説明

ライニング材及び管路の補修工法

【課題】劣化した管路の内周面を繊維基材に硬化性樹脂を含浸させたライニング材によって補修し、このライニング材が硬化した後、地震や地盤の大きな変形等が生じたときでも該ライニング材の止水性を確保する。
【解決手段】管路Bの内部に配置されて該管路Bの内面を被覆するスリーブ状のライニング材Aであって、所定の厚さを有する繊維基材4を有し該繊維基材4に硬化性樹脂5を含浸させて構成された含浸層1と、前記含浸層1に於ける被覆すべき管路Bの内面と対向する面に配置されたアウターフィルム2と、含浸層1に於けるアウターフィルム2が配置された面とは反対側の面に配置されたインナーフィルム3と、を有し、前記アウターフィルム3は非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムからなり、且つ前記含浸層1に付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路の劣化した内周面を補修するためのライニング材に関し、特に、地震や地盤の変形に伴って破断が生じた場合でも止水性を確保することができるライニング材と、このライニング材を用いて管路の内周面を補修する補修工法と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、下水道用の管路や工業用水用の管路或いは農業用水用の管路、等多くの管路が敷設されて使用されている。これらの管路は、使用期間の増加に伴って内周面が劣化してコンクリートの骨材が露出したり、地盤沈下や地震等の影響を受けて管路を構成する管が継ぎ目で抜けるようなずれが生じたりすることがある。このように、内周面が劣化した管路は強度が低下する虞があり、継ぎ目にずれが生じた管路は漏水の虞があるため、内周面にライニングを施して補修するのが一般的である。
【0003】
管路の内周面を補修するためのライニング方法として多くの提案がなされているが、その中で、樹脂を含浸させたファイバホース(ライニング材)を用いる方法がある(例えば特許文献1参照)。この方法は、光開始剤及び/又は有機過酸化物を含む樹脂を含浸したファイバホースを導管内に入れ、このファイバホースを圧搾空気で膨張させて導管内壁へ密着させ、UV光をファイバホースへ照射して樹脂を硬化させることによって、導管をライニングするものである。
【0004】
この方法を施工する際に用いるファイバホースは、ガラスファイバ又は合成繊維などの織物形態、ニードル加工不織布、マット、フェルト形態の繊維状補強材に光開始剤及び/又は有機過酸化物を含む硬化性樹脂を含浸させて構成されている。
【0005】
また、特許文献2には、繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたライニング材や光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を含浸させたライニング材を用いてライニング層を形成することが記載されている。特に、この発明は光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の両方を含んだ管路更生用ライニング材に関するものであり、内周面側に光硬化性樹脂層が、外周面側に熱硬化性樹脂層が形成されたものである。
【0006】
特許文献2に記載されたライニング材を用いて管路を更生する場合、未硬化状態のライニング材を管路の内壁面に密着させた後、光源を走行させて光を照射すると、この光に反応して内周面側の光硬化性樹脂が硬化を開始すると同時に熱を発する。この熱が外周面側の熱硬化性樹脂に伝えられて該熱硬化性樹脂が硬化することでライニング材の全体が硬化し、管路を更生することができる。
【0007】
特許文献2に記載されたライニング材は、ガラス繊維、ポリエステル繊維等からなるマット状ベース材に樹脂を含浸させて構成されている。特に、特許文献2には、ライニング材を、光硬化性樹脂を含浸させたベース材と、熱硬化性樹脂を含浸させた他のベース材を重ね合わせて2層にしても良いことが記載されている。この場合、ライニング材に光を照射し、光硬化性樹脂が硬化する際に生じる反応熱によって熱硬化性樹脂を硬化させることでライニング材を硬化させることができる。
【0008】
上記特許文献1、2に記載された何れかの方法を実施することで、内周面が劣化して強度が低下した管路の強度を向上させることができ、二つのマンホールの間を連続したライニング層によって補修することで、管路を構成する管の継ぎ目にずれが生じている場合でも漏水を防ぐことができる。
【0009】
上記の如きライニング材は、繊維状補強材或いは繊維基材に樹脂を含浸する際に、或いは含浸した樹脂が漏洩することがないように、筒状のライニング材の内周面側及び外周面側に夫々筒状のフィルムが配置されている。これらのフィルムはライニング材を製造する際に配置され、施工現場まで搬送して管路の補修を施工している間そのままの状態を保持している。
【0010】
管路を補修するに際し、未硬化状態のライニング材の内部に圧縮空気を作用させて膨張させたとき、該ライニング材の外周面は管路のざらざらな粗面に沿って接触することとなる。このため、ライニング材は管路に対し、該管路を構成する管の内周面には略一体化し、管と管との継ぎ目部分では一体化することがない。そして、ライニング材が硬化した後、内周面側のフィルムは撤去されるが、外周面側のフィルムは管路の内壁面に対し単に接触した状態で残置されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−048248公報
【特許文献2】特開2003−033970公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
管渠耐震設計の考えによると、地盤の条件にもよるものの地中に敷設された管路には、地震時に永久ひずみとして約1.5%の伸びを許容し得るよう求められている。例えば、マンホール間の距離が30mの管路の場合、約45cmの伸びを許容することとなる。この寸法は、複数の管を接続して構成した管路の場合、管相互の継ぎ目部分の軸方向へのずれで吸収することができる。また、管路には軸方向への力以外にも、地震や地盤沈下を含む地盤の大きな変形等に起因する曲げ方向の力も作用し、これらの力によって管と管の継ぎ目部分に管相互の曲がりが生じる。
【0013】
ライニング材を構成する繊維基材がガラス繊維である場合、硬化した筒状のライニング材は一体構造で高い強度を発揮するものの極めて伸び難くなる。このため、地震による管路の変位に追随できず、ライニング材の軸方向に配置された多数のガラス繊維に局所的な破断が生じ、これに伴って硬化した樹脂にガラス繊維の破断部分に対応したひび割れが形成される(以下、このような状態を「破断」という)虞がある。即ち、地震時に管路に軸方向への力が作用したとき、硬化したライニング材は外側にある既設管に拘束されて挙動する。従って、硬化したライニング材には管相互の継ぎ目に対応する部分に引張力が作用し、この部分に於ける軸方向に配置されているガラス繊維に過大な力が作用して破断することになる。多数のガラス繊維に於ける破断部位は非管理状態であり、必ずしも同一円周上に位置することはない。そして、ガラス繊維の破断部位に対応して、硬化した樹脂にひび割れが形成され破断する。
【0014】
同様にして、地盤沈下のように地盤が大きく変形したときに、管路を構成する複数の管の継ぎ目毎に作用する引張力或いは曲げ力によって、フィルムの破損や硬化したライニング材の破断等が生じる虞がある。即ち、硬化したライニング材が継ぎ目部分に作用する力によって破断したり、ライニング材の外周面に配置されているフィルムが継ぎ目部分に於ける管の端部や内周面と擦れて破損することがある。
【0015】
地中に敷設された一般的な管路の場合、該管路の外周部分には土砂や地下水によって約0.01MPa〜0.05MPaの圧力が作用している。このため、ライニング材の外周面に配置されたフィルムが破損した場合、地下水がフィルムの破損部分から浸入し、該フィルムと硬化したライニング材との間を通って漏水する虞が生じる。また、硬化したライニング材が破断したような場合、地下水が破断部分を通って漏水する虞が生じる。
【0016】
本発明の目的は、ライニング材が硬化した後であっても、地震や地盤が大きく変形したような場合でも、止水性を確保することができるライニング材を提供すると共に、このライニング材を用いた補修工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明に係るライニング材は、管路の内部に配置されて該管路の内面を被覆するスリーブ状のライニング材であって、所定の厚さを有する繊維基材を有し該繊維基材に硬化性樹脂を含浸させて構成された含浸層と、前記含浸層に於ける被覆すべき管路の内面と対向する面に配置されたアウターフィルムと、前記含浸層に於けるアウターフィルムが配置された面とは反対側の面に配置されたインナーフィルムと、を有し、前記アウターフィルムは非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムからなり、前記含浸層に付着しているものである。
【0018】
上記ライニング材に於いて、前記アウターフィルムが、少なくとも該アウターフィルムを構成する材料よりも高い強度を持った材料からなる繊維を含有したものであることが好ましい。
【0019】
上記何れかのライニング材に於いて、前記繊維基材に含浸される硬化性樹脂が、光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0020】
上記何れかのライニング材に於いて、前記アウターフィルムに於ける前記含浸層と対向する面が粗面として形成されており、該粗面を介してアウターフィルムは前記含浸層に付着していることが好ましく、且つ前記粗面が前記アウターフィルムに形成された起毛によって構成されていることがより好ましい。
【0021】
上記ライニング材に於いて、前記アウターフィルムが、非透水性を有する表層フィルムと、緩衝性を有する中間層フィルムと、含浸層に対する接着性を有する内層フィルムと、からなり、前記表層フィルム及び中間層フィルム及び内層フィルムを一体化させて構成されたものであることが好ましい。
【0022】
また、上記ライニング材に於いて、前記アウターフィルムを構成する表層フィルムがポリエチレンフィルムとポリアミドフィルムとポリエチレンフィルムをラミネートした遮光性を有する三層フィルムからなり、且つ含浸層には光硬化性樹脂が含浸されていることが好ましい。
【0023】
尚、本発明に於いて「遮光」とは、全ての波長の光を遮断するという意味ではなく、含浸層に含浸された光硬化性樹脂が反応する波長をもった光を遮断し得る性質を有していれば良い。一般に光硬化性樹脂は紫外線に反応する性質を有しているため、例えば波長が420ナノメートルよりも短い波長をもった光を遮断し得るものであれば良い。
【0024】
また、上記何れかのライニング材に於いて、前記アウターフィルムが、表層フィルム及び中間層フィルム及び内層フィルムを重ねて加圧すると共に加熱して一体化させて構成されたものであることが好ましい
【0025】
また、上記何れかのライニング材に於いて、前記アウターフィルムを構成する内層フィルムがポリエチレンフィルムからなり、該ポリエチレンフィルムの含浸層と対向する面がコロナ処理されていることが好ましい。
【0026】
また本発明に係る管路の補修工法は、上記何れかのライニング材を用いて管路の内面を補修する補修工法であって、補修すべき管路の内部に上記した何れかのライニング材を配置して該ライニング材を膨張させてアウターフィルムを管路の内面に近接させ、その後、膨張したライニング材の内部に光照射装置を挿入して該光照射装置からライニング材に光を照射し又は加熱装置を挿入して該加熱装置によってライニング材を加熱しつつ補修すべき管路に沿って移動させることで硬化性樹脂を硬化させて含浸層を硬化させると共に、該含浸層にアウターフィルムを付着させて補修すべき管路の内面を補修することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明のライニング材では、劣化した管路を硬化したライニング材によって補強したとき、地震や地盤沈下を含む地盤が大きく変形したような場合に於ける止水性を確保することができる。
【0028】
即ち、繊維基材に硬化性樹脂を含浸させた含浸層に於ける被覆すべき管路の内面と対向する面に配置されるアウターフィルムを非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムによって構成すると共に、該アウターフィルムを含浸層に付着させて構成したので、地震や地盤が大きく変形したときに生じる管路のずれや変位に伴って硬化した含浸層が破断したような場合であっても、アウターフィルムが伸縮性と非透水性を有するため、伸長したアウターフィルムによって該破断部分を覆うことができ、且つ水を透過させることがない。また、アウターフィルムが破損し、この破損部分から水が浸入しようとした場合であっても、アウターフィルムが硬化した含浸層に付着しているため、水が両者の間に浸入することがない。
【0029】
またアウターフィルムが、少なくとも熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムよりも高い強度を持った材料からなる繊維を含有させて構成することによって、該アウターフィルムの強度を向上させることができる。
【0030】
また、繊維基材に含浸させる硬化性樹脂を、光硬化性樹脂、又は熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂、とすることで、ライニング材に対し光を照射し又は加熱し、或いは光を照射したときに光硬化性樹脂が硬化する際の反応熱で熱硬化性樹脂を硬化させることができる。
【0031】
また、アウターフィルムに於ける含浸層と対向する面が粗面として形成されており、該粗面を介してアウターフィルムを含浸層に付着させることで、確実な付着を実現することができる。特に、粗面をアウターフィルムに形成した起毛とすることで、簡単な構造で確実な付着を実現することができる。
【0032】
また、アウターフィルムが、非透水性を有する表層フィルムと、緩衝性を有する中間層フィルムと、含浸層に対する接着性を有する内層フィルムと、を一体化させて構成されたものである場合には、このアウターフィルムは、表層フィルムによって非透水性を確保することができ、且つ中間層フィルムによって緩衝性を確保することができる。そして、内層フィルムによって、表層フィルムと中間層フィルムを含浸層に付着することができる。
【0033】
また、アウターフィルムを構成する表層フィルムがポリエチレンフィルムとポリアミドフィルムとポリエチレンフィルムをラミネートした遮光性を有する三層フィルムからなり、且つ含浸層には光硬化性樹脂が含浸されている場合には、製造されたライニング材を保管し或いは搬送する際に太陽光に曝されても含浸層に含浸された光硬化性樹脂の硬化を防ぐことができる。このため、ライニング材の製造から施工までの期間を長くすることができる。
【0034】
またアウターフィルムが、表層フィルム及び中間層フィルム及び内層フィルムを重ねて加圧すると共に加熱して一体化させることによって、前記各層の機能を保持して薄くすることができる。
【0035】
また、アウターフィルムを構成する内層フィルムがポリエチレンフィルムからなり、該ポリエチレンフィルムの含浸層と対向する面がコロナ処理されている場合には、該アウターフィルムを含浸層に対し確実に付着させることができる。
【0036】
また本発明の管路の補修工法では、本発明に係る何れかのライニング材を用いて、補修すべき管路の内部を確実に補修して地震時にも高い止水性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施例に係るライニング材の構成を説明する図である。
【図2】ライニング材を構成するアウターフィルムの実施例を説明する図である。
【図3】ライニング材に於ける繊維基材の構成例を説明する図である。
【図4】ライニング材に於ける硬化性樹脂の含浸例を説明する図である。
【図5】本実施例に係るライニング材の作用を説明する図である。
【図6】ライニング材を構成するアウターフィルムの他の実施例を説明する図である。
【図7】本実施例に係る管路の補修工法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係るライニング材の好ましい実施の形態について説明する。本発明のライニング材は、例えば下水道用の管路に代表される管路であって長期間の使用により内周面が劣化した管路、或いは地盤沈下や地震等の影響を受けて管路を構成する管どうしの継ぎ目にずれが生じたような管路を補修する際に使用して有利である。特に、管路を補修した後、地震や大きく地盤が変形して硬化したライニング材に軸方向への力や曲げ力が作用したような場合でも、高い止水性を確保し得るように構成されている。
【0039】
ライニング材は、外径が補修すべき管路の内径と略等しい寸法を有しており、且つ長尺状に構成されている。ライニング材の長さは限定するものではなく、補修すべき管路に設けた二つのマンホール間に敷設し得る長さを有するものであれば良い。そして、このライニング材は、硬化性樹脂が未硬化の状態、即ち、可撓性を有する状態で折り畳んで保管されると共に施工現場に搬送されて用いられる。
【0040】
本発明のライニング材は、硬化した後、地震時に管路に作用する軸方向の力によって、或いは地盤沈下等により地盤に大きな変形が生じたとき管路に作用する軸方向の力或いは曲げ力によって、硬化した繊維基材に破断が生じたような場合、この破断にも関わらず管路内への漏水を防ぎ得るように構成されたものである。即ち、硬化した繊維基材に破断が生じた場合、アウターフィルムが伸張してこの破断部分を覆うことで浸水を防ぐことが可能である。
【0041】
また、上記と同様の原因でアウターフィルムが破損したような場合、アウターフィルムを硬化した繊維基材に付着させることによって、この破損部分から地下水が浸水しても、浸水はアウターフィルムの破損部分とその周辺に止まり、管路内への漏水を防ぐことが可能である。
【0042】
このため、ライニング材は、所定の厚さを有する繊維基材に硬化性樹脂を含浸させて構成された含浸層と、この含浸層に於ける被覆すべき管路の内面と対向する面に配置された非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムからなるアウターフィルムと、含浸層に於けるアウターフィルムが配置された面とは反対側の面に配置されたインナーフィルムと、を有し、アウターフィルムは含浸層に付着して構成されている。
【0043】
本発明に係るライニング材に於いて、硬化性樹脂を含浸する繊維基材の厚さは限定するものではなく、繊維基材を構成する繊維材料、補修すべき管路の径、必要とされる強度等の諸条件を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0044】
硬化性樹脂を含浸するための繊維基材としては、光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂、更には光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の両者を含浸して保持する機能と、これらの硬化性樹脂が硬化したときに強度を発揮させることが可能なものであれば良い。このような繊維基材を構成する繊維材料としては、ガラス繊維、又はガラス繊維以外の繊維であって良く、これらの繊維材料を単独で、或いは両繊維を積層して繊維基材として用いることが可能である。そして、繊維基材をガラス繊維、又はガラス繊維以外の繊維、又はガラス繊維及びガラス繊維以外の繊維、によって形成することで、硬化性樹脂を充分に且つ確実に含浸させることが可能であり、且つ硬化性樹脂が硬化したときに夫々目的の強度を発揮させることが可能である。
【0045】
特に、繊維基材として、ガラス繊維とガラス繊維以外の繊維とを積層して用いる場合、積層する数は限定するものではなく、二層或いは二層以上に積層されていても良い。このようにガラス繊維とガラス繊維以外の繊維を積層して用いる場合、少なくともガラス繊維をインナーフィルム側(管路の内周面をライニングしたとき、補修した管路の内周面となる側)に配置することが必要である。ガラス繊維は織布として構成されているため、光を透過し易く、該ガラス繊維に光硬化性樹脂を含浸させることで、光照射による硬化を実現することが可能となる。
【0046】
また、繊維基材を構成するガラス繊維以外の繊維としては有機系繊維であることが好ましい。この有機系繊維はフェルトを含む不織布としての形態を有することが多く、含浸した硬化性樹脂が硬化したときの強度はガラス繊維の強度と比較して低い。また、有機系繊維に硬化性樹脂を含浸させたとき、光の透過性は織布からなるガラス繊維と比較して低い。このため、有機系繊維からなる繊維基材に含浸させる硬化性樹脂は、この有機系繊維の光の屈折率と略等しい光の屈折率を有することが好ましい。
【0047】
例えば、有機系繊維がポリエステル繊維である場合、含浸する硬化性樹脂は不飽和ポリエステル樹脂であることが好ましい。このように、有機系繊維と含浸する硬化性樹脂の光の屈折率が略等しいことで、光の透過性を向上させることが可能となる。このため、管路をライニングする際に、管路内に配置した光照射装置によって照射した光を効率よく透過させることが可能となり、硬化性樹脂として光硬化性樹脂を用いることが可能となる。
【0048】
特に、硬化性樹脂を二層構造とする際に、光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂を、同じ材質の樹脂(例えば不飽和ポリエステル樹脂)に光開始剤、又は熱開始剤としての有機過酸化物を含有させて構成することが好ましい。このように光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を同じ樹脂を用いて構成することによって、互いに混然となって一体化し、照射された光の透過性を阻害することがない。
【0049】
熱硬化性樹脂を含浸したライニング材では、施工現場に搬入するまでの間に大気の熱が作用して硬化が進行する虞がある。これに対し光硬化性樹脂を含浸したライニング材では、アウターフィルム又はインナーフィルムとして遮光フィルムを用いることで硬化が進行することはない。このため、ライニング材に含浸させる硬化性樹脂としては光硬化性樹脂であることが好ましい。しかし、硬化性樹脂を含浸した繊維基材に光を照射したとき、照射された光が透過し得る厚さは約13mm程度であり、ライニング材を構成する繊維基材の厚さが13mm以上あるような場合には、熱硬化性樹脂との二層構造にすることが必要となる。
【0050】
繊維基材に含浸する硬化性樹脂を二層構造とした場合、光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の何れかがインナーフィルム側に配置されることとなる。光硬化性樹脂がインナーフィルム側に配置された場合、光照射装置を管路内に走行させる過程で該光照射装置から光を照射することで、硬化させることが可能である。また、熱硬化性樹脂がインナーフィルム側に配置された場合、温水や蒸気で管路の内部全体を硬化温度(約60℃〜約80℃)まで上昇させることが必要である。
【0051】
上記の如くしてライニング材を硬化させる作業は、光照射装置を管路内に走行させる方が、温水や蒸気で管路の内部全体を高温にするよりも容易であり、且つ作業性も良い。従って、光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂との二層構造とする場合、インナーフィルム側には光硬化性樹脂が配置される。そして、光硬化性樹脂が硬化する際に発生する反応熱によって、熱硬化性樹脂を硬化させることが可能である。
【0052】
光硬化性樹脂としては特に限定するものではなく、管路の補修或いは更生用に一般的に用いられるライニング材に含浸する光硬化性樹脂と同じ樹脂、例えば不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステルに光開始材を含有させたものであってよい。同様に、熱硬化性樹脂も特に限定するものではなく、光硬化性樹脂と同じ不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステルに有機過酸化物を含有させたものであってよい。
【0053】
光硬化性樹脂には増粘剤を含有させることが好ましい。増粘剤を含有した光硬化性樹脂は経時的に粘度が増加し、繊維基材に対する空気の巻き込みを防いで気泡の発生を防止することが可能となる。特に、製造されたライニング材は、未硬化状態で扁平に折り畳み、このままの状態で、或いはボビンに巻き付けた状態で保管及び搬送される。このため、折り畳まれた隅部に於ける厚さが他の部分の厚さよりも薄くなり、施工の際にライニング材を膨張させたとき、折り畳まれた部分が元の厚さに復帰しようとして周囲の空気を巻き込んで気泡が生じるという問題を防ぐことが可能となる。
【0054】
アウターフィルムは、非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムからなるフィルムによって構成されている。アウターフィルムとしては前記した特徴、即ち、非透水性と伸縮性を有するものであれば良い。
【0055】
例えば、このような特徴を有する熱可塑性樹脂フィルムとしては軟質塩化ビニルフィルムやポリエチレンフィルム或いはポリアミドフィルム等がある。また熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムとしては熱可塑性樹脂に熱硬化性樹脂を混合させた樹脂フィルムがある。更に、ポリウレタンフィルムとしては発泡ポリウレタン樹脂フィルムを含むことが可能である。
【0056】
また、アウターフィルムは必ずしも一層である必要はなく、複数の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした複層フィルムであっても良い。このようなフィルムとしては、例えばポリエチレンとポリアミドとポリエチレンをこの順序でラミネートした三層構造のもの、ポリウレタンとポリアミドをラミネートした二層構造のもの等がある。そして、上記した一層構造のフィルム又は前記二層構造のフィルム、三層構造のフィルムを選択的に用いることが可能である。
【0057】
上記の如く、アウターフィルムが熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムによって構成されているため、繊維基材に含浸した硬化性樹脂が硬化する際に熱が発生するが、この熱による影響を受けることなく伸縮性を維持することが可能となる。このため、硬化した含浸層の一部に破断が生じた場合でも、伸長したアウターフィルムによってひび割れ部分を覆うことが可能となる。
【0058】
アウターフィルムの厚さは特に限定するものではなく、製造時及び搬送時に、繊維基材に含浸された硬化性樹脂が漏洩することを防ぎ、且つ想定される外力に対し対抗するのに充分な強度を発揮し得るものであれば良い。このような機能と強度を発揮し得る厚さとしては約1mm程度で充分である。しかし、この厚さに限定するものではないことは当然である。
【0059】
本発明に於いて、アウターフィルムは、少なくとも該アウターフィルムを構成する材料よりも高い強度を持った材料からなる繊維を含んでいる。そして、これらの繊維を含むことによって、アウターフィルムは強度が向上している。アウターフィルムを構成する材料よりも高い強度を持った材料としては、引張強度がアウターフィルムを構成する材料よりも大きければ良く、これらの材料からなる繊維としては、ガラス繊維や合成樹脂繊維(例えばポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等)、金属繊維、或いは麻を含む植物繊維等の繊維類の繊維をあげることが可能である。そして、これらガラス繊維、合成樹脂繊維、金属繊維、植物繊維等の繊維の中から選択的に用いることが可能である。
【0060】
アウターフィルムの強度が向上することによって、伸縮性が阻害されることは好ましいことではない。即ち、繊維を含むアウターフィルムは、硬化した含浸層の強度よりも小さい強度で、且つ十分な伸縮性を保持していることが必要である。従って、アウターフィルムに含有させる繊維の比率は、前記したアウターフィルムの性能を保持し得る程度であることが必要となる。即ち、アウターフィルムに含ませる繊維の比率は、含浸層の構成(厚さや硬化性樹脂に応じた強度等)によっても変化するものの、約0.1重量%〜約3重量%程度で十分である。
【0061】
アウターフィルムに含ませる繊維の寸法は特に限定するものではないが、該アウターフィルムの製造を阻害することのない寸法であることが好ましい。このような繊維の寸法として、太さは数μm〜約20μm程度、長さは約3mm〜約15mm程度の繊維片であることが好ましい(以下「繊維片」という)。しかし、前記数値の範囲に限定するものではないことは当然である。
【0062】
本発明に於いて、アウターフィルムは硬化性樹脂を含浸した繊維基材によって構成された含浸層に付着している。アウターフィルムが含浸層に対し如何なる構造で付着しているかは限定するものではなく、結果として両者の間に隙間が形成されることなく付着していれば良い。
【0063】
アウターフィルムの含浸層に対する付着の度合いは、必ずしも一体的で且つ強固な付着を必要とするものではない。例えば、硬化した含浸層に破断が生じて隙間が形成されたような場合、この破断部分の周囲ではアウターフィルムが含浸層から剥離し得る程度の付着であることが好ましい。即ち、含浸層に破断が生じて隙間が形成されたとき、アウターフィルムは隙間の拡大に伴って伸長する必要が生じるため、アウターフィルムが強固に含浸層に付着している場合、変形率が大きくなって破損につながる虞が高くなる。これに対し、硬化した含浸層の破断部分の周囲でアウターフィルムが剥離した場合、アウターフィルムは剥離した部位全体で伸長すれば良く、変形率が小さくなって破損につながる虞が低くなる。
【0064】
アウターフィルムを含浸層に対して付着させるには、アウターフィルムに接着剤を塗布しておく構成やプライマー処理しておく構成があり、これらのアウターフィルムでは硬化した含浸層が破断して隙間が生じたとき、この破断部分の周囲の付着部分が容易に剥離することが可能である。
【0065】
また、アウターフィルムに於ける含浸層と対向する面を粗面として形成し、この粗面を介して含浸層に付着することが可能である。粗面としては、例えば細かい凹凸面であって良く、また多数の毛状の突起物からなる所謂起毛であって良い。特に、起毛を介してアウターフィルムが含浸層に付着しているような場合、硬化した含浸層が破断して隙間が形成されるのに伴って起毛が破断することで、アウターフィルムが含浸層から剥離することが可能となる。
【0066】
このように、アウターフィルムに粗面を形成したり起毛を形成するような場合、予め粗面或いは起毛を形成したフィルムを用意しておき、このフィルムに他のフィルムをラミネートして複層構造とすることが好ましい。
【0067】
インナーフィルムは、ライニング材を製造する際に、繊維基材に含浸された硬化性樹脂が漏洩することを防ぐ機能と、製造されたライニング材を折り畳んだとき、該ライニング材の内面どうしが互いに付着してしまうことを防ぐ機能を有するものである。そして、目的の管路を補修した後は、硬化したライニング層から剥離される。このため、前記機能を有するものであれば用いることが可能である。このようなインナーフィルムとしては、アウターフィルムと同じ材質のものを用いることが可能である。
【0068】
インナーフィルムはライニング材が硬化した後、硬化した含浸層から容易に剥離することが好ましい。このため、インナーフィルムはアウターフィルムと同じ材質であったとしても、同じ構造(接着材の塗布やプライマー処理或いは粗面等)である必要はない。
【実施例1】
【0069】
次にライニング材の実施例について図を用いて説明する。図に示すライニング材Aは、繊維基材4に硬化性樹脂5を含浸させた含浸層1と、目的の管路を補修する際に含浸層1の外周面となる面に配置され該含浸層1に付着したアウターフィルム2と、含浸層1に於けるアウターフィルム2が配置された面とは反対側の面(内周面)側に配置されたインナーフィルム3と、を有して長尺状に構成されている。ライニング材Aは、補修すべき管路を構成する二つのマンホール間の距離を満足し得る長さを有しており、外径は補修すべき管路の内周面の径と略等しい寸法を有している。
【0070】
ライニング材Aを構成する含浸層1は、繊維基材4に硬化性樹脂5を含浸させて構成されている。繊維基材4としては、ロービングクロスからなるガラス繊維4a、有機系繊維4bとしてのポリエステル繊維からなるフェルト(不織布)、の何れかが単独で、或いは積層した状態で用いられている(図3参照)。そして、前記繊維基材4に、光硬化性樹脂5a、熱硬化性樹脂5bが単独で或いは二層構造で用いられている(図4参照)。
【0071】
繊維基材4の実施例について図3により具体的に説明する。同図(a)は、繊維基材4がガラス繊維4a、又は有機系繊維4bが単独で用いられている状態を示している。硬化性樹脂5が硬化したとき、繊維基材4がガラス繊維4aによって構成されていると、有機系繊維4bによる場合よりも高い強度を発揮することが可能である。このため、補修すべき管路の径や要求される強度に対応させて適したものが選択される。特に、繊維基材4がガラス繊維4a単独で構成されている場合、該繊維基材4の厚さは最大でも約13mm程度である。また、繊維基材4が有機系繊維4b単独で構成されている場合、厚さは約13mmよりも大きくて良く且つ制限はない。
【0072】
同図(b)は、繊維基材4が、ガラス繊維4aと有機系繊維4bとの二層構造で構成されている状態を示している。この実施例では、ガラス繊維4aがインナーフィルム3側に配置されており、有機系繊維4bがアウターフィルム2側に配置されている。そして、硬化性樹脂5が硬化したとき、ガラス繊維4a及び有機系繊維4bは夫々所定の強度を発揮して管路を補強することが可能となる。
【0073】
同図(c)は、繊維基材4が、有機系繊維4bを中央に配置し、この有機系繊維基材4bの厚さ方向の両側にガラス繊維4a、4cが配置された三層構造で構成された状態を示している。この実施例では、硬化性樹脂5が硬化した後、硬化したライニング材Aに直径方向の力が作用したとき、ガラス繊維4a、4cには円周方向の位置に応じて大きい引張力又は圧縮力が作用するものの充分に対抗することが可能である。また、中間に配置された有機系繊維4bには大きな力が作用することがない。このため、外力に対し合理的に対抗することが可能なライニング材Aを構成することが可能となる。
【0074】
上記の如く繊維基材4をガラス繊維4a、4cと有機系繊維4bとの積層構造とした実施例では、インナーフィルム3側に配置されたガラス繊維4aはロービングクロスにチョップドストランドガラスを積層して構成されており、厚さが約3mm〜5mmの範囲に設定されている。また、有機系繊維4bとしてポリエステル繊維からなるフェルトを用いており、厚さは約5mm〜10mmの範囲内に設定されている。更に、ガラス繊維4cは、ロービングクロスの単体によって構成されており、厚さは約1mmに設定されている。
【0075】
次に、繊維基材4に対し硬化性樹脂5を含浸した実施例について図4により具体的に説明する。同図(a)は、繊維基材4に対し、光硬化性樹脂5a又は熱硬化性樹脂5bを単独で含浸させた状態を示している。前述したように、熱硬化性樹脂5bは大気の熱によって硬化が進行するという繊細さを有するため、製造から短時間で施工に入れるような場合は良いがそれ以外では、製造、搬入、施工の管理が困難であるという特徴がある。また、光硬化性樹脂5aの場合、大気光による影響を受けることはないものの、光を透過し得る厚さが約13mm程度であるという特徴を有する。
【0076】
繊維基材4に対し光硬化性樹脂5aを単独で含浸させる場合、この繊維基材4の厚さは最大でも約13mm程度である。また、光硬化性樹脂5aを含浸させる繊維基材4の構造は限定するものではなく、ガラス繊維4a、有機系繊維4bが単独で、或いは積層された状態で構成されていても問題なく対応することが可能である。
【0077】
繊維基材4に対し熱硬化性樹脂5bを単独で含浸させる場合、この繊維基材4の厚さは限定するものではない。即ち、繊維基材4の厚さは約13mmに限定されることなく、それ以上の厚さであって良い。更に、熱硬化性樹脂5bを含浸させる繊維基材4の構造も限定するものではなく、ガラス繊維4a、有機系繊維4bが単独で、或いは積層された状態で構成されていても問題なく対応することが可能である。
【0078】
同図(b)は、繊維基材4に対し光硬化性樹脂4aと熱硬化性樹脂4bを二層構造で含浸させた状態を示している。この実施例では、光硬化性樹脂5aはインナーフィルム3側に配置されており、熱硬化性樹脂5bはアウターフィルム2側に配置されている。前述したように、目的の管路の内周面をライニング材によって補修する場合、管路の内部に光照射装置を走行させて硬化させるのが作業上有利である。このため、光硬化性樹脂5aはインナーフィルム3側に配置されている。
【0079】
インナーフィルム3側に配置された光硬化性樹脂5aの厚さは、最大でも照射された光が充分に透過し得る厚さである約13mm程度である。また、アウターフィルム2側に配置された熱硬化性樹脂5bの厚さは限定するものではなく、繊維基材4の全厚から光硬化性樹脂5aを含浸させるべき厚さ(最大約13mm)を差し引いた厚さとなる。
【0080】
上記の如く、光硬化性樹脂5aと熱硬化性樹脂5bの二層構造で含浸させる繊維基材4の構造は特に限定するものではなく、図3(a)〜(c)に示す何れの構造であっても良い。
【0081】
特に、繊維基材4がガラス繊維4aと熱硬化性樹脂4bを積層して構成されている場合、これらガラス繊維4a、熱硬化性樹脂4bの夫々の厚さと含浸する各硬化性樹脂5a、5bの厚さは一致する必要はない。即ち、インナーフィルム3側に配置されているガラス繊維4aの厚さが約5mmである場合であっても、光硬化性樹脂5aを約13mm程度含浸させることが好ましい。
【0082】
繊維基材4に含浸する光硬化性樹脂5aには酸化マグネシウム(MgO)からなる増粘剤が含有されている。そして、光硬化性樹脂5aに増粘剤を含有させることによって、該光硬化剤5aは経時的に粘度が増加し、搬送過程で、或いは保管時にインナーフィルム3或いはアウターフィルム2から漏洩することがない。
【0083】
次に、アウターフィルム2の実施例について図2により具体的に説明する。アウターフィルム2は非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂である塩化ビニルフィルムによって構成され、含浸層1に付着して該含浸層1との間に間隙が形成されることがないように形成されている。同図(a)は、アウターフィルム2の一方の面に微細な凹凸2aを形成し、この凹凸2aを介して含浸層1を構成する繊維基材4、硬化性樹脂5に対する付着をはかることが可能である。
【0084】
同図(b)はアウターフィルム2の一方の面に起毛2bを形成し、この起毛2bを介して含浸層1を構成する繊維基材4、硬化性樹脂5との一体化をはかるように構成されている。
【0085】
アウターフィルム2に形成する凹凸2aの仕様や、起毛2bの仕様は特に限定するものではなく、硬化性樹脂5とのなじみ性や付着性等を考慮して形成される。尚、必ずしも凹凸2aや起毛2bに限定するものではなく、アウターフィルム2の良好な付着を実現し得る形状であれば良い。
【0086】
また、アウターフィルム2の厚さは特に限定するものではないが、上記凹凸2aや起毛2bを形成した場合、最も薄い部分の厚さが約1mm〜2mm程度確保されていることが好ましい。
【0087】
上記の如く構成されたライニング材Aによって目的の管路Bを補修した後、例えば地震時に於ける硬化したライニングAのアウターフィルム2の作用について図5により説明する。尚、前述したように、硬化したライニング材Aが損傷するのは管路Bを構成する管相互の継ぎ目部分であることが多いが、図5には管路Bは連続したものとして記載されている。
【0088】
地震の発生に伴って管路Bに軸方向の力が作用した結果、同図(a)に示すように、硬化した含浸層1に円周方向の破断部8が形成されることがある。このとき、アウターフィルム2が非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂によって構成されているため、含浸層1の破断部8の周囲に対応した部分が含浸層1から剥離すると共に伸長して伸長部2cが形成され、この結果、アウターフィルム2の伸長部2cによって破断部8が覆われる。そして、アウターフィルム2が非透水性を有するため、管路Bとライニング材Aの間に地下水が浸透しても、この地下水がライニング材Aの内部まで浸入することがない。従って、止水性を確保することが可能となる。
【0089】
また、管路Bに軸方向の力が作用した結果、アウターフィルム2の一部が裂けて破損部2dが形成されたような場合、地下水はこの破損部2dにまで浸透する。しかし、アウターフィルム2が含浸層1に付着しているため、両者の間に間隙が形成されることがなく、破損部2dまで浸透した地下水がライニング材Aの内部にまで浸入することがない。従って、止水性を確保することが可能となる。
【0090】
次に、第2実施例に係るアウターフィルム20の構成について図6により説明する。本実施例に係るアウターフィルム20は、被透水性に加えて緩衝性を有しており、且つ繊維基材4に含浸された硬化性樹脂の性質に関わらず安定した接着性を有するものである。
【0091】
このため、アウターフィルム20は、非透水性を有する表層フィルム21と、緩衝性を有する中間層フィルム22と、含浸層1に対する接着性を有する内層フィルム23と、からなり、これらの表層フィルム21、中間層フィルム22及び内層フィルム23を一体化させて構成されている。そして、表層フィルム21が非透水性を有しており、中間層フィルム22が緩衝性を有することで、アウターフィルム20は非透水性と伸縮性を実現しており、内層フィルム23が接着性を有することで含浸層1に対する付着性を確保している。
【0092】
表層フィルム21は、非透水性を有する熱可塑性樹脂フィルム或いは熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム、ポリウレタンフィルムを選択的に利用することが可能であり、選択されたフィルムを一層で或いは複数層ラミネートして利用することが可能である。
【0093】
本実施例では、表層フィルム21として、ポリエチレンフィルム21aと、ポリアミドフィルム21bと、ポリエチレンフィルム21cをラミネートした三層フィルムを利用している。このように構成された表層フィルム21は充分な遮光性を有する。このため、含浸層1に光硬化性樹脂5aのみが含浸されているライニング材Aを構成する際に用いて有利である。
【0094】
中間層フィルム22は、充分な緩衝性を発揮し得るように、繊維を主成分として形成されている。中間層フィルム22を構成する繊維として特に限定するものではなく、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等の合成樹脂繊維やガラス繊維を選択的に利用することが可能である。そして、これらの繊維を絡み合わせた状態で、或いは縦横に織った状態で利用することで充分な緩衝性を発揮することが可能となる。
【0095】
上記の如く構成された中間層フィルム22では、多数の繊維が厚さ方向に重なることで緩衝性(弾力性)を発揮することが可能である。このように、中間層フィルム22では、多数の繊維が厚さ方向に重なることによって繊維間に隙間が形成されることとなり、断熱性を発揮することが可能となる。このため、ライニング材Aを保管し或いは搬送する際に大気温度の影響を軽減することが可能となり、またライニング材Aが硬化する際に生じる熱が表層フィルム21に伝わるのを防ぐことが可能である。
【0096】
特に、中間層22を構成する繊維を縦横に織った状態で利用した場合には、これらの繊維がアウターフィルム20に作用する力を負担することが可能となり、補強層としての機能を発揮することが可能である。
【0097】
内層フィルム23は含浸層1に対し接着性を有していれば良く、材質を限定するものではない。本実施例では、内層フィルム23としてポリエチレンフィルムを利用している。
【0098】
アウターフィルム20は、表層フィルム21、中間層フィルム22、内層フィルム23を厚さ方向に重ねて加圧すると共に加熱することで一体化している。そして、前記各フィルム21〜23を加圧して一体化することによって、アウターフィルム20は厚さが約0.5mm〜約1.0mm程度に構成されている。
【0099】
上記の如く構成されたアウターフィルム20は、内層フィルム23が含浸層1に付着して構成されている。特に、内層フィルム23がポリエチレンを利用している場合、含浸層1に含浸された硬化性樹脂の材質によっては高い接着性を確保することが困難なことがある。このため、内層フィルム23を構成するポリエチレンフィルムの含浸層1と対向する面をコロナ放電して処理することで、充分な接着性を確保することが可能である。
【0100】
次に、アウターフィルム2の更に異なる実施例について簡単に説明する。軟質塩化ビニルフィルムを製作するに際し、塩化ビニル原料に対し繊維片として、ガラス繊維の繊維片(太さ約10μm、長さ約8mm〜約12mm)を約0.1重量%混合させ、前述の実施例と同様にしてアウターフィルム2を製作した。この実施例では、ガラス繊維の繊維片がアウターフィルム2に満遍なく含まれることから、該アウターフィルム2の強度を向上させたライニング材Aを構成することが可能であった。
【実施例2】
【0101】
次に上記の如きライニング材Aを用いて管路を補修する工法について説明する。先ず、図7(a)に示すように、補修すべき管路Bに設けられた二つのマンホールCの間に、未硬化状態で可撓性を持ったライニング材Aを敷設する。即ち、一方側のマンホールから他方のマンホールにワイヤ10を通し、このワイヤ10の先端に端部を結束して閉塞したライニング材Aを連結すると共に、該ワイヤ10を巻き上げることで、一方側のマンホールから他方側のマンホールにライニング材Aを敷設する。
【0102】
二つのマンホールCの間にライニング材Aを敷設した後、同図(b)に示すように、ライニング材Aの内部に、一方側(図の左側)から光照射装置11を挿入すると共に、他方側(図の右側)からコンプレッサー12に接続されたホース12aを挿入する。そして、コンプレッサー12から所定の圧力(約0.05MPa)に設定された圧縮空気を供給してライニング材Aを膨張させる。これにより、可撓性を有するライニング材Aは、アウターフィルム2が管路Bの内壁面に近接する。このとき、ライニング材Aのアウターフィルム2が管路Bの内壁面に密着することが好ましいが、必ずしも密着する必要はなく、多少の隙間が形成されていても問題はない。
【0103】
ライニング材Aが充分に膨張した後、光照射装置11を点灯し、ライニング材Aに光を照射しつつ、矢印方向に移動させる。光照射装置11から照射された光に反応して、繊維基材4に含浸された光硬化性樹脂5aが硬化を開始し、この反応に伴って発熱する。そして、この熱に反応して繊維基材4に含浸されている熱硬化性樹脂5bが硬化を開始する。このようにしてライニング材Aを構成する繊維基材4に含浸された硬化性樹脂5が硬化する。
【0104】
光照射装置11が点灯された状態でライニング材Aの内部を移動している間、ライニング材Aにはコンプレッサー12からの圧縮空気の供給が継続しており、この圧縮空気はライニング材Aの内部を通過して光照射装置11の移動方向上流側から排出される。この圧縮空気の通過によって、光硬化性樹脂の硬化に伴って生じる熱がライニング材Aの外部に排出され、ライニング材Aの内部温度の上昇を防ぐことが可能である。従って、ライニング材Aに含浸された樹脂が温度の上昇によって劣化することがなく、安定した性能を発揮することが可能である。
【0105】
同図(c)に示すように、管路Bに設けた二つのマンホールCの間に敷設されたライニング材Aが硬化した後、夫々のマンホールCに突出しているライニング材Aの端部を切断し、該マンホールCに露出した管路Bの内周面と硬化したライニング材Aの外側面との接触部位にコーキングして止水することで、管路Bの内周面を補修することが可能である。
【0106】
特に、硬化したライニング材Aは高い強度を発揮するため、管路Bの強度が低下しているような場合、この管路Bを補強することが可能であり、管路Bを構成する管の継ぎ目にずれが生じているような場合、このずれた部分を跨いで補修することで漏水を防ぐことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係るライニング材Aは、下水道用の管路に代表される管路であって、長期間の使用により内周面が劣化したり、強度が低下した管路の補修に利用して有利である。
【符号の説明】
【0108】
A ライニング材
B 管路
C マンホール
1 含浸層
2 アウターフィルム
2a 凹凸
2b 起毛
2c 伸長部
2d 破損部
3 インナーフィルム
4 繊維基材
4a、4c ガラス繊維
4b 有機系繊維
5 硬化性樹脂
5a 光硬化性樹脂
5b 熱硬化性樹脂
8 破断部
10 ワイヤ
11 光照射装置
12 コンプレッサー
12a ホース
20 アウターフィルム
21 表層フィルム
21a、21c ポリエチレンフィルム
21b ポリアミドフィルム
22 中間層フィルム
23 内層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路の内部に配置されて該管路の内面を被覆するスリーブ状のライニング材であって、
所定の厚さを有する繊維基材を有し該繊維基材に硬化性樹脂を含浸させて構成された含浸層と、前記含浸層に於ける被覆すべき管路の内面と対向する面に配置されたアウターフィルムと、前記含浸層に於けるアウターフィルムが配置された面とは反対側の面に配置されたインナーフィルムと、を有し、
前記アウターフィルムは非透水性と伸縮性を有する熱可塑性樹脂フィルム又は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム或いはポリウレタンフィルムからなり、前記含浸層に付着していることを特徴とするライニング材。
【請求項2】
前記アウターフィルムが、少なくとも該アウターフィルムを構成する材料よりも高い強度を持った材料からなる繊維を含有したものであることを特徴とする請求項1に記載したライニング材。
【請求項3】
前記繊維基材に含浸される硬化性樹脂が、光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したライニング材。
【請求項4】
前記アウターフィルムに於ける前記含浸層と対向する面が粗面として形成されており、該粗面を介してアウターフィルムは前記含浸層に対し一体的に付着していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載したライニング材。
【請求項5】
前記粗面が前記アウターフィルムに形成された起毛によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載したライニング材。
【請求項6】
前記アウターフィルムが、非透水性を有する表層フィルムと、緩衝性を有する中間層フィルムと、含浸層に対する接着性を有する内層フィルムと、からなり、
前記表層フィルム及び中間層フィルム及び内層フィルムを一体化させて構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載したライニング材。
【請求項7】
前記アウターフィルムを構成する表層フィルムがポリエチレンフィルムとポリアミドフィルムとポリエチレンフィルムをラミネートした遮光性を有する三層フィルムからなり、且つ含浸層には光硬化性樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項6に記載したライニング材。
【請求項8】
前記アウターフィルムが、表層フィルム及び中間層フィルム及び内層フィルムを重ねて加圧すると共に加熱して一体化させて構成されたものであることを特徴とする請求項6又は7に記載したライニング材。
【請求項9】
前記アウターフィルムを構成する内層フィルムがポリエチレンフィルムからなり、該ポリエチレンフィルムの含浸層と対向する面がコロナ処理されていることを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載したライニング材。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載したライニング材を用いて管路の内面を補修する補修工法であって、
補修すべき管路の内部に請求項1乃至請求項9の何れかに記載したライニング材を配置して該ライニング材を膨張させてアウターフィルムを管路の内面に近接させ、
その後、膨張したライニング材の内部に光照射装置を挿入して該光照射装置からライニング材に光を照射し又は加熱装置を挿入して該加熱装置によってライニング材を加熱しつつ補修すべき管路に沿って移動させることで硬化性樹脂を硬化させて含浸層を硬化させると共に、該含浸層にアウターフィルムを一体的に付着させて補修すべき管路の内面を補修することを特徴とする管路の補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−140221(P2011−140221A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272357(P2010−272357)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(595053777)吉佳株式会社 (49)
【Fターム(参考)】