20をガスケット21内に再充填を行なうか、ヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間を埋めるなどする。この場合、再度、上記と同様に本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10でヨウ素フィルタ20のリークの有無を判定する。
【0043】
このように、本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10によれば、破過時間が長く、かつ放射性ヨウ素の捕集容量を減少させることなく放射性ヨウ素のリーク率を精度良く容易に試験することができる。このため、従来のフレオン−112を用いたリーク試験法と同様の試験方法を用いることができ、ヨウ素吸着材24が破過しているかヨウ素フィルタ20のリークかの判別が容易となり、高い精度でヨウ素フィルタ20のリークの試験結果を得ることができる。また、ヨウ化メチルを用いたリーク試験法に比べ、ヨウ素フィルタ20の捕集容量の低下を抑制することができる。また、チャンバ13への装着前のヨウ素フィルタ20だけでなく、チャンバ13へ装着後のヨウ素フィルタ20のリーク試験も簡単に行なうことができる。更に、重水蒸気を用いたリーク試験法と異なり、環境を汚染するおそれも無く容易に取扱うことができる。
【0044】
なお、本実施形態においては、本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10を用いてのヨウ素フィルタ20のリークの試験方法について説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、ヨウ素フィルタ20以外の他のフィルタについても同様に適用することができる。
【0045】
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10においては、チャンバ13内にヨウ素吸着部14を1つ設けるようにしているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、チャンバ13の入口から出口までの距離、ヨウ素吸着部14の設置面積等に応じてヨウ素吸着部14を複数設けるようにしてもよい。
【0046】
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10は、ダクト12が一つの場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。チャンバ13を備えたダクト12が複数設けられている場合には、複数のダクト12に交互に排ガス11を送給し、原子力設備を稼動させながら各々のチャンバ13内のヨウ素フィルタ20のリーク試験を行うようにしてもよい。各々のダクト12ごとにヨウ素吸着部14を備えたチャンバ13を設け、一方のチャンバ13内のヨウ素フィルタ20のリーク試験を行っている間、一方のダクト12への排ガス11の送給を停止し、他方のダクト12に排ガス11を送給し、一方のチャンバ13内のヨウ素フィルタ20を交換するかヨウ素フィルタ20とガスケット21との間の隙間を塞ぐことができる。これにより、原子力設備を停止させることなく、ヨウ素フィルタ20のリーク試験を行い、排ガス11中の放射性ヨウ素を連続して安定してヨウ素フィルタ20に吸着させ、系外に放射性ヨウ素が漏洩するのを確実に防止することができる。
【0047】
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10においては、ヨウ素フィルタ20をチャンバ13に設けるようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ヨウ素フィルタ20をチャンバ13以外のダクト12などに設けるようにしてもよい。
【0048】
本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10においては、原子力発電所など原子力施設から排出される放射性ヨウ素を含有する排ガス11を対象として説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、再処理工場、放射性同位元素取扱施設など原子力施設以外の工場等から排出される放射性ヨウ素を含有する排ガス等においても同様に適用することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るヨウ素フィルタのリーク試験装置10においては、放射性ヨウ素を吸着させるヨウ素フィルタ20のリークの有無の試験用として用いる場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、放射性ヨウ素以外の成分を吸着するフィルタのリーク試験用についても同様に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係るヨウ素フィルタのリーク試験方法及びリーク試験装置は、排ガスに含まれる放射性ヨウ素を除去するヨウ素フィルタのリークの有無の試験を行うことができるので、原子力施設等で発生する排ガス用のフィルタのリーク試験に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0051】
10 ヨウ素フィルタのリーク試験装置
11 排ガス(被処理ガス)
12 ダクト
13 チャンバ(容器)
14 ヨウ素吸着部
15 フッ素含有試薬供給部
16 第1のフッ素含有試薬濃度測定部
17 第2のフッ素含有試薬濃度測定部
20 ヨウ素フィルタ
21 ガスケット
22 ガス導入孔
23 ガス導入部
23a 連結部
24 ヨウ素吸着材
25 フィルタ本体
26 後板
30 フッ素含有試薬
31 フッ素含有試薬貯留部
32 フッ素含有試薬供給管
32a ノズル孔
33 試料ガス
41 第1のガス採取管
42 第1のガスクロマトグラフ
43 第2のガス採取管
44 第2のガスクロマトグラフ
45 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力施設から排出される放射性ヨウ素を含む被処理ガスが送給されるダクト又はチャンバ内に前記被処理ガスに含まれる放射性ヨウ素をヨウ素吸着材により除去するヨウ素フィルタのリークを検知するヨウ素フィルタのリーク試験方法であり、
前記ヨウ素フィルタより上流側に塩素を含まないフッ素含有試薬を供給し、前記ヨウ素フィルタの上流側および下流側における前記フッ素含有試薬の濃度を測定し、前記ヨウ素フィルタを通過するフッ素含有試薬のリーク率を求めることを特徴とするヨウ素フィルタのリーク試験方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記フッ素含有試薬として、フッ素および炭素を含み、水素と酸素と窒素との少なくとも一つ以上を更に含むと共に、塩素を含まない化合物を用いるヨウ素フィルタのリーク試験方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記フッ素含有試薬は、その大気圧下における沸点が70℃以上であるヨウ素フィルタのリーク試験方法。
【請求項4】
放射性ヨウ素を含有する被処理ガスが送給されるダクト又はチャンバ内に設けられ、前記被処理ガスに含まれる放射性ヨウ素を吸着するヨウ素吸着材を含むヨウ素フィルタと、
前記ダクト又はチャンバ内に設けられ、前記ダクト又はチャンバ内に塩素を含まないフッ素含有試薬を供給するフッ素含有試薬供給部と、
前記ヨウ素フィルタの上流側および下流側に設けられ、前記フッ素含有試薬の濃度を測定するフッ素含有試薬濃度測定部と、
を含むことを特徴とするヨウ素フィルタのリーク試験装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記フッ素含有試薬は、フッ素および炭素を含み、水素と酸素と窒素との少なくとも一つ以上を更に含むと共に、塩素を含まない化合物であるヨウ素フィルタのリーク試験装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、
前記フッ素含有試薬は、その大気圧下における沸点が70℃以上であるヨウ素フィルタのリーク試験装置。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れか1つにおいて、
前記被処理ガスが、原子力施設から排出される排ガスであるヨウ素フィルタのリーク試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−237267(P2011−237267A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108638(P2010−108638)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】