説明

ラクトフェリン、並びに成人及び/又は高齢者における腸の神経細胞の健康

本発明は一般に、神経細胞の健康及び神経細胞の保護の分野に関する。本発明の一実施形態は、腸神経系を神経変性から保護するために使用することができる組成物に関する。腸神経系の損傷に関連する障害は、本発明によるラクトフェリン含有組成物の投与により治療又は予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、神経細胞の健康及び神経細胞の保護の分野に関する。本発明の一実施形態は、腸神経系の保護及び/又は修復のために使用することができる組成物に関する。腸神経系の損傷に関連する障害を、本発明によるラクトフェリン含有組成物の投与により治療又は予防することができる。
【背景技術】
【0002】
神経系は、神経細胞及びグリア細胞から構成される極めて複雑なネットワークである。神経系は、全ての哺乳動物種に存在する。神経系は、中枢神経系(脳及び脊髄)、並びに末梢神経系(体性神経系、自律神経系及び腸神経系)から構成される。中枢神経系は、認知機能(記憶、注意、知覚、行為等)を推進する。
【0003】
中枢神経系は、認知機能(記憶、注意、知覚、行為等)を推進する。中枢神経系は、末梢神経系と一緒になって、行動の制御における根本的な役割を担う。体性神経系は、(意識的な制御下の)身体の動作の協調に関与する。自律神経系は、意識的な制御を受けない身体活動(心拍数等)におけるホメオスタシスを維持する。最後に、消化管の機能、例として、腸バリア、運動性、吸収、消化及び分泌を直接制御する腸神経系は、したがって、自律神経系の一部と一緒になって、多岐にわたる腸の保護及び消化の快適さに寄与する。
【0004】
神経系は、妊娠の間に発達し、次いで、生後期間の間には成熟した機能的ネットワークに精緻化する。
【0005】
加齢と共に、又は腸のニューロパシーが伴う任意の病理学的状況(例えば、糖尿病、IBD、IBS等の腸の炎症、パーキンソン病、化学療法による治療に関連する腸の粘膜炎等)において、腸内の神経系が、例えば、環境要因又はストレスにより攻撃され、神経細胞の喪失が発生する。その結果として、腸神経系の損傷が生じ得る。
【0006】
そのような腸神経系の損傷は、腸の機能障害、例として、栄養不良に寄与する低い消化力/吸収力、腸の運動不全(より緩慢な腸の通過から、便秘又は慢性腸偽閉塞まで)、弱い腸バリアの機能、経腸栄養補給不耐性(したがって、非経口栄養サポートが必要となる)、より硬い大便を伴う腸の不快感、及び感染の危険性の増加を起こす恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現況技術を改善し、天然の成分に基づき、腸内の神経系の保護を可能にする組成物を提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を、独立請求項の主題により達成した。
【0009】
本発明者らは、ラクトフェリン、例えば、ラクトフェリンを補充した組成物を使用して、腸の神経細胞を保護することができることを実証し得た。
【0010】
さらに、本発明者らは、ラクトフェリン、例えば、ラクトフェリンを補充した組成物を使用して、神経細胞の修復プロセスに有利に働き得る神経細胞の増殖を促すことができることも実証し得た。
【0011】
ラクトフェリンの投与により、神経細胞の密度及び神経細胞の生存の増加が可能になることもさらに示すことができた。
【0012】
また、ラクトフェリン(LF)は、ラクトトランスフェリン(LTF)としても公知であり、抗菌活性を示し、先天的防御の一部を、主として、粘膜においてなすことが公知である球状の多機能性タンパク質である。
【0013】
ラクトフェリンは、例えば、乳及びホエイ中、並びに涙及び唾液等の多くの粘膜分泌物中に見出すことができる。したがって、ラクトフェリンは、例えば、乳から精製することもでき、又は組換えにより産生することもできる。
【0014】
本発明は、任意の供給源から入手可能なラクトフェリンに関する。
【0015】
乳又はホエイに由来するラクトフェリンは、例えば、食品グレードの組成物から得られた天然の成分であり、その結果、食品組成物の豊富な画分として、さらに精製することなく使用され得る利点を有する。
【0016】
組換えにより得られたラクトフェリンは、高い濃度で容易に産生され得る利点を有する。
【0017】
ヒト初乳は、比較的高い濃度のラクトフェリンを有し、人乳、次いで、牛乳が続く。
【0018】
本発明者らは、ラクトフェリン又はラクトフェリン豊富な組成物を使用して、神経細胞を変性から保護することができることを見出すに至った。そのような変性は、例えば、上記に列挙した状況又は病態に関連する任意のストレスに続く場合がある。ラクトフェリンは、神経細胞の生存を促すこと、及び/又は腸の神経細胞の神経細胞死を制限若しくは予防すること、並びに修復プロセスにとって重要である神経細胞の増殖を促すことが見出された。
【0019】
成人又は高齢者において、本発明のラクトフェリン及び/又はラクトフェリン含有組成物を使用して、神経系を任意のストレスから保護し、その結果、ストレス誘導型の腸神経の機能障害を制限及び/又は予防することができる。
【0020】
本発明の目的では、用語「成人」は、18歳超の人々を含む。
【0021】
対象が、出生国の平均寿命の最初の半分を超えている場合、好ましくは、出生国の平均寿命の最初の3分の2を超えている場合、より好ましくは、出生国の平均寿命の最初の4分3を超えている場合、最も好ましくは、出生国の平均寿命の最初の5分の4を超えている場合、対象を、「高齢者」とみなす。
【0022】
ラクトフェリン及び/又は本発明の組成物を、例えば、
成人
高齢の人々
任意のタイプの生理学的若しくは病理学的な状態に関連する腸のニューロパシーを示している任意の成人若しくは高齢の人、及び/又は
腸の機能障害(消化障害、消化器の運動性障害、胃食道逆流、便秘、便失禁、経口栄養補給不耐性、非経口栄養補給)、腸閉塞の病態を示している任意の成人若しくは高齢の人
に投与することができる。
【0023】
したがって、本発明の一実施形態は、ラクトフェリンが豊富な摂取可能組成物である。
【0024】
豊富な(enriched)とは、ラクトフェリンが組成物に添加され、したがって、組成物の結果として生じるラクトフェリン含有量が、ラクトフェリンが添加されていない組成物のラクトフェリン含有量よりも高いこと、又は組成物中の天然ラクトフェリンの含有量を濃縮するための方法で、組成物を処理したことのいずれかを意味する。
【0025】
また、ラクトフェリンを、純粋な化合物として提供することもできる。
【0026】
あるいは、ラクトフェリンを、ラクトフェリン豊富な画分、例えば、ラクトフェリン豊富な乳画分又はラクトフェリン豊富なホエイ画分として提供することもできる。
【0027】
乳又はホエイの供給源として、例えば、牛乳、人乳、ヤギ乳、ラクダ乳、馬乳及び/又はロバ乳を使用することができる。その上、初乳を使用することもできる。
【0028】
治療的用途では、組成物を、障害及び/又は障害の合併症の症状を少なくとも部分的に治癒する又は停止させるのに十分な量で投与する。症状の少なくとも部分的な治癒又は停止を達成するのに適切な量を、「治療有効用量」と定義する。この目的に有効な量は、当業者に公知のいくつかの要因、例として、障害の重症度、並びに患者の体重及び全身状態に依存する。予防的な適用では、本発明による組成物を、特定の障害に罹患しやすい又は別の場合には特定の障害の危険性がある患者に、障害を発症する危険性を少なくとも部分的に低下させるのに十分な量で投与する。そのような量を、「予防有効用量」と定義する。ここでも、正確な量は、患者に特異的ないくつかの要因、例として、患者の健康状態及び体重に依存する。
【0029】
ラクトフェリンを、本発明の枠組みにおいて、治療有効用量及び/又は予防有効用量で投与することができる。
【0030】
典型的なラクトフェリン豊富な組成物は、ラクトフェリンを少なくとも1.6g/Lの量で含むことができる。
【0031】
例えば、本発明の組成物は、ラクトフェリンを少なくとも0.75%(w/w)、好ましくは少なくとも1%(w/w)の濃度で含有することができる。
【0032】
一実施形態では、組成物は、少なくとも0.25gのラクトフェリン/日/kg体重、好ましくは少なくとも0.5gのラクトフェリン/日/kg体重、より好ましくは少なくとも1gのラクトフェリン/日/kg体重の摂取に相当する量で投与される。
【0033】
例えば、妊娠中の母親及び/又は授乳中の母親については、組成物を、少なくとも1gのラクトフェリン/kg体重/日の摂取に相当する量で消費することができる。
【0034】
ラクトフェリンは、組成物中に、100kcal当たり少なくとも0.01g、好ましくは100kcal当たり少なくとも0.1gの濃度で存在することができる。例えば、ラクトフェリンは、組成物中に100kcalの組成物当たり、約0.01g〜100g、好ましくは0.1g〜50g、さらにより好ましくは2g〜25gの範囲で存在することができる。
【0035】
また、ラクトフェリンは、例えば、シアル酸及び/また鉄等のその他の化合物と組み合わせて使用することもできる。
【0036】
シアル酸は、9個の炭素からなる骨格を有する単糖であるノイラミン酸のN−又はO−置換誘導体の総称である。
【0037】
本発明の目的では、任意のシアル酸を使用することができる。しかし、シアル酸が、以下の式を有することが好ましい。
【化1】

【0038】
R1は、H、アセチル、ラクチル、メチル、硫酸、リン酸、アンヒドロシアル酸、フコース、グルコース及び/又はガラクトースからなる群から選択することができる。
【0039】
R2は、N−アセチル、N−グリコリル、アミノ、ヒドロキシル、N−グリコリル−O−アセチル及び/又はN−グリコリル−O−メチルからなる群から選択することができる。
【0040】
R3は、H、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸及び/又はn−グリコリルノイラミン酸からなる群から選択することができる。
【0041】
R1位の基は、同一であっても又は相互に異なってもよい。
【0042】
例えば、シアル酸は、R1=H、R2=N−アセチル及びR3=HであるN−アセチルノイラミン酸であり得る。本発明のさらなる実施形態によれば、シアル酸は、2−ケト−5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−d−グリセロ−d−ガラクトノヌロソニン酸(Neu5Ac)又はそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0043】
本発明において使用するシアル酸は、N−アセチルノイラミン酸を含み、N−アセチルノイラミン酸は、以下の同義語及び略語を有する。すなわち、o−シアル酸;5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロソニン酸;5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトヌロソニン酸;アセノイラム酸;N−アセチル−ノイラミネート;N−アセチルノイラミン酸;NANA及びNeu5Ac。
【0044】
特定の好ましいラクトフェリン含有組成物は、シアル酸を、100mg/100g(w/w)組成物〜1000mg/100g(w/w)組成物の範囲、例えば、500mg/100g(w/w)組成物〜650mg/100g(w/w)組成物の範囲の量で含有することができる。
【0045】
本発明の組成物は、例えば、少なくとも約0.001重量%のシアル酸を含むことができる。本発明のさらなる実施形態では、組成物は、少なくとも約0.005重量%又は少なくとも約0.01重量%のシアル酸を含むことができる。
【0046】
あるいは又はさらに、ラクトフェリン含有組成物は、鉄を、約1mg/100g(w/w)組成物〜50mg/100g(w/w)組成物、例えば、10mg/100g(w/w)組成物〜30mg/100g(w/w)組成物の範囲の量で含有することができる。
【0047】
1つのラクトフェリン含有組成物が、例えば、約852mg/100g(w/w)のシアル酸及び22mg/100g(w/w)の鉄を含有することができる。
【0048】
本発明のラクトフェリン含有組成物は、30kcal/100g組成物〜1000kcal/100g組成物、好ましくは50kcal/100g組成物〜450kcal/100g組成物の範囲のカロリー密度を有することができる。本発明のラクトフェリン含有組成物は、例えば、約400kcal/100gのカロリー密度を有することができる。
【0049】
組成物の性質は、特に限定されない。組成物は、好ましくは、経口投与、経腸投与又は非経口投与のための組成物である。
【0050】
組成物は、例えば、食料製品、動物食料製品、医薬組成物、栄養配合物、栄養補助食品、飲料、食品添加物、栄養サプリメント及び高齢の人々のための補給調合乳からなる群から選択することができる。
【0051】
本発明の1つの典型的な実施形態では、組成物は、タンパク質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を含有する。
【0052】
非経口適用の形態では、組成物が、タンパク質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を同時には含有しないことが好ましい場合がある。代わりに、非経口投与の間には、炭水化物供給源を、タンパク質供給源及び/又は脂質供給源と別個に投与して、詰まりの危険性を低下させる。
【0053】
組成物は、1.4g/100kcal組成物〜100g/100kcal組成物の間、好ましくは2g/100kcal組成物〜6g/100kcal組成物の間の範囲で存在することができるタンパク質供給源を含む。ラクトフェリンは、タンパク質であり、タンパク質供給源の一部とみなすべきである。
【0054】
タンパク質のタイプが、本発明にとって重要な意味をもつとは考えられない。したがって、例えば、ホエイ、カゼイン及びそれらの混合物に基づくタンパク質供給源を使用することができる。ホエイタンパク質に関しては、酸ホエイ若しくはスイートホエイ又はそれらの混合物を使用することができ、さらに、何らかの比率のアルファ−ラクトアルブミンとベータ−ラクトグロブリンも望ましい。ホエイタンパク質は、加工スイートホエイであり得る。スイートホエイは、容易に入手可能な、チーズを作製する際の副産物であり、牛乳に基づく栄養調合乳の製造において頻繁に使用される。しかし、スイートホエイは、カゼイノ−グリコ−マクロペプチド(CGMP)と呼ばれる、望ましくないレベルでスレオニンに富み、トリプトファンが不足する構成成分を含む。スイートホエイからのCGMPの除去により、人乳のスレオニン含有量により近いスレオニン含有量を有するタンパク質が生じる。次いで、CGMPを除去した加工スイートホエイ中では含有量が低いアミノ酸(主に、ヒスチジン及びトリプトファン)を、この加工スイートホエイに補充することができる。スイートホエイからCGMPを除去するためのプロセスが、EP880902に記載されており、CGMPを除去した加工スイートホエイに基づく栄養調合乳が、国際公開第01/11990号パンフレットに記載されている。タンパク質は、未変化のタンパク質、又は加水分解されたタンパク質、又は未変化のタンパク質と加水分解されたタンパク質との混合物であり得る。(2%〜20%の間の加水分解の程度の)部分的に加水分解されたタンパク質を、例えば、牛乳アレルギーを発症する危険性があると考えられる対象に供給するのが望ましい場合がある。加水分解されたタンパク質を必要とする場合、加水分解プロセスを、要望及び当技術分野で公知であるところに従って実施することができる。例えば、ホエイタンパク質の加水分解産物を、EP322589の記載に従う2工程で、ホエイ画分を酵素により加水分解することによって調製することができる。広範に加水分解されたタンパク質のためには、ホエイタンパク質に対して、55℃で、Alcalase2.4L(EC940459)、次いで、Neutrase0.5L(Novo Nordisk Ferment AGから入手可能)、及び次いで、パンクレアチンを使用する三重加水分解を行うことができる。出発材料として使用するホエイ画分が、実質的にラクトースを含有しない場合、このホエイタンパク質は、加水分解プロセスの間には、はるかにより少ないリジンの阻害を被ることが見出されている。実質的にラクトースを含有しないことにより、リジンの阻害の程度を、総リジンの約15重量%〜約10重量%未満のリジン、例えば、約7重量%のリジンに低下させることができ、こうした低下は、タンパク質供給源の栄養の質を大幅に改善する。
【0055】
ホエイタンパク質がいくつかの健康上の利益をもたらすことは公知である。例えば、ホエイタンパク質は容易に消化できる。ホエイ中のタンパク質画分(ホエイ内の総乾燥固体のおよそ10%)は、いくつかのタンパク質画分、例えば、ベータ−ラクトグロブリン、アルファ−ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン及び免疫グロブリンを含む。一実施形態では、タンパク質供給源の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも85重量%が、ホエイタンパク質である。
【0056】
本発明の組成物は、脂質供給源を含有することができる。脂質供給源は、任意の脂質であり得る。好ましい脂肪供給源は、乳脂肪、パームオレイン、高オレインヒマワリ油及び高オレイン紅花油を含む。また、必須脂肪酸のリノール酸及びα−リノレン酸を、魚油又は微生物油等、高い分量のあらかじめ形成されたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を含有する少量の油として添加することもできる。脂質供給源は、好ましくは約5:1〜約15:1、例えば、約8:1〜約10:1の、n−3脂肪酸に対するn−6脂肪酸の比を有する。
【0057】
脂質供給源が存在する場合、脂質供給源は、組成物の総エネルギーの30%〜55%の間を占めることができる。
【0058】
本発明の組成物は、炭水化物供給源を含有することができる。ラクトース、ショ糖、マルトデキストリン、デンプン及びそれらの混合物等の任意の炭水化物供給源を使用することができる。
【0059】
炭水化物供給源は、組成物の総エネルギーの35%〜65%の間を占めることができる。
【0060】
例えば、本発明の組成物は、約1.8〜3.0g/100kcalの範囲のタンパク質、約4.4〜6.5g/100kcalの範囲の脂質、及び/又は約1.7〜12g/100kcalの範囲の炭水化物を含むことができる。
【0061】
組成物は液体である場合、組成物のエネルギー密度は、60kcal/100ml〜75kcal/100mlの間であり得る。
【0062】
組成物は固体である場合、組成物のエネルギー密度は、60kcal/100g〜75kcal/100gの間であり得る。
【0063】
また、本発明の組成物は、1日の食餌として、かつ栄養的に顕著な量で必須であると理解されている全てのビタミン及び鉱物を含有することもできる。特定のビタミン及び鉱物について、最小必要量が確立されている。組成物中に場合により存在する鉱物、ビタミン及びその他の栄養素の例として、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、亜リン酸、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩化物、カリウム、ナトリウム、セレニウム、クロム、モリブデン、タウリン及びL−カルニチンが挙げられる。鉱物は通常、塩の形態で添加する。特定の鉱物及びその他のビタミンの存在及び量は、多数の要因、例として、組成物を投与する人又は動物の年齢、体重及び状態に応じて変化する。
【0064】
また、組成物は、少なくとも1つのプロバイオティクス細菌株も含むこともできる。プロバイオティクスは、微生物細胞の調製物又は微生物細胞の構成成分であり、宿主の健康又は生活状態に対して有益な作用を示す。適切なプロバイオティクス細菌株として、フィンランドのValio Oyから、登録商標LGGの下で入手可能であるラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)ATCC53103、ラクトバチルス・ラムノサスCGMCC1.3724、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)CNCM I−2116、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)ATCC55730、及びBioGaia ABから入手可能であるラクトバチルス・ロイテリDSM17938、とりわけ、デンマークのChristian Hansen companyにより、登録商標Bb12の下で販売されているビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)CNCM I−3446、日本のMorinaga Milk Industry Co.Ltdにより、登録商標BB536の下で販売されているビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)ATCC BAA−999が挙げられる。同様に、プロバイオティクスが存在する場合、プロバイオティクスの量も、好ましくは、人又は動物の年齢に応じて変化する。一般的にいえば、プロバイオティクスの含有量を、乳幼児の年齢の増加と共に、例えば、10cfu/g調合乳〜1012cfu/g調合乳、より好ましくは、10cfu/g調合乳〜10cfu/g組成物(乾重量)の間で増加させることができる。
【0065】
また、組成物は、少なくとも1つのプレバイオティクスも0.3〜10%の量で含有することもできる。プレバイオティクスは、結腸内の1つ又は限定された数の細菌の増殖及び/又は活性を選択的に刺激することによって宿主に有益な影響を及ぼし、したがって、宿主の健康を改善する、消化されない食品成分である。そのような消化されない成分は、胃又は小腸において分解及び吸収されず、したがって、未変化で通過し、結腸に達するという意味においては未消化であり、結腸では、有益細菌により選択的に発酵する。プレバイオティクスの例には、特定のオリゴ糖、例として、フラクトオリゴ糖(FOS)及びガラクトオリゴ糖(GOS)が挙げられる。プレバイオティクスの組合せ、例として、90%GOSと10%の短鎖フルクト−オリゴ糖との組合せ、すなわち、登録商標ラフチロース(Raftilose)(登録商標)の下で販売されている製品等、又は90%GOSと10%イヌリンとの組合せ、すなわち、登録商標ラフチリン(Raftiline)(登録商標)の下で販売されている製品等を使用することができる。
【0066】
特に好ましいプレバイオティクスは、ガラクト−オリゴ糖(複数可)とN−アセチル化オリゴ糖(複数可)とシアル酸付加オリゴ糖(複数可)との混合物であり、この混合物中では、N−アセチル化オリゴ糖(複数可)は、オリゴ糖混合物の0.5〜4.0%を構成し、ガラクト−オリゴ糖(複数可)は、オリゴ糖混合物の92.0〜98.5%を構成し、シアル酸付加オリゴ糖(複数可)は、オリゴ糖混合物の1.0〜4.0%を構成する。この混合物を以下、「CMOS−GOS」と呼ぶ。好ましくは、本発明に従って使用するための組成物は、乾燥物質に基づいて2.5〜15.0wt%のCMOS−GOSを含有する。但し、組成物は、少なくとも0.02wt%のN−アセチル化オリゴ糖、少なくとも2.0wt%のガラクト−オリゴ糖、及び少なくとも0.04wt%のシアル酸付加オリゴ糖を含む。
【0067】
適切なN−アセチル化オリゴ糖として、GalNAcα1,3Galβ1,4Glc、及びGalβ1,6GalNAcα1,3Galβ1,4Glcが挙げられる。N−アセチル化オリゴ糖は、グルコサミニダーゼ及び/又はガラクトサミニダーゼの、N−アセチル−グルコース及び/又はN−アセチルガラクトースに対する作用により調製することができる。等しく、この目的では、N−アセチル−ガラクトシルトランスフェラーゼ及び/又はN−アセチル−グリコシルトランスフェラーゼも使用することができる。また、N−アセチル化オリゴ糖は、それぞれの酵素(組換え若しくは天然)及び/又は微生物発酵を使用する発酵技術により産生することもできる。後者の場合、微生物に、微生物の天然の酵素及び基質を発現させること、又は微生物を、それぞれの基質及び酵素を産生するように工学的に作製することのいずれもが可能である。単一微生物の培養物又は混合培養物を使用することができる。N−アセチル化オリゴ糖の形成を、アクセプター基質により、DP=1以上の任意の重合度(DP)から出発して開始することができる。Wrodnigg,T.M.;Stutz,A.E.(1999)Angew.Chem.Int.Ed.38:827〜828に記載されているように、別の選択肢は、遊離の又はオリゴ糖(例えば、ラクツロース)に結合しているケト−ヘキソース(例えば、フルクトース)の、N−アセチルヘキソサミン又はN−アセチルヘキソサミン含有オリゴ糖への化学的変換である。
【0068】
適切なガラクト−オリゴ糖として、Galβ1,6Gal、Galβ1,6Galβ1,4GlcGalβ1,6Galβ1,6Glc、Galβ1,3Galβ1,3Glc、Galβ1,3Galβ1,4Glc、Galβ1,6Galβ1,6Galβ1,4Glc、Galβ1,6Galβ1,3Galβ1,4Glc Galβ1,3Galβ1,6Galβ1,4Glc、Galβ1,3Galβ1,3Galβ1,4Glc、Galβ1,4Galβ1,4Glc、及びGalβ1,4Galβ1,4Galβ1,4Glcが挙げられる。合成ガラクト−オリゴ糖、例として、Galβ1,6Galβ1,4GlcGalβ1,6Galβ1,6Glc、Galβ1,3Galβ1,4Glc、Galβ1,6Galβ1,6Galβ1,4Glc、Galβ1,6Galβ1,3Galβ1,4Glc、及びGalβ1,3Galβ1,6Galβ1,4Glc、Galβ1,4Galβ1,4Glc、及びGalβ1,4Galβ1,4Galβ1,4Glc、及びそれらの混合物が、登録商標ヴィヴィナール(Vivinal)(登録商標)及びElix’or(登録商標)の下で市販されている。オリゴ糖のその他の供給元は、Dextra Laboratories、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、及びKyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd.である。あるいは、特定のグリコシルトランスフェラーゼ、例として、ガラクトシルトランスフェラーゼを使用して、中性オリゴ糖を産生することもできる。
【0069】
適切なシアル酸付加オリゴ糖として、NeuAcα2,3Galβ1,4Glc、及びNeuAcα2,6Galβ1,4Glcが挙げられる。これらのシアル酸付加オリゴ糖は、クロマトグラフィー技術又はろ過技術により、動物乳等の天然の供給源から単離することができる。あるいはまた、適切なシアル酸付加オリゴ糖は、特定のシアリルトランスフェラーゼを使用する生物工学によって、酵素(組換え若しくは天然の酵素)に基づいた発酵技術、又は微生物発酵技術のいずれかにより産生することもできる。後者の場合、微生物に、微生物の天然の酵素及び基質を発現させること、又は微生物を、それぞれの基質及び酵素を産生するように工学的に作製することのいずれもが可能である。単一微生物の培養物又は混合培養物を使用することができる。シアリル−オリゴ糖の形成を、アクセプター基質により、DP=1以上の任意の重合度(DP)から出発して開始することができる。
【0070】
組成物は場合により、有益な作用を示すことができるその他の物質、例として、ヌクレオチド、ヌクレオシド等を含有することもできる。
【0071】
本発明において使用するための組成物は、任意の適切な様式で調製することができる。例えば、栄養調合乳は、タンパク質供給源、炭水化物供給源及び脂肪供給源を適切な比率で一緒にブレンドすることによって調製することができる。乳化剤を使用する場合、乳化剤は、ブレンド中に含めることができる。ビタミン及び鉱物を、この時点で添加することができるが、通常は、熱分解を回避するために、後から添加する。任意の親油性ビタミン、乳化剤等を、ブレンドする前に脂肪供給源中に溶解させることができる。次いで、水、好ましくは、逆浸透に曝してある水を、混入して、液体混合物を形成することができる。次いで、液体混合物を熱処理して、細菌量を低下させることができる。例えば、液体混合物を、約80℃〜約110℃の範囲の温度まで、約5秒〜約5分かけて迅速に加熱することができる。加熱は、蒸気噴射により、又は熱交換器、例えば、プレート熱交換器により実施することができる。次いで、液体混合物を、例えば、急冷法により、約60℃〜約85℃まで冷却することができる。次いで、液体混合物を、例えば、第1の段階の約7MPa〜約40MPa及び第2の段階の約2MPa〜約14MPaの2段階でホモジナイズすることができる。次いで、ホモジナイズした混合物を、さらに冷却して、任意の熱感受性の構成成分、例として、ビタミン及び鉱物を添加することができる。ホモジナイズした混合物のpH及び固体含有量を、この時点で標定するのが好都合である。ホモジナイズした混合物を、適切な乾燥装置、例として、噴霧乾燥機又は凍結乾燥機に移し、粉末に変換する。粉末は、約5重量%未満の水分含量を有すべきである。プロバイオティクス(複数可)の添加が望まれる場合、プロバイオティクスを、任意の適切な方法に従って培養し、例えば、凍結乾燥又は噴霧乾燥により調製して、栄養調合乳に添加することができる。あるいは、食料製品に添加するのに適切な形態であらかじめ調製されている細菌調製物を、専門の供給元、例として、Christian Hansen及びMorinagaから購入することもできる。そのような細菌調製物は、粉末の栄養調合乳に、空練りにより添加することができる。
【0072】
ラクトフェリンは、上記の手順の間の任意の段階で添加することができるが、好ましくは加熱ステップの後に添加する。
【0073】
本発明は、腸神経系の保護のため、並びに腸神経系の損傷に関連する障害の治療及び/又は予防のための組成物の調製のためのラクトフェリンの使用にも及ぶ。
【0074】
腸のニューロパシーに、したがって、腸神経系の損傷に関連する障害として、例えば、栄養不良に寄与する低い消化力及び/又は吸収力、胃食道逆流、腸の運動不全(より緩慢な腸の通過から、便秘又は慢性腸偽閉塞まで、便失禁)、胃食道逆流、弱い腸バリアの機能、経腸栄養補給不耐性(したがって、非経口栄養サポートが必要となる)、より硬い大便を伴う腸の不快感、並びに感染の危険性の増加が挙げられる。
【0075】
本発明の別の実施形態では、ラクトフェリン含有組成物を使用して、神経細胞移動の遅延を治療又は予防することができる。
【0076】
本発明の組成物を使用して、神経細胞密度及び/又は神経細胞の生存を増加させることができる。
【0077】
本発明において使用するためには、組成物が、ラクトフェリン又は消費されてラクトフェリンをもたらす化合物を含有することが必須である。組成物は、ラクトフェリンが豊富な必要はないが、ラクトフェリンが豊富なことが、より多くのラクトフェリンをより小さな体積で投与することができることから、好ましい場合がある。
【0078】
ラクトフェリンを使用して、任意の種類の組成物を調製することができる。しかし、ラクトフェリンを、上記の記載に従う組成物として提供するのが好ましい。
【0079】
組成物は、成人及び/又は高齢者に投与することができる。
【0080】
当業者であれば、本明細書に記載する本発明の全ての特徴を、開示する本発明の範囲から逸脱することなく自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明において使用するために記載した特徴は、本発明の組成物及び/又はラクトフェリンに適用することができ、逆もまたしかりである。
【0081】
本発明のさらなる利点及び特徴が、以下の実施例及び図から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】基礎条件(未処理の細胞)における、並びに細胞を、神経栄養因子CNTF(100ng/mL)又は異なる濃度のラクトフェリンが豊富な牛乳画分のいずれかを用いて処理した後における、神経突起の伸長について陽性のNS20Y細胞のパーセントを示すグラフである。データは、平均±SEMであり、群により、n=3〜7である(基礎、n=7;CNTF、n=3;1ug/L、n=3;10ug/L、n=7;100ug/L、n=3;1mg/L、n=3;10mg/L、n=5;100mg/L、n=7;1g/L、n=6)。データを、スチューデントt検定を用いて、基礎の未処理群と比較した。P<0.05の場合、差を有意であるとみなした。
【図2】腸内神経細胞を初代培養し、続いて、Hにより誘発し、牛乳ラクトフェリンを用いて予防した、神経細胞に特異的なエノラーゼ(NSE)の放出を示すグラフである。エノラーゼ(NSE)は、神経細胞の細胞死のマーカーである。データは、平均±SEM、n=8である。P<0.05の場合、差を有意であるとみなした。
【図3】SH−SY5Y細胞を培養し、続いて、0.001g/L〜1g/Lの範囲の異なる濃度の牛乳ラクトフェリンの存在下又は非存在下で、Hを用いて誘発した場合の、7−AAD陽性細胞のパーセントを示すグラフである。
【図4】DAPI染色後の海馬のCA2〜CA3の分野における核の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
[実施例]
ラクトフェリンが豊富な牛乳画分の生物学的活性:インビトロにおける神経突起の伸長に関する作用
神経突起の伸長のプロセスは、神経細胞からの軸索の伸長を含み、神経突起の伸長のプロセスは、神経細胞の発達の一部である。ラクトフェリンが豊富な牛乳画分の、神経突起の伸長に対する影響を、十分に確立され、一般に使用されているインビトロにおけるバイオアッセイを使用して測定した。
【0084】
手短に述べると、NS20Yマウスの神経芽細胞腫細胞(DSMZ)を、低温貯蔵から解凍し、組織培養用に処理されたフラスコ(Falcon)中に、およそ27×10細胞/cmの密度で蒔き、10%FCS(Gibco)及び2mM L−グルタミン(Gibco)を含有するDMEM(Gibco)の存在下で拡大増殖した。プレーティングの2日後、細胞を、フラスコから機械的撹拌(フラスコを軽くたたくこと)により脱離させ、懸濁液を火炎処理したガラス製ピペットに数回通すことによって、単一細胞の懸濁液を得た。次いで、細胞を、13mmの円形カバーガラス上に、10%FCS及び2mM L−グルタミンを含有するDMEMの存在下、2,000細胞/カバーガラスの密度で蒔いた。翌日、培地を、0.5%FCS、2mM L−グルタミン、及び試験しようとする異なる濃度の乳画分を含有するDMEMに切換えた。1日後、細胞を、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、カバーガラスをスライド上にマウントした。
【0085】
全てのカバーガラスの画像を、Axioplan2顕微鏡(Zeiss)を用いて撮影した。デジタル画像を、25個の規定された視野から、カバーガラスの直径にわたって撮影した(20×の対物、Axiocam MRc、Zeiss)。細胞を、カバーガラスの端の第1の視野から、カバーガラスを横切って、100個の細胞を数えるまで系統的に数えた。細胞を、神経突起の伸長について、陽性又は陰性のいずれかに関してスコア化した。細胞体から発する、軸索に類似する突起が、細胞体を超える長さに達する場合に、細胞が、神経突起の伸長について陽性であるとみなした。
【0086】
スチューデントt検定を使用して、各群において、1つの対照の参照集団から得られた平均と、全てその他の処理から得られた平均との間で、平均の差を比較した。
【0087】
以下の濃度のラクトフェリンが豊富な牛乳画分を試験した。すなわち、1μg/L、10μg/L、100μg/L、1mg/L、10mg/L、100mg/L及び1g/L。異なる神経細胞集団の神経突起の伸長を促すことが以前に報告された周知の神経栄養因子である陽性対照(CNTF、毛様体の神経栄養因子、100ng/mL)を設けた(Oyesiku及びWigston、1996(Oyesiku NM、Wigston DJ:Ciliary neurotrophic factor stimulates neunte outgrowth from spinal cord neu− rons、J Comp Neurol 1996;364:68〜77))。基礎対照は、未処理の細胞からなった。結果を、図1に示す。
【0088】
ストレスからの神経細胞の保護
ラットの腸管神経細胞の初代培養物をウエル中に播種し、異なる濃度のウシラクトフェリン豊富な画分と共に48時間インキュベートした。細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(無菌のPBS、37℃)を用いて3回洗浄した後、ラクトフェリンが存在しない、H又はビヒクル(対照)を含有する細胞の培地中で12時間インキュベートした。ラクトフェリンの、H誘導型の神経細胞の細胞死に対する保護作用を、細胞の培地中で、神経細胞に特異的なエノラーゼ(NSE)の放出を測定することにより評価した。酸化ストレスの後、異なる群の培地を、収集し、12,000rpm(4℃)で10分間遠心分離した。上清を収集し、培地中に放出したNSEを、免疫放射線測定法により定量化した。結果を、ng/mLで表す。図2に示すように、Hが、培地中のNSEの有意な増加を誘発した(p<0.05、n=8)。初代腸内神経細胞の、ラクトフェリン豊富な画分を用いた処理は、図2に示すように、H誘導型のNSEの放出を有意に予防した(p<0.05、n=8)。
【0089】
ウシラクトフェリンの神経保護特性を、ヒト神経細胞様細胞系(SH−SY5Y−神経芽細胞腫細胞)を使用して確認した。手短に述べると、SH−SY5Y細胞を蒔き、24時間放置し、異なる濃度のウシラクトフェリン豊富な画分を細胞の培地に添加し、続いて、48時間放置した。H、6時間、又は細胞の培地に直接添加したビヒクル(対照)と共に。最後に、細胞を0.1M PBSを用いて洗浄してから、トリプシン−EDTAを用いて収集した。次いで、細胞懸濁液を、上清と共にプールし、2,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後、ペレットを、500マイクロリットルのPBS0.1M中に再懸濁した。膜透過性を、フローサイトメトリーにより、7−AADを蛍光マーカーとして使用して評価した。この評価のために、200マイクロリットルの細胞懸濁液を、7−AADと共に10分間インキュベートしてから、BD FACSアレイ(Array)(商標)バイオアナライザーを使用して獲得を行った。7−アミノアクチノマイシンD(7−AAD)を使用する、このフローサイトメトリーによるアッセイにより、生きた(7−AAD陰性の)SH−SY5Y細胞と、酸化ストレスに応答した遅発アポトーシス性/壊死性の(7−AAD陽性の)SH−SY5Y細胞とを区別することが可能になった。図3に示す結果は、7−AAD陽性細胞/細胞の総数のパーセントとして表した。図3に示すように、Hは、7−AAD陽性細胞のパーセントの有意な増加を誘発した(p<0.05、n=6)。SH−SY5Y細胞の、ラクトフェリンを用いた処理は、図3に示すように、7−ADD陽性細胞のパーセントの、H誘導型の増加を予防した。
【0090】
ラクトフェリンは、神経細胞の密度及び神経細胞の生存を改善する
【0091】
形態学的な検査を、MR獲得後に実施した。線条体、背側及び外側の海馬のレベルにおける近接切片を収集して、皮質及び海馬の構造、並びに白質の傷害を評価した。特定の細胞応答を決定するために、特定の細胞型を、免疫組織化学的検査を使用して標識した。白質の有髄化のマーカー(MBP)と併せて、神経細胞(NeuN)、アストロサイト(GFAP)及び放射状グリア(ネスチン)の特異的標識化を実施した。手短に、方法論を以下に示した。
【0092】
P7及びP21のそれぞれにおいて、各群からの仔に、ケタラール(50mg/ml;0.2〜0.5ml、i.p.)を使用して深部麻酔を施した。動物の心臓内に、0.9%NaCl、次いで、4%パラホルムアルデヒドを灌流した。脳を取り出し、秤量し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、次いで、30%スクロース中で最低限24時間後固定し、−80℃で切片化まで保存した。冠状切片(10μm)を、背側の海馬のレベルで、クリオスタット(Microm Cryo−Star HM 560M、Microm International、ドイツ)上で切断した。200μm間隔の3つの切片を、各動物から収集した。
【0093】
免疫組織化学的検査:MBP(1:400、brand city country)に対する免疫反応性のために、アビジン−ビオチンのペルオキシダーゼ複合体(ABC;Vector Laboratories、Burlingame、CA、米国)を使用して、脳組織を処理した。切片を、4%ウシ血清アルブミン(BSA、brand city country)中でブロックし、次いで、一次抗体と共に4℃で24時間インキュベートし、その後、二次抗体(1:200、brand city country)、次いで、アビジン−ビオチンの複合体(1:200、Vector Laboratories、Burlingame、CA、米国)と共にインキュベートした。切片を、0.01%過酸化水素中で、色素原である3,3−ジアミノベンジジン(DAB、brand city country)と反応させ、次いで、カバーガラスで覆った。
【0094】
同じプロトコールを使用して、ネスチン(1:500、brand city country)、GFAP(1:400、brand city country)、及びNeuN(1:200、brand city country)について、蛍光免疫組織化学的検査を行った。但し、切片は、アビジン−ビオチンの複合体中及びDAB中でインキュベートしなかった。
【0095】
各実験群及び実験群のそれぞれの対照を、同時に染色した。一次抗体による処理を除くと、染色が生じなかった。
【0096】
定量的解析を、メタモルフ(MetaMorph)(登録商標)画像法システム(Meta Imaging Software、Molecular Devices Corporation、Pennsylvania、米国)を使用して実施した。各動物についての値をプールし、各群について、平均±SEMの平均を計算した。解析の終わりまで開示されないコードを用いて観察者には分からないようにコード化したスライドを測定した。
【0097】
結果を、以下及び図4に示す。
【0098】
組織学的解析から、P7では、LF補充Dexの仔(n=5)は、DEX対照の仔と比較して、海馬のCA2〜CA3の分野において核の形態及び神経細胞の密度を有意に増加させるに至ることが明らかになった。P7での皮質における神経細胞密度の減少は、神経細胞の喪失を示唆している。神経細胞密度は、正常な対照ビヒクル群に類似する(図4)。この特定の発達の時間枠内に投与したラクトフェリンは、海馬における、及び低栄養状態及びストレスに関連がある異常により、非常に損傷を受けやすい領域における神経細胞密度に影響を及ぼす。この結果は、LF投与が、神経細胞の生存及び神経細胞の保護を、例えば、若年のIUGRラットにおいて増加させることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを成人及び/又は高齢者に投与されるべき少なくとも0.1g/100kcal組成物の濃度で含む摂取可能組成物。
【請求項2】
食料製品、動物食料製品、医薬組成物、栄養配合物、栄養補助食品、飲料、食品添加物、補給調合乳からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ラクトフェリンが、ラクトフェリンが豊富な、乳画分又はホエイ画分として提供される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
タンパク質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
タンパク質供給源が、2g/100kcal組成物〜6g/100kcal組成物の間の量で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
タンパク質供給源の50重量%超がホエイタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
脂質供給源が、組成物の総エネルギーの30%〜55%の間を占め、及び/又は炭水化物供給源が、組成物の総エネルギーの35%〜65%の間を占める、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ラクトフェリンが、約0.01g〜100g/100kcal、好ましくは0.1g〜50g/100kcal、さらにより好ましくは2g〜25g/100kcalの範囲の濃度で存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも約70mg/Lの総シアル酸、総脂肪酸の重量に関して少なくとも約0.1%のオメガ−3脂肪酸、及び/又は総脂肪酸の重量に関して少なくとも約0.25%のオメガ−6脂肪酸をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも0.01gラクトフェリン/kg体重/日の摂取に相当する量で投与される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
腸のニューロパシー及び腸のニューロパシーに関連する障害の治療又は予防において使用するための、ラクトフェリン又は請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
腸神経系の損傷の治療又は予防において使用するための、ラクトフェリン又は請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
腸神経系の修復において使用するための、ラクトフェリン又は請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
腸神経系の損傷に関連する障害の治療又は予防において使用するための、ラクトフェリン又は請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
障害が、低い消化力及び/若しくは吸収力、栄養不良、胃食道逆流、腸の運動不全、緩慢な腸の通過、便秘、慢性腸偽閉塞、便失禁、弱い腸バリアの機能、経腸栄養補給不耐性、腸の不快感、並びに/又は硬い大便からなる群から選択される、請求項14に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4a】
image rotate

image rotate

【図4b】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−526747(P2012−526747A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510226(P2012−510226)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056238
【国際公開番号】WO2010/130644
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】