ラクトフェリン複合体及びその製造方法
【課題】抗原性を低減し、ペプシン耐性を付与し、体内寿命を延ばした、臨床的有用性の高い非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体、さらに、天然ラクトフェリンの生物活性を一定割合保持しており、臨床的有用性が天然ラクトフェリンよりも優れたラクトフェリン複合体を、短時間で簡便に大量に製造するための製造及び精製方法を提供する。
【解決手段】分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、ラクトフェリンと、分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【解決手段】分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、ラクトフェリンと、分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性なラクトフェリンとポリエチレングリコールなどの非ペプチド性親水性高分子との複合体、その製造方法及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体高分子の性質の調節などの目的のため、生体高分子とポリエチレングリコール(PEG)などの非ペプチド性親水性高分子とをコンジュゲート化すること(以下「複合体化」、PEG又はその類似化合物を用いる場合については「PEG化」ということがある)が行われている。より具体的には、複合体化は、一般に、非ペプチド性親水性高分子の末端に活性基を付けてタンパク質等の分子表面に存在する官能基と反応させることにより行われる。
【0003】
特に、タンパク質及びペプチドの複合体化は重要であり、非ペプチド性親水性高分子鎖でタンパク質の分子表面を部分的に覆うことにより、エピトープをシールドすることによる抗原性・免疫原性の低減、細網内皮系等による取り込みの低減、及びタンパク分解酵素による認識及び分解の防止などが研究されている。また、複合体化された物質について、生体内でのクリアランスが遅延し、体内寿命が延びることが知られている。その一方で、複合体化されたタンパク質などでは、非ペプチド性親水性高分子の存在によって活性部位が影響を受け、生物活性が低減されることも頻繁に観察されている。
【0004】
例えば、インターフェロンは、PEG化することによって、体内寿命が約70倍に延びる一方、抗ウイルス活性のような生物活性が約1/10に低下する。しかし、総合的にはPEG化によって治療効果が大幅に改善されることが知られており、これはC型肝炎の治療に役立っている。
【0005】
タンパク質の複合体化という概念自体は、白血病治療薬としてアスパラギナーゼのPEG化が成功して以来、古い歴史がある。現在までにPEGなどの複合体化試薬自体の構造(活性基のタイプ、分子の大きさと分布、分岐型の開発など)の改良がなされ、技術的に進歩している。
【0006】
分岐型のPEGといくつかのタンパク質との複合体については、直鎖型PEGを用いた場合と比較して、プロテアーゼ耐性が高くなり、タンパク質によってはpH及び熱に対する安定性が増大することが知られている(非特許文献1:Monfardini et al., Bioconjug Chem. 1995 6(1):62-9)。また、インターフェロンについては、分岐型PEGとの複合体が他のPEGとの複合体及びインターフェロン自体よりも高い抗増殖活性を有することが観察されている(特許文献1:特開平10−67800)。
【0007】
しかし、複合体化による個々のタンパク質の活性の変動は、タンパク質ごとに異なっている。さらに、例えばインターフェロンについてはPEG化によってインビトロの抗ウイルス活性が減少する一方、ヒト腫瘍細胞における抗増殖活性が増加するというように、PEG化によって、あるタンパク質が有する複数の特性について一律ではない影響が生じうる。したがって、望ましい特性を備えた複合体を得るための最適な条件等については、各タンパク質ごとに充分に検討されなければならない。
【0008】
また、タンパク質などの複合体化に関しては、非ペプチド性親水性高分子鎖の構造(直鎖型か分岐型か、分子の大きさと分布など)、反応部位及び反応分子数によって、抗原性、プロテアーゼ抵抗性、体内寿命及び熱安定性などの生化学的・薬剤学的性質、及び薬効に関わる生物活性への影響が大きく異なることが容易に予想される。したがって、このような複合体を医薬品として開発する場合、一定の品質を保証するため非ペプチド性親水性高分子鎖の付加が一定の部位であることが求められる。
【0009】
ラクトフェリン(以下、「LF」と略すことがある)は、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている、分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、鉄を結合することから、トランスフェリンファミリーに属する。ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンが脂質代謝改善作用、鎮痛・抗ストレス作用、アンチエイジング作用を有することも明らかにされている。このように、ラクトフェリンは、多様な機能を示す多機能生理活性タンパク質であり、健康の回復又は増進のため、医薬品や食品などの用途に使用されることが期待されており、ラクトフェリンを含む食品は既に市販されている。
【0010】
ラクトフェリンは、経口的に摂取した場合、胃液中に存在する酸性プロテアーゼのペプシンにより加水分解を受け、ペプチドに分解されるため、ラクトフェリン分子としてはほとんど腸管まで到達することができない。しかし、ラクトフェリン受容体は消化管では小腸粘膜に存在することが知られており、最近、ラクトフェリンが腸管から体内に取り込まれて、生物活性を発現していることが明らかにされている。そのため、ラクトフェリンの持つ生物活性を発揮させるには、ラクトフェリンを胃液中でのペプシンによる加水分解を受けない状態で腸管まで到達させることが重要である。
【0011】
ラクトフェリンに関しても、PEG化された複合体についての報告がある(非特許文献2: C. O. Beauchamp et al. Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983))。しかし、この文献には、直鎖型のPEGとLFとの複合体が5〜20倍延長された体内寿命を有していたことが記載されているだけであり、PEG化されたLFの生物活性、PEG化の程度、均一性などについては何ら記載されていない。
【0012】
【特許文献1】特開平10−67800号公報
【非特許文献1】Monfardini et al., Bioconjug Chem. 1995 6(1):62-9
【非特許文献2】C. O. Beauchamp et al., Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、抗原性を低減し、ペプシン耐性を付与し、体内寿命を延ばした、臨床的有用性の高い非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、天然ラクトフェリンの生物活性を一定割合保持し、体内寿命が有意に延長されており、臨床的有用性が天然ラクトフェリンよりも優れたラクトフェリン複合体及びその製造方法等を提供することを目的とする。
特に、短時間で効率的に上記の特性を有するラクトフェリン複合体を大量調製するのに適した方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、ラクトフェリンを生物活性が保たれた状態で最も均一にポリエチレングリコール(PEG)のような非ペプチド性親水性高分子と複合体化するための反応条件等を検討し、ラクトフェリン分子表面の限定された部位に特定の構造のこのような高分子を結合させることを可能にした。また、このような複合体の大量調製又は工業的生産に適した条件及び方法を見出した。さらに、そのようにして製造されたラクトフェリン複合体はペプシンやトリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有し、最も重要な生物活性である鉄キレート能、さらには炎症性サイトカイン産生調節(抑制)能も保存されているという結果を得、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は、
(1) 式〔I〕:
【0016】
【化8】
【0017】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0018】
【化9】
【0019】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、
ラクトフェリンと、式〔III〕:
【0020】
【化10】
【0021】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法;
(2) POLYが、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類及び混合物からなる群から選択される、前記(1)記載の製造方法;
(3) POLYが、ポリエチレングリコール又はその修飾物である、前記(2)記載の製造方法;
(4) 式〔I〕:
【0022】
【化11】
【0023】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0024】
【化12】
【0025】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体をヘパリンセファロース担体に吸着させる工程、及びこの担体から0.25〜0.35Mの塩濃度の溶液を用いて前記複合体を溶出させる工程を含むことを特徴とする方法;
(5) 式〔I〕:
【0026】
【化13】
【0027】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0028】
【化14】
【0029】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体を陽イオン交換体に吸着させる工程及びこの担体から溶出させる工程を含み、かつ、この溶出液の分子篩クロマトグラフィによる精製工程を含まないことを特徴とする方法;
(6) 前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の方法によって製造された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体;
(7) 前記(4)又は(5)記載の方法によって精製された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体;
(8) 前記(6)又は(7)記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体及び治療上不活性な基剤及び/又は添加物を含む医薬品組成物;
(9) 疾患又は症状の治療又は予防用の医薬品の製造のための、前記(6)又は(7)記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の使用方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のラクトフェリン複合体の製造方法は、短時間で容易に効率よく、均一にPEG化された目的のラクトフェリン複合体を製造することを可能にする。本発明の製造方法によれば、反応性の高い限定的な部位のみが均一に反応しているものと推定され、その結果、非常に均一な複合体が得られる。
また、本発明の精製方法は、単純な工程で短時間に高純度の複合体が得られるので、工業的な大量生産に非常に適している。
【0031】
本発明の複合体は、ラクトフェリンが有する鉄の結合能が保持されており、したがって、少なくとも鉄結合能に基づくラクトフェリンの重要な生物活性が保持されている。また、分岐型非ペプチド性親水性高分子の結合によって、ペプシン、トリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有しているため、体内寿命が長く、体内で長時間にわたって生物活性を発揮することができる。さらに、複合体化によって胃でのペプシンによる消化分解を受けにくくなっているため、さらなる腸溶化のための製剤的な処理を行わなくても、充分に腸内に到達しうる。本発明の複合体は、炎症性サイトカインの産生を調節する活性もまた、充分に保持している。
【0032】
さらに、本発明の複合体は、特定の位置に一定の数の非ペプチド性親水性高分子が結合するため、品質が均一であり、製造管理・品質管理の点でも有利である。これらの利点によって、本発明の複合体は、医薬品成分としての使用に特に適している。即ち、本発明にしたがった複合体及び複合体製造方法により、ラクトフェリンを医薬品成分としてさらに有用性の高い形とすることができる。ラクトフェリンは、安全性が非常に高く、多様な生物活性を有するので、本発明により、有効な治療薬がない疾患又は症状の治療薬又は予防薬として、さらに有利に適用が可能となる。例えば、生活習慣病(動脈硬化、高コレステロール血症、高脂血症、高血圧、糖尿病、脂肪肝など)、がん(発がん予防、がんの二次予防、転移抑制、制癌剤の作用増強など)、自己免疫疾患(シェーグレン症候群によるドライアイ及びドライマウス、リウマチ性関節炎、悪性関節リウマチ、膠原病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、全身性紅斑性狼蒼など)、精神神経疾患(痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、テンカン、うつ病、ヒキコモリ、統合失調症、各種ストレス性疾患など)、疼痛緩和(モルヒネ等のオピオイド増強作用、がん性疼痛、神経因性疼痛、ヘルペス後疼痛、線維筋痛症、術後疼痛、舌痛症、生理痛、歯痛、関節痛など)、肝炎(各種ウィルス性肝炎、非アルコール性肝炎、肝硬変など)、炎症性腸疾患(大腸性潰瘍炎、クローン病など)、過敏性腸症候群、前立腺肥大、頻尿、不眠症、便秘などへ適応を拡大できる。さらに、本発明の複合体に含まれるラクトフェリンは、抗菌・抗ウィルス作用及び免疫能賦活作用があるので、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、各種感染症及びそれに基づく炎症、例えば、ヘリコバクター・ピロリ菌の胃粘膜感染、歯周病、歯槽膿漏、口臭、口腔カンジダ症、口内炎、口角炎、鼻炎、食道炎、胆嚢炎、尿路感染症、膣感染症、水虫、ニキビ、ヘルペス属ウィルスの感染症、老人性肺炎、術後感染症などへの適用も可能であり、また、抗生物質の作用を増強する作用がある。一方、ラクトフェリンは免疫的な寛容をもたらす作用もあり、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、花粉症、アトピー性皮膚炎、脂漏症、蕁麻疹等のアレルギー性疾患にも適用可能である。注目すべきことは、ラクトフェリンには鉄キレート作用に基づく強い抗酸化ストレス作用があり、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、ウィルソン病、劇症肝炎などや、肌や眼の抗加齢・若返り作用、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、粘膜上皮細胞の角化抑制・若返り作用などへの適用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の複合体は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体である。本発明の複合体においてラクトフェリンと結合される非ペプチド性親水性高分子は、一般に、一方の末端にラクトフェリンの官能基と反応して共有結合を形成しうる官能基を有し、分岐しており(即ち高分子鎖を2以上有しており)、生体に対して適合可能又は薬理学的に不活性であればよい。なお、「非ペプチド性」とは、ペプチド結合を含まないこと、又は実質的に含まない(高分子の性質に影響しない程度の低頻度(例えば高分子を構成する全モノマー単位数の1〜5%程度)で含みうる)ことを意味する。
【0034】
本発明の複合体は、
式〔I〕:
【0035】
【化15】
【0036】
又は
式〔II〕:
【0037】
【化16】
【0038】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される。
【0039】
好ましくは、式中のPOLY部分は、ポリ(アルキレングリコール)(例えばポリエチレングリコール(PEG))、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類(例えばPEGとポリプロピレングリコールとのコポリマー;ターポリマーなどを含む)及び混合物からなる群から選択される。POLY部分は、それぞれ直鎖状であってもよく、分岐及び/又はペンダント基などを有していてもよい。
【0040】
入手の容易性などの点から、最も好ましくは、POLY部分はPEG及びその修飾物(例えばメトキシ化物)であり、特に直鎖状のPEG又はメトキシPEGであることが好ましい。
【0041】
POLY部分の数(式中のq)は、一般に2〜10程度であることができるが、好ましくは2〜6程度である。
【0042】
Xは、ラクトフェリンの官能基(例えばリジンのε−アミノ基)と分岐型非ペプチド性親水性高分子の官能基(下記の式〔III〕中のX’;例えばマレイミド基、アルデヒド基、アミノ基、NHS基など)との反応によって生じる結合である。好ましくは、ラクトフェリンの官能基はアミノ基、分岐型非ペプチド性親水性高分子の官能基はNHS基である。
Yは、−O−、−S−、−NH−のようなヘテロ原子結合である。
Lは、リンカーとして作用する基であって特に制限はないが、Yと同様、存在してもしなくてもよい。
【0043】
本発明の複合体において使用される「ラクトフェリン」(LF)は、天然又は天然型のラクトフェリン分子そのもののほか、遺伝子組換え型(一部のアミノ酸が置換された改変型を含む)ラクトフェリン、及びラクトフェリンの活性フラグメントなどのラクトフェリンの機能的等価物であってもよく、鉄イオンの有無又はその含有量、由来する生物種などを問わない。
【0044】
天然のラクトフェリンには、44個(ヒト)〜54個(ウシ)程度のリジン残基が存在するが、それらの反応性はその存在位置の局所的環境により異なる。本発明の方法によれば、複合体において、ラクトフェリンのリジン残基が有するような官能基のうち、1〜10箇所、好ましくは1〜5箇所に、再現性よく非ペプチド性親水性高分子が共有結合される。したがって、上記の式〔I〕及び〔II〕において、nは、好ましくは1〜5である。
【0045】
本発明の複合体に関して「生物学的に活性な」とは、ラクトフェリンの生理薬理活性が保持されていることを意味する。特に、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンと同等の鉄キレート(結合)能及び/又は炎症性サイトカイン産生調節能を有している。
【0046】
具体的には、後述する実施例の方法で測定して天然ラクトフェリンの鉄結合能を100%とした場合に、本発明の複合体は、少なくとも30%以上(例えば約30%〜約150%又は約30%〜約120%)の鉄結合能を保持しており、好ましい態様においては、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンの約50%〜約100%又はそれ以上(例えば約50%〜約150%又は約50%〜約120%)に相当する鉄結合能を有する。なお、鉄結合能は、実施例に記載した方法又はそれと同等の方法によって測定する場合、±20%程度の誤差がありうる。
【0047】
また、後述する実施例の方法で測定して天然ラクトフェリンの炎症性サイトカイン産生調節能を100%とした場合に、本発明の複合体は、少なくとも30%以上(例えば約30%〜約150%又は約30%〜約120%)の炎症性サイトカイン産生調節能を保持しており、好ましい態様においては、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンの約50%〜約100%又はそれ以上(例えば約50%〜約150%又は約50%〜約120%)に相当する炎症性サイトカイン産生調節能を有する。なお、サイトカイン産生調節能は、実施例に記載した方法又はそれと同等の方法によって測定する場合、±20%程度の誤差がありうる。
【0048】
また、本発明の複合体は、プロテアーゼ耐性を有する。即ち、本発明の複合体は、少なくともペプシン及び/又はトリプシン、キモトリプシンによる消化に対して天然ラクトフェリンと比較して有意に耐性である。好ましくは、本発明の複合体は、実施例に記載した条件でのペプシンによる20分の消化後において、天然ラクトフェリンの約1.1倍〜約2倍又はそれ以上(例えば約2倍〜約5倍)が未消化で残存する程度のペプシン耐性を有する。
【0049】
本発明の複合体は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとを、それぞれの官能基を反応させることによって共有結合させることにより製造することができる。例えば、分岐型非ペプチド性親水性高分子としては、
【0050】
式〔III〕:
【0051】
【化17】
【0052】
又は
式〔IV〕:
【0053】
【化18】
【0054】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示されるものを使用することができる。
【0055】
X’としては、マレイミド基、アルデヒド基、アミノ基、NHS基などが挙げられる。好ましくは、X’はNHS基である。L、Y、POLYについては複合体について上述したとおりである。このような分岐型非ペプチド性親水性高分子は、公知の方法で合成することもできるが、既に各種のものが市販されている。反応に使用される分岐型非ペプチド性親水性高分子の分子量(数平均分子量)としては、一般に約500〜200,000、好ましくは2,000〜100,000、特に好ましくは10,000〜60,000(Da)である。
【0056】
好ましくは、ラクトフェリンと分岐型非ペプチド性親水性高分子とが、1:0.1〜1:100のモル比で反応液中に添加される。ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子の混合モル比は、さらに好ましくは1:0.1〜1:60、最も好ましくは1:0.1〜1:54の範囲内である。コストの観点からは、1:0.1〜1:5が好ましい。
【0057】
また、反応工程は、一般的にpH4以上、温度0〜40℃、時間1分〜24時間、好ましくは、pH6以上、温度4〜40℃、時間10分〜24時間の条件下で行われる。即ち、反応液のpHは、好ましくはpH6以上であり、短時間で反応を完了させる目的からは、特に好ましくはpH8〜10、最も好ましくはpH9付近(即ちpH8.5〜9.5)である。
【0058】
反応時間及び反応温度は相互に密接に関連して変化させることができるが、一般に反応温度が高い場合は時間を短く、温度が低い場合は時間を長くすることが好ましい。例えば、反応pHが7付近(即ちpH6.5〜7.5)の場合、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:10の条件下では、25℃において約1時間、あるいは16℃又は4℃において24時間反応させることにより、特に良好な結果(均一な複合体化など)が得られる。また、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:1でpH9での条件下では、25℃において約10分、16℃においては約10分〜約40分以内、4℃においては約1時間〜約2時間以内の反応により、特に良好な結果が得られる。
【0059】
別の例として、反応pHが8〜10の場合、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:0.1〜60の条件下では、25℃においてわずか10分程度反応させることにより、特に良好な結果が得られる。このような条件下では、反応性の特に高い特定の部位のみのアミノ基(おそらく一箇所)が限定的にPEG化され、短時間に反応が完結するとともに、それ以上長時間の反応を継続しても、複合体形成において経時的な変化がほとんど起こらないものと考えられる。
【0060】
上記のようにして製造された、試料中に含有される本発明の複合体は、まずヘパリンのような陽イオン交換担体(樹脂)に吸着させて濃縮し、続いて、得られた濃縮物を分子篩クロマトグラフィ担体(樹脂)に適用することによって容易に精製することができる。具体的には、例えば最初に複合体を含有する試料をヘパリンカラムに適用して複合体をカラムに吸着させ、高塩濃度の緩衝液で溶出して濃縮された複合体を含有する溶出液を集める。次に、この溶出液を分子篩クロマトグラフィカラムに適用し、脱塩及び所望の緩衝液への置換を行うことができる。必要に応じて、透析、限外ろ過などの公知の方法で溶出液を適宜さらに濃縮することができる。
【0061】
さらには、本発明の複合体の精製方法は、上記の二段階のカラムクロマトグラフィの代わりに、陽イオン交換体カラムのみによる一段階の精製であってもよい。例えば、本発明の複合体を含む試料をヘパリンカラム(例えばヘパリンセファロースカラム)に適用し、複合体をカラムに吸着させた後、高塩濃度の緩衝液で溶出するのみでも、充分に未反応ラクトフェリンとの分離が可能である。
【0062】
このような陽イオン交換体からの溶出において、PEG化されたラクトフェリンは0.3M程度(0.25〜0.35M)の塩濃度で選択的に溶出されることが見出された。したがって、溶出は、直線的濃度勾配を用いてもステップワイズに溶出してもよいが、溶出液としては0.3Mの塩濃度を含むような濃度勾配又は溶液を用いる。ステップワイズ塩濃度溶出法は、直線的塩濃度勾配溶出法と比較して簡便であり、大量精製を行う際には極めて有用であると考えられる。したがって、工業的生産又は大量調製の場合は、ステップワイズ塩濃度溶出法によることが有利である。
【0063】
本発明の精製法に用いることのできる陽イオン交換体の担体としては、シリカゲルが挙げられる。シリカゲルは、物理的な強度が高い点において工業的生産又は大量調製に好適である。
【0064】
また、別の実施態様においては、市販されている陽イオン交換担体(樹脂)を使用することによって、上記陽イオン交換担体処理及び分子篩クロマトグラフィ担体処理による二段階の濃縮・精製工程を一段階で行うこともできる。
【0065】
ラクトフェリンは、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用、脂質代謝改善作用、鎮痛作用、抗ストレス作用などを含む広範な生理活性を有しており、これらの作用によって、生活習慣病(例えば、高コレステロール血症、高脂血症など)、疼痛管理(がん性疼痛、神経因性疼痛など)、膠原病(シェーグレン症候群によるドライアイ及びドライマウス、リウマチ性関節炎など)、歯周病、C型肝炎などを含む、多くの疾患又は症状の治療(改善を含む)及び予防が可能である。
【0066】
本発明の複合体は、これらの作用をもたらす鉄結合能、炎症性サイトカイン産生調節能などのラクトフェリンの生物活性を充分に保持しているうえ、細胞毒性を示さないので、治療上不活性な基剤及び/又は添加物を配合することによって医薬品組成物とすることができる。便宜上、本発明に関して医薬品又は医薬品組成物というときは、投与対象が人の場合のほか、動物である場合(即ち、獣医薬等)も含む。このような医薬品組成物に含有させることができる各種成分及び剤型は当業者には充分に公知である。本発明の複合体を含む医薬品組成物の有効投与量は、治療又は予防すべき疾患又は症状の種類や程度、投与対象の状態、剤型などによって異なり、公知の有効ラクトフェリン量を目安に適宜選択することができる。一般に、公知の有効ラクトフェリン量と比較して有意に少ない用量(例えばラクトフェリン量換算で1/2〜1/20量)とすることができ、同等の用量で用いるのであれば投与回数を減らすことが可能である。
【実施例1】
【0067】
1.PEG化ラクトフェリンの調製
種々のPEG誘導体を用いてラクトフェリンとの複合体を調製した。
ラクトフェリンとしては、ウシラクトフェリン(マレーゴルバン社製)を用いた。PEG化のターゲットは、ラクトフェリンのリジンのε−アミノ基(ウシラクトフェリン1分子当たり54個存在する)及びN末端のα−アミノ基とした。
PEG誘導体としては、以下に示す4種類の分岐型PEG誘導体(実施例)及び3種類の直鎖型PEG誘導体(比較例)を用いた:
【0068】
【表1】
【0069】
PBS(pH7.4)中で、ウシラクトフェリン(bLf)0.5mg(6.25μM)に対し、所定の量のPEG誘導体を混合し、最終容量1mlで、25℃で1時間カップリング反応を行った。ラクトフェリンの最終濃度は0.5mg/mlであった。bLFとPEG誘導体との比は、PEG誘導体/リシル基のモル比で0.02〜5、bLf:PEG誘導体モル比1:1〜1:270;(PEG誘導体濃度として6.25μM〜1.69mMに相当)の範囲で変化させた。
【0070】
カップリング反応の生成物について、7.5% SDS−PAGEの後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色を行うことにより評価した。結果を図1及び2に示す。図1及び2において、矢印で示したバンドは未修飾のウシラクトフェリンを示す。
【0071】
図1は、分岐型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した結果を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真である。パネルA〜Dは、それぞれ表1に示すPEG誘導体1〜4の反応生成物についての結果である。分岐型PEG誘導体とのカップリング反応を行った場合、生成するPEG化ラクトフェリンはPEG誘導体のモル数依存的に増加する傾向が観察され、bLf:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:54(PEG誘導体濃度31.25〜337.5μM)の混合比となる条件下において反応させた場合に、PEG誘導体で特異的に修飾されたラクトフェリン複合体(シャープなバンド)が生成した(図1、パネルA〜D)。電気泳動上の分子量から換算すると、これらのPEG化ラクトフェリンは、PEG誘導体の分子量に関わらずbLF1分子当り約1〜4分子のPEGで均一に修飾されていると推定された。
【0072】
図2は、同様に直鎖型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した結果を示す写真である。パネルA〜Cは、それぞれ表1に示すPEG誘導体5〜7の反応生成物についての結果である。直鎖型のPEG誘導体を用いてカップリング反応を行った場合、分岐型の場合と同様、PEG誘導体のモル数依存的に反応が進み、PEG誘導体5(パネルA)及び6(パネルB)の反応においては数個〜非常に多数のPEGで修飾された不均一なラクトフェリン複合体(スメア状のブロードなバンド)が生成した。PEG誘導体7(パネルC)は、反応性が悪く、CBB染色ではPEG化ラクトフェリンは確認されなかった。直鎖型PEG誘導体を用いた場合は、複合体が生成した場合であっても反応の特異性が低く、いずれの反応においても反応特異的なPEG化ラクトフェリンの生成は認められなかった。
【0073】
2.反応pHの検討
上記と同様の実験において、ウシラクトフェリンとPEG誘導体2〜4を用い、PEG化カップリング反応液のpHを4〜9の範囲で変化させてカップリング反応を行った。使用緩衝液は、pH4〜5については酢酸緩衝液、pH6〜8についてはリン酸緩衝液、pH9はホウ酸緩衝液とした。他の条件は、ウシラクトフェリンの最終濃度0.5mg/ml、反応温度25℃、反応時間1時間とし、ウシラクトフェリン:PEG誘導体のモル比は1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)、及び1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)とした。反応後、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色によって反応生成物を解析した。
【0074】
結果を図3に示す。PEG誘導体2〜4(それぞれパネルA〜C)のいずれを用いた場合も、反応特異的なPEG化ラクトフェリン生成はpH6以上で確認された。カップリング反応は、反応液のpHが6〜9の条件下でよく進むことが確認され、特にアルカリ性では反応が亢進した。一方、pH5以下の酸性条件下の反応液ではPEG化反応はほとんど起こらなかった。
【0075】
3.反応温度及び時間の検討
上記と同様の実験において、ウシラクトフェリンとPEG誘導体2、3、4を用いて、反応温度を25℃、16℃、又は4℃とし、また、反応時間を変化させてPEG化カップリング反応を行った。他の条件は、ウシラクトフェリンの最終濃度は0.5mg/ml、反応緩衝液はPBS(pH7.4)、ウシラクトフェリン:PEG誘導体のモル比は1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)、及び1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)とした。反応後、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色によって反応生成物を解析した。
【0076】
結果を図4〜6に示す。PEG誘導体2、3、4(それぞれ図4、5、6)のいずれを用いた場合も、PEG化反応は、4℃〜25℃のいずれの反応温度においても起こり、温度が高いほど反応が進み易く、さらに、反応時間を延長すると多数のPEG誘導体で修飾された高分子のPEG化ラクトフェリンの生成が増加することが明らかとなった。
【0077】
具体的には、25℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるに従って、1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが減少し、さらに高分子のPEG化ラクトフェリンが生成する傾向が確認された。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加し、2時間以降、高分子PEG化ラクトフェリンも増加した(図4)。
【0078】
また、16℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応1時間をピークに1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるとさらにPEGで修飾された高分子PEG化ラクトフェリンが生成する傾向が認められた。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、40分以降からPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加する傾向が確認された(図5)。
【0079】
そして、4℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応4時間をピークに1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるとさらに多くのPEGで修飾された高分子PEG化ラクトフェリンが生成する傾向が認められた。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、2時間以降でPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで徐々に反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加する傾向が確認された(図6)。
【0080】
したがって、4℃以上の反応温度で良好なカップリング反応が起こることが確認された。
【0081】
4.PEG化ヒトラクトフェリンの調製
PEG化に使用したヒトラクトフェリン(hLf)は、SIGMA社より購入した(SIGMA, L0520)。PEG化のターゲットは、ラクトフェリンのリジンε−アミノ基(タンパク質1分子当たり44個存在)及びN末端のα−アミノ基とした。使用したPEG誘導体は、3種類の分岐型PEG誘導体(表1のPEG誘導体2〜4)であった。カップリング反応は、ラクトフェリンの最終濃度0.5mg/ml、25℃、1時間、PBS(pH7.4)中、最終容量1mlで行った。ヒトラクトフェリン(hLf)0.5mg(6.25μM)に対し、PEG誘導体の混合比はPEG誘導体/リシル基のモル比で0.02〜5、hLf:PEG誘導体のモル比で1:1〜1:220(PEG誘導体濃度として6.25μM〜1.38mMに相当)の範囲で変化させた。反応生成物の評価は、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色により行った。
【0082】
結果を図7に示す。矢印で示したバンドは未修飾のヒトラクトフェリンを示す。パネルA〜Cは、それぞれPEG誘導体2〜4を用いた場合の結果である。これらのカップリング反応は、ウシラクトフェリンを用いた場合と同じ傾向を示した。即ち、PEG誘導体のモル数依存的に反応が進み、数個〜非常に多数のPEGで修飾されたラクトフェリンが生成するが、hLf:PEG誘導体のモル比を1:1〜1:88、特に1:10を中心とする比として反応させた場合に特異的なPEG化ラクトフェリンが生成した。また、電気泳動上の分子量から換算すると、PEG化ラクトフェリンは、PEG誘導体の分子量に関わらず約1〜4分子のPEGで修飾されていると推定された。
【0083】
5.PEG化ラクトフェリンの精製
ヘパリンカラム及びゲルろ過カラムの組み合わせにより、PEG化ウシラクトフェリン反応液中の未カップリングPEG誘導体、未カップリングラクトフェリンを分離し、PEG化ラクトフェリンを精製した。
【0084】
表1のPEG誘導体3及び4を用い、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で混合した反応液100mlを調製し、25℃、pH7.4で1時間反応を行った。この反応液96ml(タンパク質48mg相当)を試料として用いて、まずHiTrap Heparin HPカラム(カラムサイズ5ml、GEヘルスケアバイオサイエンス社)に反応生成物を吸着させた。PEG化ラクトフェリンの溶出は、AKTA explorer 10S(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて行った。緩衝液として、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、及び溶出緩衝液として1M NaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)を用い、流速1ml/minで、直線的濃度勾配(linear gradient)で20カラム容量かけて塩濃度を上昇させることにより、吸着物を溶出し、PEG化ラクトフェリン画分を回収した。このPEG化ラクトフェリン画分を、PBSに対し10℃で一晩透析し、CENTRIPLUS YM-50(MILLIPORE社)を用いて約1mlに濃縮した。最終精製は、Superdex 200 10/300GL(GEヘルスケアバイオサイエンス社)カラムを用い、1.5カラム容量の150mM NaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で流速0.5ml/minで溶出し、PEG化ラクトフェリン画分を回収した。得られた精製サンプル(PEG誘導体3及び4を用いて得られたPEG化ラクトフェリンを、それぞれ20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfと呼ぶ)を、7.5% SDS−PAGE後、銀染色により確認した。
【0085】
結果を図8に示す。図8において、レーン1はPEG化反応液、レーン2はヘパリンカラム精製タンパク質、レーン3は分子篩クロマトグラフィカラム精製タンパク質である。したがって、ヘパリンカラムとカラムを用い、カップリング反応液からPEG化ラクトフェリンのみが精製されたことが確認された。
【0086】
6.精製PEG化ラクトフェリンのヨウ化バリウム染色
PEG化されたタンパク質は、ヨウ化バリウムによって特異的に染色される(Kurfurst MM, Anal Biochem, 200,244-248 (1992), Balion P. et al., Bioconjug Chem, 12, 195-202 (2001))。上記5.の実験において製造・精製されたPEG化bLfが確かにPEGで修飾されているかどうかを確認するため、ヨウ化バリウム染色を行った。
【0087】
下記に示す各試料を7.5% SDS−PAGEに供した後、ゲルを脱イオン水で15分間水洗し、5%(w/v)塩化バリウム溶液で10分間振盪後、脱イオン水で3分間の洗浄を3回行った。次いで、0.1N Titrisol iodine溶液(MERCK, Germany)中で10分間振盪し、PEG化ラクトフェリンを染色した。さらに、Titrisol iodine溶液で染色されたゲルを水洗、完全に脱色した後、CBBで染色した。結果を図9に示す。
【0088】
図9において、パネルAはヨウ化バリウム染色、パネルBはCBB染色、パネルCはヨウ化バリウム染色とCBB染色を重ねた像をそれぞれ示す。各レーンについて、試料は、「bLf」=未修飾のウシラクトフェリン、「1」=PEG誘導体3を用いたカップリング反応液、「2」=PEG誘導体4を用いたカップリング反応液、「3」=精製PEG化bLf(20k−PEG−bLf)、「4」=精製PEG化bLf(40k−PEG−bLf)である。レーンMはマーカーである。
【0089】
ヨウ化バリウム染色(パネルA、C)において、レーン1(分子量約45kDa)及び2(分子量約90kDa)において濃く染色されているバンドは、それぞれ未反応のPEG誘導体のバンドである。即ち、数平均分子量約20kDaのPEG誘導体試薬はSDS−PAGEで見かけ上、約45kDaの位置に泳動され、数平均分子量約40kDaのPEG誘導体試薬はSDS−PAGEで見かけ上、約90kDaの位置に泳動されることが分かる。PEG化されていないタンパク質は染色されていない(レーンbLf、1及び2;分子量約80kDa)。一方、精製PEG化ラクトフェリンは、ヨウ化バリウム染色及びCBB染色で染まることが確認された(レーン1、3は分子量約140kDa;レーン2、4は分子量約240kDa)。精製タンパク質がヨウ化バリウムで染色されたことから、精製タンパク質は確かにPEG修飾されていることが確認された。
【0090】
7.ペプシン、トリプシン消化に対する耐性の評価
上記5.の実験で得られた精製PEG化bLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfを、以下の条件でペプシン又はトリプシンで消化して、未修飾bLfの消化と比較検討した。
【0091】
ペプシン消化に関しては、精製した10μg分の未修飾bLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfの各々に、最終濃度18.75ng/mlになるようにペプシン(ブタ胃由来、code No.165-18713、和光純薬工業(株)製)を加えて、0.01M HCl中、37℃で反応させた。反応開始から20、40、60、80、100分後に、各タンパク質1.25μg分をピペットでサンプリングして、等量の氷冷した2Xサンプルバッファー(100mM Tris−HCl(pH6.8)、4% SDS、20% グリセロール、色素(BPB))と混ぜて酵素反応を停止させた。
【0092】
トリプシン消化に関しては、精製した10μg分のbLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfの各々に、最終濃度20μg/mlになるようにトリプシン(ウシ脾臓由来、code No.204-13951、和光純薬工業(株)製)を加えて、50mM Tris−HCl(pH6.8)、0.1M NaCl、2mM CaCl2中、37℃で反応させた。反応開始から10、20、30、40、50、60分後に、各タンパク質1.25μg分をピペットでサンプリングして、等量の氷冷した2Xサンプルバッファーと混ぜて酵素反応を停止させた。その結果を図10〜12に示す。
【0093】
図10は、各サンプルを10% SDS−PAGE(非還元)で泳動後、CBBで染色したゲルの写真である。図10において、パネルAはペプシン、パネルBはトリプシンで各々消化した結果である。精製PEG化ラクトフェリンのバンドを*印、断片化したPEG化ラクトフェリンのバンドを矢印で示す。ペプシン(パネルA)又はトリプシン(パネルB)での消化に対して、未修飾bLfは速やかに低分子化されたのに対して、20k−PEG−bLf、40k−PEG−bLfの消化は限定的であり、断片化した矢印で示したバンドが観察された。このことより、PEG化されたLFは、未修飾のbLfと比較して、ペプシン、トリプシンの作用を受けにくいことが分かる。
【0094】
図11は、トリプシン消化物を12% SDS−PAGE後、ヨウ化バリウム染色(パネルA)又はCBB染色(パネルB)により解析した結果である。パネルB及び図8で矢印で示したCBB染色されたバンドがヨウ化バリウム染色される(パネルA)ことから、この矢印のバンドはPEG化されたラクトフェリン断片であり、PEG化によってトリプシン消化に対して耐性を示すようになったことが分かる。
【0095】
図12は、インタクトなPEG化ウシラクトフェリン(図8中、*印で示した)の経時的な分解を半定量的に示すために、図8で示した泳動像をスキャナーで取り込み、バンドの濃さをNIH imageで解析した結果を示す図である。縦軸は、各時間におけるバンドの濃さを示しており、時間0分時の濃さを100%とする相対値である。横軸は、各酵素での処理時間である。ペプシン(パネルA)及びトリプシン(パネルB)によるPEG化ウシラクトフェリンの分解は、20k−PEG−bLf、40k−PEG−bLfともに未修飾bLfの分解と比較して緩やかな傾向を示した。具体的には、例えばペプシンについては、20分の消化の後、PEG化bLfの残存率は、未修飾のbLfの約2倍であり、40分の消化の後では、PEG化bLfの残存率は、未修飾のbLfの約5倍であった。
【0096】
以上の結果から、PEG化bLfは、未修飾のbLfと比較して、有意にペプシン、トリプシンの作用を受けにくくなっていることが分かる。
【0097】
8.PEG化ラクトフェリンの鉄結合能の測定
ラクトフェリンは分子量8万の非ヘム性の鉄結合性糖タンパク質で、Nローブ、Cローブと呼ばれる二つの領域からなり、炭酸イオン(CO32−)の存在下でタンパク質1分子当たり2個の鉄イオン(Fe3+)を可逆的にキレート結合する能力を有する(Anderson, et al., Nature, 344, 784-78 (1990))。ラクトフェリンの鉄結合能の測定を、以下のように行った。
【0098】
holo型ラクトフェリンから鉄イオン(Fe3+)を遊離させ、apo型ラクトフェリンを調製した。次いで、炭酸イオン(CO32−)存在下で鉄イオン(Fe3+)を付加させた鉄再結合ラクトフェリンを調製した。apo型及び鉄再結合ラクトフェリンの鉄含量及びタンパク質濃度を測定し、鉄結合量の測定を行った。詳細には、apo型ラクトフェリンは、bLf(未修飾ウシラクトフェリン)、上記5.の実験で得た20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfを0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.1)で24時間、さらに蒸留水で24時間透析し、調製した。鉄再結合型ラクトフェリンの調製は、apo型ラクトフェリンを0.001%クエン酸鉄アンモニウム、50mM 炭酸ナトリウム及び50mM 塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.5)で24時間透析を行った後、過剰の鉄イオンを除去するため、蒸留水、次いで50mM 塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.5)に対して24時間透析し、調製した。陰性コントロールであるBSA(ウシ血清アルブミン)についても同様の操作を行った。タンパク質に結合している鉄イオンを比色法で測定するため、血清鉄測定キット「Fe C−テストワコー」(和光純薬工業(株))を用いた。鉄の結合能は、Bradford法で定量したタンパク質1mg当たりに結合している鉄の結合量として算出した。その結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
apo型については、すべてのタンパク質において鉄の結合量は検出限界以下であった。一方、鉄再結合型については、陰性コントロールのBSA以外において鉄の結合が検出された。20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLf については未修飾bLfと同等の鉄結合量が検出され、PEG化によって鉄イオンの結合活性が失われていなかったことが明らかになった。
【0101】
9.PBS(pH7.4)及びホウ酸緩衝液(pH9.0)における低モル比でのLFのPEG化反応の検討
ラクトフェリン:分岐型PEG誘導体のモル比1:0.1〜1:5の範囲について、表1の分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を用いて、PBS(pH7.4)及び50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中でのPEG化ラクトフェリン(20k−PEG−bLf)の生成反応を検討した。
ウシラクトフェリン(bLf)0.5〜20mg/mlに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:0.1〜1:5の混合比となる条件において25℃で1時間カップリング反応を行い、反応液を7.5% SDS−PAGEの後、CBB染色により解析した。
【0102】
結果を図13及び図14に示す。PBS(pH7.4)でのカップリング反応(図13)において、bLfとPEG誘導体の混合モル比を一定にしてbLf濃度を増加させた場合、高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が増加することが明らかとなった。一方、bLf:PEG誘導体の混合モル比を1:0.1まで減少させてカップリング反応を行った場合であっても、均一なPEG化ラクトフェリン(バンド(b))が生成した。また、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でのカップリング反応を行った場合(図14)においてもPBS(pH7.4)中での反応と同様に、bLf濃度依存的に高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が生成し、bLfとPEG誘導体の混合モル比を1:0.1まで減少させた場合においてもPEG化ラクトフェリン(バンド(b))の生成が認められた。
【0103】
10.ヘパリンセファロースを用いたステップワイズ塩濃度溶出によるPEG化ラクトフェリンの精製
表1の分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を用いて、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、PBS(pH7.4)で1時間のカップリング反応を行い、20k−PEG−bLFを作製した。
【0104】
この反応液を試料として、PEG化ラクトフェリンの精製を行った。Poly prepカラム(BioRad 社製)に5mlのヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)6 FF (GEヘルスケアバイオサイエンス社製) を充填した。この担体を、開始緩衝液である10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)で十分平衡化した後、上記で作製した20k−PEG−bLF反応液100mlを、ペリスタポンプを用いて2ml/minの流速でカラムにアプライした。このときの分取画分を、FT:カラム非吸着画分とした。その後、10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)15mlでカラムを洗浄した。このときの分取画分をW:カラム洗浄画分(約15ml)とした。
【0105】
その後、塩濃度のステップワイズ溶出を行って吸着画分を溶出した。使用した溶出液は、0.3M、0.4M、1.0M NaClを含む開始緩衝液(pH7.6)である。溶出タンパク質の分取は、UV検出器の数値を確認しながら行った。分取した画分は、FT:非吸着画分(約100ml)、W:カラム洗浄画分(約15ml)、0.3M NaCl溶出画分としてF1、 F2、F3(約10ml)、0.4M NaCl溶出画分としてF4、F5(約10ml)、1.0M NaCl溶出画分としてF6、F7である。分取した画分は、SDS−PAGEを行い、CBB(クーマシー)染色でタンパク質の確認を行った。
【0106】
タンパク質の溶出パターン(クロマトチャート)と、対応する電気泳動結果を図15に示す。図15の上段(パネル(A))に示したクロマトチャートでは、横軸にはタンパク質の溶出画分(FT:非吸着画分、W:カラム洗浄画分、0.3M NaCl溶出画分(F1、F2、F3)、0.4M NaCl溶出画分(F4、F5)、1M NaCl溶出画分(F6、F7)である。縦軸には、280nmの相対吸光度を示している。図15の下段(パネル(B))に示した電気泳動図では、レーン「FT」、「W」、「F1」、「F2」、「F3」、「F4」、「F5」、「F6」、「F7」は、それぞれパネル(A)のクロマトチャートの画分に対応する。レーン「bLf」は、電気泳動のコントロールで、ウシラクトフェリンを1μg流した泳動像である。「M」は分子量マーカーを示す。
【0107】
0.3MのNaClで溶出した場合は、フラクションF1、F2、F3への未修飾bLfの混入はわずかであり、20k−PEG−bLFが精製されていることがわかる。一方、0.4MのNaClで溶出した場合は、フラクションF4、F5には未修飾bLfの混入が認められ、20k−PEG−bLのみを精製することは出来なかった。
【0108】
以上より、ヘパリンセファロースカラムを用いた場合、ヘパリンセファロースに吸着される20k−PEG−bLFは、0.3MのNaClで選択的に溶出され、良好に精製されることが示された。
【0109】
また、表1の分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−400GS2(40kDa))を用いて、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、pH7.4で1時間のカップリング反応を行い、40k−PEG−bLFを作製した。
この反応液を試料として用いたこと以外は、上記と同様にしてヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)6 FFに吸着させた後、塩濃度のステップワイズ溶出を行って吸着画分を溶出し、画分中のタンパク質をSDS−PAGE及びCBB染色によって確認した。
【0110】
結果を図16に示す。0.3MのNaClで溶出した場合は、フラクションF1とF2への未修飾bLfの混入はわずかであり、40k−PEG−bLFが精製されていることがわかる。一方、0.4MのNaClで溶出した場合は、フラクションF3とF4には未修飾bLfの混入が認められ、40k−PEG−bLのみを精製することは出来なかった。
【0111】
以上より、ヘパリンセファロースカラムを用いた場合、20k−PEG−bLF、40k−PEG−bLFのいずれであっても、0.3MのNaClで選択的に溶出され、良好に精製されることが示された。
【0112】
11.ホウ酸緩衝液(pH9.0)におけるPEG化反応時間の検討
表1の分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(40kDa))を用いて、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中での生成PEG化ラクトフェリン(40k−PEG−bLF)の経時変化を検討した。ウシラクトフェリン(bLf)0.5mgに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:10の混合比となる条件において25℃でカップリング反応を行い、反応液を経時的にサンプリングして、7.5% SDS−PAGEの後、CBB染色により解析した。比較のため、PBS(pH7.4)中で同様の反応を行なった。
【0113】
結果を図17に示す。PBS(pH7.4)でのカップリング反応(パネル(A))においては、未反応ラクトフェリン(バンド(c))量が経時的に減少するとともに、PEG化ラクトフェリン(バンド(b))が増加し、さらにカップリング反応時間の延長に伴い、高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が生成することが明らかとなった。一方、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でカップリング反応を行った場合(パネル(B))、PEG化ラクトフェリン(バンド(b))の生成量は10分から24時間までの反応時間において変化は認められなかった。
【0114】
さらに、分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2‐200GS2(20kDa))を使用したこと以外は上記と同様にしてホウ酸緩衝液(pH9.0)中での生成PEG化ラクトフェリン(20k‐PEG‐bLf)の経時変化を検討した。
【0115】
結果を図18に示す。この場合も、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でカップリング反応を行った場合、PEG化ラクトフェリン(バンド(a))の生成量は、10分から24時間までの反応時間において変化は認められなかった。
【0116】
以上より、分岐型PEG誘導体3及び4のいずれについても、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中でカップリング反応を行った場合には、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)の生成が完了し、生成量がその後も減少しないことが示された。このように、短時間に均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)を作製でき、その後の時間経過に影響されない本反応条件は、PEG化ラクトフェリンの大量調製(工業化)に極めて適している。
【0117】
12.グッドバッファー(pH9.0)を用いたPEG化反応時間の検討
上記11.の実験によって、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)中でのPEG化反応においては、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)を作製できることが示された。この結果がpH9.0であることに起因するのか、あるいはホウ酸ナトリウム緩衝液を使用したことに起因するのかを検討するため、グッドバッファー(pH9.0)を用いて検討を行なった。
Bicine、CHES、TAPS(同仁社製)の3種類のグッドバッファーを50mM(pH9.0)で調製した。それぞれのバッファーを用いて上記9.と同様の実験を行なった。即ち、ウシラクトフェリン(bLf)0.5mgに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:10になるように混合して、25℃でカップリング反応を行い、生成PEG‐bLfを含む反応液を10分間、20分間、40分間、1時間反応後にサンプリングして7.5%SDS‐PAGEの後、CBB染色により解析した。
【0118】
結果を図19に示す。パネル(A)は分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2‐400GS2(40kDa))を使用した場合、パネル(B)は分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を使用した場合の結果である。どのグッドバッファー中においても、分岐型PEG誘導体3及び4のどちらを用いても、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)が生成され、1時間経過しても生成されたPEG化ラクトフェリン量に変化は認められなかった。
【0119】
以上より、短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)が作製されるための条件は、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)の使用というよりも、pH9.0というバッファー条件であることが明らかになった。
【0120】
13.陽イオン交換体によるPEG化ラクトフェリンの精製条件の検討
シリカを担体とした陽イオン交換カラムを用いてPEG化ラクトフェリン反応液中の未カップリングPEG誘導体及び未カップリングラクトフェリンを分離し、PEG化ラクトフェリンを一段階で精製した。
分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))及び同4(SUNBRIGHT GL2−400GS2(40kDa))を用いてbLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、pH7.4で1時間のカップリング反応を行い、それぞれ20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLFを作製した。
この反応液を試料として、カルボキシメチル基(CM)を官能基に持つシリカを担体とした弱陽イオン交換カラム(CM−EP−DF−10−500A、カラムサイズ 2.5ml、旭硝子エスアイテック(株))を用いて反応生成物を吸着させた。PEG化ラクトフェリンの溶出は「Akta explorer 10S」(商品名)(GE Healthcare社)を用いて行なった。緩衝液として、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、及び溶出緩衝液として1.5M NaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用い、流速1.0ml/minで、直線的勾配(linear gradient)で20カラム容量かけて塩濃度を上昇させることでPEG化ラクトフェリンの分離を行った。得られた各溶出画分を7.5% SDS−PAGE後、銀染色により溶出パターンを解析した。
【0121】
20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLFについての結果を、それぞれ図20及び図21に示す。図20及び図21において、パネル(A)は溶出プロフィール、パネル(B)はSDS−PAGEの結果である。パネル(A)における「Cond」は緩衝液の電気伝導度の変化(実際の塩濃度変化)、「Conc」は理論上の塩濃度変化を示している。パネル(A)における横軸の「F」及び「A1」〜「A12」はパネル(B)のレーン「F」及び「1」〜「12」にそれぞれ対応する。パネル(B)のレーン「M」はマーカー、「std」は電気泳動のコントロールで、ウシラクトフェリン(bLF)100ngを流したときの泳動像である。
分岐型PEG誘導体3及び4のいずれを用いた場合も、PEG化したラクトフェリン反応液から、弱陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて未修飾ラクトフェリンとPEG化ラクトフェリンを良好に分離・精製できることが明らかとなった。
【0122】
14.PEG化ラクトフェリンの抗炎症活性(IL−6産生抑制活性)及び細胞毒性
ラクトフェリン(bLf)の生理活性の一つに抗炎症作用がある。bLfは、ヒト単球細胞(THP−1)培養系においてリポポリサッカライド(LPS)のエンドトキシンショックにより産生されるIL−6量を抑制することが報告されている(Mattsby-Baltzer I et al., Pediatr Res, 40, 257-262 (1996), Haversen L et al., Cell Immunol, 220, 83-95 (2002))。そこで、上記13.において作製、精製したPEG−bLf(20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLF)も、bLfと同様のエンドトキシンショックの抑制活性を保持しているかどうかを検討した。
【0123】
RPMI1640培地(10% FBS、2mMグルタマックスを添加したもの;以下「培地」と記す)で継代培養を続けているTHP−1細胞を、5×104個/mlの細胞濃度で継代し、24時間培養した後、ヒトIFN−γ(40ng/ml)及びカルシトリオール(20ng/ml)を添加し、その後さらに37℃、5% CO2で48時間培養した。培養後の細胞を遠心分離で集め、培地で洗浄後、細胞を新鮮な培地に懸濁して1×106細胞/mlの細胞濃度に調整し、細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液を24ウェルプレートに400μl/wellで蒔き37℃、5% CO2で1時間静置後、各ウェルにLPSのみ(100ng/ml)、LPS(100ng/ml)+bLf又はPEG−bLf(各100μg/ml)、Lf又はPEG−bLfのみ(各100μg/ml)、培地を添加し24時間後に培養上清を回収した。
培養上清中のIL−6量は、ヒトIL−6 ELISA測定キット(鎌倉テクノサイエンス(株))を用いて測定した。IL−6の産生抑制活性は、LPSのみを添加した場合に産生抑制されるIL−6量とLPSとbLfの共存下で産生されたIL−6量を比較し、産生が抑制されたIL−6量から算出した。bLfの抑制活性を100%としてそれぞれのPEG−bLfの比活性を算出した。
【0124】
一方、PEG−bLfが細胞毒性を示さないことを確認するため、THP−1細胞にbLf及びPEG−bLfを添加した後、細胞の生存度を「Cell counting kit−8」(商品名)(同仁化学(株))を用いて測定した。具体的には、上記バイオアッセイ用に調製したTHP−1細胞培養液中に、500μg/ml(通常の5倍濃度)のbLf及びPEG−bLfを添加し、24時間37℃、5% CO2インキュベーター内で培養を行った。培養後、「Cell counting kit−8」を各ウェルに100μlずつ加え、CO2インキュベーター内で60分間静置後450nmの吸光度を測定した。この試験では、加えたタンパク質が細胞に対して毒性を示せば生細胞数が減少し、「Cell counting kit−8」添加後の450nmにおける吸光度が低下する。
【0125】
PEG−bLfのIL−6産生抑制活性を図22及び表3に、細胞毒性試験の結果を図23及び表4に、それぞれ示す。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
図22及び表3において、bLfをLPSと共存させた場合のIL−6減少量は約83pg/ml、20k−PEG−bLfにおいては約52pg/ml、40k−PEG−bLfにおいては約77pg/mlであった。bLfのIL−6産生抑制活性を100%とした場合、20k−PEG−bLfでは約63%、40k−PEG−bLfにおいては約90%以上の活性が残存しており、PEG化を行った場合においても、bLfの有する抗炎症活性は残存していることが明らかとなった。
図23及び表4において、20k−及び40k−PEG−bLfは細胞のみで培養した場合と同等の吸光度(細胞生存度)を示していた。したがって、PEG化ラクトフェリンは細胞毒性を示さないことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、分岐型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した生成物を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真を示す図である。
【図2】図2は、直鎖型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した生成物を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真を示す図である。
【図3】図3は、異なるpH条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図4】図4は、25℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図5】図5は、16℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図6】図6は、4℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図7】図7は、分岐型PEG誘導体を用いてヒトラクトフェリンを修飾した結果を、7.5% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図8】図8は、PEG化ウシラクトフェリンをヘパリンカラム、ゲルろ過カラムで精製した結果を、7.5% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図9】図9は、精製されたPEG化bLfのPEG化をヨウ化バリウム染色で調べたゲルの写真を示す図である。
【図10】図10は、未修飾ラクトフェリン、精製PEG化ラクトフェリンをペプシン(パネルA)又はトリプシン(パネルB)で消化後、10% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図11】図11は、未修飾ラクトフェリン、精製PEG化ラクトフェリンをトリプシンで消化後、10% SDS−PAGEで解析した図である。
【図12】図12は、ペプシン、トリプシンによるPEG化bLfの経時的な分解を、未修飾bLfの分解と比較した図である。
【図13】図13は、bLF:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:0.1となる条件下での20k−PEG−bLFの生成を示すゲルの写真を示す図である。
【図14】図13は、bLF:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:0.1となる条件下での40k−PEG−bLFの生成を示すゲルの写真を示す図である。
【図15】ステップワイズ塩濃度溶出法によるヘパリンセファロースを用いた20k-PEG-Lfの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図16】ステップワイズ塩濃度溶出法によるヘパリンセファロースを用いた40k-PEG-Lfの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図17】図17は、PBS(pH7.4)中(パネル(A))及びホウ酸緩衝液(pH9.0)中(パネル(B))における分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図18】図18は、PBS(pH7.4)中(パネル(A))及びホウ酸緩衝液(pH9.0)中(パネル(B))における分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図19】図19は、3種のグッドバッファー(Bicine、CHES、TAPS)中及びホウ酸緩衝液中(いずれもpH9.0)における分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。パネル(A)では分岐型PEG誘導体4を、パネル(B)では分岐型PEG誘導体3を、それぞれ使用した。
【図20】図20は、陽イオン交換体による分岐型PEG誘導体3でPEG化されたラクトフェリンの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図21】図21は、陽イオン交換体による分岐型PEG誘導体4でPEG化されたラクトフェリンの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図22】図22は、PEG化ラクトフェリンによるTHP−1細胞のIL−6産生の抑制を調べた結果を示す図である。
【図23】図23は、PEG化ラクトフェリンによるTHP−1細胞に対する細胞毒性試験の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性なラクトフェリンとポリエチレングリコールなどの非ペプチド性親水性高分子との複合体、その製造方法及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体高分子の性質の調節などの目的のため、生体高分子とポリエチレングリコール(PEG)などの非ペプチド性親水性高分子とをコンジュゲート化すること(以下「複合体化」、PEG又はその類似化合物を用いる場合については「PEG化」ということがある)が行われている。より具体的には、複合体化は、一般に、非ペプチド性親水性高分子の末端に活性基を付けてタンパク質等の分子表面に存在する官能基と反応させることにより行われる。
【0003】
特に、タンパク質及びペプチドの複合体化は重要であり、非ペプチド性親水性高分子鎖でタンパク質の分子表面を部分的に覆うことにより、エピトープをシールドすることによる抗原性・免疫原性の低減、細網内皮系等による取り込みの低減、及びタンパク分解酵素による認識及び分解の防止などが研究されている。また、複合体化された物質について、生体内でのクリアランスが遅延し、体内寿命が延びることが知られている。その一方で、複合体化されたタンパク質などでは、非ペプチド性親水性高分子の存在によって活性部位が影響を受け、生物活性が低減されることも頻繁に観察されている。
【0004】
例えば、インターフェロンは、PEG化することによって、体内寿命が約70倍に延びる一方、抗ウイルス活性のような生物活性が約1/10に低下する。しかし、総合的にはPEG化によって治療効果が大幅に改善されることが知られており、これはC型肝炎の治療に役立っている。
【0005】
タンパク質の複合体化という概念自体は、白血病治療薬としてアスパラギナーゼのPEG化が成功して以来、古い歴史がある。現在までにPEGなどの複合体化試薬自体の構造(活性基のタイプ、分子の大きさと分布、分岐型の開発など)の改良がなされ、技術的に進歩している。
【0006】
分岐型のPEGといくつかのタンパク質との複合体については、直鎖型PEGを用いた場合と比較して、プロテアーゼ耐性が高くなり、タンパク質によってはpH及び熱に対する安定性が増大することが知られている(非特許文献1:Monfardini et al., Bioconjug Chem. 1995 6(1):62-9)。また、インターフェロンについては、分岐型PEGとの複合体が他のPEGとの複合体及びインターフェロン自体よりも高い抗増殖活性を有することが観察されている(特許文献1:特開平10−67800)。
【0007】
しかし、複合体化による個々のタンパク質の活性の変動は、タンパク質ごとに異なっている。さらに、例えばインターフェロンについてはPEG化によってインビトロの抗ウイルス活性が減少する一方、ヒト腫瘍細胞における抗増殖活性が増加するというように、PEG化によって、あるタンパク質が有する複数の特性について一律ではない影響が生じうる。したがって、望ましい特性を備えた複合体を得るための最適な条件等については、各タンパク質ごとに充分に検討されなければならない。
【0008】
また、タンパク質などの複合体化に関しては、非ペプチド性親水性高分子鎖の構造(直鎖型か分岐型か、分子の大きさと分布など)、反応部位及び反応分子数によって、抗原性、プロテアーゼ抵抗性、体内寿命及び熱安定性などの生化学的・薬剤学的性質、及び薬効に関わる生物活性への影響が大きく異なることが容易に予想される。したがって、このような複合体を医薬品として開発する場合、一定の品質を保証するため非ペプチド性親水性高分子鎖の付加が一定の部位であることが求められる。
【0009】
ラクトフェリン(以下、「LF」と略すことがある)は、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている、分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、鉄を結合することから、トランスフェリンファミリーに属する。ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンが脂質代謝改善作用、鎮痛・抗ストレス作用、アンチエイジング作用を有することも明らかにされている。このように、ラクトフェリンは、多様な機能を示す多機能生理活性タンパク質であり、健康の回復又は増進のため、医薬品や食品などの用途に使用されることが期待されており、ラクトフェリンを含む食品は既に市販されている。
【0010】
ラクトフェリンは、経口的に摂取した場合、胃液中に存在する酸性プロテアーゼのペプシンにより加水分解を受け、ペプチドに分解されるため、ラクトフェリン分子としてはほとんど腸管まで到達することができない。しかし、ラクトフェリン受容体は消化管では小腸粘膜に存在することが知られており、最近、ラクトフェリンが腸管から体内に取り込まれて、生物活性を発現していることが明らかにされている。そのため、ラクトフェリンの持つ生物活性を発揮させるには、ラクトフェリンを胃液中でのペプシンによる加水分解を受けない状態で腸管まで到達させることが重要である。
【0011】
ラクトフェリンに関しても、PEG化された複合体についての報告がある(非特許文献2: C. O. Beauchamp et al. Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983))。しかし、この文献には、直鎖型のPEGとLFとの複合体が5〜20倍延長された体内寿命を有していたことが記載されているだけであり、PEG化されたLFの生物活性、PEG化の程度、均一性などについては何ら記載されていない。
【0012】
【特許文献1】特開平10−67800号公報
【非特許文献1】Monfardini et al., Bioconjug Chem. 1995 6(1):62-9
【非特許文献2】C. O. Beauchamp et al., Anal. Biochem. 131: 25-33 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、抗原性を低減し、ペプシン耐性を付与し、体内寿命を延ばした、臨床的有用性の高い非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、天然ラクトフェリンの生物活性を一定割合保持し、体内寿命が有意に延長されており、臨床的有用性が天然ラクトフェリンよりも優れたラクトフェリン複合体及びその製造方法等を提供することを目的とする。
特に、短時間で効率的に上記の特性を有するラクトフェリン複合体を大量調製するのに適した方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、ラクトフェリンを生物活性が保たれた状態で最も均一にポリエチレングリコール(PEG)のような非ペプチド性親水性高分子と複合体化するための反応条件等を検討し、ラクトフェリン分子表面の限定された部位に特定の構造のこのような高分子を結合させることを可能にした。また、このような複合体の大量調製又は工業的生産に適した条件及び方法を見出した。さらに、そのようにして製造されたラクトフェリン複合体はペプシンやトリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有し、最も重要な生物活性である鉄キレート能、さらには炎症性サイトカイン産生調節(抑制)能も保存されているという結果を得、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は、
(1) 式〔I〕:
【0016】
【化8】
【0017】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0018】
【化9】
【0019】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、
ラクトフェリンと、式〔III〕:
【0020】
【化10】
【0021】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法;
(2) POLYが、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類及び混合物からなる群から選択される、前記(1)記載の製造方法;
(3) POLYが、ポリエチレングリコール又はその修飾物である、前記(2)記載の製造方法;
(4) 式〔I〕:
【0022】
【化11】
【0023】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0024】
【化12】
【0025】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体をヘパリンセファロース担体に吸着させる工程、及びこの担体から0.25〜0.35Mの塩濃度の溶液を用いて前記複合体を溶出させる工程を含むことを特徴とする方法;
(5) 式〔I〕:
【0026】
【化13】
【0027】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【0028】
【化14】
【0029】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体を陽イオン交換体に吸着させる工程及びこの担体から溶出させる工程を含み、かつ、この溶出液の分子篩クロマトグラフィによる精製工程を含まないことを特徴とする方法;
(6) 前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の方法によって製造された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体;
(7) 前記(4)又は(5)記載の方法によって精製された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体;
(8) 前記(6)又は(7)記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体及び治療上不活性な基剤及び/又は添加物を含む医薬品組成物;
(9) 疾患又は症状の治療又は予防用の医薬品の製造のための、前記(6)又は(7)記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の使用方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のラクトフェリン複合体の製造方法は、短時間で容易に効率よく、均一にPEG化された目的のラクトフェリン複合体を製造することを可能にする。本発明の製造方法によれば、反応性の高い限定的な部位のみが均一に反応しているものと推定され、その結果、非常に均一な複合体が得られる。
また、本発明の精製方法は、単純な工程で短時間に高純度の複合体が得られるので、工業的な大量生産に非常に適している。
【0031】
本発明の複合体は、ラクトフェリンが有する鉄の結合能が保持されており、したがって、少なくとも鉄結合能に基づくラクトフェリンの重要な生物活性が保持されている。また、分岐型非ペプチド性親水性高分子の結合によって、ペプシン、トリプシンなどのプロテアーゼに対する抵抗性を有しているため、体内寿命が長く、体内で長時間にわたって生物活性を発揮することができる。さらに、複合体化によって胃でのペプシンによる消化分解を受けにくくなっているため、さらなる腸溶化のための製剤的な処理を行わなくても、充分に腸内に到達しうる。本発明の複合体は、炎症性サイトカインの産生を調節する活性もまた、充分に保持している。
【0032】
さらに、本発明の複合体は、特定の位置に一定の数の非ペプチド性親水性高分子が結合するため、品質が均一であり、製造管理・品質管理の点でも有利である。これらの利点によって、本発明の複合体は、医薬品成分としての使用に特に適している。即ち、本発明にしたがった複合体及び複合体製造方法により、ラクトフェリンを医薬品成分としてさらに有用性の高い形とすることができる。ラクトフェリンは、安全性が非常に高く、多様な生物活性を有するので、本発明により、有効な治療薬がない疾患又は症状の治療薬又は予防薬として、さらに有利に適用が可能となる。例えば、生活習慣病(動脈硬化、高コレステロール血症、高脂血症、高血圧、糖尿病、脂肪肝など)、がん(発がん予防、がんの二次予防、転移抑制、制癌剤の作用増強など)、自己免疫疾患(シェーグレン症候群によるドライアイ及びドライマウス、リウマチ性関節炎、悪性関節リウマチ、膠原病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、全身性紅斑性狼蒼など)、精神神経疾患(痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、テンカン、うつ病、ヒキコモリ、統合失調症、各種ストレス性疾患など)、疼痛緩和(モルヒネ等のオピオイド増強作用、がん性疼痛、神経因性疼痛、ヘルペス後疼痛、線維筋痛症、術後疼痛、舌痛症、生理痛、歯痛、関節痛など)、肝炎(各種ウィルス性肝炎、非アルコール性肝炎、肝硬変など)、炎症性腸疾患(大腸性潰瘍炎、クローン病など)、過敏性腸症候群、前立腺肥大、頻尿、不眠症、便秘などへ適応を拡大できる。さらに、本発明の複合体に含まれるラクトフェリンは、抗菌・抗ウィルス作用及び免疫能賦活作用があるので、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、各種感染症及びそれに基づく炎症、例えば、ヘリコバクター・ピロリ菌の胃粘膜感染、歯周病、歯槽膿漏、口臭、口腔カンジダ症、口内炎、口角炎、鼻炎、食道炎、胆嚢炎、尿路感染症、膣感染症、水虫、ニキビ、ヘルペス属ウィルスの感染症、老人性肺炎、術後感染症などへの適用も可能であり、また、抗生物質の作用を増強する作用がある。一方、ラクトフェリンは免疫的な寛容をもたらす作用もあり、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、花粉症、アトピー性皮膚炎、脂漏症、蕁麻疹等のアレルギー性疾患にも適用可能である。注目すべきことは、ラクトフェリンには鉄キレート作用に基づく強い抗酸化ストレス作用があり、本発明の複合体又はそれを含む医薬品組成物は、ウィルソン病、劇症肝炎などや、肌や眼の抗加齢・若返り作用、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、粘膜上皮細胞の角化抑制・若返り作用などへの適用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の複合体は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体である。本発明の複合体においてラクトフェリンと結合される非ペプチド性親水性高分子は、一般に、一方の末端にラクトフェリンの官能基と反応して共有結合を形成しうる官能基を有し、分岐しており(即ち高分子鎖を2以上有しており)、生体に対して適合可能又は薬理学的に不活性であればよい。なお、「非ペプチド性」とは、ペプチド結合を含まないこと、又は実質的に含まない(高分子の性質に影響しない程度の低頻度(例えば高分子を構成する全モノマー単位数の1〜5%程度)で含みうる)ことを意味する。
【0034】
本発明の複合体は、
式〔I〕:
【0035】
【化15】
【0036】
又は
式〔II〕:
【0037】
【化16】
【0038】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される。
【0039】
好ましくは、式中のPOLY部分は、ポリ(アルキレングリコール)(例えばポリエチレングリコール(PEG))、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類(例えばPEGとポリプロピレングリコールとのコポリマー;ターポリマーなどを含む)及び混合物からなる群から選択される。POLY部分は、それぞれ直鎖状であってもよく、分岐及び/又はペンダント基などを有していてもよい。
【0040】
入手の容易性などの点から、最も好ましくは、POLY部分はPEG及びその修飾物(例えばメトキシ化物)であり、特に直鎖状のPEG又はメトキシPEGであることが好ましい。
【0041】
POLY部分の数(式中のq)は、一般に2〜10程度であることができるが、好ましくは2〜6程度である。
【0042】
Xは、ラクトフェリンの官能基(例えばリジンのε−アミノ基)と分岐型非ペプチド性親水性高分子の官能基(下記の式〔III〕中のX’;例えばマレイミド基、アルデヒド基、アミノ基、NHS基など)との反応によって生じる結合である。好ましくは、ラクトフェリンの官能基はアミノ基、分岐型非ペプチド性親水性高分子の官能基はNHS基である。
Yは、−O−、−S−、−NH−のようなヘテロ原子結合である。
Lは、リンカーとして作用する基であって特に制限はないが、Yと同様、存在してもしなくてもよい。
【0043】
本発明の複合体において使用される「ラクトフェリン」(LF)は、天然又は天然型のラクトフェリン分子そのもののほか、遺伝子組換え型(一部のアミノ酸が置換された改変型を含む)ラクトフェリン、及びラクトフェリンの活性フラグメントなどのラクトフェリンの機能的等価物であってもよく、鉄イオンの有無又はその含有量、由来する生物種などを問わない。
【0044】
天然のラクトフェリンには、44個(ヒト)〜54個(ウシ)程度のリジン残基が存在するが、それらの反応性はその存在位置の局所的環境により異なる。本発明の方法によれば、複合体において、ラクトフェリンのリジン残基が有するような官能基のうち、1〜10箇所、好ましくは1〜5箇所に、再現性よく非ペプチド性親水性高分子が共有結合される。したがって、上記の式〔I〕及び〔II〕において、nは、好ましくは1〜5である。
【0045】
本発明の複合体に関して「生物学的に活性な」とは、ラクトフェリンの生理薬理活性が保持されていることを意味する。特に、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンと同等の鉄キレート(結合)能及び/又は炎症性サイトカイン産生調節能を有している。
【0046】
具体的には、後述する実施例の方法で測定して天然ラクトフェリンの鉄結合能を100%とした場合に、本発明の複合体は、少なくとも30%以上(例えば約30%〜約150%又は約30%〜約120%)の鉄結合能を保持しており、好ましい態様においては、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンの約50%〜約100%又はそれ以上(例えば約50%〜約150%又は約50%〜約120%)に相当する鉄結合能を有する。なお、鉄結合能は、実施例に記載した方法又はそれと同等の方法によって測定する場合、±20%程度の誤差がありうる。
【0047】
また、後述する実施例の方法で測定して天然ラクトフェリンの炎症性サイトカイン産生調節能を100%とした場合に、本発明の複合体は、少なくとも30%以上(例えば約30%〜約150%又は約30%〜約120%)の炎症性サイトカイン産生調節能を保持しており、好ましい態様においては、本発明の複合体は、天然ラクトフェリンの約50%〜約100%又はそれ以上(例えば約50%〜約150%又は約50%〜約120%)に相当する炎症性サイトカイン産生調節能を有する。なお、サイトカイン産生調節能は、実施例に記載した方法又はそれと同等の方法によって測定する場合、±20%程度の誤差がありうる。
【0048】
また、本発明の複合体は、プロテアーゼ耐性を有する。即ち、本発明の複合体は、少なくともペプシン及び/又はトリプシン、キモトリプシンによる消化に対して天然ラクトフェリンと比較して有意に耐性である。好ましくは、本発明の複合体は、実施例に記載した条件でのペプシンによる20分の消化後において、天然ラクトフェリンの約1.1倍〜約2倍又はそれ以上(例えば約2倍〜約5倍)が未消化で残存する程度のペプシン耐性を有する。
【0049】
本発明の複合体は、分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとを、それぞれの官能基を反応させることによって共有結合させることにより製造することができる。例えば、分岐型非ペプチド性親水性高分子としては、
【0050】
式〔III〕:
【0051】
【化17】
【0052】
又は
式〔IV〕:
【0053】
【化18】
【0054】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示されるものを使用することができる。
【0055】
X’としては、マレイミド基、アルデヒド基、アミノ基、NHS基などが挙げられる。好ましくは、X’はNHS基である。L、Y、POLYについては複合体について上述したとおりである。このような分岐型非ペプチド性親水性高分子は、公知の方法で合成することもできるが、既に各種のものが市販されている。反応に使用される分岐型非ペプチド性親水性高分子の分子量(数平均分子量)としては、一般に約500〜200,000、好ましくは2,000〜100,000、特に好ましくは10,000〜60,000(Da)である。
【0056】
好ましくは、ラクトフェリンと分岐型非ペプチド性親水性高分子とが、1:0.1〜1:100のモル比で反応液中に添加される。ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子の混合モル比は、さらに好ましくは1:0.1〜1:60、最も好ましくは1:0.1〜1:54の範囲内である。コストの観点からは、1:0.1〜1:5が好ましい。
【0057】
また、反応工程は、一般的にpH4以上、温度0〜40℃、時間1分〜24時間、好ましくは、pH6以上、温度4〜40℃、時間10分〜24時間の条件下で行われる。即ち、反応液のpHは、好ましくはpH6以上であり、短時間で反応を完了させる目的からは、特に好ましくはpH8〜10、最も好ましくはpH9付近(即ちpH8.5〜9.5)である。
【0058】
反応時間及び反応温度は相互に密接に関連して変化させることができるが、一般に反応温度が高い場合は時間を短く、温度が低い場合は時間を長くすることが好ましい。例えば、反応pHが7付近(即ちpH6.5〜7.5)の場合、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:10の条件下では、25℃において約1時間、あるいは16℃又は4℃において24時間反応させることにより、特に良好な結果(均一な複合体化など)が得られる。また、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:1でpH9での条件下では、25℃において約10分、16℃においては約10分〜約40分以内、4℃においては約1時間〜約2時間以内の反応により、特に良好な結果が得られる。
【0059】
別の例として、反応pHが8〜10の場合、ラクトフェリン:分岐型非ペプチド性親水性高分子のモル比が1:0.1〜60の条件下では、25℃においてわずか10分程度反応させることにより、特に良好な結果が得られる。このような条件下では、反応性の特に高い特定の部位のみのアミノ基(おそらく一箇所)が限定的にPEG化され、短時間に反応が完結するとともに、それ以上長時間の反応を継続しても、複合体形成において経時的な変化がほとんど起こらないものと考えられる。
【0060】
上記のようにして製造された、試料中に含有される本発明の複合体は、まずヘパリンのような陽イオン交換担体(樹脂)に吸着させて濃縮し、続いて、得られた濃縮物を分子篩クロマトグラフィ担体(樹脂)に適用することによって容易に精製することができる。具体的には、例えば最初に複合体を含有する試料をヘパリンカラムに適用して複合体をカラムに吸着させ、高塩濃度の緩衝液で溶出して濃縮された複合体を含有する溶出液を集める。次に、この溶出液を分子篩クロマトグラフィカラムに適用し、脱塩及び所望の緩衝液への置換を行うことができる。必要に応じて、透析、限外ろ過などの公知の方法で溶出液を適宜さらに濃縮することができる。
【0061】
さらには、本発明の複合体の精製方法は、上記の二段階のカラムクロマトグラフィの代わりに、陽イオン交換体カラムのみによる一段階の精製であってもよい。例えば、本発明の複合体を含む試料をヘパリンカラム(例えばヘパリンセファロースカラム)に適用し、複合体をカラムに吸着させた後、高塩濃度の緩衝液で溶出するのみでも、充分に未反応ラクトフェリンとの分離が可能である。
【0062】
このような陽イオン交換体からの溶出において、PEG化されたラクトフェリンは0.3M程度(0.25〜0.35M)の塩濃度で選択的に溶出されることが見出された。したがって、溶出は、直線的濃度勾配を用いてもステップワイズに溶出してもよいが、溶出液としては0.3Mの塩濃度を含むような濃度勾配又は溶液を用いる。ステップワイズ塩濃度溶出法は、直線的塩濃度勾配溶出法と比較して簡便であり、大量精製を行う際には極めて有用であると考えられる。したがって、工業的生産又は大量調製の場合は、ステップワイズ塩濃度溶出法によることが有利である。
【0063】
本発明の精製法に用いることのできる陽イオン交換体の担体としては、シリカゲルが挙げられる。シリカゲルは、物理的な強度が高い点において工業的生産又は大量調製に好適である。
【0064】
また、別の実施態様においては、市販されている陽イオン交換担体(樹脂)を使用することによって、上記陽イオン交換担体処理及び分子篩クロマトグラフィ担体処理による二段階の濃縮・精製工程を一段階で行うこともできる。
【0065】
ラクトフェリンは、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用、脂質代謝改善作用、鎮痛作用、抗ストレス作用などを含む広範な生理活性を有しており、これらの作用によって、生活習慣病(例えば、高コレステロール血症、高脂血症など)、疼痛管理(がん性疼痛、神経因性疼痛など)、膠原病(シェーグレン症候群によるドライアイ及びドライマウス、リウマチ性関節炎など)、歯周病、C型肝炎などを含む、多くの疾患又は症状の治療(改善を含む)及び予防が可能である。
【0066】
本発明の複合体は、これらの作用をもたらす鉄結合能、炎症性サイトカイン産生調節能などのラクトフェリンの生物活性を充分に保持しているうえ、細胞毒性を示さないので、治療上不活性な基剤及び/又は添加物を配合することによって医薬品組成物とすることができる。便宜上、本発明に関して医薬品又は医薬品組成物というときは、投与対象が人の場合のほか、動物である場合(即ち、獣医薬等)も含む。このような医薬品組成物に含有させることができる各種成分及び剤型は当業者には充分に公知である。本発明の複合体を含む医薬品組成物の有効投与量は、治療又は予防すべき疾患又は症状の種類や程度、投与対象の状態、剤型などによって異なり、公知の有効ラクトフェリン量を目安に適宜選択することができる。一般に、公知の有効ラクトフェリン量と比較して有意に少ない用量(例えばラクトフェリン量換算で1/2〜1/20量)とすることができ、同等の用量で用いるのであれば投与回数を減らすことが可能である。
【実施例1】
【0067】
1.PEG化ラクトフェリンの調製
種々のPEG誘導体を用いてラクトフェリンとの複合体を調製した。
ラクトフェリンとしては、ウシラクトフェリン(マレーゴルバン社製)を用いた。PEG化のターゲットは、ラクトフェリンのリジンのε−アミノ基(ウシラクトフェリン1分子当たり54個存在する)及びN末端のα−アミノ基とした。
PEG誘導体としては、以下に示す4種類の分岐型PEG誘導体(実施例)及び3種類の直鎖型PEG誘導体(比較例)を用いた:
【0068】
【表1】
【0069】
PBS(pH7.4)中で、ウシラクトフェリン(bLf)0.5mg(6.25μM)に対し、所定の量のPEG誘導体を混合し、最終容量1mlで、25℃で1時間カップリング反応を行った。ラクトフェリンの最終濃度は0.5mg/mlであった。bLFとPEG誘導体との比は、PEG誘導体/リシル基のモル比で0.02〜5、bLf:PEG誘導体モル比1:1〜1:270;(PEG誘導体濃度として6.25μM〜1.69mMに相当)の範囲で変化させた。
【0070】
カップリング反応の生成物について、7.5% SDS−PAGEの後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色を行うことにより評価した。結果を図1及び2に示す。図1及び2において、矢印で示したバンドは未修飾のウシラクトフェリンを示す。
【0071】
図1は、分岐型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した結果を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真である。パネルA〜Dは、それぞれ表1に示すPEG誘導体1〜4の反応生成物についての結果である。分岐型PEG誘導体とのカップリング反応を行った場合、生成するPEG化ラクトフェリンはPEG誘導体のモル数依存的に増加する傾向が観察され、bLf:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:54(PEG誘導体濃度31.25〜337.5μM)の混合比となる条件下において反応させた場合に、PEG誘導体で特異的に修飾されたラクトフェリン複合体(シャープなバンド)が生成した(図1、パネルA〜D)。電気泳動上の分子量から換算すると、これらのPEG化ラクトフェリンは、PEG誘導体の分子量に関わらずbLF1分子当り約1〜4分子のPEGで均一に修飾されていると推定された。
【0072】
図2は、同様に直鎖型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した結果を示す写真である。パネルA〜Cは、それぞれ表1に示すPEG誘導体5〜7の反応生成物についての結果である。直鎖型のPEG誘導体を用いてカップリング反応を行った場合、分岐型の場合と同様、PEG誘導体のモル数依存的に反応が進み、PEG誘導体5(パネルA)及び6(パネルB)の反応においては数個〜非常に多数のPEGで修飾された不均一なラクトフェリン複合体(スメア状のブロードなバンド)が生成した。PEG誘導体7(パネルC)は、反応性が悪く、CBB染色ではPEG化ラクトフェリンは確認されなかった。直鎖型PEG誘導体を用いた場合は、複合体が生成した場合であっても反応の特異性が低く、いずれの反応においても反応特異的なPEG化ラクトフェリンの生成は認められなかった。
【0073】
2.反応pHの検討
上記と同様の実験において、ウシラクトフェリンとPEG誘導体2〜4を用い、PEG化カップリング反応液のpHを4〜9の範囲で変化させてカップリング反応を行った。使用緩衝液は、pH4〜5については酢酸緩衝液、pH6〜8についてはリン酸緩衝液、pH9はホウ酸緩衝液とした。他の条件は、ウシラクトフェリンの最終濃度0.5mg/ml、反応温度25℃、反応時間1時間とし、ウシラクトフェリン:PEG誘導体のモル比は1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)、及び1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)とした。反応後、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色によって反応生成物を解析した。
【0074】
結果を図3に示す。PEG誘導体2〜4(それぞれパネルA〜C)のいずれを用いた場合も、反応特異的なPEG化ラクトフェリン生成はpH6以上で確認された。カップリング反応は、反応液のpHが6〜9の条件下でよく進むことが確認され、特にアルカリ性では反応が亢進した。一方、pH5以下の酸性条件下の反応液ではPEG化反応はほとんど起こらなかった。
【0075】
3.反応温度及び時間の検討
上記と同様の実験において、ウシラクトフェリンとPEG誘導体2、3、4を用いて、反応温度を25℃、16℃、又は4℃とし、また、反応時間を変化させてPEG化カップリング反応を行った。他の条件は、ウシラクトフェリンの最終濃度は0.5mg/ml、反応緩衝液はPBS(pH7.4)、ウシラクトフェリン:PEG誘導体のモル比は1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)、及び1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)とした。反応後、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色によって反応生成物を解析した。
【0076】
結果を図4〜6に示す。PEG誘導体2、3、4(それぞれ図4、5、6)のいずれを用いた場合も、PEG化反応は、4℃〜25℃のいずれの反応温度においても起こり、温度が高いほど反応が進み易く、さらに、反応時間を延長すると多数のPEG誘導体で修飾された高分子のPEG化ラクトフェリンの生成が増加することが明らかとなった。
【0077】
具体的には、25℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるに従って、1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが減少し、さらに高分子のPEG化ラクトフェリンが生成する傾向が確認された。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加し、2時間以降、高分子PEG化ラクトフェリンも増加した(図4)。
【0078】
また、16℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応1時間をピークに1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるとさらにPEGで修飾された高分子PEG化ラクトフェリンが生成する傾向が認められた。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、40分以降からPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加する傾向が確認された(図5)。
【0079】
そして、4℃においてbLf:PEG誘導体のモル比1:54(PEG誘導体濃度337.5μM)の条件で反応を行うと、20kDa及び40kDaのPEG誘導体ともに、反応時間10分からPEG化ラクトフェリンが生成し、反応4時間をピークに1〜4分子のPEGで修飾された反応特異的なラクトフェリンが生成し、反応時間が長くなるとさらに多くのPEGで修飾された高分子PEG化ラクトフェリンが生成する傾向が認められた。一方、bLf:PEG誘導体のモル比1:10(PEG誘導体濃度62.5μM)の条件で反応を行うと、2時間以降でPEG化ラクトフェリンが生成し、24時間まで徐々に反応特異的なPEG化ラクトフェリンが増加する傾向が確認された(図6)。
【0080】
したがって、4℃以上の反応温度で良好なカップリング反応が起こることが確認された。
【0081】
4.PEG化ヒトラクトフェリンの調製
PEG化に使用したヒトラクトフェリン(hLf)は、SIGMA社より購入した(SIGMA, L0520)。PEG化のターゲットは、ラクトフェリンのリジンε−アミノ基(タンパク質1分子当たり44個存在)及びN末端のα−アミノ基とした。使用したPEG誘導体は、3種類の分岐型PEG誘導体(表1のPEG誘導体2〜4)であった。カップリング反応は、ラクトフェリンの最終濃度0.5mg/ml、25℃、1時間、PBS(pH7.4)中、最終容量1mlで行った。ヒトラクトフェリン(hLf)0.5mg(6.25μM)に対し、PEG誘導体の混合比はPEG誘導体/リシル基のモル比で0.02〜5、hLf:PEG誘導体のモル比で1:1〜1:220(PEG誘導体濃度として6.25μM〜1.38mMに相当)の範囲で変化させた。反応生成物の評価は、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色により行った。
【0082】
結果を図7に示す。矢印で示したバンドは未修飾のヒトラクトフェリンを示す。パネルA〜Cは、それぞれPEG誘導体2〜4を用いた場合の結果である。これらのカップリング反応は、ウシラクトフェリンを用いた場合と同じ傾向を示した。即ち、PEG誘導体のモル数依存的に反応が進み、数個〜非常に多数のPEGで修飾されたラクトフェリンが生成するが、hLf:PEG誘導体のモル比を1:1〜1:88、特に1:10を中心とする比として反応させた場合に特異的なPEG化ラクトフェリンが生成した。また、電気泳動上の分子量から換算すると、PEG化ラクトフェリンは、PEG誘導体の分子量に関わらず約1〜4分子のPEGで修飾されていると推定された。
【0083】
5.PEG化ラクトフェリンの精製
ヘパリンカラム及びゲルろ過カラムの組み合わせにより、PEG化ウシラクトフェリン反応液中の未カップリングPEG誘導体、未カップリングラクトフェリンを分離し、PEG化ラクトフェリンを精製した。
【0084】
表1のPEG誘導体3及び4を用い、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で混合した反応液100mlを調製し、25℃、pH7.4で1時間反応を行った。この反応液96ml(タンパク質48mg相当)を試料として用いて、まずHiTrap Heparin HPカラム(カラムサイズ5ml、GEヘルスケアバイオサイエンス社)に反応生成物を吸着させた。PEG化ラクトフェリンの溶出は、AKTA explorer 10S(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて行った。緩衝液として、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、及び溶出緩衝液として1M NaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)を用い、流速1ml/minで、直線的濃度勾配(linear gradient)で20カラム容量かけて塩濃度を上昇させることにより、吸着物を溶出し、PEG化ラクトフェリン画分を回収した。このPEG化ラクトフェリン画分を、PBSに対し10℃で一晩透析し、CENTRIPLUS YM-50(MILLIPORE社)を用いて約1mlに濃縮した。最終精製は、Superdex 200 10/300GL(GEヘルスケアバイオサイエンス社)カラムを用い、1.5カラム容量の150mM NaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で流速0.5ml/minで溶出し、PEG化ラクトフェリン画分を回収した。得られた精製サンプル(PEG誘導体3及び4を用いて得られたPEG化ラクトフェリンを、それぞれ20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfと呼ぶ)を、7.5% SDS−PAGE後、銀染色により確認した。
【0085】
結果を図8に示す。図8において、レーン1はPEG化反応液、レーン2はヘパリンカラム精製タンパク質、レーン3は分子篩クロマトグラフィカラム精製タンパク質である。したがって、ヘパリンカラムとカラムを用い、カップリング反応液からPEG化ラクトフェリンのみが精製されたことが確認された。
【0086】
6.精製PEG化ラクトフェリンのヨウ化バリウム染色
PEG化されたタンパク質は、ヨウ化バリウムによって特異的に染色される(Kurfurst MM, Anal Biochem, 200,244-248 (1992), Balion P. et al., Bioconjug Chem, 12, 195-202 (2001))。上記5.の実験において製造・精製されたPEG化bLfが確かにPEGで修飾されているかどうかを確認するため、ヨウ化バリウム染色を行った。
【0087】
下記に示す各試料を7.5% SDS−PAGEに供した後、ゲルを脱イオン水で15分間水洗し、5%(w/v)塩化バリウム溶液で10分間振盪後、脱イオン水で3分間の洗浄を3回行った。次いで、0.1N Titrisol iodine溶液(MERCK, Germany)中で10分間振盪し、PEG化ラクトフェリンを染色した。さらに、Titrisol iodine溶液で染色されたゲルを水洗、完全に脱色した後、CBBで染色した。結果を図9に示す。
【0088】
図9において、パネルAはヨウ化バリウム染色、パネルBはCBB染色、パネルCはヨウ化バリウム染色とCBB染色を重ねた像をそれぞれ示す。各レーンについて、試料は、「bLf」=未修飾のウシラクトフェリン、「1」=PEG誘導体3を用いたカップリング反応液、「2」=PEG誘導体4を用いたカップリング反応液、「3」=精製PEG化bLf(20k−PEG−bLf)、「4」=精製PEG化bLf(40k−PEG−bLf)である。レーンMはマーカーである。
【0089】
ヨウ化バリウム染色(パネルA、C)において、レーン1(分子量約45kDa)及び2(分子量約90kDa)において濃く染色されているバンドは、それぞれ未反応のPEG誘導体のバンドである。即ち、数平均分子量約20kDaのPEG誘導体試薬はSDS−PAGEで見かけ上、約45kDaの位置に泳動され、数平均分子量約40kDaのPEG誘導体試薬はSDS−PAGEで見かけ上、約90kDaの位置に泳動されることが分かる。PEG化されていないタンパク質は染色されていない(レーンbLf、1及び2;分子量約80kDa)。一方、精製PEG化ラクトフェリンは、ヨウ化バリウム染色及びCBB染色で染まることが確認された(レーン1、3は分子量約140kDa;レーン2、4は分子量約240kDa)。精製タンパク質がヨウ化バリウムで染色されたことから、精製タンパク質は確かにPEG修飾されていることが確認された。
【0090】
7.ペプシン、トリプシン消化に対する耐性の評価
上記5.の実験で得られた精製PEG化bLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfを、以下の条件でペプシン又はトリプシンで消化して、未修飾bLfの消化と比較検討した。
【0091】
ペプシン消化に関しては、精製した10μg分の未修飾bLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfの各々に、最終濃度18.75ng/mlになるようにペプシン(ブタ胃由来、code No.165-18713、和光純薬工業(株)製)を加えて、0.01M HCl中、37℃で反応させた。反応開始から20、40、60、80、100分後に、各タンパク質1.25μg分をピペットでサンプリングして、等量の氷冷した2Xサンプルバッファー(100mM Tris−HCl(pH6.8)、4% SDS、20% グリセロール、色素(BPB))と混ぜて酵素反応を停止させた。
【0092】
トリプシン消化に関しては、精製した10μg分のbLf、20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfの各々に、最終濃度20μg/mlになるようにトリプシン(ウシ脾臓由来、code No.204-13951、和光純薬工業(株)製)を加えて、50mM Tris−HCl(pH6.8)、0.1M NaCl、2mM CaCl2中、37℃で反応させた。反応開始から10、20、30、40、50、60分後に、各タンパク質1.25μg分をピペットでサンプリングして、等量の氷冷した2Xサンプルバッファーと混ぜて酵素反応を停止させた。その結果を図10〜12に示す。
【0093】
図10は、各サンプルを10% SDS−PAGE(非還元)で泳動後、CBBで染色したゲルの写真である。図10において、パネルAはペプシン、パネルBはトリプシンで各々消化した結果である。精製PEG化ラクトフェリンのバンドを*印、断片化したPEG化ラクトフェリンのバンドを矢印で示す。ペプシン(パネルA)又はトリプシン(パネルB)での消化に対して、未修飾bLfは速やかに低分子化されたのに対して、20k−PEG−bLf、40k−PEG−bLfの消化は限定的であり、断片化した矢印で示したバンドが観察された。このことより、PEG化されたLFは、未修飾のbLfと比較して、ペプシン、トリプシンの作用を受けにくいことが分かる。
【0094】
図11は、トリプシン消化物を12% SDS−PAGE後、ヨウ化バリウム染色(パネルA)又はCBB染色(パネルB)により解析した結果である。パネルB及び図8で矢印で示したCBB染色されたバンドがヨウ化バリウム染色される(パネルA)ことから、この矢印のバンドはPEG化されたラクトフェリン断片であり、PEG化によってトリプシン消化に対して耐性を示すようになったことが分かる。
【0095】
図12は、インタクトなPEG化ウシラクトフェリン(図8中、*印で示した)の経時的な分解を半定量的に示すために、図8で示した泳動像をスキャナーで取り込み、バンドの濃さをNIH imageで解析した結果を示す図である。縦軸は、各時間におけるバンドの濃さを示しており、時間0分時の濃さを100%とする相対値である。横軸は、各酵素での処理時間である。ペプシン(パネルA)及びトリプシン(パネルB)によるPEG化ウシラクトフェリンの分解は、20k−PEG−bLf、40k−PEG−bLfともに未修飾bLfの分解と比較して緩やかな傾向を示した。具体的には、例えばペプシンについては、20分の消化の後、PEG化bLfの残存率は、未修飾のbLfの約2倍であり、40分の消化の後では、PEG化bLfの残存率は、未修飾のbLfの約5倍であった。
【0096】
以上の結果から、PEG化bLfは、未修飾のbLfと比較して、有意にペプシン、トリプシンの作用を受けにくくなっていることが分かる。
【0097】
8.PEG化ラクトフェリンの鉄結合能の測定
ラクトフェリンは分子量8万の非ヘム性の鉄結合性糖タンパク質で、Nローブ、Cローブと呼ばれる二つの領域からなり、炭酸イオン(CO32−)の存在下でタンパク質1分子当たり2個の鉄イオン(Fe3+)を可逆的にキレート結合する能力を有する(Anderson, et al., Nature, 344, 784-78 (1990))。ラクトフェリンの鉄結合能の測定を、以下のように行った。
【0098】
holo型ラクトフェリンから鉄イオン(Fe3+)を遊離させ、apo型ラクトフェリンを調製した。次いで、炭酸イオン(CO32−)存在下で鉄イオン(Fe3+)を付加させた鉄再結合ラクトフェリンを調製した。apo型及び鉄再結合ラクトフェリンの鉄含量及びタンパク質濃度を測定し、鉄結合量の測定を行った。詳細には、apo型ラクトフェリンは、bLf(未修飾ウシラクトフェリン)、上記5.の実験で得た20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLfを0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.1)で24時間、さらに蒸留水で24時間透析し、調製した。鉄再結合型ラクトフェリンの調製は、apo型ラクトフェリンを0.001%クエン酸鉄アンモニウム、50mM 炭酸ナトリウム及び50mM 塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.5)で24時間透析を行った後、過剰の鉄イオンを除去するため、蒸留水、次いで50mM 塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.5)に対して24時間透析し、調製した。陰性コントロールであるBSA(ウシ血清アルブミン)についても同様の操作を行った。タンパク質に結合している鉄イオンを比色法で測定するため、血清鉄測定キット「Fe C−テストワコー」(和光純薬工業(株))を用いた。鉄の結合能は、Bradford法で定量したタンパク質1mg当たりに結合している鉄の結合量として算出した。その結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
apo型については、すべてのタンパク質において鉄の結合量は検出限界以下であった。一方、鉄再結合型については、陰性コントロールのBSA以外において鉄の結合が検出された。20k−PEG−bLf及び40k−PEG−bLf については未修飾bLfと同等の鉄結合量が検出され、PEG化によって鉄イオンの結合活性が失われていなかったことが明らかになった。
【0101】
9.PBS(pH7.4)及びホウ酸緩衝液(pH9.0)における低モル比でのLFのPEG化反応の検討
ラクトフェリン:分岐型PEG誘導体のモル比1:0.1〜1:5の範囲について、表1の分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を用いて、PBS(pH7.4)及び50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中でのPEG化ラクトフェリン(20k−PEG−bLf)の生成反応を検討した。
ウシラクトフェリン(bLf)0.5〜20mg/mlに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:0.1〜1:5の混合比となる条件において25℃で1時間カップリング反応を行い、反応液を7.5% SDS−PAGEの後、CBB染色により解析した。
【0102】
結果を図13及び図14に示す。PBS(pH7.4)でのカップリング反応(図13)において、bLfとPEG誘導体の混合モル比を一定にしてbLf濃度を増加させた場合、高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が増加することが明らかとなった。一方、bLf:PEG誘導体の混合モル比を1:0.1まで減少させてカップリング反応を行った場合であっても、均一なPEG化ラクトフェリン(バンド(b))が生成した。また、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でのカップリング反応を行った場合(図14)においてもPBS(pH7.4)中での反応と同様に、bLf濃度依存的に高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が生成し、bLfとPEG誘導体の混合モル比を1:0.1まで減少させた場合においてもPEG化ラクトフェリン(バンド(b))の生成が認められた。
【0103】
10.ヘパリンセファロースを用いたステップワイズ塩濃度溶出によるPEG化ラクトフェリンの精製
表1の分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を用いて、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、PBS(pH7.4)で1時間のカップリング反応を行い、20k−PEG−bLFを作製した。
【0104】
この反応液を試料として、PEG化ラクトフェリンの精製を行った。Poly prepカラム(BioRad 社製)に5mlのヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)6 FF (GEヘルスケアバイオサイエンス社製) を充填した。この担体を、開始緩衝液である10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)で十分平衡化した後、上記で作製した20k−PEG−bLF反応液100mlを、ペリスタポンプを用いて2ml/minの流速でカラムにアプライした。このときの分取画分を、FT:カラム非吸着画分とした。その後、10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)15mlでカラムを洗浄した。このときの分取画分をW:カラム洗浄画分(約15ml)とした。
【0105】
その後、塩濃度のステップワイズ溶出を行って吸着画分を溶出した。使用した溶出液は、0.3M、0.4M、1.0M NaClを含む開始緩衝液(pH7.6)である。溶出タンパク質の分取は、UV検出器の数値を確認しながら行った。分取した画分は、FT:非吸着画分(約100ml)、W:カラム洗浄画分(約15ml)、0.3M NaCl溶出画分としてF1、 F2、F3(約10ml)、0.4M NaCl溶出画分としてF4、F5(約10ml)、1.0M NaCl溶出画分としてF6、F7である。分取した画分は、SDS−PAGEを行い、CBB(クーマシー)染色でタンパク質の確認を行った。
【0106】
タンパク質の溶出パターン(クロマトチャート)と、対応する電気泳動結果を図15に示す。図15の上段(パネル(A))に示したクロマトチャートでは、横軸にはタンパク質の溶出画分(FT:非吸着画分、W:カラム洗浄画分、0.3M NaCl溶出画分(F1、F2、F3)、0.4M NaCl溶出画分(F4、F5)、1M NaCl溶出画分(F6、F7)である。縦軸には、280nmの相対吸光度を示している。図15の下段(パネル(B))に示した電気泳動図では、レーン「FT」、「W」、「F1」、「F2」、「F3」、「F4」、「F5」、「F6」、「F7」は、それぞれパネル(A)のクロマトチャートの画分に対応する。レーン「bLf」は、電気泳動のコントロールで、ウシラクトフェリンを1μg流した泳動像である。「M」は分子量マーカーを示す。
【0107】
0.3MのNaClで溶出した場合は、フラクションF1、F2、F3への未修飾bLfの混入はわずかであり、20k−PEG−bLFが精製されていることがわかる。一方、0.4MのNaClで溶出した場合は、フラクションF4、F5には未修飾bLfの混入が認められ、20k−PEG−bLのみを精製することは出来なかった。
【0108】
以上より、ヘパリンセファロースカラムを用いた場合、ヘパリンセファロースに吸着される20k−PEG−bLFは、0.3MのNaClで選択的に溶出され、良好に精製されることが示された。
【0109】
また、表1の分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−400GS2(40kDa))を用いて、bLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、pH7.4で1時間のカップリング反応を行い、40k−PEG−bLFを作製した。
この反応液を試料として用いたこと以外は、上記と同様にしてヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)6 FFに吸着させた後、塩濃度のステップワイズ溶出を行って吸着画分を溶出し、画分中のタンパク質をSDS−PAGE及びCBB染色によって確認した。
【0110】
結果を図16に示す。0.3MのNaClで溶出した場合は、フラクションF1とF2への未修飾bLfの混入はわずかであり、40k−PEG−bLFが精製されていることがわかる。一方、0.4MのNaClで溶出した場合は、フラクションF3とF4には未修飾bLfの混入が認められ、40k−PEG−bLのみを精製することは出来なかった。
【0111】
以上より、ヘパリンセファロースカラムを用いた場合、20k−PEG−bLF、40k−PEG−bLFのいずれであっても、0.3MのNaClで選択的に溶出され、良好に精製されることが示された。
【0112】
11.ホウ酸緩衝液(pH9.0)におけるPEG化反応時間の検討
表1の分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(40kDa))を用いて、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中での生成PEG化ラクトフェリン(40k−PEG−bLF)の経時変化を検討した。ウシラクトフェリン(bLf)0.5mgに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:10の混合比となる条件において25℃でカップリング反応を行い、反応液を経時的にサンプリングして、7.5% SDS−PAGEの後、CBB染色により解析した。比較のため、PBS(pH7.4)中で同様の反応を行なった。
【0113】
結果を図17に示す。PBS(pH7.4)でのカップリング反応(パネル(A))においては、未反応ラクトフェリン(バンド(c))量が経時的に減少するとともに、PEG化ラクトフェリン(バンド(b))が増加し、さらにカップリング反応時間の延長に伴い、高分子PEG化ラクトフェリン(バンド(a))が生成することが明らかとなった。一方、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でカップリング反応を行った場合(パネル(B))、PEG化ラクトフェリン(バンド(b))の生成量は10分から24時間までの反応時間において変化は認められなかった。
【0114】
さらに、分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2‐200GS2(20kDa))を使用したこと以外は上記と同様にしてホウ酸緩衝液(pH9.0)中での生成PEG化ラクトフェリン(20k‐PEG‐bLf)の経時変化を検討した。
【0115】
結果を図18に示す。この場合も、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でカップリング反応を行った場合、PEG化ラクトフェリン(バンド(a))の生成量は、10分から24時間までの反応時間において変化は認められなかった。
【0116】
以上より、分岐型PEG誘導体3及び4のいずれについても、50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中でカップリング反応を行った場合には、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)の生成が完了し、生成量がその後も減少しないことが示された。このように、短時間に均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)を作製でき、その後の時間経過に影響されない本反応条件は、PEG化ラクトフェリンの大量調製(工業化)に極めて適している。
【0117】
12.グッドバッファー(pH9.0)を用いたPEG化反応時間の検討
上記11.の実験によって、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)中でのPEG化反応においては、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)を作製できることが示された。この結果がpH9.0であることに起因するのか、あるいはホウ酸ナトリウム緩衝液を使用したことに起因するのかを検討するため、グッドバッファー(pH9.0)を用いて検討を行なった。
Bicine、CHES、TAPS(同仁社製)の3種類のグッドバッファーを50mM(pH9.0)で調製した。それぞれのバッファーを用いて上記9.と同様の実験を行なった。即ち、ウシラクトフェリン(bLf)0.5mgに対し、bLf:PEG誘導体のモル比が1:10になるように混合して、25℃でカップリング反応を行い、生成PEG‐bLfを含む反応液を10分間、20分間、40分間、1時間反応後にサンプリングして7.5%SDS‐PAGEの後、CBB染色により解析した。
【0118】
結果を図19に示す。パネル(A)は分岐型PEG誘導体4(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2‐400GS2(40kDa))を使用した場合、パネル(B)は分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))を使用した場合の結果である。どのグッドバッファー中においても、分岐型PEG誘導体3及び4のどちらを用いても、10分間という極めて短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)が生成され、1時間経過しても生成されたPEG化ラクトフェリン量に変化は認められなかった。
【0119】
以上より、短時間で、均一な分子種(PEG化ラクトフェリン)が作製されるための条件は、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)の使用というよりも、pH9.0というバッファー条件であることが明らかになった。
【0120】
13.陽イオン交換体によるPEG化ラクトフェリンの精製条件の検討
シリカを担体とした陽イオン交換カラムを用いてPEG化ラクトフェリン反応液中の未カップリングPEG誘導体及び未カップリングラクトフェリンを分離し、PEG化ラクトフェリンを一段階で精製した。
分岐型PEG誘導体3(日本油脂社製PEG化試薬 SUNBRIGHT GL2−200GS2(20kDa))及び同4(SUNBRIGHT GL2−400GS2(40kDa))を用いてbLf(0.5mg/ml):PEG誘導体のモル比1:10で25℃、pH7.4で1時間のカップリング反応を行い、それぞれ20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLFを作製した。
この反応液を試料として、カルボキシメチル基(CM)を官能基に持つシリカを担体とした弱陽イオン交換カラム(CM−EP−DF−10−500A、カラムサイズ 2.5ml、旭硝子エスアイテック(株))を用いて反応生成物を吸着させた。PEG化ラクトフェリンの溶出は「Akta explorer 10S」(商品名)(GE Healthcare社)を用いて行なった。緩衝液として、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、及び溶出緩衝液として1.5M NaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用い、流速1.0ml/minで、直線的勾配(linear gradient)で20カラム容量かけて塩濃度を上昇させることでPEG化ラクトフェリンの分離を行った。得られた各溶出画分を7.5% SDS−PAGE後、銀染色により溶出パターンを解析した。
【0121】
20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLFについての結果を、それぞれ図20及び図21に示す。図20及び図21において、パネル(A)は溶出プロフィール、パネル(B)はSDS−PAGEの結果である。パネル(A)における「Cond」は緩衝液の電気伝導度の変化(実際の塩濃度変化)、「Conc」は理論上の塩濃度変化を示している。パネル(A)における横軸の「F」及び「A1」〜「A12」はパネル(B)のレーン「F」及び「1」〜「12」にそれぞれ対応する。パネル(B)のレーン「M」はマーカー、「std」は電気泳動のコントロールで、ウシラクトフェリン(bLF)100ngを流したときの泳動像である。
分岐型PEG誘導体3及び4のいずれを用いた場合も、PEG化したラクトフェリン反応液から、弱陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて未修飾ラクトフェリンとPEG化ラクトフェリンを良好に分離・精製できることが明らかとなった。
【0122】
14.PEG化ラクトフェリンの抗炎症活性(IL−6産生抑制活性)及び細胞毒性
ラクトフェリン(bLf)の生理活性の一つに抗炎症作用がある。bLfは、ヒト単球細胞(THP−1)培養系においてリポポリサッカライド(LPS)のエンドトキシンショックにより産生されるIL−6量を抑制することが報告されている(Mattsby-Baltzer I et al., Pediatr Res, 40, 257-262 (1996), Haversen L et al., Cell Immunol, 220, 83-95 (2002))。そこで、上記13.において作製、精製したPEG−bLf(20k−PEG−bLF及び40k−PEG−bLF)も、bLfと同様のエンドトキシンショックの抑制活性を保持しているかどうかを検討した。
【0123】
RPMI1640培地(10% FBS、2mMグルタマックスを添加したもの;以下「培地」と記す)で継代培養を続けているTHP−1細胞を、5×104個/mlの細胞濃度で継代し、24時間培養した後、ヒトIFN−γ(40ng/ml)及びカルシトリオール(20ng/ml)を添加し、その後さらに37℃、5% CO2で48時間培養した。培養後の細胞を遠心分離で集め、培地で洗浄後、細胞を新鮮な培地に懸濁して1×106細胞/mlの細胞濃度に調整し、細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液を24ウェルプレートに400μl/wellで蒔き37℃、5% CO2で1時間静置後、各ウェルにLPSのみ(100ng/ml)、LPS(100ng/ml)+bLf又はPEG−bLf(各100μg/ml)、Lf又はPEG−bLfのみ(各100μg/ml)、培地を添加し24時間後に培養上清を回収した。
培養上清中のIL−6量は、ヒトIL−6 ELISA測定キット(鎌倉テクノサイエンス(株))を用いて測定した。IL−6の産生抑制活性は、LPSのみを添加した場合に産生抑制されるIL−6量とLPSとbLfの共存下で産生されたIL−6量を比較し、産生が抑制されたIL−6量から算出した。bLfの抑制活性を100%としてそれぞれのPEG−bLfの比活性を算出した。
【0124】
一方、PEG−bLfが細胞毒性を示さないことを確認するため、THP−1細胞にbLf及びPEG−bLfを添加した後、細胞の生存度を「Cell counting kit−8」(商品名)(同仁化学(株))を用いて測定した。具体的には、上記バイオアッセイ用に調製したTHP−1細胞培養液中に、500μg/ml(通常の5倍濃度)のbLf及びPEG−bLfを添加し、24時間37℃、5% CO2インキュベーター内で培養を行った。培養後、「Cell counting kit−8」を各ウェルに100μlずつ加え、CO2インキュベーター内で60分間静置後450nmの吸光度を測定した。この試験では、加えたタンパク質が細胞に対して毒性を示せば生細胞数が減少し、「Cell counting kit−8」添加後の450nmにおける吸光度が低下する。
【0125】
PEG−bLfのIL−6産生抑制活性を図22及び表3に、細胞毒性試験の結果を図23及び表4に、それぞれ示す。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
図22及び表3において、bLfをLPSと共存させた場合のIL−6減少量は約83pg/ml、20k−PEG−bLfにおいては約52pg/ml、40k−PEG−bLfにおいては約77pg/mlであった。bLfのIL−6産生抑制活性を100%とした場合、20k−PEG−bLfでは約63%、40k−PEG−bLfにおいては約90%以上の活性が残存しており、PEG化を行った場合においても、bLfの有する抗炎症活性は残存していることが明らかとなった。
図23及び表4において、20k−及び40k−PEG−bLfは細胞のみで培養した場合と同等の吸光度(細胞生存度)を示していた。したがって、PEG化ラクトフェリンは細胞毒性を示さないことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、分岐型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した生成物を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真を示す図である。
【図2】図2は、直鎖型PEG誘導体を用いてウシラクトフェリンを修飾した生成物を、7.5% SDS−PAGE及びCBB染色で解析したゲルの写真を示す図である。
【図3】図3は、異なるpH条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図4】図4は、25℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図5】図5は、16℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図6】図6は、4℃で異なる反応時間条件下での分岐型PEG誘導体とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図7】図7は、分岐型PEG誘導体を用いてヒトラクトフェリンを修飾した結果を、7.5% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図8】図8は、PEG化ウシラクトフェリンをヘパリンカラム、ゲルろ過カラムで精製した結果を、7.5% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図9】図9は、精製されたPEG化bLfのPEG化をヨウ化バリウム染色で調べたゲルの写真を示す図である。
【図10】図10は、未修飾ラクトフェリン、精製PEG化ラクトフェリンをペプシン(パネルA)又はトリプシン(パネルB)で消化後、10% SDS−PAGEで解析したゲルの写真を示す図である。
【図11】図11は、未修飾ラクトフェリン、精製PEG化ラクトフェリンをトリプシンで消化後、10% SDS−PAGEで解析した図である。
【図12】図12は、ペプシン、トリプシンによるPEG化bLfの経時的な分解を、未修飾bLfの分解と比較した図である。
【図13】図13は、bLF:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:0.1となる条件下での20k−PEG−bLFの生成を示すゲルの写真を示す図である。
【図14】図13は、bLF:PEG誘導体のモル比が1:5〜1:0.1となる条件下での40k−PEG−bLFの生成を示すゲルの写真を示す図である。
【図15】ステップワイズ塩濃度溶出法によるヘパリンセファロースを用いた20k-PEG-Lfの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図16】ステップワイズ塩濃度溶出法によるヘパリンセファロースを用いた40k-PEG-Lfの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図17】図17は、PBS(pH7.4)中(パネル(A))及びホウ酸緩衝液(pH9.0)中(パネル(B))における分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図18】図18は、PBS(pH7.4)中(パネル(A))及びホウ酸緩衝液(pH9.0)中(パネル(B))における分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図19】図19は、3種のグッドバッファー(Bicine、CHES、TAPS)中及びホウ酸緩衝液中(いずれもpH9.0)における分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。パネル(A)では分岐型PEG誘導体4を、パネル(B)では分岐型PEG誘導体3を、それぞれ使用した。
【図20】図20は、陽イオン交換体による分岐型PEG誘導体3でPEG化されたラクトフェリンの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体3とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図21】図21は、陽イオン交換体による分岐型PEG誘導体4でPEG化されたラクトフェリンの精製を示す図である。パネル(A):カラムの溶出プロフィールを示す図である。パネル(B):精製された分岐型PEG誘導体4とウシラクトフェリンとの複合体の形成を解析したゲルの写真を示す図である。
【図22】図22は、PEG化ラクトフェリンによるTHP−1細胞のIL−6産生の抑制を調べた結果を示す図である。
【図23】図23は、PEG化ラクトフェリンによるTHP−1細胞に対する細胞毒性試験の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式〔I〕:
【化1】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化2】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、
ラクトフェリンと、式〔III〕:
【化3】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
POLYが、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類及び混合物からなる群から選択される、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
POLYが、ポリエチレングリコール又はその修飾物である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
式〔I〕:
【化4】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化5】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体をヘパリンセファロース担体に吸着させる工程、及びこの担体から0.25〜0.35Mの塩濃度の溶液を用いて前記複合体を溶出させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
式〔I〕:
【化6】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化7】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体を陽イオン交換体に吸着させる工程及びこの担体から溶出させる工程を含み、かつ、この溶出液の分子篩クロマトグラフィによる精製工程を含まないことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の方法によって製造された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体。
【請求項7】
請求項4又は5記載の方法によって精製された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体。
【請求項8】
請求項6又は7記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体及び治療上不活性な基剤及び/又は添加物を含む医薬品組成物。
【請求項9】
疾患又は症状の治療又は予防用の医薬品の製造のための、請求項6又は7記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の使用方法。
【請求項1】
式〔I〕:
【化1】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化2】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の製造方法であって、
ラクトフェリンと、式〔III〕:
【化3】
(式中、X’は官能基、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とを含む反応液を、pH8〜10の条件下で反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
POLYが、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィン性アルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカリド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)及びそれらの修飾物、ならびにそれらのコポリマー類及び混合物からなる群から選択される、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
POLYが、ポリエチレングリコール又はその修飾物である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
式〔I〕:
【化4】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化5】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体をヘパリンセファロース担体に吸着させる工程、及びこの担体から0.25〜0.35Mの塩濃度の溶液を用いて前記複合体を溶出させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
式〔I〕:
【化6】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、Rは少なくとも3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、Yはヘテロ原子結合、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、qは2〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
又は式〔II〕:
【化7】
(式中、LFはラクトフェリン、Xは官能基の反応によって生じる結合、Lはリンカー、POLYは非ペプチド性親水性高分子、pは0又は1、nは1〜10の整数をそれぞれ表す)
で示される分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の精製方法であって、
試料中に含有される前記複合体を陽イオン交換体に吸着させる工程及びこの担体から溶出させる工程を含み、かつ、この溶出液の分子篩クロマトグラフィによる精製工程を含まないことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の方法によって製造された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体。
【請求項7】
請求項4又は5記載の方法によって精製された分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体。
【請求項8】
請求項6又は7記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体及び治療上不活性な基剤及び/又は添加物を含む医薬品組成物。
【請求項9】
疾患又は症状の治療又は予防用の医薬品の製造のための、請求項6又は7記載の分岐型非ペプチド性親水性高分子とラクトフェリンとの生物学的に活性な複合体の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−69073(P2008−69073A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246246(P2006−246246)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(801000038)よこはまティーエルオー株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(801000038)よこはまティーエルオー株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
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